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○医薬品の安全使用のための業務手順書作成マニュアルについて

(平成19年3月30日)

(/医政総発第0330001号/薬食総発第0330001号/)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局総務課長・厚生労働省医薬食品局総務課長通知)

平成18年6月21日付けで公布した、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成18年法律第84号。以下「改正法」という。)のうち、改正法第2条による改正後の医療法(昭和23年法律第205号)第6条の10により、病院、診療所又は助産所の管理者は、厚生労働省令で定めるところにより、医療の安全を確保するための措置を講じなければならないこととされ、本年4月1日から施行することとしているところである。

これに伴い、医療法施行規則の一部を改正する省令(平成19年厚生労働省令第27号。以下「改正省令①」という。)が本年3月26日付けで、医療法施行規則の一部を改正する省令(平成19年厚生労働省令第39号。以下「改正省令②」という。また、改正省令①及び改正省令②による改正後の医療法施行規則を、以下「新省令」という。)が本年3月30日付けで公布したところである。

新省令第1条の11第2項第2号ハの規定により、病院、診療所又は助産所の管理者は、医薬品に係る安全管理のための体制確保に係る措置として、医薬品の安全使用のための業務に関する手順書の作成及び当該手順書に基づく業務の実施を行わなければならないとするところである。

同様に改正法第8条による改正後の薬事法(昭和35年法律第145号)第9条の規定に基づき、薬局の開設者は、薬事法施行規則の一部を改正する省令(平成19年厚生労働省令第28号)による改正後の薬事法施行規則第12条の2第2項第3号の規定により、薬局における医薬品の業務に係る安全を確保するための措置として、医薬品の安全使用のための業務に関する手順書の作成及び当該手順書に基づく業務の実施を行わなければならないとされるところである。

今般、これら医薬品の安全使用のための業務に関する手順書(以下「医薬品業務手順書」という。)を作成するに当たり、「『医薬品の安全使用のための業務手順書』作成マニュアル」を、厚生労働科学研究事業において別添のとおり作成したので、参考とすること。

ついては、貴職より管下保健所設置市、特別区、関係団体等に対し周知をお願いする。

「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル

平成19年3月

平成18年度厚生労働科学研究

「医薬品等の安全管理体制の確立に関する研究」

主任研究者 北澤式文

「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル

目次

本マニュアルの活用に当たって

[第1章 医薬品の採用]

1.採用医薬品の選定

(1) 採用可否の検討・決定

2.採用医薬品情報の作成・提供

(1) 採用医薬品集の作成と定期的な見直し

(2) 新規採用医薬品に関する情報提供

[第2章 医薬品の購入]

1.医薬品の発注

2.入庫管理と伝票管理

[第3章 調剤室における医薬品の管理]

1.保管管理

(1) 医薬品棚の配置

(2) 医薬品の充填

(3) 規制医薬品

(4) 特定生物由来製品

(5) 特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)

2.品質管理

(1) 品質管理

(2) 処置薬(消毒薬等)

[第4章 病棟・各部門への医薬品の供給]

1.調剤薬の病棟・各部門への供給

2.定数配置薬の病棟・各部門への供給

3.消毒薬その他処置薬、皮内反応液等の病棟・各部門への供給

[第5章 外来患者への医薬品使用]

1.患者情報の収集・管理・活用

2.検査・処置における医薬品使用

3.処方

(1) 正確な処方せんの記載

(2) 処方変更時の説明

4.調剤

(1) 処方鑑査

(2) 疑義照会

(3) 調剤業務

5.調剤薬の交付・服薬指導

6.薬剤交付後の経過観察

[第6章 在宅患者への医薬品使用]

1.医薬品の適正使用のための剤形、用法、調剤方法の選択

2.患者居宅における医薬品の使用と管理

3.在宅患者または介護者への服薬指導

4.患者容態急変時に対応できる体制の整備

[第7章 病棟における医薬品の管理]

1.保管管理

(1) 医薬品棚の配置

(2) 医薬品の定数管理

(3) 規制医薬品

(4) 特定生物由来製品

(5) 特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)

(6) 病棟における処置薬(消毒薬等)の管理

(7) 救急カート

(8) 輸血用血液製剤の保管・管理

2.品質管理

3.危険物の管理

[第8章 入院患者への医薬品使用]

1.患者情報の収集・管理、活用

(1) 患者情報の収集・管理、活用

(2) 入院時の使用医薬品の確認

2.医薬品の使用に関する適切な指示出し・指示受け

3.処方

(1) 正確な処方せんの記載

(2) 特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の処方

(3) 病棟における処方変更時の対応

4.処方医への問い合わせ

5.調剤

(1) 患者の安全に視点を置いた調剤業務の実施

(2) 内服薬・外用薬の調剤

(3) 注射薬の調剤

(4) 調剤薬の病棟への受け渡し

6.投与

(1) 内服薬・外用薬・注射薬の投与

(2) 特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の投与

(3) 薬剤投与のための機器使用

(4) 輸血の実施(血液製剤の使用)

7.服薬指導

8.投与後の経過観察

9.医薬品使用による患者容態急変時の応援体制の確立

10.医療用ガス

[第9章 医薬品情報の収集・管理・提供]

1.医薬品情報の収集・管理

2.医薬品情報の提供

3.各部門、各職種等からの問い合わせに対する体制整備

[第10章 手術・麻酔部門]

1.患者情報の収集・管理・活用

2.医薬品の準備

3.医薬品の使用

4.麻酔薬の使用

5.医薬品使用による患者容態急変時の応援体制の確立

6.使用した医薬品の確認と管理

「第11章 救急部門・集中治療室]

1.患者情報の収集・管理・活用

2.医薬品の保管管理

3.医薬品の準備

4.医薬品の使用

5.医薬品使用による患者容態急変時の応援体制の確立

6.使用した医薬品の確認と管理

[第12章 輸血・血液管理部門]

1.担当部門と責任者の設置等

2.適切な管理・保管

3.時間外・休日等の供給・管理体制の確立

4.事故防止のための輸血業務の環境整備

5.輸血後の患者急変時の対応手順の策定

[第13章 生命維持管理装置領域]

1.血液透析関連

2.人工心肺関連

3.呼吸器関連

[第14章 臨床検査部門、画像診断部門]

1.患者情報の収集・管理・活用

2.診断薬の使用

(1) 造影剤

(2) 放射性医薬品

(3) 臨床検査薬

3.内視鏡検査の前処置薬の使用

(1) 胃部内視鏡検査

(2) 大腸内視鏡検査

(3) 気管支内視鏡検査

4.医薬品使用による患者容態急変時の応援体制の確立

[第15章 歯科領域]

1.医薬品等の管理

(1) 医薬品棚の配置

(2) 規制医薬品

(3) 特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)

(4) 品質管理

(5) 処置薬(消毒薬等を含む)

2.医薬品・薬物・歯科材料の使用に当たっての確認等

3.処方・調剤

(1) 処方

(2) 調剤

4.調剤薬の交付・服薬指導

5.局所麻酔薬の使用

6.消毒薬の使用

7.歯垢染色剤、う蝕検知液、フッ化物の使用

8.血液製剤の使用

9.他施設との連携

(1) 情報の提供

(2) 他施設からの問い合わせ等に関する体制整備

(3) 院外処方せんの発行

(4) 医薬品使用による患者容態急変時のための他の医療機関との連携

10.在宅患者への医薬品使用

(1) 医薬品の適正使用のための剤形、用法、調剤方法の選択

(2) 患者居宅における医薬品の使用と管理

(3) 在宅患者または介護者への服薬指導

(4) 患者容態急変時に対応できる体制の整備

11.医薬品情報の収集・管理・提供

(1) 医薬品情報の収集・管理

(2) 医薬品情報の提供

12.医薬品に関連する事故発生時の対応

13.教育・研修

(1) 職員に対する教育・研修の実施

[第16章 他施設との連携]

1.情報の提供

(1) 情報の内容

(2) 情報提供の手段

2.他施設からの問い合わせ等に関する体制整備

(1) 他施設及び薬局への問い合わせ

(2) 他施設及び薬局からの問い合わせ

3.院外処方せんの発行(医療機関の場合)

4.緊急連絡のための体制整備

[第17章 事故発生時の対応]

1.医薬品に関連する医療安全の体制整備

2.事故発生時の対応

3.事故後の対応

[第18章 教育・研修]

1.職員に対する教育・研修の実施

[巻末資料:特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)例]

「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル 構成イメージ図

本マニュアルの活用に当たって

平成19年3月

○ 平成18年6月に「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第84号)が成立し、平成19年4月より、病院、診療所、歯科診療所及び助産所(以下、「施設」という。)の管理者には「医薬品・医療機器の安全使用、管理体制の整備」のための「医薬品の安全使用のための業務手順書」の作成が義務付けられます。また、薬局の開設者にも同様に、「医薬品の安全使用のための業務手順書」の作成が義務付けられます。

○ 本マニュアルは、各施設及び薬局において、「医薬品の安全使用のための業務手順書」を作成する上で参考としていただくためのものです。

○ 本マニュアルは、平均的な病院を想定し、医薬品を取り扱う各段階を項目別に示し、それぞれについて基本的な安全対策を「○」で記述しています。また、それぞれの項目について、業務手順書を作成する上で参考となる視点を「・」で併記しています。

○ 各施設及び薬局では、規模、専門性、特性に応じて実施可能な業務手順書を作成することが期待されています。本マニュアルでは標準的な安全対策を示しています。施設によっては、本マニュアルに記載された以上の安全対策を必要とする場合もあります。

○ 巻末には、「特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)例」を掲載しています。これらは管理上だけでなく、使用に際しても注意が必要と考えられる医薬品の例をまとめたものです。貴施設及び薬局において、同様の「医薬品一覧」を作成する上でご活用下さい。

○ 医療は日進月歩しています。貴施設及び薬局で作成された「医薬品の安全使用のための業務手順書」は、それに見合って適宜改訂されるように心がけて下さい。また業務手順書は医薬品の管理・使用に留まらず、貴施設職員への教育・研修にも活用できるよう、医療事故防止に有用なものを作成されることを期待しております。

(平成18年度厚生労働科学研究)

「医薬品等の安全管理体制の確立に関する研究」

主任研究者 北澤式文(帝京平成大学薬学部長)

[第1章 医薬品の採用]

【医療安全の確保へ向けた視点】

医療機関において使用する医薬品は、医師の判断や診療各科の特徴に応じて決定されるべきものであるが、その採用に際しては、医薬品の安全性に加え、取り間違い防止の観点からも検討が行われ、採用の可否が決定される必要がある。

【手順書を定めるべき事項】

1.採用医薬品の選定

2.採用医薬品情報の作成・提供

〔解説〕

医療機関における医薬品の採用申請手順が適切に定められ、薬事委員会等で同種同効薬の比較検討が行われ、医薬品の採否が決定されることが必要である。安全面に配慮された医薬品を積極的に採用することが望ましい。また、製剤見本等を用い、取り間違い防止について客観的な評価を行うことが重要である。

さらに、採用医薬品に関する情報が薬剤部等で作成され、院内の各部門・各職種へ提供されることが重要である。

【手順書の具体的項目例】

1.採用医薬品の選定

(1) 採用可否の検討・決定

① 安全性に関する検討

○ 薬剤の特性に関する検討

・用法・用量、禁忌、相互作用、副作用、保管・管理上の注意、使用上の注意に関する問題点

○ 安全上の対策の必要性に関する検討

・安全上の対策の必要性とその具体的内容(使用マニュアル、注意事項の作成等)

② 取り間違い防止に関する検討

○ 採用規格に関する検討

・一成分一品目(一規格)を原則とし、採用医薬品数は最低限とする

・同種同効薬との比較検討

・一成分一品目(一規格)の原則に外れる場合の採用の可否と対応策の検討

○ 名称類似品、外観類似品に関する検討(後発医薬品も含む)

・名称類似品、外観類似品の採用の回避

・頭文字3文字、語尾2文字あるいは頭文字と語尾の一致する採用医薬品の有無の確認

・包装や容器、薬剤本体(色調、形、識別記号等)の類似した既採用医薬品の有無の確認

・採用医薬品の他製品への切り替えの検討

○ 小包装品等の採用

・充填ミスを防止するため、充填の必要のない包装品を採用(散剤・注射剤等)

2.採用医薬品情報の作成・提供

(1) 採用医薬品集の作成と定期的な見直し

○ 医薬品集の作成

○ 定期的な改定・増補

(2) 新規採用医薬品に関する情報提供

→「第9章 医薬品情報の収集・管理・提供」の2.を参照(26ページ)

[第2章 医薬品の購入]

【医療安全の確保へ向けた視点】

医薬品の発注、納品ミスが医療事故の原因となっているケースも見受けられる。正確な発注と納品を確保するため、医薬品の品目・規格などの確認手順を定め、記録の管理を行うことが必要である。

【手順書を定めるべき事項】

1.医薬品の発注

2.入庫管理と伝票管理

〔解説〕

医薬品の発注に際しては、発注品目の間違いを防ぐため、発注した品目が文書等で確認できる方法で行う。

また、医薬品の納品に関しては、発注した医薬品がその品目や規格が間違いなく納品されたか検品を行う。

規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)及び特定生物由来製品については特に注意を払い、購入記録の保管を行う。特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)については、検品時に名称類似、外観類似、規格違いに注意する。

【手順書の具体的項目例】

1.医薬品の発注

○ 医薬品の正確な発注

・商品名、剤形、規格単位、数量、包装単位、メーカー名

○ 発注した品目と発注内容の記録

2.入庫管理と伝票管理

○ 発注した医薬品の検品

・商品名、剤形、規格単位、数量、包装単位、メーカー名、使用期限年月日

・発注記録との照合(JANコードの照合等)

○ 規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)の管理

・薬事法並びに麻薬及び向精神薬取締法の遵守

・商品名、数量、製造番号と現品との照合を行い、納品伝票等を保管

・麻薬、覚せい剤原料については譲渡証の記載事項及び押印を確認し、2年間保管

○ 特定生物由来製品の管理

・納品書を保管し、製剤ごとに規格単位、製造番号、購入量、購入年月日を記載して管理

○ 特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の検品

・医薬品名、名称類似、外観類似、規格違いへの注意

[第3章 調剤室における医薬品の管理]

【医療安全の確保へ向けた視点】

医薬品の適切な保管管理は、名称類似・外観類似による医薬品の取り間違い、規格間違い、充填ミスなどを防止する上で非常に重要であり、医薬品関連の事故を防止するための基本となる。

また、有効期間・使用期限を遵守するとともに、医薬品の品質劣化を防止するため、温度、湿度等の保管条件に留意する必要がある。

【手順書を定めるべき事項】

1.保管管理

2.品質管理

〔解説〕

医薬品棚の適切な配置や複数規格がある医薬品等への注意表記は、医薬品の取り間違いを防止する上で最も基本となる。

特に、規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)や特定生物由来製品について関係法規を遵守するとともに、特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)についても、配置の工夫などの事故防止対策が必要である。

また、医薬品の品質確保の観点からは、有効期間・使用期限を遵守するとともに、温度、湿度、遮光等の医薬品ごとの保管条件に留意する必要がある。

【手順書の具体的項目例】

1.保管管理

(1) 医薬品棚の配置

○ 類似名称、外観類似の医薬品がある場合の取り間違い防止対策

○ 同一銘柄で複数規格等のある医薬品に対する取り間違い防止対策

・規格濃度、剤形違い、記号違い等

(2) 医薬品の充填

○ 医薬品の補充や充填時の取り間違い防止対策

・注射薬の医薬品棚への補充、散薬瓶、錠剤自動分包機への充填時等

・複数人による確認

(3) 規制医薬品(麻薬、覚せい剤原料、向精神薬(第1種、第2種)、毒薬・劇薬)

○ 麻薬及び向精神薬取締法、薬事法等の関係法規の遵守

・法令を遵守した使用記録の作成・保管

○ 適切な在庫数・種類の設定

○ 定期的な在庫量の確認

○ 他の医薬品と区別した保管、施錠管理

○ 盗難・紛失防止の措置

(4) 特定生物由来製品

○ 使用記録の作成、保管

・患者ID、患者氏名、使用日、医薬品名(規格、血液型も含む)、使用製造番号、使用量

・20年間保存

(5) 特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)

○ 他の医薬品と区別した管理

・注意喚起のための表示、配置場所の区別、取り間違い防止の工夫等

○ 必要に応じた使用量と在庫量の記録

2.品質管理

(1) 品質管理

○ 有効期間・使用期限の管理

・定期的な有効期間・使用期限の確認(特にワクチン)

・有効期間・使用期限の短い医薬品から先に使用する工夫(先入れ先出し等)

○ 医薬品ごとの保管条件の確認・管理

・温度、湿度、遮光等に関する医薬品ごとの保管条件の確認(凍結防止など)

・保管場所ごとの温度管理、湿度管理

・可燃性薬剤の転倒防止・火気防止

○ 必要に応じた品質確認試験の実施

・不良品(異物混入、変色)発見時の対応、回収手順等

(2) 処置薬(消毒薬等)

○ 定期的な有効期間・使用期限の管理

・開封後期限、調製後期限、開封日の記載

○ 開封後の保管方法

・変質、汚染等の防止対策、定期的な交換、つぎ足しの禁止等

[第4章 病棟・各部門への医薬品の供給]

【医療安全の確保へ向けた視点】

薬剤部門から病棟・各部門への医薬品の供給について、方法、時間、緊急時の対応等の手順があることは、事故防止の観点から重要である。

【手順書を定めるべき事項】

1.調剤薬の病棟・各部門への供給

2.定数配置薬の病棟・各部門への供給

3.消毒薬その他処置薬、皮内反応液等の病棟・各部門への供給

〔解説〕

薬剤部門から病棟・各部門へ供給される医薬品は、病棟・各部門での使用を想定し、適切な時間に適切な方法で行われる必要がある。調剤薬はもちろん、定数配置薬、消毒薬その他処置薬や皮内反応液等についても同様である。供給される時間や方法、緊急時の対応等については、薬剤部門と病棟・各部門との合議により定めることが望ましい。

調剤薬については、緊急の場合などやむを得ない場合を除き、処方せんにより、その都度薬剤部門より供給されることが望ましい。また、規制医薬品や特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)については、処方せんによりその都度薬剤部門より供給されることを原則とし、病棟への配置は必要最低限とすることが望ましい。

【手順書の具体的項目例】

1.調剤薬の病棟・各部門への供給

→「第8章 入院患者への医薬品使用」の5.の(4)を参照(22ページ)

2.定数配置薬の病棟・各部門への供給

○ 供給方法

・セット交換方法または補充方法等

・供給時間

○ 規制医薬品や特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の供給

・使用に際しては処方せん管理を原則とし、病棟への配置は必要最低限とする

・配置薬を使用した場合は処方せんに使用済みである旨を記載し、その都度薬剤部門より供給する

○ 緊急時の供給方法

・薬剤師不在時の医薬品払い出しへの医師の関与など

3.消毒薬その他処置薬、皮内反応液等の病棟・各部門への供給

○ 供給方法

・セット交換方法または補充方法等

・供給時間

[第5章 外来患者への医薬品使用]

【医療安全の確保へ向けた視点】

外来に限らず、患者に医薬品を安全に使用するには、患者情報を収集し、処方・調剤に活用することが重要である。

また、外来患者への医薬品使用において間違いを防止するには、正確な処方せんの記載はもちろん、処方内容が調剤者に正確に伝わり、正確な調剤が行われる必要がある。さらに、医薬品情報を提供することで、患者自身が調剤薬等の間違いに気づくことも少なくない。したがって、適切な服薬指導を行うことは、医薬品に係る事故を防ぐ上でも重要である。

【手順書を定めるべき事項】

1.患者情報の収集・管理・活用

2.検査・処置における医薬品使用

3.処方

4.調剤

5.調剤薬の交付・服薬指導

6.薬剤交付後の経過観察

〔解説〕

外来患者の薬物治療において安全性を確保するには、患者情報を収集・管理し、処方・調剤に活用することが重要である。また患者情報は、必要に応じて施設間あるいは職種間で共有することが望ましい。

また、検査・処置においても、医師の指示出しから実施まで指示内容が正しく伝達され、医薬品が患者へ適正に使用される体制を整備することが必要である。

外来患者への医薬品使用において間違いを防止する上では、正確な処方せんの記載はもちろん、処方内容が調剤者に正確に伝わり、正確な調剤が行われる必要がある。調剤者は、「調剤は単なる医薬品の調製ではなく、処方の確認から患者への薬剤交付に至るまでの医薬品の安全性確保に貢献する一連の業務である」ということを認識する必要がある。

さらに、外来患者への適切な医薬品情報の提供は、副作用の防止などの面で重要な役割を担っている。患者に薬効を説明することで処方の間違いや患者の取り違いを防ぐことにつながる場合もあり、事故防止の観点からも服薬指導は大変重要である。

加えて、医薬品の副作用の発現について経過観察を行うことは、医薬品の安全使用の観点から重要である。重篤な副作用が発現した場合に備え、緊急時の体制整備や夜間・休日を含めた患者からの相談窓口を設置することが望ましい。

【手順書の具体的項目例】

1.患者情報の収集・管理・活用

○ 患者情報の収集・管理

・患者の既往歴、妊娠・授乳、副作用歴・アレルギー歴

・小児、高齢者の年齢、体重

・他科受診、他剤併用(一般用医薬品、健康食品を含む)

・嗜好(たばこ、アルコール等)など

○ 患者情報の活用

・診療録等への記録

・必要に応じた患者ごとの薬歴管理の実施

・患者情報(禁忌医薬品名等)を施設間あるいは職種間で共有する仕組みの構築(お薬手帳の活用など)

2.検査・処置における医薬品使用

○ 指示出し・指示受け、実施方法の確立

・緊急の場合以外は口頭指示を避ける

・口頭指示を行った場合、指示した医師は指示簿等に記録を残す

・医薬品の名称、単位、数量を伝える方法の確立(略号を使わない、復唱するなど)

・指示者、指示受け者の明確化

・指示の実施者は必要に応じて署名を行う

○ 医薬品使用前の確認

・医薬品、対象患者、使用部位

○ ショック時の対応

・ショック時に使用する救急医薬品の配備等

3.処方

(1) 正確な処方せんの記載

○ 必要事項の正確な記載

・患者氏名、性別、年齢、医薬品名、剤形、規格単位、分量、用法・用量等

・名称類似等に注意し判読しやすい文字で記載

・オーダリングシステムにおける誤入力の防止(頭三文字入力など)

・処方変更時に医師がコンピュータ印字を手書きで修正する場合の取扱い

○ 単位等の記載方法の統一

・1日量と1回量

・mgとmL、mLと単位、gとバイアル等

・散剤、水剤、注射剤の処方時は濃度(%)まで記載

・散剤を主薬量(成分量)で記載する場合はその旨を明記

・1V(バイアル)、1U(単位)、1V(静脈注射)など、誤りやすい記載を避ける

(2) 処方変更時の説明

○ 変更内容の患者への説明

4.調剤

(1) 処方鑑査

無理な判読、判読間違いは重大な事故の原因となるため、慎重に確認する。

○ 処方せんの記載事項の確認

・処方年月日、患者氏名、性別、年齢等

・医薬品名、剤形、規格、含量、濃度(%)等

・用法・用量(特に小児、高齢者)

・投与期間(特に休薬期間が設けられている医薬品や服薬期間の管理が必要な医薬品、定期的検査が必要な医薬品等)

・重複投与、相互作用、配合変化、医薬品の安定性等

○ 患者情報・薬歴に基づいた処方内容の確認

・重複投与、投与禁忌、相互作用、アレルギー歴、副作用歴等

(2) 疑義照会

処方内容に疑義がある場合には処方医への問い合わせを行い、必ず疑義が解決されてから調剤を行う。

○ 疑義内容の確認

○ 疑義照会後の対応と記録

・照会元においては、照会内容、処方変更の内容、照会者及び回答者を調剤録等に記録

・照会先においては、処方変更内容等を診療録に反映

(3) 調剤業務

正確な調剤業務は医薬品の適正使用の大前提である。調剤者は調剤過誤がもたらす危険性を常に意識し、必要に応じた業務環境の整備、業務内容の見直しを行うことが重要である。

① 患者の安全に視点をおいた調剤業務の実施

○ 調剤用設備・機器の保守・点検

・使用時の確認(散剤秤量前の計量器のゼロ点調整、水平確認等)

・日常点検、定期点検の実施(分包器等)

○ 取り間違い防止対策

・外観類似、名称類似、複数規格のある医薬品への対策

○ 調剤業務に係る環境整備

・コンタミネーション(異物混入、他剤混入)の防止

・調製時の調剤者の被爆防止

② 内服薬・外用薬の調剤

○ 散剤や液剤の調剤間違いの防止対策

・秤量間違いの防止対策(小児用量換算表の活用等)

・散剤計算の再確認、総重量の確認(秤量計算メモの活用等)

○ 適切な調剤方法の検討

・錠剤やカプセル剤の粉砕の可否、配合変化、製剤の安定性等

○ 薬袋・薬剤情報提供文書の作成

・調剤年月日、患者氏名、用法・用量、保管上の注意、使用上の注意等を適切に記載

③ 特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の調剤

○ 患者ごとの薬歴管理

・用法・用量、服薬期間、服薬日等

○ 病態と処方内容との照合

・患者の症状、訴えと処方内容に相違はないか

○ 他薬との取り間違い防止対策

④ 調剤薬の鑑査

○ 調剤薬等の確認

・調剤者以外の者による確認(調剤者以外の者がいない場合には、時間をおいて確認するなどの工夫)

・処方鑑査、疑義照会の再確認

・処方せんと調剤薬の照合

・散剤の秤量、分包の間違い、誤差等の確認、異物混入の確認

・一包化した医薬品の確認

・処方せんの記載事項と薬袋・ラベルの記載事項の照合

5.調剤薬の交付・服薬指導

○ 患者、処方せん、医薬品、薬袋等の照合・確認

・患者氏名の確認方法の確立と周知徹底

・患者の症状、訴えと処方内容に相違はないか

○ 調剤薬の交付

・薬剤の実物と薬剤情報提供文書を患者に示しながらの説明

○ 医薬品情報の提供

・薬効、用法・用量及び飲み忘れた場合の対処方法等

・処方の変更点

・注意すべき副作用の初期症状及び発現時の対処法

・転倒のリスク(服薬による眠気、筋力低下、意識消失など)

・使用する医療機器、医療材料などの使用方法等

・その他服用に当たっての留意点(注意すべき他の医薬品や食物との相互作用、保管方法等)

・薬剤情報提供文書、パンフレット、使用説明書等の活用

6.薬剤交付後の経過観察

○ 患者情報の収集と処方医への情報提供

・副作用の初期症状の可能性、コンプライアンス等

○ 緊急時のための体制整備

・病診連携、薬薬連携等の施設間における協力体制の整備

・対応手順の整備(副作用初期症状の確認、服用薬剤及び医薬品との関連の確認、特定薬剤の血中濃度モニタリング実施等)

○ 患者等からの相談窓口の設置

・夜間・休日の体制整備

・患者への広報

[第6章 在宅患者への医薬品使用]

【医療安全の確保へ向けた視点】