(ISO/DIS 8253.2、1986より)
注―大部分の通常の騒音計では、5dB以下の音圧レベルを測定するのは困難である。
【用語解説】
この検査法のため下記の語義を用いる。
注―( )内のJIS以下の記号、数値はJISで定められた語であることを意味し(文献4)、5)、6)参照)、また[用]の字は日本聴覚医学会用語に定められた語であることを意味している。
1.気導:音が外耳道の空気を通して内耳に伝えられること。(JIS Z8109―1986.4023.用)
2.音響カプラ:イヤホンやマイクロホンの校正に用いる、所定の形状及び容積の空洞をもつカプラ。(JIS Z8107―1984.2018.用)
カプラとは電気音響変換器や電気機械変換器の校正又は試験を行うために、二つの変換器を結合する装置である。(JIS Z8107―1984.2029.用)
注―音響カプラはJIS T1201―1982オージオメータに規定されている。
3.人工の耳(疑似耳):受話器の校正のために用いる装置で、耳科的に正常な人間の耳の平均的な音響インピーダンスに等価なインピーダンスを受話器に負荷するものである。校正されたマイクロホンを装備しており、受話器によって生じる音圧を測定する。(JIS Z8107―1984.2074.用)
注―人工の耳はIEC Publication 318に規定されている。
4.骨導:音が頭蓋骨を通して内耳へ伝えられること。(JIS Z8109―1986.4024.用)
5.骨導受話器:頭の骨を振動させて聴感を起こさせる受話器。(JIS Z8107―1984.2044用)
6.メカニカルカプラ(機械カプラ):規定された圧抵力でとりつけられた骨導受話器に、決められた機械インピーダンスを与えるように作られた装置で、機械電気変換器を装備し、骨導受話器とメカニカルカプラとの接触面の振動の力のレベルを測定する。(JIS Z8107―1984.2044.用)
注―メカニカルカプラはIEC Publication 373に規定されている。
7.耳科的に正常な人間:健康的であり、耳疾患の症状所見がなく、耳垢栓塞もなく、過度の騒音に被暴した経験もない18歳から30歳までの人間。
8.最小可聴(閾)値:音の感覚を生じさせることができる最小音圧の実効値。(JIS Z8109―1986.4006.用)
備考
1) 通常は、音圧レベルによって表す。
2) 通常は、その音に対して50%の確率で聞こえると判断されるレベルを採る。
3) 通常は、周囲騒音が無視できる場合を指す。
4) 最小可聴(閾)値には、自由音場におけるものと片耳受話器を用いて測定するものとがある。
5) 最小可聴(閾)値は、音の性質、聞かせる手続き、音圧を測定した位置などにも影響されるから、必要な場合には測定条件を明記する。
9.等価閾値音圧レベル(単耳聴):特定の耳について、定められた周波数で、定められた型式の受話器を規定の圧で耳にあて、その耳の最小可聴閾値に相当する電圧をかけた場合に、規定されたカプラあるいは人工の耳に生じる音圧レベル。
10.基準等価閾値音圧レベル(RETSPL):定められた周波数において、充分な数の耳科的に正常な18歳から30歳までの男女の等価閾値音圧レベルの最頻値であり、特定の受話器について特定の音響カプラあるいは人工の耳によって最小可聴閾値を表したもの。
11.等価閾値の力のレベル(単耳聴):特定の耳について、定められた周波数で、定められた骨導受話器を、定められた力で人の乳突部に圧着し、その時に得られた最小可聴閾値に対応する電圧を加えた場合に骨導受話器が定められたメカニカルカプラに生ずる振動の力のレベル。実効値を1μNを基準とするdBで表示したもの。
12.基準等価閾値の力のレベル(RETFL):特定の周波数において、充分な数の18歳から30歳までの耳科的に正常な男女の等価閾値の力のレベルの平均値で、特定の骨導受話器について、特定のメカニカルカプラによって表された最小可聴閾値。
13―1.聴力(閾値)レベル(HTL):ある耳について、ある周波数における最小可聴閾値と基準の最小可聴閾値として定められた値とのレベル差。
(JIS Z8109―1986.4031(1).用)
注―基準の最小可聴閾値として定めた値はJIS T1201―1982オージオメータによる。
13―2.聴力レベル(HL):ある周波数における、オージオメータ用イヤホンの規定のカプラ内での出力音圧と基準の最小可聴域値とのレベル差。
(JIS Z8109―1986.4031(2).用)
注―
1) 規定のカプラ、基準の最小可聴域値は、JIS T1201―1982オージオメータによる。
2) 我が国では13―1.および13―2.ともにJISで、聴力レベルと呼ぶことになっているが、本検査法では区別しやすいように上記の語義を用いた。
14.閉鎖効果:外耳道入口を受話器でおおうか、耳栓でふさいだ時、外耳道に閉鎖腔ができ、内耳に達する骨導のレベルに生ずる変化(通常は増加する)。この効果は低い周波数で大きくなる。
15.マスキング:
(1) ある音の最小可聴閾値が、他の音の存在によって上昇する現象。
(2) (1)の現象による上昇量。(JIS Z8109―1986.4013.用)
備考
1) マスキングの量はデジベルで表す。
2) ある音の大きさが、他の音の存在によって小さくなる現象を、特に部分マスキング(partial masking)という。
16.狭帯域雑音の実効マスキング・レベル:狭帯域雑音の存在下で上昇した(狭帯域雑音の幾何平均周波数の)純音の最小可聴閾値レベルの数値。
注―マスキング用の狭帯域雑音はIEC Publication 645に規定されている。
17.振動覚閾値レベル:繰り返しの検査で、あらかじめ決められた割合で振動覚を生じさせる振動の力のレベル、あるいは音圧レベル。
18.オージオメータ:被検者に、電気的に発生した検査音を減衰器を通して与え、被検者自身の認知、応答によって、聴覚機能を検査する装置。
(JIS Z8109―1986.4020.用)
単に「オージオメータ」というときは「純音オージオメータ」を意味することが多い。
規格はJIS T1201―1982オージオメータによって規定されている。
19.手動オージオメータ:検査音の呈示、周波数や聴力レベルの選択、そして記録を手動で行うオージオメータ。
20.オージオグラム:純音の聴力(閾値)レベルを図によって表現したもの。
(JIS Z8109―1986.4021.用)
注―オージオメータの規格が、JIS T1201―1956によって測定したものは聴力損失となり、JIS T1201―1982によって測定したものは聴力(閾値)レベルとなる。
【文献】
1)立木孝:聴力検査,chap2南江堂,1972,
2)竹内義夫:Audiometry Training simulatorを用いた聴力検査の実習―マスキング法の原理と実際―,シードル社,1975.
3)松平登志正:純音聴力検査におけるマスキング法の改良―必要最小限のマスキング量による方法―,耳鼻臨床,82:1541―1548,1989.
4)JIS T1201―1982,オージオメータ
5)JIS Z8106―1988,音響用語(一般)
6)JIS Z8107―1984,音響用語(機器)
7)JIS Z8109―1986,音響用語(聴覚・音声・音楽)
8)Zwislocki,J.:Acoustic attenuation between the ears.J.A.S.A.25,:752-759,1953.
9)Chaiklin,J.B.:Interaural attenuation and cross-hearing in air-conduction audiometry.J.Aud.Res.,7:413-424,1967.
10)Hodgson,W.R.&Tillman,T.W.:Reliability of bone conduction occlusion effects.J.Aud.Res.,6:141-151,1966.
11)ISO 389,1975,Acoustics-Standard reference zero for the calibration of pure-tone air conduction audiometers.
12)ISO 6189,1983,Acoustics-Pure tone air conduction threshold audiometry for hearing conservation purposes.
13)ISO 7566,1987,Acoustics-Standard reference zero for the calibration of pure-tone bone conduction audiometers.
14)ISO/DIS 8253.2,1986,Acoustics-Basic pure-tone audiometric test methods.
15)IES Publication 318, An IEC artificial ear of the wideband type,for the calibration of earphones used in audiometry.
16)IES Publication373,Mechanical coupler for measurements on bone vibrators.
17)IEC Publication645,1979,Audiometers.
標準聴力検査法(日本オージオロジー学会制定)
Ⅱ 語音による聴力検査
1 語音聴取域値検査
定義:語音によって語音聴取域を測定する検査である。了解度の高い特定語音の50%正答率が得られるレベルを求める。
使用機器:語音再生装置、(JISまたはJISに準ずる)出力調整装置、JIS T1201に準ずる気導イヤホン、57式語表レコードまたは67式語表テープ、マスキング用雑音発生装置。
注 検査用語はあらかじめレコードあるいは磁気録音テープに録音された語音を語音再生装置を用いて発生させる方法と、マイクロホンを用いて一定のレベルで発声された生の語音をオージオメータに送って用いる方法がある。そのいずれの方法をとったかは明記しておく必要がある。
テープレコーダを使用する場合には次の項目をチェックする必要がある。
① トーンコントロールはmax,minは避けて中点にセットする。
② テープに録音されている較正用1000Hz純音信号が大幅に波打ったり音が飛んだりしないことを確かめる。
③ ヘッドの汚れに注意し適切な処置をとる。
測定法およびその注意:
(1) 録音された較正用1000Hzの出力をオージオメータまたはこれに準じた出力調整装置のVUメータの0dBに合うように調整する。
(2) 検査の条件は純音気導聴力検査に準じて行う。語音検査のレベル60dB以上の語音をきかせる場合は、非検査耳のマスキングを考慮する必要がある。マスキング用雑音は少なくとも250~4000Hzまでの広帯域雑音を用い、そのレベルは純音気導聴力検査に準ずる。
(3) 検査用語音は一桁数字のうち「ニ」、「サン」、「ヨン」、「ゴ」、「ロク」、「ナナ」の6個を用いる。
注 語音聴取域値検査の目的にはできるだけ了解しやすい有意の単語を用いるのがよい。日本オージオロジー学会では検討の結果、一桁数字がこの目的に最も適しているのでこれを採用し、「57式語表レコード」および「67式語表テープ」に一定のレベルで録音されている。語音聴取域値測定用語表の一例(57式語表)
4,2,7,3,5,7,
5,3,2,6,2,3,
7,4,6,7,3,6,
2,6,5,4,7,5,
6,7,3,5,4,4,
3,5,4,2,6,2,
(4) 検査用語音は域値上の充分きこえる強さからきかせはじめ、下降法で6個きかせる。同じことを6回くり返し、その中で50%了解できたレベルを求めこれを語音聴取域値とする。
注 まず充分にきこえる音の強さ、たとえば500Hz、1000Hz、2000Hz平均聴力損失値のレベルより15~20dB強いレベルで最初の数字をきかせ、1語につき5~10dBずつ音の強さを弱めてゆく。数字は次第にきこえにくくなり、ついにきこえなくなる。この方法を各行について行うが、最初にきかせる音の強さや、つぎつぎと弱めてゆく音の強さは同じでなければならない。被検者はきこえた通りの数字を録音されている指示に従って「数字のきこえ方検査用紙」に横に記入する。このようにして6個の数字を6回きかせると、検査用紙に記録された6行の縦の列はすべて同じレベルできかされた数字が記録されていることになる。これらのいろいろなレベルできかされた時の正答率を語音オージオグラムに記入し各点を結んでその線が50%横軸と交叉するレベルを5dBステップで求める。
2 語音弁別検査
定義:語音をきかせて被検者がどのくらい聴きわけられるかを検査し、被検者の言語の受聴能力について判定の資料を得るための検査である。
使用機器:(1) 測定装置および検査の条件は語音聴取域値検査に準ずる。
方法および測定上の注意:(2) 検査用語音は単音節を用いる。
注 用いる語音の種類によって結果は異なるので、わが国では無意単音節の特定の語音をえらんで検査用語とされている。検査用語表としては日本オージオロジー学会では「57式語音表」(50語音構成)と「67式語音表」(20語音構成)を採用することにし、前者はレコード、後者はテープに録音されたものを作成し、一般に提供している。検査結果は検査語音の種類、発声者、録音状態によって異なるので検査結果にはこれらの項目を明記する必要がある。
語音弁別検査用語表の例
57式語表
ガデワコクニテトカナ
マノオタシイスキサウ
ラモルアツリダヨチハ
ミムフヒメシバロセケ
ドネヤソエレゴホユズ
67式語表
アキシタニヨジウクス
ネハリバオテモワトガ
1つのレベルできかせる語音の数は多い方が検査結果のばらつきが少なくなる。実験結果では語音の数が50以上になると、それ以上用いた場合と差はなくなり、40以下では少しずつばらつきが大きくなる傾向がある。10以下になると急激にばらつきが大きくなり検査の目的には不適当となるが、現在のところ57式、67式語表のどちらを使ってもよい。一つの語表の一部のみを使ってはいけない。
(3) 検査は原則として被検者にきこえた通り検査用紙に記入させる。被検者が自分で記入できない場合は、きこえたままを復唱させ、検者または介助者がかわって記入する。
(4) 検査は充分なレベルからはじめ、一つの表を検査するあいだ検査音の強さを変えない。一つの表が終れば音の強さを10~20dB変えて次の語音表で検査する。このようにしていろいろなレベルで検査をおこない、それぞれのレベルごとに正答率(%)を求め、これを語音明瞭度としてスピーチオージオグラムに記入する。
注 普通は最初語音聴取域値あるいは純音気導聴力検査による500、1000、2000Hzの域値の平均値から40dB大きい音から検査をはじめる。一般には4~5つの異なったレベルで検査を行い、それぞれの明瞭度を語音オージオグラムの上で結び、語音明瞭度曲線を作成する。一つの曲線で最も明瞭度の高い値を最高明瞭度または語音弁別能という。
付記:スピーチオージオグラムの記載法
(1) スピーチオージオグラムの用紙の形式は、横軸に語音検査のレベルをdB目盛で表示し、縦軸には語音明瞭度を%で示す。さらに10dBの間隔と15%の間隔を等しくする。
(2) 語音検査のレベルの0dB基準値は1000Hz純音のJIS規格による気導検査の0dBの値と等しくする。
(3) 各レベルにおける明瞭度測定値は右耳は○記号、左耳は×記号で記入する。語音弁別検査ではそれぞれの測定値を実線で結び、語音聴取域値検査では測定値を破線で結ぶ。
(4) 100%から最高明瞭度の値を引いた値を語音弁別損失とよぶ。
別紙2 削除