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○全脊髄照射等の安全な実施について(注意喚起及び周知依頼)

(平成22年3月31日)

(/医政総発0331第1号/医政指発0331第1号/)

(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局総務課長・厚生労働省医政局指導課長通知)

医療機関における診療用放射線に係る安全管理対策等については、従来より適切な対応をお願いしているところです。

昨年5月に京都府内の病院で、全脊髄照射の際の過誤照射により、晩発性放射線脊髄炎を発症した事例が報告されたところです。

全脊髄照射については、当該事例を受け社団法人放射線腫瘍学会により調査が行われ、別添のとおり「全脊髄照射による晩発性脊髄炎発症に関するアンケート調査結果と医療安全委員会からの注意喚起」が公表され、他の医療機関から寄せられた同様の過誤照射を疑いうる事例の報告、及び複数の照射野をつなぎ合わせる際に過誤照射を防止するための留意点などが放射線腫瘍学会ホームページ上で示されております。

※http://www.jastro.or.jp/safety/detail.php?eid=00001

つきましては、安全な放射線治療が行われるよう、貴管下の放射線治療を行う医療機関に対し、「全脊髄照射による晩発性脊髄炎発症に関するアンケート調査結果と医療安全委員会からの注意喚起」の内容について周知方よろしくお願いいたします。

(留意事項)本通知の内容については、貴管下の体外照射による放射線治療を行う医療機関の医療安全管理者、医療機器の安全使用のための責任者等に対しても周知されるよう御配慮願います。

別添

平成22年3月20日

全脊髄照射による晩発性脊髄炎発症に関するアンケート調査結果と医療安全委員会からの注意喚起

昨年行わせて頂きました全脊髄照射に関するアンケート調査の結果をご報告いたします。427施設よりご回答頂き誠にありがとうございました。アンケート結果は別添資料(1)をご参考下さい。

晩発性脊髄炎発生に関しては可能性のある事例が3件報告されましたが、2件は脊髄播種のあった症例で、1件は確認されておらず何れも、A病院事例のような強く放射線脊髄炎が疑われる事例はございませんでした。

しかしながら、脊髄炎は発症しなかったものの、つなぎ目が過線量であった可能性のあるものが4件報告されております。治療中の患者さんの体位や体型変化や全脳照射先行例でつなぎ目を入れなかった症例等ですが、全脳全脊髄照射を別々に行うのは避けるべきですし、また、体位・体型の変化による照射野のずれは日々の診察で注意深く観察していれば避けられることです。

X線シミュレータで治療計画が行われている施設が38例あり、つなぎ目を入れていない施設も1施設ございました。また、A病院での過照射の原因となった椎体数変異が35件も経験されております。

先に、各施設に送らせて頂いた、事例概略と治療計画に関するJASTRO医療安全委員会のrecommendationを参考にされ(別添資料(2))、今後、全脳全脊髄照射において決してA病院のような照射事故を起こさないよう細心の注意を払われて日々の業務を遂行して下さい。

JASTRO医療安全委員会委員長

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井良尋

[別添資料1]

アンケート調査結果

アンケート調査回答427施設(回答率427/819=52%)

1) 全脳全脊髄照射症例の有無; 有:164施設 無:263施設

例数 平均2.1/年(0.5~15件:84、2件:37、3件:17、4件以上:25(内4施設で10~15件))

2) 腹臥位:45 背臥位:108 両方:11

3) CTシミュレータ:108、X線シミュレータ:38、両方:17

4) つなぎ目の移動

≦1cm:61、1<~≦2:54、2<~≦3:17、3<:18、1椎体分:1、行っていない:13

5) つなぎ目数

1カ所:6, 1or2カ所:7、2カ所:106、2or3カ所:7、3カ所:25、3or4カ所:3、4カ所:1

6) つなぎ目移動間隔

移動しない:1、一定線量ごと90、隔日(同じつなぎ目が隔日との意味であったので、つなぎ目移動は毎日(回)と答えた施設も同じとして集計):54、一定線量ごと:~10Gy:37、10~20Gy:38、30Gy:1、総線量の1/2:2、総線量の1/3:2、総線量を3~4分割:1、均等に分割:1(何分割か不明)

晩発性脊髄炎発症事例?(可能性のある事例):3件

○10才M,髄芽腫にて治療。照射後約1年で上位頸髄にT2WIhigh出現、下肢脱力を伴っており、ステロイドにて一次改善。病変部は全脳全脊髄照射の継ぎ目ではなく、後頭蓋boost照射時の下縁で体厚が薄くなることで約105%線量(総線量56Gy)となっている部位であった。脊髄症発症から約6ヶ月で上記部位を含め、他にGd造影域出現し、摘出にて播種を確認。その後化療にて現在消失している。結果的に上位頸髄の病変が放射線脊髄症か腫瘍なのか不明。

○最初から播種があったものですから違うと思いますが、病理確認がないのであるともないとも言えないのです。(あるとないとの両方に○が付いていた)

○ある可能性あり。確認できていないが、60Coで照射していた1980年台後半。

とのアンケート結果であるがいずれも可能性は否定できないものの明らかな晩発性脊髄炎症例とは言えないものである。

つなぎ目過線量の可能性があった症例(上記の3件以外):4件

○患者の体力が大分弱ってきて、姿勢(体位)を保持しにくくなってきていた。

○消化器病状で、すべて同時開始できない場合に全脳照射が先行してしまうことがあり、つなぎ目の移動を併用していない事例が過去にあった。

○全脳全脊髄照射ではないが、頭頸部の上頸部の左右対向2門と下頸部の前方1門照射のつなぎ目がぎりぎりで、脊髄に過線量照射された可能性のある症例がある(喉頭、脊髄blockをしていなかった)。現在、同様な症例は、ハーフフィールド法でつないでいる。

○CTシミュレータを利用出来なかった時代ですが、患者さんが、治療期間中に痩せてきたため、皮膚マークが信頼できなくなったことがあります。当時、脊髄レベルで1cm、全く重ならないようにしていましたが、数回ほど、重なっていた可能性があります。(その後数年経ていて、問題は起きていません。)

椎体数変異経験:35件

[別添資料2]

全国放射線治療施設

放射線治療担当医・放射線治療担当技師各位

先般、報道されましたA病院の「全脊髄照射による晩発性脊髄炎発症事例」に関しては、すでにご案内のことと存じますが、同様な事例の再発防止に役立てて頂くために、ここに当事例の概略をお知らせ致します。

事例

2003年11月5日にA病院脳外科にて髄芽腫の摘出術を受けた患者に対し、同年11月19日から翌2004年1月14日にかけて、同病院放射線治療科にて術後全脳全脊髄照射が行われた。その後患者に再発はなく、4年以上にわたって脳神経外科外来で経過を観察していたが、2008年6月ごろから徐々に全身倦怠感、両下肢の痺れや排尿時の違和感を自覚するようになった。同年9月17日、再度脳神経外科に入院して精査した結果、4年前の全脊髄照射時に照射部位が一部重なったことにより第10胸椎レベルの脊髄に過線量照射が行われ、そのことに起因して晩発性の放射線脊髄炎を発症してきた可能性が高いことが明らかになった。

また、当患者は腰椎が4椎体という変異があり、照射位置決定、確認の際に影響を与えた可能性が示唆された。

当事例で行われた放射線治療の実際

全脳全脊髄照射1.6Gy×22回=35.2Gy+後頭蓋窩ブースト1.8Gy×11回=19.8Gy、総線量55Gyの放射線治療が施行された。治療計画はX線シミュレータで立案されており、全脳全脊髄照射は、頭部+頸髄(フィールド1)、胸髄(フィールド2)、腰仙髄(フィールド3)の3つの照射野に分割する方法で施行された。フィールド1と2の接合部はC3/4、フィールド2と3の接合部はTh10/11間に設定されており、途中2回のギャップ移動が行われた。しかし、上記フィールド設定にあたり、フィールド3を設定する時に椎体レベルを一椎体分誤認して設定した可能性があり、その結果Th10の範囲でフィールド2と3の照射野が重なっていた。これは、透視で位置を決めているときに、担当者らがTh10をTh11と同定し、フィールド3の頭側辺縁を本来よりも一椎体上位に設定したことが原因と考えられた。(下図)

ギャップ移動は、全脊髄22回照射のうち、7回(11.2Gy)と14回(22.4Gy)の照射後の時点で、つなぎ目を頭尾方向に±1cmずつ移動しているため、理論上、最大に見積もった場合、下記の数値を上限とする線量が当該脊髄付近に照射された可能性があると考えられる。(脊髄の晩発障害のα/β比を2とした場合の2Gy相当の線量)

A. Th10椎体中央レベル1cmの範囲 :91.5Gy相当

B. Th10レベル上下椎間から1cmの範囲 :72.5Gy相当

C. Th9レベルでTh9/10から1cmの範囲 :50.7Gy相当

D. Th11レベルでTh10/11から1cmの範囲 :50.7Gy相当

以上が当事例の概要である。

A病院では、当時、全脳全脊髄照射野の設定が基本的にX線シミュレーションに基づいて行われており、椎体の解剖学的な位置を視認することでつなぎ目を同定することを標準としていた。しかしながら、この事例のように、腰椎が4椎体であるような変異のある場合、胸椎レベルの尾側照射野辺縁を上位椎体から数え、腰椎レベルの頭側照射野を下位椎体から数えた場合、この事例のようなことが起こり得ると思われる。シミュレーション写真での確認でも、治療計画時と同様に椎体を同定しておればその誤りに気がつかないことは想像に難くない。腰仙椎の移行部は、腰椎の仙椎化や仙椎の腰椎化が見られる他、この事例のように椎体の数に変異のあることを常に認識しておく必要がある。日本人の椎体数変異に関する松井論文の図を引用しておりますので参考にされたい。

各施設、全脳全脊髄照射時にはこのような事態が生じうることに十分留意され細心の注意を払い治療計画されたい。

ライナックで行う全脳全脊髄照射時の治療計画に対するJASTRO医療安全委員会よりのrecommendation

1. 全脳全脊髄照射の治療計画はCTシミュレータを用いて行うことが望ましい。治療計画はSTD法を用い、全脳は左右対向2門照射、脊髄は後方一門照射を基本とする。ただし、つなぎ目を治療計画装置のCT(矢状断面)上で決定し、且つ、つなぎ目の線量を評価する。さらに、つなぎ目の皮膚マークは書いておくべきであり、照射の重なりがないことを患者のセットアップ時にも確認できるようにする。また、治療体位が仰臥位の場合は腹部上に皮膚マークをつける。従って、つなぎ目の間隔は最低でも数cm以上になることに注意が必要である。(CTシミュレータを用いた場合でも、つなぎ目は隔日か、一定の線量ごとに1cmほど程度移動させることは当然である。)

2. X線シミュレータで治療計画を行わざるを得ない場合、全脳全脊髄照射は基本的に腹臥位で行い、少なくとも、つなぎ目の皮膚マークは書いておくべきであり、照射野の重なりがないことを患者のセットアップ時にも確認できるようにする。

3. セットアップの誤差を考慮し、各々の照射野のつなぎ目は脊髄上において、少なくとも数mm~1cm程度あけることが望ましい。

4. セットアップ時につなぎ目をつなぐ深さで確認すること方法として、接合する深さ(背面から5―7cm程度)の側胸部・側腹部の皮膚に水平のマークと接合位置を表す垂直のマーク(両マークが交わる点が接合部)を描き、それぞれの照射野の接合側の光照射野辺縁がその点を通過することを確認する。背臥位でも腹臥位でも可能。

日本人の脊椎骨格に関する脊椎数の変異:左から頸椎、胸椎、腰椎、仙椎の数が示されており、6型、15種類に分類されている。(松井孝:日本人骨格の人類学的研究;脊柱に就いて.解剖学雑誌19(6):427―460,1942)