添付一覧
4) 監視及び制御を実施する温度制御器,真空計等の重要計器は定期的に校正し,記録を作成の上保管すること.校正頻度は,前回の結果において頻度変更の必要性が示されない限り,約6カ月毎とすることが望ましい.
5) 真空計は微小圧力を測定する高精度の計器であり,トレーサブル性が確保された方法で現場校正を行うことは現状では困難である.専門の校正機関に依頼し,工場外で校正を実施してもよい.
19.アイソレータシステム/バリアシステム/ブローフィルシール
19.1 アイソレータシステム
適切に設計されたアイソレータは高度な無菌性環境が達成されるが,完全に密閉された空間ではない.従って,薬理活性の高い薬物の製造においては内部を陰圧に保持したアイソレータが用いられることもあるが,通常の無菌医薬品に係る製品の製造においては,内部が陽圧に保持されたアイソレータが用いられる.また,製品の無菌性を高度に保証するためには,HEPAフィルター,グローブ,ハーフスーツ及び各種シール部の保守・点検を含む包括的な予防保全プログラムが必要である.
19.1.1 一般要件
1) 無菌医薬品に係る製品の製造を目的とするアイソレータを設置する環境の空気の清浄度レベルは,少なくともグレードDとすること.
2) 二つのアイソレータの接続並びに無菌資材並びに無菌原料の搬入及び搬出に用いる接続ポートは,アイソレータの無菌性を維持することができる構造とすること.
3) ハーフスーツ,グローブ,搬出口及び接続ポートの数は,汚染の機会を少なくするために必要最小限とすること.
4) 製品搬出口等の開口部にあっては,外部からの汚染を防ぐことができる構造とし,常にアイソレータ内部から外部へ向かう気流を確保すること.一般的には適切な差圧を維持することにより達成する.
5) アイソレータ設備の内表面の除染手順については,適用する除染剤に対して抵抗性の高い芽胞の4~6logの減少が達成されることを検証したものであること.除染の程度は,アイソレータ設備の用途及びバイオバーデンを考慮して設定すること.アイソレータ設備に持ち込む資材等の除染手順についても,同様に4~6logの減少を実証の上確保すること.
6) 製品と接触する表面の除染手順については,除染前のバイオバーデンをできるだけ低く抑える方策を講じると共に,6log以上の減少を達成できる条件によること.
7) あらかじめ定めた基準に基づいてリーク試験を実施すること.
8) 除染の頻度は,リスクに基づいて適切に設定し,バリデーションによって確立して定期的に見直すこと.
19.1.2 アイソレータシステムの設計
アイソレータシステムの設計においては,装置の構造,運転条件,アイソレータ内で行う各種作業に関するリスク評価を行い,結果を仕様に反映すること.
19.1.3 空調システム
1) アイソレータ設備の内部の清浄度は,グレードAに適合するものであること.
2) アイソレータシステムの換気回数は,微粒子及び汚染物質の増加並びに昇温を避けるために十分な回数であること.
3) 空気の流速及び気流パターンは,アイソレータシステムの内部における作業内容に適した清浄環境を維持するために十分なものであること.
4) アイソレータ設備の内部の空気の循環は,HEPA規格以上のフィルターを介して行うこと.アイソレータの外部との吸排気もHEPA規格以上のフィルターを通すこと.
5) アイソレータの差圧は設置室に対して最低17.5パスカル程度を保持すること.ただし,作業にハーフスーツ,グローブを使用する場合等,作業の内容によっては,さらに高い差圧を保持することが必要となる.運転中は差圧について連続的にモニタリングを行い,圧力異常低下時においては警報を発するようにされていること.
19.1.4 除染
1) 除染工程の確立に当たっては以下の点を考慮すること.
① アイソレータシステム内表面の除染に先立ち,必要に応じてアイソレータシステム内表面を洗浄し,乾燥させること.
② 除染剤の投入量
③ バイオロジカルインジケータ
④ ケミカルインジケータ
⑤ アイソレータ内部及び周囲の温度分布
⑥ 湿度
⑦ 除染剤への曝露時間(除染時間)
⑧ ガス除染剤の場合は曝露濃度
⑨ 差圧
⑩ 除染剤の拡散確認
⑪ バイオバーデン
2) 除染剤は,アイソレータシステムの材質,アイソレータ内においての作業内容,アイソレータ内部に持ち込む資材等の量及び形態,アイソレータ内部のバイオバーデン等を考慮して選定すること.除染剤は,過酸化水素のほか,過酢酸,オゾン,二酸化塩素等である.
3) 除染に使用するミスト,蒸気又はガスの特性,及びこれらの発生装置の運転を十分に理解した職員が除染作業を行うこと.
4) 除染後,除染剤濃度が許容基準以下に低下していることを確認すること.この許容基準は職員の安全のほか,製品や後続工程への影響を考慮すること.
5) 除染剤はロット毎に,あらかじめ定められた除染剤の組成との同一性を確認すること.
19.1.5 教育訓練
アイソレータシステムの使用に当たっての教育訓練には,少なくとも以下の事項を含むこと.
1) 無菌操作に関する一般事項.
2) グローブ及びハーフスーツの適切な使用方法.
3) アイソレータ設備内部の除染.
4) アイソレータ設備の完全性試験.
5) 製品等及び資材の搬入及び製品の搬出.
6) アイソレータ設備の運転,モニタリング及び維持管理.
7) 化学物質等安全データシートに基づいた除染剤の安全管理及びアイソレータ設備との適合性.
8) 工程に特異的な標準作業手順.
19.1.6 日常管理
アイソレータ設備の日常管理には,少なくとも以下の事項を含むこと.
1) バリデーションの結果を基に,アイソレータ設備を運転する作業に係る手順書を作成すること.
2) アイソレータ設備では比較的高い完全性が維持されていると考えられるが,絶対的な完全性が保たれているわけではない.したがって,一定期間毎及び除染の都度その前にリーク試験を行うこと.以下にリーク試験の例を示すが,リーク試験はこれらの方法に限らない.
① 圧ホールド試験
② ガス検出法
3) グローブの素材は使用する洗剤及び除染剤に耐性のあるものを使用すること.
4) グローブは毎使用時,目視により破れ等がないことを確認すること.
5) グローブによる作業は,グローブを保護する目的でインナーグローブを装着して行うことが望ましい.
6) 物理的なグローブリーク試験及びスワブ法等による微生物学的なモニタリングは定期的に行うことが望ましい.
7) 消耗資材について,維持管理のための計画を作成し,交換の時期を明らかにしておくこと.
8) 除染を実施するときは,温度,湿度,ガス濃度等,除染に影響を及ぼすと考えられる項目について,あらかじめ定めた測定ポイント箇所において測定し,記録を作成すること.
9) アイソレータ内部の微粒子数は,あらかじめ定めた箇所において,一定間隔でモニタリングを行うこと.
10) 微生物学的モニタリングは,構造設備の特徴及び作業の特性に応じたリスクに基づき,あらかじめ定めた箇所において一定間隔で実施すること.一般的には,アイソレータ設備内部の表面,グローブの表面,アイソレータ設備に搬入した資材及びそれらの接触箇所等がモニタリングの対象となる.測定箇所と測定頻度の妥当性については,定期的に評価すること.
19.2 アクセス制限バリアシステム(RABS)
アクセス制限バリアシステム(Restricted Access Barrier System,以下RABS)は,無菌操作において職員と重要区域を分離し,職員による重要区域への直接的な介入を減らすことにより,製品の高度な無菌性を達成する方策の一つである.
RABSは,物理的な障壁と,HEPAフィルターを介して供給される気流,適切な管理運用システム等を主要な要素とする,ハードとソフトを融合した無菌操作区域(重要区域)を有するシステムをいう.
RABSの設備構成は,簡易的なハードウォールから,アイソレータと同等の強固な障壁と隔離性能をもつものまで様々である.また付随する空調システムの方式については,設置室の空調を利用するものや,独立した空調系統を持つもの等がある.本章では,RABSの設計並びに運用に関する基本的要件を示す.
19.2.1 一般要件
1) RABS内の環境や空調システムは,本指針の7章に示す重要区域に掛かる要件を満足すること.
2) RABSが設置される部屋は直接支援区域として定義し,その環境の空気の清浄度レベルは,グレードB以上とすること.
3) 無菌操作中に職員が介入する場合は,グローブ,又はハーフスーツを介して作業を行うこと.グローブやハーフスーツについては,製品汚染のリスクを最小限とするために,消毒や点検,交換などに関して適切な手順を定め,これを実行すること.グローブの運用に関する具体的な要件については19.1 アイソレータの章を参照のこと.
4) RABS内の製品接触面はSIPにより滅菌されることが望ましい.SIPが不可能な部分については,オートクレーブなどで滅菌した後,無菌的に組み立てること.アイソレータのような除染工程を実施することが可能な場合は,製品接触面について更に高度な微生物学的清浄度を達成することができる.
5) RABS内の製品の非接触面については,適切な方法により消毒を行うこと.
6) RABS内へ滅菌された材料を持ち込む場合は,汚染を防ぐ適切な移送システムによって行うこと.容器に入った材料を容器毎,RABS内に持ち込む場合は,容器の外面を適切な方法で除染すること.
7) 製造作業中にRABSの扉を開けて職員の介入操作を行う場合は,製品の汚染リスクが高くなるため,以下に留意すること.
① 介入操作後に適切な消毒を行い,潜在的な汚染リスクを排除すること.
② 扉を開けた時にRABS内にあった容器の扱いについては,製品に対する汚染リスクに基づき,あらかじめ適切な処置手順を定めておくこと.想定外の事象により扉を開けた場合は,原則としてRABS内の容器を全て取り除くこと.
③ 介入操作は全て記録すること.
8) 無菌操作中に開ける可能性のある扉の外側には,ISO5(少なくとも無負荷時)のプロテクションブースを備えていることが望ましい.扉を開けたときに,RABS内からプロテクションブースへ向かう気流が確保されること.
19.2.2 教育訓練
RABSの使用に当たっての教育訓練には,少なくとも以下の事項を含むこと.
1) 無菌操作に関する一般事項
2) グローブ及びハーフスーツの適切な使用方法
3) RABS内部の消毒
4) 中間製品,資材等の搬入及び搬出手順
5) RABSの運転,監視,測定及び維持管理
6) 扉を開けて行う介入操作の手順と留意事項
19.3 ブローフィルシール
ブローフィルシールは,清浄環境下において,プラスチックペレットからプラスチック容器を成型するとともに,同時に充てん及び閉そくを行い,無菌製品を製造する一貫製造方式による技術である.容器の成型,充てん及び熔閉を連続して密閉環境において行うもので,充てん中は作業者の介入が全く無く,高度な無菌環境が維持されるため,通常,製品の熔閉後の滅菌(高圧蒸気滅菌等)を行わずに無菌性を保証できる.閉鎖系による自動一貫連続工程であるために,製造時の汚染の機会が比較的少ない点に特徴がある.
ただし,完全な閉鎖系の中で充てん閉そくが行われるものや,キャップや中栓を外部から投入するものなど,異なるタイプのシステムがあるので,それぞれの特徴に応じた無菌管理プログラムを構築する必要がある.
19.3.1 ブローフィルシールの範囲及び対象工程
ブローフィルシールによって製造する無菌医薬品に係る製品の製造工程へのこの指針の適用については,充てん及び熔閉の後に滅菌(高圧蒸気滅菌等)のない製造工程であって,液状医薬品に係る製品の製造においては薬液の除菌ろ過以後,プラスチックの供給,容器の成型及び充てんを経て閉そくまで,粉末医薬品に係る製品の製造においては無菌粉末の供給,プラスチックの供給,容器の成型及び充てんを経て閉そくまでを対象とする.これに関係した工程のうち,特に留意すべき事項は以下のとおりである.
1) プラスチック容器からの可塑剤,添加物,未重合物モノマー等の溶出
2) プラスチックペレットのパイロジェン
3) 容器成型の環境
4) 薬液の滅菌(ろ過滅菌による薬液の製造)
5) 容器と薬液との適合性
6) 充てん環境の清浄度レベル及び設備の設置環境
7) 熔閉作業
特に,2)プラスチックのパイロジェン,3)容器成型の環境,成型された容器内の空間の清浄度レベル,6)充てん環境の清浄度レベル,7)熔閉作業及び「無菌性の評価」について無菌性の管理の面から厳密な基準が必要である.
19.3.2 容器の成型及び製品充てんの工程のフロー及びその環境
1) ブローフィルシール工程の重要工程
① 液調製
② ろ過滅菌
③ ろ過した液の保管
④ 成型(成型の環境に供給される清浄空気を含む.)
⑤ 充てん
⑥ 熔閉
2) ブローフィルシール工程の特徴
① プラスチック容器の成型,充てん及び熔閉操作は,連続した自動作業によって行われる.
② 充てん及び熔閉作業は,周辺と隔離された小空間において行われる.このため通常の無菌製品の製造において必要となる空気の清浄度レベルがグレードAのいわゆる無菌室は必ずしも必要ではなく,成型及び充てんに係る部分の局所小空間がグレードAの清浄度レベルに保持されていればよい.したがって,成型及び充てんに係る部分の局所小空間の清浄度レベルの管理が重要となる.
19.3.3 プラスチック容器の無菌性保証
ブローフィルシールにおいては,成型されたプラスチック容器の内面は無菌でなければならない.プラスチック容器の内面の無菌性が確保されていることを保証するためには,次の条件が必要となる.
1) プラスチックペレットの保管期間に,製品の無菌性やパイロジェンレベルに影響を及ぼすほどの微生物汚染が起きないよう適切に管理されていること.
2) 熔融及び成型の温度及び時間は,樹脂の成型のみならず,樹脂由来の微生物滅菌の観点からも重要である.プラスチックの熔融及び成型に至る時間及び温度が乾熱滅菌(プラスチックペレットが熔融され,成型される工程は,水分のない乾熱状態となる.)の条件として妥当なものであることが検証され,かつ管理されていること.
参考:日米欧薬局方においては,乾熱滅菌の指標菌として,Bacillus atrophaeusを推奨している.B.atrophaeus ATCC9372についてガラス上においての実測D160値は0.89~1.22,プラスチック上においては1.22~2.07と報告されている.
3) 成型及び充てん工程の無菌性を,プロセスシミュレーションによって検証すること.
19.3.4 ブローフィルシール工程の重要管理項目
ブローフィルシール工程において,重要な管理項目を示す.
1) プラスチックペレットのバイオバーデン
プラスチックの材質及び添加剤のバイオバーデン(特に真菌)については,事前に確認しておくこと.プラスチックペレット供給者からの情報が十分でない場合においては,プラスチックペレットの清浄度レベルに留意すること.
2) プラスチックの熔融温度及び押出し成型までの時間の管理を行うこと.
3) 薬液調製ラインの滅菌及び製品の無菌性の保証のため,薬液の製造及び輸送のラインは,CIP及びSIPを行うことができるように設計されていることが望ましい.CIP又はSIPを行うことができない設備においては,同等の結果が保証されるような管理を行うこと.
4) 環境空気の品質
ブローフィルシールでは,製品が環境空気に曝露されるのは,成型及び充てんに係る部分のみである.成型及び充てんに係る部分の局所の環境及びそこに供給される空気の清浄度レベルはグレードAを満足すること.
成型及び充てんに係る設備の周辺の空気の清浄度レベルはグレードC以上であること.職員の更衣についても設置環境に応じた清浄衣を着用すること.
5) 射出成型用空気の品質及び空気フィルターの完全性
容器内表面に接触する空気は,ろ過滅菌エアフィルターを通した空気を用いること.圧縮空気を使用する場合は,油分や水分などの管理が行うことが重要である.また生菌数及び微粒子数に係る清浄度レベルに関して,グレードA相当に管理すること.
6) 充てんの局所空間の空気
充てん局所空間となる充てんノズルが存在するエアシャワー室とプラスチック材料が溶融して吐出する部分への供給エアは,空気ろ過滅菌フィルターを使用することが一般である.この局所環境のモニタリングには,浮遊微粒子数を測定する方法が一般的であるが,当該限定区域をろ過滅菌フィルターを介した無菌エアでパージしている場合は,フィルターの完全性を確認することにより,無菌エアの無菌性を保証すること.
加えて,充てん局所空間に,充てん前の準備作業,及び充てん中の調整や清掃作業などで職員が介在する場合は,適切な環境モニタリングを実施すること.
7) 製品の冷却媒体及び製品の品質
冷却媒体が直接製品に接触することはないが,樹脂中への万一の漏えい又は混入に留意すること.
8) 熔閉の完全性
熔閉の完全性は,ブローフィルシールに係る工程管理において極めて重要である.希ガス封入検知法,高圧電気検知法その他種々の方法が考案されている.適切な方法により熔閉の完全性を保証すること.また,その方法の信頼性を調査しておくことが重要である.
9) ブローフィルシール工程のCIP及びSIP(温度,時間及びF0)
10) 充てんラインのSIP及び無菌性保持の完全性
11) 熔閉工程に係るチャレンジテスト
12) 充てん工程に係る培地シミュレーションテスト
13) 連続運転(無休止,連続稼動限度の確認)
ブローフィルシール工程は長時間にわたり連続運転されることが多い.薬液の安定性や工程全体の微生物汚染リスクに応じて,連続運転の上限時間を定めておかなければならない.また,中断又は休止の後の再開の手順及び確認事項を定め,これを遵守しなければならない.
20.プロセスシミュレーション
20.1 概要と範囲
プロセスシミュレーションとは,「培地充てん試験法」の考え方を全無菌工程に広めたものである.無菌製品は,複数の無菌化工程,無菌原料及び無菌資材の組合せによる複合的な工程により製造されるものであり,充てん工程は無菌製品を製造するための一工程である.無菌操作法により製造される製品の無菌性保証の適切性を検証するためには,無菌操作により行う工程の全てについてバリデーションを行なわなければならない.プロセスシミュレーションはその一方法であり,製品の代わりに培地又は菌の増殖を保持する物質を用い,無菌充てん工程にとどまらず,無菌医薬品に係る製品の製造工程全般の評価を行う方法である.その対象範囲は,「ろ過」,「晶出」,「乾燥」,「粉砕」,「混合」,「粉末のトレイ凍結乾燥工程」,「乾燥工程」等無菌原薬に係る製品の製造工程,「充てん」,「閉そく」等の無菌製剤に係る製品の製造工程全般が包含されている.
また,作業を行う職員,作業環境,作業及び操作は,実際の製品の製造工程に可能な限り準じることとし,かつ,実用的な範囲内でワーストケースを想定して行う.実施にあたっては,日本薬局方参考情報「培地充てん試験(プロセスシミュレーション)」を参考にすること.
20.2 実施要領
20.2.1 実施頻度
1) 初期評価
初期評価の対象は,それぞれ初めて使用する設備,装置,工程及び異なった容器デザイン(同じ容器デザインでサイズの異なるものは除く)などである.日本薬局方を参考にそれぞれの充てんラインでの実製造を反映できる十分な個数の容器を用い,プロセスシミュレーションを少なくとも連続3回,別々の日に実施する.バルクの場合は一製造単位の量を用い,プロセスシミュレーションを実施する.
2) 再評価
各無菌操作工程及び充てんラインの各作業シフトについて,日本薬局方を参考にそれぞれの充てんラインでの実製造を反映できる十分な個数の容器を用い,少なくとも半年毎にプロセスシミュレーションを実施する.バルクの場合は一製造単位の量を用い,プロセスシミュレーションを実施する.無菌重要工程に携わる職員は,無菌操作に関する教育訓練を受け,少なくとも年1回の頻度でプロセスシミュレーションに参加すること.
各無菌操作工程及び充てんラインを6箇月以上使用しなかった場合は,再使用する前に初期評価に準じる回数のプロセスシミュレーションを実施する.
無菌性保証に影響を与える工程,設備又は装置の変更,無菌重要工程に携わる職員の変更,環境微生物試験結果の異常,最終製品の無菌試験で汚染製品が認められた場合には,必要に応じて初期評価に準じる回数のプロセスシミュレーションを実施する.
20.2.2 培地の選択と性能試験
ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地又は他の適当な培地を使用する.粉末製品を対象とする場合等は放射線滅菌を行ったサロゲイト(乳糖,D―マンニトール,ポリエチレングリコール,粉末培地等)を用いる.使用する培地の性能試験及びサロゲイトの微生物発育阻止活性試験は日本薬局方を参考に実施すること.
20.3 プロセスシミュレーションの留意事項
プロセスシミュレーションでは製品の無菌性保証に影響を与える全ての工程,設備,操作等を評価の対象としなければならない.そのため,プロセスシミュレーションを行う際には,次の点に留意する.
1) 施設,装置等の清掃,製造設備,容器,栓,トレイ等の洗浄・滅菌は標準操作手順書に従って行う.
2) 通常実施する製造段階及び一時的な介在作業は全てシミュレートする.
3) 日常的に発生することが分かっている一時的な介在作業(例えば,重量調整,無菌原料,容器や栓の供給,環境モニタリング等)及び想定される無菌操作中の突発的な作業(ライン修正,設備の調整,部品の修理又は交換など)については,実用的な範囲でワーストケースを考慮してシミュレートする.
4) 設備の運転条件(ライン速度等)や使用する容器等は,汚染の機会の高い条件を設定する.
5) プロセスシミュレーションを行う時間は最長製造時間を考慮して実施する.
6) 関係する全ての職員はプロセスシミュレーションに参加し,職員は最多職員数及び作業シフトを考慮して実施する.
7) 容器に培地を充てんする場合の培地充てん量は,旋回や反転させることで容器内全面に接触し,微生物の生育を確実に判別できる量とする.
8) 不活性化ガスを日常的な製造で使用している場合でも,嫌気的な条件でのシミュレーションを目的としていない限り,不活性化ガスを空気に換える.
20.4 培養及び観察
1) 培養に先立ち,容器に漏れが認められたもの,又は損傷したものは記録した上で除去する.
2) 培地を充てんした容器を旋回や反転させ,容器内全面に培地を接触させる.
3) 培養は20~35℃の範囲内の設定温度で14日間以上実施する.この範囲以外の温度で培養する場合は,その妥当性を示すこと.培養温度は設定温度に対して±2.5℃の範囲内であること.
4) 異なる二つの温度で培養する場合には低い温度で7日間以上,次いで高い温度で7日間以上培養する.
5) 培養最終日に菌の発育の有無を観察する.
6) 汚染が認められた場合は,汚染菌の同定及び性状検査を行い,汚染原因の調査に役立てる.
20.5 プロセスシミュレーションの許容基準
日本薬局方の許容基準に準じる.汚染が認められた場合は,日本薬局方を参考に必要な行動をとる.
20.6 アイソレータシステムを採用している製造ラインのプロセスシミュレーション
アイソレータシステムを採用している製造ラインのプロセスシミュレーションは,初期評価を行った後,以下の条件を満たし,微生物による汚染リスクの低いことが立証できる場合は,実施頻度を低減することができる.
1) 構造的に職員と医薬品の曝露する環境が完全に隔離され,職員はバリアやグローブを介さなければ直接介在作業を行うことがない.
2) アイソレータシステムのリスク管理(グローブ,差圧,開口部からの逆流,搬出入操作,滅菌トンネル冷却部の影響,除染等)が,それぞれの項目に適切な技術と頻度で十分に実施されている.
3) 空調設備,設備・機器等の薬液接触面,ろ過性能など医薬品の無菌性を構成する他の要素が適切なバリデーションや定期的な再評価により別途保証されている.
【参考情報】
A1 細胞培養/発酵により製造する原薬
A1.1 一般要件
法令,通知等のほか,本指針の他章に加え,細胞培養又は発酵により製造する原薬に係る製品の管理において注意すべき点を挙げる.
1) この項において「クラシカル工程」とは,天然に存在する,又は従来からある手法により変化させた微生物や細胞を使用した製造工程を指し,「バイオテクノロジー工程」とは,組換えDNA,ハイブリドーマその他の生物工学的技術により生み出され又は変化させた細胞又は微生物を使用した製造工程を指す.タンパク又はポリペプチド生産においての微生物等の管理レベルは一般的にバイテククノロジー工程に係る管理の方がクラシカル工程に係る管理よりも厳格なものが求められる.また,クラシカル工程に分類される天然型ヒト又は動物細胞を用いる培養法においては,それぞれ使用する細胞の種由来微生物,ウイルス等の製造工程への混入に特別の注意を払う必要がある.
2) 細胞培養又は発酵により製造する際の原料(培地,緩衝成分等)は,汚染の原因となる微生物の格好の栄養分となりうるため,原料供給者及び調製法並びに製造する無菌医薬品に係る製品の種類,特性及び製造工程に応じて,バイオバーデン等必要な管理項目を適切に定め管理すること.細胞培養に使用する培地等については,マイコプラズマ等についても必要に応じて管理すること.
3) 細胞培養又は発酵により製造する製品に係る作業区域については,作業の種類に応じて清浄度レベルを適切に定め管理すること.設備が密閉系の場合においては重要区域とする必要はないが,汚染防止のために必要な清浄度レベルを設定し管理すること.
4) 原薬製造におけるウイルス汚染の防止策やウイルス安全対策については,ICHガイドラインQ5A「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全評価」に従うこと.
5) 工程内管理及び品質管理(重要工程のモニタリングを含む)においては,微生物管理の観点から,装置の滅菌,環境微生物モニタリング等の記録及び逸脱に係る記録を作成し保管すること.
6) 細胞培養又は発酵に係る作業所に関して,立入り制限,更衣基準,健康管理等の衛生管理に関する基準を定め,作業に係る職員に対する教育訓練を適宜実施すること.
A1.2 細胞培養又は発酵
1) ワーキング・セル・バンク等細胞培養又は発酵工程においての出発原料はその汚染を防止するために,作製毎に特性解析及びウイルスや微生物に関する安全性情報を収集し,それらの情報に基づき適切な管理及び手順を定めて製造に供すること.
2) 細胞基材,培地,緩衝液及びガスの無菌的な添加を,閉鎖系又は開放系で行う場合には,無菌性と封じ込めを考慮した設備を使用すること.培養槽への接種やその後の移送,又は培地や緩衝液等を添加する際に,開放容器を用いて行う必要がある場合には汚染を最小限にするための管理及び手順を定めること.
3) 重要な工程管理パラメータ(pH,温度,溶存酸素等)や収量の変化等についてモニタリングを行い,通常と異なる挙動が示された場合には,細菌,真菌,マイコプラズマ等による汚染の可能性について検証すること.
4) パーフュージョンなど培養槽中に連続的に培地を供給し,かつ連続的に培養液を排出させる連続培養装置方式を用いる場合においては,培養期間中の当該培養槽における連続培養が汚染等による製品品質への悪影響をもたらさない条件で実施できることを保証するために必要な措置を採ること.
5) 細胞培養及び発酵に係る装置は,使用後には清浄化し滅菌すること.クラシカル工程用の発酵装置は適切に清浄化し消毒すること.遺伝子組み換え技術によって構築された微生物若しくは細胞を微生物等安全管理区域外に移送(廃棄を含む)する場合は,遺伝子組換え生物の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)に従い事前にバリデートされた方法にて不活性化処理後に実施するものとし,培養又は発酵終了後の細胞に対し完全なる不活性化処理が適切に行われたことを毎回確認すること.細胞培養装置及び発酵装置の洗浄については被洗浄物の特性を考慮した洗浄方法を設定すること.CIP,SIP等のほかに,設備の構造に応じて,分解洗浄,手洗浄等も必要に応じて行うこと.
6) 培地は培養液又は発酵液の品質を保護するために使用前に適切な方法により滅菌すること.
7) 微生物等による汚染が発生した場合の措置(除染,廃棄,洗浄性確認,最終製品への影響)を標準化しておくこと.
8) 播種工程あるいは添加物の添加作業などは閉鎖系で行うことを原則とする.開放容器を使用する作業は,汚染を防止するために安全キャビネット又は同様に管理された封じ込め設備において行うこと.なお,作業に係る職員や環境への汚染防止並びに製造工程への汚染防止との双方の観点から管理すること.
A1.3 ハーベスト,分離及び精製
1) 細胞若しくは細胞組成物を除去し又は細胞破壊後の細胞組成物を回収するハーベスト工程は,回収液への汚染防止のみならず,作業に係る職員や環境への汚染を最小限のものとするように設計された設備及び区域において行うこと.
2) 精製工程において開放設備を使用する場合には,精製中間体の品質を保持するのに適切に管理された清浄環境下において実施すること.
3) 製造に用いた微生物又は細胞,細胞残渣及び培地成分を除去し又は不活化するための工程は,有効成分の分解,汚染等による品質の低下を最小限のものにするために適切な装置及び製造条件を選択すること.
4) 精製工程において使用する緩衝液,カラムクロマトグラフィー装置等は必ずしも無菌である必要はないが製品の品質に影響を及ぼさない微生物レベル以下に管理すること.滅菌を施すことができない精製装置やカラムクロマトグラフィー装置等は使用できる有機溶媒あるいはアルカリ液等を用いて除染すること.バイオバーデンは工程の種類,工程の操作時間,緩衝液,温度,pH等によって異なるので,各工程に合った管理レベルを設定し製造すること.また,滅菌を施すことができない工程の場合にはエンドトキシンの増加を適切に検出できるよう工程管理としてエンドトキシンの測定を行い適切な管理レベルを設定すること.
5) 全ての装置は,使用後適切に清浄化を行うとともに必要に応じて消毒又は可能である場合には滅菌を行うこと.
6) 精製された原薬又は中間製品はろ過滅菌等により適切な保管条件を設定して保管すること.
A2 製薬用水
以下に製薬用水の製造管理及び品質管理に関する基本的な考え方を示す.
A2.1 製薬用水設備の基本設計の留意点
要求される品質に適合する製薬用水を恒常的に製造するため,製薬用水設備,製造管理及び品質管理に関する手順並びにその他の方法を,あらかじめ明確に定めてから基本設計を行う.基本設計上,考慮すべき重要事項を以下に示す.
1) 製薬用水の種類及び規格,量及び管理方法を明確にすること.
2) 季節的な変動を含め原水の水質を把握すること.
3) 最大瞬間使用量,使用時間,使用頻度,ユースポイントでの諸条件(温度,取出し箇所数,分枝管や管径などの配管規格)等を設定すること.
4) 微生物管理を確実にするための殺菌又は滅菌を考慮した設備とすること.
5) 当該規格の水質が恒常的に得られるように適切な監視を行うために必要なサンプリング位置を充分に検討すること.サンプリングは,ユースポイントだけでなく,製薬用水の製造工程の重要な個所においても行うこと.水質評価が必要な箇所では,適切なサンプリング操作が行える構造であること.構造的にサンプリング口を設けることが困難な場合は,できる限りユースポイントに近い場所にサンプリング口を設けることが望ましい.
6) ユースポイントへの水の供給は循環方式を原則とするが,循環しない場合は水質が維持できるよう手段を講じること.精製水設備の下流工程では,菌増殖の可能性を考慮し,フィルターは利用しないこと.ただし,精製水設備の上流側では,不純物除去目的に適切なフィルターを選定し,設置することがある.(例:活性炭塔出口の保護フィルター等)
7) ユースポイントからの逆流がないように圧力差,弁の開閉の順序などを考慮すること.
8) 製薬用水設備に使用する材質は目的とする水質を維持管理できる材質を選定すること.特に注射用水の接触箇所では,例えばSUS316系のように耐食性の強い材質を選定し,表面の平滑性にも配慮し適切な材質を選定すること.ピュアスチームによる滅菌や高温循環配管は不働態化処理を実施することが望ましい.
9) 当該設備内配管は容易に排水できるような勾配を設けること.
10) 主配管がチーズ管(T字管)などで分枝し,その先にバルブなどの閉止機構があるようなデッドレグは,水が滞留しやすくなるので,主管の中心から枝管の先の閉止機構までの距離が枝管内径の6倍以内にすること.可能であれば3倍以内が好ましい.
11) 計器類は滞留がないようなサニタリータイプを選定すること.
12) 管内流体の方向及びその種類を,人がアクセス可能な箇所の管外面に適当な間隔で表示すること.
A2.1.1 前処理設備
前処理設備の選定に当たっては,原水の重金属,遊離塩素,有機物質,微生物,コロイド状粒子等の量を調査の上,目的とする用水規格が恒常的に維持管理でき,かつ設備の処理効率,寿命等が最大とするように考慮すること.
A2.1.2 注射用水製造設備
注射用水製造設備は,定期的にピュアスチームを用いて,滅菌を行うことを可能にすること.耐熱性等の問題によりピュアスチームによる滅菌を行うことができない場合においては,熱水又は薬品による殺菌が可能な設備とすること.注射用水設備に関する留意点を以下に示す.
1) 蒸留器
蒸留法には一般的に,単効用缶式,多重効用缶式,蒸気圧縮式等があるが,多重効用缶式及び蒸気圧縮式の二つの方式は製造能力が高く,熱効率がよいため,大容量の製薬用水の製造設備として有用である.3つの蒸留方式にはそれぞれ特徴があるため,用途及び使用量等に応じ適切に選定すること.
設計に際しては,蒸留器の要求に見合った供給水の前処理(イオン交換,RO,UF等)を組み合わせ,不純物が水蒸気に付随して持ち込まれる飛沫同伴の防止,濃縮による硬度スケールの発生防止のための,濃縮排水量の適切な設定等を考慮すること.
2) 逆浸透膜処理装置
逆浸透法(RO)は,半透膜と十分な膜間の圧力差による水の透過により,無機塩類程度の小分子溶質,溶媒分子,微生物,エンドトキシン等を原水中のそれぞれの濃度に応じて除去し,水質要因を改善する.ROは常温操作が可能であり,蒸留法器に比べてエネルギーコストを低減させることはできるが,ピンホール等による二次側へのリーク及び微生物汚染の管理が蒸留器以上に必要である.RO膜ユニットの設計に関する留意点を以下に示す.
① 二酸化炭素及びアンモニアガスは,ROによって除去できないので,必要に応じてRO処理前に脱気,中和,イオン交換等により除去すること.
② 供給される水の前処理段階において,微生物の管理とモニタリングプログラムに係る設備を組み入れ,あらかじめ定めた管理基準に適合する水質の維持を図ること.
③ 一般に常温においての操作であり,その膜の構造からピンホール等によるリークで,二次側を汚染する可能性があるので,信頼性向上及び管理の面から,直列二段構成とすることが望ましい.さらに下流においてはUV殺菌,加熱処理等を行い,微生物増殖の抑制を行うこと.
3) 限外ろ過膜装置
限外ろ過法(UF)は,エンドトキシン除去能を有する超ろ過法の一つである.ROとは異なり,高圧を与える必要がなく,耐熱性にすぐれる.また蒸気滅菌にも耐えられる材質のUF膜もあり,装置内の高温水滅菌及び薬品処理が比較的容易である.UFを利用するに当たっては,分画分子量6,000Da程度以上の有機物を除去することを目的とし,当該目的に合致するグレードのUF膜を利用するものとすることが望ましい.ROと同様に,UFの精製機能は上流側の水質及び設備にもよるが,微粒子,微生物等に起因する目詰まり等による菌増殖が精製能力及び水質に悪影響を及ぼさないよう日常の維持管理を行う必要がある.
4) 注射用水等の貯蔵設備
注射用水は,微生物汚染及び他の化学的成分の混入汚染を避けるために,製造後速やかに使用することが望ましい.貯留する際は以下の点に留意すること.
① 水槽は内面が平滑な密封型とし,水槽からの水位計取り付け部のようなノズルの数は必要最小限とし,ノズルは可能な限り短いものとすること.
② 滞留部分を生じず,内部の洗浄が容易であって,完全に排水することが可能な構造とすること.
③ 水槽は,水の入れ替わり(Turnover)ができる限り早くなるように適切な容量のものとすること.水槽内での長期間の貯留はできるだけ避けること.長期間の貯留は,その期間をバリデーションにより定めること.
④ 通気口には,微生物及び異物の侵入を防ぐために,疎水性の孔径0.2/0.22μmのベントフィルターを取り付けること.ベントフィルターは取り付け前及び定期的にその完全性を確認すること.
⑤ 貯水タンク内に熱水が供給される場合には,蒸気の凝縮によってベントフィルターの閉そくを防止するためベントフィルターの周りにヒーターを設置するのが望ましい.
⑥ 熱水で殺菌を行う場合においては,上部も含め水槽内全体に熱が行き渡るような機構を付加すること.
⑦ 一般的な安全弁は構造的に殺菌や滅菌が困難であるので,水槽内の水質の完全性を守るため,サニタリー式の安全弁を採用するか,破裂板(Rupture Disc Valve)を併用する.破裂板を用いる場合は,破れたときにそれを知らせる警告装置の設置が望ましい.
⑧ 水槽内面の気液界面は微生物が繁殖しやすく,腐食を生じやすいので,頂部も含め流水により常に流動させて,水槽内全体に流水が行き渡ることが望ましい.
5) 配管構造
水槽に貯えられた製薬用水は,配管を通してユースポイントに運ばれるが,その管径が比較的小さくかつ密閉系であり一度設置されると内部の確認が困難となる.このため設計段階から管理方法及びトラブル防止対策についてよく検討しておく必要がある.主な留意点を以下に示す.
① 基本的には,水が常時流れないバイパス配管及び枝管は可能な限り設けないことが望ましい.
② 注射用水は,微生物及び有機物の定着を防ぐために80℃以上に加温し,十分な乱流となる流速で常時循環させることが望ましい.循環させない場合においては水質維持が可能となるように排水し,水を入れ替えるものとすること.
③ 常温で循環するラインは,微生物増殖防止のための方法を考慮すること.例えば,途中にUVランプ(紫外線滅菌灯)を設置するなどの方法がある.
④ ループ内はユースポイントからの逆流がないように圧力を維持するなど対策を講じること.
⑤ 循環しない方式を採用する場合においては,使用前に高温水による洗浄やスチーム滅菌により微生物汚染を防止できるような手段を講じること.
⑥ 横引き配管には排水時及び滅菌時の水の滞留を防止できるように可能な限り1/100以上の勾配を設けること.
⑦ ドレインの排出が容易にできるように排出口を設けるとともに,逆流を防止する構造とすること.
⑧ 飛散しやすく,微量で過敏症反応を示す製品等又は交叉汚染することにより他の製品に重大な影響を及ぼす恐れのある製品等の製造に使用する供給配管については,それに係る場所の配管と,設備の停止時,異常時,保守点検時を含めて交差汚染が起こるリスクに対して特段の配慮を行うこと.その他の製品等に係る配管と別系統にするのが望ましいが,同一のラインとならないようにすること.やむなく同一ラインとなる場合は,交叉汚染リスクが最小とするような措置を講じること.
6) 熱交換器
熱媒体のリークによる供給水の汚染を防止すること.一般的には,二重管(Double Tube)又は二重管板型(Double Tube Sheet Type)のシェルアンドチューブを採用する.注射用水ラインにプレート型熱交換器を使用しないこと.その他の型の熱交換器を使用する場合は,供給水側が熱媒体に汚染されない型式を選定すること.供給水側への汚染のリスクが想定される場合は,供給水側の圧力が常に熱媒体側より高くなるようにし,その圧力差の監視を行うことができるように計器及び警報を取り付けること.
7) ユースポイント及びサンプリングポイント
以下のことに留意し,適切な設計及び管理を行うこと.
① ユースポイントに滅菌フィルターを取り付けることは,設備中の微生物汚染モニタリングを困難なものとし,フィルターに捕捉された微生物や,フィルター部分で増殖した死骸からエンドトキシンが放出されることから,原則として行わないこと.やむを得ずこのような滅菌フィルターの取付けを行うときは,当該滅菌フィルターの殺菌・滅菌や交換頻度を,バリデーションを実施して定めること.なお,供給ループ中にはフィルターを設置しないことが望ましい.
② ユースポイントにおいてサンプリングすることができない場合は,できるだけその近傍にサンプリング口を設置すること.ただし,サンプリング口の設置及びサンプリングを行うことのデメリットの方が大きいと考えられる場合は,この限りでない.
③ サンプリング箇所は,サンプリング前の初期ブロー及びサンプリング容器の制約を受けないようにすること.
8) バルブ及び計器類
製薬用水に係る設備に設置するダイヤフラム式等のバルブ,計器,検出器等は,液が滞留する部分及びデッドセクションがないものを選定する.バルブは,サニタリー構造仕様とする.水の化学的品質のモニタリングプログラムを適時行うことを可能とするため,導電率計並びにTOC計をインラインに設置することが望ましい.取付け位置は,当該局部配管内の水質を代表する場所を選定すること.
9) ポンプ
汚染防止が可能なシール構造を持つサニタリー仕様とし,熱水による殺菌及びピュアスチームによる滅菌を考慮したものとする.一般的にはステンレス製遠心ポンプが多用されるが,水の最大瞬間消費量,流速等,水槽からユースポイントまでの配管構成,対象とする配管に係る諸事項を勘案した上で,揚程,吐出能力,水接触面粗度(表面の平滑度),シール性等の性能等が適切なポンプを選定することが望ましい.
10) UV(紫外線)殺菌用ランプ
増殖した微生物の殺菌のために,流水配管中にUVランプを設置することも可能であ るが,UVランプの能力には限界があるため,その原理をよく理解した上で使用すること.UVランプの設計上の留意点を以下に示す.
① 目的が殺菌のときは通常254nmの波長の紫外線を照射するが,照射波長の近傍においてのみ殺菌効果があることに注意すること.殺菌効率は温度,流速,照射強度,対象への照射時間,対象とする微生物の種類等により変動し,UV照射を受けた微生物は一部に光回復,暗回復の現象が見られるので,完全に死滅しないことを認識すること.
② 殺菌を目的とするUVランプを循環ループ内に設置する場合は,その有用性を十分考慮して,適切な位置を選定すること.
A2.2 製薬用水のバリデーション
製薬用水設備のバリデーションプログラムは,設備の設計,据付け,操作及び性能の適格性を確認すると共に,サンプリング計画を含む水質モニタリングプログラム,並びに設備の運転管理及び維持管理プログラムを構築するものである.
1) 製薬用水の品質特性の決定
2) 利用する原水から,目的とする品質の水を得るために適切な設備の決定
3) 設備,工程管理及びモニタリングプログラム技術の選定
4) 設備の設計時適格性評価(DQ)
5) 設備据付時適格性評価(IQ)
設備据付時適格性評価には,次の項目を含めること.
① 計器の校正
② 仕様のとおりの設備が図面に基づき据え付けられ,製薬用水設備が運転可能な状況であることの確認
6) 運転時適格性評価(OQ)
運転時適格性評価には,以下の項目を含めること.
① 設備の機能,アラート,制御が信頼性をもって運転されることを確認
② 適切な警報基準値及び処置基準値が確立されていることを確認
7) 稼働性能適格性評価(PQ)
初期の段階(Phase1)においては,要求される製薬用水の水質が安定的な製造及び供給が設備能力として十分に保有していることを確認する.次のPhase2においては,各々の要求水質に対する警報基準値及び処置基準値の設定,日常管理の標準操作手順の確立を目的とする.なお,確認を開始するときには,注射用水又は精製水関連の設備においては重要工程の全ユースポイントにおいて,原水及び供給水関連の設備においては各サブループ及び重要工程に使用するユースポイントにおいて,少なくとも連続3日間から1週間程度,規格に適合する水が製造できていることを確認する.引き続き,同じ確認項目について季節変動の把握及び安定稼働確認のため,定められた手順と管理基準に基づき,1年間にわたる稼働性能適格性評価(Phase2)を実施する.この際,機器等の交換頻度の調査も行い,日常管理方法の問題点も抽出する.Phase2終了後の最終段階(Phase3)においては,原水質などの季節変動により生じる処理水質の傾向分析により,要求される品質の製薬用水が警報基準値内で安定して製造されていることを確認し,それらを報告書にまとめ,設備と管理プログラム全体を評価する(Phase3).
8) 保全プログラム
既にバリデーションが実施された製薬用水設備について,工程管理の定期照査について手順書等を適切に作成し実施するとともに,定期的再バリデーション(再校正を含む.)についてバリデーション実施計画書(スケジュールを含む.)及び手順書等を適切に作成の上実施し,その結果を踏まえ必要に応じ予防措置又は是正措置(適切な変更管理を含む.)を採ること.
9) 上記1)~8)に係る手順書を作成すること.
A2.3 製薬用水の日常管理
A2.3.1 概要
日常及び定期的管理プログラムは,初期に実施したバリデーションにおいて当該工程の妥当性が十分に実証されていることが前提とされる.日常管理項目については,導電率及び全有機体炭素(TOC)の管理が必須であり,定期的管理項目については,製薬用水の使用目的に応じ,上記に加えて生菌数,エンドトキシン,微粒子数等を管理すること.これらの測定頻度は,水質の安定性を考慮して決定すること.日常管理手法の詳細については,日本薬局方参考情報収載の「製薬用水の品質管理」を参照すること.
A2.3.2 殺菌処理(サニタイゼーション)
殺菌処理の実施に当たっては,許容されるレベルにまで微生物汚染を減少させ,それを保持する能力を実証するために,バリデーションを実施することが必要である.加熱による殺菌処理では,熱が設備全体に行き渡ることを実証するための熱分布試験を含めること.化学薬品による殺菌処理においては,設備全体が適正な薬品濃度に達していることの実証が必要である.殺菌処理終了後,残存薬品が効果的に除去されていることを実証しなければならない.
殺菌処理の頻度は,一般的に設備のモニタリングプログラムの結果に基づき,その設備が微生物学的に管理された状態において運転され,警報基準値を超えないように定めること.
A2.3.3 サンプリング
製薬用水設備が管理下にあり,許容される品質の水を連続的に製していることを確実にする十分な頻度で,製薬用水設備のモニタリングプログラムを行うこと.サンプリングは,その工程及び分配設備内の製薬用水の品質を代表すると思われる箇所において行うものとし,バリデーションデータに基づき頻度を確立し,重要な領域をカバーすること.サンプリング計画は,採取する水に求められる品質特性を考慮して定めること.例えば,注射用水の設備は,微生物学的に厳格なレベルが要求されることから,サンプリング頻度を他の製薬用水よりも高めることが必要となる.
微生物学的分析用のサンプルは,直ちに試験するか又は分析を始めるまでそのサンプルを適切に保管すること.
直ちにサンプルの試験をしない場合は,その保管状態と保管時間を記録に残すこと.
微生物学的分析は,採取したサンプル中の微生物数を通して,製薬用水設備中に存在するであろう微生物の存在や状態を推定するに過ぎない.したがって,浮遊性微生物数が,製薬用水設備の汚染レベルの指標として使用され,製薬用水設備の警報基準値設定の基礎となる.浮遊性微生物の菌数レベルが一貫して高く出現することは,バイオフィルムが進展した指標であり,それを制御する措置が必要である.
A2.3.4 警報基準値と処置基準値
製薬用水設備は,その設計仕様の範囲内において運転を続けたときに,許容される品質の水が製造されていることを確かめるために,その品質のモニタリングプログラムを行う.得られたモニタリングデータは確立した工程パラメータ又は製造した水若しくは製品の規格と比較する.また,警報基準値及び処置基準値を日本薬局方参考情報「製薬用水の品質管理」を参考に適切に設定し,製薬用水設備の運転状態の適否判定とともに工程の制御のために使用する.
A2.3.5 微生物モニタリングプログラム
製薬用水設備の微生物モニタリングプログラムの主な目的は,製造した水の微生物学的品質の悪化を事前に把握し,製薬用水製造システムの機能的恒常性を維持することで,製造する製薬用水の品質を維持し,製品の品質に悪影響を及ぼすことを防ぐことである.微生物を適正なレベルに管理するためには,菌数のみならず出現菌種の把握を行うと共に,データの傾向分析を用いる.
存在する微生物の全てを検出する必要はないが,成長の遅い微生物を含め可能な限り広範囲の微生物を検出することができるようなモニタリング手法を採用する.製薬用水の微生物限度値は日本薬局方参考情報に示された基準等を参考に適切に定める.バリデーションの実施中又は日常管理において,処置基準値を超えた場合は,検出された菌の同定あるいは性状検査を行う.
特定の菌が多く検出されるようになった場合は,製薬用水設備中にバイオフィルムが形成されている可能性があるので,設備の滅菌あるいはサニタイゼーションを実施する.
A2.3.6 製薬用水の導電率と全有機体炭素(TOC)のモニタリング
導電率及びTOCに係る処置基準値又は警報基準値の取扱いは微生物限度値のそれに準じること.
なお,導電率及びTOCによる管理を行っている場合は,通例,個々の重金属,無機イオン等の試験は実施しないこともあるが,処置基準値及び警報基準値を超えた場合における原因究明のために実施することが望ましい.
A2.4 製薬用水設備に係る職員の教育訓練
製薬用水の製造及び品質管理を適切に行うために構造設備の運転,維持管理,品質管理に係る試験検査を担当する関係職員に対して製薬用水に関する教育訓練を定期的に,及び必要に応じて実施し,その記録を作成し保管すること.主な教育訓練項目を以下に示す.これらの項目は,同時に実施するのではなく,計画的に順次実施してもよい.
1) 製薬用水の品質と各種製薬用水別の対象製品との関係
2) 原水の水質変動,製薬用水設備と水質との関係
3) 製薬用水設備の管理方法(サニタイゼーション方法,滅菌方法等を含む.)
4) 製薬用水の試験検査方法及び管理基準
5) 設備内での微生物の生態(配管内面の状態,及び水流の影響,バイオフィルム,エンドトキシンの形成等)
6) サンプリング手順及びその注意事項
7) 製薬用水設備におけるバリデーション並びに変更管理及び逸脱管理
A2.5 製薬用設備の維持管理
水の設備を管理状態に保つことを確実とするために予防的保全計画を確立すべきであり,そのプログラムには,次のような事項を含めること.
1) 設備を運転するための方法
2) 重要な品質特性及び運転条件のモニタリングプログラム
3) 定期的なサニタイゼーションスケジュール
4) 設備構成要素の予防的維持管理及び校正
5) 設備及びその運転条件に対する変更管理
6) 装置の一時停止時及び再稼動時においての手順
特に超ろ過膜処理装置に関する手順については,膜面の劣化によるリークの恐れという観点から十分な配慮を行うこと
7) 用水設備及びメンテナンスの理解
A2.6 変更管理
設備について改造あるいは増設を行った場合又はその運転方法を変更した場合は,その変更が製薬用水の品質に及ぼす影響を評価すること.その変更により,設備の再評価が必要と判断される場合は,その内容に応じ適切なバリデーションを行う必要がある.保全プログラムの一環として,これら変更時の管理方法を定めておくこと.これらの変更管理手順は,バリデーションと保全の一環として,プログラムに定めておくこと.
A2.7 逸脱管理
製薬用水設備があらかじめ定めた警報基準値又は処置基準値を超えた場合,その採るべき手順をあらかじめ文書化しておくこと.処置基準値を逸脱した時は,少なくとも以下の事項を含め,その記録を残すこと.
1) 再サンプリングと再試験の手順
2) 報告の手順
3) 製造された製薬用水及び当該製薬用水を使用して製造された製品の処置の手順
4) 予防措置
5) 是正措置
6) モニタリングプログラムの方法並びに警報基準値及び処置基準値の見直し
A3 無菌医薬品製造所の防虫管理
A3.1 一般要件
無菌医薬品の製造所における防虫管理は,一般の医薬品製造所と同様,製造環境の清浄度レベルを維持するペストコントロールとして重要である.さらに,無菌医薬品の製造所において生息する昆虫類の特定は,カビの発生等に起因する食物連鎖の存在,すなわち微生物学的清浄度レベルの指標となり,また,当該昆虫類が微生物及びその胞子を虫体につけて移動することから無菌医薬品に係る製品の微生物学的管理上からも重要である.
医薬品製造所において捕獲される動物には,昆虫綱,蛛形綱(クモ,ダニ),唇脚綱(ゲジ,ムカデ),等脚類(ワラジムシ)等の節足動物が含まれるが,本指針においてはこれらを総称して「昆虫類」という.
無菌操作区域においても昆虫類が生息していることがある.生息密度が低く,微小な昆虫類については,これらを把握することができるようなサンプリング方法が必要となる.また,無菌操作区域においては外部からの持ち込み,又は侵入する昆虫類は非常に少ないことから,内部で発生する昆虫類(特に食菌性の昆虫類)の管理プログラム(以下「昆虫類管理プログラム」という.)を確立しておかなければならない.
A3.2 昆虫類管理プログラム
1) 清浄区域に見合った文書化された昆虫類管理プログラムを持ち,記録を作成し保管すること.
2) 昆虫類管理プログラムは,次の要件を満たすことが望ましい.
① モニタリングから是正措置までの手順
② 基準値逸脱時の防除対策の手順
③ 基準値逸脱時の後追い調査の手順
④ 食菌性昆虫類が捕獲された場合においては,真菌の汚染源調査の計画
⑤ 塵埃中の有機物を餌とする昆虫類が捕獲された場合においては,清浄計画を見直すこと
3) モニタリングの範囲
無菌医薬品に係る製品の製造所のモニタリングは,その他支援区域を主な範囲とし,その結果や必要に応じて直接支援区域と製品の品質への影響を評価するものとすることが望ましい.構造設備の新設時,工事後等はその対象範囲についても調査することが望ましい.
4) サンプリング方法及びサンプリングサイズ
① 無菌操作区域におけるモニタリングに用いる資材は汚染をさけて搬入すること
② サンプリング方法は製造所に生息する昆虫類の生態から選定し,妥当性のある方法で実施すること
5) 管理基準
① 管理基準値を設定することが望ましい
② 昆虫類の空間分布様式は集中分布を示すものが多く正規分布にならないため,管理基準値の運用においては平均値ではなく最大値による管理が望ましい
③ 内部発生と外部からの侵入とに分けて評価
④ 個体数のほか,生息状況も評価
⑤ 区域別,種類別に評価
6) 是正措置及び予防措置
① モニタリングの結果から,迅速に改善が実施され,効果が確認されること
② 過去の昆虫類の生息状況の傾向を解析し,適切な予防措置を採ること
A3.3 防虫対策
生息が確認された昆虫類の種類に応じた適切かつ効果な防虫対策を実施すること.
1) 対種防除
昆虫類は種類により食性,生活史等生態が様々なので,これらの生態にあわせて種類毎に対策を行う.例えば,塵埃中の有機物を食べている昆虫類の防除は清浄化計画を見直し,食菌性昆虫類であれば真菌の対策を計画する.
2) 真菌の対策
清浄区域において検出される昆虫類の多くは製造所の構造面の不備による真菌の発生に由来することが多いことから,構造面の再確認及び真菌の対策を採ることが必要である.
3) 防虫構造の確認
2)のほか,一般的に外部からの侵入や異常な内部発生がある場合においては,製造所の防虫の機能を再度確認することが望ましい.
4) 殺虫剤の使用に関して
① 基本的に清浄区域においては殺虫剤を使用するべきではない.
② 異常が発生した場合等においてやむを得ず使用する場合においては,製品が汚染されないよう措置を採ること.また,清浄区域の外において殺虫剤を使用するときであっても拡散に注意すること.
③ 殺虫剤を清浄区域において使用した場合においては,その殺虫剤の除去に適した清浄化を実施し殺虫剤の残留がないか確認を行うこと.
④ 製造所において使用する殺虫剤に係る化学物質等安全データシート(MSDS)及び当該殺虫剤の使用の記録を保管すること.
A4 バイオセーフティ及びバイオセキュリティ対策
医薬品の製造で微生物や毒素等を取り扱う工程においては,無菌性の担保とともに微生物等の物理的封じ込め施設,設備及び封じ込め操作が必要となる(生物学的製剤の製造所におけるバイオセーフィテイの取扱い関する指針:医薬監第14号,平成12年2月14日,並びに実験室バイオセーフティ指針第3版:世界保健機構).
生物学的製剤や遺伝子組み換え技術を応用して製造される医薬品には,感染性物質の輸送規則に関するガイダンス2009―2010版、世界保健機構,また,バイオセキュリティに関連する原料の取扱いには,感染症予防法,並びにバイオリスクマネジメント、実験施設バイオセキュリティガイダンス:世界保健機構を遵守する必要がある.
A4.1 バイオセーフティレベル
微生物(本章においてはウイルス,細菌等を指す)を原料とする製品の製造にあたり,使用微生物の病原性リスクに応じた安全操作上のバイオセーフティレベル(BSL)で取扱うこと.製造で使用される微生物等は以下のように1―3のリスク群に区分され,対応する物理的封じ込め,安全機器,感染防護具,作業操作の方法の組み合わせに基づきBSL1―3に分類される.ただし,当該微生物の不活化又は除去後の工程については,一般の製品と同様の扱いとすることができる.
1) リスク群1(取扱い施設:BSL1):微生物取扱い者及び周辺者への病原性リスクはない,又は低い(例:多くのワクチン製造用株(麻疹,風疹,おたふく風邪,水痘,BCG等))
2) リスク群2(取扱い施設:BSL2):微生物取扱い者への病原性リスクが中程度,周辺者へのリスクは低い(例:百日咳菌,ジフテリア菌,破傷風菌,コレラ菌等)
3) リスク群3(取扱い施設:BSL3):微生物取扱い者への病原性リスクが高い,周辺者へのリスクは低い.通常の条件下では感染は個体から他の個体への拡散は起こらない.有効な治療法や予防法が利用できる.
A4.2 バイオセキュリティ対策
微生物及びある種の細菌毒素等については,意図的な放出又は散逸等が生じた場合の地域社会への影響が懸念されるため,それを防ぐ対策(バイオセキュリティ対策)が講じられる.微生物及び毒素等の管理を厳重にするため,取扱い者の登録又は指名,取扱う施設への入退室,保管及び運搬について少なくとも以下のことを行う.
1) 微生物及び毒素等の取扱い者の登録又は指名
2) 微生物及び毒素等の保管,委譲,運搬等に関する作業手順書の作成と記録
加えて,感染症予防法の特定病原体等に指定されている微生物及び毒素の取扱いについては,二~四種の分類に従い,施設,輸入,譲渡,運搬,使用,保管,滅菌などについて関係する法令等を遵守すること.
A4.3 微生物等安全管理区域(管理区域)
取扱う微生物の病原性リスクレベルに応じ,封じ込めレベルに応じた微生物等安全管理区域(以下「管理区域」という)を設置する.BSL2以上では,当該区域の出入口に国際バイオハザード標識を表示し,管理者,緊急時の連絡先等を記載する.
管理区域の出入口及び微生物及び毒素等保管庫等には登録者以外の立ち入りを制限する処置を講じるとともに,取扱う微生物及び毒素等に応じて登録者の管理区域等への入退室記録を残す.
A4.4 BSL1施設に対する一般要件
1) 構造設備に係るバイオセーフティ上の要件は必要としない.
2) 感染性廃棄物(微生物に汚染された廃棄物で動物の死体を含む.以下同じ)は,適切な薬品消毒又は加熱滅菌等の処理後に管理区域外へ搬出するか,又は移動の途中において内容物が飛散し若しくは流出する恐れのない容器に入れ当該容器の外部を消毒した後に管理区域外に搬出し,製造所内の焼却施設において焼却すること.なお,滅菌済みの廃棄物の焼却を外部委託することもできる.
A4.5 BSL2施設に対する一般要件
1) 微生物のエアロゾルが発生する可能性のある作業については,HEPAフィルターを装備した密閉構造の設備,安全キャビネット(クラスⅡ以上)又はこれらと同等の封じ込め設備において行い,当該設備から排出される空気から当該微生物を除去する.
2) 感染性廃棄物の処理は,次のいずれかの方法による.なお,滅菌済みの廃棄物は焼却を外部委託することもできる.
① 適切な薬品消毒又は加熱滅菌等の処理後に管理区域外へ搬出し,製造所内の焼却施設において焼却する.
② 移動の途中で内容物が飛散・流出する恐れのない容器に入れ,当該容器の外部を消毒後,管理区域外に搬出し,製造所内の焼却施設において焼却する.
③ 閉鎖系の適切に管理された方法により管理区域内から直接焼却炉へ搬送するか,又は直接滅菌機へ搬送・滅菌し,製造所内において焼却処理する.
3) 微生物を含む廃液又は微生物に直接接触した廃液については,管理区域内又は管理区域外の閉鎖系のタンク等において,適切な薬品消毒,加熱滅菌等の処理後に排水する.
4) 毒素やその廃棄物の処理は,性状に応じて適切に行なう.
A4.6 BSL3施設に対する一般要件
1) 当該微生物を取扱う管理区域は,その他の区域と明確に区分される構造とする.
2) 管理区域内への立入りを制限するための,立入り制限の表示及び立入りの許可等の手順を定め管理すること.その他に,セキュリティ扉等による物理的な立入り制限を設けること.
3) 管理区域内は,密閉構造保持のため,天井,壁及び床の表面は,滑らかでひび割れがなく,かつ,じんあいの発生がなく,化学薬品及び消毒剤を使用できる材質とする.
4) 管理区域内の作業室は,空気の流れを制御する管理方式においては,微生物の漏出を最小限とするため内向き気流を確保する.内向き気流を監視するために,例えば差圧を設けている室間では差圧を測定し記録する.差圧のある作業室の出入り口には,エアロックを設け,室間差圧及び気流の逆転が起きないよう,十分な差圧を設けること.
5) 病原体による汚染が生じた場合にも適切に対応することができるように消毒のための装置又は器具を設置する.
6) 手洗い,流し台等の蛇口は,交叉汚染を防ぐために,自動式のもの又は肘式若しくは足踏み式のものとする.
7) 作業中の汚染等防止のために,管理区域内の作業スペースは十分確保する.
8) 空調設備(ダクト内等)は,必要に応じてガス等で除染が可能な構造とする.
9) 微生物のエアロゾルが発生する可能性のある作業については,HEPAフィルターを装備した安全キャビネット(クラスⅡ以上)又はこれらと同等の封じ込め設備において行い,当該設備から排出される空気はHEPAフィルターを通して直接外部へ排気する.
10) 管理区域内の空気については,独立した空調設備と給排気系統にHEPAフィルターを設置する.
11) 空調設備の故障等不測の事態が発生し停止した場合において,管理区域内の微生物が漏出しないよう物理的封じ込めが維持できる構造設備とする.
12) 停電等の緊急時に備え,空調設備の連続稼動のための非常電源を確保する.
13) 排水系には逆流防止装置を設置する.
14) 微生物を含む廃液又は微生物に直接接触した廃液については,管理区域内又は管理区域外の閉鎖系のタンク等において,適切な薬品消毒又は加熱滅菌等の処理後に排水する.
15) 感染性廃棄物の処理は,次のいずれかの方法による.
① 適切な薬品消毒又は加熱滅菌等の処理後に管理区域外へ搬出し,製造所内の焼却施設において焼却する
② 移動の途中で内容物が飛散・流出する恐れのない容器に入れ,当該容器の外部を消毒後,管理区域外に搬出し,製造所内の焼却施設において焼却する.
③ 閉鎖系の適切に管理された方法により管理区域内から直接焼却炉へ搬送するか,又は直接滅菌機へ搬送・滅菌し,製造所内において焼却処理する
16) 職員は,感染防御具(作業服,マスク,手袋)等を着用し,適切な着脱を行う.また必要に応じて,陽圧防護服等さらに安全性の高い服を着用する.
A4.7 緊急時の対策
A4.7.1 緊急時の安全対策
当該微生物のエアロゾルの漏出,培養液の流出,微生物の曝露,火事,自然災害等の緊急時に備え,次の各項目についてあらかじめ文書化しておくこと.
1) 曝露された職員の救出並びに救急処置,取扱う微生物等による感染時の治療法
2) 汚染物の封じ込め方法
3) 汚染除去に関する作業手順
4) 緊急時の作業手順並びに連絡体制
A4.7.2 特定病原体等の事故対策
事故とは,所持する特定病原体等について紛失,盗難,所在不明,意図的な放出等が生じたことをいう.事故時に備え,次の項目についてあらかじめ文書化しておくこと.
1) 事故時の対応策の設定
2) 事故時の連絡体制
3) 事故時の届出手順(分類により必要)
A4.8 教育訓練
職員は,管理区域への立ち入りに際し,事前,及びその後定期的にバイオセーフティ及びバイオセキュリティに係る教育訓練を受けなければならない.
教育訓練には,以下のものが含まれる.
1) 取扱う微生物の性質(レベルや感染様式)
2) 管理区域への入退室時における手順
3) 管理区域内の装置,器具等の取扱い方法並びに作業手順
4) 微生物等の安全な取扱い方
5) 微生物等の保管と出納に関する記録
6) 感染性物質の運搬等に関する容器及び手順
7) 感染性廃棄物等の処理方法
8) 緊急時の安全対策
9) 特定病原体等を取扱う施設における使用,保管,管理,輸送,廃棄,届出方法
A5 ケミカルハザード対策
A5.1 原則
医薬品製造におけるケミカルハザード対策は,患者に対する健康被害リスク,即ち交差汚染リスクと,製造作業者に対する健康被害リスクの評価に基づき検討されるべきである.ICHQ9では,「リスクとは危害の発生する確率とそれが顕在化した場合の重大性の組み合わせである」と定義されている.このことから,患者や製造作業者に対する健康被害リスクは,患者や製造作業者が化学物質(原薬)に接触する確率或いは曝露される度合(曝露度)と,原薬が健康被害を引き起こす潜在的能力(ハザード)の組み合わせと考えることが出来る.ケミカルハザード対策は,ICHQ9の「品質リスクマネジメント」で提唱されたリスクマネジメントプロセス(添付図1)に従って,実施されるべきである.また,その結果として,製造の各段階や製品ライフサイクルにおいて,リスクを受容できるレベルまで低減し得る対策を講ずることが重要である.
なお,如何なる場合であっても,「ケミカルハザード対策」を理由として,製品の無菌性保証レベルが低下したり,曖昧になったりすることがあってはならない.
図1 典型的な品質リスクマネジメントプロセスの概要
A5.2 リスクマネジメントプロセス
A5.2.1 リスク特定(ハザードの特定)
化学物質(原薬)が患者や製造作業者の健康に悪影響を引き起こさない曝露限界を,科学的な根拠に基づき設定することが重要である.曝露限界値は,前臨床(動物)や臨床(ヒト)から取得された毒性データをもとに外挿される.こうした限度値は,1日の許容曝露量として規定されることが多く,PDE(Permitted Daily Exposure),ADE(Acceptable Daily Exposure),ADI(Acceptable Daily Intake)といったものが各種ガイドラインで紹介されている.
こうした健康障害リスクに基づき設定された曝露限界から,作業環境の安全性限界値(許容曝露濃度や許容残留量など),交叉汚染限界値,製品接触部における残留限界値を合理的に設定することができる.また,これらの限界値に基づき,患者や製造作業者の健康に悪影響を引き起こす可能性を許容限界以下に抑える製造条件を設定することができる.
A5.2.2 リスク分析(曝露分析)
患者や製造作業者が,化学物質に曝露されるリスクは,各製造工程のライフサイクル(製造,切り替え洗浄,部品交換,保全などの全製造段階)において取り扱う化学物質の物理的化学的特性(粉体,液体,エアロゾル,粒度,比重,溶解性など)と製造工程自体の特性(開放系/閉鎖系,封じ込め装置,防護具,集塵,定置洗浄,定置湿潤など)に依存する.曝露分析は,定常的におこなわれる製造工程のライフサイクルのみならず,封じ込め装置の破綻といった予測される非定常状態についても実施されなくてはならない.
A5.2.3 リスク評価
リスク分析による曝露度の評価結果と,リスクの特定により設定した限界値を組み合わせて,患者と製造作業者に対する健康被害リスクを評価する.患者に対するリスクが受容されるためには,ある製品の製造工程中に他の製品が交叉汚染限界値以上に混入しないことが保証されなければならない.一方,製造作業者に対する健康障害リスクが受容されるためには,製造作業中に化学物質を吸引,接触,経口などの曝露経路を通して,ADE以上体内に取り込まないことが必要である.
A5.2.4 リスクコントロール
リスクアセスメントの結果,リスクが受容されないと判断された場合は,リスクが受容されるために適切な方策が講じなければならない.そのためには様々な方策が考えられるが,基本的には,以下の優先順序を基本として採用されるべきである.
・ 対象化学物質の排除
・ 対象化学物質の代替品の活用
・ 封じ込め装置の検討(ハード対応)
・ 開放操作における職員の防護
すなわち,高活性(ケミカルハザード)を持つ化学物質では,その残留が管理できない領域や除染が困難な領域に,拡散させないことが基本となる.
また,こうした方策を検討する中で,洗浄バリデーションに裏打ちされた洗浄方法の確立が困難な場合や,非製品接触部への化学物質の移送や飛散が他の製品に混入するリスクが受容されない場合には,専用設備の導入を検討することになる.
A5.2.5 リスクレビュー
一連のリスクアセスメント及びリスクコントロールに基づきケミカルハザード対策が実施された後は,実際に期待された効果が得られていることを確認しなければならない.
飛散量や付着残留量の測定を行うことはリスクレビューの有効な手段である.
A5.2.5 リスクコミュニケーション
ケミカルハザード対策におけるリスクマネジメントプロセスは,責任と権限が明確に規定された体制によって,組織的に実施されなければならない.ICHQ9でも述べられているとおり,複数の分野の専門家からなるチームが担当することが望ましい.チームを編成する場合には,品質リスクマネジメントプロセスに精通した者に加え,適切な分野の専門家(品質部門,事業開発,技術,規制,製造,営業・マーケティング,法務,統計,臨床等)が含まれるべきである.
A5.3 教育訓練
1) ケミカルハザードに係る教育訓練には,以下のものが含まれる.
① 取り扱う製品の特性
② 管理区域への入退室時における手順
③ 管理区域内の装置,器具等の取扱い方法並びに作業手順
④ 活性廃棄物等の処理方法
⑤ 緊急時の安全対策
2) 緊急時対策の教育訓練には,以下のものが含まれる.
① 職員の救急処置
② 汚染除去に関する作業手順
③ 緊急時の連絡体制
A6 試験検査
A6.1 エンドトキシン
A6.1.1 一般要件
1) 注射剤に係る製品の製造用原料,容器,栓,製造用水及び製造設備の薬剤接触面などはエンドトキシン汚染を適切に管理すること.
2) 製造設備の薬剤接触面の洗浄,乾燥,保管を適切に行い,バイオバーデンの増加に伴うエンドトキシンの増加を防止すること.
3) 製造設備の薬剤接触面,容器及び栓の最終リンスは注射用水で行い,エンドトキシンの混入を防止すること.洗浄後の設備は,ただちに滅菌を行わない限り,乾燥しておくこと.
4) 容器及び栓に対して加熱によるエンドトキシンの不活化,表面の洗浄によるエンドトキシンの除去,調製液に対する膜ろ過や吸着などによるエンドトキシンの除去を実施する場合は,その効果を検証すること.
5) エンドトキシン試験法は日局に準拠し,試験法はあらかじめ反応干渉因子試験による評価を行い,試料溶液に反応干渉因子が存在しない有効希釈倍数を明確にしておくこと.
A6.1.2 バリデーション
1) 加熱,洗浄,膜ろ過及び吸着などでエンドトキシンの不活化若しくは除去を実施する場合は,既知量のエンドトキシンを負荷し,処理による除去効率を求め,処理後のエンドトキシン残存量が限度内であることを検証すること.
2) エンドトキシン試験については,適切な試験法バリデーションを実施すること.
3) エンドトキシン試験に使用するライセート試薬等は,保管温度や使用期限の管理を適切に実施すること.
A6.2 不溶性微粒子
A6.2.1 一般要件
1) 洗浄後の容器及び栓,必要に応じて,無菌ろ過工程以降の製造設備の薬剤接触面またはろ過後の調製液の微粒子を適切に管理すること.
2) 容器及び栓と薬液の相互作用,たん白等高分子成分の凝集等によって,製造後,経時的に発生する微粒子について十分に配慮し,長期保存試験により評価すること.
3) 不溶性微粒子試験法は日局に準拠すること.
A6.2.2 バリデーション
不溶性微粒子試験は,適切な試験法バリデーションを実施すること.
A6.3 容器完全性
A6.3.1 一般要件
1) 無菌製剤の容器は適切にバリデートされた方法で密封すること.設備の運転条件などに問題があれば容器の完全性が損なわれる可能性があるため,パラメータ管理を適切に行うこと.
2) 容器または栓の欠陥は完全性が失われる要因になるため,日常の管理試験又は全数検査により確認し,非無菌となるリスクの大きな製品が出荷されないように安全策を講じること.
3) ガラスまたはプラスチックアンプルなど,熔閉した容器は全数完全性試験を実施すること.他の容器は適切な手順で完全性についてチェックすること.
4) 容器の完全性は,使用に至るまで保持されており,製品の無菌性が保たれていることを保証すること.
5) 完全性試験の方法は,容器と栓に対応して適切に定めること.
A6.3.2 バリデーション
1) 採用した容器完全性試験については,適切な試験法バリデーションを実施すること.
2) 容器完全性試験を実施する際は,製品の保管温度の変動,包装,輸送の際の振動及び衝撃,空輸の際の気圧変動等を可能な限り考慮すること.そのチャレンジテストの条件の根拠を文書化すること.
A6.4 外観検査
A6.4.1 一般要件
1) 外観検査により容器完全性不適合の製品を取り除いて無菌性を保証する場合は,外観と容器完全性の対応関係を適切に定めた検査標準を確立すること.
2) 検査条件は,製品の特性を考慮し,製剤毎に最適化すること.
3) 異物検査の基準は日局に準拠すること.その基準である「たやすく検出される異物/明らかに検出される異物」を製剤の特性や異物の種類毎に定義すること.
4) 製造工程では全数検査を行い,「たやすく検出される異物/明らかに検出される異物」が混入した製品を除去すること.全数検査の後,必要に応じて目視による抜取検査を行うこと.抜取検査ではバッチサイズを考慮した統計的に意義があるサンプルサイズ(例えば,AQL抜取方法を参考にする)で評価すること.
5) 検査作業手順書に検査方法を定めること.人による目視検査においては,例えば次のような条件を定める.
① 検査手順,検査ピッチ,単位検査対象当たりの所要時間,休憩の間隔
② 検査台,検査ベルト,検査燈,検査用拡大鏡,検査姿勢(椅子)
③ 検査位置の照度,検査室の照度,背景の色
なお,製造工程で目視により全数検査を実施する場合,「たやすく検出される異物/明らかに検出される異物」が除去できるように製剤毎に検査精度が保証できる所要時間,照度などの検査条件を最適化し,規定すること.全数検査後に抜取検査,品質試験を行う場合,検査位置の照度は2000-3750lx,単位検査対象当たりの所要時間は白及び黒の背景で5秒ずつとする.これ以上の照度及び所要時間を採用することもできる.
6) 自動検査機による検査においては,例えば次のような条件を定める.
① 検査機の機種,検査速度,単位検査対象当たりの所要時間
② 開始,終了時,その他定期的な標準品サンプル等による検査機の検査能力の確認方法
③ 校正
7) 検査の判定に使用する限度見本を作成する場合,そのサンプルについて品質部門の承認を受けること.また,限度見本は経時的な劣化・変質が発生するため,有効期限の設定を行うか,定期的な品質確認を行うこと.
A6.4.2 バリデーション
1) 人による検査においては,限度見本等によって,検査員が所定の検査能力に達していることを確認すること.この検査能力の確認は視力検査とともに定期的に実施すること.
2) 検査機のバリデーションにおいては,限度見本等によって,所定の検査能力,除去能力を有することを定期的に確認すること.
3) 検査工程のバリデーションに使用する異物サンプルは生産から得られた異物サンプルを使用することが望ましい.これらのサンプルは品質部門の承認を得ること.
B 改訂履歴
2006年7月:監視指導麻薬対策課から事務連絡として発出.
2011年4月:全面改正,監視指導麻薬対策課から事務連絡として発出.