添付一覧
○新規化学物質等に係る試験の方法について
(平成23年3月31日)
(/薬食発0331第7号/平成23・03・29製局第5号/環保企発第110331009号/)
(厚生労働省医薬食品局長・経済産業省製造産業局長・環境省総合環境政策局長通知)
「第三種監視化学物質に係る有害性の調査の項目等を定める省令及び第三種監視化学物質の有害性の調査の指示に関する省令を廃止する省令」(平成22年経済産業省、環境省令第1号)をもって「第三種監視化学物質に係る有害性の調査の項目等を定める省令」(平成15年経済産業省、環境省令第10号。以下「旧省令」という。)が廃止され、旧省令により定められていた有害性の調査の項目等は、「新規化学物質に係る試験並びに第一種監視化学物質及び第二種監視化学物質に係る有害性の調査の項目等を定める省令」(昭和49年総理府、厚生省、通商産業省令第1号)の全面的な改正により新たに定められた「新規化学物質に係る試験並びに優先評価化学物質及び監視化学物質に係る有害性の調査の項目等を定める省令」(平成22年厚生労働省、経済産業省、環境省令第3号。以下「新省令」という。)に追加された。また、新省令の施行に伴い、「新規化学物質に係る試験並びに優先評価化学物質及び監視化学物質に係る有害性の調査の項目等を定める省令第2条及び第4条第4号の規定により厚生労働大臣、経済産業大臣及び環境大臣が別に定める試験(平成23年厚生労働省・経済産業省・環境省告示第5号)」において、哺乳類を用いる28日間の反復投与毒性試験と同等以上のものとして、哺乳類を用いる反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験が追加された。さらに、経済協力開発機構(OECD)における試験法テストガイドライン(以下「OECDテストガイドライン」という。)の一部が改正されたこと等を踏まえ、既存の試験方法について一部見直しを行った。
これらにより、平成23年4月1日より新省令第1条第1項第2号、同条第2項、同条第3項、第2条、第3条第2項及び第4条第2号から第5号までに掲げる試験並びに第5条又は第6条に規定する慢性毒性、生殖能及び後世代に及ぼす影響、催奇形性、変異原性、がん原性、生体内運命、薬理学的特性、藻類の生長に及ぼす影響、ミジンコの繁殖に及ぼす影響、魚類の初期生活段階における生息若しくは生育に及ぼす影響その他優先評価化学物質の環境における残留の状況からみて経済産業大臣及び環境大臣が特に必要があると認める生活環境動植物の生息若しくは生育に及ぼす影響又は鳥類の繁殖に及ぼす影響についての調査のための試験については、原則として下記第1の方法によることとし、下記第2のとおり取り扱うこととする。
なお、「新規化学物質等に係る試験の方法について(平成15年11月21日薬食発第1121002号厚生労働省医薬食品局長、平成15・11・13製局第2号経済産業省製造産業局長、環保企発第031121002号環境省総合環境政策局長連名通知)」(以下「平成15年連名通知」という。)は、平成23年3月31日をもって廃止する。
記
第1 新規化学物質等に係る試験の方法について
新規化学物質等に係る試験は、原則として別添の方法によるものとする。
第2 新規化学物質等に係る試験の方法の取扱いについて
1 経過規定
1) 平成23年3月31日以前に開始された試験であって、平成15年連名通知及び「第三種監視化学物質に係る有害性の調査のための試験の方法について(平成16年3月25日平成16・03・19製局第6号、環保企発第040325004)」に規定する各試験の方法に基づき行われたものの取扱いについては、なお従前の例によることができるものとする。
2) 平成23年3月31日以前に開始された試験であって、その目的が上記第1に規定する哺乳類を用いる反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験の目的のいずれかに合致するものであり、OECDテストガイドラインに基づき行われたものについては、当該平成23年3月31日以前に開始された試験を、これらの試験のうちその目的が合致している試験として取り扱うことができるものとする。
2 その他
試験の目的が上記第1に規定する慢性毒性試験、生殖能及び後世代に及ぼす影響に関する試験、催奇形性試験、変異原性試験、がん原性試験、生体内運命に関する試験又は薬理学的試験の目的に合致している試験であって、OECDテストガイドラインに基づき行われたものについては、原則として、これらの試験のうちその目的が合致している試験として取り扱うことができるものとする。
別添
<微生物等による化学物質の分解度試験>
Ⅰ:微生物による化学物質の分解度試験(301C相当)
Ⅰ―Ⅰ 適用範囲
ここでは、微生物等による化学物質の分解度試験の標準となるべき方法について規定する。
Ⅰ―Ⅱ 用語
この試験法において使用する用語は、日本産業規格(以下「JIS」という。)において使用する用語の例による。
Ⅰ―Ⅲ 活性汚泥の調製
1 汚泥採集場所
全国的な地域分布を考慮の上、多種類の化学物質が消費、廃棄されるとみられる場所を中心に全国十カ所以上とする。
2 汚泥採集回数
年間4~6回とする。
3 汚泥採集方法
3―1 都市下水 下水処理場の返送汚泥1L
3―2 河川、湖沼又は海 表層水1L及び大気と接触している波打際の表土1L
4 調製
各所から集めた汚泥を一つの容器内で混合かくはんして静置したのち浮んだ異物を除去し、上澄液をNo.2ろ紙を用いてろ過する。ろ液のpHを水酸化ナトリウム又はりん酸で7.0±1.0に調整し、培養槽に移してばっ気する。
5 培養
4によって得られた液のばっ気を約30分間止めたのち、全量の約3分の1量の上澄液を除去し、これと等量の0.1%合成下水(注1)を加えて再びばっ気する。この操作を毎日1回繰り返す。培養温度は、25±2℃とする。
(注1) 0.1%合成下水
グルコース、ペプトン、りん酸二水素一カリウムおのおの1gを水1Lに溶解し、水酸化ナトリウムでpHを7.0±1.0に調整したもの
6 管理
培養段階での管理は、次の項目を点検し、所要の調製を行う。
6―1 上澄液の外観 活性汚泥の上澄液は透明であること。
6―2 活性汚泥の沈でん性 フロックが大きく、沈でん性がすぐれていること。
6―3 活性汚泥の生成状態 フロックの増加が認められない場合には0.1%合成下水の添加量又は添加回数を増やすこと。
6―4 pH 上澄液のpHは、7.0±1.0であること。
6―5 温度 活性汚泥の培養温度は、25±2℃であること。
6―6 通気量 上澄液と合成下水を交換する時点において、培養槽内の液中溶存酸素濃度が少なくとも5mg/L以上となるように十分通気すること。
6―7 活性汚泥の生物相 活性汚泥を顕微鏡(100~400倍)で観察したとき、雲状のフロックとともに種々の原生動物が多数見られること。
7 新旧活性汚泥の混合
新旧活性汚泥の均一性を保つため、現に試験に供している活性汚泥の上澄液のろ液と新たに採集してきた汚泥の上澄液のろ液との等量を混合し、培養する。
8 活性汚泥の活性度の点検
標準物質を用いて少なくとも3ヶ月に1回定期的に活性度を点検する。試験法はⅠ―Ⅳに準ずる。特に、新旧活性汚泥を混合したときは、旧活性汚泥との関連性に留意する。
[活性汚泥の調製と使用期間の例(年間6回採集の場合)]
Ⅰ―Ⅳ 試験方法
1 分解度試験装置
閉鎖系酸素消費量測定装置
2 基礎培養基
JIS K0102―2016の21で定められた組成のA液、B液、C液及びD液それぞれ3mlに水を加えて1Lとする。
3 被験物質の添加及び試験の準備
次の試験容器(各300ml)を準備し、これらを試験温度に調整する。なお、被験物質が水に試験濃度まで溶解しない場合は、可能な限り微粉砕したものを用い、溶媒や乳化剤は使用しない。
3―1 水に被験物質が100mg/Lとなるように添加したものを入れた試験容器 1個
3―2 基礎培養基に被験物質が100mg/Lとなるように添加したものを入れた試験容器 3個
3―3 基礎培養基にアニリンが100mg/Lとなるように添加したものを入れた試験容器 1個
3―4 基礎培養基のみを入れた試験容器 1個
4 活性汚泥の接種
3―2、3―3及び3―4の試験容器にJIS K0102―2016の14.1で定められた懸濁物質濃度が30mg/Lになるように活性汚泥を接種する。ただし、3―2については必要な場合には接種の前に溶液のpHを7.0に調整する。なお、活性汚泥は合成下水を添加してから18~24時間後のものを使用する。
5 分解度試験の実施
遮光した条件のもとで25±1℃で十分かきまぜながら一定期間(注2)培養し、酸素消費量の変化を経時的に測定する。
一定期間培養した後、残留する被験物質と変化物を分析に供し、その量を測定する。被験物質が水に溶解する場合は、溶存有機炭素の残存量も測定する。また、試験液のpHを測定する。
(注2) 通常は28日間とする。
6 試験結果の算出方法
6―1 試験条件の確認
試験終了時の被験物質の分解度の最大値と最小値の差が20%未満であり、酸素消費量から求めたⅠ―Ⅳの3―3のアニリンの分解度が7日後に40%を超えかつ14日後に65%を超えるときは、この試験は有効とする。
6―2 酸素消費量から分解度(%)を算出する方法
BOD:被験物質の生物化学的酸素消費量(測定値)(mg)
B:基礎培養基に活性汚泥を接種したものの酸素消費量(測定値)(mg)
TOD:被験物質が完全に酸化された場合に必要とされる理論的酸素消費量(計算値)(mg)
(注3) 窒素を含む被験物質が分解した場合、硝化の程度に応じたTODを算出する。
6―3 直接定量(注4)から分解度(%)を算出する方法
SA:分解度試験終了後の被験物質の残留量(測定値)(mg)
SB:水に被験物質のみを添加した空試験における被験物質の残留量(測定値)(mg)
(注4) 直接定量による化学分析法
① 全有機炭素分析計を用いる場合
試験容器から試験液を適当量分取し、これを約40,000m/s2で15分間遠心分離又はろ過(0.45μm)し、その上澄液又はろ液から適当量を分取して全有機炭素分析計により残存する溶存有機炭素を定量する。
② その他の分析計を用いる場合
試験容器内の内容物を被験物質等に適した溶剤により抽出、濃縮等適切な前処理を行った後分析機器等による定量分析を行う。この場合、原則としてJISに規定された分析法通則(ガスクロマトグラフ分析法、高速液体クロマトグラフ分析法、吸光光度分析法、質量分析法、原子吸光分析法等)に従い分析を行う。
Ⅰ―Ⅴ 結果のまとめ
試験の結果を様式1によりまとめ、最終報告書を添付するものとする。
Ⅱ:微生物による化学物質の分解度試験(301F相当)
Ⅱ―Ⅰ 適用範囲
ここでは、微生物等による化学物質の分解度試験の標準となるべき方法について規定する。
Ⅱ―Ⅱ 用語
この試験法において使用する用語は、日本産業規格(以下「JIS」という。)において使用する用語の例による。
Ⅱ―Ⅲ 植種源(微生物源)
地方自治体が管轄する主として家庭排水を処理する下水処理場の好気的反応槽(出口付近)の活性汚泥又は返送汚泥を用いる。下水処理場より汚泥を採取後、必要に応じてふるい等を用いて大きな粒子を除去し、試験に使用するまで好気的条件を維持する。採取当日に汚泥を使用しない場合は、約22℃で好気的条件を維持し、採取後7日間使用してよい。なお、被験物質、基準物質(アニリン、酢酸ナトリウム又は安息香酸ナトリウム)及びその他の化学物質を用いてじゅん化してはならない。
Ⅱ―Ⅳ 試験方法
1 分解度試験装置
酸素消費量測定装置
2 基礎培養基
以下に示したA液、B液、C液及びD液を調製する。A液10mL、B液1mL、C液1mL及びD液1mLに水を加えて1Lとし、これを基礎培養基とする。
A液:
りん酸二水素カリウム(KH2PO4) 8.50g
りん酸水素二カリウム(K2HPO4) 21.75g
りん酸水素二ナトリウム二水和物(Na2HPO4・2H2O) 33.40g
又はリン酸水素二ナトリウム十二水和物(Na2HPO4・12H2O) 67.21g
塩化アンモニウム(NH4Cl) 0.50g
上記を水に溶解させ1Lとする。また、pHを7.4に調整する。
B液:
塩化カルシウム(CaCl2) 27.50g
又は塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O) 36.40g
上記を水に溶解させ1Lとする。
C液:
硫酸マグネシウム七水和物(MgSO4・7H2O) 22.50g
上記を水に溶解させ1Lとする。
D液:
塩化鉄(Ⅲ)六水和物(FeCl3・6H2O) 0.25g
上記を水に溶解させ1Lとする。なお、本液は使用する直前に調製する。
3 被験物質の添加及び試験の準備
3―1~3―3の試験容器(例:各300ml)を準備し、これらを試験温度に調整する。被験物質が固体で水に試験濃度まで溶解しない場合は、可能な限り微粉砕等を実施したものを用いる。
必要に応じて3―4~3―9の試験容器を追加してよい。微生物への阻害性がある被験物質については、微生物への阻害を低減する目的で低濃度での分解性を評価する3―5を追加してよいが、その妥当性(被験物質に微生物への阻害性があること等)を3―6の試験容器によって示すこと。また、難水溶性物質については、試験液中における被験物質と微生物の接触を改善する目的で補助物質(溶媒、乳化剤又は担体)を使用した3―7~3―9を追加してよいが、その妥当性(補助物質に生分解性や微生物への阻害性がないこと等)を示すこと。
3―1 基礎培養基に被験物質が100mg/Lとなるように添加したものを入れた試験容器 少なくとも2個
3―2 基礎培養基に基準物質(アニリン、酢酸ナトリウム又は安息香酸ナトリウム)が100mg/Lとなるように添加したものを入れた試験容器 1個
3―3 基礎培養基のみを入れた試験容器 2個
<非生物的影響を確認する場合>
3―4 精製水に被験物質が100mg/Lとなるように添加したものを入れた試験容器 任意の個数
<微生物への阻害性がある被験物質に対して低濃度における分解性を確認する場合>
3―5 基礎培養基に被験物質が30mg/Lとなるように添加したものを入れた試験容器 少なくとも2個
3―6 基礎培養基に被験物質(100mg/Lとなる量)及び基準物質(100mg/Lとなる量)を添加したものを入れた試験容器 任意の個数
<難水溶性物質に対して補助物質を使用する場合>
3―7 基礎培養基に被験物質(100mg/Lとなる量)及び補助物質(適切な量)を添加したものを入れた試験容器 少なくとも2個
3―8 基礎培養基に基準物質(100mg/Lとなる量)及び補助物質(適切な量)を添加したものを入れた試験容器 1個
3―9 基礎培養基に補助物質(適切な量)を添加したものを入れた試験容器 2個
4 植種源の接種
3―1~3―3の試験容器にJIS K0102―2016の14.1で定められた懸濁物質濃度が30mg/Lとなるように植種源を接種する。ただし、3―1については必要な場合には接種の前に溶液のpHを7.4±0.2に調整する。
試験容器を追加する場合は3―5~3―9にも同様に植種源を接種する。ただし、3―5~3―9については必要な場合には接種の前に溶液のpHを7.4±0.2に調整する。
5 分解度試験の実施
遮光した条件のもとで22±1℃で十分かくはんしながら一定期間(注5)培養し、酸素消費量の変化を経時的に測定する。
一定期間培養した後、残留する被験物質と変化物を分析に供し、その量を測定する。被験物質が水に溶解する場合は、溶存有機炭素の残存量も測定する。ただし、3―6の試験容器については、残留する被験物質と変化物及び溶存有機炭素の残存量の測定は不要である。また、試験液のpHを測定する。
(注5) 通常は28日間とする。
6 試験結果の算出方法
6―1 試験条件の確認
試験終了時において、Ⅱ―Ⅳの3―1の分解度の最大値と最小値の差が20%未満、Ⅱ―Ⅳの3―3の酸素消費量が60mg/L以下、さらに酸素消費量から求めたⅡ―Ⅳの3―2の基準物質の分解度が14日後までに60%に達するときは、この試験は有効とする。
6―2 酸素消費量から分解度(%)を算出する方法
分解度(%)=(BOD-B)/TOD(注6)×100
BOD:被験物質の生物化学的酸素消費量(測定値)(mg)
B:基礎培養基に活性汚泥を接種したものの酸素消費量(測定値)(mg)
TOD:被験物質が完全に酸化された場合に必要とされる理論的酸素消費量(計算値)(mg)
(注6) 窒素を含む被験物質が分解した場合、硝化の程度に応じたTODを算出する。
6―3 直接定量(注7)から分解度(%)を算出する方法
分解度(%)=(B-A)/B×100
A:分解度試験終了後の被験物質の残留量(測定値)(mg)
B:被験物質の添加量(理論値)(mg)
(注7) 直接定量による化学分析法
① 全有機炭素分析計を用いる場合
試験容器から試験液を適当量分取し、これを約40,000m/s2で15分間遠心分離又はろ過(0.45μm)し、その上澄液又はろ液から適当量を分取して全有機炭素分析計により残存する溶存有機炭素を定量する。
② その他の分析計を用いる場合
試験容器内の内容物を被験物質等に適した溶剤により抽出、濃縮等適切な前処理を行った後分析機器等による定量分析を行う。この場合、原則としてJISに規定された分析法通則(ガスクロマトグラフ分析法、高速液体クロマトグラフ分析法、吸光光度分析法、質量分析法、原子吸光分析法等)に従い分析を行う。
6―4 備考
Ⅱ―Ⅳの6―2において酸素消費量から分解度を算出する際、必要に応じて10%に達した時から10日間(10―d window)以内に60%に達するか否かを確認してもよい。
Ⅱ―Ⅴ 結果のまとめ
試験の結果を様式1によりまとめ、最終報告書を添付するものとする。
<魚介類の体内における化学物質の濃縮度試験>
Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)
Ⅰ―Ⅰ 適用範囲
ここでは、魚介類のうち特に水(経鰓)を介した魚類の体内における化学物質の濃縮性を評価する試験の標準となるべき方法について規定する。魚を用いた生物濃縮度試験については、原則、本試験法を用いる。
Ⅰ―Ⅱ 用語
この試験において使用する用語は、日本産業規格(以下「JIS」という。)において使用する用語の例による。
Ⅰ―Ⅲ 試験方法
1 試験の概要
本試験法は、魚類体内への水(経鰓)を介した化学物質の取込及び蓄積を評価する方法である。本試験では、化学物質が溶解した試験水に試験魚を暴露して、試験水及び試験魚中における化学物質濃度を測定し、定常状態における生物濃縮係数(BCFSS)を算出する。また、必要に応じて、上記の取込期間に加えて、取込期間終了後の試験魚を化学物質が含まれない試験水に移動し排泄期間を設ける。この場合には、取込・排泄の両期間を通して速度論による生物濃縮係数(BCFK)を算出することができる。
2 試験に用いる装置及び材料
2―1 装置及び器具
すべての装置及び材料は、溶解、吸着、あるいは浸出により試験魚に有害な影響を与えないものを用いる。試験水槽は、化学的に不活性な材料で、流量に応じた適切な容量の角型あるいは円筒形とする。テフロン、ステンレススチール又はガラス配管を使用し、軟質プラスチック配管の使用は最小限とし、やむを得ない箇所に限る。合成ピレスロイド類のように高い吸着性を有する被験物質には、シラン処理ガラスが必要な場合もある。
2―2 試験用水
(1) 試験用水とは、被験物質及び溶解補助剤(溶剤及び分散剤)を含まない試験用の水である。汚染されていない水質の水源から得られる天然水、脱塩素した水道水又は人工調製水(特定の栄養素を既知量添加した脱塩素した水道水)とし、選択した魚種がじゅん化及び試験期間中に異常な外観や挙動を示さずに生存できる水質でなければならない。試験用水は、少なくともpH、硬度、全粒子状物質濃度、全有機炭素(TOC(1))濃度を測定する。アンモニウム、亜硝酸及びアルカリ度についても測定することが望ましい。
(2) 試験期間中、試験用水の水質を一定に保つ。試験開始時のpHは6.0から8.5までの範囲とし、試験期間中の変動幅は±0.5以内とする。試験用水が試験結果に影響(例えば、被験物質の錯体形成による影響)を与えないようにする。試験魚の活動に有害な影響を与えないことを保証するために、定期的(少なくとも試験開始時及び終了時)に試験用水を採取し、重金属類、主要なアニオン類及びカチオン類、農薬、TOC、全粒子状物質の濃度等を測定する(試験法解説参照)。試験用水の水質が一定であることが確認できれば、測定頻度を3か月ごとなどにしてもよい。さらに、1年間以上にわたって一定であると示される場合は、測定頻度を6か月ごとなどにしてもよい。試験用水中のTOCだけでなく天然粒子の含量も可能な限り低減する。必要に応じて、試験用水を使用前にろ過する。また、試験魚の排泄物及び残餌による有機炭素量を可能な限り小さくする。
――――――――――
(1) 全有機炭素(TOC)には、粒子状有機炭素(POC)及び溶存有機炭素(DOC)が含まれる(TOC=POC+DOC)。
2―3 試験魚
2―3―1 魚種の選択
コイ又はメダカ(ヒメダカ)が推奨されるが、試験法解説に示す他の魚種を使用してもよい。
2―3―2 蓄養及びじゅん化
(1) 蓄養した魚群を試験水温で少なくとも2週間じゅん化させ、その間十分な餌を与える。じゅん化中の水及び餌は試験に使用するものと同じ種類のものとする。48時間の観察期間に続いて、じゅん化期間中の死亡率を記録し、以下の基準に従い試験に使用する。
・7日間で10%を超える死亡率の場合:試験に使用しない。
・7日間で5%から10%の死亡率の場合:さらに7日間延長してじゅん化する。次の7日間で5%より高い死亡率になった場合には試験に使用しない。
・7日間で5%より低い死亡率の場合:試験に使用できる。
(2) 試験に使用する魚に外観上、病気や異常がないことを確認する。病気の魚は試験に使用しない。試験開始前2週間あるいは試験期間中に病気などに対する処置はしない。
2―3―3 給餌
(1) じゅん化及び試験期間中は、試験魚を健康な状態に保ち、かつ、体重を一定に維持するため、脂質や総蛋白質含量が既知の餌を適切な量与える。給餌量は魚種、試験条件及び餌のカロリー値を考慮して設定し、じゅん化及び試験期間中に毎日餌を与える(例えば、コイの場合は魚体重の1―2%程度(湿重量))。給餌量は、急激な成長及び脂質含量の増加がないように設定し、各試験水槽から直近に採取した試験魚の体重から適宜、再計算する(週1回など)。
(2) 給餌後30分から1時間以内に、試験水槽から食べ残しの餌及び糞便を吸い上げる。有機炭素の存在は、被験物質の生物学的利用能を制限する可能性があるため、試験期間を通して試験水槽を清掃し、有機炭素濃度を可能な限り低く保つ。
3 試験の実施
3―1 試験水
(1) 試験水とは、試験用水に被験物質や溶解補助剤を加えた水である。試験原液は、被験物質を試験用水に単純に混合又は撹拌し調製することが望ましい。溶解補助剤を使用する場合は最小限にする。また、それらの臨界ミセル濃度を超えてはならない。使用可能な溶剤としては、アセトン、エタノール、メタノール、N,N―ジメチルホルムアミド、トリエチレングリコールなどがある。使用可能な分散剤としては、Tween((R))80、メチルセルロース0.01%、NIKKOL((R))HCO―40などがある。試験水中の溶解補助剤濃度は、すべての試験区及び対照区において同一とし、かつ溶解補助剤が試験魚に毒性影響を与えないようにする。溶解補助剤の最高濃度は、100mg/L(又は0.1mL/L)とする。試験水における有機炭素の総量に対する溶解補助剤及び被験物質の割合を把握する。試験期間を通して、試験水中のTOC濃度は10mg/L(±20%)以下とする(被験物質及び溶解補助剤由来の有機炭素濃度を除く)。試験水中の被験物質濃度は、溶解補助剤の使用に関わらず、水溶解度以上の濃度は使用しない方が良い。生分解性のある溶解補助剤を用いる場合、バクテリアの増殖をもたらすので注意が必要である。
(2) 試験水槽中の被験物質濃度を維持するには、試験水槽に試験原液を連続的に供給・希釈する流水式システムが有効である。少なくとも1日に試験水槽容量の5倍量の試験水を流すことが好ましい。流水式による試験が推奨されるが、流水式が不可能であり、有効性基準を満たす場合は、半止水式による試験を実施してもよい。試験原液及び試験用水の流量を、試験開始の48時間前と試験期間中に毎日確認する。各試験水槽の流量の変動及び試験水槽間の流量の差異は20%以内とする。
(3) 試験水中被験物質濃度について、流水式による試験において試験原液交換前後で濃度変動が認められる場合や、半止水式による試験において換水前後で濃度変動が認められる場合は、OECDテストガイドライン211の付属書6の手順に従って、時間加重平均(TWA;Time Weighted Average)により試験水中被験物質濃度(Cw)を算出してもよい。
3―2 水質測定の頻度
試験期間中は、すべての試験水槽について、溶存酸素濃度、TOC濃度、試験水温及びpHを測定する。全硬度については、試験区(設定濃度が最も高い区の1水槽)及び対照区の水槽を測定する。溶存酸素濃度については、取込期間中は少なくとも3回(取込期間の開始時、中間時及び終了時)、排泄期間中は1週間に1回測定する。TOC濃度については、取込期間開始の24及び48時間前、取込期間中及び排泄期間中は1週間に1回測定する。試験温度は毎日1回、pHは取込期間及び排泄期間の開始時及び終了時、全硬度は取込期間及び排泄期間に1回測定し記録する。試験温度については、少なくとも一つの試験水槽中で連続的にモニターすることが好ましい。
3―3 流量
取込期間開始時の試験魚の搬入による試験水中の被験物質濃度の低下を最小限にし、かつ、溶存酸素濃度の低下を避けるため、試験魚尾数に応じて、試験水の流量を調整する。流量は使用する魚種によって調整する。通常、流量は魚体重(湿重量)1.0g当たり1―10L/日が推奨される。
3―4 試験魚の条件
各試験区において、試験開始時の魚体重の最小値は最大値の2/3以上であること。同じ年齢で同じ供給源の魚を用いる。魚の年齢及び体重がBCFに大きく影響する可能性があるため、これらの詳細を記録する。試験開始時の平均魚体重を推定するため、試験開始直前にじゅん化中の予備魚の体重を測定することが推奨される。
3―5 試験水濃度
3―5―1 急性毒性試験の実施(LC50測定)
本通知で定められた魚類毒性試験、JIS K0102―2016の71.で定められた方法又はOECDテストガイドライン203で定められた方法に準じて急性毒性試験を実施する。ただし、被験物質の最大無影響濃度(NOEC)のデータが得られている場合は実施しなくてもよい。
3―5―2 試験濃度の設定
(1) 試験は少なくとも2濃度区で実施する。第1濃度区の試験濃度の設定は、被験物質の急性毒性値(LC50値)の1%以下もしくはNOEC以下とし、技術的に可能な限り低くする。試験水の分析における被験物質の定量下限濃度より、少なくとも10倍程度高い濃度を目安とする。第2濃度区は、第1濃度区より10倍低い濃度とする。ただし、毒性及び分析感度から、これが不可能であれば、10倍より小さい濃度比で行うか、放射性同位元素を使って標識した被験物質(高純度、例えば>98%)を使用してもよい。いずれの試験濃度も被験物質の水溶解度を超えないように注意する。
(2) BCFの濃度依存性がないと予想される試験条件においては、試験は1濃度区でよい場合がある。1濃度区での水暴露法を適用する場合は、試験濃度を試験用水に対する被験物質の溶解度の10分の1以下に設定すること。ただし、無機化合物、有機金属化合物、界面活性作用を有する物質、トリフルオロメチル基若しくはテトラフルオロエチレン基を有する物質又は構造不明な複雑な反応生成物若しくは成分が不定の混合物等については、上記の設定濃度であっても濃度依存性を示す可能性が否定できないため、1濃度区での水暴露法は適さない。また、蛋白質と結合する可能性が高い物質(溶媒抽出で魚体から回収されない等)についても、濃度依存性を示す可能性が否定できないため、1濃度区での水暴露法は適さない。
一連の試験に加えて、試験用水のみの対照区又は試験原液に溶解補助剤を用いる場合は溶解補助剤のみを含む対照区を設定する。
3―6 照明及び試験温度
照光時間は通常12から16時間とする。照明の種類及び特性を把握しておく。試験における照明条件下では被験物質が光分解する可能性があるので注意する。人工的な光反応生成物の試験魚への暴露を避けるために適切な照明を使用する。場合によっては、290nmより低波長のUV照射を遮蔽する適切なフィルターを使用する。試験温度は試験魚の推奨試験温度とし、その変動は±2℃未満とする。
3―7 試験期間
3―7―1 取込期間
取込期間は、試験魚中の被験物質濃度が取込期間の早い段階で定常状態(試験法解説参照)に達することが確認される場合を除き、28日間とする。試験魚中の被験物質濃度が少なくとも2日間の間隔をおいて採取したサンプルについて、連続した3回の被験物質濃度の分析結果が±20%以内の場合は定常状態に達したと判断する。ただし、試験魚を複数尾まとめて分析する場合には、少なくとも連続した4回の試験魚分析で定常状態を判断する。28日間で定常状態に達しない場合、定常状態に達するまで又は60日間のどちらか短い方まで取込期間を延長し、定常状態におけるBCF(BCFSS、試験法解説参照)を算出する。BCFが100L/kg未満の場合は、試験魚中の被験物質濃度の変動が20%を超えても、28日後には定常状態に達しているとみなしてよい。排泄試験を実施した場合は、速度論によるBCF(BCFK、試験法解説参照)を算出する。28日後に明らかに被験物質の取込が確認されない場合は、試験を終了できる。BCFSSが1000L/kg以上の場合(BCFSSが得られなかった場合においては、個々の試験魚について分析を行った際は取込期間における最後の連続した3回の測定におけるBCFの平均値が1000L/kg以上の場合、試験魚を複数尾まとめて分析を行った際は取込期間における最後の連続した4回の測定におけるBCFの平均値が1000L/kg以上の場合)には、部位別試験を実施する。部位については、頭部、内臓、外皮(鰓及び消化管を含む)及び可食部(頭部、内臓、外皮を除くその他の部位)の4部位に分けて実施し、それぞれの部位における被験物質濃度とBCFを報告する。
3―7―2 排泄期間
BCFSSが1000L/kg以上の場合(BCFSSが得られなかった場合においては、個々の試験魚について分析を行った際は取込期間における最後の連続した3回の測定におけるBCFの平均値が1000L/kg以上の場合、試験魚を複数尾まとめて分析を行った際は取込期間における最後の連続した4回の測定におけるBCFの平均値が1000L/kg以上の場合)、又はBCFKを算出する場合は、排泄期間を設ける。排泄期間は、試験魚中の被験物質濃度が十分に減少(例えば定常状態の95%が消失)するまでの期間とすることが望ましい(試験法解説参照)。試験魚中の被験物質濃度が95%消失するまでの期間が通常の取込期間の2倍以上の場合は、期間を短縮してもよい(例えば、試験魚中の被験物質濃度が定常状態の10%未満に減少するまでの期間とする)。ただし、取込及び排泄が1次速度式による1コンパートメントモデルより複雑なパターンを示す化学物質については、排泄速度定数を求めるために、より長い排泄期間を必要とする。排泄期間を延長する場合は、試験魚の成長が試験結果に影響する可能性を考慮する。
3―8 採取及び分析
3―8―1 分析方法
(1) 分析方法については、化学分析の正確さ、精度及び再現性、さらには試験水及び試験魚からの被験物質の回収が十分であるかを実験的に確認する。また、被験物質が試験用水中で検出されないことを確認する。必要な場合、回収値と対照区のバックグラウンド値によって、試験で得られた試験水及び試験魚における被験物質濃度値を補正する。試験水及び試験魚の採取を行う際は、被験物質の汚染及び損失(例えば、採取装置への吸着)を最小限にする。
(2) 被験物質の分解などを防止するために、採取後、直ちに試験魚と試験水を分析する。速やかに分析できない場合は、サンプルを適当な方法で保存する。被験物質について、適切な保存方法、保存期間及び前処理などに関する情報を試験開始前に得る。
3―8―2 試験水の分析
(1) 被験物質濃度の決定のために、取込期間開始前及び取込期間中に試験水を分析する。また、排泄期間を設定した場合は、排泄期間中にも試験水を分析する。試験水の分析は給餌前に試験魚の分析と同時に行う。ただし、排泄期間開始時の試験水分析において、被験物質が検出されないことが確認できる場合は、その後の排泄期間における試験区及び対照区の試験水の分析を省略してもよい。
(2) 試験水は、例えば試験水槽の中心から不活性チューブなどを通して吸い取り分析する。このとき、通常、試験水の汚れをろ過や遠心分離により取り除かない。これらを分離する場合は、その分離技術の根拠又は妥当性を報告する。特に高疎水性化学物質(すなわちlog Pow>5の化学物質)については、フィルターの材料又は遠心分離の容器への吸着が起こるため、このような処理を行わない。代わりに、可能な限り試験水槽を清浄に保つための処置を行う。また、取込期間及び排泄期間にTOC濃度を測定する。
3―8―3 試験魚の分析
(1) 各試験魚の分析は、1試験区当たり最低4尾とし、個々の試験魚について実施する。ただし、個体ごとの分析が困難な場合には、各分析時における試験魚を複数尾まとめて分析する。その場合は、2群以上とすることが望ましい。
(2) 取込期間中に少なくとも5回、試験魚を分析する。排泄期間を設定した場合には、排泄期間中に少なくとも4回、試験魚を分析する。排泄期間を開始する前に、試験魚を清浄な試験水槽に移す。特に、取込及び排泄が単純な1次速度式に従わないことが予想される場合は、正確なBCFの算出が困難であるため、両期間において、より高頻度の分析が推奨される(試験法解説参照)。動物愛護の観点から最も適した方法で採取した試験魚を安楽死させ、体重及び全長を測定する。それぞれの個体の体重及び全長は、識別コードなどを付して、被験物質濃度(該当する場合は脂質含量も)の結果と整合させる。
(3) 脂質含量は、少なくとも取込期間の開始時及び終了時、排泄期間終了時に測定しなければならない。脂質含量は、被験物質濃度測定と同一の試験魚を用いて測定するが、同一の試験魚を用いた測定が困難な場合は、上記3回の測定時に、少なくとも別途3尾を採取し測定する。対照区の試験魚において被験物質が顕著に検出されないことが明らかな場合、対照区の試験魚は脂質含量のみ測定し、被験物質濃度は測定しなくてもよい。
(4) BCFSSが1000L/kg以上の場合は、被験物質が主に脂質に蓄積しないと考えられる場合を除き、5%の脂質含量で標準化(湿重量に基づく)したBCFSS(BCFSSL)も報告する。
(5) 試験に放射性同位元素を使って標識した化学物質を使用する場合、全標識化物(すなわち親化合物及び代謝物)として測定するか、あるいは、サンプルをクリーンアップして親化合物のみを測定する。親化合物に基づいてBCFを決定する場合は、主な代謝物を少なくとも取込期間の終了時に確認する。
3―8―4 試験魚の成長の測定
試験水槽に搬入する前の試験魚から取込期間開始時に5から10尾採取し、個別に体重及び全長を測定する。これらの試験魚は、取込期間開始前の被験物質濃度及び脂質含量の測定に用いることができる。試験期間中に採取した試験魚の体重及び全長は、被験物質濃度又は脂質含量の測定前に記録する。これらの測定値から、試験区及び対照区の魚体重及び全長を推定する。試験区及び対照区における魚の平均成長率の顕著な差は、化学物質の毒性影響を示唆する。
4 試験結果の算出
4―1 生物濃縮係数の算出
取込期間における試験魚中(又は特定の組織)の被験物質濃度(Cf)を時間に対してプロットし、取込曲線を得る。その曲線が平衡に達した場合、以下の式から定常状態におけるBCF(BCFSS)を算出する。
BCFSS=定常状態における試験魚中の平均被験物質濃度/定常状態における試験水中の平均被験物質濃度
また、速度論による生物濃縮係数(BCFK)を以下の式から算出する。なお、k1及びk2の算出法は試験法解説に示す。
BCFK=取込速度定数(k1)/排泄速度定数(k2)
4―2 成長希釈補正と脂質含量の標準化
(1) 排泄期間中の試験魚の成長は、見かけ上、試験魚中の被験物質濃度を低下させ、排泄速度定数(k2)に大きな影響を与える。そのため、BCFKを求める場合には、BCFKと合わせて成長希釈補正したBCFK(BCFKg)も報告する。成長希釈補正した排泄速度定数(k2g)は、通常、排泄速度定数(k2)から成長速度定数(kg)を差し引くことにより算出する。さらに、取込速度定数(k1)を成長希釈補正した排泄速度定数(k2g)で除することによりBCFKgを算出する。成長希釈補正の方法については、上記以外の方法も含めて試験法解説に示す。
(2) BCFSSが1000L/kg以上の場合は、BCFK又はBCFSSと合わせて5%の脂質含量で標準化したBCFK(BCFKL)又はBCFSS(BCFSSL)も報告する(試験法解説参照)。また、BCFKを報告する場合には、成長希釈補正かつ5%の脂質含量で標準化したBCFK(BCFKgL)も報告する。被験物質濃度及び脂質含量の測定を同一の魚を用いて実施した場合には、それぞれの試験魚中被験物質濃度をその魚の脂質含量を用いて標準化する。試験区及び対照区の試験魚の成長が同程度であれば、対照区の試験魚の脂質含量を用いて標準化してもよい。
5 試験の有効性
試験を有効なものとするために、次の条件を適用する。
・温度変動は±2℃未満であること(試験水温の大きな変動は試験生物へのストレスのほか、取込及び排泄に関する生物学的パラメータに影響する)。
・溶存酸素濃度は飽和酸素濃度の60%以下にならないこと。
・試験水中の被験物質濃度の変動は、取込期間中の測定値の平均に対して±20%以内に保たれること。
(濃縮倍率が極めて高い場合には取込期間中の被験物質濃度の変動が大きくなる場合がある。この場合には、定常状態における被験物質濃度の変動は測定値の平均に対して±20%以内に保たれること。)
・死亡又は病気などの異常は、試験区及び対照区の試験魚において試験終了時に10%未満であること。試験が数週あるいは数か月延長になった場合には、死亡又は異常は、試験区及び対照区で1か月間に5%未満かつ全期間で30%を超えないこと。
6 結果のとりまとめ
試験の結果を様式2―1によりとりまとめ、最終報告書を添付するものとする。
Ⅱ:魚を用いた濃縮度試験(簡易水暴露法)
Ⅱ―Ⅰ 適用範囲
ここでは、魚介類のうち特に水(経鰓)を介した魚類の体内における化学物質の簡易な濃縮度試験の標準となるべき方法について規定する。この方法は、濃度依存性がないと予想される物質かつ取込及び排泄が1次速度式に従うものにのみ適用すべきである。
Ⅱ―Ⅱ 用語
この試験において使用する用語は、日本産業規格(以下「JIS」という。)において使用する用語の例による。
Ⅱ―Ⅲ 試験方法
1 試験の概要
本試験法は、魚類体内への水(経鰓)を介した化学物質の取込及び蓄積を評価する試験である。試験は、Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)に準拠するが、試験魚中の化学物質濃度の測定を4回(取込期間に2回、排泄期間に2回)に削減し、速度論による生物濃縮係数(BCFKm)及び定常状態における生物濃縮係数(minimised BCFSS)を算出する。
2 試験に用いる装置及び材料
Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)と同様とする。
3 試験の実施
Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)と同様とする。ただし、採取スケジュール及び計算方法は次のとおりとする。
3―1 試験水の分析
被験物質濃度の決定のために、取込期間開始前に少なくとも1回と取込期間中に少なくとも5回(そのうち2回は試験魚の分析と同時)、試験水を分析する。さらに、排泄期間中は週1回とする。排泄期間開始時の試験水分析において、被験物質が検出されないことが確認できる場合は、その後の排泄期間における試験区及び対照区の試験水の分析を省略してもよい。
3―2 試験魚の分析
次のとおり試験魚を分析し、試験魚中の被験物質濃度を測定する。
・各試験魚の分析は、1試験区当たり最低4尾とし、個々の試験魚について実施する。ただし、個体ごとの分析が困難な場合には、各分析時における試験魚を複数尾まとめて分析する。その場合は、2群以上とすることが望ましい。
・取込期間の分析は、取込期間の中間及び終了時(終了時は排泄期間開始時に相当する)とする(例えば、取込期間の14及び28日後)。
・排泄期間の分析は、排泄期間の中間及び終了時(被験物質濃度が最高濃度の10%未満となることが望ましいが、少なくとも被験物質の排泄半減期が算出できるまで)とする(例えば、排泄期間の7及び14日後)。排泄が早いと予想される場合、試験魚中の被験物質濃度が定量下限未満とならないようにする。
4 試験結果の算出
取込終了時(t1)の試験魚中の被験物質濃度(Cf1)及び排泄終了時(t2)の試験魚中の被験物質濃度(Cf2)を用いて、式1に従い排泄速度定数(k2)を算出する。
画像4 (12KB)
[式1]
得られた排泄速度定数(k2)、取込期間における試験水中の平均被験物質濃度(Cw)及び取込期間終了時(t1)の試験魚中の被験物質濃度(Cf1)を用いて、式2に従い取込速度定数(k1)を算出する。
画像5 (13KB)
[式2]
さらに、取込速度定数(k1)と排泄速度定数(k2)の比を用いて、式3に従い簡易水暴露法における速度論による生物濃縮係数(BCFKm)を算出する。
BCFKm=k1/k2 [式3]
取込期間中に定常状態に達したと仮定して、試験水中の被験物質濃度(Cw―minSS、mg/L)と取込期間の終了時の試験魚中の被験物質濃度(Cf―minSS、mg/kg湿重量)を用いて、式4に従い簡易水暴露法における定常状態による生物濃縮係数(minimised BCFSS)を算出する。
minimised BCFSS=Cf―minSS/Cw―minSS [式4]
脂質含量の測定、成長希釈補正はⅠ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)と同様とする。
5 試験の有効性
Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)と同様とする。
6 結果のとりまとめ
試験の結果を様式2―1によりとりまとめ、最終報告書を添付するものとする。
Ⅲ:魚を用いた濃縮度試験(餌料投与法)
Ⅲ―Ⅰ 適用範囲
ここでは、魚介類のうち特に餌を介した魚類の体内における化学物質の濃縮性を評価する試験の標準となるべき方法について規定する。本試験は水溶解度が0.01mg/L未満、かつlog Powが5を超える被験物質に適用できることとする。なお、水溶解度は実測値とするが、log Powは(Q)SAR等による推定値でもよい。また、水暴露法において試験水中濃度の維持が困難である物質、あるいは試験魚中の被験物質の定量下限値から算出可能な生物濃縮係数(BCF)が1000L/kg程度を超える物質は、水暴露法の実施が困難であるため餌料投与法を実施してもよいが、試験開始前に当局に相談すること。
なお、構造不明な複雑な反応生成物又は成分が不定の混合物等には、原則として本試験を適用しないこととする。
Ⅲ―Ⅱ 用語
この試験において使用する用語は、日本産業規格(以下「JIS」という。)において使用する用語の例による。
Ⅲ―Ⅲ 試験方法
1 試験の概要
本試験法は、魚類体内への餌を介した化学物質の取込及び排泄を評価する試験である。試験は取込及び排泄の2つの期間からなり、取込期間では化学物質を混合した餌料を試験魚に給餌し、その後、排泄期間において化学物質を含まない餌料を給餌する。試験の両期間を通して、試験餌料及び試験魚中における化学物質濃度を測定し、経口生物濃縮係数(BMF、試験法解説参照)を算出する。BMFとして、速度論による経口生物濃縮係数(BMFK)及び取込期間終了時における経口生物濃縮係数(BMF)のいずれか又は両方を算出する。
2 試験に用いる装置及び材料
2―1 装置及び器具
すべての装置及び器具は、Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)に記載したものと同様のものとする。試験水槽に十分な量の試験用水を供給する流水式又は半止水式システムを使用し、その流量を記録する。
2―2 試験用水
試験用水は、Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)に記載したものと同様のものとする。
2―3 試験魚
2―3―1 魚種の選択
Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)に規定された魚種が使用可能である。試験魚は、推奨されるサイズのもの(試験法解説参照)を使用し、個体ごとの分析が可能なサイズが好ましい。
2―3―2 蓄養及びじゅん化
試験実施前のじゅん化条件、さらにじゅん化中の死亡率及び疾病の許容範囲は、Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)と同様とする。
2―3―3 餌料
餌料とは、被験物質及び媒体(有機溶剤又はオイル)を含まない餌である。少なくとも蛋白質及び脂質含量が既知である市販の魚の餌料(浮遊性又はゆっくり沈降するペレット状あるいはクランブル状の餌料)が推奨される。餌料は、摂餌効率を高めるため、均一な大きさの餌料とし、試験開始時の試験魚に合わせて適当なサイズに調製する。餌料のサイズは、排泄期間開始時に試験魚の成長に合わせて調製してもよい。適切な市販餌料の組成の一例を試験法解説に示す。試験区及び対照区の餌料の脂質含量は、取込期間開始前及び取込期間の終了時に測定する。餌料の栄養素、水分、繊維及び灰分などの情報を試験報告書に記載する。
3 試験の実施
3―1 試験餌料
(1) 試験餌料とは、餌料に被験物質及び媒体を添加したものである。被験物質の物理化学的性状及び溶解度に基づき、下記の方法を参考に餌料に添加する(試験法解説参照)。被験物質を餌料に添加する場合は、試験餌料中の均一性を確保する。餌料への添加方法及び手順は試験報告書に記載する。
・被験物質がトリグリセリド類に可溶でかつ安定である場合、餌料と混合する前に被験物質を少量のオイル(魚油又は食用植物油)に溶解する。この場合、餌料の本来の脂質含量を考慮し、オイル量は最小限とする。
・適当な有機溶剤(ヘキサン、アセトン及びテトラヒドロフラン等の揮発性を有する溶剤)に溶解して餌料と混合した後、添加した溶媒を留去することにより、試験餌料中の被験物質の分散及び均一性を確保する(有機溶剤の留去により被験物質の結晶化が生じ、被験物質の生物学的利用能が低下する可能性がある)。また、有機溶剤の添加により餌料中の成分(例えば、脂質又は蛋白質)が抽出され、餌料中の成分の均一性に影響を与える可能性があるため、有機溶剤の添加量は最小限とする。
・非粘ちょう性の液体の被験物質は直接餌料に添加し、均一性及び良好な同化を促すために良く混合する。
(2) 取込期間中及び排泄期間中に、栄養的に等価な餌料、又は試験餌料を試験区及び対照区に給餌する。被験物質の添加媒体としてオイル又は有機溶剤を使用した場合は、対照区の試験餌料についても試験区と等量の媒体(被験物質を含まない)を添加する。被験物質を添加した試験餌料は、試験餌料中の被験物質が安定に維持される条件下で保管し、その方法を報告する。
3―2 給餌
(1) じゅん化期間中及び排泄期間中は餌料を、取込期間中は試験餌料(ただし、対照区には、被験物質を添加していない試験餌料)を、一定の給餌量(例えば、コイの場合は魚体重の1―2%程度(湿重量))で給餌する。流水式の条件下で試験を実施する場合は、魚が摂餌している間は流水を一時停止する。給餌量は、試験魚の急速な成長及び脂質含量の大幅な増加を回避するように設定する。試験中に設定した実際の給餌量は記録する。試験開始時の給餌は、試験開始前のじゅん化した魚群の測定体重に基づき設定する。給餌量は、試験中の成長を考慮して、各採取時の試験魚体重(湿重量)に基づいて調整する。試験区及び対照区水槽における魚の体重及び体長は各採取時に採取した魚から推定する(試験区及び対照区水槽に残った魚の体重及び体長を測定してはならない)。試験期間を通して一定の給餌量を維持することが重要である。
(2) 試験魚が餌料及び試験餌料をすべて摂餌していることを確認する。給餌量は、試験魚が1日1回の給餌において餌料及び試験餌料をすべて摂餌するように設定する。餌料及び試験餌料が一貫して摂餌されずに残る場合、投与を分割してもよい。例えば、1日1回を1日2回に分ける場合、2回目の給餌は一定間隔で行い、試験魚の採取までに可能な限り時間を空けるようにする。
(3) 被験物質が試験餌料から水中に分散し、試験魚が水中の被験物質に暴露されることを回避するために、給餌後1時間以内、好ましくは30分以内に試験区及び対照区の水槽から残餌及び糞便をすべて除去する。溶解した物質をすべて吸着させるために、活性炭フィルターで水を連続的に清浄するシステムを使用できる。流水式システムは、餌料粒子及び溶解した物質を速やかに除去するのに有用である(2)。
――――――――――
(2) 試験魚からの排泄又は餌料からの溶出の結果、試験水中に被験物質が存在することを完全には回避できない可能性がある。したがって、取込期間の終了時に水中の被験物質濃度を測定することは、一つの対策であり、特に半止水式を用いる場合、水暴露が生じているか確認するのに有用である。
3―3 水質測定の頻度
Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)と同様とする。ただし、TOC濃度は試験用水の特性把握の一部として試験開始前のみに測定すればよい。
3―4 流量
適当な溶存酸素濃度を維持し、試験動物へのストレスを軽減するため、試験魚尾数に応じて、試験用水の流量を調整する。通常、流量は魚体重(湿重量)の1.0gあたり1―10L/日が推奨される。
3―5 試験魚の条件
試験開始時の魚体重の最小値は最大値の2/3以上であること。同じ年齢で同じ供給源の魚を用いる。
試験魚数は採取回数及びそのときの尾数を考慮して決定する。試験魚の尾数を含む採取スケジュールの一例を試験法解説に示す。
3―6 試験餌料濃度
試験は、原則1濃度区で実施する。同時に、被験物質を添加していない餌料を給餌する対照区を設定する。試験濃度の設定は、分析感度(排泄期間中の魚体中被験物質濃度が取込期間終了時の魚体中被験物質濃度の10%未満まで測定できる)、被験物質の毒性(既知なら最大無影響濃度(NOEC))及び忌避行動を考慮して選択する。これまでの知見から、1―1000μg/gの範囲の被験物質濃度は、特定の毒性メカニズムを示さない化学物質について実用的な範囲となる。試験魚が試験餌料を適切に摂餌していること及び試験結果が妥当であることを確認するため、当面、試験区及び対照区の試験餌料にBCF及びBMFが既知である基準物質(3)を添加し、被験物質と同様の方法でBMFを算出することを推奨する。
――――――――――
(3) 基準物質の例を試験法解説に示す。これらの例に加え、今後、知見が蓄積され適切な物質が明らかになった場合、それらも基準物質として使用してもよい。
3―7 照明及び試験温度
Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)と同様とする。
3―8 試験期間
3―8―1 取込期間
取込期間は通常7―14日間とする。実験開始は、試験餌料を最初に給餌した時点とする。実験日のカウントは、給餌した時点から次の給餌の直前まで(例えば、1時間前)を1日とする。取込期間は被験物質及び媒体を添加していない餌料を最初に給餌する直前(例えば1時間前)までとする。排泄期間中に少なくとも10%までの魚体中被験物質濃度の低下を測定できるように、分析感度を考慮して、魚体中被験物質濃度が十分に高いことを確認する。また、試験魚中における被験物質の蓄積挙動を確認するために、取込期間を延長し(最長28日間)、追加の分析を実施してもよい。
3―8―2 排泄期間
(1) 原則、排泄期間は28日間とし、試験魚からの被験物質の排泄の程度をさらに確認する必要がある場合には、期間を延長する。排泄期間の開始は試験魚に被験物質及び媒体を添加していない餌料を給餌した時点とする。排泄初期(例えば7日後又は14日後)における試験魚中の被験物質濃度が定量下限未満の場合、以降の分析を中止し、試験を終了してもよい。排泄期間終了時に半減期が得られない場合にも、実施した排泄試験の結果から経口生物濃縮係数(BMF)を算出する。
(2) 取込期間を10日間以上実施した試験において、取込期間終了時におけるBMFが0.007未満であって、次の①及び②を満たす場合は試験を終了できる。
①試験の有効性の条件を満たす。
②取込の欠如が試験設計の問題(例えば、試験餌料調製上の不具合による生物学的利用能の低下、分析感度の欠如、魚が試験餌料を食べない等)によるものでない。
3―9 分析
分析においては、Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)に記載された事項に準拠する。
3―9―1 試験餌料の分析
試験区及び対照区の試験餌料については、少なくとも取込期間開始前及び終了時に、それぞれ被験物質濃度及び脂質含量を3点以上測定する。
放射性同位元素を使って標識した材料を試験する場合は、Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)に準拠して試験餌料を分析する。
3―9―2 試験魚の分析
(1) 試験魚の分析は、試験区及び対照区から5―10尾を採取し、個々の試験魚について実施する。ただし、個体ごとの分析が困難な場合には、各分析時における試験魚を複数尾まとめて分析する。その場合は、2群以上とすることが望ましい。試験魚の採取は、同一時間(給餌時間を目安にする)に実施する。試験魚の消化管内に試験餌料が残っていると試験魚の被験物質濃度の測定に影響を与えるため、次回の給餌直前(例えば1時間前)に採取する。残餌が疑われる場合は、消化管を除去し、別々に分析することが望ましい。消化管内の残餌の有無については、予備検討において確認してもよい。
(2) 試験区及び対照区において、取込期間の終了時及び排泄期間中に4回から6回(例えば1、3、7、14及び28日)、試験魚を分析する。また、詳細な組織ごとの濃縮性の確認が必要な場合、部位別試験を実施する。部位については、頭部、内臓、外皮(鰓を含む)、消化管及び可食部(頭部、内臓、外皮及び消化管を除くその他の部位)の5部位に分けて実施し、それぞれの部位における被験物質濃度とBMFを報告する。対照区の試験魚については被験物質濃度が排泄期間開始時に不検出の場合、排泄期間終了時に2―3尾の対照区の魚について分析を行えば十分である。すべての分析時において、採取した試験魚を動物愛護の観点から最も適した方法で安楽死させた後、体重及び全長を個別に測定する(試験区及び対照区から同数の試験魚が採取されるようにする)。それぞれの個体の体重及び全長は、識別コードなどを付して、被験物質濃度(及び該当する場合は脂質含量)の結果と整合させる。
(3) 放射性同位元素を使って標識した材料を試験する場合は、Ⅰ:魚を用いた濃縮度試験(水暴露法)の試験水分析を試験餌料分析に置き替えて、3―5―2試験濃度の設定(1)に記載された事項に準拠する。
(4) 試験区及び対照区における試験魚の脂質含量は、各採取時に測定することが好ましいが、少なくとも取込期間開始時及び終了時並びに排泄期間終了時に測定する。取込期間開始時の脂質含量は3―9―3試験魚の成長の測定において採取した試験魚を用いてもよい。脂質含量は、被験物質濃度測定に用いた試験魚と同一の魚について測定する。測定できない場合、別途採取した試験魚について測定する。対照区の試験魚において被験物質が顕著に検出されないことが明らかな場合、対照区の試験魚は脂質含量のみ測定し、被験物質濃度は測定しなくてもよい。脂質含量の定量化の方法は、試験報告書に記載する。
3―9―3 試験魚体重の測定
成長速度定数(kg)を算出するために、3―9―2試験魚の分析において採取した試験魚の体重(湿重量)を測定する。実験開始時の魚体重として、試験餌料を初めて給餌する直前に、少なくとも試験期間中の試験魚分析時と同数(5―10尾)の試験魚を採取し、魚体重を測定する。
4 試験結果の算出
4―1 経口生物濃縮係数の算出
排泄期間中の試験魚中被験物質濃度(Cf)の自然対数と排泄期間との関係を最小二乗法により計算し、その直線の傾きを排泄速度定数(k2)、切片を排泄期間開始時における試験魚中の被験物質濃度(mg/kg、外挿値C0,d)とする。これらの値、給餌量(I)、取込期間の長さ(t)及び試験餌料中の被験物質濃度(Cfood)を用いて、式5に従い生体内吸収効率(α)を算出する。
画像6 (13KB)
[式5]
さらに、給餌量(I)、生体内吸収効率(α)及び排泄速度定数(k2)を用いて、式6に従いBMFKを算出する。
画像7 (12KB)
[式6]
また、取込期間終了時におけるBMFを以下の式から算出する。定常に達したと推定される場合は以下の式からBMFSSを算出できる。
BMF=取込期間終了時における試験魚中の平均被験物質濃度/試験餌料中の平均被験物質濃度
4―2 成長希釈及び脂質含量補正
(1) 排泄期間中の試験魚の成長は、試験魚中の被験物質濃度を低下させ、排泄速度定数(k2)に大きな影響を与える。そのため、BMFKを算出する場合には、合わせて成長希釈補正したBMFK(BMFKg)も報告する。成長希釈補正した排泄速度定数(k2g)は、通常、排泄速度定数(k2)から成長速度定数(kg)を差し引くことにより算出する。さらに、式6において成長希釈補正した排泄速度定数(k2g)用いて、成長希釈補正したBMFK(BMFKg)を算出する。成長希釈補正の方法については、上記以外の方法も含めて試験法解説6.6に示す。
(2) BMFは、被験物質がほとんど脂質に蓄積されないことが明確な場合を除き、試験魚及び試験餌料の脂質含量を用いて補正する(4)。採取したすべての試験魚に関して脂質含量の測定を実施していない場合、平均脂質含量(w/w)を算出する。試験魚の平均脂質含量を試験餌料の平均脂質含量で割り脂質含量補正係数(Lc)を算出する。取込期間終了時におけるBMF、BMFK及びBMFKgを脂質含量補正係数で割り、脂質含量補正した取込期間終了時におけるBMF(BMFL)、BMFK(BMFKL)及びBMFKg(BMFKgL)を算出する。
(3) 各採取時において被験物質及び脂質含量の測定を同一の試験魚で実施した場合、脂質含量補正した被験物質濃度データを時間軸に対してプロットし、脂質含量補正したC0,d及びk2を得る。生体内吸収効率(α)は、脂質含量補正した給餌量(Ilipid)及び脂質含量補正した試験餌料中の被験物質濃度(Cfood―lipid)を用いて算出する(試験法解説参照)。これらの値を用いてBMFKgLを算出する(脂質含量及び成長希釈補正したBMFの算出には、試験魚の湿重量ではなく脂質含量当たりの成長速度定数を用いて補正する)。
――――――――――
(4) この手法は水暴露法とは手順が異なり餌料投与法に限定される。したがって、誤解防止のために「標準化」ではなく「補正」が使われている。
5 試験の有効性
試験を有効なものとするために、次の条件を適用する。
・温度変動は±2℃未満であること。
・溶存酸素濃度は飽和酸素濃度の60%以下にならないこと。
・試験区の試験餌料中における被験物質濃度(少なくとも各3点測定)について、取込期間の開始前の平均値と終了時の平均値との変動が±20%以内であること。
・試験区の試験餌料中における被験物質濃度(少なくとも各3点測定)について、取込期間の開始前の試料間の変動が平均値の±15%以内であること。
・対照区の試験餌料又は試験魚中の被験物質濃度は、試験区と比較して検出されない又は定量下限未満であること。
・死亡又は病気などの異常は、試験区及び対照区の試験魚において試験終了時に10%未満であること。試験が数週あるいは数か月延長になった場合には、死亡又は異常が、試験区及び対照区で1か月間に5%未満かつ全期間で30%を超えないこと。
6 結果のとりまとめ
試験の結果を様式2―2によりとりまとめ、最終報告書を添付するものとする。
試験法解説
1.定義及び単位
取込期間とは、魚が化学物質に暴露される期間である。
排泄期間とは、魚体内に取り込まれた化学物質が、排泄あるいは代謝により減少する過程(半減期)を調べるための期間である。
取込速度定数(k1)とは、取込期間中の、試験魚の生体内及び表面(又は特定の組織)における被験物質濃度の増加率として定義される数値である(k1はL/kg/dayで表される)
排泄速度定数;depuration rate constant(k2)とは、排泄期間における試験魚(又は特定の組織)の被験物質濃度の低下率として定義される数値である(k2はday-1で表される)。
定常状態とは、取込期間に少なくとも2日間の間隔をおいて採取した試験魚の被験物質濃度(Cf)のうち、連続した3回のCfの分析結果が±20%以内であり、かつ1回目と3回目の分析においてCfに顕著な増加がない状態をいう。試験魚を複数尾まとめて分析する場合には、連続した4回以上のCfの分析結果が±20%以内である必要がある。取込が遅い化学物質については、7日間の間隔で採取することがより適当である。
生物濃縮係数(BCF;bioconcentration factor)とは、濃縮度試験の取込期間中の各時間における試験魚の生体内及び表面又は特定の組織における被験物質濃度(Cf、mg/kg湿重量)を周囲の水中の被験物質濃度(Cw、mg/L)で除したものである(BCFはL/kgで表される)。
定常状態における生物濃縮係数(BCFSS;steady‐state bioconcentration factor)とは、定常状態における試験魚中被験物質濃度(Cf、mg/kg湿重量)を定常状態における試験水中被験物質濃度(Cw、mg/L)で除したものである。
脂質含量標準化した定常状態におけるBCF(BCFSSL;lipid normalised steady‐state bioconcentration factor)とは、5%の脂質含量で標準化したBCFSSである。
速度論による生物濃縮係数(BCFK;kinetic bioconcentration factor)とは、取込速度定数k1と排泄速度定数k2の比(k1/k2)である。本来、試験魚への化学物質の取込及び排泄が一次速度式に従う場合、この値は理論的にBCFSSと等しくなる。しかし、試験魚中の化学物質濃度が定常状態に達していない場合、あるいはBCFKについて成長希釈補正を行った場合は、BCFSSと乖離が生じる可能性がある。
成長希釈補正した速度論によるBCF(BCFKg;growth corrected kinetic bioconcentration factor)とは、試験期間中の試験魚の成長希釈補正したBCFKである。
脂質含量標準化した速度論によるBCF(BCFKL;lipid normalised kinetic bioconcentration factor)とは、5%の脂質含量で標準化したBCFKである。
脂質含量標準化及び成長希釈補正した速度論によるBCF(BCFKgL;lipid normalised, growth corrected kinetic bioconcentration factor)とは、5%の脂質含量で標準化し、かつ試験期間中の試験魚の成長希釈補正したBCFKである。
オクタノール―水分配係数(Pow;octanol‐water partition coefficient)とは、平衡状態での1―オクタノール及び水に対する化学物質の溶解度の比(OECDテストガイドライン107、117、123)である。Kowと表記されることも多い。
溶存有機炭素(DOC;dissolved organic carbon)とは、試験水中に溶解している有機物質に由来する炭素である。
粒子状有機炭素(POC;particulate organic carbon)とは、試験水中に懸濁している有機物質に由来する炭素である。
全有機炭素(TOC;total organic carbon)とは、試験水中に溶解及び懸濁している有機物質に由来する炭素である。
UVCB物質(chemical substances of Unknown or Variable composition, Complex reaction products and Biological materials)とは、組成が未知か又は不定な構成要素を持つ物質、複雑な反応生成物又は生体物質である。
経口生物濃縮係数(BMF;biomagnification factor)とは、捕食動物の餌(又は食物)中の化学物質濃度に対する捕食動物中の化学物質の濃度の比である。本試験方法で得られるBMFは、餌を介した化学物質の濃縮であり、OECDテストガイドライン305では、環境中で得られるBMF(水及び餌を介した化学物質の濃縮)と区別するため、dietary BMFと定義している。
取込期間終了時における経口生物濃縮係数(BMF)とは、取込期間終了時における試験魚中の化学物質濃度(Cfish、mg/kg湿重量)を試験餌料中の化学物質濃度(Cfood、mg/kg)で除したものである。なお、OECDテストガイドライン305では、取込期間において定常状態に達したと推定されたBMFを、定常状態における経口生物濃縮係数(BMFSS;indicative steady‐state BMF)と定義している。
速度論による経口生物濃縮係数(BMFK;kinetic biomagnification factor)とは、生体内吸収効率(α)と給餌量(I)の積と排泄速度定数(k2)の比(I×α/k2)である。
生体内吸収効率(α)とは、消化管から生体内に吸収された化学物質の相対量の測定値である(αは無次元であるが、比ではなくパーセントで表されることが多い)。
給餌量(I)とは、推定される平均の全試験魚体重に対して、各試験魚が1日に摂取した試験餌料の量(g food/g fish/day)である。
成長希釈補正した速度論による経口生物濃縮係数(BMFKg;growth corrected kinetic biomagnification factor)とは、試験期間中の試験魚の成長希釈を補正したBMFKである。
脂質含量補正した速度論による経口生物濃縮係数(BMFKL;lipid corrected kinetic biomagnification factor)とは、脂質含量補正係数(Lc)で除したBMFKである。
脂質含量補正係数(Lc)とは、試験魚の平均脂質含量を試験餌料の平均脂質含量で除したものである。
脂質含量及び成長希釈補正した速度論による経口生物濃縮係数(BMFKgL;lipid‐corrected growth‐corrected kinetic BMF)とは、脂質補正係数(Lc)で除したBMFKgである。
2.被験物質の水溶解度
被験物質の水溶解度は、OECDテストガイドライン105等の標準的な試験法を参考に実施した結果を入手する。濃縮度試験の報告書には測定結果、測定方法及び測定温度を記載する。なお、入手すべき被験物質の水溶解度の上限濃度は100mg/Lとする。
3.測定することが望ましい試験用水の水質項目(試験法「2―2 試験用水」)
試験用水における各測定項目の上限濃度についてはOECDテストガイドラインなどを参照するが、その濃度が実現困難な場合は、使用する試験用水で供試魚が飼育可能なことをあらかじめ確認すること。
物質 |
pH |
硬度 |
全粒子状物質 全有機炭素 アンモニウム 亜硝酸 アルカリ度 非イオン性アンモニア 残留塩素 全有機リン系殺虫剤 全有機塩素系殺虫剤及びポリ塩化ビフェニル 全有機塩素 アルミニウム ヒ素 クロム コバルト 銅 鉄 鉛 ニッケル 亜鉛 カドミウム 水銀 銀 カルシウム マグネシウム ナトリウム カリウム 塩化物イオン 硫酸イオン |
4.試験魚
4.1 試験に使用可能な魚種(試験法「2―3―1 魚種の選択」)
試験に使用可能な魚種、推奨する試験温度及び全長[頭部の先端(吻端)から尾の先端(尾端)までの長さ]は以下のとおりである。なお、コイ又はメダカが推奨されるが、その他の魚種を使用する場合は、魚種の選択根拠を報告する。
魚種 |
試験温度の推奨範囲 (℃) |
試験生物の推奨全長 (cm) |
コイ(Common carp) Cyprinus carpio (コイ科) |
20―25 |
8.0±4.0 |
メダカ(Ricefish) Oryzias latipes (メダカ科) |
20―25 |
4.0±1.0 |
ゼブラフィッシュ(Zebra‐fish) Danio rerio (コイ科) |
20―25 |
3.0±0.5 |
ファットヘッドミノー(Fathead minnow) Pimephales promelas (コイ科) |
20―25 |
5.0±2.0 |
グッピー(Guppy) Poecilia reticulata (カダヤシ科) |
20―25 |
3.0±1.0 |
ブルーギル(Bluegill) Lepomis macrochirus (サンフィッシュ科) |
20―25 |
5.0±2.0 |
ニジマス(Rainbow trout) Oncorhynchus mykiss (サケ科) |
13―17 |
8.0±4.0 |
イトヨ(Three‐spined stickleback) Gasterosteus aculeatus (トゲウオ科) |
18―20 |
3.0±1.0 |