添付一覧
○承認後の安全性情報の取扱い:緊急報告のための用語の定義と報告の基準について
(平成17年3月28日)
(薬食安発0328007号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局安全対策課長通知)
近年、優れた医薬品の研究開発の促進と患者への迅速な提供を図るため、国際的なハーモナイゼーション推進の必要性が指摘されている。このような要請に応えるため、日米EU医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)が組織され、ハーモナイゼーションの促進を図るための活動が行われている。
今般、ICHにおける三極の合意に基づき、承認後における医薬品の安全性情報の緊急報告を行うための用語の定義と報告の基準について、別添のとおりとりまとめたので、下記事項を御了知の上、貴管下関係業者に対し周知徹底方御配慮願いたい。
記
1. 経緯
治験中に得られる安全性情報の取扱いについては、ICHにおいてE2Aガイドライン(平成7年3月20日付薬審第227号厚生省薬務局審査課長通知)が合意されており、承認後の安全性情報の取扱いについても、三極それぞれにおいてICH E2Aガイドラインで示された用語の定義及び副作用等の緊急報告の考え方等を適用してきたところである。しかしながら、副作用症例の臨床的評価及び追跡調査等の取扱いに関する基準を含め、承認後における医薬品の安全性情報の緊急報告を行うための用語の定義と基準について、三極で調和した更なる指針を示す必要が生じてきたことから、ICHにおいてICH E2D専門家作業部会を設置して検討を進めてきた結果、新たに別添のICH E2Dガイドラインが合意されたものである。
2. 本通知の取扱い
薬事法(昭和35年法律第145号)第77条の4の2第1項に基づく製造販売業者等からの医薬品の副作用及び感染症等の報告(以下「副作用等報告」という。)については、薬事法施行規則(昭和36年厚生省令第1号)第253条第1項各号において報告対象及び報告期限等を規定し、また、関連通知においてその取扱いを示しているところであるが、本通知は、製造販売業者等による適切な副作用等報告を確保するため、ICHで合意した副作用等報告に関する用語の定義と緊急報告のための基準をガイドラインとして具体的に示したものである。
3. 適用時期
本通知は、平成17年4月1日より適用する。
(別添)
承認後の安全性情報の取扱い:緊急報告のための用語の定義と報告の基準について
目次
1. はじめに
2. 承認後における医薬品の安全性情報の報告に関する用語と定義
2.1 有害事象
2.2 副作用
2.3 重篤な有害事象又は副作用
2.4 予測できない副作用
2.5 医療専門家
2.6 一般使用者
3. 個別症例安全性報告の情報源
3.1 自発的な情報源(Unsolicited Sources)
3.1.1 自発報告
3.1.2 文献
3.1.3 インターネット
3.1.4 その他の情報源
3.2 依頼に基づく非自発的な情報源(Solicited Sources)
3.3 企業間の契約に基づく情報
3.4 規制当局からの情報
4. 緊急報告のための基準
4.1 報告対象
4.1.1 重篤な副作用
4.1.2 その他の安全性情報
4.1.2.1 有効性の欠如
4.1.2.2 過量投与
4.2 報告に必要な最低限の情報
4.3 起算日
4.4 重篤でない副作用
5. 症例の取扱いに関する基準
5.1 患者と報告者の特定
5.2 症例経過等の記述の役割
5.3 症例の臨床的評価
5.4 追加情報
5.4.1 妊娠中の曝露
5.5 報告方法
参考文献
別添:重篤な副作用の緊急報告に含めることが推奨される重要なデータ項目
1. はじめに
承認後の安全性情報の品質向上を図り、また、情報の収集及び報告方法を整合させるために国際的に標準化された手順を確立することが重要である。ICH E2Aガイドライン(平成7年3月20日付薬審第227号厚生省薬務局審査課長通知)では、承認前における医薬品の安全性情報の取扱いに関する指針が示されている。多くの関係者がICH E2Aガイドラインの考え方を承認後の医薬品についても適用してきたが、承認後における医薬品の安全性情報の緊急報告を行うための用語の定義と基準について、症例の取扱いに関する基準とともに、更なる指針を示す必要が生じている。本ガイドラインはICH E2Aガイドラインの内容に基づいており、これらの用語と定義が製品ライフサイクルにおける承認後の段階にどのように適用し得るかを解説するものである。
2. 承認後における医薬品の安全性情報の報告に関する用語と定義
2.1 有害事象
有害事象とは、医薬品が投与された患者に生じたあらゆる好ましくない医療上の出来事であり、必ずしも当該医薬品の投与との因果関係があるもののみを指すわけではない。すなわち、有害事象とは、医薬品の使用と時間的に関連のある、あらゆる好ましくない、意図しない徴候(例えば、臨床検査値の異常)、症状又は疾病のことであり、当該医薬品との因果関係の有無は問わない。
2.2 副作用
各地域の規制、行政指導及び慣例によって確立されているように、副作用とは医薬品に対する有害で意図しない反応をいう訳注1)。
「医薬品に対する反応」とは、医薬品と有害事象との間に、少なくとも合理的な因果関係の可能性があるものをいう(ICH E2Aガイドラインを参照のこと訳注2))。
有害事象とは異なり、副作用とは、医薬品と事象の発生との因果関係が疑われるという事実を特徴とする。有害事象が自発的に報告された場合は、たとえ因果関係について不明又は明確に述べられていなくても、規制当局への報告目的からすれば、副作用の定義を満たすことになる。
――――――――――――
訳注1) 日本では、投与量にかかわらず、医薬品に対する有害で意図しない反応を副作用という。
訳注2) ICH E2Aガイドラインでは「医薬品に対する反応とは、有害事象のうち当該医薬品との因果関係が否定できないものをいう」とあり、また、因果関係の評価の重要性が述べられている。承認後においても以前よりこの考え方を適用してきており、本ガイドラインにおける表現はICH E2Aガイドラインと異なるが、その取扱いに変更はない。
2.3 重篤な有害事象又は副作用
ICH E2Aガイドラインと同様の考え方に基づき、重篤な有害事象又は副作用とは、投与量にかかわらず、医薬品が投与された際に生じたあらゆる好ましくない医療上の出来事のうち、以下のものをいう:
(1) 死に至るもの
(2) 生命を脅かすもの
(注:ここでいう「生命を脅かすもの」とは、その事象の発現時点において患者が死の危険にさらされている場合をいい、仮にもっと重度であれば死を招いたかもしれないという意味ではない。)
(3) 治療のための入院又は入院期間の延長が必要であるもの
(4) 永続的又は顕著な障害・機能不全に陥るもの
(5) 先天異常・先天性欠損を来すもの
(6) その他の医学的に重要な状態と判断される事象又は反応
この場合において、直ちに生命を脅かしたり死や入院に至らなくとも、患者を危機にさらすおそれがあったり、又は上記の定義に挙げられているような結果に至らないように処置や治療が必要となるような重要な医学的事象は重篤であると判断すべきであり、そのような状態か否かについては医学的及び科学的根拠に基づいて判断する必要がある。このような事象の例として、救急処置室等又は自宅において集中治療を必要とするアレルギー性気管支痙攣、入院には至らないものの血液障害又は痙攣を来した場合、薬物依存症又は薬物乱用等が挙げられる。
2.4 予測できない副作用
副作用のうち、その性質、重症度、特異性又は転帰が各国又は地域の添付文書(例えば、Package Insert又はSummary of Product Characteristics等)の記載内容に一致しないものは、予測できない副作用とみなすべきである。製造販売業者(Marketing Authorisation Holder(MAH))がある副作用について予測できるか否か確信が持てない場合は、当該副作用は予測できないものとして取り扱われるべきである。
当該国又は地域の添付文書に記載されている副作用でも、致命的な転帰となるおそれがあることが明記されていない限り、致命的な転帰を伴う当該副作用は予測できない副作用と判断すべきである。
「同種同効薬共通の副作用」として添付文書に記載されているからといって、対象となる医薬品について、自動的に当該副作用が予測できるものとなると考えるべきではない。「同種同効薬共通の副作用」は、当該国又は地域の添付文書に、当該医薬品によって生じることが明確に記載されている場合にのみ、予測できると考えるべきである。以下にそのような例を示す。:
・ 「この系統の他の医薬品と同じく、医薬品Xでは以下の望ましくない作用が生じる」
・ 「医薬品Xを含むこの系統の医薬品は、・・・を引き起こす」
その副作用が医薬品Xについて記載されていない場合、下記のような記載が添付文書に見られることが多い:
・ 「この系統の他の医薬品では・・・を引き起こすことが報告されており」
・ 「この系統の医薬品では・・・を引き起こすことが報告されているが、医薬品Xについてはこれまで報告されていない」
このような状況では、当該副作用は医薬品Xについて予測できると判断すべきではない。
注:企業中核安全性情報(Company Core Safety Information)で用いられる副作用の「記載/未記載(listedness)」という概念は規制当局への緊急報告の判断には適用しない(定義に関してはICH E2Cガイドライン(平成9年3月27日付薬安第32号厚生省薬務局安全課長通知)を参照のこと)。
2.5 医療専門家
医療専門家とは、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、検死官、その他各国の規制で定められた医学的資格を有する者をいう。
2.6 一般使用者
一般使用者とは、患者本人又は患者の弁護士、友人、家族・親戚等、医療専門家以外の者をいう。
3. 個別症例安全性報告の情報源
3.1 自発的な情報源(Unsolicited Sources)
3.1.1 自発報告
自発報告とは、企業、規制当局又は他の組織(例えば、WHO、地域の副作用モニタリングセンター(Regional Center)、中毒管理センター等)に対する医療専門家又は一般使用者による自発的な報告であり、1種類又は複数の医薬品を投与された患者における1件又は複数の副作用を記述するものであって、臨床試験又は何らかの系統的な方法で収集された症例は自発報告に当たらない。
医療専門家向けの注意喚起文書(ドクターレター等)、報道記事、又は企業の医薬情報担当者(MR)による医療専門家への質問によって報告が喚起される(stimulated reporting)場合があるが、このような報告は自発報告とみなすべきである。
一般使用者からの報告は、「医学的な裏付け」の有無とは関係なく、自発報告として取り扱うべきである。規制当局が緊急報告の目的に照らして、「医学的裏付け」を求める場合もある。重要なのは、報告自体の質であり、情報源ではない。一般使用者からの報告が、規制上の報告対象とはならない場合であっても、その報告を保存すべきである。
3.1.2 文献
各製造販売業者は、広く使われている系統的な文献論評又は参照データベースを用いることにより、世界的に広く読まれている科学文献を定期的に検索することが期待される。文献検索の頻度は各国の規制要件に従うか又は少なくとも2週間に1回行うべきである。関連のある公表された学会抄録集及び論文の草稿を含め、科学文献及び医学文献の副作用症例報告には規制当局への緊急報告の要件を満たすものもある。特定される患者ごとに、適切な医学的情報を記載した報告書を提出すべきである。その際、参照文献名等を情報源として付記すべきであり、国によっては、文献の写しを求められる場合もある。企業の本社及び各国支社は、自国内の学術誌に掲載される発表を認識し、適宜、自社の安全対策を担当する部門に注意を促すことが求められる。
規制当局への報告期限は、製造販売業者が当該症例について報告に必要な最低限の情報が得られたと認識した時点から起算する。
製造販売業者は、当該医薬品の製造販売業者、商標又は商品名が特定されない場合、明確になるまでは自社の製品と想定すべきである。ただし、報告書には、具体的な商標が特定されていないことを記載する必要がある。
文献中に複数の製品が記載されている場合、被疑薬とされた製品の製造販売業者のみが報告を提出すべきである。被疑薬とは文献の著者によって有害事象との因果関係が疑われるとして特定された製品のことをいう。
3.1.3 インターネット
製造販売業者は、潜在的な副作用症例を見落とさないために、自社が管理する、又はその内容に責任を持つウェブサイトを定期的に検索すべきである。製造販売業者は副作用情報に関して、それ以外のウェブサイトを検索することは要求されない。しかし、自社の管理下にないウェブサイトにおいて副作用を知った場合には、その症例を評価し、報告すべきか否かを決定すべきである。
製造販売業者は、副作用データ収集を促進するために、副作用報告のための書式を提供したり、直接連絡を受けるための連絡先情報を提供したりする等、自社のウェブサイトの活用を検討すべきである。
インターネットから知った自発的な報告は、自発報告として取り扱うべきである。報告の必要性を決定するためには、他の手段で収集される症例に対するものと同一の基準を適用すべきである。
インターネット、例えば電子メールから得られた症例に関して、報告者の特定とは実際に人が存在すること、すなわち、患者と報告者の存在を確認することが可能であるということを意味する。
3.1.4 その他の情報源
製造販売業者は、非医学的情報源、例えば一般紙やテレビ等その他のメディアから症例を知った場合、当該症例を自発報告として取り扱うべきである。報告の必要性を決定するためには、他の症例報告に対するものと同一の基準を適用する。
3.2 依頼に基づく非自発的な情報源(Solicited Sources)
依頼に基づく非自発的な情報源から得られる報告とは、臨床試験、登録制度(registries)、承認後に医師の要望に基づき製造販売業者が患者を登録した上で医薬品を提供するプログラム(post-approval named patient use programs)、患者支援・疾病管理プログラム(patient support and disease management programs)、患者又は医療提供者に対する調査、有効性又は患者のコンプライアンスに関する情報収集等、系統的な方法で収集された報告である。このような収集方法により得られた有害事象報告は自発報告とみなすべきではない。
安全性情報の報告に当たっては、依頼に基づく非自発的な報告は、自発報告としてではなく臨床試験等からの報告と同様に取り扱われるべきであり、したがって、医薬品と有害事象の因果関係について適切な評価が医療専門家又は製造販売業者によってなされるべきである。なお、盲検下の症例の取扱い等の臨床試験に関する問題については、ICH E2Aガイドラインを参照すること。
3.3 企業間の契約に基づく情報
多くの医薬品の販売は、二つ又はそれ以上の企業間の契約を通じて行われることが多くなってきており、その場合、複数の企業が同一の製品を同じ又は異なる国や地域で販売する場合がある。取決めの内容は企業間の連絡方法や規制当局に対する責任分担の点で契約により大きく異なる。概して、この問題は複雑な問題であるといえる。
企業間の契約においては、報告期限及び規制当局への報告責任を含め安全性情報を交換する手続きをライセンス契約/契約上の合意事項の中で明確に規定しておくことが極めて重要である。どのような内容のものであれ、契約上の合意事項の作成には安全対策の担当者が最初から関与すべきである。例えば、文献の検索を1社に指定する等、規制当局への報告の重複を避けるための手続きを定めておくべきである。
契約上の取決めがどうであろうとも、製造販売業者が最終的に規制当局への報告の責任を負う。したがって、契約を締結する関係企業間で製造販売業者がその責任を果たすことができるよう、情報交換に要する日数を最小にするためのあらゆる努力をすべきである。
3.4 規制当局からの情報
海外の規制当局から入手した重篤かつ予測できない副作用の個別症例報告は、各製造販売業者から他の規制当局への緊急報告の対象となる。追加情報がない重篤な副作用報告については、各国の規制によって規定されていない限り、通常、その情報源となった規制当局に再報告する必要はない。
4. 緊急報告のための基準
4.1 報告対象
4.1.1 重篤な副作用
重篤かつ予測できない副作用症例は、緊急報告の対象となる。重篤かつ予測できる副作用の緊急報告は国によって異なる。重篤でない副作用は、予測性の有無を問わず、通常は緊急報告の対象とはならない。
臨床試験その他の依頼に基づく非自発的な情報源から得られる報告の場合は、報告者である医療専門家又は製造販売業者により、当該医薬品との因果関係の可能性があると評価された症例はすべて副作用とみなされる。自発報告の場合は、副作用報告の目的からして、因果関係が疑われていることを示唆しているものとみなされる。
4.1.2 その他の安全性情報
個別症例報告に加えて、当該医薬品のリスク・ベネフィットの評価を変更し得る他のいかなる安全性情報についても、各国の規制に従って可及的速やかに規制当局と連絡を取るべきである。このような例としては、in vitro試験、動物試験、疫学研究又は臨床試験において、ヒトに対する重大なリスクを示唆するような、重要で予期しなかった安全性上の知見が得られた場合が挙げられる。例えば、変異原性、催奇形性、発がん性、あるいは致死的又は重篤な疾病の治療薬での有効性の欠如等を示す知見が該当する。
4.1.2.1 有効性の欠如
有効性の欠如に関する情報は通常、規制当局への緊急報告の対象とはならないが、定期的安全性最新報告(periodic safety update report(PSUR))において検討すべきである。しかし、特定の地域における特定の状況下では、有効性の欠如に関する個別症例報告が緊急報告の対象とみなされる場合もある。これらの例としては、致死的又は重篤な疾患の治療に使用される医薬品、ワクチン及び避妊薬がある。報告に当たっては、各国の添付文書の記載内容と治療対象である疾患を考慮した上で臨床的判断を行うべきである。
4.1.2.2 過量投与
有害な転帰を伴わない過量投与の報告は副作用として報告すべきではない。各国の規制によって規定されないかぎり、重篤な副作用を伴う症例は、緊急報告の対象とみなされる。症状、治療及び転帰に関し可能な限り完全な情報を収集するために、過量投与の症例については常に追加情報を収集すべきである。製造販売業者は、自社の医薬品に関連した過量投与について、入手可能な情報はすべて収集すべきである。
4.2 報告に必要な最低限の情報
最初の報告時点で可能な限り多くの情報を収集することが推奨される。しかしながら、規制当局への報告目的からすれば、最低限のデータ項目として以下のものが挙げられる。すなわち、特定された報告者、特定された患者、副作用及び被疑薬である。これらの4項目のいずれかを欠くことは、その症例が不完全であることを意味するが、製造販売業者は欠落しているデータ項目を収集するために然るべき努力をすることが期待される。
4.3 起算日
一般に、製造販売業者は、重篤かつ予測できない副作用について、可及的速やかに、かつ、最初に情報を入手した日から15暦日以内に報告しなければならない。その他の重篤症例の報告期限は情報源、予測性及び転帰によって国ごとに異なる。
製造販売業者の社員の誰かが、緊急報告の基準を満たし、かつ、報告に必要な最低限の情報を含む症例報告を最初に受領した日から、規制上の報告期限が起算される。一般に、この日付は0日目(day 0)とされる。
以前に報告した症例について、追加の医学的に重要な情報を入手した場合、追加報告の提出には、規制上の報告期限が再度起算される。さらに、当初緊急報告でない症例として分類された症例について、再分類(例えば重篤でない副作用から重篤な副作用への変更等)の必要性を示す追加情報を入手した場合には、その時点より緊急報告として扱われる。
4.4 重篤でない副作用
重篤でない副作用の症例は、予測性の有無にかかわらず、通常は緊急報告の対象としてはみなされない。重篤でない副作用については、ICH E2Cガイドラインに従って定期的安全性最新報告において報告すべきである。
5. 症例の取扱いに関する基準
製造販売業者及び規制当局にとって、正確で、完全かつ真正な情報は、副作用報告を特定、評価するために、極めて重要である。製造販売業者及び規制当局の両者は、報告が真正、正確、かつ可能な限り完全であること、また重複していないことを保証するために十分な情報収集を行う必要がある。
5.1 患者と報告者の特定1)
症例の重複を回避し、虚偽を検出し、然るべき症例の追跡調査を容易にするために、患者及び報告者を特定することが重要である。ここでの「特定」とは、患者及び報告者の存在を確認できることを意味している。
各国の個人情報保護法が患者と報告者の特定に関して適用されることがある。
年齢(又は年齢区分、例えば、青年、成人、高齢者)、性別、イニシャル、生年月日、氏名、又は患者識別番号のうち一つ以上の情報があれば、患者は自動的に特定可能と判断されるべきである。さらに、伝聞等により間接的に知った事象の場合には、特定の患者と報告者の存在を確認するためにあらゆる努力をすべきである。
症例の情報を提供する又は情報収集のために接触を受けるすべての関係者が特定されるべき存在である。すなわち、初回報告者(当該症例についての最初の情報提供者)だけでなく情報を提供する他の関係者も含まれる。
報告すべき対象となることを示す記述が不足している場合、明確な症例数のある報告でも、症例報告に必要な最低限の4項目が得られるまでは、症例とみなすべきではない。例えば、「患者2例に発現した・・・」、又は「少数の患者に発現した・・・」のような例では、症例報告として提出する前に、患者を特定するための追加情報の収集を行うべきである。
――――――――――――
1)患者と報告者の特定に関する考え方については、参考文献1を参照のこと。
5.2 症例経過等の記述の役割
症例経過等を記述する目的は、患者情報、治療の詳細、既往歴、当該有害事象の臨床経過、診断、副作用、転帰、臨床検査値(正常範囲を含む)、副作用であることを肯定又は否定するその他の情報等、関連したすべての臨床情報を要約することである。症例経過等の記述は、包括的でかつ独立した「メディカル・ストーリー」としての役割を果たす必要がある。症例経過等の情報は、論理的な時間の流れに沿って記述されるべきで、情報を入手した順ではなく、患者に発生した事象の経時的推移に基づいて記載するのが理想である。追加報告では、新しい情報を明確に特定すべきである。
略号及び頭字語は、臨床検査値のパラメータ及び単位として用いる以外は、使用を避けるべきである。補助的な記録であってもそれらに含まれる重要な情報は報告に含めて記載するとともに、当該記録の入手可能性についても症例経過等の記述欄で言及し、要請があれば提供することが望ましい。関連する剖検又は死後の所見についても記述欄に要約し、関連する文書は、各国の規制当局により要請され、かつ個人情報保護法においてその提供が可能である場合には、提出しなければならない。
症例経過等の記述で用いられる用語、例えば有害事象/副作用、使用理由、医学的状況等については、報告様式の適切な欄に正確に反映されるべきである。
5.3 症例の臨床的評価
慎重な医学的評価の目的は、医学情報の正確な解釈を保証することにある。好ましくは、症例に関する情報は、患者の治療に直接関わった医療専門家から収集すべきである。副作用報告の情報源の如何に関わらず、情報の受領者は当該医学情報の質及び完全性について慎重に評価する必要がある。このような評価に際しては、以下の点を考慮すべきである。ただし、これらに限定されるものではない:
・診断は可能か?
・適切な診断手順を踏んでいるか?
・当該副作用を起こし得る他の原因についても検討されているか?
・他にどのような情報を追加収集すべきか?
副作用の用語は一貫性をもって用いるべきであり、可能であれば推奨されている診断基準と整合した形で用いるべきである。症例報告には報告者が使用した用語(verbatim term)か、その正確な翻訳を含む必要がある。報告を受理した企業の担当者は、報告者からの情報に関する偏りのない、生の情報を報告する必要がある。報告を受理した企業の担当者は、可能な限り完全な報告を引き出すために積極的に報告者に質問すべきであるが、報告書の提出において推測や不適切な原因の転嫁は避けるべきである。ただし、一部の規制当局では、製造販売業者が自らの評価であることを明確にした上で評価することは適切であるとされており、むしろ要件とされる場合もある。
症例が一般使用者によって報告された場合、一般使用者自身による事象の記述を報告書に含めるべきであるが、関係する医療専門家に対しても確認又は追加の情報を求めた上で報告書に記載すべきである。
5.4 追加情報
副作用に関する情報は、最初に受領した時点では一般に不完全である。すべての症例について包括的な情報が得られていることが理想ではあるが、実務においては、伝聞等により間接的に知った報告を含む特定の報告について、追加情報を得るための努力をすべきである(本ガイドラインの別添「重篤な副作用の緊急報告に含めることが推奨される重要なデータ項目」を参照のこと)。
追跡調査の意義を最大限にするための仕組みを作るに当たって、初めに考慮しなければならないのは、重要度に応じた優先順位付けである。追加情報の収集に関しての優先順位は、1)重篤かつ予測できない副作用の症例、2)重篤かつ予測できる副作用の症例、3)重篤でなく予測できない副作用の症例、とすべきである。重篤性及び予測性に関する基準に加え、添付文書の改訂につながる可能性のある症例とともに、「特に関心の持たれる」症例(例えば、規制当局によって積極的な調査が要請されている副作用等)についても、優先的に特別な注意を払う価値がある。
追加情報は、電話による聴取、施設訪問及び文書による要請等によって入手すべきである。この際、当該企業は、回答を希望する特定の質問を具体的に提示する必要がある。追跡調査の方法については、不足している情報を入手するための最適な方法となるようにすべきである。口頭で伝えられた詳細情報については、可能な限り文書による確認を得るべきである。報告者が情報の提供を拒否するような例外的な状況下では、規制当局が製造販売業者による追跡データの取得を支援できる場合がある。
臨床的に意義があり、かつ完全な情報の入手を促進するため、できれば第一報報告時に、的を絞った質問や特定の書式を準備すべきである。理想としては、医薬品安全性監視(pharmacovigilance)に関する十分な訓練を受け、当該治療分野の医療専門家である者が、報告症例(特に医学的に重要な症例)の収集や直接の症例追跡調査に関与すべきである。重篤な副作用については、転帰が確認されるまで、又は症状が安定するまでは追跡調査を行い、新たに得られた情報の報告を継続することが重要である。このような症例をどの程度の期間追跡調査するかについては判断が必要である。
最初に報告を受領した時に、その先の調査が可能になるように、各国の個人情報保護法の制約の範囲内で患者と報告者について十分に詳細な情報を入手し、かつ保存することが重要である。
5.4.1 妊娠中の曝露
製造販売業者は、自社の医薬品に胚/胎児が曝露されていた可能性がある場合、医療専門家又は一般使用者から得られた、そのような妊娠に関するすべての報告を追跡調査することが期待される。有効成分又はその代謝物の一つの半減期が長い場合には、胎児が曝露されたか否かを判断する際に、その点を考慮に入れるべきである(すなわち、妊娠期間の前に投与された医薬品についても考慮すべきである)。
5.5 報告方法
CIOMS I様式が緊急有害事象報告の標準として広く受け入れられている。しかし、緊急報告にどのような様式又はフォーマットを用いるにしても、表形式又は記述による記載を問わず、入手可能な特定の基礎的情報/データ項目を含めることが重要である。医療情報のコード化にはMedDRA(Medical Dictionary for Regulatory Activities)の使用が推奨される。個別症例安全性報告(ICSR)の電子的報告に対する標準は、ICH E2B/M2ガイドラインに従って実装されるべきである。
このガイドラインの別添の一覧に推奨されるデータ項目を示した。緊急報告時にこれらのデータ項目すべてを入手できない場合には、入手するための努力をすべきである。
参考文献
1. Current Challenges in Pharmacovigilance: Pragmatic Approaches(Report of CIOMS Working V),Geneva 2001
2. Rules Governing Medicinal Products in the European Union,Volume 9,PHARMACOVIGILANCE: Medicinal Products for Human Use,2001
http://pharmacos.eudra.org/F2/eudralex/vol-9/home.htm
3. Guidance for industry: Postmarketing Safety Reporting for Human Drug and Biological Products Including Vaccines,Food and Drug Administration,March 2001(draft)
http://www.fda.gov/cder/guidance/4153dft.pdf
4. Safety Reporting Requirements for Human Drug and Biological Products,Proposed Rule,Food and Drug Administration,March 2003
5. 平成9年3月27日付薬発第421号厚生省薬務局長通知「薬事法等の一部を改正する法律の施行について」訳注3)
――――――――――――
訳注3) ICHにおいて本ガイドラインが合意された際に参考とされた通知であり、実際の副作用等の報告に際しては、常に最新の関連通知を参照すること。
別添
重篤な副作用の緊急報告に含めることが推奨される重要なデータ項目
以下のデータ項目の中には状況により不要なものもある。当該症例に関する以下の項目について、できるだけ多くの追加情報を得るように努めるべきである。個別症例安全性報告の伝送における詳細なデータ項目に関してはICH E2B/M2ガイドラインを参照すること。
1. 患者の詳細情報
・ イニシャル
・ 関連する他の患者特定事項(例えば、患者の識別番号等)
・ 性別
・ 年齢、年齢区分(例えば、青年、成人、高齢者)又は生年月日
・ 合併症
・ 既往歴
・ 関連のある家族歴
2. 被疑薬
・ 報告された商品名
・ 一般名
・ バッチ番号/ロット番号
・ 被疑薬が処方又は投与された適応症
・ 剤型及び含量
・ 1日投与量(mg、ml、mg/kg等単位を明記すること)及び用法
・ 投与経路
・ 投与開始日時
・ 投与中止日時又は投与期間
3. 他の治療
以下の事項についても「2. 被疑薬」と同様の情報を報告すること。
・ 併用薬(処方せん医薬品以外の医薬品、一般用医薬品、生薬、栄養補助食品、補助療法、代替療法等を含む)
・ 関連する医療機器
4. 副作用の詳細(入手可能なすべての情報)
・ 発現部位と重症度を含めた副作用の詳細記述
・ 当該副作用を重篤と判断した基準
・ 報告された徴候、症状の詳細
・ 当該副作用の具体的な診断名
・ 副作用の発現日時
・ 副作用の消失日時又は持続期間
・ 投与中止及び再投与に関する情報
・ 関連する診断検査結果及び臨床検査値
・ 診療の状況(病院、外来診療、在宅医療、療養施設等)
・ 転帰(回復状況又は後遺症に関する情報)
・ 致命的な転帰については死亡診断書等に記載された死因
・ 該当する剖検所見又は他の死後の所見
・ 副作用/有害事象に対する製品の因果関係
5. 副作用の報告者の詳細
・ 氏名
・ 郵送先住所
・ 電子メールのアドレス
・ 電話番号及びファックス番号
・ 報告者の分類(一般使用者、医療専門家等)
・ 職業(専門分野)
6. 管理項目及び製造販売業者の詳細
・ 報告の情報源(自発報告、疫学研究、患者調査、文献等)
・ 製造販売業者がその有害事象情報を最初に入手した日
・ 有害事象発生国の国名
・ 規制当局に報告された症例情報の種類(初回報告か、追加報告か)及び報告の回数(1回目、2回目 等)
・ 製造販売業者の名称及び所在地
・ 製造販売業者の連絡担当者の氏名、郵送先住所、電子メールのアドレス、電話番号及びファックス番号
・ 承認申請書(marketing authorisation dossier)等に関連して規制当局から付される識別コード又は識別番号(承認番号等)
・ 製造販売業者が副作用発現症例を特定する症例番号(同一症例に対して初回報告と追加報告で同一の番号を使用すべきである)