添付一覧
4―4 迅速に退避するための対応 工事等に着手する前には、作業員が安全かつ迅速に退避できるよう、あらかじめ退避時の対応方策について、具体的な内容を定めておく。 |
【解説】
局地的な大雨に対する安全対策としては、急激な増水が予想される降雨時等に下水道管渠内工事等を行わないことが最も重要であるが、工事等を開始後に中止基準に至った場合や水位等の変化により急激な増水による危険性が察知された場合等には、下水道管渠内作業員は安全かつ迅速に退避しなければならない。
従って、あらかじめ、作業員が安全かつ迅速に退避できるよう、以下の点について具体的な対応方策を定める。
1) 退避手順の設定
2) 安全器具等の設置
3) 情報収集と伝達方法
4) 資機材の取扱い
4―4―1 退避手順の設定 請負者は、あらかじめ、下水道管渠内作業員が退避するルート、退避時の情報伝達方法等の退避手順を定めておく。また、実際の現場において、避難訓練を実施し、退避時の対応の手順や情報伝達の確実性、退避時間等を実地検証する。 |
【解説】
工事等の着手前に、事前に現地調査を行い、通常時の下水道管渠内水量・水位、人孔の状況、交通状況等の周辺環境に関する調査を行い、作業箇所毎の特性を十分に考慮した退避ルートを定めておく。また、入手可能な気象情報等を踏まえ、退避時の情報伝達方法も定めておく。さらに、実際の現場において、避難訓練等を通じて、退避に要する時間の測定、情報伝達の確実性等を検証する。
また、作業箇所が随時移動する場合は、退避時に使用する人孔も替わるため、必要に応じて作業箇所ごとに、退避のルート等を定める。
退避については、原則、当該現場の下流側人孔を基本とする。作業箇所等によっては、上流側人孔への退避も考慮し、可能な限り、上下流双方の人孔の蓋を開放しておく。
<退避時間算定方法の例>
・退避時間は、現場での避難訓練時に実際の作業員で下水道管渠内を歩行、速度を計測し、水位上昇等の影響も考慮して設定する。
・退避時間=退避ルート延長÷下水道管渠内歩行速度+脱出ロス(作業員全員が順繰りに人孔から脱出できる時間)+ロスタイム
ロスタイム=リードタイム(判断材料入手~判断~移動~作業員周知に要する時間)+α(余裕)
4―4―2 安全器具等の設置 下水道管渠内の増水に備えた安全器具等について、現場特性に応じて設置する。 |
【解説】
現場特性に応じて、最適と考えられる増水緩和や流出防止に関わる安全対策・器具等について、あらかじめ検討し、必要な措置を講じておく。また、安全器具の使用法についても、作業員が事前に十分理解しておく。
また、急激な増水を緩和するための方策は水替えを基本とし、土嚢積みや止水栓の設置も含めて適用判断を行うとともに、これらの対策により浸水被害を助長する可能性についても検討する。
作業員の流出を防ぐための安全器具は基本的に複数設置する。二重三重の対策には、単に安全性を高めるだけでなく、緊急事態発生時にパニックを抑えるという効果もある。また、中止基準を強化すべき現場においては、特に厳重に強化しておく必要がある【4―3―2参照】。
なお、退避時に安全器具が逆に障害となる恐れもあるため、その危険性についても十分認識する。
表4―2 増水緩和や流出防止に関わる安全対策・器具の例と留意点
種別 |
対策・器具の例 |
用途 |
留意点 |
増水緩和(水替え) |
土嚢 |
上流断面を絞り、増水の勢いを抑えるとともに、ポンプ排水等による水替により、流下量を抑制する。 |
土嚢とともに人が流されないようにロープ等で土嚢を括る。流下断面欠損により浸水発生を助長する恐れがある。 |
|
止水栓 |
上流の管渠に止水栓を設置し、流下量を抑制するとともに、ポンプ排水等による水替により、流下量を抑制する。 |
流下断面欠損により浸水発生を助長する恐れがある。 |
流出防止 |
親綱 |
流出防止として作業区間をカバーして人孔間に設ける |
退避に際し、取り外しに手間がかからないようにする |
|
安全帯 |
下水道管渠内作業員を引き上げる、緊急連絡手段として用いる |
足掛け金物に設置した場合には取り外しに手間取りおぼれる恐れがある |
|
流出防止柵(ネット) |
下流人孔より流されないように設置する |
人が流される重さに耐えられるよう確実に固定する |
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梯子、縄梯子 |
下水道管渠内作業員の緊急避難時に用いる |
流水面まで垂らし、地上の設置箇所が外れないように固定する |
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救助用ロープ |
退避の際、地上作業員が下水道管渠内作業員を引き上げる |
手腕が捕まりやすいよう輪を設けるなどしておく |
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救命胴衣 |
急な出水で下水道管渠内作業員がおぼれることのないように着衣する |
急な出水で脱衣しないよう確実に装着したことを確認する |
図4―6 安全器具の例
4―4―3 情報収集と伝達方法 下水道管渠内での作業中には、地上監視員を配置して、気象等の情報収集を行い、状況を確実に下水道管渠内作業員全員に伝達し、危険性の早期発見・危機回避に努める。 |
【解説】
下水道管渠内作業員は、外部の天候の変化が把握できず、また、多くの場合、狭隘な空間での工事等であり、照度の不足や水流による騒音等によって、周辺の異変に気づきにくい。一方で、局地的な大雨は、降雨発生から数分~数十分という短時間で管渠内を満管にすることもあり得ることから、地上監視員を配置して、水位や天候等の異変をいち早く捉えて、下水道管渠内の作業員に伝達することが重要である。
具体的には、地上監視員を選任して、作業中には随時、気象等の情報収集を行い、定期的に情報を下水道管渠内作業員へ伝える。退避を知らせる合図はあらかじめ決めておき、中止基準に至った場合や気象状況の変化により大雨の予兆が察知された場合には、複数の手段を組み合わせて、迅速かつ確実に作業員全員に伝達を行う。
また、気象に関する状況は、下水道管渠内作業員をはじめ、地上作業員についても周知徹底し、共通認識を図り、迅速な退避活動が可能となるよう体制を整える。
一方、下水道管渠内においても、水位や水勢の変化等の増水の予兆を把握し、地上監視員等へ伝達することが望ましい。また、現場条件によっては、音が届きにくいなどの状況があるため、必要に応じて、水位等の状況を監視し、地上監視員等と確実な情報伝達を図るため、下水道管渠内監視員を選任することも考慮する。
1) 地上監視員の情報収集と伝達
地上監視員は、気象情報や水位観測の状況を見過ごすことのないよう監視する。気象情報は、インターネットや携帯電話によるものだけでなく、空の状況、大気の変化にも留意し、その情報を確実に下水道管渠内作業員へ伝達する。
2) 下水道管渠内作業員の情報収集と伝達
下水道管渠内作業員は、地上監視員からの連絡を待つだけでなく、努めて水位の変化等、急増水の予兆に留意し、異状があれば速やかに下水道管渠内作業員や地上監視員に伝達を行うとともに、適切な退避行動をとる【4―3―3参照】。
3) 情報伝達に関する手段の例と留意点
下水道管渠内は暗く、水流や機器の騒音があり、地上からの距離がある等の特性から情報の伝達が確実に行い難い場合もあるため、視覚、聴覚などの複数の感覚に訴える複数の手段を組み合わせて迅速かつ確実に情報伝達を行う。
・笛:大口径では音が水流にかき消される恐れがある。
・携帯電話:下水道管渠内のある程度の距離まで進むと電波が通じなくなる場合がある。
・無線(トランシーバー):同時通話方式が有効。電波が通じるか、事前の確認が必要。
・有線(インターホン):配線が支障とならないように留意する。長距離管渠の場合の配線は課題。防水型を用いる。
・手動サイレン:上下流の人孔付近へ備え、誰でも使えるようにする。防水型を用いる。
・拡声器:上下流の人孔付近へ備え、誰でも使えるようにする。防水型を用いる。
・ライト:防水型を用いる。緊急時には点滅させるなどの合図を決めておく。
・ブザー付き回転灯:防水型を用いる。
・ブザー付き水位計:作業箇所上流側に設置し、水位上昇時には作業員に聞こえるようにする。
図4―7 ブザー付き回転灯
4―4―4 資機材の取扱い 下水道管渠内の資機材については、あらかじめ流出防止策を講じておくとともに、下水道管渠内作業員が退避する場合には、退避に支障がある資機材を存置し、作業員の退避を最優先する。 |
【解説】
下水道管渠内作業員が退避する場合には、資機材の撤収に手間取って退避が遅れないようにしなければならない。
そのため、下水道管渠内に持ち込む資機材は必要最小限にするとともに、あらかじめ退避時における資機材の取扱いを定め、存置する資機材等については流出防止のためロープ等で固定しておく。
4―5 日々の安全管理の徹底 工事等の開始前には、退避時の対応方策の内容等について作業関係者全員に周知徹底を図る。 |
【解説】
工事等を行う日には、工事等の開始前に、作業関係者全員に対し、使用する安全器具の設置状況、使用方法、当日の天候の状況及び退避時の対応方策の内容等についてツールボックスミーティング等を通じて周知徹底する。これらの内容について安全管理点検表等により確認する。
1) ツールボックスミーティング(TBM)*1)
工事等の開始前には、作業関係者全員に対して作業内容、作業時間、当日の天気予測、当該作業箇所の水位や流速、退避ルート、退避時の合図等についてミーティングを実施し、安全管理の内容について周知徹底する。また、確実に安全器具の設置について周知徹底させ、安全対策の重要性を認識させると共に、危険予知(KY)活動を実施し、活動内容を写真や書類等により記録する。
KY活動の目的は、危険性に対する認識を高めるものであり、作業前に全員で、作業に潜んだ危険を予測し、具体的な危険防止対策を講じてから工事等を開始する。
なお、これらの活動は長期にわたって同じことを繰り返し行うと形骸化しかねないといった懸念がある。よって、毎日の工事等において、作業箇所から地上までの退避時間を計測し、数値的な管理を行うことで、危機管理の意識を持続させるといった工夫を行う。
TBMのポイントを以下に示す。
・手際よく短時間で行う
・安全管理点検表を活用
・全員参加による周知徹底
図4―8 危険予知活動用黒板の例
2) 作業当事者による安全点検*1)
ツールボックスミーティング終了後、入坑前及び作業中は安全管理点検表を用いて随時安全点検を確実に実行することが重要である。
チェック項目 |
作業前 |
作業中 ( : ) |
作業中 ( : ) |
作業中 ( : ) |
特記事項 |
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作業中止基準の確認はしたか |
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― |
― |
― |
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非常時の合図は確認したか(具体に記載) |
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― |
― |
― |
笛・拡声器など |
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非常時の退避ルートの確認をしたか |
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― |
― |
― |
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人孔蓋の開放を確認したか(上下流とも) |
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― |
― |
― |
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想定退避時間の確認 |
分 |
― |
― |
― |
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作業者 |
作業従事者数 |
名 |
名 |
名 |
名 |
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うち管渠内入坑者数 |
名 |
名 |
名 |
名 |
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天候 |
リアルタイムに天候が確認できる現場か |
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― |
― |
― |
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天候の状況はよいか(作業地点・上流部) |
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警報・注意報の発令はないか |
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天候急変の恐れは無いか(気象予報の確認) |
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雷注意報等など |
施設内状況 |
水位(管底より)・流速の状況はどうか |
cm |
cm |
cm |
cm |
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坑内への機器の持ち込み量は適当か |
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安全器具設置状況 |
流出防止柵 |
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縄梯子 |
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親綱 |
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救助用ロープ |
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( ) |
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図4―9 安全管理点検表の例
また、事故が発生した場合を想定し緊急連絡先一覧表を現場の分かりやすい場所に掲示する。また、入坑者をホワイトボード等に記載し、下水道管渠内作業員を明示しておく。
図4―10 緊急連絡先掲示板の例
*1) 下水道管きょ内作業の安全管理に関する中間報告書 平成14年4月 下水道管きょ内作業安全管理委員会 参照。一部引用。
第5章 平時からの安全対策の取組み
5―1 危機管理意識の徹底と継承 下水道管渠内での工事等には、様々な危険があることを発注者、請負者は常に認識し、平時から危機意識を徹底し、ヒヤリハット事例等の教訓を安全管理に活かすための取組みを行う。 |
【解説】
下水道管渠内の工事等では、流水による流出、酸素欠乏、硫化水素中毒、墜落等の危険が常に存在する。特に、雨水が流入する下水道管渠内では、局地的な大雨により作業員が流される危険が伴う。下水道管渠内は、逃げ場のほとんどない狭い閉鎖空間であり、ひとたび局地的な大雨に見舞われ雨水が短時間で管渠に流入・流下すれば、人命にかかわる重大な事故につながる。
従って、平時からの講習・訓練を通じ、危機意識を徹底させるとともに、ヒヤリハット事例等の教訓を蓄積・共有・継承し、安全管理にいかすための取組みを行う。
また、下水道以外の工事等で行われている安全管理を参考とすることも有効である。
5―1―1 講習・訓練等の実施 下水道管渠内での工事等に関係する者は、平時より、講習・訓練等によって安全管理に係る知識や技術を習得するとともに、継続的な取り組みにより、危機管理意識の向上に努める。 |
【解説】
下水道管渠内の工事等に関係する者は、局地的な大雨に関する気象情報、降雨時の下水道管渠内の危険性について、ビデオや図表などのわかりやすい教材を用いて視覚的に習得できる講習等を定期的に受講し、危機管理意識の向上に努める。また、安全器具等の設置や使用方法、退避手順、気象情報等の収集ならびに伝達方法等の訓練を行う。
特に経験の浅い作業員に対しては、作業前にこのような講習・訓練を十分に実施し、知識・技術を確実に身につけさせた上で下水道管渠内工事等に従事させる。
また、発注者においても、同様に関係知識を習得することが重要である。
なお、安全管理に係る講習に関しては、各種の資格認定制度などに関連した講習が行われているので、そのような場を利用するのも有用である。
5―1―2 ヒヤリハット事例等の継続的蓄積と活用 急激な水位上昇による危険性について、ヒヤリハット事例等の教訓を継続的に蓄積・共有・継承し、安全管理に活かすための取組みを行う。 |
【解説】
事故を未然に防ぐためには、ヒヤリハット事例や事故の情報を蓄積、共有するとともに、それから得られる教訓を安全管理にフィードバックし、安全対策を継続的に改善していくことが大切である【参考資料―2参照】。
発注者は、ヒヤリハット事例及び被災体験の情報を収集、蓄積し、下水道管渠内での安全対策にかかわる啓発活動を行う。
具体には、発注者は、収集したヒヤリハット事例を安全協議会等を通じて、請負者は、元請け・下請け一体となった定期安全大会等により情報の共有を図り、事故の未然防止に努める。
下水道管渠内工事等における増水に関わるヒヤリハット事例を蓄積するにあたっては、表5―1のような様式を作成し、分析に役立つ情報を整理しておくとよい。
[様式ダウンロード]
5―2 発注者による安全確保への取組み 発注者は、請負者が下水道管渠内工事等を安全に遂行できるよう、指導・監督等に取り組む。 |
【解説】
請負者が下水道管渠内工事等を安全に遂行できるよう、発注者は以下のような取り組みを行う。
1) 情報の整理
発注者は、発注に際して、当該工事等にかかる安全管理に関係する各種情報を、請負者に提供できるよう整理しておく。情報提供を行う具体的な例としては以下のものがある。
①平面図(一般図、系統図)、縦断面図、流量計算表
②下水道台帳
③降雨資料(過去の記録)
④浸水実績と状況
⑤流量測定資料
⑥流下状況のシミュレーション結果*
⑦上流部の状況(ポンプ運転状況、大規模排水施設等)
⑧放流先状況(河川の水位、海域での潮位、ポンプ場等)
*降雨状況による水位・流速をあらかじめ算定し、各管渠の危険度を評価しておく。
2) 安全管理に配慮した発注時期の設定等
管渠内工事等の発注時期については、大雨の可能性が高い時期を避ける等配慮する。
また、現場の条件を踏まえて、第4章に示した安全管理が確実に行えるよう、必要な経費を適切に見込む。
3) 安全管理体制の確立
作業員を集めた安全協議会(安全対策定例会)や各種講習会を開催し、安全管理体制の確立に努める。
4) 安全管理の指導・監督等
発注者は、請負者が安全管理を十分に実施するように、以下の事項等について、指導・監督等の取り組みを行う。
①下水道管渠内工事等の危険性について、十分な知識のある技術者が配置されるように促す。
②局地的な大雨に係る安全管理計画の立案・提出を仕様書等に明記する。また、安全管理計画の妥当性を請負者が提出する施工計画書や作業計画書で確認する。
③作業員に対して安全管理計画の内容を周知徹底させるよう指導する。
④実作業における安全管理計画の修正点の確認を行う。
⑤安全器具の点検及び訓練記録の確認を行う。
⑥安全パトロールを実施する。
第6章 更なる安全の確保に向けて
今後、下水道管渠内での工事等が増加し、下水道管渠内へ入坑する頻度が増えるなか、大雨に対する下水道管渠内工事等の安全対策の重要性がさらに増すものと考えられる。そこで、本章では、更なる安全の確保に向けて、今後取り組むべき事項、望まれる取り組み等について示す。
(1) 情報に関すること
1) 気象情報の精度、頻度の向上
気象予測精度の向上、気象情報の利用促進に向けた取組みを推進する。
2) リスク察知システムの開発
上流域での雨量、水位などリアルタイムの情報を把握し、これらを活用して、作業現場における増水による危険性を事前に知らせるシステムを開発、導入する。
(2) 下水道管渠の計画設計・構造に関すること
1) 人孔の設置位置
交差点や車道の中心などに設置された人孔は、維持管理において開放しておくことが困難である。人孔そのものの目的を再認識し、維持管理の際には常に開放できるような位置に設置できるよう再検討する。
2) 維持管理や作業員の迅速な退避を考慮した施設構造・計画設計
下水道管渠の適正勾配への改修、長スパン管渠における中間人孔の設置など、維持管理において安全に工事等が行えるような施設構造や、作業員が迅速に退避可能な施設構造(例えば、人孔の出口径や形状の見直し等)への改良ならびに計画設計手法の見直しを検討する。
(3) 機器に関すること
作業員の入坑なしで工事等ができるように、遠隔操作が可能な無人化施工技術を開発する。
(4) 技術者の確保・養成に関すること
管路管理に関する資格や経験年数等を発注要件とすることにより、十分な知識を習得している技術者の配置を促進する。
(5) ヒヤリハット事例等の情報共有に関すること
関係団体等と協力して、全国のヒヤリハット事例等の情報共有が図れる仕組みを構築する。
参考資料
参考資料―1 死亡事故事例
【事例1】 雑司ヶ谷幹線再構築工事 事故(東京都)
1 事故の概要
(1) 発生日時:平成20年8月5日(火) 午前11時40分~12時頃
(2) 発生場所:豊島区雑司が谷二丁目22番地先雑司ヶ谷幹線管内
(3) 被災者:男性5名(49歳、44歳、38歳、31歳、29歳)
(4) 施設概況:□2,000mm×1,460mm
(5) 事故の概要:
前日から雷注意報が継続して発令されており、大気の状態が不安定な天候であった。下水道管内面の製管作業が終了し、屈曲部において内面をFRP樹脂により被覆及びプライマー塗布工を行っていた。その作業中、降雨により管渠内の水位が一気に上昇したため管内での作業員6人が流された。一人は自力で脱出したが5人は流され、亡くなった。
2 事故発生の経緯と状況
(1) 事故当日の状況
①天候と降雨状況
事故当日、東京区部では朝から大気の状態が不安定で、東京23区には、前日から雷注意報が継続して発令されており、当日の午前11時35分に大雨・洪水注意報、午後0時33分に大雨・洪水警報がそれぞれ発令された。
作業現場より150m離れた下水道局の豊島出張所にある地上雨量計(図1―1)では、午前11時50分に0.5mmの最初の雨を記録しており、そのわずか3分後の午前11時53分からの1時間に時間最大降雨量57.5mmを記録している。また、午前11時50分から午後6時35分までの総降雨量は134mmであった。
②当日の作業
事故当日の作業は、No.20~No.22人孔間において、管内面をFRP樹脂により被覆する作業である。
当日の危険予知活動の中では、「天候が不安定です。急に雷雨があると思うので、水位上昇時はすぐ地上に上ること」との指示が二次下請の8名の作業員になされていた。管内の作業が始まったのは午前11時からであった。
事故当時、管内では職長1名と、作業員5名の合わせて6名が、地上では監理技術者1人、気象担当者1人、地上作業員3名の合わせて5名、総勢11名で作業を行っていた。
(2) 事故発生の状況
①事故発生直前の状況
(ア) 担当監督員の注意喚起により、気象担当者は携帯電話のインターネットを通じて、大雨に関する注意報・警報の発令が無いことを確認した(午前11時30分頃)。
(イ) 担当監督員は小雨が降り出したため、監理技術者と気象担当者に、「雨が降ってきたので、十分に注意するように」と再度注意喚起した。
(ウ) 気象担当者はこの指示を聞き、No.22人孔より管内の職長に注意するよう告げ、職長がほかの5名の管内作業員にその事を伝えた声を聞き、人孔の蓋を閉めた。
(エ) その後、監理技術者も管内作業員に「雨のために作業が中止になるかもしれない」と改めて声を掛けさせた後、No.22人孔の蓋を閉めた。
(オ) 雨が急に強くなってきたため、監理技術者と地上作業員はNo.22人孔の蓋を開け、職長に「あがれ」と指示した。そして地上作業員に人孔の蓋を閉めさせ、その場に待機した。
②事故発生時の状況
(ア) 作業員がNo.22人孔で資機材を上げる作業をしていた際、地上作業員が管内作業員に「雨が結構降ってきたけど水位はどう」と確認したところ、「結構増えてきた」との返事があった。
(イ) 監理技術者が地上で待機中、No.22人孔中から「開けてくれ」との声を聞き、人孔の蓋を開けたところ、管内は満水に近い状況で雨水が流れており、管内作業員1名が人孔側塊最下部の足掛金物に掴まっていたため、急いで縄梯子を降ろしたが、掴みきれずに流された。
(ウ) 監理技術者らは、下流のNo.10、No.30人孔の蓋を開けて確認したが、流された作業員は発見できなかった。
(エ) 気象担当者がNo.22人孔に戻ったところ、下ろしていた縄梯子を使って、管内作業員1名が自ら上がって来たため、気象担当者らが介助して路上に引き上げた。
(オ) 監理技術者らは、再度下流部人孔の蓋を開け生存者を探したが、発見出来なかった。
3 事故発生の要因と課題
事故当日の降雨状況や、管内水位の変動状況から、今回の事故をもたらした主たる要因は、「突発的な局所的集中豪雨による急激な水位上昇」にあったものと考えられる。
これまでの雨天時の安全対策は、このような突発的な局所的集中豪雨による急激な水位上昇を想定したものとなっておらず、次のような事項が課題としてあげられる。
(1) 作業の中止基準
注意報、警報の発令や水位上昇に基づき設定されている作業の中止基準では、今回のような気象状況には対応できなかった。
(2) 気象情報の把握
リアルタイムに注意報、警報の情報を取得できる体制になっていなかった。また、気象担当者をはじめ工事関係者に、突発的な局所的集中豪雨などの気象に関する知識や、気象の急変が重大な事故に結びつくという認識が不足している。
(3) 退避の手順等
今回のような急激な水位の上昇を想定した退避手順や退避の方法等が示されていなかった。
(4) 安全対策
作業員が流されるなど、不測の事態に備えるための安全対策を充実する必要がある。
4 参考図
図1―1 豊島出張所の地上雨量計の観測結果
図1―2 関連施設の位置図
図1―3 施工区間図
図1―4 平面図
図1―5 縦断面図
【事例2】 雨水暗渠内における維持管理作業時の事故(広島市)
1 事故の概要
(1) 発生日時:平成17年8月10日(水) 午後2時30分頃
(2) 発生場所:広島市西区己斐中三丁目4―37地先付近 雨水暗渠内
(3) 被災者:男性1名(52歳)
(4) 施設概況:内径600×700~1,120/800×800
(5) 事故の概要:
暗渠補修作業のため暗渠内に仮設置していた土のう5袋が雨で流出したことから、土のうが暗渠断面を阻害している危険性が生じた。このため、職員が暗渠内に入り、流失した土のうを捜していたところ、突然の激しい降雨による出水で押し流され死亡した。
2 事故発生の経緯と状況
(1) 事故当日の状況
①天候と降雨状況
事故当日は、朝から広島県南部に大雨注意報が発令されており、局所的な強い雷雨も予想される状況であり、実際に昼過ぎにはかなり強い降雨があった。
②当日の作業
事故当日の朝、補修業者より下水道担当職員に、前日に暗渠の補修を完了したが押さえの土のうはまだ設置したままとの報告があった。昼頃に、かなりの降雨(10分間に6mm)があったため、午後、下水道担当職員が、状況確認のため現地に向かった。管渠内を確認したところ設置していた土のうが流失していたため、断面阻害による浸水被害の可能性があり、確認・撤去のため管渠内へ入坑した。
事故当時、管内では職員1名と、地上作業員1名の合わせて2名で作業を行っていた。
(2) 事故発生の状況
①事故発生直前の状況
(ア) 路上からの調査では土のうが確認できなかったため、管渠内に入って土のうを探し撤去することを職員二名で話し合った。
(イ) 昼過ぎの雨は上がっており、水流はほとんどなかったが、北の方に雨雲があったため、事務所職員と連絡を取り「雨雲が北にあり、西から東に動いている」との報告を受けた。
(ウ) 作業は短時間(20~30分)で終了できるため問題ないと考え、被災者となった職員は自らが暗渠内に入ることにした。
②事故発生時の状況
(ア) 被災職員は地上からのサポートを指示し、暗渠頂版の小さな開口部から地上職員と連絡を取り合いながら四つん這いの状態で下流側に向かい調査を続けた。
(イ) 調査開始後10分ほど(出口まで残り60m程度となったところで、雨が降り始め、直後に激しい雷雨となった。
(ウ) 坑内の職員が地上に出ようと地面に手をかけた瞬間、轟音とともに水深40cmほどの鉄砲水が襲ってきたため、地面に両手をつき上半身を乗りだすようにして踏ん張っていた。地上職員も引き上げようとしていたが、水流が強く流された。
3 事故発生の要因と課題
事故当日の気象状況や施設の構造から、次のような事項が課題としてあげられる。
(1) 気象状況の判断
事故当日は、朝から広島県南部に大雨注意報が発令されており、被災職員は、暗渠に入る前には雨雲の様子を区役所職員に電話で確認している。降雨の可能性は十分認識していたが、短時間の作業であれば大丈夫であると判断したことが、結果的には誤った判断となった。
(2) 暗渠の構造
事故が発生した暗渠は、団地造成時雨水幹線として設置されたものである。事故が発生した区間は勾配が5~12%という急勾配であり、事故時の水深は40cm程度であったが、相当の流速で水流が強く地上に這い上がることができなかったものと考えられる。
4 参考図
図1―6 位置図
図1―7 施設平面図
図1―8 災害発生状況図(流された地点)
参考資料―2 ヒヤリハット事例
(社)日本下水道管路管理業協会、及び(社)全国上下水道コンサルタント協会の協力を得て管渠内の急激な増水に関するヒヤリハット事例を収集した。その結果を整理し、事例を取りまとめたものを次に示す。また、これらの内から、代表例を抜粋して具体の内容を個別に示した。
なお、表2―1~2―4の事故回避要因カテゴリーは、下記の分類とした。
①水位上昇に至る予兆に早い段階で気付いた。
②地上作業員(若しくは人孔内の選任監視員)が異常に気づいた。
③人孔内の作業員が水位上昇の際に、早めに作業を中止した。
④資機材を残置して退避を優先した。
⑤退路が近かった、または確保されていた。
⑥その他
また、今後、ヒヤリハット事例を収集する場合には、5―1―2の記載様式の例を参考とされたい。
表2―1 ヒヤリハット事例(1/4)