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○傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準の策定について

(平成21年10月27日)

(/消防救第248号/医政発第1027第3号/)

(各都道府県知事あて消防庁次長・厚生労働省医政局長通知)

消防法の一部を改正する法律(平成21年法律第34号)は、平成21年5月1日に公布され、同年10月30日から施行されることになりました。

この改正法による改正後の消防法(昭和23年法律第186号。以下「法」という。)により、都道府県は、消防機関による救急業務としての傷病者の搬送及び医療機関による当該傷病者の受入れの迅速かつ適切な実施を図るため、傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準(以下「実施基準」という。)を定めるとともに、実施基準に関する協議等を行うための消防機関、医療機関等を構成員とする協議会(以下「協議会」という。)を設置することとされました。

総務省消防庁及び厚生労働省では、「傷病者の搬送及び受入れの実施基準等に関する検討会」を設置し、同検討会により、実施基準及び協議会に関する基本的事項について検討が行われ、この度、別添のとおり「傷病者の搬送及び受入れの実施基準等に関する検討会報告書」(以下「報告書」という。)がまとめられました。

都道府県においては、報告書の内容を参考にし、特に下記事項に留意して、速やかに実施基準を策定されますようお願いします。

なお、本通知は法第35条の6に基づく必要な情報の提供、助言その他の援助であることを申し添えます。

第1 実施基準策定の趣旨

近年、救急搬送において受入医療機関が速やかに決定しない事案が全国各地で発生し、社会問題となっている。総務省消防庁と厚生労働省が合同で行った「救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査」によると、平成20年中に、重症以上の傷病者の救急搬送約41万件のうち約1万7千件(約4.1%)の事案において、また、産科・周産期傷病者の救急搬送約1万6千件のうち約1千件(約6.3%)の事案において、救急隊が現場に到着してから医療機関の選定を終え現場を出発するまでに30分以上の時間を要するなど、傷病者の搬送及び受入れは大変厳しい状況となっている。

こうした状況を受けて行われた今回の消防法の改正は、地域における現状の医療資源を前提に、消防機関と医療機関の連携体制を強化し、受入医療機関の選定困難事案の発生をなくすとともに、医学的観点から質の高い、傷病者の状況に応じた適切な搬送及び受入体制を構築することを目指すものである。

具体的には、今回の消防法改正により、都道府県は、消防機関、医療機関等により構成される協議会を設置するとともに、傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準(実施基準)を策定することとされた。

この実施基準においては、傷病者の状況に応じた適切な医療の提供が行われるように分類された医療機関のリスト、救急隊による傷病者の状況の観察基準、受入医療機関が速やかに決定しない場合における受入医療機関を確保するためのルール等を定めることになる。

実施基準の策定は、傷病者の搬送及び受入れについて、現状の医療資源等を活用し、消防機関、医療機関等が共通の認識の下で、当該都道府県における対応方策を決定していくことを意味するものである。

また、実施基準を有効に機能させるためには、協議会において、実施基準に基づく傷病者の搬送及び受入れの実施状況を調査・分析し、その結果を実施基準の見直しに反映させることが必要である。

なお、実施基準の策定を通して、消防機関や医療機関等の関係者が共通認識を持つとともに、住民が地域における傷病者の搬送及び受入れの現状について理解を深めることは、今後の傷病者の搬送及び受入れの迅速かつ適切な実施に大きな意義を有するものである。

第2 実施基準の内容

実施基準の内容はおおむね次のようなものになると考えられるが、その具体的な内容については、それぞれの地域における医療提供体制の現状、受入医療機関の選定困難事案の発生状況、傷病者の搬送及び受入れの状況等の地域の実情に応じて定められたいこと。

1 法第35条の5第2項各号に掲げられた事項

都道府県は、実施基準において、法第35条の5第2項各号に掲げられた事項について定めるものであること。

(1) 分類基準(法第35条の5第2項第1号)

法第35条の5第2項第1号の基準(分類基準)は、傷病者の状況に応じた適切な医療の提供が行われることを確保するために医療機関を分類する基準を定めるものであること。

分類基準については、傷病者の生命の危機の回避や後遺症の軽減などが図られるよう定める必要があり、優先度の高い順に緊急性、専門性及び特殊性の3つの観点から策定する必要があること。

なお、緊急性、専門性及び特殊性とは、次のとおりであること。

① 緊急性

生命に影響を及ぼすような、緊急性が高いもの。

② 専門性

専門性が高いもの。

③ 特殊性

搬送に時間を要している等、特殊な対応が必要なもの。

分類基準として設定する項目については、報告書の2の第1号(分類基準)において具体的な内容が例示されているので、参照されたいこと。

なお、分類基準としてどのような項目を設定するかについては、地域の実情に応じて決定すべきものであり、報告書で具体的に例示された項目のすべてを分類基準として設定する必要はなく、また、報告書に例示されていない項目を分類基準として設定しても差し支えないこと。

(2) 医療機関リスト(法第35条の5第2項第2号)

法第35条の5第2項第2号の基準(医療機関リスト)は、分類基準に基づき分類された医療機関の区分ごとに、当該区分に該当する医療機関の名称を具体的に記載するものであること。

医療機関リストについては、報告書の2の第2号(医療機関リスト)において表示方法の例が示されているので、参照されたいこと。

なお、報告書で示された内容はあくまで例示であり、どのような表示方法とするかについては、表示のわかりやすさも考慮して、地域の実情に応じて定められたいこと。

(3) 観察基準(法第35条の5第2項第3号)

法第35条の5第2項第3号の基準(観察基準)は、救急隊が傷病者の症状等(状況)を観察(確認)するための基準を定めるものであること。

傷病者の症状等の観察は、傷病者の状況が法第35条の5第2項第1号の分類基準のどの分類に該当するか判断するための材料を得るために行われるものであり、どのような内容を観察基準で定めるかについては、法第35条の5第2項第1号の分類基準の内容に対応して決められるものであること。

なお、観察基準には、傷病者の観察に関する事項のすべてを網羅的に定めることは必ずしも要しないものであり、実際の傷病者の観察においては、観察基準に基づく観察のほか、傷病者の状況に関する総合的な観察が必要であることに留意すること。

(4) 選定基準(法第35条の5第2項第4号)

法第35条の5第2項第4号の基準(選定基準)は、救急隊が、傷病者の観察に基づき医療機関リストの中から搬送すべき医療機関を選定するための基準を定めるものであること。

選定基準は、傷病者の観察の結果、当該傷病者に適した区分に属する医療機関の中から最も搬送時間が短いものを選定することを基本とし、あわせて地域の実情や傷病者のかかりつけ医療機関の有無等を考慮して選定することなどを定めることが考えられるものであること。

(5) 伝達基準(法第35条の5第2項第5号)

法第35条の5第2項第5号の基準(伝達基準)は、救急隊が、搬送先として選定した医療機関に対して、傷病者の状況を伝達するための基準を定めるものであること。

伝達基準には、搬送先医療機関を選定する判断材料となった事項を優先してわかりやすい言葉で伝達することなどを定めることが考えられるが、どのような事項を伝達基準とするかについては、地域の実情に応じて定められたいこと。

なお、伝達基準には、傷病者の状況の伝達に関する事項のすべてを網羅的に定めることは要しないものであり、実際の傷病者の状況の伝達においては、伝達基準に定められたもののほか、基本的に総合的に系統だった伝達が必要であることに留意すること。

(6) 受入医療機関確保基準(法第35条の5第2項第6号)

法第35条の5第2項第6号の基準(受入医療機関確保基準)は、傷病者の受入れに関する消防機関と医療機関との間の合意を形成するための基準その他傷病者の受入れを行う医療機関の確保に資する事項を定めるものであること。

傷病者の受入れに関する消防機関と医療機関との間の合意を形成するための基準とは、同項第1号から第5号までの基準によって受入医療機関が速やかに決まらない場合において、受入医療機関を確保するための方法を定めるものであり、コーディネーターや基幹病院による調整、一時受入れ・転送等の方法が考えられるものであること。

その他傷病者の受入れを行う医療機関の確保に資する事項としては、受入医療機関に関する輪番制等の運用に関する基準、医療機関の受入可否情報の提供に関する事項等が考えられるものであること。

(7) その他基準(法第35条の5第2項第7号)

法第35条の5第2項第7号の基準(その他基準)は、同項第1号から第6号までの基準以外に傷病者の搬送及び受入れの実施に関して、都道府県が必要と認める事項を定めるものであること。

その他基準としては、搬送手段の選択に関する基準、災害時における搬送及び受入れの基準等が考えられるものであること。

2 実施基準に係る留意事項

(1) 実施基準の各項目の区域の設定

実施基準は、都道府県全体を一つの区域として定めるほか、医療を提供する体制の状況を考慮して都道府県の区域を分けて定める区域(医療圏)ごとに定めることもできるものであること。

(2) 都道府県間の調整

傷病者の搬送及び受入れが都道府県の区域を越えて広域的に行われている現状を踏まえ、実施基準においては、隣接都道府県及び隣接都道府県の医療機関と連携し、都道府県の区域を越えた広域の対応を定めることもできるものであること。

(3) 医療計画との調和等

実施基準は、医学的知見に基づき、かつ、医療法(昭和23年法律第205号)第30条の4第1項に規定する医療計画との調和が保たれるように定められなければならないこと。

(4) 実施基準の公表

都道府県は、実施基準を定めたときは、遅滞なく、その内容を公表しなければならないこと。

第3 協議会

都道府県は、実施基準に関する協議並びに実施基準に基づく傷病者の搬送及び受入れの実施に係る連絡調整を行うための協議会を組織するものであること。なお、メディカルコントロール協議会等の既存の協議組織を、協議会として位置付けることも可能であること。

1 構成

協議会は、次に掲げる者をもって構成されるものであること。

(1) 消防機関の職員

(2) 医療機関の管理者又はその指定する医師

(3) 診療に関する学識経験者の団体の推薦する者

(4) 都道府県の職員

(5) 学識経験者その他の都道府県が必要と認める者

なお、協議会の構成員については、報告書の3において具体例が示されているので、参照されたいこと。

2 運営

協議会の構成員の数、任期及び選定方法のほか、協議会の運営方法については、法令に定めはないところであり、都道府県が、地域の実情に応じて定められたいこと。

3 意見聴取

都道府県は、実施基準を定めるときは、あらかじめ、協議会の意見を聴かなければならないこと。この場合において、都道府県は、実施基準の原案を策定し、原案を協議会に諮問して意見を聴くだけでなく、原案の作成段階から協議会の意見を聴くことが考えられるものであること。

4 連絡調整

協議会は、実施基準に基づく傷病者の搬送及び受入れの実施に係る連絡調整(調査・分析等)を行うこととされていること。

実施基準を有効なものとして継続するためには、実施基準に基づく傷病者の搬送及び受入れの実施状況を検証し、適切に実施基準を見直すことが重要であり、少なくとも1年ごとに、消防機関及び医療機関の双方が有する情報をあわせて総合的に調査・分析を行い、必要があるときは実施基準の見直しを行うことが求められるものであること。

なお、協議会の行う調査・分析においては、各消防機関や各医療機関から提供される傷病者に関する個人情報の取扱いが問題となるが、この点については報告書の4の(2)において整理されているので、参照されたいこと。

[別添]

傷病者の搬送及び受入れの実施基準等に関する検討会報告書

平成21年10月

はじめに

傷病者の症状等に応じた搬送及び受入れの円滑化を図るため、「消防法の一部を改正する法律(平成21年法律第34号)」が平成21年5月1日に公布され、同年10月30日に施行されることとなりました。

今回の消防法改正の目的は、単に119番通報から病院収容までの時間を短くすることだけにあるのではなく、いかに傷病者の症状等に対応出来る医療機関への迅速かつ適切な救急搬送を確保するかという点にあります。

都道府県はまず、傷病者の搬送及び受入れの実態について、調査・分析を行い傷病者の状況に応じた適切な医療の提供が行われるように分類された医療機関のリスト、救急隊による観察基準、搬送先医療機関が速やかに決定しない場合に受入医療機関を確保するためのルール等からなる実施基準を策定すること、また、絶えずその実施状況を検証し、見直しを行うこととなります。その際、消防機関の有する救急搬送情報と医療機関の有する救急搬送後の転帰情報を合わせて分析することにより、単に、受入困難事案が減少したかどうかだけではなく、救急隊の観察、病院選定や処置が適切に行われたか等について総合的に分析し、より適切な傷病者の搬送及び受入れ体制の構築につなげていくことが重要です。

また、消防機関と医療機関等からなる協議会は、実施基準の実施状況を踏まえ、例えば救急医療提供体制そのものを充実強化する必要がある等の認識が得られた場合には、その旨、都道府県知事に意見具申できることとされており、積極的な役割を果たすことが求められています。

さらに、国は、都道府県の取組について財政面を含め適切に支援するとともに、先進的な取組例について積極的に情報提供を行うことなどが期待されます。

当検討会では、傷病者の搬送及び受入れの実施基準を策定する都道府県及びその内容を協議する消防機関や医療機関等の関係者の検討の一助となるよう、報告書を取りまとめました。

本報告書を参考に各地域で住民の理解を深めながら実施基準に関する検討が進められ、救急搬送を必要とする全ての傷病者が適切な医療機関に迅速に搬送される体制が実現することを願っております。

平成21年10月

傷病者の搬送及び受入れの実施基準等に関する検討会

座長

目次

1 消防法の改正について

(1) 背景

(2) 改正の内容

2 傷病者の搬送及び受入れの実施基準について

第1号(分類基準)

傷病者の心身等の状況に応じた適切な医療の提供が行われることを確保するために医療機関を分類する基準

第2号(医療機関リスト)

分類基準に基づき分類された医療機関の区分及び当該区分に該当する医療機関の名称

第3号(観察基準)

消防機関が傷病者の状況を観察(確認)するための基準

第4号(選定基準)

消防機関が傷病者の搬送を行おうとする医療機関を選定するための基準

第5号(伝達基準)

消防機関が傷病者の搬送を行おうとする医療機関に対し傷病者の状況を伝達するための基準

第6号(受入医療機関確保基準)

傷病者の受入れに関する消防機関と医療機関との間の合意を形成するための基準その他傷病者の受入れを行う医療機関の確保に資する事項

第7号(その他基準)

傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に関し都道府県が必要と認める事項

(号数は消防法第35条の5第2項各号を指す。)

3 協議会について

4 傷病者の搬送及び受入れに関する調査・分析について

5 都道府県間の調整について

6 開催状況・構成員・開催要綱

地域の取組例

[取組例1] 大阪府堺市域二次医療圏

・ 分類基準、医療機関リスト及び観察基準の例

[取組例2] 東京都

・ 医療機関リストの例

[取組例3] 東京消防庁

・ 観察基準の例

[取組例4] 東京都

・ 受入医療機関確保基準の例

[取組例5] 東京都

・ 受入医療機関確保基準の例

[取組例6] 長崎県

・ 調査・分析の例

[取組例7] 大阪府泉州地域

・ 調査・分析の例

[取組例8] 佐賀県

・ 都道府県間の調整の例

資料編

○ 消防法(昭和23年法律第186号)(抄)

○ 消防法の一部を改正する法律案に対する附帯決議

(平成21年4月17日衆議院総務委員会)

○ 消防法の一部を改正する法律案に対する附帯決議

(平成21年4月23日参議院総務委員会)

○ 医療計画関連資料

○ 周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会報告書

~周産期救急医療における「安心」と「安全」の確保に向けて~(抄)

(厚生労働省・平成21年3月4日)

○ 重篤な小児患者に対する救急医療体制の検討会中間取りまとめ(抄)

(厚生労働省・平成21年7月8日)

○ 今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会「精神保健医療福祉の更なる改革に向けて」(抄)

(厚生労働省・平成21年9月24日)

1 消防法の改正について

傷病者の搬送及び医療機関による受入れをより適切かつ円滑に行うため、「消防法の一部を改正する法律(平成21年法律第34号)」が平成21年5月1日に公布され、同年10月30日に施行されることとなった。

(1) 背景

平成18年及び平成19年に奈良県で、平成20年に東京都で発生した妊婦の救急搬送事案など、救急搬送において受入医療機関の選定が困難な事案が全国各地で発生し、社会問題化したところである。こうした事態を受け総務省消防庁と厚生労働省が合同で行った救急搬送における医療機関の受入状況等に関する実態調査によると、平成20年において、重症以上の傷病者の救急搬送約41万件のうち約1万7千件(約4.1%)の事案において、また、産科・周産期傷病者の救急搬送約1万6千件のうち約1千件(約6.3%)の事案において、救急隊が現場に到着してから医療機関の選定を終え現場を出発するまでに30分以上を要するなど、傷病者の搬送及び受入れは大変厳しい状況となっている。また、このような選定困難事案が首都圏、近畿圏などの大都市部に多く見られるなど、地域的な特徴も調査により明らかとなったところである。

こうした選定困難問題を解決するためには、救急医療に携わる十分な医師の確保、勤務条件の改善などの構造的な課題を解決しなければならないことが指摘されているが、当面の対応として、現状の医療資源を前提に消防機関と医療機関の連携を強化するための対策を講じることが必要である。事実、大都市部においても、傷病者の状況に応じた搬送について関係者間で明確なルールを共有することで、円滑で質の高い傷病者の搬送及び受入れを行っている地域もあるところである。

このような状況に加え、近年の医療の進歩とともに、傷病の発生初期に実施すると効果的な医療技術が発達しているところであり、傷病者の救命率の向上、予後の改善等の観点から、救急搬送における病院選定から医療機関における救急医療の提供までの一連の行為を迅速かつ適切に実施することの重要性が増しているところである。

今回の消防法の改正は、地域における現状の医療資源を前提に、消防機関と医療機関の連携体制を強化し、受入医療機関の選定困難事案の発生をなくすとともに、医学的観点から質の高い、傷病者の状況に応じた適切な搬送及び受入体制を構築することを目指すものである。

なお、選定困難事案の解決を主な目的として、今般の消防法改正が行われたことは事実であるが、仮に、医療資源が充足しており、選定困難事案が発生していなかったとしても、傷病者の救命率の向上等のため、地域の実情を踏まえ傷病者の状況に応じた、より適切な傷病者の搬送及び受入れを実現していくことは極めて重要な課題である。関係者はこのことを十分認識した上で、適切な者に適切に医療資源が配分されるよう、傷病者の搬送及び受入体制の構築に取り組むことが重要である。

(2) 改正の内容

今回の消防法改正により、各都道府県に、消防機関や医療機関等が参画する協議会を設置するとともに、傷病者の搬送及び受入れの実施に関するルール(実施基準)を策定することが義務づけられた。

実施基準においては、傷病者の状況に応じた適切な医療の提供が行われるように分類された医療機関のリスト、救急隊による観察基準、搬送先医療機関が速やかに決定しない場合に受入医療機関を確保するためのルール等を定めることとなるが、併せて、協議会において実施基準に基づく傷病者の搬送及び受入れの実施状況を調査・分析し、その結果を実施基準の見直しに反映させることとされた。

これは、実施基準を有効に機能させるためには、いわゆるPDCAサイクル(plan―do―check―act cycle)の活用による実施基準の策定と評価及び見直しが重要であるという認識によるものであり、消防機関と医療機関がそれぞれ保有する客観的なデータを調査・分析することが前提となる。

従前、消防機関が保有する救急搬送に関する情報と、医療機関が保有する救急搬送後の転帰情報等を合わせて分析することが一般には行われてこなかったが、傷病者の状況に応じた適切な医療を提供するための実施基準の策定とその見直しを行うためには、両者の情報を合わせて分析することが重要である。

また、都道府県が定めた実施基準は、公表することとされており、傷病者の状況に応じた適切な医療の提供が行われるよう分類された医療機関のリストをはじめ、円滑な救急搬送がどのようなルールに基づき確保されていくのかを明らかにすることとされている。

こうした実施基準の公表は、傷病者の搬送及び受入れに携わる関係者にとって、共通認識を明確なものとするために重要である一方、住民にとっても、地域における搬送及び受入れがどのように運営されているのかについての情報が提供されるという意味で重要であると考えられる。

現在、救急医療に関しては、住民に対し、救急車や医療機関の不要不急の利用を避け、救急相談サービスを利用するなどの呼びかけが行われているが、こうした搬送及び受入れシステムの現状に関する正確な情報を提供することにより、住民の理解がより一層深まることが期待されるところであり、その方法を常に見直しながら、より適切なものとしていくことが必要である。

他方で、実際に実施基準を運用する際の曜日毎の対応医療機関名等の情報の公表については、例えば、地域において手術治療を行う役割を担っている医療機関にウォークインでの外来患者が殺到し、手術対応が困難になるなど、住民の受診行動によって医療機関の機能が麻痺する恐れがある等の懸念から、慎重に対応する必要があるとの指摘もあり、各都道府県において地域の実情に即して適切に対応することが望まれる。

また、協議会は、実施基準の実施状況を踏まえ、都道府県知事に対し傷病者の搬送及び受入れの実施に関し必要な事項について意見具申できることとされており、例えば、協議会での検討の過程で医療提供体制そのものの充実強化の必要がある等の認識が得られた場合は、その旨、都道府県知事に対し、意見を述べることが出来るとされている。

なお、国は、都道府県に対し、実施基準の策定又は変更に関し、必要な情報の提供、助言その他の援助を行うこととされており、都道府県の先進的な取組等について情報の収集や提供を行うとともに、協議会の連絡会を設置し情報交換を促進する等により、各都道府県における体制の充実・強化を図ることとなる。

消防法改正(1):協議会について

消防法改正(2):実施基準(ルール)について

2 傷病者の搬送及び受入れの実施基準について

都道府県は、消防機関や医療機関等が参画する協議会における協議を経て、消防法第35条の5第2項各号に規定する傷病者の搬送及び受入れの実施基準を策定することとなる。

実施基準の策定は、傷病者の搬送及び受入れについて、現状の医療資源等を活用し、消防機関及び医療機関等が共通認識の下で、当該都道府県における対応方策を決定していくことを意味するものである。

従来、救急隊は、傷病者を観察し、適切な診療科に当てはめることにより受入医療機関を選定してきたが、救急隊はエックス線撮影やエコー検査、血液検査等を現場で実施できるわけではないことから、診療科に応じて傷病者を当てはめるのではなく、傷病者の症状等に応じて対応出来る医療機関をあらかじめ整理しておくことが、適切な傷病者の搬送及び受入れを実施していく上で重要である。このため、実施基準においては、各都道府県において、傷病者の症状等に基づく分類基準を策定し、分類された区分に応じた医療機関名を明らかにすることとしており、その上で、当該医療機関に傷病者が適切に搬送されるよう、救急隊の観察や伝達の基準について定めることとなっている。

また、これらの基準に基づき、受入医療機関が速やかに決まることが望まれるが、一方で、これらの対応によってもなお、受入医療機関の選定に時間を要し、医療機関への照会回数が多くなる事案が発生することも想定されるところである。このため、受入医療機関が速やかに決まらない場合の医療機関の確保方策についても、関係者間で協議し、都道府県が実施基準として策定することとなっている(実施基準概念図P35参照)。

なお、実施基準は、都道府県全体を一つの区域として定めるほか、医療を提供する体制の状況を考慮して、都道府県の区域を分けて定める区域ごとに定めることもできるものである。

以下、消防法第35条の5第2項各号について整理する。

第1号(分類基準)

傷病者の心身等の状況に応じた適切な医療の提供が行われることを確保するために医療機関を分類する基準

1 総論

第1号の基準(分類基準)は、傷病者の状況に応じた適切な医療の提供を行うために、医療機関を分類する基準を定めるものである。

救急搬送は、その症状が著しく悪化するおそれがあり、又はその生命が危険な状態にある傷病者等を搬送するものであることから、分類基準は、当該傷病者の生命の危機の回避や後遺症の軽減などが図られるよう定められる必要があり、優先度の高い順に緊急性、専門性及び特殊性の3つの観点から策定される必要がある。

(1) 緊急性

生命に影響を及ぼすような、緊急性が高いもの。

(2) 専門性

専門性が高いもの。

(3) 特殊性

搬送に時間を要している等、特殊な対応が必要なもの。

なお、各地域で救急搬送について問題となっている点について協議会として認識(調査・分析)し、その認識に基づきどの症状等について分類基準を策定することが必要かを協議会で決定することが重要である。

そのためには、消防法第35条の8第1項に規定する協議会の役割である「実施基準に基づく傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に係る連絡調整」の一環として、傷病者の搬送及び受入れの実施状況について調査・分析を行い、その結果に応じて分類基準を策定することが必要である。

※ 上記の基準は例示であり、分類基準をどう策定するかは地域の実情に応じて決定されるものである。

2 具体的内容

以下、各項目について具体的な内容を例示するが、例示した事項はあくまで各地域で分類基準を策定する際の参考例となるものである。したがって、どの事項を採用するかは地域の実情に応じて決定されるべきものであり、全ての事項について分類基準を策定しなければならないというものではない。

(1) 緊急性

生命に影響を及ぼすような、緊急性が高いもの。

(ア) [重篤]

特に重症度・緊急度が高く、生命への影響が極めて大きいもの。

緊急的に対応できる体制を構築しておくため、[重篤]を分類基準として設定することが適当であると考えられる。医療資源を特に投入できる救命救急センター等の医療機関に、直ちに搬送する必要がある傷病者の症状等が想定される。

・ 重篤感あり

・ 心肺機能停止

・ 容態の急速な悪化・変動

重篤を示すバイタルサイン参考値

・意識: JCS100以上

・呼吸: 10回/分未満又は30回/分以上、呼吸音の左右差、異常呼吸

・脈拍: 120回/分以上又は50回/分未満

・血圧: 収縮期血圧90mmHg未満又は収縮期血圧200mmHg以上

・SpO2: 90%未満

・その他: ショック症状

※上記のいずれかが認められる場合

救急搬送における重症度・緊急度判断基準作成委員会報告書(平成16年3月(財)救急振興財団委員長:島崎修次杏林大学教授)を参考に作成

(イ) 症状・病態等によって重症度・緊急度「高」となるもの

症状・病態等によって、重症度・緊急度が高いと判断されるもの。救命救急センター、または、傷病者の症状等によっては、専門性が高い二次救急医療機関で対応することについて調整し、体制を構築しておく必要があるため、分類基準を策定することが適当であると考えられる。

生命に直結する[脳卒中]や[心筋梗塞(急性冠症候群)]が疑われる場合や、重症度・緊急度が高い[外傷]、[熱傷]、[中毒]、[腹痛(急性腹症)]などが想定される。

こうした重症度・緊急度が高い症状を呈する傷病者については、傷病者の搬送及び受入れが比較的うまくいっている地域においても、実際にどのような実施状況であるのか関係者間で改めて確認し共通認識を持つことが重要であると考えられる(参考(症状・病態等によって重症度・緊急度「高」となるもの)P13~16参照)。

(2) 専門性

専門性が高いもの。

① [重症度・緊急度が高い妊産婦]

重症度・緊急度が高い妊産婦では、妊婦及び胎児の両者に対応する必要があり、また、妊産婦特有の傷病を念頭に置く必要があることから、分類基準を策定することが適当であると考えられる。

ただし、妊産婦における脳卒中疑い等、緊急性が高い場合は、まずは緊急性の観点から脳卒中疑いに対応できる医療機関で対応すべきであること等について、関係者間で認識を共有し、分類基準を策定することが適当である。

② [重症度・緊急度が高い小児]

重症度・緊急度が高い小児では、病状が急変する可能性が高いこと、傷病者自身が症状や経過を正確に伝えられないため事態の把握が困難であること、また、後遺症を残す可能性のある髄膜炎や脳炎等の中枢神経系の急性疾患を念頭に置く必要があること等から、分類基準を策定することが適当であると考えられる。

ただし、小児における急性腹症等、緊急性が高い場合は、まずは緊急性の観点から急性腹症に対応できる医療機関で対応すべきであること等について、関係者間で認識を共有し、分類基準を策定することが適当である。

③ その他、地域において医療資源の確保が困難なもの等を勘案し、以下のような症状を分類基準として設定することが考えられる。

・ 開放骨折

・ 四肢断裂

・ 眼疾患

・ 鼻出血

(3) 特殊性

搬送に時間を要している等、特殊な対応が必要なもの。

平成20年に東京消防庁管内の搬送事案について行った調査において、搬送先の選定が困難になるものとして、傷病者背景に

・ 急性アルコール中毒

・ 精神疾患

・ 透析

・ 未受診の妊婦

等があるものが多くなっており、また、医療機関が受入困難理由として明確に回答した傷病者背景としても急性アルコール中毒や精神疾患などが多くなっている。

各地域における傷病者の搬送及び受入れに関する調査・分析の結果、医療機関の選定に時間を要する等の理由により、特殊な対応が必要なものがある場合に、分類基準を策定することが考えられる。

東京消防庁管内の救急搬送における医療機関の受入状況等詳細調査

(平成20年12月16日~22日)

傷病者背景がある場合において医療機関に受入れの照会を行った回数ごとの件数

 

1回

2~3回

4~5回

6~10回

11回以上

4回以上

6回以上

11回以上

最大回数

全数

件数(a)

6,628

2,003

488

231

60

9,410

779

291

60

25

 

割合

70.4%

21.3%

5.2%

2.5%

0.6%

100%

8.3%

3.1%

0.6%

 

傷病者背景

件数(b)

225

202

94

86

40

647

220

126

40

25

 

割合

34.8%

31.2%

14.5%

13.3%

6.2%

100%

34.0%

19.5%

6.2%

 

 

 

b/a

3.4%

10.1%

19.3%

37.2%

66.7%

 

 

 

 

 

 

結核

件数

2

3

 

1

2

8

3

3

2

15

 

 

割合

25.0%

37.5%

 

12.5%

25.0%

100%

37.5%

37.5%

25.0%

 

 

感染症(結核除く)

件数

3

5

2

2

2

14

6

4

2

24

 

割合

21.4%

35.7%

14.3%

14.3%

14.3%

100%

42.9%

28.6%

14.3%

 

 

精神疾患

件数

52

47

29

18

9

155

56

27

9

17

 

 

割合

33.5%

30.3%

18.7%

11.6%

5.8%

100%

36.1%

17.4%

5.8%

 

 

急性アルコール中毒

件数

39

55

26

25

7

152

58

32

7

20

 

割合

25.7%

36.2%

17.1%

16.4%

4.6%

100%

38.2%

21.1%

4.6%

 

 

薬物中毒

件数

6

9

6

7

2

30

15

9

2

16

 

 

割合

20.0%

30.0%

20.0%

23.3%

6.7%

100%

50.0%

30.0%

6.7%

 

 

妊婦

定期健診

件数

4

3

 

 

 

7

 

 

 

2

 

割合

57.1%

42.9%

 

 

 

100%

 

 

 

 

 

 

ほとんど未受診

件数

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

割合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全く未受診

件数

1

1

 

1

1

4

2

2

1

13

 

 

割合

25.0%

25.0%

 

25.0%

25.0%

100%

50.0%

50.0%

25.0%

 

 

透析

件数

8

3

3

4

 

18

7

4

 

7

 

 

割合

44.4%

16.7%

16.7%

22.2%

 

100%

38.9%

22.2%

 

 

 

認知症

件数

32

21

6

2

4

65

12

6

4

16

 

 

割合

49.2%

32.3%

9.2%

3.1%

6.2%

100%

18.5%

9.2%

6.2%

 

 

要介護者

件数

35

12

5

4

5

61

14

9

5

25

 

 

割合

57.4%

19.7%

8.2%

6.6%

8.2%

100%

23.0%

14.8%

8.2%

 

 

過去に問題の傷病者

件数

2

7

1

5

3

18

9

8

3

17

 

割合

11.1%

38.9%

5.6%

27.8%

16.7%

100%

50.0%

44.4%

16.7%

 

 

CPA

件数

7

6

1

 

 

14

1

 

 

5

 

 

割合

50.0%

42.9%

7.1%

 

 

100%

7.1%

 

 

 

 

吐血

件数

10

5

5

3

 

23

8

3

 

8

 

 

割合

43.5%

21.7%

21.7%

13.0%

 

100%

34.8%

13.0%

 

 

 

開放骨折

件数

1

2

2

3

1

9

6

4

1

13

 

 

割合

11.1%

22.2%

22.2%

33.3%

11.1%

100%

66.7%

44.4%

11.1%

 

 

複数科目

件数

23

23

8

11

4

69

23

15

4

13

 

 

割合

33.3%

33.3%

11.6%

15.9%

5.8%

100%

33.3%

21.7%

5.8%