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○ゲノム薬理学を利用した治験について

(平成20年9月30日)

(薬食審査発第0930007号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)

医薬品開発に際してゲノム薬理学を活用することは、有効性の向上、重篤な副作用の回避など、より有用な知見が得られると期待されることから、医薬品の治験等においてゲノム・遺伝子解析を行う機会が今後多くなると考えられる。

治験を実施する際には、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年厚生省令第28号。以下「GCP省令」という。)を遵守することとされており、ゲノム薬理学を利用した解析を行う治験についても同様にGCP省令に従う必要があるが、得られた遺伝情報の中には、被験者のみならず、その血縁者の遺伝的素因を明らかにするものもあることから、その取扱いは十分留意する必要がある。

今般、ゲノム薬理学を利用する治験の実施に当たり照会が多い事項につき、Q&Aとして別添のとおりとりまとめたので、本Q&Aを踏まえ、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(平成16年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号。以下「ゲノム倫理指針」という。)も参考にして、ゲノム薬理学を利用した治験が科学的、倫理的に適正に実施されるよう貴管下関係企業等に周知方よろしくお願いする。

なお、本Q&Aは、「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第171号)で規定される製造販売後臨床試験においてゲノム薬理学を利用する場合にも参考にされるよう、あわせて周知願いたい。

(別添)

ゲノム薬理学を利用する医薬品の臨床試験の実施に関するQ&A

はじめに

医薬品開発において、薬剤応答の個人差とDNA、RNAの特性の変異(例えば遺伝子多型)との関連について検討するためにゲノム薬理学を活用することは、有効性の向上、重篤な副作用の回避など、より有用な知見が得られると期待されることから、医薬品の治験等においてゲノム・遺伝子解析を行う機会が今後多くなると考えられる。

これまで厚生労働省においても、製薬企業等が実施するゲノム検査等を利用した臨床試験の情報の提出を任意に依頼した(平成17年3月18日付け薬食審査発第0318001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「医薬品の臨床試験におけるファーマコゲノミクスの利用指針の作成に係る行政機関への情報の提供等について」)ほか、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)の合意に基づきとりまとめられたゲノム薬理学における用語集を承認申請等にあたり活用するよう通知したところである(平成20年1月9日付け薬食審査発第0109013号・薬食安発第0109002号厚生労働省医薬食品局審査管理課長・安全対策課長通知「ゲノム薬理学における用語集について」。以下「ゲノム薬理学における用語集」という。)。

医薬品開発のために治験を実施する際には、GCP省令を遵守することとされており、ゲノム薬理学を利用した解析を行う治験についても同様にGCP省令に従う必要があるが、得られた遺伝情報の中には、被験者のみならず、その血縁者の遺伝的素因を明らかにするものもあることから、その取扱いは十分留意する必要がある。

今般、ゲノム薬理学を利用する治験の実施に当たり照会が多い事項につきQ&Aをとりまとめたので、ゲノム薬理学を利用する治験の実施にあたっては、本Q&Aを踏まえ、ゲノム倫理指針も参考にして、科学的、倫理的に適正に実施されたい。

なお、本Q&Aは、「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第171号)で規定される製造販売後臨床試験においてゲノム薬理学を利用する場合にも参考にされたい。

Q1

治験において、以下のような治験薬の評価(薬物動態、有効性、安全性等)に係るゲノム・遺伝子解析を実施するための試料について被験者から提供を受けることは可能か。

① 治験実施時にゲノム・遺伝子解析の対象や実施時期が具体的に特定されているもの。

② 治験実施時にゲノム・遺伝子解析の対象や実施時期が具体的に特定されておらず、将来的に当該治験薬の評価に係る解析を実施しようとしているもの。

A1

いずれの場合でも、当該治験薬の評価に係るゲノム・遺伝子解析を実施するための試料について、被験者から提供を受けることは可能である。

この場合、被験者に対しては、上記の目的で解析を予定していることや、その時点で想定される解析対象遺伝子の範囲等をわかりやすく文書で説明し、ゲノム・遺伝子解析の実施に関しての同意を文書で得ておくことが必要である。ゲノム・遺伝子解析の実施に関しての同意については、治験の実施に関する同意の中又は別に取得することのいずれも可能であるが、治験の目的を十分考慮した上で、適切な方法を選択する。なお、当該同意の範囲内であれば、解析時に改めて被験者の同意を得る必要はない。また、提供を受けた試料は適切な匿名化を行うことが必要である。

具体的な取扱いに当たってはQ3以降を参考にされたい。

Q2

治験において、当該治験薬の評価とは関係ない、疾患関連遺伝子の探索等を目的としたゲノム・遺伝子解析を実施するための試料について、被験者から提供を受けることは可能か。

A2

当該治験薬の評価とは関係ないゲノム・遺伝子解析を実施するための試料について、被験者から提供を受けることは可能である。

この場合、Q1と同様に、被験者に対しては、上記の目的で解析を予定していることや、その時点で想定される解析対象遺伝子の範囲等をわかりやすく文書で説明し、ゲノム・遺伝子解析の実施に関しての同意を文書で得ておくことが必要である。同意に関しては、治験の実施に関する同意とは別に取得する。また、提供を受けた試料は適切な匿名化を行うことが必要である。

なお、解析自体は当該治験薬に係るものではなく、当該解析の実施は治験の枠組みではないことから、ゲノム倫理指針の遵守が求められる。

Q3

Q1及びQ2のような試料提供を含む治験の場合、当該治験を行うことの適否その他治験に関する調査審議は、治験審査委員会において行うことでよいか。

A3

治験に関する事項については、通常の治験と同様に、GCP省令に基づき治験審査委員会で調査審議を行う。なお、当該委員会は、ゲノム薬理学を利用する治験に関して適正に調査審議ができるような配慮がなされるべきである。

Q4

Q1のような試料提供を含む治験を行おうとする場合、治験実施計画書策定時に留意すべき事項は何か。

A4

治験実施計画書策定時点の科学的知見に基づき、ゲノム薬理学を利用する検討の目的やゲノム・遺伝子解析の詳細を治験実施計画書にできるだけ具体的に記載することが必要である。ゲノム薬理学の検討に係る計画を治験実施計画書とは別に作成することも可能であるが、この場合には、治験実施計画書に別で定める旨記載し、当該計画も治験実施計画書の一部として治験審査委員会の審査が必要となる。

また、Q1の②のような将来的にゲノム・遺伝子解析を実施しようとする場合であっても、ゲノム・遺伝子解析に関する事項を治験実施計画書へできるだけ具体的に記載する。

なお、治験実施計画書に記載すべき事項は、例えば以下のような事項が考えられるので参考にされたい。

・ ゲノム薬理学を利用する検討の目的(治験薬との関係等)

・ ゲノム・遺伝子解析を行う対象集団(解析対象が治験対象の一部に限定される場合はその条件等)

・ 試料の取扱い(提供を受ける量、提供を受ける方法、匿名化の方法、保存・廃棄方法等)

・ 検討方法(ゲノム・遺伝子解析の対象範囲、解析実施機関、実施(予定)時期等)

・ ゲノム薬理学を利用する検討に関して被験者の同意取得及び同意撤回に関する手続及び方法(試料やデータの取扱いを含む)

・ 遺伝情報の開示に関する事項(非開示にする場合はその理由)

被験者の同意を得る際の同意文書についても、上記のような事項を含む必要があるが、ゲノム薬理学を利用する検討の目的等が十分理解できるよう、被験者にとってわかりやすいように記載することが必要である。

Q5

ゲノム薬理学を利用する治験に用いる試料を匿名化する場合はどのようにすべきか。

A5

被験者から提供を受けた試料については、匿名化の方法を治験実施計画書等に明確に記載して適切に匿名化する。なお、その方法については、ゲノム薬理学における用語集の「2.3 ゲノムデータ及び試料のコード化分類」に基づき適切な方法を選択する。

Q6

ゲノム薬理学を利用する治験に用いる試料の管理はどのようにすべきか。

A6

適切な保管管理を行うために、治験依頼者は以下のような点を明確にし、その内容を治験実施計画書に記載する。

なお、試料の管理に係る詳細については、治験実施計画書とは別に定めることでも差し支えない。

・ 試料の匿名化に関する事項(匿名化の種類、実施方法等)

・ 試料の提供・運搬に関する事項(試料の提供が行われる機関、提供の方法等)

・ 試料の保存に関する事項(保存機関、保存方法、保存記録等)

・ 試料の廃棄に関する事項(廃棄機関、廃棄方法、廃棄記録等)

Q7

ゲノム薬理学を利用する治験において、被験者が、当該治験薬に係る自らのゲノム・遺伝子解析結果の開示を希望した場合はどのようにすればよいか。

A7

治験の枠組みにおける遺伝情報の開示方法の適切性については、治験審査委員会において審議することとなるが、個々の被験者の遺伝情報が明らかとなる試験に関して、被験者が開示を希望している場合には、原則として開示するなど、ゲノム倫理指針に基づき開示方法を検討する。

Q8

ゲノム薬理学を利用する治験を行うにあたり相談事項がある場合はどこに問い合わせるべきか。

A8

ゲノム薬理学を利用する治験に関する相談を希望する場合は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構における治験相談を活用されたい。