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○A型肝炎ウイルスの検出法について

(平成21年12月1日)

(食安監発1201第1号)

(各検疫所長あて医薬食品局食品安全部監視安全課長通知)

今般、国立医薬品食品衛生研究所において、食品中のA型肝炎ウイルスの検出法について検討した結果、別添のとおり「A型肝炎ウイルス検出法」としてとりまとめましたので、食品の検査にあたっては、本法により実施するようお願いいたします。

改正のポイント

A型肝炎ウイルスの検出法の主な変更点は以下のとおりです。

1) セミドライトマト、その他の食品の処理方法及びにそれらに必要な機器、試薬を記載したこと。

2) RNA抽出時のコントロールとしてポリオウイルス2型(Sabin株)に代えて、エコーウイルス9型(Hill株)を用いることとしたこと。

3) その他の部分についても、「厚生労働科学研究費補助金[食品安全確保研究事業]食品中の微生物汚染状況の把握と安全性の評価に関する研究」(平成15年度総括・分担研究報告書(主任研究者 西尾治))を基本として、若干の変更を加えたこと。

(別添)

A型肝炎ウイルスの検出法

Ⅰ.A型肝炎ウイルスのRT―PCR法

A型肝炎ウイルス(HAV)はピコルナウイルス科、ヘパトウイルス属に分類され、直径27nmの正20面体構造で、エンベロープを持たない。

A型肝炎ウイルスの感染は潜伏期が2から6週間、平均1ヶ月であることから原因食材の検査に当たっては潜伏期間を考慮すること。

1.必要な器具と試薬

1) 器具

サーマルサイクラー、超高速冷却遠心機、高速冷却遠心機(10,000rpm)、マイクロ冷却遠心機(15,000rpm)、超音波発生装置あるいは振盪器、ホモジナイザーあるいはストマッカー、Vortex、電気泳動装置、UV照射写真撮影装置、ヘラ、ハサミ、メス、ピンセット、濾紙、マイクロピペット(2、20、200、1000μl)、チューブ(0.5ml、0.2ml、1.5ml、2ml)、遠心管(15ml、50ml)、1ml注射器、18G注射針、フィルター付滅菌ポリ袋(ストマッカー用)。

2) 試薬

ショ糖、ポリエチレングリコール6,000、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、エタノール、Distilled water{(Deionized,Sterile,autoclaved,DNase free、RNase free) 和光純薬工業 Cat.No.318―90105,(以下「Distilled water」)}、A型肝炎ウイルス検出用プライマー(詳細については後述。)、エコーウイルス9型Hill株検出用プライマー(詳細については後述。)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA・2Na)、電気泳動用アガロースME(岩井科学、250g入り Cat.No.50013R)、エチジュウムブロマイド

Random primer:ロシュ・ダイアグノスティック、Cat.No.1034731

Super Script Ⅱ RNase H ̄ Reverse Transcriptase:Invitrogen、Cat.No.18064―014

100mM DTT:Super Script Ⅱに添付

QIA Viral RNA Mini Kit:QIAGEN、Cat.No.52904

DNase Ⅰ:TaKaRa、Code No.2215A

Ribonuclease Inhibitor:TaKaRa、Code No.2310A

Takara EX Taq:TaKaRa、Code No.RR001A

50倍濃度TAE buffer(Tris 242g、氷酢酸 57.1ml、0.5M EDTA・2Na(pH8.0)100ml)を蒸留水で1,000mlとする。

SDS―Tris Glycine buffer(Tris 3.03g、Glycine 14.4g、SDS 1gを蒸留水で1リットルとする。)

(注)

上記のランダムプライマー、逆転写酵素、DNase、リボヌクレアーゼインヒビター、耐熱性DNA合成酵素、ウイルスRNA抽出キット等は例示である。記載された製品と比較して同等以上の性能が確認されている場合は、記載された製品以外の製品を使用してもかまわない。

2.操作上の注意

1) 患者のふん便を取り扱う時には安全キャビネット内で行い感染防止に最大の注意を払うこと。

2) PCRを行う際には手袋をし、チューブの蓋を開ける時にはその前に軽く遠心した後、オープナーを用いること。

3) RT―PCR反応液の調製をする部屋とPCR産物の電気泳動の部屋を分けることとし、それができない時には、それぞれの操作を別のクリーンベンチ内で行うこと、クリーンベンチで行う際にファンは止めること。コンタミ防止とRNaseの混入防止に細心の注意を払うこと。

3.食品の処理

1) 二枚貝

二枚貝は中腸腺等の消化管にウイルスが主に蓄積しているので、中腸腺を対象に検査を行う。

(貝の中腸腺の処理)

超遠心機のローターとの関係もあるが、貝の中腸腺が1gあるいはそれ以上の時は1個または2個を1検体とし、貝1ロットに付き3検体から10検体(中腸腺として合計12gから24g程度を目途とする。)の検査を行う。シジミ、アサリ等のように中腸腺が1g以下の貝では中腸線1gから1.5gを1検体として、3~5検体の検査を行う。

(1) 殻付き貝類はヘラ、メス等で貝柱を切り、殻を開く。

(2) 貝の外套膜を取り、次いで中腸腺の周りに付いている脂質部分をメス、ハサミ等で可能な限り取り除き、中腸腺を取り出す。中腸腺を摘出する際にはできる限り周りの白い組織(脂肪)を取り除くこと。特にリアルタイムPCRを行うときには完全に取り除くこと。

(3) ホモジナイザーまたはストマッカー用のサンプリングバッグに中腸腺をいれ、次いで7~10倍量のPBS(-)を加え粉砕する。貝類の乳剤は15%以上の濃度にしないこと。15%以上にするとRNAの回収率が悪くなる。

(4) 粉砕した試料を遠心管に移す。

↓10,000rpm.20分間冷却遠心し、上清を新しい試験管に採る。

(5) 超遠心用遠心管に30%ショ糖溶液を遠心管量の10%程度入れ、それに(4)の遠心上清を静かに重層させる(ショ糖溶液層を壊さないように初めは特に注意して少量ずつ入れる)。

↓35,000rpm.180分間あるいは40,000rpm.120分間冷却遠心する。

(6) アスピレーター、注射器等で液層を吸引し、沈渣のみとする。

(7) 遠心管の管壁をPBS(-)で軽く1回洗い、管壁の周りの水分を滅菌した濾紙で吸い取る。

(8) 沈渣に200μlのDDW(ミリQ水を高圧滅菌後、0.22μmフィルターで濾過したもの。)を加え、浮遊させる。これをウイルスRNAの抽出に用いる。

(浮遊液に不純物が多いときには10,000rpm.20分間の遠心を行い、その上清をRNA抽出に用いる。)

(注) 超遠心機を使えない時には以下の操作を行う。

(ポリエチレングリコールによる濃縮方法)

(1) 前項1)(4)の遠心上清にポリエチレングリコール6,000を8%、NaClを2.1g/100mlになるように加え、軽く撹拌し4℃の冷蔵庫に一晩置く、または室温で2時間撹拌する。

↓5,000~12,000rpm、20分間、冷却遠心する。

(2) 上清をアスピレーター、注射器等で吸引し、沈渣のみとし、管壁の周りの水分を滅菌した濾紙で吸い取る。さらにPBS(-)で管壁を軽く2回洗い、その後濾紙で水分を完全に取る。

(3) 沈渣を200μlのDDWに浮遊させる。これをウイルスRNAの抽出に用いる。浮遊液に不純物が多い場合には10,000rpm.20分間の冷却遠心を行い、その上清をRNA抽出に用いる。

(貝の中腸腺の内容液を用いる方法)

貝の内容液からのウイルス検出は、大型の貝(平貝、ウチムラサキ貝等を検査の対象とする場合に用いる方法である。カキ、アサリ、シジミ等の小型の貝類ではウイルス回収率が必ずしもよくないので、本法は適さない。

(1) 前項1)(2)において、中腸腺を内容液が漏れないように取り出し、大きめの遠心管に入れ、ガラス棒等で中腸腺を潰した後、1度凍結融解する(-40℃以下で凍結させ、融解するときには50℃程度のお湯で、すばやく融解する)。

(2) 10,000rpmで20分間冷却遠心し、上層の液層を新しいチューブに採る。

(3) 得られた液をRNA抽出に用いる。ただし、QIAamp Viral RNA MiniキットによるRNAの抽出では560μlまでサンプルを添加でき、それ以上の量の時には2つに分けて行うか、PBS(-)で6倍希釈した後、前項のポリエチレングリコールあるいは超遠心機による濃縮を行い、200μlのDDWに再浮遊させ、それをRNA抽出に用いる。

2) セミドライトマト

(セミドライトマトの処理)

(1) セミドライトマトをフィルター付滅菌ポリ袋に入れ、トマトの重量を測定する。合計7~10g程度を採取する。

(2) 5~10倍量のPBS(-)を加える。

(3) セミドライトマトが完全にPBS(-)に浸かるようにしながら、15分間、超音波処理(100~120W)を行う。超音波発生装置を所有していない場合は、振盪器で30分間、振盪する。いずれも、内容物がこぼれないように注意する。

(4) フィルターろ液45mlを遠心管に採取する。

(5) 8,000~10,000rpm、20分間、冷却遠心する。

(6) 遠心上清(水層)40mlを別の遠心管に移す。

(7) ポリエチレングリコール6,000を4.8g(最終濃度12%)、NaClを2.3g(最終濃度1M)加え、完全に溶解させる。

(8) 8,000~10,000rpm、30分間、冷却遠心する。

(9) デカンテーションで上清を捨て、管壁の水分を十分に取り除く。

(10) 沈渣にSDS―Tris Glycine buffer 200μlを加え、ピペッティング等により再浮遊させる。SDSを含むため、泡立ちしやすいので注意深く溶解させる。

(11) 再浮遊液を2mlチューブに移し、12,000rpm、5分、遠心分離する。

(12) 上清138μlをRNA抽出材料とし、速やかにRNA抽出を行う。

(オイル漬けセミドライトマトの処理)

オイル漬けセミドライトマトはオイルを主とする液体部分とセミドライトマトとに分けて、それぞれを試験に供する。

オイル漬けセミドライトマト

(1) オイル漬けセミドライトマトを容器から取り出し、オイルを自然落下等で垂らして除去した後、フィルター付滅菌ポリ袋に入れ、トマトの重量を測定する。合計7~10g程度を採取する。

(2) 以下、前項(セミドライトマトの処理)の(2)以下と同様。

液体部分の処理

採取可能な液体部分の容量は製品に依存するので、試験に供する量は適宜変更する。以下、標準的な検査法を示す。

(1) オイル漬けセミドライトマトの液体部分約50mlを密閉可能な容器に採取する。

(2) 等量のPBS(-)を加える。

(3) 約5~10秒間、激しく攪拌後、しばらく靜置する。

(4) 水層45mlを遠心管に採取する。

(5) 8,000~10,000prm、20分、冷却遠心する。

(6) オイル層を採取しないように注意しながら、遠心上清(水層)40mlを別の遠心管に移す。

(7) ポリエチレングリコール6,000を4.8g(最終濃度12%)、NaClを2.3g(最終濃度1M)加え、完全に溶解させる。

(8) 8,000~10,000rpm、30分、冷却遠心する。

(9) デカンテーションで上清を捨て、管壁の水分を十分に取り除く。

(10) 沈渣にSDS―Tris Glycine buffer 200μlを加え、ピペッティング等により再浮遊させる。SDSを含むため、泡立ちしやすいので注意深く溶解させる。

(11) 再浮遊液を2mlエッペンチューブに移し、12,000rpm、5分、遠心分離する。

(12) 上清138μlをRNA抽出材料とし、速やかにRNA抽出を行う。

3) その他の食品

推定される汚染経路が食品取扱者の手指を介する場合や汚染水の場合、ウイルスは食品の表面が汚染されていると考えられる。その場合、セミドライトマトの処理法に準じた方法で検査を実施できる場合がある。

(表面汚染が推定される食品の処理)

(1) 食品7~10g程度をフィルター付滅菌ポリ袋に入れ、食品の重量を測定する。

(2) 5~10倍量のPBS(-)を加える。

(3) 食品が完全にPBS(-)に浸かるようにしながら、15分間、超音波処理(100~120W)を行う。超音波発生装置を所有していない場合は、振盪器で30分間、振盪する。いずれも、内容物がこぼれないように注意する。

(4) フィルターろ液45mlを遠心管に採取する。

(5) 8,000~10,000rpm、20分間、冷却遠心する。

(6) 遠心上清40mlを別の遠心管に移す。

(7) ポリエチレングリコール6,000を4.8g(最終濃度12%)、NaClを2.3g(最終濃度1M)加え、完全に溶解させる。

(8) 8,000~10,000rpm、30分間、冷却遠心する。

(9) デカンテーションで上清を捨て、管壁の水分を十分に取り除く。

(10) 沈渣にSDS―Tris Glycine buffer 200μlを加え、ピペッティング等により再浮遊させる。SDSを含むため、泡立ちしやすいので注意深く溶解させる。

(注意)

沈渣の量が多く200μlのSDS―Tris Glycine bufferに再浮遊できない場合は、約5~10mlのPBS(-)に再浮遊させ、(13)以降のステップに進み、超遠心分離による再濃縮を行う。

超遠心分離機を所有していない場合は、沈渣に等量~5倍量のSDS―Tris Glycinebufferを加え、ピペッティング等により再浮遊させる。SDSを含むため、泡立ちしやすいので注意深く溶解させる。

(11) 再浮遊液を2mlチューブに移し、12,000rpm、5分、遠心分離する。

(12) 上清138μlをRNA抽出材料とし、速やかにRNA抽出を行う。

――――――――――

以下、(10)で沈渣の量が多い場合の超遠心分離による再濃縮操作

(13) 超遠心用遠心管に30%ショ糖溶液を遠心管量の10%程度入れ、それに(10)の再浮遊液を静かに重層させる(ショ糖溶液層を壊さないように初めは特に注意して少量ずつ入れる)。

↓50,000rpm、120分間、冷却遠心する。

(14) アスピレーター、注射器等で液層を吸引し、沈渣のみとする。

(15) 遠心管の管壁をPBS(-)で軽く1回洗い、管壁の周りの水分を滅菌した濾紙で吸い取る。

(16) 沈渣にSDS―Tris Glycine buffer 200μlを加え、ピペッティング等により再浮遊させる。SDSを含むため、泡立ちしやすいので注意深く溶解させる。

(17) 再浮遊液を2mlチューブに移し、12,000rpm、5分、遠心分離する。

(18) 上清138μlをRNA抽出材料とし、速やかにRNA抽出を行う。

4.ふん便材料の処理

1) ふん便の10%乳剤(PBS(-))を作製する。

2) 10%乳剤を激しく攪拌した後、10,000~12,000rpmで、20分間冷却遠心する。

3) 遠心上清の138μlをサンプルとして、次項5.の方法でRNAの抽出を行う。

5.QIAamp Viral RNA MiniキットによるRNAの抽出

RNAの抽出には多くの方法があり、また抽出キットも多数市販されている。それぞれが良いと判断した方法を用いて良い。ここではQIAamp Viral RNA Miniキットの方法を紹介する。

QIAamp Viral RNA MiniキットはRNA抽出にCarrier RNAが含まれており、RNA抽出効率が高いが、前項4.のようなサンプルの調整が必要となる。また、このキットにはDNase処理が含まれていないので、各自が行わなければならない。

1) 使用前に行う試薬の調整

サンプルを室温(15~20℃)に戻す。

Buffer AW1(Kit Cat.No.51104)に96~100%エタノールを25ml加える。Buffer AW2(Kit Cat.No.51104)は96~100%エタノールを30ml加える。

Carrier RNA(凍結乾燥品)のチューブにBuffer AVL 1ml添加し、Carrier RNAを完全に溶解させ、Buffer AVLに全量を添加する。添加したBuffer AVL/Carrier RNAは室温で2週間、2~8℃で6ヶ月間安定である。Buffer AVL/Carrier RNA中に沈殿物がある場合には、加熱(80℃)により溶解する。ただし、5分間以内で、6回以上の加熱は行わないこと。Buffer AVL/Carrier RNAは使用前に室温に戻す。

2) 操作法

以下の操作は室温で行う。

(1) 1.5mlチューブにBuffer AVL/Carrier RNA 560μlを入れる。

(2) RNA抽出用の試験液を138μl(増量することも可能である。詳細はキットの添付マニュアルを参照)とエコーウイルス9型(Hill株)を2μl(10,000個程度の粒子数)入れ、サンプルとBufferを充分混合するため15秒間Vortexにかけ、室温(15~25℃)に10分間置く。チューブをスピンダウンする。

(3) エタノール(96~100%)560μlをチューブに加え、15秒間Vortexをかけた後、チューブをスピンダウンする。

(4) (3)の液630μlをQIAampスピンカラム(2mlコレクションチューブに注入し、蓋を閉め、6,000Xg(8,100rpm)、1分間遠心する。QIAampスピンカラムを新しい2mlのチューブに移し、残りの(3)の液630μlを入れ、同様に遠心し、全ての液が無くなるまで行う(サンプル量が138μlの時には、この操作が2回で終わる)。

(5) QIAampスピンカラムを開け、Buffer AW1 500μlを入れる。

(6) 蓋を閉め、6,000Xg(8,100rpm)、1分間遠心する。QIAampスピンカラムを新しい2mlのチューブに移し、ろ液の入っているチューブは捨てる。

(7) QIAampスピンカラムにBuffer AW2 500μlを加え、20,000Xg(14,000rpm)で3分間遠心する。Buffer AW2とろ液等が接触した時には(8)を行う(このような事は通常起きない)。

(8) QIAampスピンカラムを新しい2mlのチューブに移し、ろ液の入っているチューブは捨てる。フルスピードで1分間遠心する。

(9) QIAampスピンカラムを新しい蓋つき1.5mlのチューブに移し、ろ液の入っているチューブは捨てる。QIAampスピンカラムの蓋を開け、室温に戻したBuffer AVE 60μlを加え、蓋を閉めて1分間置いた後、6,000Xg(8,100rpm)で1分間遠心する。

(10) このろ液が抽出RNAであり、抽出RNAは-80℃の保存が望ましいが、-20℃以下で1年間は安定である。

6.DNase処理

食品、人のふん便中には様々なDNAが含まれており、しばしばPCRで非特異バンドが出現するので、それらを抑制するためDNase処理を行う。またそうすることでこの時点までにDNAの混入が起きた時でも、それらを消化することができる。従って、キットにDNase処理が含まれていない時にはこの操作を行うことが望ましい。注意としてDNase Ⅰを使用するマイクロピペットは専用のものを用い、可能であればオートクレイブができるものが良い。検査終了後、使用したDNaseの含まれている液、チューブは全て高圧滅菌にかける。

1) 表1.に示したようにDNase処理混合液の調製を行う。

表1.DNase処理混合液

試薬

15μl系

30μl系

抽出RNA

12.0μl

24μl

5X First-Strand buffer注1)

1.5μl

3.0μl

Distilled water

0.5μl

1.0μl

DNase Ⅰ(1U/μl)

1.0μl

2.0μl

注1)使用するReverse Transcriptaseのbufferを用いる。

2) 混合液調製後、37℃に30分間置く。

3) 次いで75℃に5分間置く。

4) 直ちにon ice(または4℃)する。これがDNase処理済み抽出RNAである。

7.RT反応

1) 表2のRT反応調製液を作製する。

表2.RT反応液調製液(Super Script RT Ⅱを用いる時)

試薬

15μl系

20μl系

30μl

50μl系

DNase 処理 RNA

7.5μl

10.0μl

15.0μl

30.0μl

5X SSII Buffer

2.25μl

3.0μl

4.5μl

7.0μl

10mM dNTPs

0.75μl

1.0μl

1.5μl

2.5μl

Random Primer(1.0μg)注2)

0.375μl

0.5μl

0.75μl

1.25μl

Ribonuclease Inhibitor

(33unit/μl)

0.5μl

0.67μl

1.0μl

1.67μl

100m M DTT

0.75μl

1.0μl

1.5μl

2.5μl

Super Script RTⅡ(200u/μl)

0.75μl

1.0μl

1.5μl

2.5μl

DDW

2.125μl

2.83μl

4.25μl

2.58μl

注2):Random Primerの代わりにA型肝炎ウイルスのプライマー、エコーウイルス9型Hill株プライマーを用いても良い。

2) 反応は42℃で30分~2時間行う(通常1時間)。

3) 次いで99℃で5分間加熱し、on ice(または4℃)する。

8.1st PCR

1) 1st PCRは、A型肝炎ウイルスについては表3、エコーウイルス9型Hill株については表4の混合液を作製する。

表3.A型肝炎ウイルス

1.Distilled water

33.75μl

2.10X Ex TaqTM buffer

5.0μl

3.dNTP(2.5mM)

4.0μl

4.HAV+2799 プライマー(25μM)注3)

1.0μl

5.HAV―3273 プライマー(25μM)

1.0μl

6.cDNA(Templete)

5.0μl

7.EX Taq(5unit/μl)

0.25μl

Total

50.0μl

注3) プライマーの塩基配列は図2を参照文献1.2)

表4.エコーウイルス9型Hill株

1.Distilled water

33.75μl

2.10X Ex TaqTM buffer

5.0μl

3.dNTP(2.5mM)

4.0μl

4.E9Hill―F プライマー(25μM)注4)

1.0μl

5.E9Hill―R プライマー(25μM)

1.0μl

6.cDNA(Templete)

5.0μl

7.EX Taq(5unit/μl)

0.25μl

Total

50.0μl

注4) エコーウイルス9型Hill株プライマー文献3)

(E9Hill―F 5'―GTT AAC TCC ACC CTA CAG AT―3'ポジション 5192―5211

E9Hill―R 5'―TGA ACT CAC CAT ACT CAG TC―3'ポジション 5459―5440)

PCR産物は268bpである。

2) PCR反応

増幅は94℃ 3分を1サイクル、94℃ 1分、50℃ 1分、72℃ 2分を40サイクル、72℃ 15分を1サイクルで行う。増幅条件はプライマー、サーマルサイクラーによって若干異なることもあるので、それぞれ最適な条件で行うと良い。

3) 電気泳動

PCR産物8μlと5×Loading buffer 2μlを混合し、1.5%アガロースゲルを用いて泳動する。泳動bufferはTAEを使用する。

4) アガロースゲル染色

泳動後ゲルをエチジュウムブロマイド染色液(TAE溶液100mlにエチジュウムブロマイド10mg/mlのものを10μl加えた溶液)に20分間入れておく。この時に緩やかに揺すると良い。

5) 写真撮影、バンドの確認

染色したゲルはUV照射で写真撮影し、バンドの確認を行う。食品では1st PCRでバンドが見られなかった時には(多くの例では見られない)、次にNested PCRを行う。

9.Nested PCR法

食品をサンプルとする時にはウイルス量が少ないので、1st PCRで陰性の時にはNested PCRを行う。ただし、Nested PCRを行う時にはコンタミの危険性が高いので細心の注意のもとに実施する。

1) Nested PCRの調製

表5の混合液を作製する。Nested PCRではHAV+2907/-3162プライマーを用いる注5)

表5.Nested PCRの混合液

1.Distilled water

36.75μl

2.10X Ex TaqTM buffer

5.0μl

3.dNTP(2.5mM)

4.0μl

4.HAV+2907 プライマー(25μM)

1.0μl

5.HAV-3162 プライマー(25μM)

1.0μl

6.1st PCR産物

2.0μl

7.EX Taq

0.25μl

Total

50.0μl

注5):プラスミドに組み込んだHAV陽性コントロール(2799―3355領域を組み込んだもの)についても行う。

2) PCR反応、電気泳動

増幅は1st PCRと同様の条件で行うが、サイクル数は35とする。

Nested PCR産物の電気泳動、UV照射で写真撮影、バンドの確認は1st PCRと同様に行う。(前項9.2)~5)を参照)

10.PCR結果の判定

1) RNA抽出のコントロールとして入れたエコーウイルス9型Hill株(粒子数10,000個)のPCRで目的とするバンドが認められること。(=RNAの抽出に問題はない。)

2) 検査材料の代わりにDDWを入れた陰性コントロールでバンドが見られない(遺伝子の混入が無い)。

3) 陽性コントロール(1st PCRではエコーウイルス9型Hill株、Nested PCRではHAV陽性コントロール)で目的とするバンドが見られる。(=PCRがうまく行われてた。)

4) PCRでの増幅産物は目的とする大きさであること。HAV+2799/HAV-3273は498bp、HAV+2907/HAV-3162は280bpである。(=標的の部分が増幅されている。)

以上の条件が満たされたときにPCRの判定を行う。なお上記条件が満たされないときには再試験を行う。

PCR陽性と判定されたときには、確認試験としてハイブリダイゼーションあるいは遺伝子配列を調べる。ハイブリダイゼーションで陽性、あるいは遺伝子配列で既知のA型肝炎ウイルスと類似の配列が認められたときに陽性とする。

Ⅱ ハイブリダイゼーション

A.マイクロプレート・ハイブリダイゼーション法

ここではPCR産物の確認試験としてのマイクロプレート・ハイブリダイゼーション法について記す。この方法はマイクロプレート上でハイブリダイゼーションを行うもので、洗いが簡単であり、反応は通常の酵素抗体法と同一である文献4)。42℃でハイブリブリダイゼーションを行うと、80%以上の相同性のときに陽性となる。ハイブリダイゼーションの温度を上げるとさらにその感度は高まる文献5)

1.必要な器具と試薬

1) 器具

恒温器、ヒートブロック、電気泳動装置、UV照射写真撮影装置、マイクロプレートリーダー、UV防御メガネ、サーマルサイクラー、マイクロ冷却遠心機(15,000rpm)、ウォーターバス、メス、フナゲルチップ(フナコシ、Cat.No.DR―50)、マイクロピペット(2、20、200、1000μl)、マイクロプレート(NUNC―IMMUNO PLATE、Cat.No.442404)

2) 試薬

MinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN Cat.No.28604)、ホルムアミド、Tween20、サケ精子 DNA、マクロプレートシール、ペーパータオル、ストレプトアビジン標識ペルオキシダーゼ(BIOSOURCE,Cat#SNN1004)、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸、30%過酸化水素、硫酸、T3,3,5,5'―Tetramethylbenzidine(TMB)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ウシ血清アルブミン(BSA)(SIGMA,Cat No.A―2153)、3M酢酸ナトリウム(pH5.0)、100%イソプロパノール、PBS―T(PBS(-)+0.5%Tween20)

2.ゲルからのDNA抽出法

ゲルからのDNAの抽出には多くの方法があり、また抽出キットも多数市販されている。それぞれが良いと判断した方法を用いて良い。ここでは、MinElute Gel Extraction Kitを用い、マイクロ遠心機を利用する方法を示す。

このプロトコールは、TAE bufferまたはTBE bufferの標準的なアガロースゲル、あるいは低温融解アガロースゲルから、70bp~4kbのDNAフラグメントを高い最終濃度で抽出、精製することができる。1個のスピンカラムにつき、最大400mgのアガロース処理が可能である。Buffer QGはpH7.5以下の時、黄色になる。すべての遠心操作は、一般的な卓上遠心機で≧10,000Xg(~13,000rpm)で行う。

1) 使用前に行う試薬の調整

(1) 使用前にBuffer PEにエタノール(96~100%)を添加する(添加容量は試薬ボトルのラベルを参照)。

(2) 3M酢酸ナトリウム溶液(pH5.0)が必要な場合がある。

2) 操作法

(1) 清潔で刃の鋭いメスあるいはフナコシのフナゲルチップでアガロースゲルからDNAフラグメントの部分を切り取る。余分なゲルを取り除いて、ゲルスライスのサイズを最小とする。

(2) 1.5mlのチューブにゲルスライスを入れ、重さを測る。サンプルゲル(100mg=100μlとする)に対して3倍容量のBuffer QGを添加する。

(3) 50℃で10分間(ゲルが完全に溶解するまで)インキュベートする。ゲルの溶解を助けるため、インキュベーション中、2~3分に1度チューブをVortexにかけて溶液を混合する。2%以上のゲルを用いる場合は、インキュベーション時間を長くする。

(4) ゲルスライスが完全に溶解後、溶液の色が黄色であることを確認する(アガロース溶解前のBuffer QGの色とほぼ同じ)。なお、溶液の色がオレンジ色あるいは紫色の場合は、3Mの酢酸ナトリウム(pH5.0)を10μlずつ添加混合し、溶液の色が黄色になるようにする。(DNAのメンブレンへの吸着は、pH7.5以下においてのみ効率的に行われるので、pH指示薬によりpH7.5以下で黄色、それより高いpHではオレンジまたは紫色を呈するBuffer QGは、DNA結合に最適なpHを決定するのに便利である。)

(5) ゲルと同容量のイソプロパノールをサンプル溶液に添加(例:100mgのアガロースゲルスライスには、100μlのイソプロパノールを添加)する。チューブを10回上下混合する。

(6) ラックにセットした2mlコレクションチューブにMinEluteカラムを乗せる。

(7) サンプルをMinEluteカラムに添加し、DNAをカラムに結合して、1分間遠心する。

最大の回収率を得るために、サンプル液は残さず全てカラムに添加する。カラムへ1度に添加可能な最大容量は800μlである。800μlよりサンプル量が多い場合には、数回に分けて添加、遠心操作を行う。

(8) フロースルー液は捨て、MinEluteカラムを同じコレクションチューブに再度乗せる。

(9) 500μlのBuffer QGをスピンカラムに添加し、1分間遠心する。

(10) フロースルー液は捨て、MinEluteカラムを同じコレクションチューブに再度乗せる。

(11) 洗浄のため、750μlのBuffer PEをMinEluteカラムに添加し、1分間遠心する。

(12) フロースルー液を捨てた後、MinEluteカラムをさらに1分間≧10,000Xg(~13,000rpm)で遠心する。

(13) 新しい1.5mlのマイクロ遠心チューブにMinEluteカラムを乗せる。

(14) DNAの溶出を行うために、10μlのBuffer EB(10mM Tris―Cl、pH8.5)あるいはDDWをメンブレン表面の中央に添加し、1分間カラムを放置後、1分間遠心する。遠心によって得られた溶液が、抽出DNAである。

3.ハイブリダイゼーション

1) 抽出DNAを0.5mlのチューブに取り、1.5M NaCl buffer注6で、電気泳動時のバンドの濃さに応じ適宜希釈する(DNA量は200ng/ml程度の濃度とする)。なお通常のPCRでバンドがしっかりとみられた増幅DNA(PCR産物8μlを泳動)は5倍~20倍希釈して用いる。

↓98℃、5分間加熱処理、直ちにon iceする。

2) マイクロトレイに固定化液注7を90μl入れ、それに加熱処理したDNAを10μlずつ1検体当たり3ウエルに入れる。(プローブが2種類の時、通常プローブの数+1)

注6:3倍濃度1.5M NaCl buffer:4.5M NaCl、30mMリン酸2ナトリウム、30mM EDTA、pH7.0(3倍濃度1.5M NaCl bufferを使用時には3倍希釈して用いる。)

注7:固定化液:3倍濃度1.5M NaCl buffer 3.0ml、DDW 6.0ml

試薬

 

1NC

2PC

3検体

4検体

5検体

6検体

7検体

 

A

Control

B

HAV-prob+3129

C