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○石炭労働争議に関する緊急調整の決定について
(昭和27年12月16日)
(労発第252号)
(各都道府県知事あて労働省労政局長通知)
標記については、本日附を以て内閣官房長官より依命通牒があつた所であるが、本件の実施については事態の性質上種々の問題が簇生することも危虞せられるので、左記事項御留意の上、本件の経緯及び緊急調整決定の理由、意義について労使双方及び国民一般に周知普及を図り、その理解ある協力を促進し、特に労使双方については左記事項を十分徹底、了解せしめ、緊急調整の決定に基く早急なる事態収拾に一段の努力を傾けるよう協力を得る如くするとともに、万一にも法に触れ罰則に該る如きことのなからしめるよう、格段の御配慮を煩したい。
本件は、緊急調整の決定の最初のケースでもあり、また本件争議が円満迅速に妥結せらるか否かは、独立後の労使関係、ひいては日本経済のあり方の上に至重至大の影響があるものであるから、この段特に従来にも倍する御尽力をお願いする。
記
一 経緯及び理由
本件争議及びこれに関して緊急調整の決定がなされるに至つた経緯及び理由については、緊急調整の決定の告示の通りである。
二 緊急調整に伴う効果
(1) 緊急調整の決定があつたときは、その通知により中央労働委員会が労調法第三十五条の三及び第三十五条の四の規定により調整を行うこととなり、且つ関係当事者は公表があつたときより同法第三十八条の規定により争議行為が禁止される。
(2) 中労委の調整について
(イ) 中労委は、労調法第三十五条の三にある如く、斡旋・調停・仲裁、実情調査、勧告等すべての手段を駆使して、事件解決の為最大限の努力を尽さなければならない。これらのうちいずれの手段を具体的にとるかは、中労委が自ら決する。
(ロ) 右の措置は、中労委の扱う他のすべての事件に優先して処理される。(第三十五条の四)
(ハ) 斡旋・調停・仲裁等の措置は、中労委が自ら行うのが立前であるが、関係地労委に管轄指定をして一部を行わせることを妨げるものではない。(労調法施行令第二条の二)
(ニ) 中労委の調整中には、法の趣旨及び公表に対するその責任よりして、当事者の亦中労委の調整に協力し事態解決に最大の努力を尽すべき責務あることは、当然である。
(3) 争議行為の禁止について
(イ) 争議行為が禁止されるのは、公表の日から五十日間である。(労調法第三十八条)即ち公表(十二月十七日附官報号外)のあつた日から、その日を含めて五十日間争議行為が禁止される。
(ロ) 争議行為の禁止は、緊急調整の決定の対象たる本件労働争議に関して関係当事者が行う一切の争議行為に及ぶものであつて緊急調整の決定があつた後に争議行為の規模、態様等を変更しても、またその争議行為が全体として行われるものであつても部分的に行われるものであつてもそれらはすべて禁止されるものであることは、いうまでもない。
労働争議が解決した後においては、五十日以内であつても、第三十八条の適用の余地がなくなることは、当然である。
(ハ) 第三十八条に違反する争議行為については、第四十条により罰則の適用を受けるのみならず、その争議行為は違法であつて、正当性を欠くものであるから、労働組合法第一条第二項の刑事上の免責、同法第八条の民事上の免責及至は同法第七条による労働組合の正当な行為に対する不当労働行為の保護等は、一切受け得ないものである。
三 罰則について
(1) 第三十八条の争議行為の禁止に違反する行為があつたときは、第四十条によりその行為について計画を立て、指令を発し、又は煽動を行つた等、その行為が行われたことについて責任のある使用者、使用者団体、労働組合又はその他の個人、団体が、一個の争議行為に関し、二十万円以下の罰金に処せられる。
(2) 緊急調整の決定の場合の第四十条違反の罪については、公益事業の争議行為の予告義務違反の場合と異り、労働委員会の請求を訴追の要件とはしないものである。
(3) 第三十八条違反の争議行為は、第四十条の罰則の他、前述の如く労組法第一条第二項の刑事上の免責を受け得ないものであるから、その行為が例えば威力業務妨害等、刑法その他の刑罰法規に触れるものであるならば、これらの刑罰規定に基く処罰をも免れないものである。