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○「製剤開発に関するガイドライン」、「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」及び「医薬品品質システムに関するガイドライン」に関する質疑応答集(Q&A)について

(平成22年9月17日)

(事務連絡)

(各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課あて厚生労働省医薬食品局審査管理課・厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課通知)

医薬品の品質については、科学及びリスクに基づくアプローチによる進展を促進するため、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)における合意に基づき、「製剤開発に関するガイドラインの改定について」(平成22年6月28日薬食審査発0628第1号、医薬食品局審査管理課長通知)、「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」(平成18年9月1日薬食審査発第0901004号及び薬食監麻発第0901005号、医薬食品局審査管理課長及び監視指導・麻薬対策課長連名通知)及び「医薬品品質システムに関するガイドラインについて」(平成22年2月19日薬食審査発0219第1号及び薬食監麻発0219第1号、医薬食品局審査管理課長及び監視指導・麻薬対策課長連名通知)により各都道府県衛生主管部(局)長あてに通知したところです。

今般、ICHにおいて、共通の解釈を明瞭にするため、「製剤開発に関するガイドライン」、「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」及び「医薬品品質システムに関するガイドライン」に関する質疑応答集(Q&A)が、別添のとおり合意されましたので、ご了知の上、業務の参考として貴管内関係業者等に対し周知願います。

【別添】

「製剤開発に関するガイドライン」、「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」及び「医薬品品質システムに関するガイドライン」に関する質疑応答集(Q&A)

本Q&Aにおいて、「製剤開発に関するガイドラインの改定について」(平成22年6月28日薬食審査発0628第1号、医薬食品局審査管理課長通知)別添「製剤開発に関するガイドライン及び補遺」を「ICH Q8(R2)」、「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」(平成18年9月1日薬食審査発第0901004号及び薬食監麻発第0901005号、医薬食品局審査管理課長及び監視指導・麻薬対策課長連名通知)別添「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」を「ICH Q9」、「医薬品品質システムに関するガイドラインについて」(平成22年2月19日薬食審査発0219第1号及び薬食監麻発0219第1号、医薬食品局審査管理課長及び監視指導・麻薬対策課長連名通知)別紙「医薬品品質システムに関するガイドライン」を「ICH Q10」、とそれぞれ略して参照する。

また、本Q&Aにおいて、「GMP要件」とあるのは「GMP省令及び医薬品に係るGQP省令に規定する要件」と、「査察」とあるのは「GMP又はGQPに関する調査」と読み替えて適用すること。

1.緒言

この質疑応答集(Q&A)は、ICH運営委員会の承認を受けたQ8、Q9及びQ10ガイドラインの実施に関するICH Q―IWG(品質に関するガイドライン実施作業部会)の現時点における活動に起因するものである。

ICH各極間における技術的要件の調和を図ることの利益は、品質に関する各種ICHガイドラインが3極間で一貫性をもって解釈・実施されてはじめて得られるものである。実施作業部会は、既存ガイドラインの実施の助けとなるQ&Aの作成を任務としている。

1.1 一般的な説明

Q1

最小限の手法は規制当局に受け入れられるか。

A1

最小限の手法は受け入れられる。ICH Q8(R2)に定義されている最小限の手法(「ベースライン」、又は「従来の手法」と呼ばれることもある)は、申請において十分に受入れ可能なものであると考えられる。しかしながら、ICH Q8(R2)に記述されている「より進んだ手法」が、推奨される[ICH Q8(R2)付録1参照]。

Q2

ICH Q8、Q9及びQ10を用いたプロセスバリデーションの方法として、どのようなものが適切か。

A2

プロセスバリデーションの目的は、ICH Q8、Q9及びQ10を用いた場合でも変わらない。プロセスバリデーションの主な目的は、ある製造プロセスにおいて、予め設定された品質基準に適合する製品が得られることであることに変わりはない。ICH Q8、Q9及びQ10は、製品の重要品質特性、デザインスペース、製造プロセス及び管理戦略を規定するための体系的方法を提示するものである。この体系的方法から得られた情報は、初回商用生産バッチの製造前、あるいは製造時に実施する各種検討の種類及び対象を特定するために活用することができる。初回商用生産時やその後の製品ライフサイクルを通した継続的改善を目的とした製造プロセスの変更に、従来のプロセスバリデーションに代わる方法の一つとして、継続的工程確認[ICH Q8(R2)の用語集に記載された定義を参照]をプロセスバリデーション実施計画に適用することができる。

Q3

リスクマネジメントと継続的工程確認により得られた情報により、ICH Q8、Q9及びQ10の下での頑健な継続的改善の取組みがどのようになされるか。

A3

製品自体と同様、プロセスバリデーションにもライフサイクルがある(工程デザイン、工程の適格性確認、日常的工程確認)。初回商用生産バリデーションバッチの製造前にリスクアセスメントを実施することにより、目標とする高い水準で商用生産工程の頑健性が保証されていることを示す際に、特定の対象及びデータが必要となる領域を明確にすることができる。継続的モニタリング(例えば、継続的工程確認を通して)により、さらに、工程の一貫性の実際の保証水準を示し、製品の継続的改善の根拠を提示することが可能となる。工程管理された状態を維持するために、製品ライフサイクルの全期間を通じてICH Q9の品質リスクマネジメントの手法を適用することができる。

2.クオリティ・バイ・デザイン

Q1

クオリティ・バイ・デザインの実施にあたっては、デザインスペースやリアルタイムリリース試験は常に必要か。

A1

クオリティ・バイ・デザインの下では、デザインスペースの設定やリアルタイムリリース試験の実施が必ずしも必要とされているわけではない[ICH Q8(R2)]。

2.1 デザインスペース

Q1

デザインスペースを開発するためには、すべてのパラメータの相互作用を多変量実験により検討する必要があるか。

A1

必要はない。申請者に求められるのは、リスクアセスメントと目的とする操作運用上の柔軟性に基づいて、多変量実験の検討のために選択した原料特性と工程パラメータの妥当性について説明することである。

Q2

デザインスペースはスケールアップに適用可能か。

A2

その妥当性を適切に説明できる場合は適用可能である[詳細は、ICH Q8(R2)第2部2.4.4章参照]。スケールに依存しないデザインスペースの事例は、EFPIA Mock P2文書[EFPIA Mock P2 submission on“Examplain”:Chris Potter,Rafael Beerbohm,Alastair Coupe,Fritz Erni,Gerd Fischer,Staffan Folestad,Gordon Muirhead,Stephan Roenninger,Alistair Swanson,A guide to EFPIA's“Mock P.2”Document,Pharm.Tech.(Europe),18,December 2006,39-44]に示されている。ただし、この事例はスケールアップのための規制要件を完全に反映しているとは限らない。

Q3

デザインスペースは、製造所を変更した際に適用可能か。

A3

適用可能である。製造所に依存しないデザインスペースを利用している製造所を変更する場合には、その妥当性について説明することで適用可能である。当該デザインスペースは、製造工程の頑健性に対する実証された理解と製造所に固有の因子(たとえば装置、人員、ユーティリティー、製造環境等)の詳細な検討に基づいて、構築するものである。なお、製造所変更に関しては遵守すべき各極固有の規制要件が存在する。

Q4

デザインスペースは、単一及び/又は複数の単位操作について開発可能か。

A4

開発可能である。デザインスペースの開発は、単一の単位操作又は一連の単位操作に対しても可能である[ICH Q8(R2)第2部2.4.3章参照]。

Q5

既存製品についてもデザインスペースは開発可能か。

A5

開発可能である。製造データや製造工程の知識は既存製品のデザインスペースの裏付けとして使用可能である。関連する情報は、たとえば商業規模での製造、工程改良、是正・予防措置及び開発データから入手し、活用する必要がある。

製造作業が限定された装置を用いて限られた操作範囲内で行われている場合、その既存の製造データのみではより広い範囲の操作や複数パラメータ間の相互作用の理解が得られているとは言えず、デザインスペースの開発には追加研究が必要となる場合がある。相互作用を検討し、パラメータや特性の範囲を確立するためには、十分な知識が得られていることを立証し、デザインスペースが実験的に裏付けられている必要がある。

Q6

規制当局は既存製品についてもデザインスペースを開発するよう期待しているのか。

A6

期待しているわけではない。申請者が、製品と製造工程のより高度な理解に達する手段としてデザインスペースを特に必要と感じることなく、使用することを希望しないのであれば、既存製品に対してデザインスペースの開発は必要ではない。ただし、既存製品に対するデザインスペースの開発は製造上の柔軟性及び/又は頑健性の向上につながる場合がある。

Q7

処方にデザインスペースを適用可能か。

A7

適用可能である。より広い範囲にわたって原料特性に関する深い知識を得ることができれば、添加剤の量とその物理化学的性質(粒度分布、ポリマーの置換度など)のそれぞれのある範囲によって構成される処方(成分ではなく組成について)のデザインスペースを開発することが可能となる場合がある。申請者は、生物学的同等性、安定性、製造の頑健性などの品質特性に関連して、デザインスペースを確立する上での理論的根拠について妥当であることを証明する必要がある。確立されたデザインスペース内では、原料の特性に応じて処方量の調整を行う際は承認後変更に係わる規制手続きを行う必要はない。

Q8

立証された許容範囲の組み合わせのみでデザインスペースとなりうるか。

A8

デザインスペースとはならない。一変量実験から得られる立証された許容範囲(PAR)をただ組み合わせてもデザインスペースとはならない[ICH Q8(R2)第2部2.4.5章参照]。一変量実験のみに基づく立証された許容範囲では、工程パラメータ間、原料特性間、あるいは工程パラメータ/原料特性間の相互作用に関する理解が欠如している可能性がある。立証された許容範囲は規制の観点から見て引き続き容認できるものであるが、デザインスペースとは見なされない[ICH Q8(R2)第2部2.4.5章参照]。

申請者は、製造工程の色々な側面ごとに、立証された許容範囲を用いるかデザインスペースを用いるかを選択することができる。

2.2 リアルタイムリリース試験

Q1

リアルタイムリリース試験の利用によりバッチリリースはどのような影響を受けるか。

A1

リアルタイムリリース試験と最終製品試験のいずれを採用するかに関わりなく、バッチリリースが製品の市場出荷の最終決定となる。最終製品試験とは、ある製品の所定のバッチのすべての製造工程の完了後に、定められた標本数の最終製品に対して規定された分析手順を実行することを意味する。リアルタイムリリース試験の結果は、バッチリリースの際に最終製品試験の結果と同様に扱われる。どのようなアプローチを適用するかに関わりなく、バッチリリースには、GMP及び品質システムの適切な遵守がなされたか否かに加えて、試験成績及び製造記録の精査を通じてバッチが所定の基準に適合しているかどうかを独立して審査されるものである。

Q2

リアルタイムリリース試験は最終製品試験が不要となることを意味するか。

A2

リアルタイムリリース試験によって必ずしもあらゆる最終製品試験が不要とされるとは限らない。たとえば、申請者は一部の特性に限ってリアルタイムリリース試験を提案しても、又は全く提案しなくとも差し支えない。(リアルタイムリリース試験と関係する)すべての重要品質特性(CQA)がパラメータの工程内モニタリング及び/又は原料の試験により保証されている場合にはバッチリリースに最終製品試験が不要となることがある。安定性試験又は各極の規制要件など、特定の規制プロセスについては何らかの製品試験の実施が求められるだろう。

Q3

製品規格は、リアルタイムリリース試験を適用する場合にも必要か。

A3

必要である。製品規格[「新医薬品の規格及び試験方法の設定について」(平成13年5月1日医薬審発第568号、医薬局審査管理課長通知)及び「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について」(平成13年5月1日医薬審発第571号、医薬局審査管理課長通知)]は、リアルタイムリリース試験を適用する場合にも設定され、試験実施時にはこれに適合する必要がある。

Q4

リアルタイムリリース試験適用時、安定性試験法は必要か。

A4

リアルタイムリリース試験適用時といえども、安定性を評価する方法による安定性モニタリングプロトコールが、出荷試験の方法に関わりなく全製品について必要とされる[「安定性試験ガイドラインの改定について」(平成15年6月3日医薬審発第0603001号、医薬局審査管理課長通知)及び「生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品)の安定性試験について」(平成10年1月6日医薬審第6号、医薬安全局審査管理課長通知)]。

Q5

管理戦略とリアルタイムリリース試験の関係はどのようなものであるか。

A5

リアルタイムリリース試験は、適用される場合、それ自身管理戦略の1要素となる。つまり、最終製品に対して行われる試験よりもむしろ、試験及び/又はモニタリングが工程内(in-line、on-line、at-line)試験として行われる。

Q6

従来のサンプリング手法はリアルタイムリリース試験にも適用されるか。

A6

適用されない。工程内試験と最終製品試験のための従来のサンプリング計画には、最小限のサンプリング要求数に対応する離散サンプリングの標本数が含まれる。一般的に、リアルタイムリリース試験を使用すればより広範囲にわたるon-line/in-line測定が行われる。そこでは、科学的に信頼できるサンプリング手法が開発され、妥当性が証明され、実施される必要がある。

Q7

リアルタイムリリース試験の結果が規格外となる、又は、規格外に向かう傾向が認められる場合、最終製品試験を製品の出荷判定に用いることは可能か。

A7

不可能である。原則として、リアルタイムリリース試験の成績が製品の出荷判定に通常使用されるべきであり、最終製品試験による代替はすべきでない。いかなるものであれ、規格外については調査し、規格外に向かう傾向が認められる場合は適切に追跡管理する必要がある。しかしながら、製品の出荷判定はこれらの調査の結果に基づいて行うことが必要となる。製品の出荷判定は、製造販売承認の内容及びGMPを遵守して行う必要がある。

Q8

工程内試験とリアルタイムリリース試験との関係はどのようなものであるか。

A8

工程内試験とは、原薬及び/又は最終製品の製造工程中に行われるあらゆる試験である。リアルタイムリリース試験とは、重要品質特性の評価を通じてバッチリリースの判定に直接影響を及ぼす工程内試験を指す。

Q9

「リアルタイムリリース」と「リアルタイムリリース試験」の違いは何か。

A9

ICH Q8(R2)においては「リアルタイムリリース試験」は「工程内データに基づいて、工程内製品及び/又は最終製品の品質を評価し、その品質が許容されることを保証できること。通常、あらかじめ評価されている物質(中間製品)特性と工程管理との妥当な組み合わせが含まれる」と定義している。

改定前のガイドライン文書中(ICH Q8(R1)、step 2)の「リアルタイムリリース」という語は、この定義をさらに正確に反映させ、製品の出荷判定との混乱を避けるために、最終的にICH Q8(R2)第2部において「リアルタイムリリース試験」に改められた。

Q10

代替測定法をリアルタイムリリース試験に利用することは可能か。

A10

可能である。リアルタイムリリース試験は、工程内規格又は最終製品規格に相関することが立証されている代替指標(工程パラメータ、原料特性など)の測定に基づくことができる[ICH Q8(R2)第2部2.5章参照]。

Q11

リアルタイムリリース試験とパラメトリックリリースの関係はどのようなものであるか。

A11

パラメトリックリリースはリアルタイムリリース試験の一種である。パラメトリックリリースでは、特定の性質について、原料及び/又は検体の試験を行うよりむしろ工程データ(例えば、温度、圧力、最終滅菌時間、物理化学的指標)に基づいている。

2.3 管理戦略

ICH Q10用語集の「管理戦略」の定義を参照すること。すなわち、ICH Q10による「管理戦略」の定義とは、最新の製品及び製造工程の理解から導かれる、製造プロセスの稼動性能及び製品品質を保証する計画された管理の一式。管理は、原薬及び製剤の原材料及び構成資材に関連するパラメータ及び特性、設備及び装置の運転条件、工程管理、完成品規格及び関連するモニタリング並びに管理の方法及び頻度を含み得る。

Q1

最小限の手法と「クオリティ・バイ・デザイン」アプローチを用いて開発した製品の管理戦略との違いは何か。

A1

管理戦略は開発手法の違いによらず必要である。管理戦略には、工程内試験や最終製品試験など、製品品質の保証を目的として申請者が提案した種々の管理が含まれる[ICH Q10 3.2.1章]。最小限の手法に従って開発された製品の場合、管理戦略は通常経験的に得られ、一般に離散サンプリングと最終製品試験への依存度がより大きくなる。クオリティ・バイ・デザインの下では、管理戦略は科学とリスクに基づく体系的な手法を用いて導き出される。試験、モニタリング、又は管理は、工程のより上流に実施段階が変更され、in-line、on-line又はat-line試験により実施される場合が多い。

Q2

クオリティ・バイ・デザイン下の製品の出荷判定の場合、GMP要件は異なるか。

A2

異なることはない。開発手法が最小限の手法であれクオリティ・バイ・デザインアプローチであれ、製品の出荷判定には同一のGMP要件が適用される。

Q3

デザインスペースと管理戦略の関係はどのようなものであるか。

A3

管理戦略はあらゆる製品について必要とされるものである。デザインスペースが開発され承認されている場合、管理戦略[ICH Q8(R2)第2部4章参照]はデザインスペースにより規定される境界内で製造工程が維持されていることを保証するための仕組みを提供するものである。

Q4

On-line/in-line/at-line試験用又はモニタリング用の装置が故障した場合、どのようなアプローチを採ることができるか。

A4

申請書に示す管理戦略には、装置に欠陥が発生した場合の代替的な試験アプローチ又はモニタリングアプローチの利用に関する提案も含めるべきである。そうした代替的アプローチとして、許容可能な品質レベルを維持しながら最終製品試験又は他の方法を利用することもできるだろう。試験用又はモニタリング用の装置の故障は、品質システムにおける逸脱との関連で管理される必要があり、GMP査察の対象になりうる。

Q5

最小限の手法とクオリティ・バイ・デザインの手法では製品規格が異なるのか。

A5

原則として異ならない。最小限の手法であってもクオリティ・バイ・デザインの手法であっても、求められる製品規格は同一である。クオリティ・バイ・デザインの手法による管理戦略では、リアルタイムリリース試験の手法を用いて最終製品規格を満たすことが許容される場合がある[ICH Q8(R2)、付録1を参照]。製品は試験された際には規格に適合しなければならない。

3.医薬品品質システム

Q1

(ICH Q10に準拠して)医薬品品質システムを実施した場合にどのような利点があるか。

A1

利点は以下のとおりである:

・ 科学とリスクに基づく承認後変更プロセスを通じた継続的改善の促進による製造工程の頑健性の促進

・ 地域間における国際的な薬事環境の一貫性

・ システム、プロセス、組織及び経営陣の責任の透明性の実現

・ 製品ライフサイクルを通しての品質システムの適用のより明確な理解

・ 製品欠陥のリスクと苦情及び回収の発生率の更なる低減、ひいては医薬品の一貫性と患者への安定供給のより大きな保証

・ 製造プロセスの稼働性能の向上

・ 企業と規制当局間の相互理解の促進、及び企業と規制当局の資源利用の最適化推進の機会の提供、並びに、製造業者側と規制当局側の製品品質に対する信頼度の向上

・ 規制当局からの信頼を構築するGMP適合性の向上と、その結果としてありうる査察時間の短縮

Q2

ICH Q10に準拠した医薬品品質システム(PQS)を実施していることを、企業はどのようにして立証するのか。

A2

PQS実施時には、企業は実効性のあるPQSを使用していることをPQSの文書化(方針、基準等)、プロセス、訓練/適格性評価、管理、継続的改善努力、及び所定の重要業績評価指標[ICH Q10用語集の「業績評価指標」の項参照]に対する実績を通じて立証することとなる。

製品ライフサイクルの全期間を通じてPQSがどのように機能するかを、経営陣、従業員及び規制当局の査察員にとって理解しやすい方法(品質マニュアル、文書、フローチャート、手順書等)により製造所内で示す仕組みを確立する必要がある。企業は、PQSが高水準で機能していることを保証するために定期的に社内で監査を行うプログラム(内部監査プログラム)を実施することができる。

Q3

申請資料中にPQSを記載する必要があるか。

A3

不要である。しかしながら、品質モニタリングシステム、変更管理、逸脱管理などPQSに関係する要素については、裏付けとなる情報として、管理戦略の一部として照会されることがある。

Q4

PQSがICH Q10に準拠している旨の認証は行われるか。

A4

行われない。具体的なICH Q10の認証プログラムの予定はない。

Q5

製造所の査察において、デザインスペースの実施はどのようにして評価されるべきか。

A5

査察においては、製造操作がデザインスペース内で適切に実行されているかどうかを検証/評価すべきである。査察員は、適当な場合は、審査員と協力し、製造操作がデザインスペースの下でうまく機能しているかどうか、デザインスペース内での変更が企業の変更マネジメントシステム内で管理されているかどうかについても検証すべきである[ICH Q10、3.2章、表Ⅲ参照]。

Q6

製造操作が予期せずにデザインスペース外で行われている場合はどうすべきか。

A6

GMP下での逸脱として処理すべきである。例えば、操作担当者の過誤や装置の故障等、予期せぬ出来事の結果として意図しない‘偶発的な’不具合が発生した場合には、これを逸脱として通常の手順により調査し、文書化し、処理されるだろう。その調査結果は、製造工程に関する知識、予防措置及び製品の継続的改善に寄与する場合がある。

Q7

製造所においては、開発研究に関するどのような情報及び文書を閲覧できるようにすべきか。

A7

医薬品開発情報(例えば、デザインスペース、ケモメトリクスモデル、リスクマネジメントの裏付けとなる情報)は、開発場所において閲覧できる。重要工程パラメータ及び重要品質特性の選択根拠を含む、製造工程及び管理戦略の根拠を確実に理解するために有用な医薬品開発情報は、製造所において閲覧できるようにすべきである。

生産部門への技術移転を確実に成功させるには、医薬品開発部門と医薬品製造部門との間の科学に基づいた協力及び知識の共有が不可欠である。

Q8

製品ライフサイクルを通して、工程パラメータを調整することは可能か。

A8

工程パラメータは医薬品開発において検討及び選択され、商業生産においてモニターされる。得られた知識は、製品ライフサイクルを通して、工程の継続的改善の一環として、パラメータを調整するために利用することができるだろう[ICH Q10、3章参照]。

4.品質に関する新ICHガイドライン(ICH Q8、Q9及びQ10)がGMP査察実施に及ぼす影響

Q1

ICH Q8、Q9及びQ10環境において、製品関連の査察は従来とどのように異なることになるか。

A1

製品関連の査察(特に承認前査察)の場合、製品及び/又は工程の複雑さに応じて、例えば開発データの評価のために、査察員と審査員との協力が従来にも増して必要となる可能性がある。査察は通常、提案された商用製造所において実施され、より深い製造工程の理解や重要品質特性(CQA)、重要工程パラメータ(CPP)などの関連性の理解に対して重点的に実施される可能性が高い。また、査察は医薬品品質システム(PQS)に裏付けられた品質リスクマネジメントの原則の適用と実施についても及ぶであろう。

Q2

ICH Q8、Q9及びQ10環境において、システム関連の査察は従来とどのように異なることになるか。

A2

査察過程は従来とほぼ同様となるであろう。しかしながら、ICH Q8、Q9及びQ10の実施時には、査察は、PQSが例えば、品質リスクマネジメントの方法、デザインスペースの運用及び変更マネジメントの利用をどのように促進しているか(ただしこれに限定されるものではない)という点をより重視することになるであろう[ICH Q10参照]。

Q3

管理戦略は申請においてどのように承認され、査察においてはどのように評価されるか。

A3

申請時に提出される管理戦略の要素は、規制当局によって審査・承認される。しかしながら、付加的な要素については査察の対象となる(ICH Q10に記載した通り)。

5.知識管理

Q1

ICH Q8、Q9及びQ10の実施により知識管理の重要性と利用はどのように変わったか。

A1

ICH Q10では知識管理を「製品、製造プロセス及び構成資材の情報を獲得し、分析し、保管し、及び伝播するための体系的取り組み」と定義している。

知識管理はシステムではなく、ICH Q8、Q9及びQ10に記載された概念の実施を可能とするものである。

知識管理は新しい概念ではない。開発手法にかかわりなく常に重要なものである。ICH Q10で知識管理を強調しているのは、適切な取り組み(クオリティ・バイ・デザイン、プロセス解析工学、リアルタイムデータ生成及び管理モニタリングシステム等)により生み出される、より複雑な情報を製品ライフサイクル中に取得、管理及び共有することが必要になると予期されるからである。品質リスクマネジメントとあわせれば、知識管理により過去の知識(他の類似製品から得られたものも含む)、デザインスペースの開発、管理戦略、技術移転及び継続的改善といった概念の利用を、製品ライフサイクルを通じて促進することが可能となる。

Q2

ICH Q10は知識管理の理想的方法を提案するものか。

A2

提案はしていない。ICH Q10は枠組みを示すものであって、知識管理をどのように実施するかということを示してはいない。各企業は、特定の企業ニーズに基づき、情報評価の深さと範囲も含めて、知識を管理する方法を決定する。

Q3

知識管理のための情報源となりうるものは何か。

A3

知識の出所の例の一部は以下のとおりである:

・ 類似工程から得られた経験に基づく過去の知識(内部知識:企業内の科学技術文書)及び公表された情報(外部知識:文献及び査読を受けた公表論文)

・ 医薬品開発研究

・ 作用機序

・ 構造活性相関

・ 技術移転活動

・ プロセスバリデーション検討

・ 製造経験、たとえば、

―内部監査及び供給元監査

―原材料試験データ

・ イノベーション

・ 継続的改善

・ 変更マネジメント活動

・ 安定性試験報告書

・ 製品品質レビュー/年次製品レビュー

・ 苦情報告書

・ 有害事象報告(患者に対する安全性)

・ 逸脱報告書、回収情報

・ 技術的検討及び/又は是正措置及び予防措置(CAPA)報告書

・ 供給元及び委託先

・ 製品履歴及び/又は製造履歴

・ 現行の製造プロセス情報(たとえば傾向)

以上より得られた情報は、一製造所又は一企業内、企業とその供給元/委託先の間、製品間、異なる専門領域(たとえば開発、製造、技術、品質の各部門)間で供給され、共有することができる。

Q4

ICH Q8、Q9及びQ10関連の知識管理の実施には、特定の専用コンピュータ情報管理システムが必要か。

A4

必要ではない。ただし、そうしたコンピュータ情報管理システムは、複雑なデータや情報の取得、管理、評価及び共有に極めて有益となる可能性がある。

Q5

規制当局は、査察中に形式化された知識管理アプローチの閲覧を要求するか。

A5

要求はしない。形式化された知識管理システムに関する付加的な規制要件はない。しかし異なるプロセスやシステムに由来する知識が適切に活用されることが期待される。

注:「形式化された」とは、広く認められている方法論又は(IT)ツールを利用しながら、明白でかつ細目まで定めた方法で物事を遂行し、文書化する体系的なアプローチのことをいう。

6.ソフトウェア・ソリューション

Q1

科学とリスクに基づく新たな品質パラダイムの急速な進展に加え、ICH Q8、Q9及びQ10ガイドラインのグローバルに一貫した実施を促すIWGの努力が合わさった結果、「ICH準拠ソリューション」又は「ICH Q8、Q9及びQ10実施ソフトウエア」等と銘打った製品が現在多くの会社から市販されている。製薬企業が社内でICH Q8、Q9及びQ10ガイドラインの実施を成功させるためには、こうした製品の購入が必要か。

A1

必要ではない。ICH実施作業部会は、いかなる商品も推奨したことはなく、現在もその意図はない。ICHは審査権限のある規制機関ではなく、従って、いかなる商品に対しても「ICH準拠」の決定や規定をする役割を持たない。これらのICHガイドラインの実施をターゲットとした新製品は今後も増え続ける可能性があるが、企業は自らのビジネスニーズに照らしてこうした製品を独自に評価する必要があるだろう。