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○食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインの一部改正について

(平成22年12月24日)

(食安発1224第1号)

(各都道府県知事・各保健所設置市長・各特別区長あて厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知)

食品中に残留する農薬、飼料添加物及び動物用医薬品(以下「農薬等」という。)に関する試験法については、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号。以下「告示」という。)及び「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法について」(平成17年1月24日付け食安発第0124001号。以下「通知」という。)により定めているところである。

これに関連して、通知で試験法を定めている農薬等について、通知で定める試験法(以下「通知試験法」という。)以外の方法によって試験を実施しようとする場合については、「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインについて」(平成19年11月15日付け食安発第1115001号。以下「妥当性評価ガイドライン」という。)を策定し、当職より通知しているところである。

妥当性評価ガイドラインは、食品衛生法に定められている規格基準への適合性について判断を行う試験(規格基準への不適合判定のために用いられる試験法(告示及び通知で示されている試験法以外の方法を含む。)であって、妥当性が未評価の方法)に適用するものである。

この程、告示の一部が、平成22年12月13日厚生労働省告示第417号により改正され、告示で定める試験法(以下「告示試験法」という。)についても、同等以上の性能を有すると認められる試験法による試験を可能としたことに伴い、妥当性評価ガイドラインを別添のとおり改正することとしたので、下記事項に留意の上、その運用につき、遺憾のないよう取り計らわれたい。

また、当該改正の概要等につき、関係者への周知方よろしくお願いする。

第1 改正の概要

1.妥当性評価ガイドラインの対象に告示の食品一般の成分規格5、6及び7の目に掲げられている試験法を加え、「不検出」とされる農薬等については、「食品衛生法等の一部を改正する法律による改正後の食品衛生法第11条第3項の施行に伴う関係法令の整備について」(平成17年11月29日付け食安発第1129001号食品安全部長通知。以下「施行通知」という。)に示された当該農薬等の検出限界を妥当性評価ガイドラインに示す定量限界とする運用をもって、試験法の妥当性の確認を行うこととしたこと。

2.通知試験法及び告示試験法に従って試験を行う場合について、食品の多様性等にも配慮の上、当該試験法の妥当性を確認することとし、また、各試験機関において既に妥当性を確認した試験法を変更しようとする場合についても、その変更の内容に応じて、確認を行う妥当性評価項目の範囲を定めたこと。

3.添加試料の作成等に当たり、添加を行う食品の種類及び添加濃度に関する留意事項を修正及び追加したこと。

第2 適用期日

平成22年12月13日から適用する。

第3 その他

1.各試験機関にあっては、遅くとも、平成25年12月13日までに試験法の評価方法に関する業務管理規程等の事業所内文書を整備した上で試験法の妥当性評価を行い、試験を実施すること。

2.各試験機関において妥当性の確認を行った試験法にあっては、試験の方法を記載すること。

(別添)

食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン

1 趣旨

本ガイドラインは、食品中に残留する農薬、飼料添加物及び動物用医薬品(以下「農薬等」という。)の濃度が、食品の規格に適合していることの判定を目的として試験を実施する場合に、各試験機関が使用する試験法の妥当性を評価するための手順を示すものである。

なお、本ガイドラインは、機器分析による試験法を対象とする。

注:ここに示す手順は、試験法の妥当性を評価する標準的方法の一例であり、国際的に認められた他の手順を使用することもできる。本ガイドラインの内容は、ISO 5724―1994及びJIS Z 8402―1999に準拠するものでもあり、食品中に残留する農薬等に関する試験法として示したものである。

2 本ガイドラインの対象

食品規格への適合判定のために使用される試験法(農薬等の残留基準告示注1及び試験法通知注2で示している試験法並びにそれ以外の方法)であって、妥当性が未評価の方法を対象とする。

注1 食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)第1 食品の部 A 食品一般の成分規格の項 5,6及び7の目

注2 「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法について」(平成17年1月24日付け食安発第0124001号)

3 用語の定義

(1) 「選択性」とは、試料中に存在すると考えられる物質の存在下で、試験対象化合物を正確に試験する能力をいう。

(2) 「真度」とは、十分多数の試験結果から得た平均値と承認された標準値(添加濃度等)との一致の程度をいう。

(3) 「精度」とは、指定された条件下で得られた独立した試験結果間の一致の程度をいう。

(4) 「併行精度」とは、併行条件(同一と見なされる試料に対し、同一の試験法を用いて、同一の試験室で、同一の実施者が、同一の装置を用いて、短時間のうちに独立な試験結果を得る条件)下の精度をいう。

(5) 「室内精度」とは、室内条件(同一と見なされる試料に対し、同一の試験法を用い、同一の試験室で、独立した試験結果を得る条件)下の精度をいう。

(6) 「定量限界」とは、適切な精確さをもって定量できる試験対象化合物の最低量又は濃度をいう。本ガイドラインでは、原則として試験法通知に示された定量限界を用いているが、農薬等の残留基準告示において「不検出」とされる農薬等の場合は、「食品衛生法等の一部を改正する法律による改正後の食品衛生法第11条第3項の施行に伴う関係法令の整備について」(平成17年11月29日付け食安発1129001号食品安全部長通知。以下、「施行通知」という。)に示された検出限界(以下、本ガイドラインにおいて、「定量限界」と同義として取り扱う。)を用いる。

(7) 「枝分かれ実験計画」とは、ある因子の全ての水準が、他の全ての因子の一つの水準だけに現れる実験の計画をいう。

4 妥当性評価の方法

食品毎に、妥当性を評価する試験法の試験対象である農薬等を含まない試料(ブランク試料)に試験対象の農薬等を添加した試料(添加試料)を、試験法に従って試験し、その結果から以下の性能パラメータを求め、それぞれの目標値等に適合していることを確認する。

添加試料への農薬等の添加濃度は、原則として、対象食品中の対象農薬等の基準値とする。農薬等の残留基準告示において「不検出」とされる場合は、施行通知に示された検出限界(本ガイドラインにおける定量限界)とする。

一斉試験法の場合のように、試験対象である農薬等の基準値が異なるために基準値濃度の添加が困難な場合にあっては、「各農薬等の基準値に近い一定の濃度」及び「一律基準濃度」の2濃度としてもよい(表1参照)。

表1 基準値と添加濃度

基準値

添加濃度

不検出

定量限界

不検出以外

基準値

ただし一斉試験法の場合は「各農薬等の基準値に近い一定の濃度」及び一律基準の2濃度とすることもできる。

(1) 選択性

ブランク試料を試験法に従って試験し、定量を妨害するピーク(妨害ピーク)がないことを確認する。

妨害ピークを認める場合は、妨害ピークの面積(又は高さ)を基準値あるいは定量限界に対応する濃度の標準液から得られるピークの面積(又は高さ)と比較し、以下の条件①から③について満足していることを確認する(表2参照)。

① 定量限界が基準値の1/3以下の場合は、基準値に相当するピークの面積(又は高さ)の1/10未満

② 定量限界が基準値の1/3を超える場合は、定量限界に相当するピークの面積(又は高さ)の1/3未満

③ 農薬等の残留基準告示において「不検出」とされる場合は、施行通知に示された検出限界(本ガイドラインにおける定量限界)に相当するピークの面積(又は高さ)の1/3未満

表2 妨害ピークの許容範囲

定量限界と基準値の関係

妨害ピークの許容範囲

定量限界≦基準値1/3

<基準値濃度に相当するピークの1/10

定量限界>基準値1/3

<定量限界濃度に相当するピークの1/3

不検出

<定量限界濃度に相当するピークの1/3

(2) 真度

添加試料5個以上を試験法に従って試験し、得られた試験結果の平均値の添加濃度に対する比を求め、これを真度とする。真度の目標値は表3のとおりとする。

注:サロゲート(真度の変動の補正を目的として、試料に添加する安定同位体標識標準品)を使用した場合には、サロゲートの回収率が40%以上であることを確認する。

(3) 精度

添加試料の試験を繰り返し、得られた試験結果の標準偏差及び相対標準偏差を求め、併行精度及び複数の実施者又は実施日による室内精度を評価する。試験のくり返し回数は自由度が4以上となるようにする。

真度、併行精度及び室内精度の目標値は表3のとおりとする。

表3 真度及び精度の目標値

濃度

(ppm)

真度

(%)

併行精度

(RSD%)

室内精度

(RSD%)

≦0.001

70~120

30>

35>

0.001<~≦0.01

70~120

25>

30>

0.01<~≦0.1

70~120

15>

20>

0.1<

70~120

10>

15>

(4) 定量限界

基準値が定量限界と一致している場合あるいは農薬等の残留基準告示において「不検出」とされる場合には、以下の条件①及び②を満足していることを確認する。

① 添加試料の試験結果に基づく真度、併行精度及び室内精度が表3の目標値を満足していること。

② クロマトグラフィーによる測定では、定量限界濃度に対応する濃度から得られるピーク(①で得られるピークあるいはブランク試料の試験溶液で調製した標準溶液から得られるピーク)は、S/N比≧10であること。

本ガイドラインに従って妥当性が評価された試験法の試験室への導入及び試験法の一部を変更する際には、上記性能パラメータの一部についての評価を改めて要しない場合がある。そのような場合にも原則として評価すべき項目を別紙1に示した。

枝分かれ実験により、真度、併行精度及び室内精度を同時に評価することが可能である(別紙2参照)。また、添加濃度等が適切であれば、既存のデータから求められる真度、併行精度及び室内精度に基づいて妥当性を評価する事も可能である(別紙3参照)。

5 添加を行う食品の種類及び添加濃度

(1) 添加を行う食品の種類

添加を行う食品は、原則として試験法を適用しようとする食品から選択する。一律基準を考慮した場合には、全ての食品が対象となるが、全ての食品について試験法の妥当性を評価するのは現実的に困難であるので、まず代表的な食品を選択して評価し、順次食品毎に評価を行う。代表的な食品としては、成分としての特性及び抽出法の違いを考慮して、それぞれの目的に応じて、原則として、下記に示すものを選択する。

① 農産物

・穀類(玄米等)

・豆類(大豆等)

・種実類

・野菜(ほうれんそう等の葉緑素を多く含むもの、キャベツ等のイオウ化合物を含むもの及びばれいしょなどデンプンを多く含むもの)

・果実(オレンジ、りんご等)

・茶

・ホップ

・スパイス等

② 畜水産物

・牛、豚、鶏等の筋肉

・牛、豚、鶏等の脂肪

・牛、豚、鶏等の肝臓

・牛、豚、鶏等の腎臓

・鶏卵

・牛乳

・はちみつ等の養蜂製品

・魚介類(うなぎ等脂肪を多く含むもの)等

(2) 添加試料の作成等にあたっての留意事項

① 添加試料の作成にあたっては、原則として、新鮮な食品を使用し、均一化して秤量した後に農薬等を添加する。

凍結保存した食品又はそれを均一化した食品は、食品成分が変化している可能性があるので、できるだけ使用しない。野菜や果実など、凍結保存以外に長期間の保存が不可能な試料については、そのままの状態で凍結した試料を検討に用いても良い。ただし、凍結・融解の繰り返しは避けること。

添加する農薬等の標準溶液の量はできるだけ少量にとどめ、試料量の1/10~1/20程度とする。溶媒は試料と混合する溶媒を用いる。農薬等の添加後よく混合し、30分程度放置した後に抽出操作を行う。

② 枝分かれ実験等、数日間にわたり試験を行う場合にあっては、均一化した試料を冷凍保存し、凍結及び融解を繰り返すことを避け、試験を実施する日毎に添加試料を作成すること。

別紙1

妥当性評価された試験法の試験室への導入及び一部を変更する際に評価すべき項目

1.妥当性評価された試験法を試験室へ導入する場合

妥当性評価された試験法を試験室に導入する場合には、検証試験として本ガイドラインで定めた性能パラメータのうち原則として室内精度を除く性能パラメータについて評価を実施する。

2.妥当性評価された試験法を、評価対象とした食品と異なる食品に適用する場合

妥当性評価された試験法あるいは検証試験を行って導入した試験法を、評価対象となった食品と類似の食品に適用する場合は、選択性及び真度を評価し、また必要と判断される場合には併行精度を評価する。基準値が定量限界と一致している場合あるいは農薬等の残留基準告示において「不検出」とされる場合には、定量限界も評価する。

3.妥当性評価された試験法の一部を変更する場合

妥当性評価された試験法あるいは検証試験を行って導入した試験法の一部を変更する場合には、本ガイドラインで定めた一部の性能パラメータについて評価を要しない場合がある。但し、選択性及び真度の確認は常に必要である。

最終試験溶液の液量あるいは測定条件(注入量、分析カラムの種類及びサイズ、キャリヤーガスの種類、昇温条件、移動相組成、移動相流速、グラジエント条件、カラム温度、MS測定モード及び測定イオン等)を変更した場合は、選択性及び真度を評価し、必要であると判断される場合は併行精度を評価する。基準値が定量限界と一致している場合あるいは農薬等の残留基準告示において「不検出」とされる場合には、定量限界も評価する。

上記以外の部分を変更する場合は、選択性及び真度を含めて試験法の性能が大きく変わる可能性があるので、妥当性を評価された試験法の変更ではなく、原則として新たな試験法と考え、本ガイドラインに従った妥当性評価を実施する。特に、試料量、試料採取方法、抽出溶媒の種類あるいは量は変更しないことが望ましい。

別紙2

室内精度評価のための実験の例

(例1)実施者1名が、同一の添加試料を1日1回(2併行)、5日間実施する枝分かれ実験計画

内部精度管理を2併行で実施したデータ、検体試験の際の添加回収を2併行で実施したデータの使用も可能である。

(例2)実施者2名が、それぞれ添加試料を1日1回(2併行)、3日間実施する枝分かれ実験計画

(例3)5機関において、同一の添加試料を1日1回(2併行)実施する枝分かれ実験計画

別紙3

既存のデータを用いた妥当性評価例

1.精度管理データの利用

食品中の残留農薬等の試験を実施している機関では、「食品衛生検査施設等における検査等の業務の管理の実施について(平成9年4月1日付け衛食第117号)別添、精度管理の一般ガイドライン」に従って、精度管理が実施されている。妥当性評価対象とした試験法を用いて精度管理が実施されている場合、このデータを用いて当該試験法の妥当性評価が可能である。

精度管理の一般ガイドラインでは、定期的に陰性対照(ブランク試料)及び添加量が明らかな試験品(添加試料)を試験し、さらに定期的に添加量が明らかな試験品の5回併行試験を行うこととされている。

これらのデータを用いて、

① 陰性対照の結果から選択性が評価される。

② 定期的に5回以上行われた添加量が明らかな試験品の試験結果の平均から真度が、標準偏差から室内精度が求められる。添加量の明らかな試験品が2併行で試験されている場合は、別紙2に示した枝分かれ実験データとして、真度、併行精度及び室内精度が求められる。

③ 添加量が明らかな試験品の5回併行試験が、定期的に5回以上行われていれば、真度、併行精度及び、室内精度が求められる。

2.試験と併行して実施した添加回収データの利用

妥当性評価対象とする試験法を用いた試験を実施する際に、既知濃度の対象農薬等を添加したブランク試料(添加試料)の試験が同時に行われている場合、それらの結果から当該試験法の妥当性評価が可能である。

試験品の試験と同時に行われる添加回収実験では、ブランク試料と添加試料1~3個が試験されることが一般的である。

この場合、

1.ブランク試料の結果から選択性が評価される。

2.1回の試験において添加試料を2~3個を併行で試験している場合には、5回以上の試験結果を別紙2に示した枝分かれ実験データとして用いることにより、真度、併行精度及び室内精度が求められる。

3.1回の試験において添加試料1個を試験している場合は、5回以上の試験結果の平均から真度が、標準偏差から室内精度が求められる。併行精度は別途添加試料を併行条件で5回以上試験して求める必要があるが、室内精度が併行精度の目標値を下回っていた場合は、併行精度も目標値を満足していると考えることができる。