○製剤開発に関するガイドラインの改定について
(平成22年6月28日)
(薬食審査発第0628第1号)
(都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
新医薬品の製造販売承認申請に際し、平成13年6月21日付け医薬審発第899号医薬局審査管理課長通知「新医薬品の製造又は輸入の承認申請に際し承認申請書に添付すべき資料の作成要領について」(以下「CTD通知」という。)により提出される承認申請資料のうち、「製剤開発の経緯」の項において推奨される記載内容については、「製剤開発に関するガイドライン」平成18年9月1日付け薬食審査発第0901001号により推奨される内容が示されているところですが、今般、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)での合意に基づき、別添のとおり「製剤開発に関するガイドライン」を改めたので下記事項を御了知の上、貴管内関係業者等に対し周知方御配慮願います。
記
1.本ガイドラインの要点及び留意事項
(1) 本ガイドラインは、CTD通知により提出される承認申請資料のうち、3.2.P.2「製剤開発の経緯」の項において推奨される記載内容を示すものであること。
(2) 本ガイドラインは、上記「製剤開発の経緯」の項において、製品及びその製造工程の開発に対して科学的手法と品質リスクマネジメントを適用することで得られた知識を提示する機会を提供するものであること。品質リスクマネジメントについては、平成18年9月1日付け薬食審査発第0901004号・薬食監麻発第0901005号厚生労働省医薬食品局審査管理課長・監視指導麻薬課長通知「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」を参考にされたい。
(3) 本ガイドラインに従い検討が行われたデザインスペースを適用し承認申請を行う場合には、当該デザインスペースを製造販売承認申請書の対応する箇所に記載すること。記載に際しては平成17年2月10日付薬食審査発第0210001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「改正薬事法に基づく医薬品等の製造販売承認申請書記載事項に関する指針について」に準拠すること。
2.改定の要点及び留意事項
(1) 本改定は既存の「製剤開発に関するガイドライン」に補遺を追加するものであり、新たな基準を確立することや新たな規制要件を導入することを意図するものではなく、ガイドライン本文に概説されている概念及びツール(デザインスペースなど)を、申請者がどのようにすればあらゆる剤形に対して実際に応用できるかを提示するものである。
(2) 本補遺中において言及されている医薬品品質システムについては、平成22年2月19日付薬食審査発0219第1号・薬食監麻発0219第1号厚生労働省医薬食品局審査管理課長・監視指導麻薬課長通知「医薬品品質システムに関するガイドラインについて」を参考にされたい。
別添:
第1部 製剤開発に関するガイドライン
目次
1.はじめに
1.1 本ガイドラインの目的
1.2 適用範囲
2.製剤開発の経緯
2.1 製剤成分
2.1.1 原薬
2.1.2 添加剤
2.2 製剤
2.2.1 製剤設計
2.2.2 過量仕込み
2.2.3 物理的化学的性質及び生物学的性質
2.3 製造工程の開発経緯
2.4 容器及び施栓系
2.5 微生物学的観点から見た特徴
2.6 溶解液や使用時の容器/用具との適合性
3.用語
第2部 製剤開発に関するガイドライン 補遺
目次
1.はじめに
2.製剤開発の要素
2.1 目標製品品質プロファイル
2.2 重要品質特性
2.3 リスクアセスメント:物質特性及び工程パラメータと製剤CQAとの関連づけ
2.4 デザインスペース
2.4.1 変数の選択
2.4.2 承認申請添付資料におけるデザインスペースの説明
2.4.3 単位操作デザインスペース
2.4.4 デザインスペースとスケール及び装置との関係
2.4.5 デザインスペースと立証された許容範囲
2.4.6 デザインスペースと不適合境界
2.5 管理戦略
2.6 製品ライフサイクルマネジメントと継続的改善
3.コモンテクニカルドキュメント(CTD)様式での製剤開発情報及び関連情報の提出
3.1 品質リスクマネジメントと製品・工程開発
3.2 デザインスペース
3.3 管理戦略
3.4 原薬関連情報
4.用語
付録1.異なる製剤開発手法
付録2.実例
第1部 製剤開発に関するガイドライン
1.はじめに
1.1 本ガイドラインの目的
本ガイドラインは、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)M4コモン・テクニカル・ドキュメント(CTD)様式で規制当局に提出される資料のうち、3.2.P.2「製剤開発の経緯」の項において推奨される記載内容を述べたものである。
「製剤開発の経緯」の項においては、製品及びその製造工程の開発に対して科学的手法と品質リスクマネジメント(定義についてはICH Q9を参照)を適用することで得られた知識を提示する機会が提供されることとなる。「製剤開発の経緯」の項は、製造販売承認申請のためにまず作成されるが、製品のライフサイクル*を通じて新たな知識が得られた場合は、これを更新することができる。「製剤開発の経緯」の項は、審査官及び査察官が製品及びその製造工程を総合的に理解できるように設けたものである。本ガイドラインは、製剤学と製造科学の観点から理解が進んだことを証明できた場合に、規制の弾力的な取組みを行うための基盤となる領域を示す。規制の弾力性の程度は、提示した関連する科学的知識のレベルによって決まる。
1.2 適用範囲
本ガイドラインは、CTD(ICHガイドライン M4)モジュール3の適用範囲において定義されている製剤に対して、3.2.P.2「製剤開発の経緯」の項における記載内容に関する指針を示すことを目的とするものである。本ガイドラインは、医薬品の臨床開発段階において提出される、製剤に関わる記載内容には適用されない。しかし、臨床開発段階においても、本ガイドラインの原則を考慮することは重要である。また、本ガイドラインは、上記以外の製剤に適用可能な場合がある。申請者は、ある特定の種類の医薬品に対する本ガイドラインの適用の可否について、規制当局に相談することができる。
2.製剤開発の経緯
製剤開発の目的は、適正な品質を有する製品を設計すること、及び意図した機能を有する製品を一貫して供給できる製造工程を設計することである。製剤開発研究や製造経験を通して得られた情報や知識により科学的理解が深まり、これがデザインスペース*、規格、及び製造管理の確立に役立つ。
製剤開発研究から得られた情報を品質リスクマネジメントの基盤とすることが可能である。品質*は、製品になってから検証するものではなく、製品設計によって製品に組み込まれているべきであるとの認識は重要である。開発過程やライフサイクルマネジメントにおいて製剤処方や製造工程の変更を行うことは、知識を深めてデザインスペースの確立をさらに進める機会となるとみなしてもよい。また、予測しない結果がもたらされた場合、その実験から得られた関連する知識を示すことも有用となる。デザインスペースは申請者が提案し、規制当局がその評価を行って承認する。このデザインスペース内で運用することは変更とはみなされない。デザインスペース外への移動は変更とみなされ、通常は承認事項一部変更のための規制手続きが開始されることになる。
「製剤開発の経緯」の項には、選択した剤形の種類や提示した製剤処方が用途に適していることを立証するような知識を示すべきである。ここでは、製剤とその製造工程の開発について理解を深めるために、十分な情報を各パートに記載する。要約表や図式によって、情報を明確化することができ審査を円滑化できる場合には、それらを用いることが望ましい。
最低限記載が必要な事項としては、原薬、添加剤、容器及び施栓系、製造工程に関わる性質のうち製品の品質にとって重要なものを特定し、それらを管理する戦略の妥当性を示すことが挙げられる。一般に、どの製剤処方の特性と工程パラメータが重要であるかは、その変動が製剤の品質に及ぼし得る影響の程度を評価して特定する。
以上のような情報に加えて申請者は、原料特性、代替の操作、製造工程パラメータなどの製品性能に関する知識をより広い範囲にわたってさらに深めることができるような製剤開発研究を実施することも可能である。この項にこれらの追加情報を含めることで、原料の特性、製造工程や工程管理に対しさらに高度の理解を得ていることを示すことができる。このような科学的理解は、デザインスペースを拡大することを推し進める。このような場合には、規制当局の取組みがより弾力的なものとなる機会につながり、それは例えば次のような点が考えられる。
・リスクに基づいた規制当局の判断(審査及び査察)
・追加の審査を受けることなく、承認書に記載されたデザインスペース内で製造工程を改善すること
・承認後申請の低減
・最終の製品出荷試験の減少につながる「リアルタイム」の品質管理
このような規制の取り組みの弾力性を実現するために、申請者は、原料特性、製造処理法及び製造工程パラメータがある一定の範囲内にある場合の製品性能に関するより多くの知識を提示する必要がある。このような情報は、例えば正式な実験計画*、プロセス解析工学(PAT)*やあるいはそれまでの知識を適用することで得られる。品質リスクマネジメントの原則を適切に適用すれば、こうした知識を収集するために追加で実施される製剤開発研究の優先順位付けに役立つこととなる。
製剤開発研究は、それが意図する科学的目的に沿って計画、実施する必要がある。データの量ではなく、得られた知識のレベルが、科学的根拠に基づく申請と規制当局による評価の基盤となるということをよく認識しておくことが期待されている。
2.1 製剤成分
2.1.1 原薬
本項においては、製剤の性能と製造性に影響しうるような、あるいは、(固体状態での物性のように)特別に設計されたような原薬の物理的化学的及び生物学的性質を特定し考察する。検討されるべき物理的化学的及び生物学的性質の例としては、溶解度、水分含量、粒子径、結晶特性、生物活性、膜透過性などが挙げられる。これらの性質は相互に関連している可能性があり、組み合わせて考えなければならない場合もある。
製剤性能に及ぼす原薬の物理的化学的性質の潜在的影響を評価するために、製剤に関する試験が必要となる場合がある。例えば、「ICH Q6A:新医薬品の規格及び試験方法の設定」には、推奨されるいくつかの製剤研究の事例が示されている(フローチャート#3と#4(パート2))。この手法は、「ICH Q6B:バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品の規格及び試験方法の設定」についても同様に適用される。製剤性能に及ぼす原薬の影響を調べることによって得られた知識は、必要に応じて、原薬の規格及び試験方法(3.2.S.4.5)の妥当性を示すために用いることができる。
この項では、原薬と3.2.P.1項に示した添加剤との配合適性を評価する必要がある。複数の原薬を含む製剤については、原薬相互間の配合適性について考察するべきである。
2.1.2 添加剤
選択された添加剤、それらの濃度、及び製剤の性能(例えば、安定性、生物学的利用能など)や製造性に影響する可能性のある添加剤の性質について、それぞれの添加剤の各機能に関連付けて考察する。これには、製剤の製造に用いたすべての物質(加工助剤なども含める)を、最終製品に含まれるか否かにかかわらず含めるべきである。(例えば、保存剤を2成分組み合わせて使用する場合など)添加剤と他の添加剤の配合適性についても適宜記述する。添加剤(酸化防止剤、膜透過性促進剤、崩壊剤、放出制御剤など)に関して、それらが目的とする機能性を発揮し、かつ製剤の有効期間を通じて役割を果たし得る能力を示す。添加剤の性能に関する情報は、必要に応じて、添加剤の選択と品質特性を証明するため、さらには製剤の規格及び試験方法(3.2.P.5.6)の妥当性を立証するために用いることができる。
添加剤の安全性に関する情報は、必要に応じて、相互参照する(3.2.P.4.6)。
2.2 製剤
2.2.1 製剤設計
申請する用法や投与経路を考慮して、製剤の品質にとって重要な性質の特定を含めた製剤開発の要約をこの項において記述する。製剤の品質を確保する上で重要となり得る―特に意味のある変数や相互に作用する変数を特定するに当たっては、正式な実験計画から得られた情報が有用となる。
この項では、最初のコンセプトから最終設計までの製剤設計の変遷に焦点を当てて要約する。また、この要約では製剤構成要素の選択(原薬、添加剤、容器及び施栓系、関連する投与デバイスの性質など)や製造工程を検討し、類似する製剤の開発で得られた知識も必要に応じて考慮に入れる。
製造処方中の添加剤量や特性の範囲については(3.2.P.3.2)、申請資料のこの項でその妥当性を示すべきである。この妥当性の根拠として、開発中または製造中に得られた経験を使用できることが多い。
臨床での安全性と有効性に関する試験、生物学的利用能試験または生物学的同等性試験に用いた製剤処方の要約を示す必要がある。申請した市販用製剤と主要臨床試験用のロット、申請用安定性試験で用いた製剤との相違を明示し、その変更の妥当性を示す。
臨床試験用製剤と3.2.P.1項に記載した申請された市販用製剤とを関連づける、in vitro比較試験(溶出試験など)またはin vivo比較試験(生物学的同等性試験など)から得られた情報については、この項において要約し、当該試験との相互参照(試験番号付き)を示す。In vitro/in vivo相関の確立を試みた場合、これらの試験結果と当該試験についての相互参照(試験番号付き)をこの項に示す。In vitro/in vivo相関が確立された場合、それは適切な溶出試験の規格値を選択するのに役立つであろうし、製剤や製造工程の変更後に必要となる生物学的同等性試験を減らすことを可能にするかもしれない。
通常とは異なる製剤設計(錠剤の割線、過量充填、製剤に影響する偽造防止対策など)についてはいずれもそれを明示し、その使用についての妥当性を示す。
2.2.2 過量仕込み
製造中、製品の有効期間内の分解を補償するために、または有効期間を延長するために原薬の過量仕込みを行うことは一般に勧められない。
製剤製造中の過量仕込みは、最終製品中に過量として残るか否かにかかわらず、製品の安全性と有効性を考慮したうえで正当な理由が示されるべきである。提供される情報としては、1)過量仕込み量、2)過量仕込みの理由(想定されており、且つ文書化された製造工程中の損失量を補填するためなど)、3)過量分についての妥当性、が挙げられる。3.2.P.3.2項の製造処方に示す原薬の量には、過量分も含める必要がある。
2.2.3 物理的化学的性質及び生物学的性質
製剤の安全性や性能、製造性に関わる物理的化学的性質及び生物学的性質を特定し考察すること。この考察には、原薬及び製剤特性の生理学的影響も含める。吸入剤の吸入可能量に関する試験法開発などの研究を行うことも考えられる。同様に、溶出試験と崩壊試験のどちらを選択するか、または他の手段を用いて薬剤溶出を保証するかを判断する裏付け情報や、選択した試験に関する開発やその妥当性についてもこの項に示すことができる。「ICH Q6A:新医薬品の規格及び試験方法の設定」のフローチャート#4(パート3)及びフローチャート#7(パート1)、または「ICH Q6B:バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品の規格及び試験方法の設定」も参照されたい。これら考察の記載に当たっては、3.2.P.8.3項に記載された安定性データを相互参照する。
2.3 製造工程の開発経緯
3.2.P.3.3項に記載される製造工程の選択、製造工程管理、及び製造工程の最適化(商業生産を想定したロットなど)を説明する。製造工程の選択についての説明、あるいは構成成分の妥当性を確認するために、利用可能な代替製造方法とともに、重要な製剤特性を考慮することは重要である。当該製品の製造に用いる装置の妥当性もここで考察する。製造工程開発の検討は製造工程の改善、工程バリデーション、継続的工程確認*(適用される場合)、及び必要な工程管理の論拠となるべきものである。このような検討では、物理的及び化学的性質に加えて、必要に応じて微生物学的性質も扱う必要がある。工程開発の検討から得られる知識は、必要に応じて「製剤の規格及び試験方法の妥当性(3.2.P.5.6)」を説明するために用いることができる。
製造工程開発プログラムまたは工程改善プログラムでは、製品の望ましい品質を確保するためにモニタリングまたは管理が必要となる重要な工程パラメータ(造粒終点など)を特定する必要がある。
無菌であることが必要となる製品については、製剤と一次包装材料の適切な滅菌方法が選択され、その選択の妥当性が示される必要がある。
主要臨床試験(安全性、有効性、生物学的利用能、生物学的同等性試験)用または申請用安定性試験用の製品ロットに使用した製造工程と3.2.P.3.3項に示した製造工程との間に重要な相違がある場合には、本項で考察する。この考察では、その相違が製品の性能、製造性及び品質に及ぼす影響を要約する。関連情報は、製造工程と当該ロット分析情報を比較しやすい方法で示すべきである(3.2.P.5.4)。この情報には、例えば(1)生産したロットの識別情報(ロット番号など)と使用目的(生物学的同等性試験用ロット番号など)、(2)製造場所、(3)ロットサイズ、(4)装置の重要な違い(設計、操作原理、サイズの違いなど)を含める。
将来、工程の最適化を柔軟に行うことができるようにするため、製造工程の開発経緯を記述する際に、重要特性または工程のエンドポイントをモニタリングできる計測システムを記述しておくことが有効である。製造工程の開発中に製造工程のモニタリングデータを収集することは、製造工程の理解を促進するのに有用な情報を提供することとなる。工程の調整を通して重要な要因のすべてを確実に管理できる工程管理戦略を示す必要がある。
意図した品質の製品を確実に生産する工程の能力(異なる操作条件、異なる製造スケールまたは異なる装置を用いた場合の製造工程の性能など)に関する評価結果をこの項に示すことができる。工程の頑健性*に対する理解があれば、リスク評価とリスク低減(「ICH Q9:品質リスクマネジメント」の定義を参照)に有用であり、将来の製造と工程の改善、特にリスクマネジメントツールを用いた改善に役立てることができる(「ICH Q9:品質リスクマネジメント」を参照)。
2.4 容器及び施栓系
市販製品の容器及び施栓系(3.2.P.7項に記載)について、その選択および選択の理由を本項で考察する。製剤の使用目的に適合しているか、容器及び施栓系が保存や輸送(出荷)に対して適切であるか、適宜、バルク製剤の保管や出荷に使用した容器も含めて、考察を記述する。
一次包装材料については、その選択の妥当性を示す。容器及び施栓系の完全性を示すために実施した試験については、その考察をここに記述する。製品と容器あるいはラベルとの相互作用に関する考察があれば、これを記載する。
一次包装材料の選択においては、例えば、素材の選択、水分や光からの保護、構成する材料と投与剤形との適合性(容器への吸着や容器からの溶出を含む)、構成する材料の安全性等が考慮されるべきである。適宜、二次包装材料の妥当性についても示される必要がある。
投与デバイス(滴下ピペット、ペン型注射器、ドライパウダー吸入器など)を用いる場合、製品使用状況にできる限り近い試験条件下で正確な用量を再現性をもって投与できること証明することが重要である。
2.5 微生物学的観点から見た特徴
必要に応じて、製剤の微生物学的観点から見た特徴については、この項(3.2.P.2.5)で考察する。この考察には、例えば以下の様なことを含む。
・非無菌製剤について微生物限度試験を実施するか否かの根拠(「ICH Q6A:新医薬品の規格及び試験方法の設定:化学物質」のフローチャート#8、「ICH Q6B:バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品の規格及び試験方法の設定」など)。
・抗菌性保存剤を含有する製品について、保存剤の選択理由とその有効性、あるいは本来抗菌性である製品についてはその抗菌有効性
・無菌製剤については、微生物汚染防止に関する容器及び施栓系の完全性
保存剤の含量に関わる化学試験は、通常、製品規格に設定される項目であるが、保存剤の抗菌有効性は製剤開発過程で実証すべきである。抗菌性保存剤の規格下限濃度についても、保存効力試験法によってその濃度が微生物の繁殖抑制に有効であることを示すべきである。使用する濃度が有効性及び安全性の面で妥当であることを示す必要がある。たとえば、製品に設定している有効期限を通して必要とされる有効性を保つために、最低限必要な濃度の保存剤が使用されていることなどを示す。必要に応じて、患者が使用する条件にできる限り近い条件下での微生物負荷試験を開発中に行い、この項に示すこと。
2.6 溶解液や使用時の容器/用具との適合性
添付文書などに適切で有益な情報を提供するために、製剤と溶解液との配合性(沈殿、安定性など)をここで扱う。この情報では、推奨される温度及び想定される希釈濃度域において、推奨される使用時の有効期間についても示されるべきである。同様に、投与前に製品の混合または希釈を行う場合には(大容量の輸液容器に添加する製品など)、その点について言及することが必要になる。
3.用語
継続的工程確認:
製造工程の性能を継続的にモニタリングし評価する、工程バリデーションの代替法。
デザインスペース:
品質を確保することが立証されている入力変数(原料の性質など)と工程パラメータの多元的な組み合わせと相互作用。このデザインスペース内で運用することは変更とはみなされない。デザインスペース外への移動は変更とみなされ、通常は承認事項一部変更のための規制手続きが開始されることになる。デザインスペースは申請者が提案し、規制当局がその評価を行って承認する。
正式な実験計画:
工程に影響する諸要因と、その工程のアウトプットとの関係を判断するための構造化・組織化された方法。「実験計画法」としても知られる。
ライフサイクル:
初期開発から市販を経て製造販売中止に至るまでの製品寿命の全過程。
プロセス解析工学(工程解析システム)(PAT):
最終製品の品質保証を目標として原材料や中間製品/中間体の重要な品質や性能特性及び工程を適時に(すなわち製造中に)計測することによって、製造の設計、解析、管理を行うシステム。
工程の頑健性:
ある工程が、材料の変動性や工程自体及び装置の変更に対して、品質にマイナスの影響を与えることなく耐えられることを示す。
品質:
原薬または製剤がその用途に適合している程度のこと。この用語には、確認試験、力価、純度などの性質が含まれる(「ICH Q6A:新医薬品の規格及び試験方法の設定より)。
――――――――――
*定義については用語集を参照のこと。
第2部 製剤開発に関するガイドライン 補遺
1.はじめに
第2部は、第1部製剤開発に関するガイドラインの補遺であり、第1部で述べられている主要な概念を詳しく解説するものである。さらに本補遺では、クオリティ・バイ・デザイン*(QbD:設計による品質の作り込み)の原則を説明する。本補遺は新たな基準を確立することや新たな規制要件を導入することを意図するものではなく、第1部 製剤開発に関するガイドライン本文に概説されている概念及びツール(デザインスペース*など)を、申請者がどのようにすればあらゆる剤形に対して実際に応用できるかを提示するものである。企業が適切な医薬品品質システムと組み合わせてQbD及び品質リスクマネジメント(ICH Q9「品質リスクマネジメント」)を適用することを選択した場合には、科学及びリスクに基づく薬事上のアプローチ(ICH Q10「医薬品品質システム」参照)を向上させる機会が生まれる。
製剤開発の手法
いかなる場合でも、製品は患者のニーズ及び意図された製品の機能を満たすように設計されるべきである。製品開発戦略は企業や製品によって異なる。開発の手法及び範囲も一様ではなく、承認申請添付資料でそれらを概説する必要がある。申請者は製品開発時に選択する手法として、経験に基づく手法とより体系的な手法のいずれか、あるいは両者の組み合わせのいずれを選択してもよい。付録1でこれらの手法の想定される相違点を比較する。製品開発に対するより体系的な手法(QbDとも定義される)には、例えば既に得られている知識の取り込み、実験計画法を利用した試験の結果、品質リスクマネジメントの利用、製品ライフサイクル*の全期間を通じた知識管理(ICH Q10参照)の利用が含まれる。こうした体系的な手法は、要求される製品品質の実現を促進し、規制当局が企業戦略をよりよく理解する一助となる。製品及び工程の理解は、製品ライフサイクルを通じて得られる知識により更新される。
製品及びその製造工程の理解が進めば、規制のより弾力的な取り組みを行うための基盤が築かれる。規制の弾力性の程度は、申請の際に提示される関連する科学的知識のレベルによって決まる。各々の申請において、提示された知識が理にかなった科学的原理に基づいていることを示す適切なデータを提示するべきであるが、科学及びリスクに基づく申請及び規制当局による評価の基礎となるのは、獲得され当局に提出された知識であり、収集されたデータの量ではない。
製剤開発には、最低限、以下の要素を含めるべきである:
・ 投与経路、剤形、生物学的利用能、製剤含量、安定性などを考慮して、品質、安全性、有効性に関連する目標製品品質プロファイル*(QTPP)を定義する。
・ 製剤の品質に影響を及ぼす製剤特性の研究や管理が可能となるように、当該製剤の見込まれる重要品質特性*(CQA)を特定する。
・ 目的とする品質*の製剤とするための、原薬、添加剤などの重要品質特性を決定し、添加剤の種類と量を選択する。
・ 適切な製造工程を選択する。
・ 管理戦略*を決定する。
製品開発におけるより進んだQbD手法には、さらに以下の要素を含めることができる:
・ 製剤処方や製造工程を体系的に評価、理解し改良する。これには以下の内容が含まれる。
○ 既に得られた知識、実験、リスクアセスメント等から、製品のCQAに影響を及ぼし得る物質特性及び工程パラメータを特定する。
○ 物質特性及び工程パラメータと製品のCQAを関連づける機能的関係を明らかにする。
・ デザインスペース及び/又はリアルタイムリリース試験*等の提案を含む適切な管理戦略を構築するため、より深められた製品及び工程の理解を品質リスクマネジメントと組み合わせて活用する。
結果として、このより体系的な手法により、製品ライフサイクルの全期間を通じた継続的改善とイノベーションが促進されるであろう。(ICH Q10「医薬品品質システム」参照)。
2.製剤開発の要素
本項では、開発段階で製品及び工程をより体系的に深く理解するためにとり得る手法を解説する。提示の例は単なる事例であり、新たな規制要件の創出を意図したものではない。
2.1 目標製品品質プロファイル
目標製品品質プロファイルは製品開発の設計の基盤となる。目標製品品質プロファイルとして考慮すべき事項には以下の項目が含まれるであろう。
・ 臨床上の使用目的、投与経路、剤形及び送達システム
・ 製剤含量
・ 容器及び施栓系
・ 開発中の製剤の剤形に適した、薬効成分の放出/送達特性及び薬物動態特性に影響を及ぼす種々の特性(溶出性、空気力学的性能等)
・ 目的とする市販製剤にふさわしい品質基準(無菌性、純度、安定性及び薬物放出性等)
2.2 重要品質特性
重要品質特性(CQA)とは、物理学的、化学的、生物学的、微生物学的特性又は性質のうち、目的とする製品の品質を保証するために、適切な限度内、範囲内、分布内にあるべき特性又は性質である。CQAは通常、原薬、添加剤、中間体(中間製品)及び製剤と関連している。
経口固形製剤の一般的なCQAとしては、製剤の純度、製剤含量、薬物放出性及び安定性に影響を及ぼす特性が挙げられる。その他の送達システムに関連するCQAとしては、より製品特異的な特性、例えば、吸入剤であれば空気力学的特性、注射剤であれば無菌性、経皮用貼付剤であれば接着性などがさらに加わることが考えられる。また、原薬、原材料及び中間体のCQAとしては、製剤のCQAに影響を及ぼすような特性(粒度分布、かさ密度など)が加わり得る。
製剤のCQAとなり得る特性は、目標製品品質プロファイル及び/又はこれまでに得られた知識に基づいて得られ、製品及び工程開発の指針として利用される。製剤のCQAとなり得る特性のリストは、製剤処方及び製造工程が選択された際、又は製品知識及び工程理解が深まった際に修正することができる。品質リスクマネジメントは、以降の評価のため、製剤のCQAとなり得る特性のリストに優先順位をつける際に利用することができる。実際に製剤の品質に関連するCQAは、その変動が製剤の品質にどの程度影響を及ぼし得るかを評価するための品質リスクマネジメントと実験を繰り返すことによって特定することができる。
2.3 リスクアセスメント:物質特性及び工程パラメータと製剤CQAとの関連づけ
リスクアセスメントは、品質リスクマネジメント(ICH Q9参照)において用いられる科学に基づく有用なプロセスであり、製品のCQAに影響を及ぼし得る物質特性及び工程パラメータを特定するのに役立つ。リスクアセスメントは、通常、製剤開発の初期に実施され、更なる情報が得られた際、また、より深い知識が獲得された際に、繰り返し実施される。
リスクアセスメントの手段は、製品の品質への影響が懸念されるパラメータ(工程、装置、原材料等)を、既に得られた知識や初期の実験データに基づいて特定したり、ランク付けしたりする際に利用できる。事例については付録2を参照されたい。見込まれるパラメータのリストは、当初はかなり広範囲に亘るかもしれないが、さらなる試験(実験計画法、機構モデルを組み合わせた検討等)の実施により、修正されたり、優先順位をつけられたりする。リストは、個々の変数及び潜在的相互作用の重要性を検討する実験を行うことで、さらに改良される。重要なパラメータが特定されれば、それらをさらに検討する(実験計画法、数学的モデル、機構理解に役立つ試験を組み合わせた検討等)ことで、工程理解はさらに深まる。
2.4 デザインスペース
工程の入力変数(物質特性及び工程パラメータ)とCQAとの関係は、デザインスペースを用いて説明することができる(事例については付録2参照)。
2.4.1 変数の選択
2.3項で述べたリスクアセスメント及び工程開発に係る実験を行うことで、工程パラメータと物質特性の関連及びこれらが製品のCQAに及ぼす影響について理解がもたらされ、また、一貫した品質が達成されるための変数及びその範囲を特定する一助となる。上記のようにして選択されたこれら工程パラメータ及び物質特性は、デザインスペースに含めることができる。
申請においては、デザインスペースに含まれ、その設定のために検討された工程パラメータ及び物質特性、並びにこれらが製品の品質に及ぼす影響について説明するべきである。デザインスペースに含めた根拠も示すべきである。場合によっては、含められなかったパラメータについて、その理由を示すことも有用である。研究により得られた知識は承認申請添付資料に記載すべきである。開発期間を通じて変更のなかった工程パラメータ及び物質特性については、明らかにしておく必要がある。
2.4.2 承認申請添付資料におけるデザインスペースの説明
デザインスペースは、物質特性や工程パラメータの範囲、又はより複雑な数学的関係を用いて記述することができる。また、デザインスペースを、時間依存的関数(凍結乾燥サイクルの温度及び圧力サイクル等)として、あるいは多変量モデルの構成要素のような変数の組み合わせとして定義することも可能である。デザインスペースが複数の操作スケールに及ぶような場合には、スケールの要素を含めることも可能である。過去のデータの解析がデザインスペース設定に寄与することもある。デザインスペースがどのように開発されたかにかかわらず、デザインスペース内で操作を行えば、規定の品質を満たす製品が得られることが求められる。
デザインスペースを提示する際に考えられる開発手法の例を付録2に示す。
2.4.3 単位操作デザインスペース
申請者は、一つあるいは複数の単位操作についてそれぞれ個別にデザインスペースを構築することもできるし、複数の操作にわたる一つのデザインスペースを構築することもできる。多くの場合、単位操作ごとに別個のデザインスペースを開発する方が容易であるが、全工程に及ぶ一つのデザインスペースを開発すれば、より柔軟な操作の運用が可能となる。例えば、凍結乾燥前に溶液中で分解が生じてしまうような製剤の場合、分解の程度を管理するためのデザインスペース(濃度、時間、温度等)を単位操作ごとに設けることも可能であるし、すべての単位操作にわたる総和的なデザインスペースとして設定することも可能である。
2.4.4 デザインスペースとスケール及び装置との関係
申請者は、デザインスペースを記述する際、どのようなタイプの操作運用上の柔軟性を望むかについて留意すべきである。デザインスペースはいかなるスケールでも開発可能である。申請者は、小スケール又はパイロットスケールで開発されたデザインスペースと、提案する生産スケールでの製造工程との関連の妥当性を説明するとともに、スケールアップ操作における潜在的リスクを考察すべきである。
複数の操作スケールに適用可能なデザインスペースを提案する場合、申請者は、スケールと無関係なパラメータで当該デザインスペースを記述すべきである。例えば、ある製剤について、混合操作で剪断の影響を受けやすいことが判明していた場合、デザインスペースには、攪拌速度ではなく剪断速度が組み入れられることもある。また、スケールに関する無次元数及び/又は無次元モデルがデザインスペースの記述の一部に組み入れられる場合もある。
2.4.5 デザインスペースと立証された許容範囲
立証された許容範囲*を組み合わせるだけではデザインスペースは構築されない。しかし、一変量実験に基づいて立証された許容範囲からは、当該工程について有用な知識が得られる。
2.4.6 デザインスペースと不適合境界
工程パラメータや物質特性の不適合境界(関連する品質特性が適合しなくなる境界)を明確にすることは、有用な場合がある。しかしながら、不適合境界を確定することや欠陥モードを明示することは、デザインスペースを設定する上で不可欠な要素ではない。
2.5 管理戦略
管理戦略は、要求される品質の製品が一貫して生産されることを保証するために策定される。承認申請添付資料P.2項で論じられる管理戦略では、工程内管理及び原材料(原薬及び添加剤)、中間体(中間製品)、容器・施栓系及び製剤の管理が最終製品の品質にどのように寄与するかを記述するとともに、その妥当性を説明すべきである。これらの管理は、製品、処方、工程の理解に基づいて行われるべきであり、少なくとも重要工程パラメータ*及び物質特性の管理が含められるべきである。
包括的な製剤開発手法により、工程及び製品の理解がもたらされ、その理解により変動の原因が特定される。製品の品質に影響し得る変動の原因を特定し、適切に理解した上で、管理すべきである。変動の原因や、それらが下流の工程又は加工、中間製品、製剤品質に及ぼす影響を理解することで、管理を上流の工程に移行し、最終製品試験の必要性をできるだけ少なくする機会が得られる。品質リスクマネジメント(ICH Q9参照)と組み合わせて最終製品と工程を理解することにより、工程管理が裏付けられ、その結果、変動(例えば原材料における変動)があっても柔軟に補完され、一貫した製品の品質を得ることも可能となる。
工程を理解することで代替的な製造パラダイムも可能となる。そのパラダイムのもとでは、原材料の変動の制約をより緩めることができるかもしれない。それどころか、一貫した製品品質を保証するための適切な工程管理を行うことで、適応性に富む製造工程(使用原材料に対応した製造工程)を設計することも可能となる。
製品性能を深く理解することにより、対象となる物質がその品質特性に適合することを確認する際に代替手法を利用する妥当性を示すことが可能となる。こうした代替手法の利用は、リアルタイムリリース試験の裏付けとなり得る。例えば、溶解度の高い原薬を含む速崩性固形製剤の場合、溶出試験を崩壊試験に代えることができる。個々の製剤について含量均一性試験(近赤外吸収スペクトル(NIR)測定法と組み合わせた質量偏差試験等)を工程内で行えば、リアルタイムリリース試験が可能となり、公定書に定められた含量均一性試験法による従来の最終製品試験に比べて品質保証レベルが向上する可能性も考えられる。リアルタイムリリース試験は最終製品試験の替わりとなり得るが、GMP下でバッチ出荷に要求される照査及び品質管理の手続の替わりとなるものではない。
管理戦略には以下の内容を含めることができるが、これに限るものではない:
・ 使用原材料(原薬、添加剤、一次包装材料等)の特性が加工可能性や製品の品質に及ぼす影響を理解した上での、これら特性の管理
・ 製品規格
・ 下流での加工や最終製品の品質に影響を及ぼす単位操作の管理(分解に及ぼす乾燥の影響、溶出性に及ぼす顆粒の粒度分布の影響等)
・ 最終製品試験に代わる工程内試験又はリアルタイムリリース試験(加工中におけるCQAの測定及び管理等)
・ 多変量予測モデルを検証するためのモニタリングプログラム(全項目による製品試験の定期的な実施等)
管理戦略にはさまざまな要素を組み入れることができる。例えば、管理戦略のある要素は最終製品試験により管理され、別の要素はリアルタイムリリース試験により管理されることもある。これら代替手法を利用する論理的根拠は、承認申請添付資料中に記載されるべきである。
本補遺中の原則の導入により、ICH Q6A及びICH Q6Bに記述された手法とは異なる手法により規格特性及び許容基準を設定する妥当性を説明できる場合もあるだろう。
2.6 製品ライフサイクルマネジメントと継続的改善
企業は、製品ライフサイクルの全期間を通じて、製品の品質向上のための革新的な手法を評価することができる(ICH Q10参照)。
製造工程の稼働性能が、デザインスペースから予測される品質特性の製品となるよう期待通りに機能しているかを確認するために、モニターされる場合もある。このモニタリングには、通常の製造における追加の経験を踏まえて実施される、製造工程のトレンド解析が含まれることもあるだろう。数学的モデルを用いたデザインスペースの場合、モデルの性能を保証するためには、定期的な維持管理が有用であろう。モデルの維持管理は、デザインスペースが不変の場合、企業自らの内部品質システムの範囲内で管理可能な活動の一例である。
工程に関しさらに知識が得られると、デザインスペースの拡大、縮小、再定義が望まれる場合がある。デザインスペースの変更は、地域ごとの規制要件となる。
3.コモンテクニカルドキュメント(CTD)様式での製剤開発情報及び関連情報の提出
製剤開発情報はCTD P.2項に記載する。製剤開発研究で得られたその他の情報も、種々の方法でCTD様式により提供することが可能であり、以下にいくつかの具体案を挙げる。ただし、申請者は、種々の情報が承認申請添付資料のどこに記載されているかを明記する必要がある。承認申請添付資料の内容に加え、本補遺の要素のうち、申請者の医薬品品質システム(ICH Q10参照)下で取り扱われるものもある(製品ライフサイクルマネジメント、継続的改善等)。
3.1 品質リスクマネジメントと製品・工程開発
品質リスクマネジメントは、製品・工程開発及び製造実施のさまざまな段階で利用することができる。開発上の判断の指針として、またその判断の妥当性の説明に用いられたリスクアセスメントについては、P.2の関連各項に記載することができる。例えば、物質特性及び工程パラメータを製品のCQAに関連づけるリスク分析及び機能的関係は、P.2.1、P.2.2及びP.2.3に記載することができる。また、製造工程設計を製品の品質に関連づけるリスク分析は、P.2.3に記載することができる。
3.2 デザインスペース
提案する製造工程の一つの要素として、承認申請添付資料中の“製造工程及びプロセス・コントロールに係る項(P.3.3)”にデザインスペースを記載することができる。適切であれば、承認申請添付資料中の“重要工程及び重要中間体の管理に係る項(P.3.4)”で、追加情報を提供してもよい。デザインスペース構築の基盤となった製品・工程開発研究を要約、説明する項としては、承認申請添付資料中の“製剤及び製造工程の開発に係る項(P.2.1、P.2.2及びP.2.3)”が適当である。デザインスペースと管理戦略全般との関係は、承認申請添付資料中の“規格及び試験方法の妥当性の項(P.5.6)”で説明することができる。
3.3 管理戦略
製剤全般の管理戦略の要約を記載する項としては、承認申請添付資料中、“製剤規格の妥当性に係る項(P.5.6)”が適当である。ただし、使用原材料の管理及び工程管理に関する詳細な情報は、CTD様式のうち適切な項(原薬(S)、添加剤の管理(P.4)、製造工程及びプロセス・コントロールの説明(P.3.3)、重要工程及び重要中間体の管理(P.3.4)等)に記述すべきである。
3.4 原薬関連情報
原薬のCQAが製剤のCQA又は製造工程に影響を及ぼすおそれがあるときは、原薬のCQAについて、承認申請添付資料の“製剤開発の経緯に係る項(P.2.1等)”で、ある程度言及しておくことが適当であろう。
4.用語
管理戦略:最新の製品及び製造工程の理解から導かれる、製造プロセスの稼動性能及び製品品質を保証する計画された管理の一式。管理は、原薬及び製剤の原材料及び構成資材に関連するパラメータ及び特性、設備及び装置の運転条件、工程管理、完成品規格及び関連するモニタリング並びに管理の方法及び頻度を含み得る。(ICH Q10)
重要工程パラメータ(CPP):工程パラメータのうち、その変動が重要品質特性に影響を及ぼすもの、したがって、その工程で要求される品質が得られることを保証するためにモニタリングや管理を要するもの。
重要品質特性(CQA):要求される製品品質を保証するため、適切な限度内、範囲内、分布内であるべき物理学的、化学的、生物学的、微生物学的特性又は性質。
デザインスペース:品質を確保することが立証されている入力変数(原料の性質など)と工程パラメータの多元的な組み合わせと相互作用。このデザインスペース内で運用することは変更とはみなされない。デザインスペース外への移動は変更とみなされ、通常は承認事項一部変更のための規制手続きが開始されることになる。デザインスペースは申請者が提案し、規制当局がその評価を行って承認する(ICH Q8)。
ライフサイクル:初期開発から市販を経て製造販売中止に至るまでの製品寿命の全過程(ICH Q8)。
立証された許容範囲:ある一つの工程パラメータについて、他のパラメータを一定とするとき、その範囲内での操作であれば関連する品質基準を満たすものが得られるとして特定された範囲。
品質:原薬あるいは製剤の意図した用途への適切さのこと。同一性、含量、物質の純度のような特性を指すこともある(ICH Q6A)。
クオリティ・バイ・デザイン(QbD):事前の目標設定に始まり、製品及び工程の理解並びに工程管理に重点をおいた、立証された科学及び品質リスクマネジメントに基づく体系的な開発手法。
目標製品品質プロファイル(QTPP):製剤の安全性及び有効性を考慮した場合に要求される品質を保証するために達成されるべき、製剤の期待される品質特性の要約
リアルタイムリリース試験:工程内データに基づいて、工程内製品及び/又は最終製品の品質を評価し、その品質が許容されることを保証できること。通常、あらかじめ評価されている物質(中間製品)特性と工程管理との妥当な組み合わせが含まれる。
付録1.異なる製剤開発手法
製剤開発及びライフサイクルマネジメントのさまざまな局面で、最小限の手法とより進んだQbD手法とで異なる可能性のある点を示す。この比較は、製剤開発において取り得る各種の手法の理解を助けるためにのみ示したものであり、すべてを包括するものではない。この表は、企業が従うために選択し得る唯一の手法を具体的に規定することを意図したものではない。より進んだ手法においても、必ずしもデザインスペースを設定したりリアルタイムリリース試験を採用したりしなくともよい。製薬業界における現在の実施状況は一様ではなく、概ね表に示される二つの手法の間に位置している。
側面 |
最小限の手法 |
より進んだQbD手法 |
総合的な製剤開発 |
・主に経験的 ・変量を一つずつ検討する開発研究が多い |
・体系的で、物質特性及び工程パラメータの機構的理解を製剤のCQAに関連づける ・製品及び工程を理解するための多変量実験 ・デザインスペースの設定 ・PATツールの利用 |
製造工程 |
・固定的 ・主に初回の実生産スケールバッチに基づくバリデーション ・最適化及び再現性に焦点 |
・デザインスペース内で調整可能 ・バリデーション及び理想的には継続的工程確認に向けてのライフサイクルを通じた取り組み ・管理戦略及び頑健性に焦点 ・統計学的な工程管理方法の利用 |
工程管理 |
・主に継続か中止かを判断するための工程内試験 ・オフライン分析 |
・適切なフィードフォワード及びフィードバック管理を伴うPATツールの利用 ・承認後の継続的改善努力を裏付けるための工程操作の解析及び傾向づけ |
製品規格 |
・管理するための基本手法 ・申請時に得られているバッチデータに基づく |
・総合的な品質管理戦略の一部 ・関連する支持データに基づいた目的とする製品性能に基づく |
管理戦略 |
・主に中間体(中間製品)試験及び最終製品試験で製剤の品質を管理 |
・製品及び工程の十分な理解を目指すリスクに基づいた管理戦略によって保証される製剤の品質 ・リアルタイムリリース試験又は最終製品試験の減少の可能性を伴う品質管理の上流への移行 |
ライフサイクル管理 |
・対症的(すなわち問題解決と是正措置) |
・予防措置 ・継続的改善の促進 |
付録2.実例
A.リスクアセスメント手法の利用例
例えば、横断的専門家チームが協力し、目的とする品質特性に影響を及ぼし得る潜在的因子を特定して石川(魚の骨)ダイアグラムを作成する。チームは既に得られている知識及び初期の実験データから、欠陥モード影響解析(FMEA)又は同様の手法を用いて、これら変数(因子)を発生確率、重大性、検出性に基づきランク付けることもできる。さらに、より上位にランク付けられる変数(因子)の影響を評価し、工程の理解をさらに深め、適切な管理戦略を立てるために、実験計画法や他の実験的手法が用いられることもある。
石川ダイアグラム
B.相互作用の記載例
下図は、分解産物Y量に及ぼす3種類の工程パラメータ間の相互作用の有無を示したものである。顆粒(製剤の中間製品)乾燥操作における3種類の工程パラメータ(初期水分含量、温度、平均粒子径)間の相互作用が分解産物Yに及ぼす影響を、一連の二次元グラフで示している。相互作用がある場合、グラフの直線又は曲線の傾きは相対的である。この例では、初期水分含量と温度は相互に作用するが、初期水分含量と平均粒子径、及び温度と平均粒子径は相互に作用しない。
C.デザインスペースの提示例
例1:溶出率の応答グラフを曲面図(図1a)及び等高線図(図1b)として示す。パラメータ1及び2は、錠剤の溶出率に影響を及ぼす造粒操作の2種類の因子である(添加物特性、水分量、顆粒径等)。
デザインスペースの例を二つ示した。図1cでは、重要品質特性である溶出率を満たすパラメータの非線形的な組み合わせによりデザインスペースを規定している。この例では、十分な応答の限界(溶出率80%)を示す応答曲面方程式でデザインスペースを示している。
一方のパラメータの許容範囲は、もう一方のパラメータの値に依存する。例えば:
― パラメータ1の値が46であれば、パラメータ2の範囲は0~1.5
― パラメータ2の値が0.8であれば、パラメータ1の範囲は43~54
図1cの手法からは、目的とする溶出率を得るための最大限の操作範囲が得られる。図1dでは、パラメータの線形的な組み合わせに基づき、より狭い範囲でデザインスペースが規定される。
― パラメータ1の範囲は44~53
― パラメータ2の範囲は0~1.1
図1dの手法では、範囲がより制限されるが、操作が単純になることから、申請者はこちらを選んでも差し支えない。
この例では二つのパラメータのみを取りあげたため、容易に図示することができる。多数のパラメータが関与する場合でも、デザインスペースは、第3、第4...のパラメータを範囲内で異なる値(高、中、低など)に設定し、上述した例と同様に、2種類のパラメータで示すことができる。あるいは、適合する操作に対応するパラメータ間の関係を方程式により記述し、数学的にデザインスペースを示すことも可能である。
例2:多数のCQAに対して、適合操作範囲の共通領域により規定したデザインスペース。二つのCQA(例として、錠剤の摩損度及び溶出率)と2種類の造粒工程パラメータとの関係を図2a及び2bに示す。パラメータ1及び2は、錠剤の溶出率に影響を及ぼす造粒操作の2種類の因子である(添加物特性、水分量、顆粒径など)。図2cは、これらが重なる領域を示し、デザインスペースの最大領域を提示している。申請者は、領域全体をデザインスペースとすることもできるし、その一部をデザインスペースとすることもできる。
例3:温度及び/又は圧力の経時変化に影響される乾燥操作のデザインスペース。水分含量のエンドポイントは1~2%である。デザインスペースの上限を上回る操作は過剰な不純物の生成を引き起こすおそれがあり、下限を下回る操作は過剰な粒子摩耗を引き起こすおそれがある。
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*定義については用語集を参照のこと。
