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○最低賃金法の一部を改正する法律の施行について

(平成20年7月1日)

(基発第0701001号)

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

(公印省略)

最低賃金法の一部を改正する法律(平成19年法律第129号。以下「改正法」という。)については、平成19年12月5日に公布され、同日付け基発第1205001号「最低賃金法の一部を改正する法律について」により貴職あて通達したところであるが、同法は、本年4月25日に公布された最低賃金法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成20年政令第150号)により、本日施行されたところである。これに伴い、最低賃金法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整理に関する政令(平成20年政令第151号)及び最低賃金法施行規則等の一部を改正する省令(平成20年厚生労働省令第101号。以下「改正省令」という。)が本年4月25日に公布され、それぞれ本日施行されたところである。改正法による改正後の最低賃金法(昭和34年法律第137号。以下「新法」という。)及び改正省令による改正後の最低賃金法施行規則(昭和34年労働省令第16号。以下「新則」という。)の内容等は下記のとおりであるので、これらの施行に遺漏なきを期されたい。

第1 改正法の趣旨

わが国における最低賃金制度は、昭和34年の最低賃金法(昭和34年法律第137号)の制定以来、業者間協定方式を中心として次第に適用拡大が進んだが、昭和43年の最低賃金法の一部改正により業者間協定方式が廃止され、産業別又は地域別の最低賃金の設定が進み、昭和51年には全都道府県に地域別最低賃金が設定され、すべての労働者に最低賃金の適用が及んだ。さらに、その後も、目安制度の改善や産業別最低賃金の再編など運用面を中心に着実に改善が重ねられてきた。

しかしながら、最低賃金制度を取り巻く状況をみると、サービス経済化など産業構造の変化やパートタイム労働者等の増加による就業形態の多様化の進展、低賃金労働者層の増大などの環境変化がみられるところであり、このような中で最低賃金制度が安全網として一層適切に機能することが求められるようになった。

また、産業別最低賃金については、従来から中央最低賃金審議会の報告において、制度のあり方を含めた検討を行うべきとされ、「規制改革・民間開放推進3か年計画」(平成16年3月19日閣議決定)においても、制度の見直しについて指摘を受けたところである。

このため、最低賃金法の一部を改正し、地域別最低賃金がすべての労働者の賃金の最低額を保障する安全網として十全に機能するようにするとともに、産業別最低賃金等については、関係労使のイニシアティブにより設定するという観点から、その在り方を見直すこととしたものであること。

第2 目的規定の改正(新法第1条関係)

改正法による改正前の最低賃金法(以下「旧法」という。)第1条においては、業種別、職種別、地域別といった、最低賃金の多元的な決定方式を前提としていたが、今般、すべての労働者の賃金の最低額を保障する安全網としての第一義的な機能は下記第6の地域別最低賃金が担うこととし、下記第7の特定最低賃金については、地域別最低賃金の補完的役割を果たすものと位置づけたことに伴い、事業若しくは職業の種類又は地域に応じることとする部分を削除したものであること。

なお、最低賃金制度の目的は、第一義的には、賃金の低廉な労働者に賃金の最低額を保障し、その労働条件の改善を図ることであり、第二義的には、こうした制度の実施によって労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資することであり、究極的には国民経済の健全な発展に寄与しようとすることであるが、こうした制度の目的は従来と変わるものではないこと。

第3 最低賃金額の表示単位の改正(新法第3条関係)

旧法第4条及び改正省令による改正前の最低賃金法施行規則(以下「旧則」という。)第1条においては、最低賃金額の表示単位について、時間、日、週又は月のほか、出来高又は業績の一定の単位によることとしていたが、賃金支払形態、所定労働時間等の異なる労働者間の公平の観点や就業形態の多様化への対応の観点、さらにはわかりやすさの観点から、最低賃金額の表示単位を時間に一本化したものであること。

第4 最低賃金の競合規定の改正(新法第6条関係)

2以上の最低賃金が競合する場合は、これらにおいて定める最低賃金額のうち最高のものにより新法第4条第1項を適用するものであり、こうした優先関係は従来と変わるものではないが、この場合においても、地域別最低賃金については、新法第4条第1項(最低賃金の効力)及び第40条(罰則)の規定の適用があることとしたものであること。したがって、特定最低賃金が適用される場合においても、地域別最低賃金において定める最低賃金額未満の賃金しか支払わなかった使用者については、新法第4条第1項違反として処罰することが可能であること。

第5 最低賃金の適用除外規定の廃止及び減額の特例規定の新設(新法第7条及び新則第3条から第5条まで関係)

1 趣旨

旧法第8条においては、その雇用に悪影響を及ぼすおそれがあることから、使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときは、同条各号に掲げる者について、最低賃金の適用を除外することができることとしていたが、従来、同条の許可に際しては、附款を付して支払下限額を定め、その支払いを求めるという運用をしてきたところである。しかしながら、今般、最低賃金の安全網としての機能を強化する観点から、最低賃金の適用対象をなるべく広範囲とすることが望ましく、労働者保護にも資することから、同条の適用除外規定を廃止し、新法第7条において、使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときは、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により新法第4条の規定を適用することとしたものであること。したがって、新法第7条の許可による減額後の最低賃金額(地域別最低賃金額に係るものに限る。)未満の賃金の支払いについては、新法第40条の罰則の適用があるものであること。

また、旧法第8条第4号に規定していた「所定労働時間の特に短い者」については、日額、週額又は月額によって定められた最低賃金額の適用を前提としたものであったことから、最低賃金額の表示単位期間を時間に一本化したことに伴い、削除することとしたものであるが、その他の対象労働者の範囲については従来と変わるものではないこと。

2 減額率(新則第5条関係)

新法第7条の厚生労働省令で定める率については、新則第5条において、対象労働者の区分に応じ、それぞれ次の率以下の率であって、当該対象労働者の職務の内容、職務の成果、労働能力、経験等を勘案して定めることとしたものであること。

(1) 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者(新法第7条第1号関係)

対象労働者と「同一又は類似の業務に従事する労働者であつて、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、最低位の能力を有するもの」の労働能率の程度に対する当該対象労働者の労働能率の程度に応じた率を100分の100から控除して得た率

(2) 試の使用期間中の者(新法第7条第2号関係)

100分の20

(3) 基礎的な技能及び知識を習得させるための職業訓練を受ける者(新法第7条第3号及び新則第3条第1項関係)

対象労働者の所定労働時間のうち、職業訓練の1日当たりの平均時間数を当該対象労働者の1日当たりの所定労働時間数で除して得た率

(4) 軽易な業務に従事する者(新法第7条第4号及び新則第3条第2項関係)

対象労働者と「異なる業務に従事する労働者であつて、減額しようとする最低賃金額と同程度以上の額の賃金が支払われているもののうち、業務の負担の程度が最も軽易なもの」の当該負担の程度に対する当該対象労働者の業務の負担の程度に応じた率を100分の100から控除して得た率

(5) 断続的労働に従事する者(新法第7条第4号及び新則第3条第2項関係)

対象労働者の1日当たりの所定労働時間数から1日当たりの実作業時間数を控除して得た時間数に100分の40を乗じて得た時間数を当該所定労働時間で除して得た率

第6 地域別最低賃金

1 地域別最低賃金の原則(新法第9条関係)

(1) 地域別最低賃金の理念(新法第9条第1項関係)

最低賃金制度が今後とも賃金の低廉な労働者の労働条件の下支えとして十全に機能するようにする必要があることから、地域別最低賃金をすべての労働者の賃金の最低限を保障する安全網として位置付けることとしたため、地域別最低賃金があまねく全国各地域について決定されるべきであるという理念を明確化したものであること。

(2) 地域別最低賃金の考慮要素(新法第9条第2項及び第3項関係)

新法第9条第2項においては、地域別最低賃金に係る決定基準の3つの要素は、いずれも当該地域におけるものであることを明確化したものであること。

新法第9条第3項においては、最低賃金と生活保護との関係について、生活保護が健康で文化的な最低限度の生活を保障するものであるという趣旨から考えると、最低賃金の水準が生活保護の水準より低い場合には、最低生計費の保障という観点から問題であるとともに、就労に対するインセンティブの低下及びモラルハザードの観点からも問題があることから、同条第2項の労働者の生計費を考慮する際の1つの要素として生活保護に係る施策があることを、法律上明確化したものであること。

なお、生活保護に係る施策との整合性は、各地方最低賃金審議会における審議に当たって考慮すべき3つの決定基準のうち生計費に係るものであるから、条文上は、生活保護に係る施策との整合性に配慮すると規定しているところであるが、法律上、特に生活保護に係る施策との整合性だけが明確化された点にかんがみれば、これは、最低賃金は生活保護を下回らない水準となるよう配慮するという趣旨であると解されるものであること。

2 地域別最低賃金の決定の義務付け等(新法第10条から第12条まで関係)

(1) 厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対する地域別最低賃金の決定の義務付け(新法第10条第1項関係)

厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、地域別最低賃金の決定を義務付けるものであること。

(2) 地域別最低賃金の決定手続等(新法第10条第2項、第11条及び第12条関係)

① 決定手続(新法第10条第2項及び第11条関係)

中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会(以下「最低賃金審議会」という。)の意見の提示があった場合の公示等、最低賃金の具体的な決定手続については、従来と変わるものではないこと。

なお、旧法第16条の2第4項に規定する、一定の事業に対する適用猶予については、地域別最低賃金をすべての労働者の賃金の最低限を保障する安全網と位置づけたことから、削除したものであること。

② 地域別最低賃金の改正又は廃止(新法第12条関係)

地域別最低賃金の決定が行政機関に対して義務付けられたことから、地域別最低賃金については、決定後も常に検討を加え、その決定基準についての事情の変更が認められる場合には、その改正又は廃止を決定権者に対して義務付けるものであること。

第7 特定最低賃金(新法第15条から第17条まで及び第19条関係)

1 特定最低賃金の趣旨

地域別最低賃金がすべての労働者の賃金の最低限を保障する安全網として全国に展開することを前提に、産業別最低賃金が企業内における賃金水準を設定する際の労使の取組みを補完し、公正な賃金決定にも資する面があったことを評価し、安全網とは別の役割を果たすものとして、関係労使の申出を受けた行政機関は、最低賃金審議会の意見を聴いて、特定最低賃金の決定を行うことができることとしたものであること。

2 特定最低賃金の決定手続(新法第15条及び第19条関係)

労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、当該労働者若しくは使用者に適用される特定最低賃金の決定又は当該労働者若しくは使用者に現に適用されている特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をするよう申し出ることができるものであること。

この申出があった場合において、厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、必要があると認めるときは、最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて、当該申出に係る特定最低賃金の決定又は当該申出に係る特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をすることができるものであること。

また、一定の事業に対する適用猶予については、特定最低賃金が関係労使の申出を受けて厚生労働大臣又は都道府県労働局長が決定するものであり、その決定に当たっては、十分に関係者の意見を反映させることが必要であるため、新法第15条第4項及び第5項において、旧法同様に規定したものであること。

なお、「今後の最低賃金制度の在り方について」(平成18年12月27日労働政策審議会答申)において、「産業別最低賃金の運用については、これまでの中央最低賃金審議会の答申及び全員協議会報告を踏襲するものとする」とされているものであること。

3 特定最低賃金と地域別最低賃金の関係(新法第16条関係)

特定最低賃金において定める最低賃金額は、当該特定最低賃金の適用を受ける使用者の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額を上回るものでなければならないことを明確化したものであること。

4 特定最低賃金の職権による廃止(新法第17条関係)

特定最低賃金が著しく不適当となった場合には、労使からの申出を待つことなく、当該最低賃金の決定権者である厚生労働大臣又は都道府県労働局長自らが職権で廃止できるものであること。「著しく不適当となった場合」とは、例えば、特定最低賃金の対象となる労働者が存在しなくなったにもかかわらず廃止がなされていない場合が考えられるところであるが、特定最低賃金が関係労使のイニシアティブにより決定されるものであることに留意し、慎重な検討を行うこと。

また、特定最低賃金が関係労使のイニシアティブにより決定されるものであることに留意し、職権による改正については規定しないこととしたものであること。

第8 派遣労働者に係る最低賃金の適用(新法第13条及び第18条関係)

従来、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号)第44条第1項に規定する派遣中の労働者(以下「派遣労働者」という。)に係る最低賃金については、派遣元の事業場に適用される最低賃金を適用していたところである。しかしながら、派遣労働者については、現に指揮命令を受けて業務に従事しているのが派遣先であり、賃金の決定に際しては、どこでどういう仕事をしているかを重視すべきであることから、派遣労働者については、派遣先の事業場に適用される最低賃金を適用することとしたものであること。

第9 労働協約に基づく地域的最低賃金の廃止(旧法第11条から第13条まで、第15条及び第18条並びに旧則第8条から第11条まで関係)

労働協約に基づく地域的最低賃金を廃止したものであること。

第10 その他

1 最低賃金審議会の委員の任期(新法第23条第2項関係)

最低賃金審議会の委員の任期を2年としたものであること。

2 監督機関に対する申告(新法第34条及び第39条関係)

(1) 労働者は、事業場に最低賃金法又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して、是正のため適当な措置をとるように求めることができるものであること。(新法第34条第1項関係)

(2) 使用者は、上記(1)の申告をしたことを理由として、労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないものであること。(新法第34条第2項関係)

(3) 上記(2)の不利益取扱いをした使用者に対しては、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処するものであること。(新法第39条関係)

3 罰則(新法第40条から第42条まで関係)

(1) 地域別最低賃金等に係る不払い(新法第40条)

地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係る不払いについては、最低賃金制度の実効性を確保するため、労働基準法(昭和22年法律第49号)第24条(賃金の全額払い)の違反に係る同法第120条の罰金額の上限が30万円となっていることとの均衡を考慮し、罰金額の上限を50万円に引き上げたものであること。

(2) 特定最低賃金に係る不払い(新法第40条)

特定最低賃金については、最低賃金法の罰則の適用はないこととしたものであること。ただし、特定最低賃金が適用される場合においても、支払賃金額が当該使用者の事業の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額未満であるときは、新法第6条第2項の規定により、罰則の適用があるものであること。

(3) その他(新法第41条及び第42条関係)

① 下記②、③等に係る罰金額の上限について、労働基準法第101条(労働基準監督官の権限)、第106条(法令等の周知義務)等の違反に係る同法第120条の罰金額の上限が30万円となっていることとの均衡を考慮し、30万円に引き上げたものであること。(新法第41条関係)

② 特定最低賃金に係る新法第8条に規定する周知義務違反については、すべての労働者の賃金に関する安全網として厚生労働大臣又は都道府県労働局長が決定義務を負う地域別最低賃金に係る周知義務違反に比して、使用者にとって非難されるべき程度が小さいと考えられることから、新法の罰則は適用しないこととしたものであること。(新法第41条第1号関係)

③ 新法第32条の規定による立入りの拒否及び質問への不陳述についても処罰の対象とすることとしたものであること。(新法第41条第3号関係)

4 その他

その他所要の整備を行うものであること。

第11 経過措置等(改正法附則関係)

1 改正法の施行の際現に旧法第8条の規定により使用者が都道府県労働局長の許可を受けている労働者については、改正法の施行日から1年間は、新法第4条の規定は適用しないこととしたものであること。ただし、当該労働者について、当該期間内に新法第7条の規定による都道府県労働局長の許可があったときは、この限りでないこと。(改正法附則第2条関係)

2 改正法の施行の際現に効力を有する労働協約に基づく地域的最低賃金は、改正法の施行後2年間は、なおその効力を有することとしたものであること。(改正法附則第3条関係)

3 改正法の施行の際現に効力を有する地域別最低賃金は、上記第6による地域別最低賃金とみなすこととしたものであること。(改正法附則第4条関係)

4 改正法の施行の際現に効力を有する一定の事業又は職業について決定された最低賃金は、上記第7による特定最低賃金とみなすこととしたものであること。また、当該特定最低賃金については、新法第3条の規定は適用しないこととしたものであること。(改正法附則第5条関係)

5 改正法の施行日の前日において最低賃金審議会の委員である者の任期については、なお従前の例によることとしたものであること。(改正法附則第7条関係)

6 改正法の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例によることとしたものであること。(改正法附則第8条関係)

7 関係法律について所要の改正を行うこととしたものであること。

第12 関係通達の整備

1 昭和61年6月6日付け基発第333号「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(第3章第4節関係)の施行について」の記の4.(2)ロ(イ)中「派遣元の事業場に」を「派遣先の事業場に」に改めること。

2 平成15年4月8日付け基発第0408001号「知的障害者である労働者の労働条件の確保・改善について」の記の3中「適用除外」を「減額の特例」に改めること。

3 平成16年8月27日付け基発第0827001号「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」の記の2(4)イ中「最低賃金法第5条、最低賃金法施行規則第3条」を「最低賃金法第4条、最低賃金法施行規則第2条」に改めること。