添付一覧
○アトモキセチン塩酸塩製剤の小児期AD/HD患者の成人期への継続使用に関する添付文書の改訂について
(平成22年6月14日)
(薬食審査発0614第10号)
(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
アトモキセチン塩酸塩製剤(販売名:ストラテラカプセル5mg、同10mg、同25mg)の小児期AD/HD患者の成人期への継続使用について、今般、下記のとおり添付文書を改訂することとしましたので、ご了知の上、貴管下の医療機関・薬局等に対してご周知頂くようお願いします。
なお本件については、平成22年6月3日に開催された薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会において(別添1)について、差し支えないとのご意見をいただいたところです。
記
アトモキセチン塩酸塩製剤の小児期AD/HD患者の成人期への継続使用について
薬物治療経験のある小児期AD/HD患者が、18歳を超えて本剤を継続使用すること等について、安全性及び有効性に関して大きな問題は認められていないことを踏まえ、添付文書の現行の「効能・効果に関連する使用上の注意」の項に、以下の文言を追記することが適当である。
「18歳未満で本剤により薬物治療を開始した患者において、18歳以降も継続して本剤を投与する場合には、治療上の有益性と危険性を考慮して慎重に投与するとともに、定期的に本剤の有効性及び安全性を評価し、有用性が認められない場合には、投与中止を考慮し、漫然と投与しないこと。」
(別添1) 平成22年6月3日 薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会資料(抜粋)
ストラテラカプセル5mg他の小児期AD/HD患者の成人期への継続使用について
平成22年6月3日
医薬食品局審査管理課
1.背景
ストラテラカプセル5mg、同10mg、同25mg(以下、「本剤」という。)は、小児期における注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の効能・効果を有する医薬品であり、有効成分はアトモキセチン塩酸塩である。日本では平成21年4月に承認されている。
日本ではAD/HDの効能・効果を有する医薬品は、本剤及びコンサータ錠18mg他(有効成分は塩酸メチルフェニデート、以下、「コンサータ」という。)のみであり、その適応は両者とも小児期に限定されている。
そのため、第20回未承認薬使用問題検討会議(平成21年3月10日)において、日本小児神経学会、日本小児精神神経学会、日本小児心身医学会、日本精神神経学会、日本児童青年精神医学会及び患者会よりAD/HD治療薬の成人への適用に対する要望が寄せられていることが報告されている(参考1)。また医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議(平成22年2月8日に第1回開催)においても、本剤の成人AD/HD患者への適応について、要望が寄せられているところである。
2.現状
(1) 成人AD/HD患者に対する欧米の適応について
米国において、本剤は2002年11月に小児及び青年期並びに成人期のAD/HDを適応症として承認されている。
欧州各国では、英国で2004年5月に小児及び青年期のAD/HDの効能・効果で承認されたのを最初に、ドイツ、オランダ、スウェーデン、イタリア及びデンマークで小児及び青年期のAD/HDを効能・効果として承認されている。なお、欧州各国では成人期における本剤の使用について、添付文書において「本剤による治療によって、明らかなベネフィットが認められた青年では、症状が成人期においても継続しているならば成人期においても治療を継続することが適切な場合がある。しかし、成人になってからストラテラを服用開始することは適切ではない」と記載されている。
(2) 日本人の成人AD/HD患者に対する治験について
本剤については、治験実施時及び小児期の両方でAD/HDの基準を満たした18歳以上のAD/HD患者を対象に、日本人を含むアジア人によるプラセボ対照二重盲検比較試験及びその長期継続投与試験が現在実施されており、本剤の製造販売者によれば、これらの試験成績に基づき、本剤の成人期AD/HD患者への追加適応に関する承認事項一部変更承認申請が行われる予定とされている。
(3) 国内における成人AD/HD患者に対する使用実態について
本剤の製造販売者の平成22年1月の調査によれば、150人強の18歳以上のAD/HD患者が、本剤を小児期から継続的に使用していると推計されており、これまで400名以上の患者が、18歳を超えたとの理由で本剤の服用を中止したと推計されている。
3.国内臨床試験における継続例等での有効性及び安全性
国内臨床試験(第Ⅱ/Ⅲ相試験(B4Z―JE―LYBC試験)及び長期継続試験(B4Z―JE―LYDA試験)の併合)において、試験期間中に18歳以上となった症例(12例)及び18歳未満であった症例(229例)における平均ADHDRS―IV1日本語版(医師用)合計点の経時推移は下図のとおりであり、いずれの群においても有効性が維持された。
図 平均ADHD RS―IV日本語版(医師用)合計点の推移
また、試験期間中に18歳となった症例(12例)における個別症例の平均ADHD RS―IV日本語版(医師用)合計点の経時推移は下図のとおりであり、ほとんどの症例では、18歳に達した時点以降であっても有効性が維持されていた。なお、投与5ヶ月で中止した1例では投与中止時のスコアが悪化していたが、本症例における本剤投与後のADHD RS―IV日本語版(医師用)合計点は不安定に推移し変動が大きく、投与中止時においても投与前に比べ改善は認められていた。
図 試験期間中に18歳となった症例の経時推移
試験期間中に18歳以上となった症例及び18歳未満であった症例における有害事象は、18歳以上で100%(12/12例)、18歳未満で96.9%(222/229例)であり、主な事象は下表のとおりであり、特に大きな差異はなく、18歳以上で死亡又はその他の重篤な有害事象は認められていない。
表 国内臨床試験における18歳以上及び18歳未満での有害事象発現状況
|
18歳未満 |
18歳以上 |
評価例数 |
229 |
12 |
有害事象 |
96.9(222) |
100.0(12) |
鼻咽頭炎 |
57.2(131) |
50.0(6) |
腹痛 |
24.0(55) |
16.7(2) |
上気道の炎症 |
21.4(49) |
16.7(2) |
下痢 |
20.1(46) |
16.7(2) |
傾眠 |
16.6(38) |
16.7(2) |
胃腸炎 |
15.3(35) |
16.7(2) |
アレルギー性鼻炎 |
9.2(21) |
16.7(2) |
血圧上昇 |
0.9(2) |
16.7(2) |
タンパク尿 |
0.9(2) |
16.7(2) |
頭痛 |
35.4(81) |
8.3(1) |
発現率(%)(発現例数)
なお、試験期間中に18歳以上となった12例のうち、実際に18歳に達した時点以降で有害事象が認められた症例は8例(66.7%)であり、その内訳は、下表のとおりであった。
表 18歳以上で認められた有害事象
|
事象名 |
症例1 |
尿検査異常、尿中タンパク陽性、洞性徐脈 |
症例2 |
アレルギー性鼻炎、鼻咽頭炎 |
症例3 |
体位性めまい、鼻咽頭炎、蕁麻疹、血中尿酸増加、タンパク尿 |
症例4 |
浮動性めまい |
症例5 |
胃腸炎、タンパク尿 |
症例6 |
鼻咽頭炎、帯状疱疹、尿中ブドウ糖陽性 |
症例7 |
頻脈 |
症例8 |
鼻咽頭炎、アレルギー性結膜炎 |
国内製造販売後の自発報告データ(2009年6月19日~2009年12月18日)において、年齢が18歳以上の症例で認められた有害事象(本剤との因果関係の有無に係らず、本剤の投与中又は投与後に発現した治療上好ましくない全ての事象)は10件4例(適応外使用4件、自殺企図、傾眠、アレルギー性皮膚炎、鼠径部痛、死亡、骨折各1件)であり、そのうち重篤な有害事象は3件2例(自殺企図、死亡及び骨折)であったが、自殺企図及び骨折は同一症例であり、本剤投与前より自殺念慮を有していたこと、死亡は火災事故によると判断され、これら2例は報告医により本剤との因果関係は否定されている。なお、これらの有害事象のうち本剤との因果関係が否定できない副作用は2件2例(アレルギー性皮膚炎、鼠径部痛各1件)のみであり、すべて非重篤である。
以上のように、本剤の国内臨床試験成績及び製造販売後のデータに基づくと、本剤の投与を18歳未満に開始し、有効性が認められ、臨床的に投与の継続が必要と考えられる症例については、18歳を超えて本剤を継続投与した場合でも、本剤投与時のリスクが小児期と比較して増大する可能性は低く、定期的に有効性及び安全性を確認しながら投与することで、本剤投与時のベネフィットはリスクを上回るものと考えられる。
4.まとめ
現在、小児期にAD/HDを発症し、18歳以上になっても薬剤治療が必要と判断された患者に対して、適応を有する治療薬は国内に存在しないこと、このような患者に対する薬物療法について、関連学会等から医療上の必要性が高く早急に対応すべき旨の要望書が提出されていること、欧米等諸外国においては、小児及び青年期にAD/HDを発症し成人した患者に対する本剤の継続投与が認められていること、本剤の製造販売者は本剤の成人AD/HD患者に対する効能・効果を取得する目的で、現在治験を実施し開発を進めていること、現在の知見からは、薬物治療経験のある小児期AD/HD患者が、18歳を超えて本剤を継続使用することについて、安全性及び有効性に関して大きな問題は認められていないことを踏まえ、添付文書を(別紙1)のとおり改定することは差し支えないものと考えられる。
なお、その際には製造販売者に対して、適切な患者のみに本剤が投与されるよう、製品情報概要、インタービューフォーム、適正使用ガイド、患者及びその保護者向けの医薬品ガイド等に本剤の対象患者を明記する、また治療上の有益性が危険性を上回る場合にのみ本剤の投与が継続されるよう、本剤の投与中は定期的に有効性及び安全性を確認するよう医療従事者に対して注意喚起を行うことを求めることとする。
また、現在実施されている日本人の成人AD/HD患者が参加している治験成績が得られた段階で、再度、18歳以上へ本剤の投与を継続することが適切であるか検討することとする。
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1Attention Deficit/Hyperactivity Disorder Rating Scale―IV―Parent Version:Investigator Administered and scored。以下、ADHD RS―IVと略す。
(別紙1)
ストラテラカプセル5mg、10mg、25mgの添付文書改定(案)について
(現在)
<効能・効果に関連する使用上の注意>
1.6歳未満及び18歳以上の患者における有効性及び安全性は確立していない。[「臨床成績」の項参照]
2.AD/HDの診断は、米国精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM*)等の標準的で確立した診断基準に基づき慎重に実施し、基準を満たす場合にのみ投与すること。
*Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders
(変更案)
<効能・効果に関連する使用上の注意>
1.6歳未満及び18歳以上の患者における有効性及び安全性は確立していない。[「臨床成績」の項参照]
2.18歳未満で本剤により薬物治療を開始した患者において、18歳以降も継続して本剤を投与する場合には、治療上の有益性と危険性を考慮して慎重に投与するとともに、定期的に本剤の有効性及び安全性を評価し、有用性が認められない場合には、投与中止を考慮し、漫然と投与しないこと。
3.AD/HDの診断は、米国精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM*)等の標準的で確立した診断基準に基づき慎重に実施し、基準を満たす場合にのみ投与すること。
*Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders