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○次世代医療機器評価指標の公表について

(平成22年12月15日)

(薬食機発1215第1号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知)

厚生労働省では、医療ニーズが高く実用可能性のある次世代医療機器について、審査時に用いる技術評価指標等をあらかじめ作成し、公表することにより、製品開発の効率化及び承認審査の迅速化を図る目的で、検討分野を選定して評価指標を検討してきたところです。

今般、関節軟骨再生、神経機能修復装置及び整形外科用骨接合材料カスタムメイドインプラントの評価を行うに当たって必要と考えられる資料、評価のポイント等を評価指標としてとりまとめましたので、下記に留意の上、製造販売承認申請に当たって参考とするよう、貴管下関係業者に対しご周知いただきますよう御配慮願います。

なお、本通知の写しを独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長、日本医療機器産業連合会会長、米国医療機器・IVD工業会会長及び欧州ビジネス協会医療機器委員会委員長あて送付することを申し添えます。

1.評価指標とは、承認申請資料の収集やその審査の迅速化等の観点から、製品の評価において着目すべき事項(評価項目)を示すものである。評価指標は、法的な基準という位置付けではなく、技術開発の著しい次世代医療機器を対象として現時点で考えられる評価項目を示したものであり、製品の特性に応じて、評価指標に示すもの以外の評価が必要である場合や評価指標に示す評価項目のうち適用しなくてもよい項目があり得ることに留意すること。

2.個々の製品の承認申請に当たって必要な資料・データを収集する際は、評価指標に示す事項について予め検討するほか、可能な限り早期に独立行政法人医薬品医療機器総合機構の対面助言を活用することが望ましい。

(別添1)

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(別添2)

神経機能修飾装置に関する評価指標―総論

1.はじめに

脳科学の進歩により脳機能の解明が進み、神経疾患の治療として薬剤だけでなく、パーキンソン病に対する脳深部刺激療法(DBS)、難治性疼痛に対する大脳皮質電気刺激療法、難治性てんかんに対する迷走神経刺激療法等の神経刺激療法が臨床応用されている。また経頭蓋磁気刺激療法(TMS)等の非侵襲的治療方法についても臨床研究が数多く行われている。最近では人工感覚器の研究開発が国内外で行われ、ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)の研究の活発化により、脳神経信号を解読して思い通りに外部機器を制御することが可能になりつつある。

このような状況下において、脳神経機能に対する医療機器の開発は新たな時代に入り、我が国でもオンデマンド型DBS、在宅療法用のTMS、頭蓋内植込み電極を用いたBMI装置、完全植込み型人工網膜、神経刺激による循環器調節装置等の研究開発が行われている。

このような状況を踏まえ、各種の神経刺激装置及びBMIを利用した神経機能補助・代行装置をまとめて神経機能修飾装置と定義し、本装置に対する科学的根拠を基盤にした品質、有効性及び安全性の評価を、適正かつ迅速に進めるために、本評価指標を作成した。

本評価指標は総論と各論で構成されており、総論では各装置に共通する事項を概説し、各論で各装置特有の事項を記述することにより、種々の神経機能修飾装置に対応できるよう配慮した。また、この評価指標は平成17年2月16日付け薬食機発第0216001号通知「医療機器の製造販売承認申請に際し留意すべき事項について」と同時に使用することを前提として作成した。

2.本評価指標の対象

本評価指標は、筋・神経系(中枢神経又は末梢神経)の神経信号を計測して外部機器を制御する装置、筋・神経系を刺激することにより神経・筋機能を修飾、代替又は補助する装置等といった神経機能修飾装置に適用されるものである。

神経機能修飾装置とは、対象となる神経・筋組織の内部又は近傍に設置又は埋め込まれ、電気/磁気刺激又は神経信号計測によって、疾病の治療、予防的な処置、機能回復の促進、機能代償を図ることを目的とする装置であり、例えば脳刺激装置、脊髄刺激装置、人工網膜、脳刺激型人工視覚、迷走神経刺激装置、神経筋接合部や筋肉を直接刺激する装置、運動機能補助・代行装置、意思伝達補助装置、環境制御装置等を指す。

3.本評価指標の位置づけ

本評価指標は、(脳神経系に直接刺激を与える、又は脳神経系における電気的変化を直接取り出す機能を有する医療機器である)神経機能修飾装置を対象とするものであり、今後の研究・技術開発によるその著しい進歩が予想されることを勘案し、現時点で考えられる問題点、留意すべき事項について示したものである。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂されるものであり、申請内容に関して拘束力を有するものではない。

神経機能修飾装置の評価にあたっては、対象とする疾病の治療目的及び方法に応じた個別の装置特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。

なお、本評価指標の他、国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。

4.評価にあたって留意すべき事項

(1) 基本的事項

装置に関して、以下の事項について説明すること。

・装置の起源、又は開発の経緯

・国内外での使用状況

・設計開発とシステムの原理

・品目仕様(システム全体のサイズ及び重量)

・考慮すべきリスクと新たに期待できる効果

特に、当該装置は、脳神経系に直接的・間接的に作用する医用電気機器であることから、そのリスクを鑑みて、以下に示す当該装置に関する資料等を利用してシステムの原理、装置の仕様、使用方法等を詳細に説明することが望ましい。

・全体図

・設計図

・ハードウェアのブロック図

・ソフトウェアのブロック図

・回路図

・全ての部品に関する情報

・電気的仕様(関連資料)

・機械的仕様(関連資料)

・作用部位の装置(電極等)に関する情報(チャネル数、サイズ、間隔、電極材料、絶縁材料、柔軟性、コーティング厚や露出面積)

・ケーブル部に関する情報(接続方法、金属材料、絶縁(コーティング)材料)

・バッテリー及び充電装置に関する情報

なお、各要素部品に関しては、必要に応じて上記資料を用い、形状、構造及び原理として示された内容との対応関係が明らかとなるようにし、その規格を示すこと。特に、当該装置は脳神経系に何らかの形で作用するものであるため、その作用の中心となる、あるいは脳神経系と直接接触する要素部品及びその材料に関しては詳細に説明すること。

品目仕様には、品質、安全性及び有効性の観点から、「形状、構造及び原理」に相当しない事項について記載し、引用可能なものがあればその求められる規格を示すこと。引用可能なものが無い場合には、その適用部位、使用方法等に基づき妥当な試験方法を設定し示すこと。

(2) リスクマネジメント

当該装置のリスクマネジメント(JIS T 14971参照)及び品質マネジメント(JIS Q 13485又は医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理に関する省令参照)を行うこと。特に、以下の2点について明らかにすること。

・リスク分析実施体制

・重要なハザード

ただし、これらの規格に従うこと以上に他の規格を用いることが適当と判断する場合は、その理由を明確に示すとともに上記に準じた形でのリスクマネジメントを行うこと。

また、患者に継続的に使用される装置の場合には、システム全体の安全性や患者のQOLが確保されているかという観点から、以下の事項に対する影響の可能性について示す。

1) 日常の行動:座位、立位、歩行、走行、転倒時

2) 移動環境:車等の振動、航空機等の気圧変化

3) 植込み装置、体外装置、ドライブライン等の皮膚、臓器、器官の圧迫

4) 装置の振動

5) 荷重負担:バッテリー、駆動制御装置等

6) アラーム:種類、表示、一定時間の安全性の確保、患者教育

7) 環境:電磁波、温度等

(3) 非臨床試験

治験の開始に当たって、以下に示すin vitro評価、in vivo評価を通して、システムの信頼性・耐久性、物理的・機械的安全性、生物学的安全性等の評価を適切に行い、臨床使用の妥当性を検討すること。なお、関連する規格や法令に基づいている方法と大きく異なる手法で評価を行った場合には、その仕様、設計開発とシステムの原理等と明確に関連づけてその方法の妥当性を明確にすること。

1) In vitro評価

当該装置で使用されている材料のうち、植え込まれるものと被験者に接触する全ての材料については、(詳細な仕様を)物質名及び化学式を明らかにする。それら以外に装置に使用されている全ての材料については、一般名を明らかにすること。

上記材料のうち、被験者に接触する全ての装置部品については、その接触部位、期間に応じたそれらの原材料の生物学的安全性を適切に評価すること。(平成15年2月13日付け医薬審発第0213001号通知及びISO 10993―1:2009(JIS T 0993―1))(同一の製造プロセスを経た同じ材料についての文献や試験データをもって代替することも可能な場合がある。)

装置及びその装着ツールの完成品における以下の各事項に該当する場合において、具体的なデータ又は考察をもってその妥当性を明らかにすること。(必要に応じて、JIS T 0601―1やJIS T 0601―1―1等も参照のこと。)

① 神経機能修飾方法の妥当性

a) 神経系への作用は直接か、間接か

b) 作用手段(電気、磁気、その他)

c) 作用部位の設定

d) 代替法の有無と、有る場合にはその代替法と比較してリスク/ベネフィットに基づいた装置使用の妥当性

② 神経系に作用する装置部分の性能、安全性、信頼性

a) 作用装置の材質及び性能と使用条件・目的との関係

b) 治験において計画している刺激値の範囲

c) 刺激波形等の設定(単極であるか双極であるか、単相性か二相性か)

d) 刺激パルスの各相における注入密度、注入量、周波数、波形とduration等(電極の場合には、電荷注入密度、注入電荷量、最大電圧、注入電荷のバランスをとる機能の有無と種類、複数の電極における同時刺激時の安全性)

e) 作用装置埋植時における耐久性、腐食性、密閉性

③ 刺激制御装置の性能、安全性、信頼性

a) 患者の状態に応じた刺激調節機構

b) ホットスポットを含めて生体組織に火傷を与える発熱の有無

c) 信頼性及び安全性を確保するための具体的な対策

d) 患者への負荷を計測又は推定出来るシステムの付与(例としては、電気刺激の刺激回数、刺激強度が安全域を超えていないかどうかを計測もしくは推定できるシステム等が挙げられる。)

e) パルス制御のロジックの有無とその妥当性の確認

f) 目的に応じて設定した装置制御プログラムの妥当性

g) 電極インピーダンスの短期的及び長期的な変動に対する対策

④ エネルギー関連装置(電池、経皮エネルギー伝送装置、電気コネクター、ケーブル等)の性能、安全性、信頼性

a) 電池容量(植え込まれた電池を含む。)、電池寿命及び再充電回数の限界の妥当性

b) 電池の充放電時、経皮エネルギー伝送装置の伝送時の発熱

c) 電池破裂や腐食による液漏れ等に対する安全対策

d) 電気コネクターの長期耐水性(体内の場合)、耐衝撃性(体内、体外)

e) 経皮エネルギー伝送装置の体外コイルの固定方法、位置ずれに対する対策

f) ケーブルの体内、体外での耐屈曲耐久性

g) 経皮エネルギー伝送装置と体内電池との間の切り替えの扱いやすさ

⑤ その他、装置全体に求められる性能、安全性、信頼性

a) 緊急時セーフガード機構の妥当性

b) 可視光、電磁気等干渉時における適合性(使用する装置から生じる電磁気の放射・干渉が、「重度の身体的損傷」「その他の装置の作動不全・故障」を引き起こさないということを合理的に保証できること、あるいはそのような不具合を引き起こさないようにするための合理的手段を示すこと。(JIS T 0601―1―2及び平成14年8月30日付け医薬審発第0830006号通知)植込み部に関しては、外部電磁界による電気的影響に対する感受性のために、機器の動作不良、機器への損傷、機器の発熱によるものであれ、又は患者内に誘導電流密度の局部的増大を引き起こすことによってであれ、どのような危害も引き起こさないことを示すこと。(ISO 14708―3))

c) 使用方法を想定した適切な滅菌と一定期間の無菌性(平成10年3月31日付け医薬審第347号通知、平成12年7月18日付け医薬審第877号通知、ISO 11135―1、ISO 11137―1及びISO 13408―1)(EOG滅菌時にはその残留量(平成10年3月31日付け医薬審第353号通知及びISO 10993―7))

d) 装置全体の絶縁性

なお、これらに関するデータを得るための各種試験は、可能な限り生体内環境を模倣した条件下、あるいはそれよりも過酷な条件下で実施することが望ましいが、それら以外の条件下で実施した場合も含め、選択した試験条件の妥当性を明確にすること。

2) In vivo評価(ISO 14708―1,―3、ISO 10993―1等)

動物試験においては、植込み装置、関連部品及び電極の神経組織に対する影響を評価することが望ましい。動物試験を適切に行うため以下の項目に留意し、その設定や手法選択の詳細を明らかにするとともにそれらの妥当性も明らかにすること。

・試験プロトコールと目的

・動物種、系統、使用動物数も含めた試験計画(長期間の複数の動物での評価を含んだ計画を立てることが望ましい。)

・刺激レベルとレート

・刺激効果確認試験(その刺激によって期待される効果が確認可能な場合。)

・植込み対象部位の組織評価

・植込み前後での神経機能評価

(当該神経機能だけでなく、影響を受けうる他の神経機能に関しての評価を含む。)

・試験データ解析方法

また、試験結果を受けて装置設定及び評価手法の変更が必要となった場合、その理由と妥当性を明確にすること。

なお、当該装置による刺激が装置と直接接触する局所の脳神経系に与える影響を検討するため、装置を動作させた状態で以下の動物試験を行うこと。

① 短期試験

48時間以上にわたる電極テストを行うこと。(動物は鎮静剤を与えてもよい。)テスト後には組織評価を行うこと。また、傷害を与えうる最小の刺激を明らかにするため、最小単位の動物数で種々の条件下での急性試験を行い、傷害を与える条件を明らかにするとともに刺激を受けた部位の組織評価を行う。

② 長期試験

植込み型装置の場合、装置を動物の神経組織に対して6か月は植え込み、取り出し後には植込み対象部位に加えて周辺組織の組織評価も行うこと。また装置が腐食や絶縁の悪化によって故障しないかどうかも評価すること。但し、実際の植込み期間や刺激条件については、機器の適用方法や特性に応じて適切に設定しその妥当性を示すこと。

(4) 臨床試験(治験)

1) 医療機器の臨床試験の実施の基準(医療機器GCP)の遵守

治験はヒトを対象として行われるものであり、必要な非臨床試験が十分に行われて臨床使用の妥当性が確認された機器を用いて、被験者の安全と人権の保護に対する倫理的配慮のもと、科学的に適正に実施されなければならない。具体的には「医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成17年厚生労働省令第36号:医療機器GCP)を遵守して治験を行う。

2) 評価

次世代型神経機能修飾装置の治験の評価は、使用目的と目標とする使用期間に応じた性能を妥当なリスク内で示すことを適切にデザインされた治験のデータに基づいて行う。よって、予め、治験で実施する各試験全てのプロトコール、市販後の使用成績を追跡するための調査計画及びそれらの方法が科学的に正しいことを詳細に治験計画書として提示することが求められる。なお、医療機器の臨床的な安全性、有効性が性能試験、動物試験等の非臨床試験成績又は既存の文献等のみによって妥当な評価が可能な場合には臨床試験の実施を必要としない場合もある。具体的には、平成20年8月4日付け薬食機発第0804001号通知「医療機器に関する臨床試験データの必要な範囲等について」を参照すること。

3) 治験計画書

① 基本的な事項

治験計画書においては、以下の事項を明確に示すこと

・装置の安全性と耐久性をサポートするデータ

・提案する治験をサポートする非臨床段階の試験結果

・対象患者に対する他の治療法との違い

・治験におけるコントロール群(新たに対照群を設定する場合や、これまでに得られているレトロスペクティブなデータを用いる場合等)の設定及びその妥当性

・対象患者と疾患群を含む適応基準

・試験のタイプ(例:主試験、拡張試験、フィージビリティ試験。また、マスキング、ランダム化、比較のために用いる対照群もしくはシャム群を含むか否か等も明記。)

・対象患者の追跡調査に予定する合計期間

・対象患者の予定登録数とその妥当性を示す科学的根拠

・調査施設の数や基準

・参加研究者(わかる範囲で。)

・対象患者の選択基準、除外基準(試験期間中の除外基準も含む。)

・具体的かつ客観的な臨床目標として記載する安全性と有効性(該当する神経機能の改善)の主要エンドポイントとその妥当性を示す科学的根拠

・副次エンドポイント(例えば該当する神経機能の主観的評価等)とその妥当性を示す科学的根拠

・対象患者の該当する神経機能の術前・術後評価のための試験内容とスケジュールを含む研究計画

・試験方法

・対象患者で試験を予定する各種パラメータの試験条件:神経刺激装置の場合には刺激範囲、頻度、強度等、神経計測装置の場合には、計測する神経信号の種類、部位、計測方法等

・研究者及び医療スタッフに対する装置の使用法と管理法、患者管理法及びデータ集積を含む治験プロトコールの実施に関する教育計画

・データ集積及び解析における参加施設間差を生じない対策方法

・重大な有害事象発生時又は臨床上の利益がないと判断された場合における治験の中止に関する基準

・データ集積を完全にかつ良質に行なうためのモニタリングシステム、施設訪問の頻度及びデータ収集の責任者等の事項を含む具体的なモニタリング方法

② 治験対象

基本的には、代替治療法が存在しない、又は代替治療法での有用性が十分とは言えない患者に対して、医学的に有用性が期待できる場合に、神経機能修飾装置の治験の対象とすること。よって、患者選択のための基本となる臨床的基準は、各装置の適用疾患ごとに関連学会や有識者により適切に設定することとするが、必ず代替治療法の有無を考慮して設定すること。

③ 使用目的と適応条件

神経機能修飾装置の使用目的は、代替治療法が存在しない、あるいは代替治療法での有用性が十分でない適応疾患患者の症状を緩和することである。当該装置は個々の疾患に応じて作製され、その疾患に応じた適応条件及び除外基準を設定する必要があるため、その詳細を各論において規定する。

④ 症例数と実施期間

a) 症例数

基本的には治験の目的に応じた科学的な根拠がある数が求められる。ただし、適応疾病によっては対照群を設定し難い、また患者数が少ない等の状況があることも考慮して妥当な治験計画をたて、評価可能で実施可能な症例数を設定すること。なお、比較対象をおく場合には統計学的に症例数を設定する必要があることに留意すること。また、信頼できる海外データは症例数設定に勘案できるものとする。なお、追跡調査を行う際に脱落があった後でも統計的に有意な対象患者数での長期データを提出するために、十分な初期数での対象患者登録をすること、長期間にわたる承認申請後の長期フォローアップ試験及び承認後の製造販売後臨床試験に対応できる準備をすることが望ましい。長期追跡調査を含む試験では、追跡調査への同意をすべての対象患者で取得することが望ましい。

b) 期間

安全性を考慮したフィージビリティ試験を実施した場合は各装置に応じて適切な時期に評価を行うこと。その後、継続して使用目的に応じた検討を行うこと。Pivotal studyにおいては治験の目的に応じたエンドポイントを適切に設定すること。また、医療機器においては、多数例・長期間の使用後に、試験期間中では観察されなかった問題が明らかになる場合もあることから、承認後においても使用対象患者の評価を継続すること。

⑤ エンドポイント設定

a) 安全性

少数の対象患者による初期のフィージビリティ試験を実施した場合にはそれとは別に、合併症や潜在的な長期有害事象を捉えるための安全性エンドポイントを明らかにするべきである。医学文献より得られた類似の手技の有害事象に関する累積的、永続的な発生率に基づいて、全ての有害事象が目標値を超えないように、安全性エンドポイントを設定することが望ましい。累積有害事象発生率と設定した目標値についてはその科学的根拠を提示すべきである。これにより、当該調査に対する最低限許容可能な安全閾値が確立される。さらに、主試験の統計解析計画には、計画したサンプルサイズにより、安全性の合理的保障を証明するエンドポイントを評価するのに十分な患者数が得られることを示すべきである。

b) 有効性

装置の有効性を示すための測定基準として、装置の適用前に対象患者の神経機能を記録しておくこと。神経機能に重度な障害を有する対象患者は、神経機能の検査において結果が日間変動する傾向があるため、装置の有効性解析結果を混乱させる可能性があることに留意すること。また、変動をある程度の範囲で収めるため、適用患者の対象年齢を定めておくことが有用である可能性にも留意すること。

主要エンドポイント

該当神経機能の主要エンドポイントは、装置の有効性の裏付けとして、対象患者の検査成績に関して定量性を持たせるものとする。具体的な検査名・方法については各論にて述べるが、それらの検査を装置に応じて適切に用いることが望ましい。いずれのエンドポイントも

・当該装置適用前の該当神経機能の残存機能を示し、装置の適用後のその変化を明確に示すことが可能

・精神面の健康状態評価が可能

となるように設定しなければならない。また、合併疾患の症状変化も、主要エンドポイントとなる。なお、その許容範囲も、適用される装置毎に予め設定しておくこと。いずれのエンドポイントも、その科学的妥当性が説明できなければいけない。

副次エンドポイント

副次エンドポイントは、対象患者の実生活での能力に関する定性的な記述を与えるものとする。副次エンドポイントとしては対象患者のADLもしくはQOLについてなんらかの改善を証明するものが適切であろう。具体的な評価方法については各論で述べるが、ADLやQOLに関するアンケートや、ADLやQOLを評価できる検査等を装置に応じて用いることが望ましい。

⑥ 実施医療機関

試験数を考慮した適切な施設数とする。施設の資格要件は、装置の目的、適応疾患等に応じて設定する。(各論参照)なお、いずれの神経機能修飾装置を使用する場合においても、対象疾患と関連する部局が有機的に連携して総合的な治療体制が稼働している施設であること。

⑦ 治験データの取得方法

臨床的な安全性、有効性の判断を優先する。侵襲的検査は最小限にする。

⑧ 治験中の有害事象が生じた時の対応

あらかじめ有害事象の定義及び各有害事象発生時の対応を明確にしておくこと。また、有害事象発生頻度が多い場合の治験の継続、中断、又は中止に関する基準を明確にしておくこと。

⑨ 安全性評価

有害事象の項目毎にその評価結果を具体的かつ明確に示すこと。

⑩ 最終評価(有用性の評価)

治験の目的及び適応に応じた期間、良好なQOLを保ちながら生存し、装置ごとに使用目的に応じた科学的に妥当な有用性を認めること。(詳細は各論の記載を参照すること。)

5.試験結果の報告(構成内容)

申請書には、装置の試験結果として以下の事項を含めること。

・非臨床試験(in vitro及びin vivo)

・臨床試験(治験)

・その他必要な生体外試験

・関連するすべての文献情報

・その他の未発表の情報

ただし、全ての試験について、目的、方法、結果、結論を記載すること。また、データについては、最小値、最大値、平均値、標準偏差を記載することとし、各結論が装置の安全性や性能を支持するものであるかどうかについて十分に説明すること。

【関連規格及び参考資料】

1.平成17年2月16日付け薬食機発第0216001号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知「医療機器の製造販売承認申請に際し留意すべき事項について」

2.平成17年2月16日付け薬食機発第0216003号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知「医療機器の製造販売承認申請書添付資料概要作成の手引きについて」

3.平成16年7月20日付け薬食発第0720022号厚生労働省医薬食品局長通知「薬事法第二条第五項から第七項までの規定により厚生労働大臣が指定する高度管理医療機器、管理医療機器及び一般医療機器(告示)及び薬事法第二条第八項の規定により厚生労働大臣が指定する特定保守管理医療機器(告示)の施行について」(クラス分類通知)

4.JIS T 14971 医療機器―リスクマネジメントの医療機器への適用

5.JIS Q 13485 医療機器―品質マネジメントシステム―規制目的のための要求事項

6.「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第169号)

7.「医療機器の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成17年厚生労働省令第37号)

8.平成15年2月13日付け医薬審発第0213001号厚生労働省医薬局審査管理課長通知「医療用具の製造(輸入)承認申請に必要な生物学的安全性試験の基本的考え方について」

9.平成15年3月19日付け医療機器審査No.36厚生労働省医薬局審査管理課事務連絡「生物学的安全性試験の基本的考え方に関する参考資料について」

10.JIS T 0993―1 医療機器の生物学的評価―第1部:評価及び試験

11.ISO 10993―1 Biological evaluation of medical devices-Part1:Evaluation and testing within a risk-management process

12.JIS T 0601―1:1999.医用電気機器―第一部:安全に関する一般的要求事項(IEC 60601―1 Ed.2)

13.JIS T 0601―1―1:2005.医用電気機器―第一部:安全に関する一般的要求事項―第一節:副通則―医用電気システムの安全要求事項(IEC 60601―1―1:2000)

14.JIS T 0601―1―2:2002.医用電気機器―第一部:安全に関する一般的要求事項―第二節:副通則―電磁両立性―要求事項及び試験(IEC 60601―1―2:1993)

15.IEC 60601―1 Medical electrical equipment-Part1:General requirements for basic safety and essential performance

16.IEC 60601―1―1 Medical electrical equipment-Part1―1:General requirements for safety-Collateral standard:Safety requirements for medical electrical systems

17.IEC 60601―1―2 Medical electrical equipment-Part1―2:General requirements for basic safety and essential performance-Collateral standard:Electromagnetic compatibility-Requirements and tests

18.平成14年8月30日付け医薬審発第0830006号厚生労働省医薬局審査管理課長通知「医療用具の電磁両立性に関する規格適合確認の取扱いについて」

19.平成10年3月31日付け医薬審第347号厚生省医薬安全局審査管理課長通知「滅菌医療用具の製造(輸入)承認申請における滅菌に関する取扱いについて」

20.平成12年7月18日付け医薬審第877号厚生省医薬安全局審査管理課長通知「滅菌医療用具の製造(輸入)承認申請における滅菌に関する取扱いについて(その2)」

21.ISO 11135―1 Sterilization of health care products-Ethylene oxide-Part1:Requirements for development,validation and routine control of a sterilization process for medical devices

22.ISO 11137―1 Sterilization of health care products-Radiation-Part1:Requirements for development,validation and routine control of a sterilization process for medical devices

23.ISO 13408―1 Aseptic processing of health care products-Part1:General requirements

24.平成10年3月31日付け医薬審第353号厚生省医薬安全局審査管理課長通知「エチレンオキサイドガス滅菌における残留ガス濃度の限度値の取扱いについて」

25.ISO 10993―7 Biological evaluation of medical devices-Part7:Ethylene oxide sterilization residuals

26.ISO 14708―1 Implants for surgery-Active implantable medical devices-Part1:General requirements for safety,marking and for information to be provided by the manufacturer

27.ISO 14708―3 Implants for surgery-Active implantable medical devices-Part3:Implantable neurostimulators

28.「医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成17年厚生労働省令第36号)

29.平成20年8月4日付け薬食機発第0804001号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知「医療機器に関する臨床試験データの必要な範囲等について」

神経機能修飾装置に関する評価指標―各論

(1) 反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)装置

1.はじめに

高齢化社会に伴って増加する脳卒中、中枢変性疾患、慢性疼痛等に対して、現在の医療では限界があり、障害が残存することはまれではない。このような患者に対して、ADL及びQOLを改善する新しい治療機器が望まれる。反復経頭蓋磁気刺激(Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation;rTMS)は非侵襲的に脳機能を変化させることが可能であり、このような神経疾患に対して広く臨床応用が進むことが期待される。本法の主な対象疾患と患者数は、脳血管障害(片麻痺)で170万人、不随意運動症のパーキンソン病12.6万人、ジストニア1.9万人、難治性疼痛で5―10万人、難治性てんかんで10万人、薬物治療抵抗性うつ病で50万人程度が見込まれる。rTMSは世界中で臨床研究が進んでおり、治療機器として早期に確立される可能性が高い。rTMS装置は他の体内植込み型ニューロモジュレーション機器と異なり体内に植え込む必要がなく簡便に使用可能である。原則的には総論に準じるが、ここではrTMS装置について総論に追加すべき事項について述べる。

2.本各論の対象

対象とするrTMS装置は以下のようなものである。

本装置は本体及びコイルから成るが、コイルを支持又は固定する機構が含まれていることが望ましい。本体のコンデンサに蓄電し、これを用いてコイルにパルス電流を流す。この結果、コイルによって生成される磁束が急激に変化し、この磁束変化を妨げるべくおこる渦電流で脳が刺激される(図)。

本装置は世界中で広く臨床研究が行われている。治療的な使用では反復して脳に刺激を与えることで脳の興奮性を変化させることができ、治療効果を生む。1Hz以下の場合を低頻度刺激、1Hzを超える場合を高頻度刺激と呼ぶ。また、theta burst stimulation(TBS)やquadripulse stimulation(QPS)といったパターン刺激法も研究されている。コイルの形状は平円形、8の字型、ダブルコーン(double cone)型等がある。刺激の限局性にすぐれる8の字型コイルが用いられることが多い(写真)。

本装置は患者が一台を専有して使用する場合以外に、一台で複数の患者に使用される場合も想定される。また、同じ装置が複数の疾患に適応がある場合も想定される。

3.本各論の位置づけ

原則的に総論によるところとする。

4.評価にあたって留意すべき事項

(1) 基本的事項

機器の特性、すなわち、コイルに流れる電流(時間的変化、向きを含む。)と生成される磁束の時間的変化、生成される磁場の3次元的形状等を明らかにすること。

(2) リスクマネジメント

原則的に総論に準じて行う。

(3) 非臨床試験

1) In vitro評価

生成される磁場の頭部での3次元分布をコンピュータシミュレーションにより示すことが望ましい。

2) In vivo評価

すでに多数例で安全に臨床使用が行われている機器と同等の電気的・磁気的特性を持つ装置であることを示し、さらに適用する刺激条件((4)―3)―①参照)の妥当性・安全性が既存の文献に基づいて証明できる場合は、動物試験を省略してもよい。この特性は接続するコイルにより異なること、有害事象の発生は刺激条件で異なることに留意する。

(4) 臨床試験(治験)

1) 医療機器の臨床試験の実施基準(医療機器GCP)の遵守

原則的に総論に準じて行う。

2) 評価

原則的に総論に準じて行う。

3) 治験計画書

① 基本的事項

治験を実施するときの対照としてシャム刺激(偽刺激)を用いるが、この方法には2種類ある。コイルを垂直に立てる等して頭蓋内に電流が誘導されないようにする簡便な方法と、刺激の出ないコイルを頭皮に密着させるとともに刺激音を出すためのコイルを頭部近傍に置き、さらに実刺激と同様の感覚を被験者に与えるために頭皮を電気刺激するrealistic sham刺激がある。刺激条件として、以下の事項を明らかにする。

・刺激強度とその設定方法(運動閾値を基準として、その何%の刺激で行うかを決めることが多い。この場合、閾値の決定方法も明らかにする。)

・刺激部位とその同定方法

・コイルの置き方、固定方法

・刺激頻度(frequency)

・刺激時間(train duration):連続的に行う一連の刺激時間

・各trainの間隔(時間):1trainのみであれば不要

・以上を1セッションとして、1日のセッション数

・複数の部位で刺激する場合は、その順序や各部位の刺激条件

・週の適用日数、継続する週数 等

② 治験対象

rTMSは脳血管障害(片麻痺)、不随意運動症(パーキンソン病、ジストニア)、難治性疼痛、難治性てんかん、薬物治療抵抗性うつ病等の通常の治療で十分な効果が得られない神経・精神疾患が適応となる。

③ 使用目的と適応条件

患者の脳を反復して磁気刺激することで、脳の興奮性を変化させ、症状の軽減を図ることが目的である。rTMS単独だけでなく、rTMSにリハビリテーション訓練等を組み合わせることで十分な治療効果が得られる場合も想定される。

口以外の頭部に金属を持つ者、心臓ペースメーカー装着者、薬物治療ポンプ留置者には禁忌である。また、主幹動脈閉塞による脳梗塞、頭部外傷後、脳腫瘍、てんかん患者(既往も含む。)ではけいれん発作誘発に十分注意し、適宜脳波検査を行うことが望ましい。妊婦、乳幼児についてはrTMSによる明確な恩恵がある場合に限り考慮される。

④ 症例数と実施期間

a) 症例数

原則的に総論に準じて行う。

b) 期間

即時(適応中あるいは直後)に効果が発現する場合、ある期間の継続的使用で効果が発現する場合等、効果発現時期はさまざまであると考えられる。目的とする治療効果に応じて適切な期間を定めること。従来の報告ではrTMSの短期的な効果をみたものが主であり、長期間の連用による影響は不明なことが多いことに留意する。このため承認後の継続調査が必要になることがある。

⑤ エンドポイント設定

a) 安全性

有害事象としてはけいれん発作の誘発が最も重要である。世界で少なくとも16例でけいれん発作誘発が確認されている。高頻度刺激やTBSではより誘発されやすいとされている。安全と考えられる刺激条件が提言されており、その一部をあげると、運動閾値の90%及び100%の刺激強度では1Hz刺激で1800秒、5Hzで10秒、10Hzで5秒、20Hzで2.05秒、25Hzで1.28秒であるが、130%の刺激強度では1Hzで50秒、5Hzで10秒、10Hzで2.9秒、20Hzで0.55秒、25Hzで0.24秒と安全な刺激時間が短縮する。また、日本臨床神経生理学会脳刺激法に関する委員会からは1週間に計5000回の刺激を上限とすることが提言されている(2007年11月)。なお、これらのガイドラインを遵守してもけいれん発作が誘発される可能性は皆無ではないことに留意する。

その他の有害事象としては、コイルから発生する音による聴力障害、失神、局所の痛み・頭痛・不快感、認知機能・神経心理学的機能の変化等が知られている。

b) 有効性

主要エンドポイント

広く用いられている客観性のある評価方法が望ましい。現時点で使用されることが多いものを以下に挙げる。(他の評価方法の使用を制限するものではない。)

【脳血管障害】麻痺側手指運動機能(タッピング等)、標準失語症検査、行動性無視検査

【不随意運動症】パーキンソン病統一スケール(UPDRS)、書字機能

【疼痛】疼痛尺度、マギル疼痛質問票

【てんかん】臨床症状としての発作回数、脳波でのスパイクの出現回数

【うつ病】Montgomery-Asberg Depression Rating Scale(MADRS),Hamilton Depression Rating Scale(HAMD)

rTMSの効果は多岐にわたる可能性があり、運動障害の指標と精神障害の指標等主要エンドポイントが複数となる場合がある。

副次エンドポイント

ADLの指標として、Barthel指数又はFIM(Functional independence measure)が頻用される。QOLの指標としてはSF―36(Short Form 36)日本語版((R))、日本語版EuroQOL等がある。ただしこれらの評価法で症状による生活の困難さを的確に表わすことができない場合は、必要に応じて他の評価法を用いたり、アンケートを作成したりしてもよい。

⑥ 実施医療機関

けいれん発作等の有害事象発生時に救急対応が可能な施設において治験を実施する。

⑦ 治験データの取得方法

原則的に総論に準じて行う。

⑧ 試験中の有害事象が生じた時の対応

原則的に総論に準じて行う。

⑨ 安全性評価

原則的に総論に準じて行う。

⑩ 最終評価

rTMSは単なる機能の改善(例えば麻痺の改善)だけでなく、ADLやQOLの改善にむすびつくものでなければならない。rTMSを受けるための時間的・身体的・精神的負荷や有害事象の発生等を考慮して、最終的な有用性を判断しなければならない。

5.試験結果の報告(構成内容)

原則的に総論に準じて行う。

神経機能修飾装置に関する評価指標―各論

(2) 運動機能回復のための大脳皮質刺激装置

1.はじめに

近年、脳卒中後の片麻痺患者に対する大脳皮質運動野刺激の効果が報告されている。しかし、これは一時的な植込みによる刺激の効果について検討したもので、慢性植込みによる慢性刺激の効果について検討する必要がある。また、脳卒中後の運動麻痺の治療としてのリハビリテーションに大脳皮質運動野刺激を加えることによって、多くの運動麻痺患者に対する福音をもたらすものと考えられている。このような臨床的背景にもとづき、運動機能回復のための大脳皮質刺激装置に関する品質、安全性及び有用性の評価を適正かつ迅速に進められるよう、本各論を評価指標に含める。

2.本各論の対象

本各論は、運動麻痺患者に対する大脳皮質運動野刺激装置を対象とする。この大脳皮質刺激装置は、脳卒中後の運動麻痺を回復させる目的で大脳皮質運動野の慢性刺激を行う装置であり、刺激電極、延長ケーブル、慢性植込み型刺激装置からなる。

本装置の刺激電極を大脳皮質運動野の硬膜外腔に留置し、前胸部皮下に植え込んだ刺激装置と延長ケーブルで結線し、慢性刺激を行うことによって、脳卒中後の運動麻痺を改善させることを目的としている。

3.本各論の位置づけ

慢性脊髄刺激装置、脳深部刺激装置と同様に、装置を慢性的に体内に植え込み、大脳皮質運動野の慢性刺激を行うものであるが、これまでのように疼痛や不随意運動の治療を目的としたものではなく、運動麻痺を改善するための装置である。

4.評価にあたって留意すべき事項

(1) 基本的事項

開発の経緯

大脳皮質運動野刺激が運動機能回復に有効であることが報告されている。これまでの報告例は、リハビリテーションに合わせて一時的に刺激を行うものであり、運動麻痺を改善するための慢性植込み型刺激装置は開発されていない。これまでは、脳深部刺激装置を用いて大脳皮質刺激を行っていたため、大脳皮質刺激に有用な陽極を用いた単極刺激が困難であり、プログラムされた時間間隔で多数の刺激点を順番に刺激するような機能は備えていない。また、刺激電極の種類も不十分であった。本装置は大脳皮質の慢性刺激を目的として開発されたものであり、大脳皮質刺激に適した刺激電極の開発も同時に行なう。

(2) リスクマネジメント

疼痛の制御を目的としたこれまでの大脳皮質運動野刺激では、僅かであるが100Hz程度の高頻度刺激によって痙攣を誘発する可能性が報告されている。また、50Hz以下の刺激を用いることによって安全に大脳皮質刺激を行うことができることも報告されている。「神経機能修飾装置に関する評価指標―総論」のリスクマネジメントの項に従い、大脳皮質運動野の長期刺激の安全性について検討すること。

(3) 非臨床試験

1) In vitro評価

本装置に用いる電極は、長期間の硬膜外留置を行っても安全であること。

刺激装置は、単極刺激と双極刺激が選択でき、単極では陰極のみならず陽極刺激も行えるものとする。また、適切な刺激頻度、パルス幅、刺激強度を選択することができることが望ましい。さらに、刺激装置は電池を内蔵しており、長期間の刺激を行うことができるものとし、必要な場合には充電によって繰り返し使用できることが望ましい。

2) In vivo評価

① 短期試験

動物試験において大脳皮質運動野慢性刺激を行い、大脳皮質に対する影響を検討する。刺激は50Hz以下の刺激頻度を用い、運動閾値の80%強度の刺激を行う。慢性刺激の部位についての組織評価ならびに植込み前後での神経機能評価:運動機能を評価する。また、神経に障害を与える最小の刺激強度を明らかにするため、種々刺激条件における最小単位の動物数を用いた急性試験を行う。(すでに他の治療法でデータがあるものは省略できることがある。)

② 長期試験

装置を動物の神経組織に対して可能な範囲でなるべく長期間(3か月から6か月)植え込み、取り出し後の埋植部位周辺組織の組織評価を行うこととする。また装置が腐食や絶縁の悪化によって故障していないかどうかも評価することとする。(すでに他の治療法でデータがあるものは省略できることがある。)

(4) 臨床試験(治験)

1) 医療機器の臨床試験の実施の基準(医療機器GCP)の遵守

原則的に総論に準じて行う。

2) 評価

治験で実施する各試験相全てのプロトコール、市販後の使用成績を追跡するための調査計画及びそれらの方法が科学的に正しいことを詳細に治験計画書として提示することが求められる。

3) 治験計画書

① 基本的な事項

原則的に総論に準じて行う。

② 治験対象

当該装置は、てんかんの既往がなく脳卒中後の運動麻痺を呈する症例を対象とする。ただし、原疾患に対する急性期の治療が終了していない症例は除く。

③ 使用目的と適応条件

当該装置は脳卒中後の運動麻痺を呈する症例の運動麻痺回復を目的として、大脳皮質運動野を慢性刺激するための装置である。

④ 症例数と実施期間

a) 症例数

当該装置の検討に必要な症例数に行う。また、本検討には対照群を設けることは倫理上困難であるので、特に求めない。また、信頼できる海外データは症例数設定に勘案できるものとする。なお、追跡調査への同意をすべての対象患者で取得することが望ましい。

b) 期間

けいれんの有無、全身状態、運動機能を術後、6か月前後まで継続的に記録する。

⑤ エンドポイント設定

a) 安全性

当該装置使用後に対象患者の運動機能を評価する。また、脳波検査を行い、てんかん活動を自発するようになっていないか、さらには精神面の健康評価についても行うこと。

b) 有効性

当該装置を用いた有効性の検討では、対照群を設けるのが困難である。このため、運動機能の検討については、術後に1か月単位で刺激のON―OFFを交互に行うクロスオーバー試験を行う。運動機能の指標としては、Fugl-Meyer Scale,Modified Rankin Scaleに加えて、タッピングのスピード、歩行速度の変化等についても検討する。

⑥ 実施医療機関

これまでに大脳皮質運動野刺激の十分な経験を有する施設を選択し、当該装置の検討が可能な数施設で行う。

⑦ 治験データの取得方法

各施設で運動機能回復についてのクロスオーバー試験を行い、この結果を集計する。

⑧ 治験中の有害事象が生じた時の対応

けいれん等の有害事象が生じた場合には刺激を中止して、その治療を優先する。また、その原因について検討し、安全性を確保することに努める。

⑨ 安全性評価

有害事象の項目毎にその評価結果を具体的かつ明確に示すこと。

⑩ 最終評価(有用性の評価)

最終的な有効性の評価についてまとめる。

5.試験結果の報告(構成内容)

当該装置を用いた各種試験の目的、方法、結果、結論をまとめる。

神経機能修飾装置に関する評価指標―各論

(3) 人工視覚装置

1.はじめに

近年の眼科学における診断技術と治療法の進歩は目覚ましく、かつて難治と言われた眼疾患の多くが治療可能となってきている。しかし、視細胞の機能が喪失した網膜色素変性や瘢痕期加齢黄斑変性等をはじめとする網膜変性疾患に対しては有効な治療法がないのが現状であり、我が国での失明原因の上位を占めている。最近、このような疾患に対して視覚回復の一つとして、人工視覚システムの開発が行なわれている。その様な情勢において、人工視覚システムの品質、安全性及び有効性の評価を、適正かつ迅速に進められるよう、本各論を評価指標に含める。

2.本各論の対象

神経網膜、視神経、又は、大脳皮質を電気刺激することにより、最終的に大脳皮質視中枢における神経細胞の興奮を誘導し、視覚の構築を図ることを目的とする装置(神経機能修飾装置)に適用される。

基本的には、網膜上、網膜下、脈絡膜上等の眼球内、脈絡膜上腔又は眼球壁のいずれかに電極を設置するタイプ、視神経に刺激電極を設置するタイプ、大脳皮質を直接又は間接的に刺激するタイプがあるが、その他、視覚経路にかかわる神経組織を刺激するものも含む。逆に、皮膚感覚等で視覚の代用を目指すような、視覚神経経路以外の刺激を行うものは含まない。

参考までに各種視覚装置の例を示す。

3.本各論の位置づけ

原則的に総論によるところとする。

4.評価にあたって留意すべき事項

(1) 基本的事項

原則的に総論に準じて行う。ただし人工視覚装置に特有な以下の点に留意する必要がある。

・ヒトの目や頭のサイズのバリエーションに、インプラントのデザインがいかにして対応するかの説明。

・刺激電極に組み込まれている光検出装置、又は、ビデオカメラ等のセンサーに関し、解像度、センサーの形状、センサーの位置、視野、その他の視覚情報取り込み能力等の説明。

・センサーで取り込んだ画像情報の処理機構(薄暮時や夜間の画像からのコントラスト調整等)及び装置の説明。

・外部端子、送信器、送信用コイル、画像処理装置と接続する方法 等。

(2) リスクマネジメント

原則的に総論に準じて行う。

(3) 非臨床試験

原則的に総論に準じて行う。ただし人工視覚装置に特有な以下の点に留意する必要がある。

・網膜電図(electroretinogram:ERG)、視覚誘発電位(visual evoked potential:VEP)、又は、電気誘発電位(electrical evoked potential:EEP)のような視覚誘導反応試験の結果を示すことが望ましい。

・有効性の指標として、動物での行動試験や大脳皮質での細胞興奮等から、視力・2点弁別の視角推測値を示すこと等が望ましい。

・特に装置の埋植部又は接触部を含む、眼球及び網膜の組織検討結果(長期は6か月以上が望ましい。)を示すべきである。大脳皮質を直接又は間接的に刺激するタイプは、眼球での安全性を示す必要はないが、代わりに、大脳組織に萎縮や変性が生じないことを示す必要がある。

(4) 臨床試験(治験)

原則的に総論に準じて行う。ただし人工視覚装置に特有な以下の点に留意する必要がある。

・主要エンドポイントして、以下に挙げる安全性及び有効性を示す必要がある。慢性の治験は6か月以上の経過観察を行うことが望ましい。

・安全性としては、具体的に、眼内、眼周囲、及び人工視覚装置埋設範囲に、感染や炎症、瘢痕、萎縮が生じていないこと等を組織学的に示すこと。また、眼圧上昇が生じると残存する神経節細胞が細胞死・神経軸索の萎縮に陥り、当該装置を使用しても視覚再生効果が得られなくなるので、眼圧上昇その他の神経節細胞死を誘導するような病変(例えば、網膜剥離や眼内増殖)が生じないことを確認することが望ましい。大脳皮質を直接もしくは間接的に刺激するタイプは、眼球での安全性を確認する必要はないが、代わりに、MRI等を用い、大脳の萎縮や変性が生じないことを確認することが望まれる。また、けいれん発作・てんかん発作の誘発や感染の兆候がないことを示すことが望ましい。

・有効性としては、視力改善等視覚機能改善の程度を示す。そのために、植え込み前の患者の残存視機能の評価方法と評価データを示す。また、患者の精神状態を含めた付随する病態を検査することで、適応や除外を決定する基準を示す必要もある。視力評価としては、低視力視力表、格子視力を用いた視力が測定可能であれば、その変化を示す。

・副次エンドポイントとして、患者のLow visionの状態での機能性の評価結果を示す。目的とする物体の方向が判るか、手に取ることができるか、離れた目標への独歩移動が可能か等を示す。日常生活の評価、生活の質のアンケートを施行し、その結果を示す。刺激によって見えるホスフェンの空間的地図を作成し示すこと等が望まれる。また、神経保護効果が見られるようであれば、そのことを示唆する視野や視力測定結果を追記する。

・その他、視機能評価のための臨床でのフォローアップの具体的計画、長期臨床試験のための考慮を示す。

5.試験結果の報告(構成内容)

原則的に総論に準じて行う。

神経機能修飾装置に関する評価指標―各論

(4) カテーテル型硬膜外電極を用いた脊髄電気刺激による術中血圧制御装置

1.はじめに

全身麻酔や脊椎麻酔、又は体外循環時の術中の血圧管理技術は、手術の成否のみならず、生死を左右する重要な医療技術である。しかし、今なお、術中血圧管理における過誤から植物状態になる症例や虚血による心機能障害のため重篤な後遺症におちいる不幸な症例が後をたたない。その理由の一つとして、これらの手術時には、血圧の迅速な制御に大きな役割を果たしている自律神経によるフィードバック制御機構、すなわち動脈圧反射系の機能が麻酔薬等により抑制されることがあげられる。そのため、少量の出血により、予期せぬ血圧低下を生ずることがある。

血圧低下後に急速輸液・輸血、又は昇圧薬を投与しても、血圧回復には一定の時間を要するため、その間に、脳や心臓等重要臓器の潅流障害が生ずる危険がある。また、従来の輸液・輸血・昇圧薬による血圧管理は、投与速度や量の判断に関するヒューマンファクタによりその成否が左右されることから、より迅速で精度の高い血圧管理技術が求められる。さらに、麻酔科医等のマンパワー不足を補うためにも、フィードバック制御技術を取り入れることにより、ある程度のオートメーション化を図ることが可能になり、臨床のニーズに応えられる。

以上のような臨床的背景に基づき、カテーテル型硬膜外電極を用いた脊髄電気刺激による術中血圧制御装置に関する品質、安全性及び有効性の評価を適正かつ迅速に進められるよう、本各論を評価指標に含める。

2.本各論の対象

本各論は、カテーテル型硬膜外電極を用いた脊髄電気刺激による術中血圧制御装置を対象とする。

基本的な装置の構成(図に例示)は、体外電気刺激装置とカテーテル型硬膜外電極である。体外電気刺激装置には、血圧モニターからの血圧信号が入力され、フィードバック制御論理にしたがって、刺激強度が決定され、カテーテル型硬膜外電極を通じて脊髄交感神経が刺激される。このようなフィードバック制御機構が動作中に、出血性低血圧が生じた場合には、自動的に脊髄電気刺激頻度が増加する。脊髄交感神経はその電気刺激の強度に応じて、神経終末からノルアドレナリンを放出し、速やかに血管を収縮させ、迅速な昇圧反応を導く。

3.本各論の位置づけ

当該装置は、脊髄に電気刺激を加えるが、脊髄の機能を回復させることを目的としたものではない。脊髄交感神経機能が温存されている対象者が麻酔薬等により脊髄機能が抑制され、術中血圧が不安定になることを防止するために使用される。したがって、当該装置の評価にあたっては、「神経機能修飾装置に関する評価指標―総論」に加えて、循環機能に関する科学的な検討が必要になる。

4.評価にあたって留意すべき事項

(1) 基本的事項

総論の基本的事項の項に従い、システムの原理、装置の仕様、使用方法等を詳細に説明すること。

(2) リスクマネジメント

総論のリスクマネジメントの項に従い、(1)過度の循環器応答(血圧の急上昇等)、(2)神経損傷、(3)誤作動への対応を含めて検討すること。

(3) 非臨床試験

総論の非臨床試験の項に従う。以下は対応する総論に対する特記事項である。

In vivo評価

<短期>

① 当該装置は、術中の血圧制御を目的として使用されることから、短期試験として、1時間の連続した電気刺激を行い、神経に傷害を与えうる最小の刺激強度をあきらかにするため、種々の刺激条件における最小単位の動物数を用いた急性試験を行う。

② 使用時に想定される最大の刺激強度を用いた刺激試験を、想定される最長の総刺激持続時間の2倍の時間行い、安全性を検討する。

(4) 臨床試験(治験)

1) 医療機器の臨床試験の実施の基準(医療機器GCP)の遵守

原則的に総論に準じて行う。

2) 評価

原則的に総論に準じて行う。

3) 治験計画書

① 基本的な事項

原則的に総論に準じて行う。

② 治験対象

当該装置は、脊髄刺激による血圧の制御が必要になる可能性のある患者を対象とする。ただし、その前提条件として、以下の患者要因と麻酔要因がともに満たされていること。

・患者要因:脊髄交感神経の機能が温存されていること。

・麻酔要因:脊髄交感神経刺激に対する反応性を低下させる作用のあるα遮断薬等が使用されていないこと。

③ 使用目的と適応条件

当該装置は、全身麻酔下手術において、大量出血や一過性血圧低下が予想される場合に使用される。

④ 症例数と実施期間

a) 症例数

原則的に総論に準じて行う。

b) 実施期間

当該装置は、術中使用に限定されているため、実施期間は特に設けない。ただし、使用後の長期有害事象の有無についての評価は、一般的神経学的診断法を用いて、1か月間行うことが望ましい。

⑤ エンドポイント設定

a) 安全性

当該装置使用後に対象患者の脊髄機能を評価し安全性について評価する。

b) 有効性

当該装置は、術中血圧の安全管理のために用いられるため、有効性の評価においては、当該装置を用いることによって、術中血圧がいかに安全管理されたかを評価しうる測定基準として、次のような項目を設ける。

・血圧値の安全域外値の時間積分量

・輸血量

・昇圧薬の使用量及び使用頻度

5.試験結果の報告(構成内容)

原則的に総論に準じて行う。

神経機能修飾装置に関する評価指標―各論

(5) 迷走神経刺激による心不全治療

1.はじめに

脳機能、神経機能の修飾のために神経の電気磁気刺激が用いられている。その中で自律神経を刺激することで種々の臓器に対する効果器応答をもたらすことができる。代表的な応答としては循環器系への応答を惹起しまた制御するものであり、循環器系の応答はダイナミックな応答を治療上必要とすることも多くニューロモジュレーションによるアプローチが有効である。

心不全では、交感神経過活動と迷走神経活動消退の生体応答が長期に続き、心機能をさらに悪化させ高い死亡率に結びついている。従来の心不全治療に加えて、人為的に迷走神経を刺激する治療法が開発され臨床応用に向けて研究が進んでいる。そのため、迷走神経に対する神経刺激装置に対する品質、安全性及び有効性の評価を適正かつ迅速に進められるよう、本各論を評価指標に含める。

2.本各論の対象

本各論は、迷走神経系を賦活化することにより、その求心性及び遠心性情報を修飾し、交感神経過活動と迷走神経活動消退を是正して心不全の長期予後を改善するための装置(神経機能修飾装置)を対象とする。

基本的には迷走神経を直接電気刺激するものを指すが、場合によっては、他の神経系や他の部位を電気刺激することによって間接的に迷走神経活動を増加させるものも対象に含む。

迷走神経電気刺激による心不全治療には長期の常時的な治療が必要なために、通常、神経刺激装置はジェネレータ、リード、電極をすべて体内に植え込まれるものであり、体外のプログラマにより無線等で動作条件を変更できるものが望ましい。また装置の小型化や長寿命化のために体外より定期的に電力を伝送できるものも対象に含む。迷走神経以外の部位を間接的に刺激する装置としては、体表や体表に近い皮下や筋内の部位を刺激する装置が対象に含まれ、そのような装置は体外に置かれ、電気刺激は時間設定により定期的に行われる。

3.本各論の位置づけ

原則的に総論によるところとする。

4.評価にあたって留意すべき事項

(1) 基本的事項

原則的に総論に準じて行う。ただし、迷走神経の直接電気刺激装置は、体内完全植込みのハイリスク機器であること、オンデマンドや時間設定による定期的な刺激でなく常時的に刺激を行うこと、刺激条件によっては過度の循環器系の応答をもたらすこと等からシステムの原理、装置の仕様、使用方法等を詳細に説明すること。体外に置かれる装置についてはこの限りではない。

(2) リスクマネジメント

原則的に総論に準じて行う。その中で、重要なハザードとして(1)過度の循環器応答(徐脈、不整脈、低血圧等)(2)連続刺激による神経損傷(3)ソフトウェア誤作動への対応を含めて検討すること。

本装置は患者に継続的に使用される装置であるため、日常の行動、移動環境、皮膚・臓器・器官の圧迫、装置の騒音、振動、荷重負担、アラーム、電磁波・低温等の環境等の与える影響についても検討すること。体外に置かれる装置については、日常の行動、移動環境、皮膚・臓器・器官の圧迫、荷重負担、アラーム、電磁波・低温の項は、この限りにない。

(3) 非臨床試験

原則的に総論に準じて行う。以下は対応する総論に対する特記事項である。

1) In vitro評価

① 神経機能修飾方法の妥当性

・作用部位の設定:刺激部位の差異は主作用を得るために必要な刺激条件と副作用の出現頻度や程度と関係するため、迷走神経刺激の詳細な部位を特定することが望ましい。

② 神経系に作用する装置部分の性能、安全性、信頼性

・刺激方向の設定(バイポーラであるかモノポーラであるか、モノフェイジックかバイフェイジックか):神経束に3つ以上の電極を接触させ、2つの電極で刺激を行い、他の電極を用いて陽極ブロック等の方法を用いて求心性又は遠心性のみの刺激を行う設定をする場合がある。その場合には、刺激が意図する方向と意図しない方向にそれぞれどの程度伝達されるのかを見積もることが望ましい。

・パルスの各フェーズにおける注入密度、注入量、周波数、波形とduration等(電極の場合には、電荷注入密度、注入電荷量、最大電圧、注入電荷のバランスをとる機能の有無と種類、複数の電極における同時刺激時の安全性):神経束に3つ以上の電極を接触させた場合の同時刺激時の安全性評価を行うことが望ましい。

③ 刺激制御装置の性能、安全性、信頼性

・患者の状態に応じた刺激制御機構:迷走神経刺激に伴う過度の循環器系応答を把握した際の神経刺激条件の変更機構・アラーム、徐脈に対するペーシング等のバックアップ、不整脈時のアラームを備えること。電極インピーダンス異常時の神経刺激条件の変更機構・アラーム、異常な神経刺激条件の検出・アラーム等の必要性は合理的な根拠に基づいて検討すること。

・患者への負荷を計測又は推定出来るシステムの付与:心拍数測定等による過度の循環器系応答の把握ができるモニターを備えること。定期的電極インピーダンス測定等の必要性は合理的な根拠に基づいて検討すること。

・目的に応じて設定した装置制御プログラムの妥当性:患者の状態に応じて制御プログラムを外部プログラマによって変更可能であることが望ましい。

④ エネルギー関連装置(電池、経皮エネルギー伝送装置、電気コネクター、ケーブル等)の性能、安全性、信頼性

・体内電池を含めた電池容量、電池寿命及び再充電回数の限界の妥当性:電池容量低下にともなう不適切な迷走神経刺激治療は心不全の悪化につながる可能性があるために、電池容量の低下に対するアラーム機能、バックアップ電源機能、定期受信時のモニター機能・緊急充電機能等を検討すること。

・ペーシングや除細動等の他の電気刺激装置との併用時(同一装置が多機能である場合を含む。)における他機能との残存電池容量の合理的分配についても検討することが望ましい。

・ペーシングや除細動等の他の電気刺激装置との併用時(同一装置が多機能である場合を含む。)において、ある機能が他機能に影響しないこと。またある機能の電極破損(短絡、断線)時にも他の機能に影響しない機構を検討することが望ましい。

⑤ その他、装置全体に求められる性能、安全性、信頼性

原則的に総論に準じて行う。

2) In vivo評価

・刺激効果確認試験:迷走神経刺激による心不全治療の真の刺激効果は生存率の改善であるが、生存率との改善との関連がすでに知られている種々の代理エンドポイントの改善によって効果の確認とすることも検討する。その場合、複数の比較的独立した代理エンドポイントがいずれも改善することを示すことが望ましい。代理エンドポイントとしては、左室機能(左室駆出率、左室径、左室重量等)、血行動態(心拍出量、左室拡張末期圧等)、神経体液性因子(ノルエピネフリン、エピネフリン、アンジオテンシン、BNP、TNF―α等)、自律神経機能(心拍変動、圧反射感受性等)から選択し組み合わせて用いることができる。代理エンドポイントの選択に当たってはその指標を選択した合理的理由を記載すること。

・植え込み前後での神経機能評価:迷走神経機能は主としてその効果器応答で評価される。しかし効果器応答の評価方法が十分に確立していない場合には、電極装着部位より上流よりの電気刺激による下流への刺激伝達の程度によって評価することも検討する。これらの評価では植え込み前の同種の評価結果をもとに比較検討を行う。

(4) 臨床試験(治験)

1) 医療機器の臨床試験の実施の基準(医療機器GCP)の遵守

原則的に総論に準じて行う。

2) 評価

原則的に総論に準じて行う。

3) 治験計画書

① 基本的な事項

原則的に総論に準じて行う。

② 治験対象

本装置は、原因にかかわらず、重症化した心不全患者を対象とする。重症心不全の治療においては一般に複数の治療法を併用し、個々の既存治療法はそれぞれ有効性が認められているものの予後は不良である。本装置に対する治験対象は他の心不全治療との併用を排除しない。対象者はNYHA機能クラスや左室駆出率等の重症度によって選択する。(選択基準は一律に定めない。)

③ 使用目的と適応条件

本装置は重症化した心不全患者において悪化している自律神経バランスを改善し、心不全の進行を防止してその予後を改善することを目的として使用する。

④ 症例数と実施期間

原則的に総論に準じて行う。フィージビリティ試験を各症例について6~12か月行った後に、次の段階の試験に進むことが望ましい。

⑤ エンドポイント設定

a) 安全性

迷走神経の刺激による心臓以外への臓器の作用として起こる可能性のある有害事象としては、嗄声、咳、息苦しさ、嚥下障害、のどや首の違和感、のどの痛み、吐き気、嘔吐等が知られている。これらのうち、咳、のどの痛み、嗄声、嚥下障害等は迷走神経刺激によるてんかんの治療においても見られている。これらのうち呼吸困難、嚥下障害や吐き気、嘔吐にともなう摂食量の低下が生じる場合は、迷走神経刺激治療を行うべきではない。

b) 有効性

迷走神経刺激による心不全治療では、総論記載の「神経機能」を「心機能(関連する神経体液性因子の濃度を含む。)」と読み替える。本装置による治療は基本的に既存治療法に追加するものであるため、対照は既存治療法とすることが望ましい。

主要エンドポイント

迷走神経刺激による心不全治療では真のエンドポイントは生存率(全死亡率、心血管死亡率、突然死の率)、入院回避率(全入院、心不全による入院)、心移植や補助人工心臓装着率、心移植候補への登録率やこれらの組合せとすることが多いが、治験の相によっては代理エンドポイントを用いた解析を検討することができる。代理エンドポイントとしては、左室機能(左室駆出率、左室径、左室重量等)、血行動態(心拍出量、左室拡張末期圧等)、運動機能(最大酸素摂取、最大運動負荷、6分間歩行等)、呼吸機能(換気/代謝比、酸素摂取/負荷比、運動時や睡眠時の周期性呼吸)、神経体液性因子(ノルエピネフリン、エピネフリン、アンジオテンシン、BNP、TNF―α等)、自律神経機能(心拍変動、圧反射感受性等)より適宜選択して用いることができる。これらの中で対象とする心不全患者の重症度に応じて、真のエンドポイントとの相関や因果関係の大きさを勘案し、なるべく独立した複数の機能を選択して代理エンドポイントとして用いることが望ましい。代理エンドポイントの選択に当たってはその指標を選択した合理的理由を記載すること。代理エンドポイントによる解析の場合でも、有害事象に関する検討と組み合わせて評価することが望ましい。

副次エンドポイント

心不全患者における質問紙法によるQOL評価方法(CHQ、MLHQ、QUAL―E、MacNew)は種々開発されており、迷走神経刺激による心不全治療においてもそれらを適宜組み合わせて使うことができる。また副次エンドポイントに加えて、サブグループ解析を行うことが望ましい。特に他の治療法との組合せに関するサブグループ解析は有用な情報を与える。

5.試験結果の報告(構成内容)

原則的に総論に準じて行う。

神経機能修飾装置に関する評価指標―各論

(6) ブレインマシンインターフェイス

1.はじめに

(1) 背景

ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)とは脳とコンピュータとの間で情報をやり取りすることにより、外部機器を制御したり脳に感覚情報を入力したりして、身体機能の一部を補完ないし強化する技術である。近年、その実現性が明らかになりつつあり、高齢者や障害者の日常生活を支援し、自立に役立つと考えられているものである。ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)と呼ばれることもある。BMIは計算機脳科学や多チャンネル神経活動計測・解析を中心とする神経科学の進歩により、約10年前より注目が高まり、現実味がでてきたものであり、今後、開発が急速に加速すると考えられる重要な分野である。

(2) 目的

BMIは様々な要素技術が有機的に統合されて初めて完成するものである。その発展は人類や社会に革命的影響を与えると予想される重要な技術であるが、特に医療分野はBMIが最初に実用化される分野の一つと考えられる。そこで本装置に対する科学的根拠を基盤にした品質、有効性及び安全性の評価を、適正かつ迅速に進めるために、本評価指標を作成した。作成にあたっては、最も早期に実用化が期待されるBMI装置として環境制御や運動・コミュニケーション機能補填に用いられるものを主な対象とした。さらに侵襲性の観点からは、開発・臨床試験(治験)に時間を要し、早期より対応が必要な体内植込み型のBMIを主な対象とした。

本各論では体内植込み型のBMIによる環境制御や運動・コミュニケーション機能補填装置について、総論で記述されていない装置特有の事項を記述する。

2.本各論の対象

このガイドラインは、神経系(中枢神経又は末梢神経)の信号を計測して、その信号を解読し、患者の意図にそって外部機器やコンピュータを制御することにより、環境制御や運動・コミュニケーション機能を補助・代行する装置のうち、体内植込み部分を有する装置に適用される。装置としては、筋電信号計測を併用するものや、神経系をはじめとした人体への刺激によりフィードバックを行い、代行・補填機能を補助する機能を有するものも含まれる。

3.本各論の位置づけ

ブレインマシンインターフェイスは神経機能修飾装置の中でも特に今後の研究・技術開発によるその著しい進歩が予想される分野である。したがって、評価にあたっては、対象とする疾病に応じた個別の装置特性を十分理解した上で、審査時点での研究開発の進展状況を勘案し、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。

4.評価にあたって留意すべき事項

(1) 基本的事項

装置についての説明は総論に準じて行う。体内植込み型BMI装置は体内植込み部分と体外部分に大きく2つに分けられるが、そのそれぞれについて総論の記述に準ずるものとする。基本的な装置構成の例を図示する。

1) 体内植込み部分

・植込み電極

・脳信号計測装置

・ワイヤレスデータ通信装置

・非接触充電装置

・バッテリー

・ケーブル

・ケーシング

2) 体外部分

治験で使用を想定する体外装置の全てについて記述すること。

・ワイヤレスデータ通信装置

・体外処理用コンピュータ(神経信号解析や外部機器制御等を行う。)

・運動機能補助・代行装置

ロボットアーム、電動車いす、嚥下・咀嚼補助装置等

・意志伝達補助・代行装置

カーソル制御や文字や画像を表示することで意志伝達を補助・代行する装置等

・環境制御装置

家庭電化機器等を操作する装置

(2) リスクマネジメント

原則的に総論に準じて、リスクマネジメント(JIS T 14971参照)及び品質マネジメント(JIS Q 13485又は医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理に関する省令参照)を行う。ただし、これらの規格に従うことができない可能性がある部分については、これらに準じた形でのリスクマネジメントを行うこととする。

本装置を利用する対象患者の特性をよく考慮してリスクマネジメントを行うこと。例えば本装置の対象患者は重度四肢麻痺や意志伝達困難な状態であることが想定され、重大なハザードが発生した場合に患者自身では応急対応が困難な場合があるので、リスク回避の方法やハザード発生時の復旧方法等対応可能な方法を考慮すること。また臥位や座位で利用される場合が多いことに留意し、皮膚・臓器・器官への圧迫による影響の可能性を考慮すること。

(3) 非臨床試験

原則的に総論に準じて行う。

申請書には、以下のin vitro評価、in vivo評価を含めることとする。含めない場合には、その理由を記載することとする。

1) In vitro評価

原則的に総論に準じて行う。

本装置は体内埋植部分の消費電力が大きくなることが予想される。消費電力が大きい場合には、特に以下の項目に関して十分な対策と評価を行うこと。