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○若年性認知症対策の推進について
(平成21年3月19日)
(/職高発第0319001号/障発第0319006号/老発第0319001号/)
(各都道府県知事あて厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部長、社会・援護局障害保健福祉部長、老健局長通知)
若年性認知症(本通知において65歳未満の者の認知症をいう。以下同じ。)は、多くの場合進行性であるとともに、現役世代が発症し、身体機能の低下が少ないため介護の負担が大きく、経済的な面も含めて本人とその家族の生活が困難な状況になりやすいことが特徴であり、社会的な関心が高まっている。
若年性認知症については、40歳以上であれば介護保険サービスの利用が可能であり、また、精神障害者保健福祉手帳の取得や障害者自立支援法(平成17年法律第123号)に基づく障害福祉サービスの利用、雇用継続等に向けた職業リハビリテーションサービス等、活用可能なサービスが数多くあるが、これらのサービスは多種多様で担当する行政の部局も多岐にわたることや、認知症高齢者に比べると若年性認知症者は少数でありこれまで行政としての関心も必ずしも充分に払われてこなかったことなどから、若年性認知症者が必要とするサービスを適切に利用できていない可能性がある。
また、認知症は高齢者特有の疾患であるという誤解もあり、他の精神疾患と混同されたり、若年性認知症と診断される前に勤務先企業を離職したりする等、若年性認知症に関する理解の不足によるものと考えられる事例の発生も見受けられるところである。
このような中、今後の認知症対策を更に効果的に推進し、適切な医療や介護、地域ケア等の総合的な支援により、たとえ認知症になっても安心して生活できる社会を早期に構築することが必要との認識の下、平成20年5月に「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」が設置され、同年7月に報告が取りまとめられた。
この中において、若年性認知症対策については、若年性認知症に対する理解の促進や早期診断、医療、介護の充実とともに、雇用継続や就労の支援、精神障害者保健福祉手帳の早期取得や障害基礎年金の受給等に対する支援を行い、これらの施策の中から若年性認知症者一人ひとりの状態に応じた支援体制を構築することが喫緊の課題である旨の提言がなされたところである(「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト報告」における若年性認知症対策については別添を参照されたい。)。
このため、まずは若年性認知症者の支援に活用可能な現行の施策を担当する各行政部局、サービス事業者その他の関係団体等が相互に若年性認知症対策に関する理解を深め、有機的な連携の下で、一人ひとりの状態に応じた多様なサービスが総合的に提供されるよう努めることが必要である。
また、平成21年度から、若年性認知症に関する相談体制の構築や関係者の連携によるサービス提供等を支援するための国庫補助事業を創設するとともに、同年度の介護報酬改定においては、若年性認知症者の受入れを促進するための措置を講じることとしている。
これらの若年性認知症者の支援に活用可能な施策や国庫補助事業の内容等については、各都道府県衛生主管部(局)長及び民生主管部(局)長宛に別途通知しているところであるが、貴職においても、本通知の内容を管内市町村、関係団体その他の関係者に広く周知いただくとともに、関係者との協力・連携の下、若年性認知症者に対する適切な支援の実現に向けて、遺漏なきよう取り組まれたい。
なお、本件については、別途、都道府県労働局長あてに通知していることを申し添える。
(参考)若年性認知症者数の推計について
平成18年度から平成20年度に長寿科学総合研究事業において筑波大学を中心とした研究班が実施した「若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究」によると、若年性認知症を18歳以上40歳未満で発症する「若年期認知症」及び40歳以上65歳未満で発症する「初老期認知症」の総称と定義し、その人数は全国に3.78万人(人口10万人当たり47.6人)との推計結果が報告された。
(別添)
「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト報告」(平成20年7月10日)における若年性認知症対策(抜粋)
5 若年性認知症対策
(1) 現状・課題
若年性認知症は、いわゆる現役世代が発症するが、若年性認知症に対する認識が不足し、診断される前に症状が進行し社会生活が事実上困難となるケースや、本人やその家族、企業及び医療機関等が若年性認知症を知っていても、活用が可能な福祉や雇用の施策があまり知られていないことなどから、経済的な面も含めて本人とその家族の生活が困難な状況になりやすいことが指摘されている。
このため、若年性認知症に対する理解の促進や早期診断、医療、介護の充実はもとより、雇用継続や就労の支援、障害者手帳の早期取得や障害基礎年金の受給などに対する支援を行い、これらの施策の中から若年性認知症の人一人ひとりの状態に応じた支援を図る体制を構築することが喫緊の課題となっている。
(2) 今後の方向性
このような現状を踏まえ、今後は若年性認知症の特性や実態を速やかに明らかにするとともに、①若年性認知症に係る相談コールセンターの設置、②診断後からのオーダーメイドの支援体制の形成、③若年性認知症就労支援ネットワークの構築、④若年性認知症ケアの研究・普及、⑤若年性認知症に関する国民への広報啓発等を総合的に実施することにより、若年性認知症対策を推進するものとする。
(3) 短期的対策
ア 若年性認知症に係る相談コールセンターの設置
誰もが気軽に相談できて、早期に認知症疾患医療センター、認知症連携担当者を配置した地域包括支援センター、障害者就労の支援機関等へ適切に結びつけられるよう、若年性認知症に係る相談コールセンターを全国に1か所設置する。
イ 診断後からのオーダーメイドの支援体制の形成
若年性認知症の人の支援に必要な施策を迅速かつ適切に結びつけ、活用するため、地域包括支援センターに配置する認知症連携担当者が中心となり、認知症疾患医療センター等の医療機関において若年性認知症との確定診断を受けた人を対象に、
(ア) 就労中で雇用継続が可能な人については、ハローワーク及び地域障害者職業センター等と連携し、本人及び企業に対する職場適応援助者(ジョブコーチ)支援や障害者手帳の取得による障害者法定雇用率への算定等の雇用継続に向けた施策について周知し、活用を図ることができるようにする。
(イ) 雇用継続が困難な人については、若年性認知症対応型のデイサービス、障害者福祉施策の就労継続支援B型事業所や地域活動支援センターの利用など、日中活動の場の確保に向けて支援する。
(ウ) 自宅での生活が困難な人については、認知症グループホームなどの介護保険サービスや障害者グループホーム・ケアホームの利用など、住まいの確保に向けて支援する。
(エ) 若年性認知症の本人や家族の会を紹介するなど、身近に相談できる先が確保できるよう支援する
等若年性認知症の人一人ひとりの状態やその変化に応じ、適切な支援施策が活用できるよう支援する。
ウ 若年性認知症就労支援ネットワークの構築
各都道府県に設けられている障害者就労支援ネットワーク(就労継続支援事業所等の障害者福祉施策、ハローワークや地域障害者職業センター等の労働施策、商工会議所等の経済団体、医療機関、自治体等で構成)を活用し、認知症連携担当者が調整役として参画することにより、医療・福祉と雇用・就労の関係者が連携した「若年性認知症就労支援ネットワーク」を新たに構築する。
当該ネットワークの構成員は、個別事例への対応を通じて若年性認知症の人に対する雇用継続・就労支援に係るノウハウを集積するとともに、当該ネットワークの構成員や加盟企業等に対し、若年性認知症に関する理解を深めるための研修を行う。
エ 若年性認知症ケアの研究・普及
若年性認知症ケアの開発・普及を促進するため、モデル事業の実施により、若年性認知症の人の身体機能やニーズにあったケアの研究・普及を行う。
オ 若年性認知症に関する国民への広報啓発
○ 若年性認知症の早期発見や企業等を含めた早期対応を促進するため、若年性認知症に関する理解の普及、早期診断の重要性、雇用継続や就労の支援、障害者サービスの活用等発症後の支援策及び相談窓口の周知等について国民に広く広報啓発する。
○ 認知症の確定診断直後からの支援を機能させるため、特に、医師に対する若年性認知症早期診断の重要性及び支援施策の周知を推進する。
(4) 中・長期的対策
ア 若年性認知症対応の介護サービスの評価
若年性認知症対応型のショートステイやグループホーム等介護保険サービス全体での若年性認知症受入れのあり方等について検討する。
イ 若年性認知症発症者の就労継続に関する研究の実施
障害者職業総合センターにおいて、「若年性認知症発症者の就労継続に関する研究(平成20年~平成21年)」を実施し、就労継続や就労支援ニーズ、事業主におけるニーズを明らかにするとともに、障害特性に対応した課題を取りまとめ、雇用継続の支援への活用を推進する。