○医薬品の残留溶媒ガイドラインの改正について
(平成23年2月21日)
(薬食審査発0221第1号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
新医薬品の製造又は輸入の承認申請に際して検討される医薬品中の残留溶媒の規格及び試験方法上の取扱いに関しては、平成10年3月30日付医薬審第307号医薬安全局審査管理課長通知「医薬品の残留溶媒ガイドラインについて」により定められているところですが、今般、日米EU医薬品規制調和国際会議(以下、「ICH」という。)において、クメンのPermitted Daily Exposure(PDE値)について別紙のとおり合意されたことから、「医薬品の残留溶媒ガイドラインについて」の一部を下記のとおり改め、平成24年4月1日以降に申請される新医薬品に対し適用することとするので、ご了知の上、貴管下関係業者に対し周知徹底方ご配慮お願いいたします。
なお、本通知の写しを日本製薬団体連合会会長ほか、関連団体の長あてに発出していることを申し添えます。
記
上記通知「医薬品の残留溶媒ガイドラインについて」の別紙「医薬品の残留溶媒ガイドライン」について以下のように改める。
(1) 表2.「|クロロホルム|0.6|60|」の次に「|クメン|0.7|70|」を加える。
(2) 表3.「クメン」を削る。
以上
[別紙]
医薬品の残留溶媒ガイドライン
クメン(Cumene)のPDE値について
はじめに
クメン[同義語:クモール;イソプロピルベンゼン;イソプロピルベンゾール;(1―メチル/エチル)ベンゼン;2―フェニルプロパン]はICH Q3Cガイドラインでクラス3、すなわち毒性の低い溶媒に分類されている。1996年11月にICH Q3Cガイドラインがステップ2で合意された時に、クメンのPermitted Daily Exposure(PDE)値の設定のためにQ3C専門家作業部会(EWG)が用いた毒性データの要約が、Connellyらにより公表されている。(1)
Q3C EWGからの報告によると、評価できるクメンの発がん性試験データは入手できなかった。遺伝毒性データに関しては、Ames試験、酵母(Saccaromyces cerevisiae)で陰性、in vitro UDS試験、マウス胚細胞を用いた細胞形質転換試験で陽性であった。PDE値は1956年に公表されたラットの毒性試験に基づいて算出された。ラット(Wistar系)の雌にクメン154、462、769mg/kgが週5日、6ヶ月間経口投与された。病理組織学的変化は認められなかったものの、462mg/kg群以上の2つの高用量群での軽微な腎重量増加が認められ、NOELは154mg/kgと判断された。以上の結果から、クメンのPDE値は55.0mg/dayであり、クラス3に分類される毒性の低い溶媒であると結論づけられた。(1)
一方、新しい毒性データとして、クメンがげっ歯類に発がん性があることを示す米国国家毒性計画(NTP)による2年間の吸入投与毒性試験の結果などが公表されてきた。(2)その結果、1999年に改定に関する合意が得られ、クメンのPDE値の再評価が開始された。この文書に記載された改訂PDE値の算出には、Connelly et al.,1997(1)で詳述されているような標準的アプローチ(修正要因、ppmからmg/Lへの濃度変換、生理的要因のための値)が用いられた。
遺伝毒性
クメンは細菌を用いる復帰突然変異試験で肝S9活性化酵素存在下、非存在下ともに、ネズミチフス菌(S.typhimurium)株TA97,TA98,TA100,TA1535に変異原性を示さなかった。クメンは腹腔投与された雄ラットの骨髄細胞に小核を持つ多染性赤血球を少量であるが有意に増加させた。対照的に、マウスにクメン(雄:最高1000ppm、雌:最高500ppm)を3ヶ月間吸入投与した際の末梢血には小核をもつ赤血球の増加は認められなかった。(2)
曝露されたマウスの肺腫瘍において、p53及びK-rasの突然変異がチャンバー対照群のそれぞれ0%、14%に比較して、52%及び87%認められた。腫瘍で特定された突然変異のこのパターンは、DNA損傷と遺伝子の不安定性がマウスの肺がんに一部寄与している可能性があることを示唆している。(3)
しかし、全体的な遺伝毒性プロファイルは、クメン又はその代謝物が腫瘍発生の主な原因として直接的な変異原性の作用機序をもつことの十分な根拠にはならない。(2)
がん原性
F344ラットに250、500、及び1000ppmのクメンを1日6時間、週5日の条件で2年間吸入曝露した。全投与群の雄で鼻の呼吸上皮腺腫と腎尿細管腺腫または腺癌(混合)の発生率増加が認められ、全投与群の雌で鼻の呼吸上皮腺腫の発生率増加が認められた。(2)
クメンの分子量:120.19
LOEL:250ppm(がん原性のNOELは得られなかった。)
F1=ラットからヒトへの外挿を行う係数5
F2=個人間のばらつきを考慮した係数10
F3=長期の試験期間(105週間)により1
F4=発がん性が報告されたため10
F5=NOELが得られていないため10
B6C3F1マウスに125、250、及び500ppm(雌)、250、500、及び1000ppm(雄)のクメンを1日6時間、週5日の条件で2年間吸入曝露した。全投与群の雌雄で肺胞/細気管支の腫瘍の発生率の増加が、雌で肝細胞腺腫またはがん(混合)の発生率の用量依存的な増加が認められた。(2)
LOEL:125ppm(雌マウス)
F1=マウスからヒトへの外挿を行う係数12
F2=個人間のばらつきを考慮した係数10
F3=長期の試験期間(105週間)により1
F4=発がん性が報告されたため10
F5=NOELが得られていないため10
結論
げっ歯類を用いた試験における主ながん原性作用は、吸入という投与経路に関連したもの(呼吸及び嗅組織)である可能性があり、それゆえに(主に)経口投与される薬剤の残留溶媒には関連しないかもしれない。しかしながら、全身性の発がん性作用(雄ラットの腎臓、雌マウスの肝臓)も報告されており、NTPが行った試験のデータをPDE値の算出に用いることは適切と考えられる。
クメンの従来のPDE値は50mg/日を超えており(55mg/日)、この溶媒はクラス3に分類されていた。がん原性試験に基づき新たに算出されたクメンのPDE値は0.7mg/日である。したがって、クメンをICH Q3Cガイドライン「医薬品の残留溶媒ガイドライン」中の表2のクラス2に分類することが推奨される。
参考文献
1.Connelly JC,Hasegawa R,McArdle JV,Tucker ML.ICH Guideline Residual Solvents.Pharmeuropa(Suppl)1997;9:57.
2.Toxicology and Carcinogenesis Studies of Cumene(CAS No.98―82―8)in F344/N Rats and B6C3F1 Mice(Inhalation Studies).Natl Toxicol Program Tech Rep Ser 2009;542;NIH 09―5885.
3.Hong HHL,Ton TVT,Kim Y,Wakamatsu N,Clayton NP,Chan PC et al.Genetic Alterations in K-ras and p53 Cancer Genes in Lung Neoplasms from B6C3F1 Mice Exposed to Cumene.Toxicol Pathol 2008;36:720―726.