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○医薬品適応外使用に係る学術情報提供の指針作成について(依頼)

(平成22年10月8日)

(薬食監麻発1008第4号)

(日本製薬団体連合会会長あて厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知)

医薬品の適正な情報提供については、かねてより種々ご配意いただいているところです。

先般、「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)平成22年4月28日薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」第4(4)⑤において、別添1のとおり、「医薬品についての質の高い情報提供は学術的にも臨床現場にとっても参考となる。しかし、製薬企業が、(中略)学術情報の伝達や患者会への情報提供等を装って医薬品の適応外使用の実質的な宣伝行為を行っている場合や、(中略)その結果として医薬品の適正使用を阻害し、不適切な医薬品の使用が助長されて被害拡大につながってしまうことから、行政は、製薬企業の営利目的による不適切な情報提供や広告を指導監督する(後略)」と提言されております。

また、「内閣府行政刷新会議 規制・制度改革に係る対処方針について(平成22年6月18日閣議決定)」においては、別添2のとおり、未承認の医療技術、医薬品、医療機器等に関する情報提供の適正な在り方について検討し、結論を得ることとされております。

今般、平成21年度厚生労働科学研究費補助金事業による「医薬品適正使用のための学術情報提供に係る規制方策に関する研究」が、別添3のとおり報告され、その中で、製薬企業から医療機関に適応外使用情報を提供する際の骨子については、今後、製薬企業が行う情報提供の際の指針として活用されるよう指摘されております。

つきましては、貴職におかれましては、別添1及び別添2の背景等を踏まえ、本研究報告の趣旨をご了知の上、加盟関係団体等と協同の上、貴会として適切で質の高い情報提供に関する指針を作成していただきますようご依頼申し上げます。

(別添1)

「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)平成22年4月28日」(薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会)http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/04/s0428-8.html(抜粋)

(抜粋)

第2 薬害肝炎事件の経過から抽出される問題点

(1) フィブリノゲン製剤に関する主な経過に対応した整理

⑤ 1981(昭和56)年からのフィブリン糊の使用開始とその拡大

・ フィブリノゲン製剤にトロンビンなどの複数の薬剤を配合して糊状にし、出血箇所の閉鎖等に利用する「フィブリン糊」については、薬事法で承認された使用方法ではないにもかかわらず、旧ミドリ十字社では、「組織・臓器接着法」(1981(昭和56)年9月)等の小冊子(パンフレット)を作成(同年11月からフィブリン糊研究会を開催)し、これをプロパー(営業担当者)が営業用の資料として用い、販売促進活動を行っていた。

・ 旧ウェルファイド社(現在の田辺三菱製薬)の報告によれば、糊としての使用量は、1981(昭和56)年の2,800本から、1986(昭和61)年の20,400本に増加しており、外科をはじめ多くの診療科で様々な疾患に用いられていた。

・ このように幅広く使用されていたにもかかわらず、承認申請等の必要な手続を同社は行わず、厚生省もその実態に基づく指導を行わなかった。

(3) フィブリノゲン製剤、第Ⅸ因子製剤を通じた事実関係に基づく整理

③ 学会及び医療現場での情報活用

(中略)

・ 当時の製薬企業等のプロパー(営業担当者)は、情報の提供より営業活動が主体であり、そのための様々な活動が医薬品等の使用方法にも影響を与えていた。

(4) 2009(平成21)年度における検証作業による整理

② 医療関係者の意識調査

ア 医師に対するアンケート

(中略)

・ 実際にフィブリノゲン製剤を使用した医師のこの製剤に対する評価については、一定の効果を認めるものと、評価困難であるものとが相半ばしており、使用していた医師の間でもその評価が一致しなかった。一方でフィブリン糊については約7割の医師が有効性を評価しており、予防投与も約4割の医師が行っていた。

第4 薬害再発防止のための医薬品行政等の見直し

(3) 承認審査

③ 添付文書

イ 効能効果(適応症)の設定

・ 効能効果(適応症)は治験その他の安全性と有効性に係るエビデンスから科学的に許容される範囲で設定されるべきものであり、過去にその不明確さが科学的な根拠のない使用を誘発して薬害を引き起こしたとされる観点からも、効能効果の範囲は明確に記載するべきである。

ウ 適応外使用

・ 医薬品は本来薬事法上承認された適応症の範囲で使用されることが期待されているが、個々の診療において適応外処方が少なくない状況にあり、その理由や臨床的な必要性、安全性と有効性のエビデンスの水準も、不可避的なもの又はエビデンスが十分あるものから、そうとは言えないものまで様々である。

・ 不適切な適応外使用が薬害を引き起こした教訓を踏まえ、エビデンスに基づき、患者の同意の下で、真に患者の利益が確保される範囲においてのみ適応外処方が実施されるべきである。これについては、医療の緊急性に則し、最新のガイドラインの作成・更新により、実施されるべきであることから、個々の医師・医療機関の適切な対応に期待するだけでなく、学会や行政における取組が強化されるべきである。

・ 上記のような臨床上の必要性があり、安全性と有効性に関する一定のエビデンスが備わっている適応外使用については、患者の意思と医師の判断によることは当然として、速やかに保険診療上認められる仕組みを整備するとともに、最終的には適切な承認手続のもとで、承認を得られるように体制を整備し、製薬企業はもとより、国、学会が積極的な役割を果たすべきである。

・ 同時に、使用実態に基づく患者や医療関係者からの要望を把握し、医療上の必要性が高いものについては、届出・公表等による透明性を確保し、承認に向けた臨床試験の実施に対し、必要な経済的支援を行うべきである。

・ また、医療上の必要性が高く、既に十分なエビデンスがあって、新たに臨床試験を実施する必要性がない場合には、患者の当該医薬品へのアクセスが遅れることがないよう、上記の医療保険上認められる仕組みや、医学薬学上公知のものとして、承認申請を速やかに行う等の柔軟な対応も併せて検討すべきである。

・ その際、薬害防止の観点からリスク管理を行うことが重要である。明らかに不適切な適応外使用を防ぎ、また、後日安全性・有効性の評価・検証を可能とするためには、使用実態を把握し、収集されたデータを活用可能としておく必要があることから、例えば、医療関係データベースを活用した体制の整備も検討すべきである。

(4) 市販後安全対策等

⑤ 適正な情報提供及び広告による医薬品の適正使用

・ 医薬品についての質の高い情報提供は学術的にも臨床現場にとっても参考となる。しかし、製薬企業が、プレスリリース、医師の対談記事の配布、普及啓発広告、学術情報の伝達や患者会への情報提供等を装って医薬品の適応外使用の実質的な宣伝行為を行っている場合や、医薬品の効能効果について過度な期待を抱かせる広告・宣伝や患者会への情報提供等を実施している場合、その結果として医薬品の適正使用を阻害し、不適切な医薬品の使用が助長されて被害拡大につながってしまうことから、行政は、製薬企業の営利目的による不適切な情報提供や広告を指導監督するとともに、製薬企業等の質の高い医療情報提供者(MR)育成等も指導するべきである。

(5) 医療機関における安全対策

② 医療機関での措置の点検体制の構築

(中略)

・ 医薬品の適応外使用が不適切であったことが薬害を引き起こした教訓を踏まえ、適応外使用については、個々の医師の判断のみにより実施されるのではなく、(3)③ウ(52~53頁)に記載したエビデンスの水準への対応が必要である。

・ 医療機関において、適応外使用に関する使用実態を把握し、原則として医療機関の倫理審査委員会における報告や審議を含め、定期的な点検を行い、明らかに不適切な適応外使用を防ぐことが必要である。後日、安全性及び有効性の検証を行うことができるようにする仕組みも検討すべきである。

・ 一方、現実の医療現場では、刻々と変わる患者の状態に合わせた最善の判断を遅滞なく行うことが要求されるため、医療上必要な適応外使用を妨げ、患者が必要な治療の機会を逸することがないようにする視点が必要である。

・ 適応外使用を含め、科学的な根拠に基づく医療が提供されるよう、関連学会においても、EBMガイドラインの作成・普及を行うべきであり、行政もそれを支援すべきである。

・ 特に、製薬企業の営利目的の誘導(教育)による適応外使用や研究的な医療行為については、特に厳しい点検が求められることは言うまでもない。

(別添2)

○ 内閣府行政刷新会議 規制・制度改革に係る対処方針について(平成22年6月18日閣議決定)

http://www.cao.go.jp/sasshin/kisei-seido/publication/p_index.html

2.ライフイノベーション分野

規制改革事項 ④未承認の医療技術、医薬品、医療機器等に関する情報提供の明確化

対処方針 未承認の医療技術、医薬品、医療機器等に関する情報提供の適正な在り方について検討し、結論を得る。<平成22年度中に結論>

○ 内閣府行政刷新会議 規制・制度改革に関する分科会第一次報告書(平成22年6月15日規制・制度改革に関する分科会)

【ライフイノベーションWG④】

規制改革事項 未承認の医療技術、医薬品、医療機器等に関する情報提供の明確化

対処方針 未承認の医療技術、医薬品、医療機器等に関する情報提供の適正な在り方について検討し、結論を得る。<平成22年度中に結論>

当該規制改革事項に対する分科会WGの基本的考え方

○ 医薬品の広告については、「医薬品等適正広告基準について(昭和55年10月9日薬発第1339号各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知改正 平成14年3月28日医薬発第0328009号)」(以下、「55年通知」という。)において薬事法の解釈が示されているところである。

○ 55年通知の目的は、誇大広告等の禁止を通じて、医薬品等による保健衛生上の危害を防止することにあると解されるが、これにより、未承認の医療技術、医薬品、医療機器などの情報提供が出来ないとの指摘がある。

○ 新規技術の開発を進める上で、有効性と安全性のバランスに関する医師・市民とのコミュニケーションが重要であり、特に臨床現場の医師が海外等で開発中の技術、医薬品、医療機器の情報を得ることは、ドラッグラグ、デバイスラグの解消促進や臨床における選択肢の多様化を含め意義が大きい。

○ そのため、未承認の医療技術、医薬品、医療機器等に関する情報提供がより円滑にできるよう、情報提供可能な要件を明確化し、周知すべきである。

(別添3)

※ 厚生労働省ホームページ上において、研究報告書を掲載しております。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/koukokukisei/index.html

平成21年度厚生労働科学研究費補助金

(厚生労働科学特別研究事業)

研究課題「医薬品適正使用のための学術情報提供に係る規制方策に関する研究」

(H21―特別―指定―016)

平成21年度 総括・分担研究報告書

研究代表者 慶應義塾大学薬学部 望月眞弓 教授

研究分担者 慶應義塾大学薬学部 橋口正行 准教授

研究協力者

東京大学医学系研究科 久保田潔 特任教授

千葉大学大学院薬学研究院 黒川達夫 客員教授

社団法人 日本医師会治験促進センター

研究事業部 小林史明 部長

社団法人 日本病院薬剤師会

社団法人 日本薬剤師会

平成22(2010)年3月

目次

1.総括報告書

2.Ⅰ.海外での適応外使用情報の提供とそれに関わる法規制の現状調査(分担報告書)

3.別添〈1〉Good Reprint Practicesガイダンス(最終版)の全訳

4.別添〈2〉FDAガイダンスの注釈版の全訳

5.補足〈A〉Federal Preemption(連邦法の専占)およびCBE(Changes Being Effected)Supplement

6.補足〈B〉医薬品のDTC(Direct to Consumer)広告に関するFDAの規制の経緯と現状

7.Ⅱ.国内における医療機関、企業等における適応外使用の情報提供に関する実態調査

8.Ⅲ.製薬企業から医療機関―の適応外使用情報提供の整理

9.Appendix

Appendix 1……薬剤師用アンケート

Appendix 2……医師用アンケート

Appendix 3……プラメドアンケート

Appendix 4……薬事情報センター用アンケート

Appendix 5……製薬企業用アンケート

平成21年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業総括報告書

研究課題「医薬品適正使用のための学術情報提供に係る規制方策に関する研究」(H21―特別―指定―016)

(H21―特別―指定―016)

研究代表者 慶應義塾大学薬学部 望月眞弓 教授

研究要旨

製薬企業が行う医薬品適応外使用に係る学術情報提供のあり方と必要な規制方策について、骨子をまとめることを目的に、海外での適応外使用(off-label use)の情報提供とそれに関わる法規制の調査ならびに国内における適応外使用に関する学術情報提供の実態について調査し、製薬企業による医療機関への適応外使用情報提供案について整理した。

海外は、主として米国FDAのWebサイトを中心に利用して適応外使用の現状及び規則を調査した。また、国内における適応外使用に関する学術情報提供の実態は、300床以上の病院薬剤部・医師、都道府県の薬事情報センター、製薬企業「くすり相談」部門へのアンケート調査により行った。また、診療所・クリニック医師および中小規模の病院医師(主に300床未満)に対しても、インターネットによるアンケート調査を実施した。

米国FDAのWebサイト調査結果により、米国での適応外使用の現状ならびに情報提供に関するFDAの製薬産業へのガイダンス”Good Reprint Practices for the Distribution of Medical Journal Articles and Medical or Scientific Reference Publications on Unapproved New Uses of Approved Drugs and Approved or Cleared Medical Devices”(最終版、2009年1月発行http://www.fda.gov/oc/op/goodreprint.html)の情報を得ることができた。そのガイダンスでは、「適切な医学ジャーナルからの記事であること」、「論文は要約されたり、アンダーラインやマーカーなどで強調されたものでないこと」、「使用の際は未承認であることを記した目立つラベルをはがれないように貼付等」などの8項目を遵守すれば、off-label useに関する情報の配布を違法とするものではない」としていることがわかった。また、薬剤部、医師へのアンケート調査では、ほとんどが適応外使用または問合せの経験があり、適応外使用の内容は主に「国内販売されている医薬品の承認外の使用」、「製品として入手できないものを院内製剤として調製・使用」であった。情報の入手方法は主に「MR・学術部」、「文献、書籍の検索」、「学会・研究会」であったが、薬剤部に比べ医師では「MR・学術部」への情報依存度は低かった。現在、日本では製薬企業の適応外使用情報の提供はプロモーション活動につながることから禁止されているが、MRからの積極的な情報提供も少ないが存在した。一方、非プロモーションとして、ある一定条件下では適応外使用情報を提供していることも明らかとなった。これらのアンケート調査結果とFDAのガイダンスを参考に、本邦での製薬企業から医療機関への適応外使用情報提供案を作成した。製薬企業が行う医薬品適応外使用に係る学術情報提供のあり方と必要な規制方策について、骨子をまとめた。

研究総括

A.研究目的

医師等が、個々の患者の治療に当たって最適な医薬品投与を行うために活用する医薬品情報については、その主な情報源として、医師・薬剤師が自ら収集する情報以外に、製薬企業等が行う情報提供が考えられる。しかしながら、主として製薬企業が行う情報提供の場合には、製薬企業による学術情報の伝達を装った事実上の宣伝活動があるとの指摘がなされている。このため、不適切な情報に基づく不必要な適応外使用の助長等により、健康被害の発生等、患者に不利益をもたらす事例が懸念されており、実際に、過去にフィブリノゲンを用いたフィブリン糊の使用など、社会的に注目されるC型肝炎ウイルス感染拡大などの事例も発生しているところである。

また、医師等が自らの判断により行う医薬品・医療機器の適応外使用については、薬事法により規制されておらず、患者により良い医療を提供するために、関連文献や学会発表などを参考にしつつ、医師等の責任の下に適応外使用が行われている。この場合医師等は、製薬企業に対して、当該製品関連の情報として、適応外使用に関する情報提供を求める場合もあり、そのような場合は、国内で有効性・安全性が確認されていないことを踏まえ、当該製品の使用を助長することなく、科学的にも明確で且つ公平な情報提供が確保される必要がある。

米国では、このような製薬企業が行う学術情報提供について、2009年1月にFDAから、適応外使用情報のプロモーション活動への規制に関する新しいガイドラインが公表され、医学雑誌記事を用いた情報提供の取扱いが示されたところである。

我が国においても、企業における医師等への適切な学術情報提供のために必要な国内での規制方策を検討する必要がある。このため、本研究は、国内外における製薬企業による医療従事者への適応外使用に関する学術情報提供の実態調査、法規制等について調査及び分析を行い、適応外使用に関する学術情報の適切な提供について検討を行うとともに、これらのあり方と必要な規制方策について、骨子をまとめることを目的とするものである。

B.研究協力者

東京大学医学系研究科 久保田潔 特任教授、千葉大学大学院薬学研究院 黒川達夫 客員教授、社団法人日本医師会 治験促進センター研究事業部 小林史明 部長、社団法人 日本病院薬剤師会、社団法人日本薬剤師会

C.研究方法

本研究は、下記の3項目から構成される(研究方法の詳細は報告書を参照)。

Ⅰ.海外での適応外使用情報の提供とそれに関わる法規制の現状調査(担当:望月眞弓)

本調査は、株式会社メディカルパースペクティブに調査委託を行なった。調査方法は、Webサイトを中心に利用して、主として米国での適応外使用の現状及び規則を米国FDAのWebサイトより調査した。

Ⅱ.国内における適応外使用の情報提供に関する医療機関・企業等に対する実態調査(担当:望月眞弓、橋口正行)

国内における適正使用のための学術情報提供の実態調査は、300床以上の病院薬剤部・医師、都道府県の薬事情報センター、製薬企業「くすり相談」部門へのアンケート調査により行った。また、診療所・クリニック医師ならび中小規模の病院医師(主に300床未満)を対象とした、インターネット調査も行った。

Ⅲ.製薬企業から医療機関への適応外使用情報提供の整理(担当:望月眞弓、橋口正行)

総括検討会において製薬企業から医療機関への適応外使用情報提供の基準ならびに提供情報のレベルを検討し、適応外使用情報提供案を表に整理した。

なお、本研究において『適応外使用』に該当する場合として、①国内販売されている医薬品の承認外の効能での使用、②国内販売されている医薬品の承認外の用法・用量での使用、③国内で開発中(非臨床、治験、承認申請中)の医薬品の使用、④海外でしか承認がない医薬品の使用、⑤院内製剤として調製して使用、⑥禁忌等で使用が制限されている患者(小児、妊婦・産婦・授乳婦も含む)への使用などとした。ただし、ここでの『適応外使用』は医学研究を目的とした場合を除外した。

D.研究結果・考察

「Ⅰ.海外での適応外使用情報の提供とそれに関わる法規制の現状調査」では、主として米国FDAのWebサイトを中心に利用して適応外使用の現状及び規則を調査した結果、米国での適応外使用の現状ならびに情報提供に関するFDAの製薬産業へのガイダンス”Good Reprint Practices for the Distribution of Medical Journal Articles and Medical or Scientific Reference Publications on Unapproved New Uses of Approved Drugs and Approved or Cleared Medical Devices”(最終版、2009年1月発行http://www.fda.gov/oc/op/goodreprint.html)の情報を得た。このガイダンスでは、FDAは「適切な医学ジャーナルからの記事であること(独立した専門家による原稿審査、および著者の利害関係の公開がなされており、製薬企業の意向で作成されたものでないこと)」、「学術的に健全で、十分に管理された研究について記述されていること」、「論文は間違いや誤解を招くようなものではなく、また、著者もしくはジャーナル側が撤回したものや、FDAが過去に誤りを指摘したものでないこと」、「国民の健康に著しいリスクをもたらすようなものでないこと」、「論文は要約されたり、アンダーラインやマーカーなどで強調されたものでないこと」、「使用の際は未承認であることを記した目立つラベルをはがれないように貼付し、その使用における安全性に関する情報を提供し、著者の利害関係について公開すること」、「現在承認されている添付文書を同封すること」、「この資料を販促資材と一緒に配布しないこと」を遵守すれば、off-label useに関する情報の配布を違法とするものではないとしていた。このようにFDAは製薬企業に対する適応外使用情報提供の条件を設けていた。さらに、医薬品の安全性および有効性を評価するのはFDAであるが、その医薬品がメディケアの加入者に妥当かつ必要な医薬品であるかどうかを判断するのはCMS(メディケア・メディケイド・サービスセンター)であり、たとえFDAが承認していない適応症(off-label)でも、もし権威のあるコンペンディア(医薬品処方指針)や認定されたジャーナルに有用性が記載されていれば(すなわち、”medically accepted indication”であれば)、CMSは償還を決定できる。このように米国政府はCMSにより広い権限を与えていることがわかった。

「Ⅱ.国内における適応外使用の情報提供に関する医療機関・企業等に対する実態調査」では、薬剤部での医師からの適応外使用情報の問合せの経験、医師の適応外使用の経験の有無は、約9割の薬剤部、7~8割の医師で経験があった。このように薬剤部、医師のほとんどが適応外使用または問合せの経験があり、内容は主に「国内販売されている医薬品の承認外の使用」、「製品として入手できないものを院内製剤として調製・使用」であった。その情報の入手方法は主に「MR・学術部」、「文献、書籍の検索」、「学会・研究会」であったが、薬剤部(62%)に比べ医師(12%)では「MR・学術部」への情報依存度は低かった。現在、日本では製薬企業の適応外使用情報の提供はプロモーション活動につながることから禁止されているが、MRからの積極的な情報提供も少ないが存在した。製薬企業での「適応外使用」情報に関する問合せは、企業間で件数のバラツキはあったが全社とも経験を有していた。情報提供の考え方は、「一切提供しない」と回答した1社を除き、他のすべての企業は「一定の条件下で提供する」と回答していた。医師、薬剤部でのアンケート調査結果と合わせて考えると、非プロモーションとして、ある一定条件下では適応外使用情報を提供していることも明らかとなった。薬事情報センターへの問合せは、薬剤師が最も多く、内容は医師、薬局での調査を同様に主に「国内販売されている医薬品の承認外の使用」であり、適応外使用情報の入手先として薬剤師は薬事情報センターも利用使用していることが明らかとなった。

「Ⅲ.製薬企業から医療機関への適応外使用情報提供の整理」では、米国FDAの製薬産業へのガイダンスと国内のアンケート調査結果を参考にして、本邦での製薬企業からの医療機関に適応外使用情報を提供する際の指針案を作成した。情報提供は、efficacy情報とsafety情報に分け、「off-label use」については、Indication、Dose、Special Population、「off-license use」については、Indication、Dose/Dosage Form、Special Populationとして、望ましい企業からの情報提供の基準をA、B、Cのランク付けして、表に整理した。またそれらの提供する情報のレベルについても記載した。

E.結論

製薬企業が行う医薬品適応外使用に係る学術情報提供のあり方と必要な規制方策について、骨子をまとめることができた。今後、本邦での適応外使用に関する情報提供の際の指針として、製薬企業にこの表を活用してもらい、医療機関においてこの表の有用性を評価する必要がある。これはいつの時代でもベストのものとして固定されるべきではなく、医療環境、情報環境や国民ニーズ等の変化に応じ適宜見直し等を行い、常に患者・国民の利益に最も適した医薬品関連提供の道しるべとしていただくことを希望する。