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○マイクロドーズ臨床試験の実施に関するガイダンス

(平成20年6月3日)

(薬食審査発第0603001号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)

マイクロドーズ臨床試験については、総合科学技術会議報告書「科学技術の振興及び成果の社会への還元に向けた制度改革について(平成18年12月)」及び厚生労働大臣の検討会報告書「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会報告書(平成19年7月)」において、その指針を早急に検討・公表すべき旨の指摘があったところであり、その指針について、厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学研究事業「我が国における探索的臨床試験等のあり方に関する研究」(主任研究者 大野泰雄 国立医薬品食品衛生研究所副所長)において検討がすすめられてきました。

今般、「我が国における探索的臨床試験等のあり方に関する研究」の研究結果を踏まえて、別添のとおり「マイクロドーズ臨床試験の実施に関するガイダンス」を作成いたしましたので、貴官下関係業者及び医療機関等に対して周知いただきますよう御配慮願います。

なお、本ガイダンスは、現時点における科学的知見に基づく基本的考え方をまとめたものであるため、今後、科学技術の進歩等に応じて随時見直され、改訂されるべきものであることにご留意願います。

(別添)

マイクロドーズ臨床試験の実施に関するガイダンス

1.基本的考え方

治験については薬事法(昭和35年法律第145号。以下「法」という。)第2条第16項にその定義が定められており、「法第14条第3項の規定により承認申請に際して提出すべき資料のうち、臨床試験の試験成績に関する資料の収集を目的とする試験の実施のこと」とされている。

医薬品開発の過程でマイクロドーズ臨床試験が実施された場合、将来的な医薬品の承認申請時に当該試験結果を提出する必要があることから、法に基づく治験として「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年3月厚生省令第28号。以下「GCP省令」という。)」その他の関係法令を遵守する必要がある。

本ガイダンスは、これら関係法令を遵守することを前提に、マイクロドーズ臨床試験実施に際しての留意事項その他の基本的考え方についてとりまとめたものである。

なお、本文書に挙げた各事項は、現時点における科学的知見に基づいて検討されたものであり、今後の科学技術の進歩等に応じて改訂されることに留意する必要がある。

(1) 定義及び適用範囲

マイクロドーズ臨床試験とは、ヒトにおいて薬理作用を発現すると推定される投与量(以下「薬効発現量」という。)の1/100を超えない用量又は100μgのいずれか少ない用量の被験物質を、健康な被験者に単回投与することにより行われる臨床試験をいう(注1―1)。

本ガイダンスは、主として低分子化合物を適用範囲としている。なお、生物由来製品又は体内で如何なる受容体が関与するか十分な知見が得られていないものなど従来の医薬品とは全く異なる作用機序による薬理作用を期待した化合物を投与する場合については、個別にその安全性等についての考察が必要であり、本ガイダンスをそのまま適用することはできない。

注1―1:抗がん剤など、まれに薬効発現量よりも最大無毒性量(NOAEL)の方が少ない場合がある。最大無毒性量(NOAEL)については、拡張型単回投与毒性試験(「2.マイクロドーズ臨床試験の実施に当たり必要な非臨床試験等の範囲」参照)により明らかにすることとしているが、薬効発現量よりも最大無毒性量(NOAEL)の方が少ない場合には、最大無毒性量(NOAEL)の1/100を超えない用量又は100μgのいずれか少ない用量をマイクロドーズ臨床試験の最高用量として採用すべきである。

なお、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH:International Conference on Harmonisation of the Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use)においては、平成18年度より「The ICH Guideline on Non-clinical Safety Studies for the Conduct of Human Clinical Trials for Pharmaceuticals (医薬品の臨床試験のための非臨床試験の実施時期についてのガイドライン)」の改訂作業の中でマイクロドーズ臨床試験に関する検討を行っている。その検討に当たっては、被験物質を反復投与してPositron Emission Tomography(PET)により測定するなどの手法についても俎上にのぼっており、今後、ICHにおいてガイドラインが合意された場合、それに合わせて本ガイダンスの改訂を検討する予定である。

(2) 目的

マイクロドーズ臨床試験実施の目的は、被験物質のヒトにおける薬物動態に関する情報を医薬品の臨床開発の初期段階に得ることである。具体的には、被験物質の吸収や血中動態、排泄特性、ヒトにおける代謝物プロファイル等を明らかにすること、分子イメージング技術を用いて被験物質の体内における局在に関する情報を得ること等である。

(3) 測定方法

マイクロドーズ臨床試験における主な被験物質測定法としては、以下の方法がある。

① 14C等の放射性同位元素で標識した被験物質(以下「放射性標識体」という。)を被験者に投与し、例えばAccelerator Mass Spectrometry(AMS:加速器質量分析法)を用いて血液中(又は尿中若しくは糞中)の濃度を測定し、被験物質の未変化体や代謝物の薬物動態学的情報(AUC、T1/2、Cmax、Tmax、分布容積、初回通過効果、生物学的利用率、尿糞中排泄率等)を得る。

② 放射性同位元素で標識しない被験物質を被験者に投与し、高感度の液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS:Liquid Chromatograph/Mass Spectrometry/Mass Spectrometry)等により未変化体や代謝物の薬物動態学的情報を得る。

③ 被験物質を11C、13N、15O、18F等のポジトロン放出核種で標識し、Positron Emission Tomography(PET:陽電子放射断層撮影法)を用いて、被験物質の臓器・組織での分布画像を経時的に測定する。又は被験物質を123I、99mTc、111In等で標識し、Single-Photon Emission Computed Tomography(SPECT)を用いて同様に測定する(注1―2)。

注1―2:以下、「PET」はSPECTを含むものとして記載する。

2.マイクロドーズ臨床試験の実施に当たり必要な非臨床試験等の範囲

マイクロドーズ臨床試験の実施に当たっては、原則として、事前に少なくとも以下の非臨床試験を実施すべきである(注2―1)。

(1) 拡張型単回投与毒性試験

一種類のほ乳類の雌雄を用いた拡張型単回投与試験について、対照群を設けた上で実施する。当該試験の実施により、当該被験物質の実験動物に対する最大無毒性量(NOAEL)及び最小毒性発現量を確立するか、又はマイクロドーズ臨床試験における当該被験物質の投与量に関する適切な安全域(margin of safety;通常、体表面積換算で100倍以上)を確立する必要がある。この場合の毒性としては、期待する薬理作用との関連性如何に関わらず毒性を評価すべきであり、毒性が発現した場合には最大無毒性量(NOAEL)及び最小毒性発現量設定の根拠とすべきである。

投与経路としては、当該被験物質のマイクロドーズ臨床試験における予定投与経路とする。なお、当該被験物質のマイクロドーズ臨床試験における予定用量に対し、体表面積換算でその1000倍量を用いても毒性が認められない場合、当該1000倍量を拡張型単回投与毒性試験の上限用量としても差し支えない。

観察期間は2週間とし、毒性徴候の種類、程度、発現、推移及び可逆性について、用量及び時間との関連で観察し記録する。また、適切な時期(通常、投与翌日及び2週間の観察期間終了時)に血液検査、血液生化学検査及び病理組織学的検査を行う。なお、病理組織学的検査については、高用量群に組織学的変化がなければ、対照群及び高用量群のみ行うことで差し支えない。

(2) その他の非臨床試験

① 局所刺激性については、マイクロドーズ臨床試験の実施前に評価しておく必要があるが、拡張型単回投与毒性試験における投与局所等の観察により局所刺激性の評価が可能であれば、改めて試験を実施する必要はない。

② 遺伝毒性試験については、必ずしもマイクロドーズ臨床試験の前に評価を終了しておく必要はない(注2―2)。

③ 薬理作用に関し、マイクロドーズ臨床試験の実施前に、安全性薬理試験を終了させておくことは必ずしも必要ではないが、適切なin vivo/in vitro試験により、治療標的に関連した薬理作用など、被験物質の主たる薬理作用について明らかにしておく必要がある。また、薬効発現量を明らかしておくことが必要である。(「3.最高投与量設定の方法」参照)。

④ 放射性標識体を用いる場合は、放射線被ばくのレベルとその安全性に関する評価を事前に終了しておく必要がある。

(3) 留意事項

拡張型単回投与毒性試験や(2)①の局所刺激性試験を実施する場合など、安全性に係る非臨床試験の実施に当たっては、「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年厚生省令第21号。GLP:Good Laboratory Practice)」を遵守する必要がある。また、実施された非臨床試験の結果は、当該被験物質に係るマイクロドーズ臨床試験その他の治験実施の科学的根拠として位置づけられるものでなければならない。

注2―1:注1―1で記載のとおり、現在、ICHでは「医薬品の臨床試験のための非臨床試験の実施時期についてのガイドライン」の改訂作業を行っており、その結果に基づき、事前に必要とされる非臨床試験の範囲は変更される可能性がある。

注2―2:Munroら(1996)1)の解析に基づき、FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives(JECFA)は食品用香料の摂取が1.5μg/day(約30ng/kg)以下であれば、一生涯摂取しても安全性の懸念はないとした(WHO Technical Report Series868,49threport of the Joint FAO/WHO expert Committee on Food Additives)2)。マイクロドーズ臨床試験における投与量の上限は100μg(約2μg/kg)であるが、これは、1.5μg/dayを一生涯摂取した場合の暴露量(50年として、約550μg/kg)と比較しても100分の1以下である。この考え方を基礎にMullerら(2006)3)は遺伝毒性を有する医薬品中の不純物限度量について考察し、1ヶ月以下の暴露の場合の実質安全量を約120μg/dayとした。これに基づき、ICHのQ3Aの指針では一日摂取量が0.2mg以下の不純物については報告(承認申請書の添付資料への記載)、構造決定及び安全性確認の必要性はないとしている4)。このようなことを踏まえ、本ガイダンスは100μg以下の投与を対象としていることから、遺伝毒性の事前評価は不要とした。

3.最高投与量設定の方法

マイクロドーズ臨床試験における一回当たりの最高投与量としては、薬効発現量の1/100を超えない用量(薬効発現量よりも最大無毒性量(NOAEL)の方が少ない場合には最大無毒性量(NOAEL)の1/100を超えない用量)又は100μgのいずれか少ない用量としているが、薬効発現量の推測方法として代表的なものとしては、以下の2つの方法がある。

(1) 経験的な方法

動物における薬効発現量をもとに体表面積換算することにより、ヒトでの薬効発現量を推定する方法(注3―1)。

(2) 薬物動態学的情報を用いる方法

薬効発現の作用機序等により異なるが、最大血中濃度(Cmax)又は血中濃度時間曲線下面積(AUC)を基準に推定する方法(注3―2)。

注3―1:体表面積換算については、米国食品医薬品庁(FDA:Food and Drug Administration)の初回投与量設定法のガイダンス5)において採用されている。また、FDAの探索的IND研究に関するガイダンス6)においても用いられている。欧州医薬品庁(EMEA:the European Medicines Agency)のマイクロドーズ臨床試験に関するポジションペーパー7)によると、限界用量(limit dose)の設定のための拡張型単回毒性試験結果をヒトへ外挿する方法(allometric scaling)としては、体表面積を考慮することとされている。これらのことから、現在、体表面積換算による方法は薬効発現量を推定する方法として一般に採用されているものと考えられる。しかしながら、この予測方法はあくまでも経験則であり、精度の高い予測法とは言い難い。動物を用いたin vivoデータ及びヒト組織や細胞を用いたin vitroデータ等を総合的に評価して有効血中濃度が予測可能であれば、より精度の高い方法として、次の注3―2の方法が推奨される。

注3―2:ここでは、Cmaxを基準に推測する方法について解説する。まず、適切な動物での薬効発現量における最大血中濃度(Cmax)を求める。血漿タンパク結合について、動物とヒトとの種差を補正し、ヒトでの薬効発現量におけるCmax(ヒト推定Cmax)を推定する。(この方法は、動物もヒトも血漿タンパクと結合していない遊離型で薬効を発現すると仮定している。なお、遊離型、結合型それぞれの作用発現への寄与が不明の場合には、タンパク結合を補正した場合としない場合の両者を計算し、より低い方を採用する。)。更に、動物における分布容積及び動物及びヒトにおける血漿タンパク結合情報をもとにヒトにおける分布容積(Vd)を推定する。最後に、ヒト推定CmaxとVdの積から、ヒトでの薬効発現量を計算する。

なお、Cmaxでなく、AUCを薬効の指標として用いる場合も、動物で薬効が得られた際の遊離型AUCと同じ遊離型AUCでヒトも薬効を示すものとして、投与量を推定し、遊離型、結合型それぞれの作用発現への寄与が不明の場合には、タンパク結合を補正した場合としない場合の両者を計算し、より低い方を採用する。

4.放射性標識体による被験者の内部被ばくに対する考え方

(1) AMSを用いる場合

放射性標識体による被験者の内部被ばくに関し、AMSを用いる場合に使用する14Cについては、一般に、自然界に存在する放射能による被ばくを超えない範囲で試験を実施しうることが知られており、国際放射線防護委員会(ICRP:International Commission on Radiological Protection)による勧告8)で示された「一般公衆の年間被ばく線量限度」以下で実施可能である。このような場合においても、被験者の内部被ばくについて適切に評価すべきである。(注4―1、注4―2)

注4―1:14C及びポジトロン核種の体内被ばく線量を予測・評価する方法としては、一般に、米国核医学会(The Society of Nuclear Medicine)の内部被ばく委員会(MIRD:Medical Internal Radiation Dose Committee)により提唱されたミルド法(MIRD Dose Estimate)9)により行うが、これまでの研究から、高感度の質量分析装置であるAMSを用いる場合には、ヒトに投与するRI量も500nCi(18.5kBq)以下で十分目的を達するといえる。なお、採用した方法及び内部被ばく線量の評価については、治験薬概要書に明記されるべきである。

ICRPの体内動態モデルとしては、ヒトへの14C放射性標識体による内部被ばくについてのモデルが年齢群別に提唱されている。このモデルでは、体内における14Cは全組織に急速にかつ均一に分布し、成人では半減期40日で消失するとされている。ICRPは、1Bqの14C標識有機化合物を経口摂取したときの実効線量(Sv)及び線量係数(Sv/Bq)について、成人に対して5.8E―10(Sv/Bq)としている10)。一般に、医薬品は体内の臓器・組織に不均一に分布し、医薬品の半減期として4日以内に体内から消失するが、仮に全ての14C放射性標識体がこのモデルに従うとして、成人に500nCi投与した場合の実効線量は、10.7μSvと計算される。このことから、14Cで標識した放射性標識体を500nCi以下投与した場合の被ばく線量は、ICRPによる一般公衆の年間被ばく線量限度(1mSv)以下であり、かつ自然界から受ける年間被ばく線量よりもはるかに低く、当該放射性標識体の投与による健康影響はないものと考えられる。なお、ICRPでは、未成年者等について、成人とは異なる生物学的半減期及び線量係数を定めているので、小児等の成人以外の集団でマイクロドーズ臨床試験を実施することが必要不可欠な場合には、特に慎重に被ばく線量の評価を行うべきである。

注4―2:AMSを用いる場合に使用する14Cについては、我が国の「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和32年法律第167号、以下「障防法」という。)」第2条第2項に基づく放射性同位元素の下限数量以下の用量で実施可能である。すなわち、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令(昭和35年9月30日政令第259号)」第1条及び「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件(平成12年科学技術庁告示第5号)」によると、14C(一酸化物及び二酸化物を除く)については下限数量10MBqかつ濃度10Bq/mgを超えるものを障防法に規定する放射性同位元素として同法による規制の対象としているが、AMSを用いるマイクロドーズ臨床試験については当該下限数量以下の用量で実施可能である。

(2) PETを用いる場合

PETを用いる場合に使用する11Cその他のポジトロン放出核種については、個別のマイクロドーズ臨床試験の実施計画ごとに、被ばく線量の安全性を評価すべきである(注4―1)。

(3) その他

上記(1)、(2)のいずれの場合についても、内部被ばく線量の推定及びその評価にあたっては、以下二つの側面から検討すべきである。

① ヒト内部被ばく量推定を目的に、実験動物を用いた体内分布等の測定(動物種・例数・投与量等を勘案)(注4―3)

② 上記①の実験動物による内部被ばくデータに基づき、ヒト内部被ばく線量の推定(用いる核種に対応する内部被ばく線量推定計算)(注4―4)

注4―3:放射性標識体をヒトに投与した際の内部被ばく量推定に関し、特に14C放射性標識体については、有色ラットに当該被験物質を予定投与経路にて投与して、経時的に各臓器・組織中の放射能濃度を測定することが適切である。この動物体内分布試験に関する標準的試験方法に関する既存のガイドラインは見あたらないが、一般的なものとしては、以下のような方法がある。

① まず、定性的に放射能濃度の高い臓器・組織を特定するために、適当な時間間隔(以下「1時点」という。)を定め、14C放射性標識体を投与した時点を0時点とする。1時点1匹の動物を安楽死させ、凍結し、全身の薄切片を作成してX線フィルム又はイメージングプレートにより放射能の分布画像データを取得する。これを10時点程度実施し(投与後3日又は7日などの長時間を含める)、特に長期間残留する傾向のある臓器・組織を確認する。

② 上記①の方法により放射能濃度を定量的に測定すべき臓器・組織を選定した後、1時点3~5匹の動物を用いて、上記①と同様のプロトコールに従い14C放射性標識体を投与、安楽死させ、解剖し、各臓器・組織中の放射能濃度を測定する。解剖して臓器・組織を摘出する代わりに、全身切片を用いた分布画像データを定量化して放射能濃度を測定する方法を採用してもよい。また、PETを用いる放射性標識体の場合にはPETによる測定そのものを実施することにより、動物における体内分布データを容易に得ることが可能である。

注4―4:実験動物の体内分布データを用いて動物での内部被ばく線量を求め、放射性標識体を投与した時のヒトにおける内部被ばく線量を推定し、これに安全性を考慮した係数を乗ずることによりヒトでの内部被ばく線量の上限値を推定することが可能であるが、いかなる計算方法を採用すべきかについては、核種の種類により異なるものである。実験動物とヒトとでは薬物動態に種差が存在することから、薬物動態学的な手法により種差を補完するよう、計算方法を改良することも考えられるが、現時点では、ヒト内部被ばく量推定のためにいかなる国際的に認められた方法を選択するかについては、個別に専門家の意見を求めるべきである。

5.被験物質の品質管理に対する考え方

(1) 基本的考え方

マイクロドーズ臨床試験において使用する被験物質のうち、標識していない被験物質については、「2.マイクロドーズ臨床試験の実施に必要な非臨床試験の範囲」で求めている試験で用いたものと同一ロットで実施することが望ましい。また、「治験薬の製造管理及び品質管理基準及び治験薬の製造施設の構造設備基準について(平成9年3月31日付け薬発第480号。以下「治験薬GMP」という。)」の遵守が求められる(注5―1,5―2)。更に、ポジトロン放出核種放射性標識体については、放射性半減期が極めて短いために、14C放射性標識体や標識していない被験物質とはその製造方法や使用する設備等が異なる。このような状況を踏まえ、マイクロドーズ臨床試験に用いる被験物質の品質管理については、以下の考え方を基本とすべきである。

① 放射性標識体の製造方法について、標識していない被験物質の製造方法と異なる工程がある場合、標識していない被験物質の品質管理を基本として、特に未知の不純物の有無や不純物プロファイルを検討するなど、当該製造工程の差異が品質にいかなる影響を及ぼすかについて検討する必要がある(注5―3)。また、放射性標識体が適切な放射化学的純度を有していること、不純物に有意な放射活性がないことの確認等を行う必要がある。

その場合、前者の不純物に係る検討については、関連するICHのガイドライン(ICHQ3A)4)の考え方を参考にするとともに、前者及び後者の放射性純度等について、必要に応じ、非放射性原料を用いて放射性標識体の合成と同じ方法で一連の製造の実施(いわゆる「コールド・ラン」)を検討すべきである。

② 放射性標識体による非臨床試験の実施が困難な場合、標識していない被験物質による非臨床試験の結果は、厳密には放射性標識体そのものに関する結果とは言い難い。このような場合、上記「4.放射性標識体による被験者の内部被ばくに対する考え方」に基づく内部被ばくに関する評価及び上記①の品質管理を行うことにより、当該放射性標識体と標識していない被験物質は同等のものとして取り扱い、標識していない被験物質に係る非臨床試験に関する知見をもって放射性標識体に外挿するとの考え方に基づきマイクロドーズ臨床試験を実施する必要がある。このことについては、欧米においても同様の考え方に基づきマイクロドーズ臨床試験が実施されている。

③ マイクロドーズ臨床試験に用いる被験物質については、繰り返し何回も製造せずに1回の製造で必要量を賄う場合がある。このような場合の品質管理としては、繰り返しの大量生産を前提としたバリデーションによるのではなく、ベリフィケーションの実施が妥当と考えられる場合もあり、工程ごとにその妥当性を検証した上で実施すべきである。その詳細については現在検討中の治験薬GMPの関係規定を参考とすべきである。

注5―1:治験薬GMPについては、「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会報告書(平成19年7月27日)」において「治験の特性を考慮した品質確保が可能となるよう、見直しを図ることが必要である」との指摘を受け、必要な見直しを行っているところであり(平成20年5月末現在)、見直し後の治験薬GMPを遵守すべきである。

注5―2:治験薬のGMPに係る欧米の状況として、FDAは、2004年、今後のGMPについて”risk-based approach(リスクの高低に応じ厳格な対応を求める考え方)”を基本的考え方とする報告書11)をとりまとめた。ICHにおける品質に関するガイドライン検討に際してもFDAはこの考え方に基づき議論に臨んでいる。なお、FDAは、2006年、治験の第Ⅰ相試験に用いる治験薬のGMPに関し、従来よりも柔軟な対応のあり方について、具体的にガイダンス案12)により示したが、未だ最終決定されていない。また、EMEAの2005年のガイドライン13)によると、治験薬の品質管理としては、GMPの全ての規定が適用されるものではなく、開発段階に応じた柔軟な管理が求められるべき旨言及している。

注5―3:ポジトロン放出核種放射性標識体については、その製造に当たり自動合成装置を使用するなど、一般に標識していない被験物質と同一の製造工程とはならない。特に自動合成装置を使用する場合、装置全体が閉鎖系になっていることが多いことなど、治験薬GMPで求められているバリデーションの実施等は事実上困難である。なお、治験薬GMPにおいて規定されているバリデーションとは、治験薬製造に係る構造設備及び手順、工程その他治験薬の製造管理及び品質管理に関する方法が期待される結果を与えることを検証し、これを文書化するものである。このことにより、目的とする品質に適合する治験薬を恒常的に製造できることとなる。

(2) 測定方法に応じた留意事項

マイクロドーズ臨床試験に用いる被験物質の品質管理に当たっては、その測定方法の違いに応じて、以下の点に留意する。

① AMSで測定する場合

この場合、14C放射性標識体としての投与量は、通常、10-18g以下と非常に微量であることから、被験者に投与する被験物質としては、14C放射性標識体を標識していない被験物質で希釈して製造する。このため、これらの品質管理に当たっては、治験薬GMPを遵守する必要があるが、当該希釈工程の品質管理については、ベリフィケーションによることが適切と考えられる。また被験物質を静脈内投与する場合、14C放射性標識体を標識していない被験物質で希釈するプロセスを含め、投与するまでの一連の過程内で無菌性を担保する品質管理が必要である。

② LC/MS/MSで測定する場合

この場合、放射性標識体ではなく、標識していない被験物質を微量、被験者に投与することから、その品質管理に当たっては、治験薬GMPを遵守する必要がある。

③ PETで測定する場合

この場合に用いる放射性同位元素としては、11C、18Fその他のポジトロン放出核種であり、その半減期は極めて短い。したがって、当該放射性標識体の品質管理については、可能な限り治験薬GMPを遵守した上で、以下の事項を実施することが必要である。

ア 目的とする放射性標識体の標識前の化合物(前駆体)の純度を確認する。

イ 目的とする放射性標識体及び放射性を有しない同種の元素を被験物質に標識した化合物(例えば、目的とする被験物質が18F放射性標識体である場合、18Fの代わりに放射性を有しない19Fを標識したもの)をそれぞれ合成し、LCやLC/MS等を用いて、両者の保持時間が一致することを確認するなど、両者の同一性を確認する。

また、PETで測定する場合、半減期が極めて短い核種を用いることから、最終製剤で確認できる検査項目は限られており、その実施に当たっては以下の点に留意すべきである。

ア 製造工程において、エンドトキシンその他の不純物が混入しないよう、必要な品質管理を行う。

イ 無菌試験などの生物学的検査について、治験薬GMPでは、通常、ロットごとに被験者への投与前の試験実施を求めているが、PETで測定する場合、その半減期が短いことなどから、マイクロドーズ臨床試験の実施前に無菌試験を完了することが困難と考えられる。この場合、マイクロドーズ臨床試験実施前にバリデーションやベリフィケーションなどの適切な方法により当該無菌工程に問題がないことを確認し、全てのロットについて無菌試験を実施することとした上で、無菌試験の完了前にマイクロドーズ臨床試験を実施する。

ウ 従来の工程に重要な製造工程の追加・変更を行う場合、治験薬GMPを遵守するほか、変更後の製造工程により得られた被験物質について、追加変更した製造工程の影響を勘案し、必要な非臨床試験をあらためて実施する。

エ 合成装置を用いて製造する場合、当該装置を閉鎖系にするなど、適切な品質管理を実施すべきである(注5―4)。

注5―4:FDG製剤(18Fで標識したフルオロデオキシグルコース製剤)の品質管理に関しては、日本核医学会及び日本アイソトープ協会がそれぞれ基準14,15)を定めている。また、これら基準以外にも、研究用に繁用されている基準16)がある。これらは、FDGなど使用経験の多い製剤に関する自主基準として位置づけられるものであり、マイクロドーズ臨床試験の対象となる被験物質に対しては個別状況に基づきあらためて必要な品質管理の手法を検討すべきである。

(3) 治験薬の交付

ここでは、被験物質の委託製造と関連して、その交付に関する主な留意点について述べる。

① 治験依頼者は、GCP省令第17条第1項の規定に基づき、当該治験依頼者の責任のもとで、治験薬の品質確保、運搬及び受領を確実に行うことを前提に、外部事業者又は実施医療機関等の第三者に被験物質の交付を委託することが可能である。

② なお、委託に当たり、治験依頼者は第三者との間で文書により契約を締結するなど必要な措置を講じておくべきである。契約に当たっては、例えば、当該委託に係る業務の範囲、業務の手順、当該委託に係る業務が適正かつ円滑に行われているかどうかを治験依頼者が確認できる旨等について規定するべきである。

6.その他の留意事項

マイクロドーズ臨床試験については、法に基づく治験としてGCP省令その他の関係法令を遵守する必要がある。以下に関連する留意事項について述べる。

(1) 実施体制及び審査体制

マイクロドーズ臨床試験を立案・計画する治験依頼者は、本ガイダンスに基づき、個々のマイクロドーズ臨床試験に特有の留意点に十分配慮しつつ、治験実施計画書を作成する必要がある。

治験依頼者は、適切な実施医療機関及び治験責任医師の選択を含め、マイクロドーズ臨床試験を円滑かつ安全に実施するための試験実施体制を構築しなければならない。

また、治験審査委員会は、倫理的、科学的及び医学・薬学的観点から十分な審議を行うとともに、試験実施又は継続の可否等について的確に判断する必要がある。そのためには、治験審査委員会においては、内部被ばくに関すること、用量設定に関すること、測定機器に関することその他のマイクロドーズ臨床試験に特有の事項についても十分な検討がなされる必要があり、必要に応じ以下の方策を採るべきである。

① 治験審査委員会に専門家の出席を求め、意見を聴取する(GCP省令第28条)。

② 外部の治験審査委員会を活用し、マイクロドーズ臨床試験の実施に必要な調査審議を一元的に当該治験審査委員会で行う又は治験審査委員会より外部治験審査委員会に特定の専門的事項の一部又は全ての調査審議を依頼する(GCP省令第30条)。

(2) 被験者の選定及び適格基準

被験者の選定及び適格基準の設定については、通常の治験と同様に明確な規定を設けるべきである。また、他の治験との重複参加を避ける、適切な休薬期間を置く等の基準を設ける必要がある。

妊娠可能な女性、小児などに対してマイクロドーズ臨床試験を実施することはより慎重を期するべきであり、実施する場合には、少なくともこれらの集団に対して試験を実施することの妥当性について、その理由とともに治験実施計画書に明示するなどの措置を講じることが考えられる(注6―1)。

注6―1:被験者に対する被験物質そのものの影響及び内部被ばくの影響の双方について十分に検討する必要がある。また、本文に記載する妊娠可能な女性その他の特定集団に対するマイクロドーズ臨床試験の実施が必要となるケースとしては、当該集団に関し、薬物動態を知ることが必要である場合、卵巣、精巣への薬物分布をみることが必要である場合などが想定されるが、当該集団に対しては、例えば、集団の特性に応じ、安全係数を大きくとる、前提とする非臨床試験の項目を追加する、臨床試験実施前・後の検査項目を吟味し必要に応じ追加する、妊娠検査・避妊等の管理体制を厳格にする等の措置を必要に応じ講じるべきである。また、当該集団に対する内部被ばくの影響については、必要に応じICRPの勧告などについても参考にすべきである。このような検討結果等については、治験審査委員会で十分に審議すべきである。

(3) 被験者への説明と同意

被験者への説明と同意についてはGCP省令及び関連通知等に必要事項が定められているが、マイクロドーズ臨床試験においては、特に以下の点についてわかりやすい言葉で説明するよう、留意すべきである。

① 試験の目的を明確に説明すること(例えば、被験物質を投与して薬物動態等のデータを取得することにより第Ⅰ相試験実施の判断に資することを目的とする場合、その説明としては、「薬物動態のデータ収集」にとどまらず、「第Ⅰ相試験実施の判断に資すること」についても明確に説明すること)。

② マイクロドーズ臨床試験の特徴として、被験物質の投与量は極めて微量であり、そのため、事前に得られている動物実験等の非臨床試験データは第Ⅰ相試験の場合に比べ限定的である旨説明すること。

③ 放射性標識体を投与する場合、放射性物質による内部被ばくについて説明すること。(例えば、ア.日常生活レベルを超えない、イ.健康診断や日常的に受ける検査と同等又はそれ以下、ウ.これを僅かに超える程度など、具体的に説明すること。)

④ 試験の実施により健康被害が生じた場合の補償及び具体的な補償方法について説明すること。

(4) 行政機関への届出等

マイクロドーズ臨床試験の実施等に当たっては、法に基づき、行政に対する届出が必要である。また、治験薬に係る副作用等の報告も必要である。その詳細は法、GCP省令等の関係する規定を参照されたい。

① 治験計画の届出

マイクロドーズ臨床試験の実施に当たり、治験依頼者は治験計画届書を独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「総合機構」という。)に提出する必要がある(法第80条の2第2項及び第80条の3第4項、薬事法施行規則(昭和36年厚生省令第1号。以下「規則」という。)第269条及び第277条)。

また、治験計画を変更する場合には治験計画変更届書を提出する必要がある(規則第270条及び第277条)。

② 治験の中止・終了の届出

マイクロドーズ臨床試験の中止又は終了に当たっては、治験中止届書・治験終了届書を提出する必要がある(規則第270条及び第277条)。

③ 副作用等の報告

マイクロドーズ臨床試験の実施に当たり、治験依頼者等が被験物質に関する副作用等について知ったときは、定められた期間内に総合機構へ報告書を提出する必要がある(規則第273条及び第279条)。

7.引用文献

1) Munro et al,Correlation of structural class with no-observed-effect levels:A proposal for establishing a threshold of concern.Food and Chemical Toxicol.34,829-867,1996.

2) JECFA,WHO Technical Report Series868,49threport of the Joint FAO/WHO expert Committee on Food Additives)

3) M画像1 (1KB)別ウィンドウが開きます
ller et al,A rationale for determining,testing,and controlling specific impurities in pharmaceuticals that possess potential for genotoxicity.Reg.Toxicol.Pharmacol.44,198-211,2006.

4) 厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知;「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドラインの改訂について」(医薬審発第1216001号 平成14年12月16日)及び「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドラインの改訂について」の一部改訂について(薬食審発第1204001号 平成18年12月4日)

5) U.S.Department of Health and Human Services,Food and Drug Administration,Center for Drug Evaluation and Research(CDER).Guidance for industry,Estimating the maximum safe starting dose in initial clinical trials for therapeutics in adult healthy volunteers.21 July 2005.

6) U.S.Department of Health and Human Services,Food and Drug Administration,Center for Drug Evaluation and Research(CDER).Guidance for industry,investigators and reviewers,Exploratory IND studies.12 January 2006.

7) The European Agency for the Evaluation of Medicinal products.Evaluation of Medicines for Human Use(EMEA),Committee for Proprietary Medicinal Products(CPMP).Position paper on non-clinical safety studies to support clinical trials with a single microdose.

CPMP/SWP/2599/02/,23 January 2003.;Revised edition:

CPMP/SWP/2599/02/Rev1,London,23 June 2004

8) ICRP Publication 60 1990 Recommendations of the International Commission on Radiological Protection

9) Keith F.Eckerman and Akira Endo,MIRD:Radionuclide Data and Decay Schemes Society of Nuclear Medicine,New York 2008

10) ICRP Publication 72 Age-dependent Doses to Members of the Public from Intake of Radionuclides:Part5 Compilation of Ingestion and Inhalation Dose Coefficients.Ann ICRP 1996;26(1):1-91

11) U.S.Department of Health and Human Services,Food and Drug Administration.Pharmaceutical CGMPs for21st century-A risk-based approach:Final report.September 2004.

12) U.S.Department of Health and Human Services,Food and Drug Administration.Guidance for industry:INDs-Approaches to complying with CGMP during phase 1.(Draft Guidance)Jan 2006

13) European Commission Enterprise and Industry Directorate-General.The rules governing medicinal products in the European Union.Volume4.EU guidelines to good manufacturing practice,Medicinal products for human and veterinary use PartⅡ,Basic requirements for active substances used as starting materials.October 2005.

14) 日本核医学会.院内製造されたFDGを用いてPET検査を行うためのガイドライン.核医学2001;38:131―37.

15) 日本アイソトープ協会医学・薬学部会サイクロトロン核医学利用専門委員会.サイクロトロン核医学利用専門委員会が成熟技術として認めた放射性薬剤の基準(2001年改定版).RADIOISOTOPES 2001;50(5):190―204.

16) 日本アイソトープ協会医学・薬学部会サイクロトロン核医学利用専門委員会.サイクロトロン核医学利用専門委員会が成熟技術として認定した放射性薬剤の基準と臨床使用の指針.RADIOISOTOPES 1999;48(12):i―xxvi.

《参考》

マイクロドーズ臨床試験における放射性同位元素の取り扱い

マイクロドーズ臨床試験では放射性同位元素を使用することが多い。放射性標識体やこれらを含む被験物質の調製等治験薬の製造及び同臨床試験の実施に際しては、法のほか、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和32年法律第167号、以下「障防法」という。)」及び「医療法(昭和23年法律第205号)」が主に関連することから、参考として、これら法律による規制を概説する。なお、本稿はごく概括的な内容であり、またこのほかにも労働安全衛生法等により所要の規制がなされており、これらにも留意する必要がある。したがって、マイクロドーズ臨床試験を実際に行うにあたっては、必要に応じて関係する規制当局に相談するなどして、関連する法令等を十分に理解のうえ準備・実施することが必要である。

1.障防法、医療法の規制の概要

・ 障防法においては、一定の数量と濃度を超える放射性同位元素の取り扱いが規制されている。同法によれば、放射性同位元素の使用(放射性同位元素の製造、詰替え等)をしようとする者は、文部科学大臣の許可(使用許可)を受け、放射線取扱主任者の監督の下に、放射性同位元素の使用の他、保管、廃棄、他の許可使用者等のからの譲り受け、譲り渡し、記録の作成、保存等を行うことなどが義務付けられている。また、業として放射性同位元素を販売する場合には、文部科学大臣への届出が必要である。

・ 放射性同位元素を含む治験薬を製造する者は、その取扱う放射性同位元素が障防法に基づく下限数量及び一定の濃度を超える場合、同法に基づく許可を取得する必要がある。また、製造した治験薬を病院又は診療所(以下「病院等」という。)や治験依頼者に引き渡す場合には、販売業の届出が必要である。

・ 法上の治験に該当するマイクロドーズ臨床試験は、医療法で規定する病院等において実施されるが、病院等でのこれら放射性同位元素の取り扱いは、障防法ではなく医療法により規制される(医療法による規制については、障防法の場合と同様、一定の数量と濃度を超える放射性同位元素の取り扱いが規制の対象とされる。具体的には、都道府県知事への届出、使用場所の制限、使用、貯蔵、廃棄等の施設に関する構造設備基準などが規定されている。なお、二種類以上の異なった放射性同位元素を取り扱う場合、個々の数量及び濃度が一定の数量及び濃度を超えるかどうか勘案する必要があるほか、それぞれの放射性同位元素の数量の下限数量に対する割合の和が1を超える場合、障防法又は医療法に基づく許可又は届出を必要とする。)。

以下、マイクロドーズ臨床試験で多く使用が想定される核種に応じ、具体的な取り扱い等について説明する。

2.AMS用核種(主として14C)

・ この場合に主に使用される14Cは長半減期核種であり(半減期:5730年)、長期間の保管によっても実質上放射能は減衰しない。前述のように、障防法や医療法において放射性同位元素として規制の対象となるかどうかについては、放射性同位元素の数量及び濃度によって決まるが、例えばマイクロドーズ臨床試験に使用される非密封の14Cとしては、通常、一酸化物又は二酸化物以外のものとして、その総量が10MBq以上かつ10Bq/mg以上の場合に障防法上の放射性同位元素として規制される。したがって、総量が障防法で規定する下限数量10MBq又は濃度10Bq/mgのいずれかが下回る場合、別途、障防法に基づく使用の許可を受けている者を除き、規制の対象外となる。

・ 本文でも記載のとおり、AMSで測定する場合の14Cについては、ほぼ例外なく障防法又は医療法の規制対象を下回る数量又は濃度で十分実施可能である。したがって、治験薬の製造を行う施設は別として、本臨床試験を実施する病院等及びAMS測定施設については、その数量及び濃度のいずれかが規定以下であることを確認する必要がある。

・ 実際には、マイクロドーズ臨床試験に際し、障防法に基づく許可取得者の施設において14C標識化合物を合成しこれを含む治験薬の製造が行われ、治験依頼者を経由して治験実施施設である病院等に交付され、被験者に投与された後、血液等の検体がAMS測定施設に移送されることが一般に想定される。この場合の取り扱いとしては、次のように行うことが可能である。

(1) 14Cを含む治験薬の製造、運搬等

14Cを含む治験薬の製造については、一般に、治験依頼者や治験実施施設(病院等)とは別の、障防法に基づく許可取得者に委託されることが多いと考えられ、当該許可施設においては、障防法に基づく14Cの管理が行われる。当該施設で製造された14Cを含む治験薬の治験依頼者への引き渡しについては、当該治験薬に含まれる放射性同位元素が障防法に規定する数量又は濃度を超えない場合であっても、放射性同位元素の流通状況についてより確実に把握する観点から、当該許可取得者に対し、障防法に基づく販売業の届出を行うよう指導がなされている(注1)。

(2) 治験依頼者から病院等への交付

放射性同位元素を含む治験薬を治験依頼者が病院等へ交付することについては、当該治験依頼者が既に障防法に基づく許可を有する場合、その取扱う治験薬が障防法に規定する数量又は濃度を超えない場合であっても、当該許可取得者は障防法に基づく販売業の届出を行うよう指導がなされている。一方、当該治験依頼者が障防法に基づく許可を有しない場合、その取扱う治験薬が障防法に規定する数量又は濃度を超えない限り、病院等への交付に際して、障防法に基づく販売業の届出を行う必要はない。

(3) 病院等での扱い

治験依頼者から14Cを含む治験薬の交付を受けた病院等においては、当該病院等内で取扱う全ての14Cの数量及び濃度が常に医療法に規定する値を超えないよう管理する必要がある。一時的であっても数量及び濃度が規定値を超えると、当該病院等は医療法の規制対象となる。なお、規定する数量及び濃度を超えない限り、使用後の廃棄物については通常の医療廃棄物と同様に廃棄することが可能である(注2)。

(4) 病院等からAMS測定施設への移送

病院等からAMS測定施設への検体移送については、規定する数量及び濃度を超えない限り、その移送について障防法又は医療法の規制対象とはならない。なお、AMS測定施設においては、当該施設内で取扱う全ての14Cの数量及び濃度が常に障防法に規定する値を超えないよう管理する必要がある。

注1:「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律及び関係法令の施行について(平成17年6月文部科学省学術政策局原子力安全課放射線規制室事務連絡)」の別添1「放射線障害防止法及び関係政省令等の改正の内容」p22に以下のQAが掲載されている。

Q 許可使用者から許可使用者以外の者に下限数量以下の非密封線源を譲渡できるのか。

A

1.放射性同位元素の流通について、より確実に把握する観点から、販売業の届出を行った上での譲渡をお願いすることとしています。

2.特に、譲渡を継続して行う場合、(無償譲渡であっても)販売業の届出が必要です。譲渡を継続して行う行為は、通常、使用の目的の範囲外であり、「使用」としてはなじみにくいものです。このような行為は、販売業の届出のうえ、行うことが適切と考えます。

注2:放射性同位元素の数量及び濃度が障防法に規定する値を超えなければ、障防法に従って廃棄する必要はない。なお、廃棄しようとするものが感染性廃棄物など「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)」に定める産業廃棄物に該当する場合、当該規制に従う必要があることは、通常の医療廃棄物と同様である。

3.PET用核種

この場合に使用される放射性同位元素については、以下の観点から管理を行う必要がある。

(1) PETに用いるポジトロン放出核種は、半減期が極めて短い核種(11C:20分、18F:110分、13N:10分、15O:2分)であることから、多くの場合、①サイクロトロンを用いたポジトロン放出核種の製造、②同核種による放射性標識体の合成、③これを含む治験薬の製造、④治験薬の被験者への投与、の一連の行為が病院等内において行われることが想定される。

このうち、①サイクロトロンを用いたポジトロン放出核種の製造、②同核種による放射性標識体の合成及び③これを含む治験薬の製造については、治験依頼者から当該病院等に委託して行われるものである。これらの工程における放射性同位元素の管理については、病院等の中で行われたとしても医療法ではなく障防法に基づき行われるものであり、当該病院等は障防法に基づく許可を取得しなければならない。

また、当該治験薬はその製造後、④治験薬の被験者への投与のために、陽電子断層撮影診療用放射性同位元素使用室内に搬入されるが、当該室内の搬入以降の取り扱いについては医療法により規制される(注3、注4)。

なお、PET用の治験薬を廃棄する場合には、その半減期が極めて短いことから、一定期間、病院等内で保管して放射能の減衰を行い、医療廃棄物として取扱うことが可能である。

(2) ①サイクロトロンによるポジトロン放出核種の製造、②同核種による放射線標識体の合成及び③これを含む治験薬の製造について、これらが病院等内ではなく別の施設で行い、④治験薬の被験者への投与が病院等内で行われる場合(例えば、両施設が放射性同位元素の半減期の観点から時間的に近接する場合)、前者は障防法に基づく許可を取得した施設である必要がある。多くの場合、治験依頼者からの委託に基づき、当該施設は①②③の製造等を行うが、当該施設は、障防法に基づく販売業の届出を行った上で、当該治験薬を病院等へ交付することが可能である。また、この場合の病院等については、医療法により放射性同位元素の管理が行われる必要があり、当該病院等は当該治験薬を入手した後、(1)と同様、医療法に基づき対応する必要がある。

注3:「医療機関において調剤されるPET検査薬等の取り扱いについて(平成17年9月28日文部科学省科学技術政策局長・学術政策局原子力安全課長、厚生労働省医政局指導課長通知」参照のこと。

注4:病院等内で①②③の工程を行う施設は、障防法の使用許可取得を必要とするが、製造した治験薬を同病院等内の陽電子断層撮影診療用放射性同位元素使用室内に搬入する場合には、障防法の販売業に係る届出は不要である。

(了)