なお,感染症を合併して血小板数の減少をみる場合には,出血傾向が増強することが多いので,(1)の「造血器腫瘍」に準じて血小板輸血を行う。
(3) 免疫性血小板減少症
特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura;ITP)は,通常は血小板輸血の対象とはならない。ITPで外科的処置を行う場合には,輸血による血小板数の増加は期待できないことが多く,まずステロイド剤あるいは静注用免疫グロブリン製剤の事前投与を行う。これらの薬剤の効果が不十分で大量出血の予測される場合には,血小板輸血の適応となる場合があり,通常より多量の輸血を必要とすることもある。
また,ITPの母親から生まれた新生児で重篤な血小板減少症をみる場合には,交換輸血のほか,ステロイド剤又は静注用免疫グロブリン製剤の投与とともに血小板輸血を必要とすることがある。
血小板特異抗原の母児間不適合による新生児同種免疫性血小板減少症(Neonatal Alloimmune Thrombocytopenia ; NAIT)で,重篤な血小板減少をみる場合には,血小板特異抗原同型の血小板輸血を行う。このような血小板濃厚液が入手し得ない場合には,母親由来の血小板の輸血が有効である。
輸血後紫斑病(Posttransfusion Purpura;PTP)では,血小板輸血の適応はなく,血小板特異抗原同型の血小板輸血でも無効である。なお,血漿交換療法が有効との報告がある。
(4) 血栓性血小板減少性紫斑病(Thrombotic Thrombocytopenic Purpura;TTP)及び溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome;HUS)
TTP とHUS では,血小板輸血により症状の悪化をみることがあるので,原則として血小板輸血の適応とはならない。
(5) 血小板機能異常症
血小板機能異常症(血小板無力症,抗血小板療法など)での出血症状の程度は症例によって様々であり,また,血小板同種抗体産生の可能性もあることから,重篤な出血ないし止血困難な場合にのみ血小板輸血の適応となる。
(6) その他:ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin induced thrombocytopenia;HIT)
HIT が強く疑われる若しくは確定診断された患者において、明らかな出血症状がない場合には予防的血小板輸血は避けるべきである。
g.固形腫瘍
固形腫瘍に対して強力な化学療法を行う場合には,急速に血小板数が減少することがあるので,必要に応じて適宜血小板数を測定する。
血小板数が2万/μL未満に減少し,出血傾向を認める場合には,血小板数が1~2万/μL以上を維持するように血小板輸血を行う。
化学療法の中止後に,血小板数が輸血のためではなく2万/μL以上に増加した場合には,回復期に入ったものと考えられることから,それ以降の血小板輸血は不要である。
h.造血幹細胞移植(骨髄移植等)
造血幹細胞移植後に骨髄機能が回復するまでの期間は,血小板数が1~2万/μL以上を維持するように計画的に血小板輸血を行う。
出血症状があれば血小板輸血を追加する。
※ 出血予防の基本的な適応基準
造血機能を高度に低下させる前処置を用いた造血幹細胞移植後は,血小板数が減少するので,出血予防のために血小板濃厚液の輸血が必要となる。血小板濃厚液の適応は血小板数と臨床症状を参考に決める。通常,出血予防のためには血小板数が1~2万/μL未満の場合が血小板輸血の適応となる。ただし,感染症,発熱,播種性血管内凝固などの合併症がある場合には出血傾向の増強することがあるので,血小板数を測定し,その結果により当日の血小板濃厚液の適応を判断することが望ましい(トリガー輸血)。ただし,連日の採血による患者への負担を考慮し,また,定型的な造血幹細胞移植では血小板が減少する期間をある程度予測できるので,週単位での血小板濃厚液の輸血を計画できる場合が多い。この場合は,1週間に2~3回の頻度で輸血を行う。
i.血小板輸血不応状態(HLA適合血小板輸血)
血小板輸血後に血小板数の増加しない状態を血小板輸血不応状態という。
血小板数の増加しない原因には,同種抗体などの免疫学的機序によるものと,発熱,感染症,DIC,脾腫大などの非免疫学的機序によるものとがある。
免疫学的機序による不応状態の大部分は抗HLA抗体によるもので,一部に血小板特異抗体が関与するものがある。
抗HLA抗体による血小板輸血不応状態では,HLA適合血小板濃厚液を輸血すると,血小板数の増加をみることが多い。白血病,再生不良性貧血などで通常の血小板濃厚液を輸血し,輸血翌日の血小板数の増加がみられない場合には,輸血翌日の血小板数を測定し,増加が2回以上にわたってほとんど認められず,抗HLA抗体が検出される場合には,HLA適合血小板輸血の適応となる。
なお,抗HLA抗体は経過中に陰性化し,通常の血小板濃厚液が有効となることがあるので,経時的に検査することが望まれる。
HLA適合血小板濃厚液の供給には特定の供血者に多大な負担を課すことから,その適応に当たっては適切かつ慎重な判断が必要である。
非免疫学的機序による血小板輸血不応状態では,原則としてHLA適合血小板輸血の適応はない。
HLA適合血小板濃厚液が入手し得ない場合や無効の場合,あるいは非免疫学的機序による血小板輸血不応状態にあり,出血を認める場合には,通常の血小板濃厚液を輸血して経過をみる。
3.投与量
患者の血小板数,循環血液量,重症度などから,目的とする血小板数の上昇に必要とされる投与量を決める。血小板輸血直後の予測血小板増加数(/μL)は次式により算出する。
(2/3は輸血された血小板が脾臓に捕捉されるための補正係数)
(循環血液量は70mL/kgとする)
例えば,血小板濃厚液5単位(1.0×1011個以上の血小板を含有)を循環血液量5,000mL(体重71kg)の患者に輸血すると,直後には輸血前の血小板数より13,500/μL以上増加することが見込まれる。
なお,一回投与量は,原則として上記計算式によるが,実務的には通常10単位が使用されている。体重25kg以下の小児では10単位を3~4時間かけて輸血する。
4.効果の評価
血小板輸血実施後には,輸血効果について臨床症状の改善の有無及び血小板数の増加の程度を評価する。
血小板数の増加の評価は,血小板輸血後約1時間又は翌朝か24時間後の補正血小板増加数(corrected count increment;CCI)により行う。CCIは次式により算出する。
通常の合併症などのない場合には,血小板輸血後約1時間のCCIは,少なくとも7,500/μL以上である。また,翌朝又は24時間後のCCIは通常≧4,500/μLである。
引き続き血小板輸血を繰り返し行う場合には,臨床症状と血小板数との評価に基づいて以後の輸血計画を立てることとし,漫然と継続的に血小板輸血を行うべきではない。
5.不適切な使用
末期患者に対しては,患者の自由意思を尊重し,単なる延命処置は控えるという考え方が容認されつつある。輸血療法といえどもその例外ではなく,患者の意思を尊重しない単なる時間的延命のための投与は控えるべきである。
6.使用上の注意点
1) 使用法
血小板濃厚液を使用する場合には,血小板輸血セットを使用することが望ましい。赤血球や血漿製剤の輸血に使用した輸血セットを引き続き血小板輸血に使用すべきではない。なお,血小板濃厚液はすべて保存前白血球除去製剤となっており,ベッドサイドでの白血球除去フィルターの使用は不要である。
2) 感染症の伝播
血小板濃厚液はその機能を保つために室温(20~24℃)で水平振盪しながら保存されているために,細菌混入による致死的な合併症に留意して,輸血の実施前にバッグ内の血液についてスワーリングの有無,色調の変化,凝集塊の有無(黄色ブドウ球菌等の細菌混入により凝集塊が発生する場合がある),又はバッグの破損や開封による閉鎖系の破綻等の異常がないことを肉眼で確認する。(なお,スワーリングとは,血小板製剤を蛍光灯等にかざしながらゆっくりと攪拌したとき,品質が確保された血小板濃厚液では渦巻き状のパターンがみられる現象のこと。pHの低下や低温保存等によりスワーリングが弱くなることがある)
3) 輸血後移植片対宿主病(PT―GVHD)の予防対策
輸血後移植片対宿主病(PT―GVHD)の発症を防止するため,原則として放射線を照射(15~50Gy)した血小板濃厚液を使用する。
4) サイトメガロウイルス(CMV)抗体陰性血小板濃厚液
CMV抗体陰性の妊婦,あるいは極低出生体重児に血小板輸血をする場合には,CMV抗体陰性の血小板濃厚液を使用することが望ましい。
造血幹細胞移植時に患者とドナーの両者がCMV抗体陰性の場合には,CMV抗体陰性の血小板濃厚液を使用する。
なお,現在,保存前白血球除去血小板濃厚液が供給されており,CMVにも有用とされている。
5) HLA適合血小板濃厚液
血小板輸血不応状態に対して有効な場合が多く、ABO同型の血小板濃厚液を使用することが望ましい。なお,血小板輸血不応状態には,血小板特異抗体によるものもある。
6) ABO血液型・Rh型と交差適合試験
原則として,ABO血液型の同型の血小板濃厚液を使用する。現在供給されている血小板濃厚液は赤血球をほとんど含まないので,交差適合試験を省略してもよい。
患者がRh陰性の場合には,Rh陰性の血小板濃厚液を使用することが望ましく,特に妊娠可能な女性では推奨される。しかし,緊急の場合には,Rh陽性の血小板濃厚液を使用してもよい。この場合には,高力価抗Rh人免疫グロブリン(RHIG)を投与することにより,抗D抗体の産生を予防できる場合がある。
通常の血小板輸血の効果がなく,抗HLA抗体が認められる場合には,HLA適合血小板濃厚液を使用する。
7) ABO血液型不適合輸血
ABO血液型同型血小板濃厚液が入手困難な場合はABO血液型不適合の血小板濃厚液を使用する。この場合,血小板濃厚液中の抗A,抗B抗体による溶血の可能性に注意する。また,患者の抗A,抗B抗体価が極めて高い場合には,ABO血液型不適合血小板輸血では十分な効果が期待できないことがある。
文献
1) British Committee for Standards in Haematology,Blood Transfusion Task Force: Guidelines for the use of platelet transfusions. Br J Haematol 2003;122: 10―23
2) Schiffer CA, et al: Clinical Practice Guidelines of the American Society of Clinical Oncology. J Clin Oncol 2001;19: 1519―1538
3) A Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Blood Component Therapy: Practice Guidelines for Blood Component Therapy. Anesthesiology 1996; 84: 732―747
4) Wandt H, et al: Safety and cost effectiveness of a 10×10 (9) / L trigger for prophylactic platelet transfusions compared with the traditional 20×10 (9) / L trigger : a prospective comparative trial in 105 patients with acute myeloid leukemia. Blood 1998;91: 3601―3606
5) Rebulla P, et al: The threshold for prophylactic platelet transfusions in adults with acute myeloid leukemia. Gruppo Italiano Malattie Ematologiche Mallgne dell'Adulto. N Engl J Med 1997;337: 1870―1875
6) Heckman KD, et al: Randomized study of prophylactic platelet transfusion threshold during Induction therapy for adult acute leukemia: 10,000 / microL versus 20,000 / microL. J Clin Oncol 1997;15: 1143―1149
Ⅳ 新鮮凍結血漿の適正使用
1.目的
新鮮凍結血漿(Fresh Frozen Plasma;FFP)の投与は,血漿因子の欠乏による病態の改善を目的に行う。特に,凝固因子を補充することにより,出血の予防や止血の促進効果(予防的投与と治療的投与)をもたらすことにある。
なお,新鮮凍結血漿の製法と性状については参考17を参照。
2.使用指針
凝固因子の補充による治療的投与を主目的とする。自然出血時,外傷性の出血時の治療と観血的処置を行う際に適応となる。観血的処置時を除いて新鮮凍結血漿の予防的投与の意味はなく,あくまでもその使用は治療的投与に限定される。投与量や投与間隔は各凝固因子の必要な止血レベル,生体内の半減期や回収率などを考慮して決定し,治療効果の判定は臨床所見と凝固活性の検査結果を総合的に勘案して行う。新鮮凍結血漿の投与は,他に安全で効果的な血漿分画製剤あるいは代替医薬品(リコンビナント製剤など)がない場合にのみ,適応となる。投与に当たっては,投与前にプロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を測定し,DIC等の大量出血ではフィブリノゲン値も測定する。また,新鮮凍結血漿の予防的投与は,凝固因子欠乏による出血の恐れのある患者の観血的処置時を除き,その有効性は証明されていない(本項末尾[注]「出血に対する輸血療法」を参照)。したがって,新鮮凍結血漿の適応は以下に示す場合に限定される。
1) 凝固因子の補充
(1) PT及び/又はAPTTが延長している場合(①PTは(i)INR2.0以上,(ii)30%以下/②APTTは(i)各医療機関における基準の上限の2倍以上,(ii)25%以下とする)
i.複合型凝固障害
● 肝障害:肝障害により複数の凝固因子活性が低下し,出血傾向のある場合に適応となる。新鮮凍結血漿の治療効果はPTやAPTTなどの凝固検査を行いつつ評価するが,検査値の正常化を目標とするのではなく症状の改善により判定する。ただし,重症肝障害における止血系の異常は,凝固因子の産生低下ばかりではなく,血小板数の減少や抗凝固因子,線溶因子,抗線溶因子の産生低下,網内系の機能の低下なども原因となり得ることに留意する。また,急性肝不全においては,しばしば消費性凝固障害により新鮮凍結血漿の必要投与量が増加する。容量の過負荷が懸念される場合には,血漿交換療法(1~1.5×循環血漿量/回)を併用する(アフェレシスに関連する事項は,参考14を参照)。
なお,PTがINR 2.0以上(30%以下)で,かつ観血的処置を行う場合を除いて新鮮凍結血漿の予防的投与の適応はない。ただし,手術以外の観血的処置における重大な出血の発生は,凝固障害よりも手技が主な原因となると考えられていることに留意する。
● L―アスパラギナーゼ投与関連:肝臓での産生低下によるフィブリノゲンなどの凝固因子の減少により出血傾向をみることがあるが,アンチトロンビンなどの抗凝固因子や線溶因子の産生低下をも来すことから,血栓症をみる場合もある。これらの諸因子を同時に補給するためには新鮮凍結血漿を用いる。アンチトロンビンの回復が悪い時は,アンチトロンビン製剤を併用する。
止血系の異常の程度と出現した時期によりL―アスパラギナーゼの投与計画の中止若しくは変更を検討する。
● 播種性血管内凝固(DIC):DIC(診断基準は参考資料1を参照)の治療の基本は,原因の除去(基礎疾患の治療)とヘパリンなどによる抗凝固療法である。新鮮凍結血漿の投与は,これらの処置を前提として行われるべきである。この際の新鮮凍結血漿投与は,凝固因子と共に不足した生理的凝固・線溶阻害因子(アンチトロンビン,プロテインC,プロテインS,プラスミンインヒビターなど)の同時補給を目的とする。通常,(1)に示すPT,APTTの延長のほかフィブリノゲン値が100mg/dL未満の場合に新鮮凍結血漿の適応となる(参考資料1 DICの診断基準参照)。
なお,フィブリノゲン値は100mg/dL程度まで低下しなければPTやAPTTが延長しないこともあるので注意する。また,特にアンチトロンビン活性が低下する場合は,新鮮凍結血漿より安全かつ効果的なアンチトロンビン濃縮血漿分画製剤の使用を常に考慮する。
● 大量輸血時:通常,大量輸血時に希釈性凝固障害による止血困難が起こることがあり,その場合新鮮凍結血漿の適応となる。しかしながら,希釈性凝固障害が認められない場合は,新鮮凍結血漿の適応はない(図1)。外傷などの救急患者では,消費性凝固障害が併存しているかを検討し,凝固因子欠乏による出血傾向があると判断された場合に限り,新鮮凍結血漿の適応がある。新鮮凍結血漿の予防的投与は行わない。
ii.濃縮製剤のない凝固因子欠乏症
● 血液凝固因子欠乏症にはそれぞれの濃縮製剤を用いることが原則であるが,血液凝固第Ⅴ,第ⅩⅠ因子欠乏症に対する濃縮製剤は現在のところ供給されていない。したがって,これらの両因子のいずれかの欠乏症又はこれらを含む複数の凝固因子欠乏症では,出血症状を示しているか,観血的処置を行う際に新鮮凍結血漿が適応となる。第Ⅷ因子の欠乏症(血友病A)は遺伝子組み換え型製剤又は濃縮製剤,第Ⅸ因子欠乏症(血友病B)には遺伝子組み換え型製剤又は濃縮製剤,第ⅩⅢ因子欠乏症には濃縮製剤,先天性無フィブリノゲン血症には濃縮フィブリノゲン製剤,第Ⅶ因子欠乏症には遺伝子組み換え活性第Ⅶ因子製剤又は濃縮プロトロンビン複合体製剤,プロトロンビン欠乏症,第Ⅹ因子欠乏症には濃縮プロトロンビン複合体製剤,さらにフォン・ヴィレブランド病には,フォン・ヴィレブランド因子を含んでいる第Ⅷ因子濃縮製剤による治療が可能であることから,いずれも新鮮凍結血漿の適応とはならない。
iii.クマリン系薬剤(ワルファリンなど)効果の緊急補正(PTがINR 2.0以上(30%以下))
● クマリン系薬剤は,肝での第Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ因子の合成に必須なビタミンK依存性酵素反応の阻害剤である。これらの凝固因子の欠乏状態における出血傾向は,ビタミンKの補給により通常1時間以内に改善が認められるようになる。なお,より緊急な対応のために新鮮凍結血漿の投与が必要になることが稀にあるが,この場合でも直ちに使用可能な場合には「濃縮プロトロンビン複合体製剤」を使用することも考えられる。
(2) 低フィブリノゲン血症(100mg/dL未満)
我が国では濃縮フィブリノゲン製剤の供給が十分でなく,またクリオプリシピテート製剤が供給されていないことから,以下の病態へのフィブリノゲンの補充には,新鮮凍結血漿を用いる。
なお,フィブリノゲン値の低下の程度はPTやAPTTに必ずしも反映されないので注意する(前述)。
● 播種性血管内凝固(DIC):(前項i「DIC」を参照)
● L―アスパラギナーゼ投与後:(前項i L―アスパラギナーゼ投与関連参照)
2) 凝固阻害因子や線溶因子の補充
● プロテインC,プロテインSやプラスミンインヒビターなどの凝固・線溶阻害因子欠乏症における欠乏因子の補充を目的として投与する。プロテインCやプロテインSの欠乏症における血栓症の発症時にはヘパリンなどの抗凝固療法を併用し,必要に応じて新鮮凍結血漿により欠乏因子を補充する。安定期には経口抗凝固療法により血栓症の発生を予防する。アンチトロンビンについては濃縮製剤を利用する。また,プロテインC欠乏症における血栓症発症時には活性型プロテインC濃縮製剤による治療が可能である。プラスミンインヒビターの欠乏による出血症状に対してはトラネキサム酸などの抗線溶薬を併用し,効果が不十分な場合には新鮮凍結血漿を投与する。
3) 血漿因子の補充(PT及びAPTTが正常な場合)
● 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):血管内皮細胞で産生される分子量の著しく大きい(unusually large)フォン・ヴィレブランド因子マルチマー(UL―vWFM)が,微小循環で血小板血栓を生じさせ,本症を発症すると考えられている。通常,UL―vWFMは同細胞から血中に放出される際に,肝臓で産生されるvWF特異的メタロプロテアーゼ(別名ADAMTS13)により,本来の止血に必要なサイズに分解される。しかし,後天性TTPではこの酵素に対する自己抗体(インヒビター)が発生し,その活性が著しく低下する。従って,本症に対する新鮮凍結血漿を置換液とした血漿交換療法(1~1.5循環血漿量/回)の有用性は(1)同インヒビターの除去,(2)同酵素の補給,(3)UL―vWFMの除去,(4)止血に必要な正常サイズvWFの補給,の4点に集約される。一方,先天性TTPでは,この酵素活性の欠損に基づくので,新鮮凍結血漿の単独投与で充分な効果がある1)。
なお,腸管出血性大腸菌O―157:0H7感染に代表される後天性溶血性尿毒症症候群(HUS)では,その多くが前記酵素活性に異常を認めないため,新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法は必ずしも有効ではない2)。
3.投与量
生理的な止血効果を期待するための凝固因子の最少の血中活性値は,正常値の20~30%程度である(表1)。
循環血漿量を40mL/kg(70mL/kg(1-Ht/100))とし,補充された凝固因子の血中回収率は目的とする凝固因子により異なるが,100%とすれば,凝固因子の血中レベルを約20~30%上昇させるのに必要な新鮮凍結血漿量は,理論的には8~12mL/kg(40mL/kgの20~30%)である。したがって,体重50kgの患者における新鮮凍結血漿の投与量は400~600mLである。日本赤十字社から供給される白血球を除去した全血採血由来製剤(新鮮凍結血漿―LR「日赤」)の容量は,従来製剤の約1.5倍(200mL採血由来(FFP―LR―1)では約120mL,400mL採血由来(FFP―LR―2)では約240mL)であるため,200mL採血由来(FFP―LR―1)の場合は約4~5本分に,400mL採血由来(FFP―LR―2)では約2~3本分に相当することとなる。また,成分採血由来製剤は容量が450mLであるため,約1本分に相当する。患者の体重やHt値(貧血時),残存している凝固因子のレベル,補充すべき凝固因子の生体内への回収率や半減期(表1),あるいは消費性凝固障害の有無などを考慮して投与量や投与間隔を決定する。なお,個々の凝固因子欠乏症における治療的投与や観血的処置時の予防的投与の場合,それぞれの凝固因子の安全な治療域レベルを勘案して投与量や投与間隔を決定する。
表1 凝固因子の生体内における動態と止血レベル
因子 |
止血に必要な濃度1) |
生体内半減期 |
生体内回收率 |
安定性(4℃保存) |
フィブリノゲン |
75~100mg/dL* |
3~6日 |
50% |
安定 |
ブロトロンビン |
40% |
2~5日 |
40~80% |
安定 |
第Ⅴ因子 |
15~25% |
15~36時間 |
80% |
不安定2) |
第Ⅶ因子 |
5~10% |
2~7時間 |
70~80% |
安定 |
第Ⅷ因子 |
10~40% |
8~12時間 |
60~80% |
不安定3) |
第Ⅸ因子 |
10~40% |
18~24時間 |
40~50% |
安定 |
第Ⅹ因子 |
10~20% |
1.5~2日 |
50% |
安定 |
第ⅩⅠ因子 |
15~30% |
3~4日 |
90~100% |
安定 |
第ⅩⅡ因子 |
― |
― |
― |
安定 |
第ⅩⅢ因子 |
1~5% |
6~10日 |
5~100% |
安定 |
フォンヴィレブランド因子 |
25~50% |
3~5時間 |
― |
不安定 |
1) 観血的処置時の下限値
2) 14日保存にて活性は50%残存
3) 24時間保存にて活性は25%残存
(AABB:Blood Transtusion Therapy 7th ed. 2002. p27)3)
*)一部を改訂
4.効果の評価
投与の妥当性,選択した投与量の的確性あるいは副作用の予防対策などに資するため,新鮮凍結血漿の投与前には,その必要性を明確に把握し,必要とされる投与量を算出する。投与後には投与前後の検査データと臨床所見の改善の程度を比較して評価し,副作用の有無を観察して診療録に記載する。
5.不適切な使用
1) 循環血漿量減少の改善と補充
循環血漿量の減少している病態には,新鮮凍結血漿と比較して膠質浸透圧が高く,より安全な人工膠質液あるいは等張アルブミン製剤の適応である。
2) たん白質源としての栄養補給
輸血により補充された血漿たん白質(主成分はアルブミン)はアミノ酸にまで緩徐に分解され,その多くは熱源として消費されてしまい,患者のたん白質源とはならない。この目的のためには,中心静脈栄養法や経腸栄養法が適応である(アルブミン製剤の適正使用:5―1)「たん白質源としての栄養補給」の項を参照)。
3) 創傷治癒の促進
創傷の治癒に関与する血漿たん白質としては,急性反応期たん白質であるフィブリノゲン,第ⅩⅢ因子,フィブロネクチン,フォン・ヴィレブランド因子などが考えられている。しかしながら,新鮮凍結血漿の投与により,これらを補給しても,創傷治癒が促進されるという医学的根拠はない。
4) 末期患者への投与
末期患者に対しては,患者の自由意思を尊重し,単なる延命措置は控えるという考え方が容認されつつある。輸血療法といえども,その例外ではなく,患者の意思を尊重しない単なる時間的延命のための投与は控えるべきである。
5) その他
重症感染症の治療,DICを伴わない熱傷の治療,人工心肺使用時の出血予防,非代償性肝硬変での出血予防なども新鮮凍結血漿投与の適応とはならない。
6.使用上の注意点
1) 使用法
新鮮凍結血漿を使用する場合には,輸血セットを使用する。使用時には30~37℃の恒温槽中で急速に融解し,速やか(3時間以内)に使用する。
なお,製剤ラベルの剥脱を避けるとともに,バッグ破損による細菌汚染を起こす可能性を考慮して,必ずビニール袋に入れる。融解後にやむを得ず保存する場合には,常温ではなく2~6℃の保冷庫内に保管する。保存すると不安定な凝固因子(第Ⅴ,Ⅷ因子)は急速に失活するが,その他の凝固因子の活性は比較的長い間保たれる(表1)。
2) 感染症の伝播
新鮮凍結血漿はアルブミンなどの血漿分画製剤とは異なり,ウイルスの不活化が行われていないため,血液を介する感染症の伝播を起こす危険性がある。
輸血実施前にバッグ内の血液について色調の変化,凝血塊の有無,あるいはバッグの破損や開封による閉鎖系の破綻等の異常がないことを肉眼で確認する。
3) クエン酸中毒(低カルシウム血症)
大量投与によりカルシウムイオンの低下による症状(手指のしびれ,嘔気など)を認めることがあり,必要な場合にはグルコン酸カルシウム等カルシウム含有製剤を輸血実施静脈とは異なる静脈からゆっくり静注する。
4) ナトリウムの負荷
白血球を除去した全血採血由来製剤(新鮮凍結血漿―LR「日赤」)は血液保存液としてCPD液を用いている。容量は,従来製剤の約1.5倍(200mL採血由来(FFP―LR―1)では約120mL,400mL採血由来(FFP―LR―2)では約240mL)であり,200mL採血由来の場合は約0.45g(19mEq),400mL採血由来(FFP―LR―2)では約0.9g(38mEq)のナトリウム(Na+)が負荷される。また,成分採血由来製剤は血液保存液としてACD―A液を用いている。容量は450mLであり,約1.6g(69mEq)のナトリウム(Na+)が負荷される。
全血採血由来製剤と成分採血由来製剤のナトリウム濃度の差はCPD液とACD―A液に含まれるナトリウム量の違いによる。
5) 非溶血性副作用
時に発熱反応,アレルギーあるいはアナフィラキシー反応を起こすことがある。
6) ABO血液型不適合輸血
ABO同型の新鮮凍結血漿が入手困難な場合には,ABO血液型不適合の新鮮凍結血漿を使用してもよい。この場合,新鮮凍結血漿中の抗A,抗B抗体によって溶血が起こる可能性があるため、留意が必要である。
[注]出血に対する輸血療法
1.止血機構
生体の止血機構は,以下の4つの要素から成り立っており,それらが順次作動して止血が完了する。これらのいずれかの異常により病的な出血が起こる。輸血用血液による補充療法の対象となるのは血小板と凝固因子である。
a.血管壁:収縮能
b.血小板:血小板血栓形成(一次止血),すなわち血小板の粘着・凝集能
c.凝固因子:凝固系の活性化,トロンビンの生成,次いで最終的なフィブリン血栓形成(二次止血)
d.線溶因子:プラスミンによる血栓の溶解(繊維素溶解)能
2.基本的な考え方
新鮮凍結血漿の使用には治療的投与と予防的投与がある。血小板や凝固因子などの止血因子の不足に起因した出血傾向に対する治療的投与は,絶対的適応である。一方,出血の危険性は血小板数,出血時間,PT,APTT,フィブリノゲンなどの検査値からは必ずしも予測できない。止血機能検査値が異常であったとしても,それが軽度であれば,たとえ観血的処置を行う場合でも新鮮凍結血漿を予防的に投与をする必要はない。観血的処置時の予防的投与の目安は血小板数が5万/μL以下,PTがINR2.0以上(30%以下),APTTが各医療機関が定めている基準値の上限の2倍以上(25%以下),フィブリノゲンが100mg/dL未満になったときである。
出血時間は検査自体の感度と特異性が低く,術前の止血機能検査としては適当ではなく,本検査を術前に必ず行う必要はない。むしろ,出血の既往歴,服用している薬剤などに対する正確な問診を行うことが必要である。
上血機能検査で軽度の異常がある患者(軽度の血小板減少症,肝障害による凝固異常など)で局所的な出血を起こした場合に,新鮮凍結血漿を第1選択とすることは誤りであり,十分な局所的止血処置が最も有効である。図2のフローチャートで示すとおり,新鮮凍結血漿により止血可能な出血と局所的な処置でしか止血し得ない出血が存在し,その鑑別が極めて重要である。
また,新鮮凍結血漿の投与に代わる代替治療を常に考慮する。例えば,酢酸デスモプレシン(DDAVP)は軽症の血友病Aやフォン・ヴィレブランド病(typeI)の出血時の止血療法や小外科的処置の際の出血予防に有効である。
図2 出血に対する輸血療法と治療法のフローチャート
文献
1) 藤村吉博:VWF切断酵素(ADAMTS13)の動態解析によるTTP/HUS診断法の進歩.日本内科学会雑誌 2004;93:451―459
2) Mori Y, et al: Predicting response to plasma exchange in patients with thrombotic thrombocyto―penic purpura with measurement of VWF―cleaving protease activity. Transfusion 2002;42:572―580
3) AABB:Blood Transfusion Therapy;A Physician’s Handbook (7th ed.) ,2002,p.27
Ⅴ アルブミン製剤の適正使用
1.目的
アルブミン製剤を投与する目的は,血漿膠質浸透圧を維持することにより循環血漿量を確保すること,及び体腔内液や組織間液を血管内に移行させることによって治療抵抗性の重度の浮腫を治療することにある。
なお,アルブミンの製法と性状については参考18を参照。
2.使用指針
急性の低たん白血症に基づく病態,また他の治療法では管理が困難な慢性低たん白血症による病態に対して,アルブミンを補充することにより一時的な病態の改善を図るために使用する。つまり膠質浸透圧の改善,循環血漿量の是正が主な適応であり,通常前者には高張アルブミン製剤,後者には等張アルブミン製剤あるいは加熱人血漿たん白を用いる。なお,本使用指針において特に規定しない場合は,等張アルブミン製剤には加熱人血漿たん白を含むこととする。
1) 出血性ショック等
出血性ショックに陥った場合には,循環血液量の30%以上が喪失したと考えられる。このように30%以上の出血をみる場合には,初期治療としては,細胞外液補充液(乳酸リンゲル液,酢酸リンゲル液など)の投与が第一選択となり,人工膠質液の併用も推奨されるが,原則としてアルブミン製剤の投与は必要としない。循環血液量の50%以上の多量の出血が疑われる場合や血清アルブミン濃度が3.0g/dL未満の場合には,等張アルブミン製剤の併用を考慮する。循環血漿量の補充量は,バイタルサイン,尿量,中心静脈圧や肺動脈楔入圧,血清アルブミン濃度,さらに可能であれば膠質浸透圧を参考にして判断する。もし,腎機能障害などで人工膠質液の使用が不適切と考えられる場合には,等張アルブミン製剤を使用する。また,人工膠質液を1,000mL以上必要とする場合にも,等張アルブミン製剤の使用を考慮する。
なお,出血により不足したその他の血液成分の補充については,各成分製剤の使用指針により対処する(特に「術中の輸血」の項を参照;図1)。
2) 人工心肺を使用する心臓手術
通常,心臓手術時の人工心肺の充填には,主として細胞外液補充液が使用される。なお,人工心肺実施中の血液希釈で起こった低アルブミン血症は,血清アルブミンの喪失によるものではなく一時的なものであり,利尿により術後数時間で回復するため,アルブミン製剤を投与して補正する必要はない。ただし,術前より血清アルブミン(Alb)濃度又は膠質浸透圧の高度な低下のある場合,あるいは体重10kg未満の小児の場合などには等張アルブミン製剤が用いられることがある。
3) 肝硬変に伴う難治性腹水に対する治療
肝硬変などの慢性の病態による低アルブミン血症は,それ自体ではアルブミン製剤の適応とはならない。肝硬変ではアルブミンの生成が低下しているものの,生体内半減期は代償的に延長している。たとえアルブミンを投与しても,かえってアルブミンの合成が抑制され,分解が促進される。大量(4L以上)の腹水穿刺時に循環血漿量を維持するため,高張アルブミン製剤の投与が,考慮される*。また,治療抵抗性の腹水の治療に,短期的(1週間を限度とする)に高張アルブミン製剤を併用することがある。
*Runyon BA:Management of adult patients with ascites due to cirrhosis.Hepatology 2004;39:841―856
4) 難治性の浮腫,肺水腫を伴うネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群などの慢性の病態は,通常アルブミン製剤の適応とはならない。むしろ,アルブミンを投与することによってステロイドなどの治療に抵抗性となることが知られている。ただし,急性かつ重症の末梢性浮腫あるいは肺水腫に対しては,利尿薬に加えて短期的(1週間を限度とする。)に高張アルブミン製剤の投与を必要とする場合がある。
5) 循環動態が不安定な血液透析等の体外循環施行時
血液透析時に血圧の安定が悪い場合において,特に糖尿病を合併している場合や術後などで低アルブミン血症のある場合には,透析に際し低血圧やショックを起こすことがあるため,循環血漿量を増加させる目的で予防的投与を行うことがある。
ただし通常は,適切な体外循環の方法の選択と,他の薬物療法で対処することを基本とする。
6) 凝固因子の補充を必要としない治療的血漿交換療法
治療的血漿交換療法には,現在様々の方法がある。有害物質が同定されていて,選択的若しくは準選択的有害物質除去の方法が確立されている場合には,その方法を優先する。それ以外の非選択的有害物質除去や,有用物質補充の方法として,血漿交換療法がある。
ギランバレー症候群,急性重症筋無力症など凝固因子の補充を必要としない症例では,置換液として等張アルブミン製剤を使用する。アルブミン製剤の使用は,肝炎発症などの輸血副作用の危険がほとんどなく,新鮮凍結血漿を使用することと比較してより安全である。
膠質浸透圧を保つためには,通常は,等張アルブミン若しくは高張アルブミンを電解質液に希釈して置換液として用いる。血中アルブミン濃度が低い場合には,等張アルブミンによる置換は,肺水腫等を生じる可能性が有るので,置換液のアルブミン濃度を調節する等の注意が必要である。加熱人血漿たん白は,まれに血圧低下をきたすので,原則として使用しない。やむを得ず使用する場合は,特に血圧の変動に留意する。1回の交換量は,循環血漿量の等量ないし1.5倍量を基準とする。開始時は,置換液として人工膠質液を使用することも可能な場合が多い(血漿交換の置換液として新鮮凍結血漿が用いられる場合については,新鮮凍結血漿の項参照。また,治療的血漿交換療法に関連する留意事項については,参考14を参照)。
7) 重症熱傷
熱傷後,通常18時間以内は原則として細胞外液補充液で対応するが,18時間以内であっても血清アルブミン濃度が1.5g/dL未満の時は適応を考慮する。
熱傷部位が体表面積の50%以上あり,細胞外液補充液では循環血漿量の不足を是正することが困難な場合には,人工膠質液あるいは等張アルブミン製剤で対処する。
8) 低たん白血症に起因する肺水腫あるいは著明な浮腫が認められる場合
術前,術後あるいは経口摂取不能な重症の下痢などによる低たん白血症が存在し,治療抵抗性の肺水腫あるいは著明な浮腫が認められる場合には,利尿薬とともに高張アルブミン製剤の投与を考慮する。
9) 循環血漿量の著明な減少を伴う急性膵炎など
急性膵炎,腸閉塞などで循環血漿量の著明な減少を伴うショックを起こした場合には,等張アルブミン製剤を使用する。
3.投与量
投与量の算定には下記の計算式を用いる。このようにして得られたアルブミン量を患者の病状に応じて,通常2~3日で分割投与する。
必要投与量(g)=
期待上昇濃度(g/dL)×循環血漿量(dL)×2.5
ただし,期待上昇濃度は期待値と実測値の差,循環血漿量は0.4dL/kg,投与アルブミンの血管内回収率は4/10(40%)とする。
たとえば,体重χkgの患者の血清アルブミン濃度を0.6g/dL上昇させたいときには,0.6g/dL×(0.4dL/kg×χkg)×2.5=0.6×χ×1=0.6χgを投与する。
すなわち,必要投与量は期待上昇濃度(g/dL)×体重(kg)により算出される。
一方,アルブミン1gの投与による血清アルブミン濃度の上昇は,体重χkgの場合には,[アルブミン1g×血管内回収率(4/10)](g)/[循環血漿量](dL)すなわち,
「1g×0.4/(0.4dL/kg×χkg)=1/χ(g/dL)」,
つまり体重の逆数で表わされる。
4.投与効果の評価
アルブミン製剤の投与前には,その必要性を明確に把握し,必要とされる投与量を算出する。投与後には投与前後の血清アルブミン濃度と臨床所見の改善の程度を比較して効果の判定を行い,診療録に記載する。投与後の目標血清アルブミン濃度としては急性の場合は3.0g/dL以上,慢性の場合は2.5g/dL以上とする。
投与効果の評価を3日間を目途に行い,使用の継続を判断し,漫然と投与し続けることのないように注意する。
なお,膠質浸透圧の計算式については本項末尾[注]「膠質浸透圧について」に記載してある。
5.不適切な使用
1) たん白質源としての栄養補給
投与されたアルブミンは体内で緩徐に代謝(半減期は約17日)され,そのほとんどは熱源として消費されてしまう。アルブミンがアミノ酸に分解され,肝臓におけるたん白質の再生成の原料となるのはわずかで,利用率が極めて低いことや,必須アミノ酸であるトリプトファン,イソロイシン及びメチオニンが極めて少ないことなどから,栄養補給の意義はほとんどない。手術後の低たん白血症や悪性腫瘍に使用しても,一時的に血漿たん白濃度を上昇させて膠質浸透圧効果を示す以外に,栄養学的な意義はほとんどない。栄養補給の目的には,中心静脈栄養法,経腸栄養法によるアミノ酸の投与とエネルギーの補給が栄養学的にたん白質の生成に有効であることが定説となっている。
2) 脳虚血
脳虚血発作あるいはクモ膜下出血後の血管攣縮に対する人工膠質液あるいはアルブミン製剤の投与により,脳組織の障害が防止されるという医学的根拠はなく,使用の対象とはならない。
3) 単なる血清アルブミン濃度の維持
血清アルブミン濃度が2.5~3.0g/dLでは,末梢の浮腫などの臨床症状を呈さない場合も多く,血清アルブミン濃度の維持や検査値の是正のみを目的とした投与は行うべきではない。
4) 末期患者への投与
末期患者に対するアルブミン製剤の投与による延命効果は明らかにされていない。
生命尊厳の観点からも不必要な投与は控えるべきである。
6.使用上の注意点
1) ナトリウム含有量
各製剤中のナトリウム含有量[3.7mg/mL(160mEq/L)以下]は同等であるが,等張アルブミン製剤の大量使用はナトリウムの過大な負荷を招くことがあるので注意が必要である。
2) 肺水腫,心不全
高張アルブミン製剤の使用時には急激に循環血漿量が増加するので,輸注速度を調節し,肺水腫,心不全などの発生に注意する。なお,20%アルブミン製剤50mL(アルブミン10g)の輸注は約200mLの循環血漿量の増加に相当する。
3) 血圧低下
加熱人血漿たん白の急速輸注(10mL/分以上)により,血圧の急激な低下を招くことがあるので注意する。
4) 利尿
利尿を目的とするときには,高張アルブミン製剤とともに利尿薬を併用する。
5) アルブミン合成能の低下
慢性の病態に対する使用では,アルブミンの合成能の低下を招くことがある。特に血清アルブミン濃度が4g/dL以上では合成能が抑制される。
[注]膠質浸透圧について
膠質浸透圧(π)はpH,温度,構成するたん白質の種類により影響されるため,実測値の方が信頼できるが,血清中のたん白濃度より算定する方法もある。血清アルブミン濃度,総血清たん白(TP)濃度からの算出には下記の計算式を用いる。
1.血清アルブミン値(Cg/dL)よりの計算式:
π=2.8C+0.18C2+0.012C3
2.総血清たん白濃度(Cg/dL)よりの計算式:
π=2.1C+0.16C2+0.009C3
計算例:
1.アルブミン投与によりAlb値が0.5g/dL上昇した場合の膠質浸透圧の上昇(1式より),
π=2.8×0.5+0.18×0.52+0.012×0.53
=1.45mmHg
2.TP値が7.2g/dLの場合の膠質浸透圧(2式より),
π=2.1×7.2+0.16×7.22+0.009×7.23
=26.77mmHg
Ⅵ 新生児・小児に対する輸血療法
小児,特に新生児に血液製剤を投与する際に,成人の血液製剤の使用指針を適用することには問題があり,小児に特有な生理機能を考慮した指針を策定する必要がある。しかしながら,小児一般に対する血液製剤の投与基準については,いまだ十分なコンセンサスが得られているとは言い難い状況にあることから,未熟児についての早期貧血への赤血球濃厚液の投与方法,新生児への血小板濃厚液の投与方法及び新生児への新鮮凍結血漿の投与方法に限定して指針を策定することとした。
1.未熟児早期貧血に対する赤血球濃厚液の適正使用1)
未熟児早期貧血の主たる原因は,骨髄造血機構の未熟性にあり,生後1~2か月頃に認められる新生児の貧血が生理的範囲を超えたものともいえる。出生時の体重が少ないほど早く,かつ強く現われる。鉄剤には反応しない。エリスロポエチンの投与により改善できる症例もある。しかしながら,出生体重が著しく少ない場合,高度の貧血を来して赤血球輸血が必要となることが多い。
なお,ここでの輸血の対象児は,出生後28日以降4か月までであり,赤血球濃厚液の輸血は以下の指針に準拠するが,未熟児は多様な病態を示すため個々の症例に応じた配慮が必要である。
1) 使用指針
(1) 呼吸障害が認められない未熟児
i.Hb値が8g/dL未満の場合
通常,輸血の適応となるが,臨床症状によっては必ずしも輸血の必要はない。
ii.Hb値が8~10g/dLの場合
貧血によると考えられる次の臨床症状が認められる場合には,輸血の適応となる。
持続性の頻脈,持続性の多呼吸,無呼吸・周期性呼吸,不活発,哺乳時の易疲労,体重増加不良,その他
(2) 呼吸障害を合併している未熟児
障害の程度に応じて別途考慮する。
2) 投与方法
(1) 使用血液
採血後2週間以内のMAP加赤血球濃厚液(MAP加RCC)を使用する。
(2)投与の量と速度
i.うっ血性心不全が認められない未熟児
1回の輸血量は10~20mL/kgとし,1~2mL/kg/時間の速度で輸血する。ただし,輸血速度についてはこれ以外の速度(2mL/kg/時間以上)での検討は十分に行われていない。
ii.うっ血性心不全が認められる未熟児
心不全の程度に応じて別途考慮する。
3) 使用上の注意
(1) 溶血の防止
新生児に対する採血後2週間未満のMAP加赤血球濃厚液の安全性は確立されているが,2週間以降のMAP加赤血球濃厚液を放射線照射後に白血球除去フィルターを通してから24Gより細い注射針を用いて輸注ポンプで加圧して輸血すると,溶血を起こす危険性があるので,新生児の輸血に際しては,輸血速度を遅くし,溶血の出現に十分な注意を払う必要がある。
なお,日本赤十字社から供給されるMAP加赤血球濃厚液(赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」)は,保存前白血球除去の導入により,ベッドサイドでの白血球除去フィルターを使用する必要はなくなった。
(2) 長時間を要する輸血
血液バッグ開封後は6時間以内に輸血を完了する。残余分は破棄する。1回量の血液を輸血するのに6時間以上を要する場合には,使用血液を無菌的に分割して輸血し,未使用の分割分は使用時まで2~6℃に保存する。
(3) 院内採血
院内採血は医学的に適応があり,「輸血療法の実施に関する指針」のⅩⅡの2の「必要となる場合」に限り行うべきであるが,実施する場合は,採血基準(安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律施行規則(昭和31年厚生省令第22号)別表第二)に従うこととする。また,放射線未照射血液製剤において致死的な合併症である輸血後移植片対宿主病が報告されていることから,原則として15~50Gyの範囲での放射線照射をする必要がある。さらに感染性の副作用が起こる場合があることにも留意する必要がある。
2.新生児への血小板濃厚液の適正使用
1) 使用指針
(1) 限局性の紫斑のみないしは,出血症状がみられず,全身状態が良好な場合は,血小板数が3万/μL未満のときに血小板濃厚液の投与を考慮する。
(2) 広汎な紫斑ないしは紫斑以外にも明らかな出血(鼻出血,口腔内出血,消化管出血,頭蓋内出血など)を認める場合には,血小板数を5万/μL以上に維持する。
(3) 肝臓の未熟性などにより凝固因子の著しい低下を伴う場合には,血小板数を5万/μL以上に維持する。
(4) 侵襲的処置を行う場合には,血小板数を5万/μL以上に維持する。
3.新生児への新鮮凍結血漿の適正使用
1) 使用指針
(1) 凝固因子の補充
ビタミンKの投与にもかかわらず,PT及び/又はAPTTの著明な延長があり,出血症状を認めるか侵襲的処置を行う場合
(2) 循環血液量の1/2を超える赤血球濃厚液輸血時
(3) Upshaw―Schulman症候群(先天性血栓性血小板減少性紫斑病)
2) 投与方法
(1)と(2)に対しては,10~20mL/kg以上を必要に応じて12~24時間毎に繰り返し投与する。
(3)に関しては10mL/kg以上を2~3週間毎に繰り返し投与する。
3) その他
新生児多血症に対する部分交換輸血には,従来,新鮮凍結血漿が使用されてきたが,ほとんどの場合は生理食塩水で代替可能である。
文献
1) 日本小児科学新生児委員会報告:未熟児早期貧血に対する輸血ガイドラインについて.日児誌1995;99:1529―1530
おわりに
輸血医学を含む医学の各領域における進歩発展は目覚しく,最新の知見に基づき本指針の見直しを行った。本指針ができるだけ早急に,かつ広範に浸透するよう,関係者各位の御協力をお願いしたい。今後は,特に新たな実証的な知見が得られた場合には,本指針を速やかに改正していく予定である。
参考1 慢性貧血(造血幹細胞移植)
1) 赤血球輸血
基本的な適応基準
造血幹細胞移植後の造血回復は前処置の強度によって異なる。造血機能を高度に低下させる前処置を用いる場合は,通常,造血が回復するまでに移植後2~3週間を要する。この間,ヘモグロビン(Hb)の低下を認めるために赤血球輸血が必要になる。この場合,通常の慢性貧血と同様にHb値の目安として7g/dLを維持するように,赤血球濃厚液(RCC)を輸血する。発熱,うっ血性心不全,あるいは代謝の亢進がない場合は安静にしていれば,それより低いHb値にも耐えられるので,臨床症状や合併症を考慮しRCCの適応を決定する。
白血球除去赤血球濃厚液
輸血用血液中の同種白血球により,発熱反応,同種抗体産生,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)感染などの有害事象が生じるので,それらの予防のために原則的に白血球除去赤血球を用いる。特に患者が抗CMV抗体陰性の場合でも,白血球除去輸血により抗CMV抗体陰性の献血者からの輸血とほぼ同等に輸血によるCMV感染を予防できる。
最近の抗体陰性血と白血球除去血の輸血による感染の比較検討では,感染予防率はいずれの場合も90%以上であるが,抗体陰性血の方が高いことが報告されている1)。
なお,日本赤十字社から供給されるMAP加赤血球濃厚液(赤血球濃厚液―LR「日赤」及び照射赤血球濃厚液―LR「日赤」)は,白血球数が1バッグあたり1×106以下であるように調製されている。
2) 血小板輸血
基本的な適応基準
出血予防
造血機能を高度に低下させる前処置を用いた造血幹細胞移植後は,患者血小板数が減少するので,出血予防のために血小板濃厚液(PC)の輸血が必要になる。血小板濃厚液の適応は血小板数と臨床症状を参考にする。通常,出血予防のためには血小板数が1~2万/μL以下の場合が血小板濃厚液の適応になる。ただし,感染症,発熱,播種性血管内凝固などの合併症がある場合は出血傾向が増強するので注意する。血小板数を測定し,その結果で当日の血小板濃厚液の適応を決定し輸血することが望まれる。ただし,連日の採血による患者への負担を考慮し,また,定型的な造血幹細胞移植では血小板が減少する期間を予測できるので,週単位での血小板濃厚液輸血を計画できる場合が多い。この場合は,1週間に2~3回の頻度で1回の輸血量としては経験的に10単位が使用されているが,さらに少量の投与でもよい可能性がある。
出血治療
出血症状が皮膚の点状出血や歯肉出血など,軽度の場合は,出血予防に準じて血小板濃厚液を輸血する。消化管出血,肺出血,頭蓋内出血,出血性膀胱炎などにより重篤な出血症状がある場合は血小板数が5万/μL以下の場合が血小板濃厚液の適応になる。
HLA適合血小板濃厚液の適応
抗HLA抗体による血小板輸血不応状態がある場合は,一般的な血小板輸血の適応に準じる。
白血球除去血小板濃厚液の適応
原則的に赤血球輸血と同様に白血球除去血小板濃厚液を用いる。ただし,日本赤十字社から供給される血小板濃厚液を用いる場合は白血球数が1バッグあたり1×106以下であるように調整されてあるので,使用時には白血球除去フィルターを用いる必要はない。
3) 新鮮凍結血漿
通常の新鮮凍結血漿の適応と同様である。複合的な血液凝固因子の低下,及び血栓性血小板減少性紫斑病を合併した場合に適応になる。
4) アルブミン
通常のアルブミン製剤の適応と同様である。
5) 免疫グロブリン
通常の免疫グロブリンの適応と同様,抗生物質や抗ウイルス剤の治療を行っても効果が乏しい感染症に対し適応になり,抗生物質と併用し用いる。
6) 輸血用血液製剤の血液型の選択
同種造血幹細胞移植において,患者血液型と造血幹細胞提供者(ドナー)の血液型が同じ場合と異なる場合がある。これは1.血液型一致(match),2.主不適合(major mismatch),3.副不適合(minor mismatch),4.主副不適合(major and minor mismatch),に分類される。1は患者血液型とドナーの血液型が同一である場合,2は患者にドナーの血液型抗原に対する抗体がある場合,3はドナーに患者の血液型抗原に対する抗体がある場合,4は患者にドナーの血液型抗原に対する抗体があり,かつドナーに患者の血液型抗原に対する抗体がある場合である。
移植後,患者の血液型は造血の回復に伴いドナー血液型に変化していくので,特にABO血液型で患者とドナーで異なる場合には,輸血用血液製剤の適切な血液型を選択する必要がある。以下に血液型選択のための基準を示す。
1.血液型一致
赤血球,血小板,血漿ともに原則的に患者血液型と同型の血液型を選択する。
2.主不適合(major mismatch)
患者の抗体によってドナー由来の赤血球造血が遅延する危険性があるので,これを予防するために血小板,血漿はドナー血液型抗原に対する抗体がない血液型を選択する。赤血球は患者の抗体に反応しない血液型を選択する。
3.副不適合(minor mismatch)
ドナーリンパ球が移植後,患者血液型に対する抗体を産生し,患者赤血球と反応する可能性があるので,赤血球はドナーの抗体と反応しない血液型を選択する。血小板と血漿は患者赤血球と反応する抗体がない血液型を選択する。
4.主副不適合(major and minor mismatch)
ABO血液型主副不適合の場合は,血小板,血漿がAB型,赤血球はO型になる。さらに,移植後ドナーの血液型に対する抗体が検出できなくなればドナーの血液型の赤血球濃厚液を,患者の血液型の赤血球が検出できなくなればドナーの血液型の血小板濃厚液,新鮮凍結血漿を輸血する。
Rho(D)抗原が患者とドナーで異なる場合には,抗Rho(D)抗体の有無によって異なるが,患者がRho(D)抗原陰性の場合には抗Rho(D)抗体があるものとして,あるいは産生される可能性があるものとして考慮する。また,ドナーがRho(D)抗原陰性の場合にも抗Rho(D)抗体があるものとして考慮する。
患者とドナーでABO血液型あるいはRho(D)抗原が異なる場合の推奨される輸血療法を表1にまとめて示す。
移植後,造血がドナー型に変化した後に,再発や生着不全などで輸血が必要になる場合は,ドナー型の輸血療法を行う。
移植前後から造血回復までの輸血における製剤別の選択すべき血液型を示す。
表1 血液型不適合造血幹細胞移植直後の輸血療法
血液型 |
不適合 |
血液型 |
輸血 |
||
ドナー |
患者 |
赤血球 |
血小板,血漿 |
||
ABO血液型 |
主不適合 |
A |
O |
O |
A(もしなければABも可) |
B |
O |
O |
B(もしなければABも可) |
||
AB |
O |
O |
AB |
||
AB |
A |
A(もしなければOも可) |
AB |
||
AB |
B |
B(もしなければOも可) |
AB |
||
副不適合 |
O |
A |
O |
A(もしなければABも可) |
|
O |
B |
O |
B(もしなければABも可) |
||
O |
AB |
O |
AB |
||
A |
AB |
A(もしなければOも可) |
AB |
||
B |
AB |
B(もしなければOも可) |
AB |
||
主副不適合 |
A |
B |
O |
AB |
|
B |
A |
O |
AB |
||
Rho(D)抗原 |
主不適合 |
D+ |
D- |
D- |
D+ |
副不適合 |
D- |
D+ |
D- |
D+ |