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○特定建築物の維持管理について権原を有する者の解釈等について

(平成21年12月18日)

(健発1218第2号)

(各都道府県知事・各政令市市長・各特別区区長あて厚生労働省健康局長通知)

建築物における衛生的環境の確保に関する法律(昭和45年法律第20号。以下「法」という。)第4条第1項等に規定する特定建築物の維持管理について権原を有する者等については、近年の建築物の所有及び管理の形態の変化等に伴い、その解釈について疑義が生じている向きがある。ついては、今般、下記のとおりその解釈を整理したので、貴職におかれては、御留意の上、関係者に対し適切な指導を行うとともに、法の円滑な施行につき御配慮をお願いする。

なお、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的助言である。

第1 特定建築物の維持管理について権原を有する者の解釈

1 法第4条第1項等に規定する維持管理の権原に関する考え方

(1) 基本的な考え方

所有者、占有者その他の者で特定建築物の維持管理について権原を有するもの(以下「特定建築物維持管理権原者」という。)については、法第4条第1項において、政令で定める基準(以下「建築物環境衛生管理基準」という。)に従い、当該特定建築物を維持管理することが義務付けられているが、当該義務を負う者としては、所有者、占有者、法令の規定により当該特定建築物を管理する権利(又は権限。以下同じ。)を有する者等が考えられる。

同項の規定は、所有者、占有者、法令に基づき管理をする権利を有する者等が、所有権、占有権、法令の規定により与えられた権利等に基づき、特定建築物を適切に維持管理することが可能であることから、所有者及び占有者をはじめとしてこれらの者の中から実態として当該特定建築物の維持管理の権利等を有する者に、当該権利等を権原として、特定建築物を維持管理することを義務付けているものである。

ただし、これらの者以外の者で私法上の契約等により特定建築物を維持管理する権限を付与されたものについても、当該権限が維持管理についての権原となる場合においては、同項の義務を負うことがある。すなわち、所有権等の権利等を有することのみをもって同項の義務を負うものではなく、実態として適切に特定建築物を維持管理することが可能であることをもって同項の義務を負うこととなる。したがって、一般的に、特定建築物の所有者は、当該特定建築物の管理行為の権利を有するため、当該特定建築物を維持管理することが可能であるが、私法上の契約等により占有者等相手方に維持管理の権限を全て与えている場合等については、当該権限及び占有者等が有する占有権等の権利を権原として占有者等が特定建築物維持管理権原者となることがある。

貴職におかれては、個々の特定建築物において、最も適切に特定建築物を維持管理することが可能な特定建築物維持管理権原者を把握し、当該者が法に基づき適切に維持管理するよう指導されたい。

なお、法第4条第1項の義務を負う特定建築物維持管理権原者は、通常、特定建築物ごとに一に定まるが、所有及び管理の形態等によって、一の特定建築物に複数存在することがある。

(2) 所有者、占有者以外の者で特定建築物の維持管理について権原を有するものの考え方

所有者、占有者以外の者で特定建築物の維持管理について権原を有する可能性のあるものとして、前述のとおり、法令に基づき当該特定建築物の管理をする権利を有する者のほか、所有者、占有者又は法令に基づき当該特定建築物の管理をする権利を有する者(以下この号において「所有者等」という。)との私法上の契約等により維持管理の権限を与えられた者が、その権限の範囲により、特定建築物維持管理権原者となることがある。しかしながら、契約等の形態は多様であり、所有者等が相手方に与える権限の範囲も当事者間の契約等の内容によって異なるため、これを一律に判断することは困難である。一方、維持管理の権限を与えられた者が特定建築物維持管理権原者となるには、特定建築物維持管理権原者が、法第4条第1項の規定に基づき建築物環境衛生管理基準に従い維持管理すること、法第6条第2項の規定に基づき建築物環境衛生管理技術者からの意見の申出を尊重し維持管理すること、法第12条の規定に基づき都道府県知事等が発出する維持管理の方法の改善命令等に従うこと等の義務を負うことにかんがみ、所有者等からこれらの義務を履行するために必要な一切の権限を与えられ、自らの判断と責任に基づき特定建築物を維持管理することが必須の要件となる。

したがって、例えば、所有者等から特定建築物の清掃の業務を受託した清掃業者は、所有者等の指示又は当事者間の契約の規定の範囲において清掃の業務を行うことは可能であるが、一般的に、特定建築物の維持管理について法の規定に基づく義務の履行に必要な権限を有しないため、特定建築物維持管理権原者に該当しない。

一方、例えば、所有者等から特定建築物を維持管理する権限を与えられた者が、維持管理業者等と契約し、維持管理業務の状況を報告させ、その妥当性を判断し、占有者及び維持管理業者等関係者に対し維持管理について必要な指示をすることとされているなど、自らの判断と責任に基づき維持管理を行うために必要な一切の事項を決定する権限を有する場合は、一般的に、当該者を特定建築物維持管理権原者と判断することが適当である。

2 所有者以外の占有者が特定建築物維持管理権原者となる場合について

(1) 基本的な考え方

特定建築物の所有者以外に占有者が存在する場合であっても、民法(明治29年法律第89号)第206条において、所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有することとされており、法令に基づく制限又は私法上の契約による相手方への権限の付与等がなければ、当該特定建築物の全部の管理について権原を有することから、当該所有者を特定建築物維持管理権原者と判断することが適当である。また、賃貸借契約等により、特定建築物を所有者が維持管理すること又は当該所有者の指示に従って占有者が維持管理することが明示されている場合についても、一般的に、当該所有者が特定建築物維持管理権原者となる。

(2) 所有者以外の占有者が特定建築物維持管理権原者となる場合

所有者以外の占有者が共用部分を含め特定建築物全てを占有しており、かつ、私法上の契約により所有者から維持管理について一切の権限を与えられている場合は、原則として当該占有者が特定建築物維持管理権原者となる。一方、同様の条件下で、一の特定建築物に区域を異にして占有者が複数存在し、かつ、共用部分を含めた特定建築物全体の維持管理の権限が当該占有者間で明確化されている場合は、当該占有者各々が特定建築物維持管理権原者となることがある。

(3) 所有者及び占有者が異なる区域の維持管理について権原を有する場合

所有者及び所有者以外の占有者が、区域を異にして維持管理の権原を有している場合において、当該占有者を特定建築物維持管理権原者として維持管理させなければ支障が生じる場合については、当該所有者及び当該占有者を共に特定建築物維持管理権原者と判断することが適当である。一方、所有者が占有者等に維持管理の権限の一部を与えたものの、引き続き当該所有者が維持管理の権利を有し、その指示等をする場合においては、一般的に、当該所有者が特定建築物維持管理権原者となる。

3 所有者、占有者以外の者が特定建築物維持管理権原者となる場合について

所有者、占有者以外の者が特定建築物維持管理権原者と考えられる場合においては、1(2)の考え方を基本として、別記を参考としつつ、個々の特定建築物の実情にかんがみ、貴職において適切に把握されたい。

第2 特定建築物の全部の管理について権原を有する者の解釈

法第5条第1項の規定に基づき、特定建築物の所有者又は全部の管理について権原を有する者(以下「特定建築物所有者等」という。)は、都道府県知事等に特定建築物の所在場所等について届け出なければならないこととされており、従来より主として所有者がこの義務を負ってきたところであるが、特定建築物の全部の管理とは、当該特定建築物の滅失・毀損を防止し、その価値を維持し、それを利用及び改良することの全てを指すものであり、権利等に基づきこれら全てをなし得る者が特定建築物の全部の管理について権原を有する者となる。

したがって、例えば、占有者が特定建築物全体を賃借し、かつ、当該特定建築物の全部の管理の権限を所有者から与えられている場合は、当該占有者が、また、信託法(平成18年法律第108号)の規定に基づき特定建築物が信託された場合に、信託行為により当該信託の受託者の有する権限が制限され、かつ、当該信託の受益者が当該特定建築物の全部の管理の権限を有する場合は、当該受益者が、それぞれ特定建築物所有者等となることがある。また、破産法(平成16年法律第75号)第74条の規定により破産管財人に選任された者等法令に基づき特定建築物を管理する権利を有する者が存在する場合は、原則として、当該権利を有する者を特定建築物所有者等と判断することが適当である。

ただし、特定建築物の所有者が全部の管理について権原を有している場合又は特定建築物の全部の管理について権原を有する者が存在しない場合は、当然当該所有者が届け出ることとなる。

また、特定建築物の全部の管理について権原を有する者は、法第4条第1項の規定に基づき特定建築物を建築物環境衛生管理基準に従って適切に維持管理することが可能であり、維持管理についての権原も有するため、特定建築物維持管理権原者となるが、全部の管理について権原を有する者が存在しない場合においては、第1で述べたとおり、所有者と特定建築物維持管理権原者が一致しないことがある。

なお、特定建築物所有者等は、法第5条第1項の規定に基づく届出以外に、法第6条第1項の規定に基づく建築物環境衛生管理技術者の選任、法第10条の規定に基づく帳簿書類の保存、法第11条の規定に基づく立入検査への対応の義務を負うが、全部の管理について権原を有する者は、当然これらの義務を履行することが可能な者であるため、当該者が当該規定に基づく義務を履行する者である。

第3 その他

第1の解釈は、法第4条第3項の特定建築物以外の建築物で多数の者が使用し、又は利用するものの所有者、占有者その他の者で当該建築物の維持管理について権原を有するものの解釈について準用することとする。

別記

1.破産法の規定に基づく破産管財人や会社更生法の規定に基づく保全管理人が存在する場合

破産法(平成16年法律第75号)第74条の規定により破産管財人に選任された者、会社更生法(平成14年法律第154号)第30条第2項の規定により保全管理人に選任された者及び同法第67条の規定により管財人に選任された者(以下「破産管財人等」という。)は、特定建築物の管理及び処分をする権利を有していることから、当該特定建築物の維持管理についての権原も有することとなる。したがって、所有者が特定建築物を管理せず、かつ、破産管財人等が実際に当該特定建築物を維持管理する場合は、破産管財人等を当該特定建築物の維持管理について権原を有する者と判断することが適当である。

また、破産法及び会社更生法以外の法令の規定に基づき、管理及び処分の権利を有することとされている者が特定建築物の管理を行う場合においても、原則として上記の考え方に基づき判断する。

2.特定建築物が信託法に基づき信託されている場合

信託法(平成18年法律第108号)の規定に基づく信託の受託者は、同法第26条の規定により、信託財産の管理及び処分の権限を有するため、原則として当該受託者が特定建築物維持管理権原者となるが、信託行為により当該受託者の権限が制限され、かつ、当該信託の受益者が必要な維持管理の権限を有している場合においては、当該受益者が特定建築物維持管理権原者となることがある。

3.資産の流動化に関する法律又は投資信託及び投資法人に関する法律に基づき、特定建築物を所有する特定目的会社又は投資法人がその維持管理に係る業務を委託している場合

一般的に、所有者である特定目的会社又は投資法人が特定建築物維持管理権原者となるが、資産の流動化に関する法律(平成10年法律第105号)第200条第3項又は投資信託及び投資法人に関する法律(昭和26年法律第198号)第198条第1項の規定に基づき特定建築物の維持管理に関する業務を受託した者が必要な維持管理の権限を有する場合は、当該受託者が特定建築物維持管理権原者となることがある。

4.資産の流動化に関する法律又は投資信託及び投資法人に関する法律に基づき、信託された特定建築物の受益権を特定目的会社又は投資法人が有する場合

上記2の考え方に準ずる。

5.資産の流動化に関する法律の規定に基づく特定目的信託の特定資産として特定建築物が信託されている場合

資産の流動化に関する法律第230条第1号の規定により、信託の受益者は、特定資産の管理及び処分について、受託信託会社等に指図を行うことができないこととされている。したがって、信託法第26条の規定により、信託を受託した当該受託信託会社等が管理及び処分の権限を有するため、原則として当該受託信託会社等が特定建築物維持管理権原者となる。

6.特定建築物の信託受益権を有限会社又は合同会社が有する場合(商法(明治32年法律第48号)第535条に規定する匿名組合契約を利用し資産の流動化を図る場合)

上記2の考え方に準ずる。

7.特定建築物が建物の区分所有等に関する法律に基づき区分所有されている場合

建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)の規定に基づき区分所有されている場合、一般的に、区分所有者各々が特定建築物維持管理権原者となるが、例えば、同法第47条第2項に規定する管理組合法人を設立しており、当該管理組合法人が必要な維持管理の権限を有する場合は、当該管理組合法人が区分所有者に代わり特定建築物維持管理権原者となることがある。

8.民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する法律に基づく選定事業者が存在する場合

民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する法律(平成11年法律第107号)第6条の規定に基づき特定事業が選定され、同法第7条の規定に基づく選定事業者が存在する場合、当該選定事業者の業務及び権限の範囲が個々の選定事業により異なるが、公共施設等の管理者等との協定や契約等により必要な維持管理の権限を与えられた選定事業者については、特定建築物維持管理権原者となることがある。なお、当該選定事業者が所有権を有する期間においては、一般的に、当該選定事業者が特定建築物維持管理権原者となる。

9.地方公共団体の所有する建築物で、地方自治法に基づく指定管理者が存在する場合

地方公共団体の所有する特定建築物については、一般的に、地方公共団体の長又は管理を委任された者が特定建築物維持管理権原者となるが、地方自治法(昭和22年法律第67号)第244条の2の規定に基づき公共施設の管理を指定管理者に行わせている場合であって、条例や協定等に基づき指定管理者が必要な維持管理の権限を有する場合は、当該指定管理者が特定建築物維持管理権原者となることがある。