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○向精神薬等の過量服薬への取組について

(平成22年9月10日)

(障精発0910第1号)

(都道府県・指定都市精神保健福祉主管部(局)長あて厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課長通知)

平素より精神保健福祉行政の推進にご尽力を賜り、厚く御礼申し上げます。

「向精神薬等の過量服薬を背景とする自殺について」(平成22年6月24日付け障精発0624第1号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課長通知)にて、過量服薬への注意を喚起したところですが、9月9日、第7回厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチームにおいて、別添1、2のとおり、過量服薬への具体的な取組及び今後の対策についてとりまとめましたので、貴自治体における今後の取組の参考にしていただくようお願いします。

なお、本件については、各都道府県・保健所設置市・特別区衛生主管部(局)に対しては、別添3のとおり、厚生労働省医薬食品局総務課長から、「向精神薬等の処方せん確認の徹底等について」(平成22年9月10日付け薬食総発0910第1号)により、通知が発出されているので、申し添えます。

別添1

別添2

過量服薬への取組

―薬物治療のみに頼らない診療体制の構築に向けて―

平成22年9月9日

厚生労働省

自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム

1.基本的な考え方

○ 厚生労働省では、本年1月に「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」(以下「PT」という。)を組織し、5月に省としての取組指針としてとりまとめを行い、精力的に自殺対策を推進しているところである。

○ 最近の実態調査結果や報道においては、うつ病等により精神科や心療内科等を受診している患者について、医師から処方された向精神薬(抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬、抗精神病薬)を、指示された服薬量よりも過量に摂取する(以下「過量服薬」という。)例が指摘されている。

厚生労働省としては、毎年3万人を超える自殺者を一人でも減らしていくため、この課題について取り組んでいく必要があると認識しており、6月に、いわゆる向精神薬の投与日数や投与量に一層の配慮をすべきとの注意を喚起する通知を、地方自治体や医療関係団体に発出したところである。

○ しかしながら、過量服薬の問題は、もとより単純に解決する課題ではない。

患者側の立場から見ると、過量服薬の背景には、症状が改善せずやむなく投与される薬剤の量や種類が多くなってしまう、長期の投与により依存的な状況になってしまう、薬剤の効果等について十分に理解できる説明を受けられない場合がある、薬物への依存という認識が不足しており医師に処方を求めてしまう、といった様々なケースが存在している。

一方、診療側から見ても、患者の症状にあわせて投薬をした結果投薬量が増えてしまう、薬剤の処方を強く望む患者に対して説得が困難な状況がある、他の医療機関から重複して処方を受けていてもわからない場合がある、日常診療の中で、ひとりひとりに十分な診療時間を確保することができず、その結果、過量服薬のリスクのある患者に対しても、薬剤の種類はできるだけ少ないことが基本であると考えられるが、多種類の薬剤を投与せざるをえないような状況がある、説得なく処方を拒否すると医療から遠のいてしまう恐れがあるなど、様々なケースが存在している。

こうした患者側及び診療側の要素が、それぞれのケースで絡み合い、結果として過量服薬の課題を生じさせているのが現状であり、いずれかの要素を取り除けば解決する性格のものではないことには留意が必要である。

○ この問題は、単に薬剤の処方というだけでなく、患者との良好な治療関係を保つことができるような充分な診療体制が不足していることや、患者に対する知識、薬物の入手方法など、根本的な解決に向けては、精神科医療のみならず、多くの領域が関与する根の深い問題である。

○ 過量服薬は、単に処方を制限したからといって解決する問題ではなく、不用意な規制は、患者を医療から遠ざけることになりかねないことに注意すべきであり、患者が適切な医療にアクセスでき、患者の精神症状に応じて、適切な処方ができるよう体制を整備することが肝要である。医療から遠ざかってしまうことは、逆にうつ病の増加、自殺者の増加につながる危険性もあることは、十分に留意すべきである。

○ 一方で、我が国の精神科医療については、諸外国に比して多種類の薬剤が投与されている(いわゆる多剤投与)の実態があると指摘されており、このことが過量服薬の課題の背景にもある。多剤投与の課題については、厚生労働省としても問題意識を持っている。

(※)「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」(座長 画像2 (1KB)別ウィンドウが開きます
口輝彦国立精神・神経センター総長)第22回資料(平成21年8月)では、統合失調症患者に対する抗精神病薬併用投与の国際比較の研究報告によると、多くの国では単剤投与が50%以上であるのに対し、日本は単剤投与が20%未満であることや、抗うつ薬多剤併用の実態調査によると、他国では多剤併用率が3.4%~25%程度であるが、日本では19.0%~35.9%との状況について報告がなされた。

○ こうした認識の下、厚生労働省では、この課題に取り組む第一歩として、有識者からヒアリングを行い実態把握を行うとともに、今後、取り組むべき対策についてとりまとめた。

ひとつひとつの施策が特効薬になるわけではないが、今後、様々な観点からの過量服薬の問題に対する対策を推進していく。

2.種々の実態調査やヒアリングでの指摘

(1) 心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究

○ 平成21年度の厚生労働科学研究班(研究代表者:加我牧子 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所長)が行った、研究協力を得られた自殺既遂者(76名)の遺族に対する実態調査によると、

① 亡くなる前1年間に精神科又は心療内科の受診歴があった者(精神科受診群)が50%である、

② 精神科受診群のうち、39歳以下の者が7割弱である、

③ 自殺時に向精神薬(睡眠薬、抗うつ薬、抗不安薬もしくは抗精神病薬)の過量服薬を行っていた例が、精神科受診群の約6割(直接の死因が、縊首、飛び降りなど、薬物以外の場合を含む。)

との報告がなされた。

(2) 精神疾患に合併する睡眠障害の診断・治療の実態把握と睡眠医療の適正化に関する研究

○ 平成21年度の厚生労働科学研究班(研究代表者:三島和夫 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所部長)の診療報酬明細書に関する調査によると、2005年から2007年の各年4月1日~6月30日の3ヶ月間に医療機関を受診し向精神薬を処方された20~74歳の患者について、

① 2005年~2007年の3か月処方率(4~6月の間に1度でも向精神薬が処方された患者の割合)の変化は、睡眠薬3.66%~4.58%、抗うつ薬2.02%~2.53%、抗不安薬4.42%~5.07%、抗精神病薬0.67%~0.84%で、すべて増加していた。

② 1日あたり平均処方力価(薬剤の効果を表す濃度として換算した一日あたり平均の処方量)については、すべての向精神薬で、平均力価は適正基準値の範囲内であった。

③ 睡眠薬・抗不安薬については、精神科・心療内科からの処方割合は4割以下、抗うつ薬・抗精神病薬は約7割が精神科・心療内科から処方されていた。

との報告がなされた。

(3) 【PTヒアリング】松本俊彦氏(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所室長)

○ 平成21年度の厚生労働科学研究班(研究代表者:伊藤弘人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所部長)の行った薬物乱用・依存者の実態調査によると、薬物乱用・依存患者402名のうち、薬物依存症の原因薬物は、覚せい剤191名(46.6%)に次いで、向精神薬63名(15.1%)が多かった。これは、向精神薬等を処方されている通院中の患者に対して、適切かつ慎重に対応することへの重要性が示唆される結果である。

○ これへの対応としては、薬物依存症に対する診療の質の向上、薬剤師を活用した声かけの推進、レセプト等を活用した重複処方の防止、過量服薬のリスクが高い患者に対する丁寧な診療の推進が必要である。

(4) 【PTヒアリング】三宅康史氏(昭和大学医学部救命救急センター救急医学講座准教授)

○ 自殺未遂者は救命救急センターに搬送されてくるため、自殺未遂の再発を防止するためには、救命救急センターのスタッフが、自殺未遂者に対して精神面を配慮した適切なケアを行うことが重要であることから、厚生労働省と日本臨床救急医学会が協力して、平成21年に救命救急センタースタッフ向けの対応マニュアルを作成した。さらに、このマニュアルを利用した研修会を行っており、こうした活動を一層推進していきたい。

○ 救急医療の現場では、自殺未遂者に対して精神科医療を受けさせたくとも、精神科医等の精神科スタッフが常勤で配置されている救命救急センターは少なく、また、配置されているところでも、夜間・休日には診療を受けることができない場合が多い状況にある。このため、一般医療と精神科医療との24時間体制での連携強化や、救命救急センターのスタッフの自殺未遂者への対応能力の向上などが必要である。

(5) 【PTヒアリング】悳智彦氏(埼玉精神神経科診療所協会会長)

○ 埼玉精神神経科診療所協会で行った自殺既遂者を対象にした実態調査によれば、自殺既遂者144名についてみると、自殺の手段とは別に自殺の際に、向精神薬等を過量に服薬していた者は約1割、比較的長期(1~5年)にわたり定期的に通院している者が最多、同居者がいる者の方が多いなどの状況がわかった。

○ さいたま市では、自殺未遂者等への対応を強化するため、救急医療機関に搬送された自殺未遂者に対する入院治療を行う精神科病院の確保、一般医療機関や行政機関を訪問したうつ病等で自殺念慮のある相談者を精神科の外来診療へ紹介する体制を確保、一般医療機関と精神科医療機関等の関係医療機関の協議会の実施を含む事業(GPE連携事業)を行う予定としている。

(6) 【PTヒアリング】林直樹氏(東京都立松沢病院精神科部長)

○ 松沢病院に自殺関連行動で入院した155人の患者について、分析したところ、境界性パーソナリティー障害(BPD)が56%であった。内容は、自己切傷41%、次いで過量服薬が32%であった。BPDのうち過量服薬の経験率は76%と高かった。また、入院患者107人を4年間観察したところ、他の精神疾患にくらべて、自殺企図の再発率が優位に高かった。BPDの重症患者は、過量服薬や自殺のリスクが高いことが示唆される。

○ BPDは、うつ病等の患者よりも治療が困難で、診療に時間がかかるが、チーム医療や十分な診療時間を確保することが困難である。過量服薬を含む自殺リスクの高い患者への対応のひとつとして、BPDに着目し、ガイドラインの普及や診療体制の充実が望まれる。

以上のように、過量服薬をめぐる実態には、さまざま要素が関与していると考えられるが、精神医療の質の向上や診療体制の充実、一般医療と精神科医療との連携強化など、根本的な解決には様々な観点からの対策が必要となると考えられた。

3.解決に向けて実施する取組と、今後検討していく対策

○ PTにおける議論や意見を踏まえ、過量服薬への対応として、【別紙1】に挙げる取組を実施していく。

○ さらに、過量服薬の課題に本格的に取り組むため、【別紙2】に挙げる事項について今後検討を進めていく。このため、PTに過量服薬対策について集中的に検討するワーキングチームを設置する。

4.おわりに

○ 我が国の自殺予防対策に関連し、過量服薬への対応という観点から、専門家からの意見を交え、今後、厚生労働省として、当面推進すべき取組についてまとめた。

○ しかしながら、「1 基本的考え方」で述べたとおり、この課題は様々な要素が複雑に絡み合った根深い課題であり、患者側の立場も含め今回行ったヒアリングと異なる観点でのヒアリングを実施するなど、今後も継続して対応策についての検討を深めて行く必要がある。

○ 厚生労働省では、ここでとりあげた対策を早急に取り組めるものから順次進めるとともに、薬物治療が精神科医療において欠くことができないものであることに留意しつつ、薬物治療のみに頼らない診療環境の整備に向けさらに検討を進め、今後も継続して、過量服薬や多剤投与に陥りやすいとされる精神科医療全体の課題に対応していく必要があると考えている。

【別紙1】

解決に向けて実施する取組

[[取組1] 薬剤師の活用―薬剤師は、過量服薬のリスクの高い患者のゲートキーパ―]

患者の多くは、処方薬を受け取る場合に薬剤師と面会することとなるため、薬剤師は、過量服薬のリスクの高い患者を早期に見つけ出し、適切な医療に結び付けるためのキーパーソンとして重要な役割と担うと考えられる。

例えば、薬局を訪問する患者の中で、向精神薬等を長期に処方されている患者については、薬剤師から、患者に対して「よく眠れているか」、精神科を受診していない患者に「精神科を受診しているか」などの声かけをすることや、必要に応じて処方医に疑義照会を行うなど、患者が適切な精神科医療を受けられるよう医療従事者間の連携を深めるといった役割が期待される。

このため、薬剤服用歴やお薬手帳などから向精神薬乱用が疑われる患者に対する声かけや処方医への疑義照会などを積極的に行えるようにし、過量服薬のリスクの高い方を早期に発見できるよう、薬剤師に対する向精神薬、睡眠薬、市販薬の誤用等と自殺行動に対する知識や研修機会の提供について検討する。

[[取組2] ガイドラインの作成・普及啓発の推進]

① 最新の診療ガイドラインの普及啓発を推進する

診療の現場では、患者の症状等から適切な診断と、それに基づき適切な治療法を選択することが重要である。厚生労働省では、これまでも各種ガイドラインの作成を行ってきており、今後も、向精神薬の処方に関する実態把握を踏まえた適切な処方のあり方に関するガイドラインの策定が予定されている。こうしたガイドラインについて、学会や団体等を通じて医療機関へ普及を図るとともに、[取組3]の研修事業の中で取り入れていく。

<参考> 厚生労働科学研究におけるガイドラインの策定状況について

○既に策定されているガイドライン

・平成20年度 境界性パーソナリティー障害ガイドライン

(H14―16)「境界性人格障害(BPD)の新しい治療システムの開発に関する研究」

(H17―19)「境界性人格障害(BPD)の治療ガイドラインの検証に関する研究」(牛島定信:東京女子大学文理学部(前・東京慈恵会医科大学精神医学講座))

・平成20年度 救急自殺未遂患者への対応―外来(ER)・救急科・救命救急センターのスタッフのための手引き―

(H18―20)(こころの健康科学研究事業)「自殺未遂者および自殺者遺族等へのケアに関する研究」(伊藤弘人:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)

・平成21年度 うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル

(H19―21)「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」(大野裕:慶應義塾大学 保健管理センター)

○今後策定される予定のガイドライン

・精神疾患に合併する睡眠障害の診断・治療ガイドライン(仮)

(H19―21)「精神疾患に合併する睡眠障害の診断・治療の実態把握と睡眠医療の適正化に関する研究」

(H22―24)「睡眠障害患者のQOLを改善するための科学的根拠に基づいた診断治療技術の開発」(三島和夫:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)

・統合失調症に対する抗精神病薬多剤処方の是正に関するガイドライン(仮)

(H22―24)「抗精神病薬の多剤大量投与の安全で効果的な是正に関する臨床研究」(岩田仲生:藤田保健衛生大学医学部)

・薬物依存症への認知行動療法マニュアル(仮)

(H22―24)「薬物依存症に対する認知行動療法プログラムの開発と効果に関する研究」(松本俊彦:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)

<参考>

英国立医療技術評価機構(NICE: National Institute for Health and Clinical Excellence)、米国精神医学会(APA: American Psychiatric Association)が作成している診療ガイドラインでは、

・軽症の場合には認知行動療法などの精神療法を薬物治療に優先して実施する方が有効であること、

・依存性の高い薬物(睡眠薬、抗不安薬等)については長期に使用しないこと、

・プライマリーケアでは抗うつ薬の併用療法は行わないこと

などとされている。

<ガイドライン>

・Depression / Treatment and management of depression in adults,including adults with a chronic physical health problem(2009 NICE)

・Borderline personality disorder / Treatment and management(2009 NICE)

・Practice Guideline for the Treatment of Patients With Major Depressive Disorder / Second Edition(2005 APA)

・Practice Guideline for the Treatment of Patients With Borderline Personality Disorder(2005 APA)

② 境界性パーソナリティー障害に関する診療ガイドラインの普及啓発

境界性パーソナリティー障害については、他の精神疾患に比べて過量服薬を含め自殺のリスクが高いことが知られている一方、治療が難しいため、正確な診断・治療が可能な専門医との連携が重要である。このため、厚生労働科学研究班等において作成された診断・治療に関するガイドラインについて、パーソナリティー障害に関する専門研修等を通じて、一層の普及啓発や専門医に関する情報提供を進める。

[[取組3] 研修事業に過量服薬への留意事項を追加]

① 厚生労働省の研修事業を活用

過量服薬の実態と対策を知ることは、医療従事者が積極的に対策に関与する体制を構築するために重要である。このため、厚生労働省で行っている研修事業において、過量服薬に関する留意事項を、研修内容に盛り込む。

過量服薬に関する留意事項については、過量服薬の現状、リスクの高い患者への処方の際の留意点、複数医療機関からの処方の有無の確認、チーム医療の重要性、最新の治療ガイドラインなど、研修対象に合わせた内容を検討する。

<参考> 厚生労働省の研修事業(平成22年度)

・かかりつけ医心の健康対応力向上研修事業

・自殺未遂者ケア研修

・認知行動療法研修

・心理職等精神保健研修

・パーソナリティ障害専門研修

・精神保健指定医研修会

② 関係団体による研修事業を活用

厚生労働省による研修事業のみならず、より多くの研修機会を活用することが、普及啓発を推進するために重要である。このため、日本医師会、日本薬剤師会、日本精神科看護技術協会等の関連団体が行う従事者向けの研修事業において、過量服薬の実態と対策に関する内容を盛り込むよう、関係団体に積極的に働きかける。

[[取組4] 一般医療と精神科医療との連携の強化]

① 救命救急センターにおける精神科ケアの対応能力の向上を推進する

自殺未遂者については、処方薬の過量服薬のケースが少なくなく、自殺未遂により救命救急センターに搬送された患者に対するケアに当たっては、過量服薬などのリスクを理解し、再発予防につなげることが重要である。

このため、自殺未遂者の診療を行う救命救急センターのスタッフ向けのマニュアルを作成し、自殺未遂者ケア研修事業を通じてその普及を図っているところであるが、この研修の中で、過量服薬に対する対応についても盛り込むことを検討する。

また、一般医療から精神科医療への連携を一層強化するため、精神科救急医療体制整備事業等を通じて、救命救急センター等における精神科医や精神保健福祉士等の精神科ケアを行うスタッフの配置を一層推進する。

② 一般医療と精神科医療との連携を強化する取組等を周知する

一般診療科にかかっている患者で、不眠等により睡眠薬や抗不安薬を処方しているが改善しない場合には、うつ病や薬物依存症等の可能性があり、過量服薬のリスクが高いと考えられるため、精神科専門医等に紹介してより適切な治療が行われるよう診療連携を構築することが重要である。このため、一部の自治体で行われているかかりつけ医と精神科医との地域における連携に関する先進的な取組について、他の自治体に周知すること等により、一般医療と精神科医療との連携を強化する。

<参考>

静岡県富士市(GP連携):

連絡会議等により地域の一般診療医と精神科医の連携を密にすることで、一般診療医から精神科医への円滑な紹介を可能とする取組(紹介システム)を実施。

兵庫県神戸市(GP連携):

精神医療の情報センターを設置し、一般診療科等からの相談に応じて、専門医を紹介する取組を実施。

埼玉県さいたま市(GPE連携):

自殺未遂者等への対応を想定して救命救急センター等からの依頼に応じて精神科医を紹介する取組を10月から実施予定。

[[取組5] チーム医療で患者と良好な関係を築くための取組]

過量服薬のリスクの高い患者に対しては、単に薬剤を処方するだけではなく、診療を通して患者と良好な治療関係を築くことが重要である。このため、精神科医だけでなく、様々な観点から患者とのかかわりを深められるよう、薬剤師、看護師、精神保健福祉士、臨床心理技術者等のチーム医療を担う人材に対して精神科の専門知識や研修機会(心理職等精神保健研修)を提供し、チーム医療を担える人材育成を推進する。

【別紙2】

今後検討していく対策

[[検討1] 向精神薬に関する処方の実態把握・分析]

向精神薬の処方に関しては、2(2)に示した研究においてある程度示されているが、処方した診療科名、処方量・種類、疾患名等についての実態把握は十分ではない。このため、有効な対策を検討する観点から、向精神薬に関する処方の実態把握と分析の方法について検討する。

[[検討2] 患者に役立つ医療機関の情報提供の推進]

医師の診療経験に関する情報など、どのような情報が患者にとって、適切な医療機関の選択に役立つかについて慎重に検討した上で、情報公開の仕組みについて検討する。

[[検討3] 不適切な事例の把握とそれへの対応]

医療機関の中には、著しく多種類の向精神薬を処方している、といった事例や、患者の中には、複数の医療機関から重複して向精神薬をもらっているといった事例など、特別な理由なく行われているのであれば、明らかに不適切と思われる事例の存在が指摘されている。今後、こうした事例について把握・確認する方策を検討する。加えて、そのような医療機関や患者があった場合の改善に向けた助言や指導の方法について検討する。また、複数の医療機関から重複して向精神薬を処方されている場合や、明らかに多種類の向精神薬の処方や、定められた用量を超えた処方がされている場合の薬剤師から主治医への確認の徹底等の対策について検討する。

[[検討4] 過量服薬のリスクの高い患者への細やかな支援体制の構築]

過量服薬のリスクの高い患者に対しては、患者家族への説明、患者や家族に定期的に訪問支援や電話相談を行うなど、医師だけでなくチームによる細やかな支援体制の構築が重要である。しかし、実際には、これらの支援は評価が十分ではないことやそれを行う人材が不足していることなどの課題がある。このため、モデル事業などにより、細やかな支援体制の構築に対する支援や人材育成の方策を検討する。

また、医療機関や薬局における、患者への薬剤に関する効果的な情報提供の方法について検討する。

[[検討5] 患者との治療関係を築きやすい診療環境の確保]

薬物治療のみに頼らない診療を実現するためには、精神科医や心療内科医等が日常診療において、患者と良好な治療関係を築きやすい環境を整えることが重要である。このため、診療時間を十分に確保するために必要な支援を検討する。

以上については、精神保健医療の枠組みを超え、医療制度一般に広く関わるものである。このため、関連制度との連携も視野に入れ、今後、引き続き検討を進めていく。

(参考)

<厚生労働省 自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム メンバー>

主査 障害保健福祉部長

副主査 安全衛生部長

幹事 精神・障害保健課長 労働衛生課長

メンバー 健康局

職業安定局

社会・援護局

政策統括官

独立行政法人国立精神・神経センター

清水康之内閣府参与

<ヒアリング> 平成22年7月27日第6回プロジェクトチーム

松本俊彦氏 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所

薬物依存研究部 診断治療開発研究室長

三宅康史氏 昭和大学医学部救命救急センター救急医学講座准教授

悳 智彦氏 埼玉精神神経科診療所協会会長

林 直樹氏 東京都立松沢病院精神科部長

○向精神薬等の処方せん確認の徹底等について

(平成22年9月10日)

(薬食総発0910第1号)

(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局総務課長通知)

先般、「向精神薬等の過量服薬を背景とする自殺について」(平成22年6月24日付け障精発0624第1号)により、向精神薬その他の精神疾患の治療薬(以下、「向精神薬等」という。)の処方に際する配慮について、別添1のとおり通知されたところです。昨日、厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチームにおいて有識者からヒアリングによる実態把握等が行われ、今後取り組むべき対策等について「過量服薬への取組―薬物治療のみに頼らない診療体制の構築に向けて―」が、別添2のとおりまとめられ、「向精神薬等の過量服薬への取組について」(平成22年9月10日付け障精発0910第1号)が、別添3のとおり通知されました。

貴職におかれては、別添1から3までの内容を御了知の上、適切な服薬指導等の徹底及び向精神薬等の処方せん確認に係る疑義照会等が行われるよう、貴都道府県下の医療機関及び薬局に対して周知徹底するとともに、関係団体等との協力の下、研修の機会が薬剤師に提供されるようご配慮方お願い申し上げます。