○食品中の金属に関する試験法の妥当性評価ガイドラインについて
(平成20年9月26日)
(食安発第0926001号)
(各都道府県知事・各保健所設置市長・各特別区長あて厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知)
食品中の金属に関する試験法については、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号。以下「告示」という。)等により定められているところである。
今般、告示の第1食品の部D各条の「穀類、豆類及び野菜」の2(4)のうち、(2)に掲げる試験法と同等以上の性能を有すると認められる試験法及び食品中の金属に関する試験法について通知で示す試験法以外の方法(同等以上の性能を有すると認められる試験法を採用することが認められている場合に限る。)(以下「同等な試験法」という。)によって各試験機関において試験を実施しようとする際に試験法の妥当性を評価するためのガイドラインを、本年7月8日開催の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品規格部会における審議を踏まえ、別添のとおり策定した。
ついては、各試験機関において開発した試験法により試験を実施しようとする場合は、その試験法が本ガイドラインのそれぞれの基準に適応していることが確認されれば、同等な試験法とみなすこととするのでご了知願いたい。
また、告示等で定める食品中の各金属の試験法により試験を実施する場合についても、本ガイドラインを踏まえた妥当性評価を行うことに努めるよう関係者へ指導するとともに、本ガイドライン内容の周知方よろしくお願いする。
(別添)
食品中の金属に関する試験法の妥当性評価ガイドライン
1 趣旨
本ガイドラインは、食品中に存在する金属に関する試験法について、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号。以下「告示」という。)等に定める試験法以外の方法によって試験を実施する場合に、各試験機関がその試験法の妥当性を評価するための手順を示すものである。
なお,本ガイドラインは、機器分析法を対象とする。
注:ここに示す手順は、試験法の妥当性を評価する標準的方法の一例であり、国際的に認められた他の手順を使用することもできる。
2 本ガイドラインの対象
告示の第1食品の部D各条の「穀類、豆類及び野菜」の2(4)のうち、(2)に掲げる試験法と同等以上の性能を有すると認められる試験法及び食品中の金属に関する試験法について通知で示す試験法以外の方法(同等以上の性能を有すると認められる試験法を採用することが認められている場合に限る。)によって試験を実施するために、各試験機関において開発した試験法とする。
ただし、基準値が定められているものに適用(基準が「不検出」の場合は除く。)し、モニタリングやスクリーニングの為の試験法には適用しない。
3 用語の定義
本ガイドラインにおいて、用語の定義は次のとおりとする。
(1) 「選択性」とは、試料中に存在すると考えられる物質の存在下で、分析対象物を正確に測定する能力をいう。
(2) 「真度」とは、十分多数の試験結果から得た平均値と承認された標準値(添加濃度)との一致の程度をいう。
(3) 「精度」とは、指定された条件下で繰り返された独立した試験結果間の一致の程度をいう。
(4) 「併行精度」とは、同一と見なされる試料の測定において、同一の方法を用いて、同一の試験室で、同一の実施者が同一の装置を用いて、短時間のうちに独立した試験結果を得る条件(併行条件)による測定結果の精度をいう。
(5) 「室内精度」とは、同一と見なされる試料の測定において、同一の方法を用い、同一の試験室で、独立した試験結果を得る条件(室内条件)による測定結果の精度をいう。
(6) 「枝分かれ実験計画」とは、ある因子の全ての水準が、他の全ての因子の一つの水準だけに現れる実験の計画をいう。
4 評価の方法
食品毎に、妥当性を評価する試験法について、以下のパラメータを求め、それぞれの目標値等に適合していることを確認する。
(1) 選択性
試料についてマトリクス中の他金属による定量の妨害注1がないことを確認する。
妨害となる信号が認められる場合は、対象金属の信号の±1/10未満であることを確認する。
注1) 正の妨害だけでなく負の妨害についても確認する。妨害の確認は、希釈率の変更、測定波長あるいは測定質量数を変更することにより行える。妥当性確認を行った試料と元素組成が大きく異なる検体を試験する際には、試料について選択性を確認すること。
(2) 真度
濃度及びマトリクスが適切な認証標準物質を分析し、得られた分析値と認証値の比から真度を求める。または、分析対象とする金属を添加していない試料(ブランク試料)及びブランク試料に既知の量を添加した試料(添加試料注2)をそれぞれ5個以上を試験法に従って定量し、得られた定量値の平均値の差の添加量に対する比を求める。
真度の目標値は、表のとおりとする。
注2) 添加試料作成方法
分析対象金属濃度が基準値の1/2以下であることを確認した試料をブランク試料とし、基準値の1/2レベルの金属を添加する。
(3) 精度
分析対象金属濃度は、基準値濃度の1/10~2倍の範囲の濃度とする。認証標準物質、分析対象とする金属を含有する食品試料又は添加試料について分析をくり返し、定量値の標準偏差及び相対標準偏差を求め、併行精度及び複数の分析者又は分析日による室内精度を評価する。食品試料を用いる場合には、あらかじめ十分に均一化する必要がある。試行の回数は5回以上とする。枝分かれ実験注3により、併行精度と室内精度を同時に評価することが可能である。
併行精度及び室内精度の目標値は表のとおりとする。
注3) 室内精度評価のための枝分かれ実験
例1 分析者1名が試料各2個を5日間分析する実験計画
例2 分析者2名がそれぞれ試料2個を3日間分析する実験計画
表 各濃度毎の真度及び精度の目標値
濃度 (mg/kg) |
試行回数 (回) |
真度 (%) |
併行精度 (RSD%) |
室内精度 (RSD%) |
0.01<~≦0.1 |
5 |
80~120 |
15> |
20> |
0.1<~≦1 |
5 |
80~110 |
10> |
15> |
1<~≦10 |
5 |
80~10 |
10> |
15> |
10<~≦100 |
5 |
90~110 |
10> |
15> |
100< |
5 |
90~110 |
10> |
15> |
(別紙)
枝分かれ実験の解析方法(参考)
1 一般的な解析方法の考え方
(1) 分析者1名が、同一ロットの食品から作成した添加試料を1日N回、J日間分析する実験計画の場合、枝分かれ実験計画は下記のとおりとなる。
<枝分かれ実験計画>
(2) 一日当たりの試験回数、実験計画日数及び実験計画に従って分析を行い得られた分析値を用いて、一元配置の分散分析による解析を行い、試験法の評価に必要な併行精度及び室内精度を算出する。
<各測定値>
<一元配置の分散分析表>
変動要因 |
平方和 |
自由度 |
分散の期待値 |
日間 |
SRW |
J-1 |
VRW |
併行 |
Sr |
J(N-1) |
Vr |
合計 |
ST |
JN-1 |
|
注) 一元配置の分散分析は、市販の統計ソフトや表作成ソフトのツールを用いて、容易に行える。この場合、使用するソフトによって、分散分析表の各用語がこの例示と異なる場合があるので留意すること。
(平方和→変動、日間→グループ間、併行→グループ内 等)
各日における母平均の標準偏差をσd、併行標準偏差をσrとすると、併行精度及び室内精度は、次のとおり。
併行精度:σr (併行標準偏差) 室内精度:√(σr2+σd2) |
また、分散分析の結果から求められる分散の期待値とσd及びσrとの間には次の関係がある。
・VRW=σr2+Nσd2
・Vr=σr2
(σd2:各日における母平均の分散
σr2:併行分散
N:一日当たりの試験回数)
従って
・σr=√(Vr)
・σd=√((VRW-σr2)/N)
これらから、併行精度及び室内精度が求められる。
さらに、データの総平均を求め、それぞれの精度のRSD%を算出する。
併行又は室内精度(RSD%)=併行又は室内精度/データの総平均×100 |
(3) 判定
上記により求められた併行精度、室内精度のRSD%及び分析値をガイドラインの「表2 各濃度毎の真度(回収率)及び精度の目標値」に照らし、それぞれが目標値に適合しているか 否かを確認する。
(4) その他
① 内部精度管理で2回分析を行ったデータも同様に計算することが可能である。
② 分析者2名が、それぞれ添加試料を1日2回、3日間分析する枝分かれ実験計画(4(3)注2)の例2)において、試験者と試験日の効果をそれぞれについて判定する必要がない場合には、上記と同様に一元配置の分散分析により解析することが可能である。
この場合、上記参考例のJは測定者数(2名)と日間(3日間)の組合せの数(2×3=6)、Nは1日当たりの試験回数(2)となる.
2 具体的な解析事例
(例題)
分析者1名が、同一ロットの食品から作成した添加試料を1日2回、5日間分析する枝分かれ実験計画を実施した場合
<枝分かれ実験計画>
<各測定値>
|
1日 |
2日 |
3日 |
4日 |
5日 |
1回目 |
0.0485 |
0.0512 |
0.0559 |
0.0391 |
0.0468 |
2回目 |
0.0436 |
0.0564 |
0.0587 |
0.0385 |
0.0446 |
(解析)
(1) 一元配置の分散分析を実施し、評価に必要なパラメータ(日間標準偏差及び併行標準偏差)を算出する。
<分散分析表>
変動要因 |
平方和 |
自由度 |
分散の期待値 |
日間 |
0.000426636 |
4 |
0.000106659 |
併行 |
0.000032045 |
5 |
0.000006409 |
合計 |
0.000458681 |
9 |
|
各日における母平均の標準偏差をσd、併行標準偏差をσrとすると、
・σr2=Vr=0.000006409 ∴ σr=0.00253
・σd2=(VRW-σr2)/N=(0.000106659-0.000006409)/2=0.000050125
∴ σd=0.00708
従って
・併行精度:σr=0.00253
・室内精度:√(σr2+σd2)=√(0.002532+0.007082)=0.00752
データの総平均は0.0483なので、それぞれの精度のRSD%は、
・併行精度(RSD%)=0.00253/0.0483×100=5.2%
・室内精度(RSD%)=0.00752/0.0483×100=15.6%
(2) 判定
各分析値は、0.01<~≦0.1の範囲にあるので、併行精度(RSD%)は15>、室内精度(RSD%)は20>の範囲になければならない。
上記の結果から、併行精度、室内精度ともにこの目標値に適合しているので、今回、導入しようとする試験法は妥当なものと評価される。