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○ヒト(同種)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医療機器の品質及び安全性の確保について

(平成20年9月12日)

(薬食発第0912006号)

(各都道府県知事あて厚生労働省医薬食品局長通知)

ヒト由来の細胞・組織を加工した医薬品又は医療機器(以下「細胞・組織加工医薬品等」という。)の品質及び安全性を確保するための基本的な技術要件については、平成12年12月26日付け医薬発第1314号厚生省医薬安全局長通知「ヒト又は動物由来成分を原料として製造される医薬品等の品質及び安全性確保について」の別添2「ヒト由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針」(以下「平成12年指針」という。)を定め運用してきたが、その後の科学技術の進歩や経験の蓄積を踏まえ見直しを進めてきたところである。

ヒトの自己由来の細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保のための基本的な技術要件については、平成20年2月8日付け薬食発第0208003号厚生労働省医薬食品局長通知「ヒト(自己)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医療機器の品質及び安全性の確保について」により通知したところであるが、今般、ヒトの同種由来の細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保のための基本的な技術要件についても、別添「ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針」のとおりとりまとめたので、御了知の上、貴管下関係団体、関係機関等に周知願いたい。

なお、これに伴い、平成12年指針は廃止することとする。

ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針

はじめに

1.本指針は、ヒト由来細胞・組織のうち、同種由来細胞・組織(自己由来細胞・組織を除く。)を加工した医薬品又は医療機器(以下「細胞・組織加工医薬品等」という。)の品質及び安全性の確保のための基本的な技術要件について定めるものである。

しかしながら、細胞・組織加工医薬品等の種類や特性、臨床上の適用法は多種多様であり、また、本分野における科学的進歩や経験の蓄積は日進月歩である。本指針を一律に適用したり、本指針の内容が必要事項すべてを包含しているとみなすことが必ずしも適切でない場合もある。したがって、個々の医薬品等についての試験の実施や評価に際しては本指針の目的を踏まえ、その時点の学問の進歩を反映した合理的根拠に基づき、ケース・バイ・ケースで柔軟に対応することが必要であること。

2.平成11年7月30日付け医薬発第906号厚生省医薬安全局長通知「細胞・組織を利用した医療用具又は医薬品の品質及び安全性の確保について」による確認申請時点における本指針への適合性の確認の趣旨は、当該細胞・組織加工医薬品等の治験を開始するに当たって支障となる品質及び安全性上の問題が存在するか否かの確認にある。したがって、確認申請の場合、その申請に当たって添付するべき資料について本指針に示された要件や内容をすべて充たすことを必ずしも求めている訳ではない。製造販売承認申請時における品質及び安全性の確保のための資料は治験の進行とともに本指針に沿って充実整備されることを前提に、確認申請では、当該時点でその趣旨に適う条件を充たし、合理的に作成された適切な資料を提出すること。

また、確認に必要とされる資料の範囲及び程度については、当該製品の由来、対象疾患、対象患者、適用部位、適用方法及び加工方法等により異なり、本指針では具体的に明らかでないことも少なくないので、個別に独立行政法人医薬品医療機器総合機構に相談することが望ましい。

目次

第1章 総則

第1 目的

第2 定義

第2章 製造方法

第1 原材料及び製造関連物質

1 目的とする細胞・組織

(1) 起源及び由来、選択理由

(2) 原材料となる細胞・組織の特性と適格性

(3) ドナーに関する記録

(4) 細胞・組織の採取・保存・運搬

2 目的とする細胞・組織以外の原材料及び製造関連物質

(1) 細胞の培養を行う場合

(2) 非細胞・組織成分と組み合わせる場合

(3) 細胞に遺伝子工学的改変を加える場合

第2 製造工程

1 ロット構成の有無とロットの規定

2 製造方法

(1) 受入検査

(2) 細菌、真菌及びウイルス等の不活化・除去

(3) 組織の細切、細胞の分離、特定細胞の単離等

(4) 培養工程

(5) 株化細胞の樹立と使用

(6) 細胞のバンク化

(7) 製造工程中の取り違え及びクロスコンタミネーション防止対策

3 加工した細胞の特性解析

4 最終製品の形態、包装

5 製造方法の恒常性

6 製造方法の変更

第3 最終製品の品質管理

1 総論

2 最終製品の品質管理法

(1) 細胞数並びに生存率

(2) 確認試験

(3) 細胞の純度試験

(4) 細胞由来の目的外生理活性物質に関する試験

(5) 製造工程由来不純物試験

(6) 無菌試験及びマイコプラズマ否定試験

(7) エンドトキシン試験

(8) ウイルス等の試験

(9) 効能試験

(10) 力価試験

(11) 力学的適合性試験

第3章 細胞・組織加工医薬品等の安定性

第4章 細胞・組織加工医薬品等の非臨床安全性試験

第5章 細胞・組織加工医薬品等の効力又は性能を裏付ける試験

第6章 細胞・組織加工医薬品等の体内動態

第7章 臨床試験

第1章 総則

第1 目的

本指針は、ヒト由来細胞・組織のうち、同種由来細胞・組織(自己由来のものを除く。)を加工した医薬品又は医療機器(以下「細胞・組織加工医薬品等」という。)の品質及び安全性の確保のための基本的な技術要件について定めるものである。

第2 定義

本指針における用語の定義は以下のとおりとする。

1 「細胞・組織の加工」とは、疾患の治療や組織の修復又は再建を目的として、細胞・組織の人為的な増殖、細胞の株化、細胞・組織の活性化等を目的とした薬剤処理、生物学的特性改変、非細胞・組織成分との組み合わせ又は遺伝子工学的改変等を施すことをいう。

組織の分離、組織の細切、細胞の分離、特定細胞の単離、抗生物質による処理、洗浄、ガンマ線等による滅菌、冷凍、解凍等は加工とみなさない。

2 「製造」とは、加工に加え、組織の分離、組織の細切、細胞の分離、特定細胞の単離、抗生物質による処理、洗浄、ガンマ線等による滅菌、冷凍、解凍等、当該細胞・組織の本来の性質を改変しない操作を含む行為で、最終製品である細胞・組織利用製品を出荷するまでに行う行為をいう。

3 「表現型」とは、ある一定の環境条件のもとで、ある遺伝子によって表現される形態学的及び生理学的な性質をいう。

4 「HLAタイピング」とは、ヒトの主要組織適合性抗原型であるHLA(ヒト白血球抗原)のタイプを特定することをいう。

5 「ドナー」とは、細胞・組織加工医薬品等の原料となる細胞・組織を提供するヒトをいう。

6 「遺伝子導入構成体」とは、目的遺伝子を標的細胞に導入するための運搬体、目的遺伝子及びその機能発現に必要な要素をコードする塩基配列等から構成されるものをいう。

第2章 製造方法

第1 原材料及び製造関連物質

1 目的とする細胞・組織

(1) 起源及び由来、選択理由

原材料として用いられる細胞・組織の起源及び由来について説明し、当該細胞・組織を選択した理由を明らかにすること。

(2) 原材料となる細胞・組織の特性と適格性

① 生物学的構造・機能の特徴と選択理由

原材料として用いられる細胞・組織について、その生物学的構造・機能の特徴を、例えば、形態学的特徴、増殖特性、生化学的指標、免疫学的指標、特徴的産生物質、HLAタイピング、その他適切な遺伝型又は表現型の指標から適宜選択して示し、当該細胞・組織を原料として選択した理由を説明すること。

② ドナーの選択基準、適格性

ドナーが倫理的に適切に選択されたことを示すこと。また、年齢、性別、民族学的特徴、病歴、健康状態、採取細胞・組織を介して感染する可能性がある各種感染症に関する検査項目、免疫適合性等を考慮して、選択基準、適格性基準を定め、その妥当性を明らかにすること。

特にB型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症、成人T細胞白血病(HTLV)、パルボウイルスB19感染症については、問診及び検査(血清学的試験や核酸増幅法等)により否定すること。また、サイトメガロウイルス感染、EBウイルス感染及びウエストナイルウイルス感染については必要に応じて検査により否定すること。

この他、次に掲げるものについては既往歴、問診等の診断を行うとともに、輸血、移植医療を受けた経験の有無等からドナーとしての適格性を判断すること。

・梅毒トレポネーマ、クラミジア、淋菌、結核菌等の細菌による感染症

・敗血症及びその疑い

・悪性腫瘍

・重篤な代謝及び内分泌疾患

・膠原病及び血液疾患

・肝疾患

・伝達性海綿状脳症及びその疑い並びにその他の認知症

(3) ドナーに関する記録

原材料となる細胞・組織について、安全性確保上必要な情報が確認できるよう、ドナーに関する記録が整備、保管されていること。また、その具体的方策を示すこと。

(4) 細胞・組織の採取・保存・運搬

① 採取者及び採取医療機関等の適格性

採取者及び採取医療機関等に求めるべき技術的要件について、明らかにすること。

② 採取部位及び採取方法の妥当性

細胞の採取部位の選定基準、採取方法を示し、これらが科学的及び倫理的に適切に選択されたものであることを明らかにすること。採取方法については、用いられる器具、微生物汚染防止、取り違えやクロスコンタミネーション防止のための方策等を具体的に示すこと。

③ ドナーに対する説明及び同意

細胞・組織採取時のドナーに対する説明及び同意の内容を規定すること。

④ ドナーの個人情報の保護

ドナーの個人情報の保護方策について具体的に規定すること。

⑤ ドナーの安全性確保のための試験検査

細胞・組織採取時にドナーの安全性確保のために採取部位の状態の確認など試験検査を行わなければならない場合には、その内容、検査結果等に問題があった場合の対処法について具体的に規定すること。

⑥ 保存方法及び取り違え防止策

採取した細胞・組織を一定期間保存する必要がある場合には、保存条件や保存期間及びその設定の妥当性について明らかにすること。また、取り違えを避けるための手段や手順等について具体的に説明すること。

⑦ 運搬方法

採取細胞・組織を運搬する必要がある場合には、運搬容器、運搬手順(温度管理等を含む。)を定め、その妥当性について明らかにすること。

⑧ 記録の作成及び保管方法

①~⑦に関する事項について、実施の記録を文書で作成し、適切に保管する方法について明らかにすること。

2 目的とする細胞・組織以外の原材料及び製造関連物質

目的とする細胞・組織以外の原材料及び製造関連物質を明らかにし、その適格性を示すとともに、必要に応じて規格を設定し、適切な品質管理を行うことが必要である。

なお、生物由来製品又は特定生物由来製品を原材料として使用する場合は、その使用量を必要最小限とし、「生物由来原料基準」(平成15年厚生労働省告示第210号)をはじめとする関連法令及び通知を遵守すること。特に、ウイルス不活化及び除去に関する情報を十分に評価する必要があるほか、遡及調査等を確保する方策についても明らかにすること。

(1) 細胞の培養を行う場合

① 培地、添加成分(血清、成長因子及び抗生物質等)及び細胞の処理に用いる試薬等のすべての成分等についてその適格性を明らかにし、必要に応じて規格を設定すること。各成分等の適格性の判定及び規格の設定に当たっては、最終製品の適用経路等を考慮すること。

② 培地成分については、以下の点に留意すること。

ア 培地に使用する成分及び水は、可能な範囲で医薬品又は医薬品原料に相当する基準で品質管理されている生物学的純度の高い品質のものを使用すること。

イ 培地に使用する成分は主成分のみでなく使用するすべての成分について明らかにし、選択理由及び必要に応じて品質管理法等を明確にすること。ただし、培地の構成成分が周知のもので、市販品等が一般的に使用されているDMEM、MCDB、HAM、RPMIのような培地は1つのものと考えてよい。

ウ すべての成分を含有した培地の最終品については、無菌性及び目的とした培養に適していることを判定するための性能試験を実施する必要がある。その他、工程管理上必要と思われる試験項目を規格として設定し、適切な品質管理を行う必要がある。

③ 異種血清及び異種もしくは同種の血清に由来する成分については、細胞活性化又は増殖等の加工に必須でなければ使用しないこと。特に繰り返して使用する可能性のある製品では可能な限り使用を避けるよう検討すること。血清等の使用が避けられない場合には、以下の点を考慮し、血清等からの細菌、真菌、ウイルス及び異常プリオン等の混入・伝播を防止するとともに、最終製品から可能な限り除去するよう処理方法等を検討すること。

ア 血清等の由来を明確にすること。

イ 牛海綿状脳症発生地域からの血清を極力避ける等感染症リスクの低減に努めること。

ウ 由来動物種に特異的なウイルスやマイコプラズマに関する適切な否定試験を行い、ウイルス等に汚染されていないことを確認した上で使用すること。

エ 細胞の活性化、増殖に影響を与えない範囲で細菌、真菌及びウイルス等に対する適切な不活化処理及び除去処理を行う。例えば、潜在的なウイルス混入の危険性を避けるために、必要に応じて加熱処理、フィルター処理、放射線処理又は紫外線処理等を組み合わせて行うこと。

オ 培養細胞でのウイルス感染のモニター、患者レベルでのウイルス性疾患の発症に対するモニター及び異種血清成分に対する抗体産生等の調査のために、使用した血清の一部を保管すること。

④ 抗生物質の使用は極力避けるべきである。ただし製造初期の工程において抗生物質の使用が不可欠と考えられる場合には、その後の工程で可能な限り漸減を図るほか、その科学的理由、最終製品での推定残存量、患者に及ぼす影響などの面から妥当性を説明すること。また、用いる抗生物質に過敏症の既往歴のある患者の場合には、本治療を適応すべきではない。なお、抗生物質を使用する場合でも十分に除去されることが立証される場合には、その使用を妨げるものではない。

⑤ 成長因子を用いる場合には、細胞培養特性の再現性を保証するために、例えば純度及び力価に関する規格を設定する等適切な品質管理法を示すこと。

⑥ 最終製品に含有している可能性のある培地成分や操作のために用いられたその他の成分等については、生体に悪影響を及ぼさないものを選択すること。

⑦ フィーダー細胞として異種動物由来の細胞を用いる場合には、異種動物由来の感染症のリスクの観点から安全性を確保すること。

(2) 非細胞・組織成分と組み合わせる場合

① 細胞・組織以外の原材料の品質及び安全性について

細胞・組織とともに最終製品の一部を構成する細胞・組織以外の原材料(マトリックス、医療材料、スキャフォールド、支持膜、ファイバー及びビーズ等)がある場合には、その品質及び安全性に関する知見について明らかにすること。

当該原材料の種類と特性、最終製品における形態・機能及び想定される臨床適応の観点から見た品質、安全性及び有効性評価との関連を勘案して、適切な情報を提供すること。生体吸収性材料を用いる場合には、分解生成物に関して必要な試験を実施すること。

なお、必要な試験等については、平成15年2月13日付け医薬審発第0213001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「医療用具の製造(輸入)承認申請に必要な生物学的試験の基本的考え方について」等を参照し、試験結果及び当該原材料を使用することの妥当性を示すこと。文献からの知見、情報を合理的に活用すること。

② 目的とする細胞・組織との相互作用について

細胞・組織との相互作用に関し、以下の事項について、確認方法及び確認結果を示すこと。

ア 非細胞・組織成分が、想定される臨床適応に必要な細胞・組織の機能、生育能力、活性及び安定性に悪影響を与えないこと。

イ 非細胞・組織成分との相互作用によって起こり得る、細胞の変異、形質転換及び脱分化等を考慮し、その影響を可能な範囲で評価すること。

ウ 細胞との相互作用によって、想定される臨床適応において非細胞・組織成分に期待される性質が損なわれないこと。

③ 細胞・組織と適用部位を隔離する目的で非細胞・組織成分を使用する場合

非細胞・組織成分を細胞・組織と適用部位を隔離する目的で使用する場合、下記の項目を参考に効果、安全性を確認すること。

ア 免疫隔離の程度

イ 細胞由来の目的生理活性物質の膜透過キネティクスと薬理効果

ウ 栄養成分及び排泄物の拡散

エ 非細胞・組織成分が適用部位周辺に及ぼす影響

(3) 細胞に遺伝子工学的改変を加える場合

細胞に遺伝子を導入する場合は、次に掲げる事項に関する詳細を示すこと。

① 目的遺伝子の構造、由来、入手方法、クローニング方法並びにセル・バンクの調製方法、管理方法及び更新方法等に関する情報

② 導入遺伝子の性質

③ 目的遺伝子産物の構造、生物活性及び性質

④ 遺伝子導入構成体を作製するために必要なすべての原材料、性質及び手順(遺伝子導入法並びに遺伝子導入用ベクターの由来、性質及び入手方法等)

⑤ 遺伝子導入構成体の構造や特性

⑥ ベクターや遺伝子導入構成体を作製するための細胞やウイルスのバンク化及びバンクの管理方法

遺伝子導入細胞の製造方法については、平成7年11月15日付け薬発第1062号厚生省薬務局長通知「遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性の確保に関する指針について」(以下、「遺伝子治療用医薬品指針」という。)の別添「遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性の確保に関する指針」第2章等を参照すること。また、同通知の別記に準じて設定の妥当性等を明らかにすること。

なお、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)に基づき、「ヒトの細胞等」若しくは「分化する能力を有する、又は分化した細胞等であって、自然条件において個体に成育しないもの」以外の細胞、「ウイルス」及び「ウイロイド」に対して遺伝子工学的改変を加える場合には、別途手続きが必要となるので留意すること。

第2 製造工程

細胞・組織加工医薬品等の製造に当たっては、製造方法を明確にし、可能な範囲でその妥当性を以下の項目で検証し、品質の一定性を保持すること。

1 ロット構成の有無とロットの規定

製品がロットを構成するか否かを明らかにすること。ロットを構成する場合には、ロットの内容について規定しておくこと。

2 製造方法

原材料となる細胞・組織の受け入れから最終製品に至る製造の方法の概要を示すとともに、具体的な処理内容及び必要な工程管理、品質管理の内容を明らかにすること。

(1) 受入検査

原材料となる細胞・組織について、細胞・組織の種類や使用目的に応じて実施する受入のための試験検査の項目(例えば、目視検査、顕微鏡検査、採取収率、生存率、細胞・組織の特性解析及び微生物試験等)と各項目の判定基準を設定すること。確認申請段階にあっては、それまでに得られた試験検体での実測値を提示し、これらを踏まえた暫定値を示すこと。

(2) 細菌、真菌及びウイルス等の不活化・除去

原材料となる細胞・組織について、その細胞生存率や表現型、遺伝形質及び特有の機能その他の特性及び品質に影響を及ぼさない範囲で、必要かつ可能な場合は細菌、真菌及びウイルス等を不活化又は除去する処理を行うこと。当該処理に関する方策と評価方法について明らかにすること。

(3) 組織の細切、細胞の分離、特定細胞の単離等

原材料となる細胞・組織から製品を製造する初期の過程で行われる組織の細切、細胞の分離、特定細胞の単離及びそれらの洗浄等の方法を明らかにすること。特定細胞の単離を行う場合には、その確認方法を設定すること。

(4) 培養工程

製造工程中に培養工程が含まれる場合は、培地、培養条件、培養期間及び収率等を明らかにすること。

(5) 株化細胞の樹立と使用

株化細胞の樹立に当たっては、ドナーの遺伝的背景を理解したうえで樹立すること。樹立の方法を明確にし、可能な範囲でその妥当性を明らかにすること。

株化細胞の品質の均質性および安定性を保持するため、必要な特性解析要件(細胞純度、形態学的評価、表現型特異的マーカ、核型など)を同定してその基準を設定するとともに、安定性を維持したまま増殖が可能な継代数を示すこと。

株化細胞に関しては、適切な動物モデル等を利用し、腫瘍形成及びがん化の可能性について考察し、明らかにすること。

(6) 細胞のバンク化

細胞・組織加工医薬品等の製造のいずれかの過程で、細胞をバンク化する場合には、その理由、セル・バンクの作製方法及びセル・バンクの特性解析、保存・維持・管理方法・更新方法その他の各作業工程や試験に関する手順等について詳細を明らかにし、妥当性を示すこと。平成12年7月14日付け医薬審第873号厚生省医薬安全局審査管理課長通知「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)製造用細胞基剤の由来、調製及び特性解析について」等を参考とすること。

(7) 製造工程中の取り違え及びクロスコンタミネーション防止対策

細胞・組織加工医薬品等の製造にあたっては、製造工程中の取り違え及びクロスコンタミネーションの防止が重要であり、工程管理における防止対策を明らかにすること。

3 加工した細胞の特性解析

加工した細胞について、加工に伴う変化を調べるために、例えば、形態学的特徴、増殖特性、生化学的指標、免疫学的指標、特徴的産生物質、その他適切な遺伝型又は表現型の指標を解析するとともに、必要に応じて機能解析を行うこと。

また、培養期間の妥当性及び細胞の安定性を評価するために、予定の培養期間を超えて培養した細胞において目的外の変化がないことを示すこと。

4 最終製品の形態、包装

最終製品の形態、包装は、製品の品質を確保できるものでなければならない。

5 製造方法の恒常性

細胞・組織加工医薬品等の製造に当たっては、製造工程を通じて、個別に加工した製品の細胞数、細胞生存率並びに製品の使用目的及び適用方法等からみた特徴(表現型の適切な指標、遺伝型の適切な指標、機能特性及び目的とする細胞の含有率等)が製品(ロット)間で本質的に損なわれないことを、試験的検体を用いてあらかじめ評価しておくこと。

製造工程中の凍結保存期間や加工に伴う細胞培養の期間が長期に及ぶ場合には一定期間ごとに無菌試験を行うなど、無菌性が確保されることを確認すること。

6 製造方法の変更

開発途中に製造方法を変更した場合、変更前の製造方法による製品を用いて得た試験成績を確認申請又は承認申請に使用するときは、製造方法変更前後の製品の同等性及び同質性を示すこと。

第3 最終製品の品質管理

1 総論

細胞・組織加工医薬品等の品質管理全体の方策としては、最終製品の規格及び試験方法の設定、個別患者への適用ごとの原材料の品質管理、製造工程の妥当性の検証と一定性の維持管理のほか、中間製品の品質管理を適正に行うこと等が挙げられる。

最終製品の規格及び試験方法については、対象とする細胞・組織の種類及び性質、製造方法、各製品の使用目的や使用方法、安定性、利用可能な試験法等によって異なると考えられるため、取り扱う細胞・組織によってこれらの違いを十分に考慮して設定すること。また、製造工程の妥当性の検証と一定性の維持管理法、中間製品の品質管理等との相互補完関係を考慮に入れて、全体として品質管理の目的が達成されるとの観点から、合理的に規格及び試験方法を設定し、その根拠を示すこと。なお、確認申請は、治験を実施する製品の品質として問題がないとみなせることを確認することを目的としている。したがって、無菌性やマイコプラズマの否定など必須なものを除き、治験後に臨床試験成績と品質の関係を論ずるために必要な品質特性については、やむを得ない場合は少数の試験的検体の実測値をもとにその変動をしかるべき範囲内に設定する暫定的な規格及び試験方法を設定することで差し支えない。ただし、規格及び試験方法を含む品質管理法は治験の進行とともに充実・整備を図ること。

2 最終製品の品質管理法

最終製品について、以下に示す一般的な品質管理項目及び試験を参考として、必要で適切な規格及び試験方法を設定し、その根拠を明らかにすること。

ロットを構成しない製品を製造する場合は個別製品ごとに、ロットを構成する製品を製造する場合には、通常、各個別製品ではなく各ロットが品質管理の対象となるので、これを踏まえてそれぞれ適切な規格、試験方法を設定すること。

(1) 細胞数並びに生存率

得られた細胞の数と生存率は、最終製品又は必要に応じて適切な製造工程の製品で測定すること。なお、確認申請時においては、少数の試験的検体での実測値を踏まえた暫定的な規格を設定することでも良い。

(2) 確認試験

目的とする細胞・組織の形態学的特徴、生化学的指標、免疫学的指標、特徴的産生物質その他適切な遺伝型あるいは表現型の指標を選択して、目的とする細胞・組織であることを確認すること。

(3) 細胞の純度試験

目的細胞以外の異常増殖細胞、形質転換細胞の有無や混入細胞の有無等の細胞の純度について、目的とする細胞・組織の由来、培養条件等の製造工程等を勘案し、必要に応じて試験項目、試験方法及び判定基準を示すこと。なお、確認申請時においては、少数の試験的検体での実測値を踏まえた暫定的な規格を設定することでも良い。

(4) 細胞由来の目的外生理活性物質に関する試験

細胞由来の各種目的外生理活性物質のうち、製品中での存在量如何で患者に安全性上の重大な影響を及ぼす可能性が明らかに想定される場合には、適切な許容量限度試験を設定すること。なお、確認申請時においては、少数の試験的検体での実測値を踏まえた暫定的な規格を設定することでも良い。

(5) 製造工程由来不純物試験

原材料に存在するか又は製造過程で非細胞・組織成分、培地成分、資材、試薬等に由来し、製品中に混入物、残留物、又は新たな生成物、分解物等として存在する可能性があるもので、かつ、品質及び安全性の面からみて望ましくない物質等(例えば、ウシ胎児血清由来のアルブミン、抗生物質等)については、当該物質の除去に関するプロセス評価や当該物質に対する工程内管理試験の結果を考慮してその存在を否定するか、又は適切な試験を設定して存在許容量を規定すること。試験対象物質の選定及び規格値の設定に当たっては、設定の妥当性について明らかにすること。

なお、確認申請時においては、少数の試験的検体での実測値を踏まえた暫定的な規格を設定することでも良い。

(6) 無菌試験及びマイコプラズマ否定試験

最終製品の無菌性については、あらかじめモデル検体を用いて全製造工程を通じて無菌性を確保できることを十分に評価しておく必要がある。最終製品について、患者に適用する前に無菌性(一般細菌及び真菌否定)を試験により示すこと。また、適切なマイコプラズマ否定試験を実施すること。最終製品の無菌試験等の結果が、患者への投与後にしか得られない場合には、投与後に無菌性等が否定された場合の対処方法をあらかじめ設定しておくこと。また、この場合、中間製品で無菌性を試験により示し、最終製品に至る工程の無菌性を厳密に管理する必要がある。また、同一施設・同一工程で以前に他の患者への適用例がある場合には、全例において試験により無菌性が確認されていること。ロットを構成する製品で密封性が保証されている場合には、代表例による試験でよい。適用ごとに試験を実施する必要がある場合で、無菌試験等の結果が、患者への投与後にしか得られない場合には、適用の可否は直近のデータを参考にすることになるが、この場合でも最終製品の無菌試験等は必ず行うこと。

抗生物質は細胞培養系で極力使用しないことが望まれるが、使用した場合には、無菌試験に影響を及ぼさないよう処置すること。

(7) エンドトキシン試験

試料中の夾雑物の影響を考慮して試験を実施すること。規格値は必ずしも実測値によらず、日本薬局方等で示されている最終製品の1回投与量を基にした安全域を考慮して設定すればよい。また、工程内管理試験として設定することも考えられるが、その場合には、バリデーションの結果を含めて基準等を設定し、その妥当性を説明すること。

(8) ウイルス等の試験

バンク化されておらず、ウインドウピリオドが否定できず、HBV、HCV、HIV等を製造工程中に増殖させる可能性のある細胞を用いる際には、中間製品、最終製品等についてもウイルス等の存在を否定する適切な試験を実施すること。また、製造工程中で生物由来成分を使用する場合には、最終製品で当該成分由来のウイルスについての否定試験の実施を考慮すべき場合もあるかも知れない。しかし可能な限り、もとの成分段階での試験やプロセス評価で迷入が否定されていることが望ましい。

(9) 効能試験

幹細胞、リンパ球、遺伝子改変細胞その他の細胞等、臨床使用目的又は特性に応じた適切な効能試験の実施を考慮すべき場合もある。なお、確認申請においては、少数の試験的検体による実測値を踏まえた暫定的な規格を設定することでも良い。

(10) 力価試験

細胞・組織から分泌される特定の生理活性物質の分泌が当該細胞・組織加工医薬品等の効能又は効果の本質である場合には、その目的としている必要な効果を発揮することを示すために、当該生理活性物質に関する検査項目及び規格を設定すること。遺伝子を導入した場合の発現産物又は細胞から分泌される目的の生成物等について、力価、産生量等の規格を設定すること。なお、確認申請時においては、少数の試験的検体による実測値を踏まえた暫定的な規格を設定することでも良い。

(11) 力学的適合性試験

一定の力学的強度を必要とする製品については、適用部位を考慮した力学的適合性及び耐久性を確認するための規格を設定すること。なお、確認申請時においては、少数の試験的検体による実測値を踏まえた暫定的な規格を設定することでも良い。

第3章 細胞・組織加工医薬品等の安定性

製品化した細胞・組織加工医薬品等又は重要なそれらの中間製品について、保存・流通期間及び保存形態を十分考慮して、細胞の生存率及び力価等に基づく適切な安定性試験を実施し、貯法及び有効期限を設定し、その妥当性を明らかにすること。特に凍結保管及び解凍を行う場合には、凍結及び解凍操作による製品の安定性や規格への影響がないかを確認すること。また、必要に応じて標準的な製造期間を超える場合や標準的な保存期間を超える長期保存についても検討し、安定性の限界を可能な範囲で確認すること。ただし、製品化後直ちに使用するような場合はこの限りではない。

また、製品化した細胞・組織加工医薬品等を運搬する場合には、運搬容器及び運搬手順(温度管理等を含む)等を定め、その妥当性について明らかにすること。

第4章 細胞・組織加工医薬品等の非臨床安全性試験

製品の特性及び適用法から評価が必要と考えられる安全性関連事項について、技術的に可能であれば、科学的合理性のある範囲で、適切な動物を用いた試験又はin vitroでの試験を実施すること。なお、非細胞・組織成分及び製造工程由来の不純物等については、可能な限り、動物を用いた試験ではなく理化学的分析法により評価すること。

ヒト由来の試験用検体は貴重であり、また、ヒト由来の製品を実験動物等で試験して必ずしも意義ある結果が得られるとは限らない。このため、動物由来の製品モデルを作成し適切な実験動物に適用する試験系により試験を行うことで、より有用な知見が得られると考えられる場合には、むしろ、このような試験系を用いることに科学的合理性がある場合がある。場合によっては細胞を用いる試験系も考慮し、このようなアプローチにより試験を行なった際には、その試験系の妥当性について明らかにすること。

以下に、必要に応じて非臨床的に安全性を確認する際の参考にすべき事項及び留意点の例を示す。これらは例示であって、合理性のない試験の実施を求める趣旨ではなく、製品の特性等を考慮して適切な試験を検討すること。

1 培養期間を超えて培養した細胞について、目的外の形質転換を起こしていないことを明らかにすること。

2 必要に応じて細胞・組織が産生する各種サイトカイン、成長因子等の生理活性物質の定量を行い、生体内へ適用したときの影響に関して考察を行うこと。

3 製品の適用が患者等の正常な細胞又は組織に影響を与える可能性について検討、考察すること。

4 製品及び導入遺伝子の発現産物等による望ましくない免疫反応が生じる可能性について検討、考察すること。

5 株化細胞を用いた場合には、適切な動物モデル等を利用し、腫瘍形成及びがん化の可能性について考察し、明らかにすること。

6 製造工程で外来遺伝子の導入が行われている場合には、遺伝子治療用医薬品指針に定めるところに準じて試験を行うこと。特に、ウイルスベクターを使用した場合には増殖性ウイルスがどの程度存在するかを検査するとともに、検査方法が適切であることについても明らかにすること。

また、導入遺伝子及びその産物の性状について調査し、安全性について明らかにすること。細胞については、増殖性の変化、腫瘍形成及びがん化の可能性について考察し、明らかにすること。

7 動物由来のモデル製品を含めて製品の入手が容易であり、かつ臨床上の適用に関連する有用な安全性情報が得られる可能性がある場合には、合理的に設計された一般毒性試験の実施を考慮すること。

なお、一般毒性試験の実施に当たっては、平成元年9月11日付け薬審1第24号厚生省薬務局新医薬品課長・審査課長連名通知「医薬品の製造(輸入)承認申請に必要な毒性試験のガイドラインについて」の別添「医薬品毒性試験法ガイドライン」等を参照すること。

第5章 細胞・組織加工医薬品等の効力又は性能を裏付ける試験

1 技術的に可能かつ科学的に合理性のある範囲で、実験動物又は細胞等を用い、適切に設計された試験により、細胞・組織加工医薬品等の機能発現、作用持続性及び医薬品・医療機器として期待される効果を検討すること。

2 遺伝子導入細胞にあっては、導入遺伝子からの目的産物の発現効率及び発現の持続性、導入遺伝子の発現産物の生物活性並びに医薬品等として期待される効果等を検討すること。

3 適当な動物由来細胞・組織製品モデル又は疾患モデル動物がある場合には、それを用いて治療効果を検討すること。

4 確認申請段階では、当該製品の効力又は性能による治療が他の治療法と比較したときはるかに優れて期待できることが国内外の文献又は知見等により合理的に明らかにされている場合には、必ずしも詳細な実験的検討は必要とされない。

第6章 細胞・組織加工医薬品等の体内動態

1 製品を構成する細胞・組織及び導入遺伝子の発現産物について、技術的に可能で、かつ、科学的合理性がある範囲で、実験動物での吸収及び分布等の体内動態に関する試験等により、患者等に適用された製品中の細胞・組織の生存期間、効果持続期間を推測し、目的とする効果が十分得られることを明らかにすること。

2 当該細胞・組織が特定の部位(組織等)に到達して作用する場合には、その局在性を明らかにすること。

第7章 臨床試験

確認申請の段階における安全性については、臨床上の有用性を勘案して評価されるものであり、細胞・組織加工医薬品等について予定されている国内の治験計画について以下の項目を踏まえて評価すること。

1 対象疾患

2 対象とする被験者及び被験者から除外すべき患者の考え方

3 細胞・組織加工医薬品等の適用を含め、被験者に対して行われる治療内容

4 既存の治療法との比較を踏まえた臨床試験実施の妥当性

5 現在得られている情報から想定されるリスク及びベネフィットを含め、被験者への説明事項の案

なお、臨床試験は、適切な試験デザイン及びエンドポイントを設定して実施する必要があり、目的とする細胞・組織の由来、対象疾患及び適用方法等を踏まえて適切に計画すること。