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(竹内義夫「Audiometry Training Simulatorを用いた聴力検査の実習」より)

解1―3.マスキング現象

定義

a)臨界帯域幅(クリチカル・バンド)

連続スペクトルを持つノイズが純音をマスキングするとき、その純音の周波数を中心とする特定の帯域幅のノイズの成分だけがマスキングに寄与する。この帯域幅をクリチカル・バンドと呼び、内耳の周波数分析機能を反映する基本的定数であるが、測定法や定義の仕方によって多少変化する。ここでは聴覚検査との関係上、ISOの狭帯域雑音の帯域幅をあげる。

臨界帯域幅

周波数

Hz

125

250

500

1000

1500

2000

3000

4000

6000

8000

帯域幅

Hz

100

100

115

160

225

300

470

700

1100

1600

帯域幅

dB

20

20

21

22

24

25

27

28

31

32

(ISO 7566、1984より)

b)実効レベル

ある雑音の特定の周波数における実効レベルとは、その周波数を中心とする臨界帯域に含まれるノイズ成分の特定の個人における感覚レベル[(実効マスキング・レベル)-(気導聴力(閾値)レベル)]である。このレベルは帯域の中心にあたる純音の閾値からのレベルに等しいものとする。

c)実効マスキング・レベル

前述の実効レベルの基準を感覚レベルからオージオメータの0dBHLに置き換えたノイズのレベルである。実効レベルは個人の閾値に対する相対レベルであるが実効マスキング・レベルは個人の閾値を越えた客観的なレベル表示である。オージオメータの純音のマスキングに用いられる狭帯域雑音は実効マスキング・レベルが直続できるようにマスキング・ノイズのダイヤル目盛りが校正されている。加重雑音は実効マスキング・レベルに近似な値が直読できるように校正されている。実効マスキング・レベルは実効レベルと混乱を引き起こしやすいので、実効マスキング・レベルと同じ意味でマスキング・ノイズ・レベルを用いる。

(1) クリチカル・バンドの法則

実効レベルが正の値であればクリチカル・バンドの中心周波数に等しい純音に対するそのノイズによって生ずるマスキング量[(マスキング閾値)-(マスキングなしの閾値)]は実効レベルに等しい。この実効レベルとマスキング量が等しいというマスキングの直線性は実効レベルが10dB以上において成り立つ。

注) Fletcherのクリチカル・レシオの法則を聴覚検査に便利なように変形したものである。

(2) 実効マスキング・レベルとマスキング閾値の関係

オージオメータの気導音が狭帯域雑音でマスキングされるとき、実効マスキング・レベル(マスキング・ノイズ・レベル)が気導聴力(閾値)レベルより大きければ、もとの気導聴力(閾値)レベルに関係なくマスキング閾値は実効マスキング・レベル(マスキング・ノイズ・レベル)に等しくなる。小さいときはマスキングは起こらない。

気導ノイズが骨導音をマスキングするときは気導ノイズが負荷されている耳の気導閾値に対して持つ実効レベルが正ならば実効レベルに等しい量だけ骨導閾値が上昇する。すなわち実効マスキング・レベル(マスキング・ノイズ・レベル)の実効レベルを求め、これをもとの骨導閾値に加算することになる。もちろん実効レベルが負ならばマスキングは起こらない。骨導ノイズが骨導音をマスキングするときは気導ノイズが気導音をマスキングするときと同じ関係が成り立つ。

オーバー・マスキング 気導ノイズの実効マスキング・レベル(マスキング・ノイズ・レベル)の気導受話器の両耳間移行減衰量との差分が骨導ノイズとなり検査側の検査音(気導・骨導)聴取をマスキングする。気導測定時のオーバー・マスキングは骨導閾値がマスキングされ、それが気導閾値に反映する。

解説2.マスキングを必要とする場合の気導(骨導)測定法の別法

―ノイズ、検査音同時変化法―

(a) 非検査耳に加えるノイズの実効マスキング・レベル(マスキング・ノイズ・レベル)を非検査耳の聴力レベルと等しくなるよう設定する。気導(骨導)検査音は3―4.項(4―7.項)で得られたマスキングなしでの気導(骨導)聴力(閾値)レベルよ15dB小さい値に設定する。これらがノイズと検査音の開始レベルである。

(b) まず、マスキング・ノイズ・レベルを5dB上げ、続いて検査音のレベルを5dB上げる。

(c) (b)の操作を閾値反応がえられるまで繰り返し、反応があった時点での検査音のレベルを求める。検査音だけを5dB増大させて閾値であることを確かめる。

(d) (c)のレベルより検査音とノイズを共に10~20dB下げて(b)を繰り返す。

注―非検査耳に高度の伝音難聴があり、検査音を最大のレベルまで上げても応答のない場合はオーバー・マスキングの可能性がある。

解説3.骨導ノイズを用いた骨導聴力(閾値)レベルの測定法

検査音を被検査耳にあてた気導受話器から気導音として聞かせ、前額正中部にあてた骨導受話器から聞かせるノイズ(以下単に骨導ノイズとよぶ)によって気導検査音をマスキングして、骨導聴力(閾値)レベルを測定する方法である。

注―1 検査耳を気導受話器によって閉鎖しているため、伝音障害耳ではマスキングに関する解説1―2.の外耳道閉鎖効果に示された値(標準値)だけ、骨導聴力(閾値)レベルの測定値が本来の値より大きくなることを考慮して判定する必要がある。(上記の標準値を差し引く)

注―2 本法によれば、振動感覚を骨導による聴覚と誤認するおそれはない。

注―3 本法によれば、不適切なマスキングによって骨導聴力(閾値)レベルとして誤った値を得るおそれはほとんどない。

解3―1.既知の感覚レベルの気導音を骨導ノイズでマスキングする測定法(M―Rの変法)

解3―1―1.受話器の装着法

本文2―6.項による。ただし骨導受話器は前額正中部に置く。

注―前額正中部と乳突部に装着したときの感度差は、本文4―3.項の表1参照。

解3―1―2.測定手順

(1) 耳科的に正常な人間(用語解説7.項)6名以上について、本文2項、3項、6項および7項により気導聴力(閾値)レベルを測定する。(Anとする)

(検査音は断続音とする。以下同様)

(2) 骨導受話器を前額正中部に装着し、An+5dBの気導検査音をマスキングするのに必要な骨導ノイズの最小レベルをもとめ、その時の出力ダイヤル目盛りを記録しこれをBnとする。6名以上について得られた(Bn-An)の算術平均値を基準値(Zn)とする。

(3) 被検者については、断続音を用いて測定された気導聴力(閾値)レベルがAであるとき、A+5dBの検査音をマスキングするのに必要な最小の骨導ノイズ・レベルを求め、そのときの出力ダイヤル目盛りを記録する。(Zとする)

解3―1―3.気導聴力(閾値)レベルの求めかた

Z-Znの値を求める。

注―伝音障害耳では既述の補正を行う。

解3―2.既知のマスキング・ノイズ・レベルを有する骨導ノイズを用いる測定法

解3―2―1.受話器の装着法

解3―1―1.項による。

解3―2―2.測定手続

(1) 耳科的に正常な人間(用語解説7.項)6名以上について、骨導ノイズによってマスキングされたときの気導聴力(閾値)レベルを測定し、骨導ノイズのマスキング・ノイズ・レベルを求めておく。

(2) 上に求めたマスキング・ノイズ・レベルの骨導ノイズを聴取させながら、被検耳の気導聴力(閾値)レベルを測定する。その値をA’とする。

解3―2―3.骨導聴力(閾値)レベルの求めかた

断続音を用いて測定された気導聴力(閾値)レベルをA、付加した骨導ノイズのマスキング・ノイズ・レベルをBとし、A-A’+Bの値を求める。

解説4.環境音

解4―1.気導聴力(閾値)レベル0dBの測定時の環境音

被検者不在の状態における検査室の頭の高さに相当する位置の妨害音音圧レベルは表3.、表4.および表5.のLmax以下とする必要がある。妨害音音圧レベルがLmaxを越えるときは、その越えた値によって測定可能な聴力レベル値が上昇する。そのため正常聴覚に近い耳の聴力レベル測定値の解釈については誤った判断を行わないよう注意が必要である。

Lmaxは次式で示される。

Lmax=x+A

ただし

x=表4.および表5.に示される値

A=気導受話器装着による平均遮音量(表6)

注―妨害騒音に対する音響心理学的点検

音圧レベル測定が行えない場合の方法:音圧レベルが既知の環境下での測定で、全周波数とも聴力(閾値)レベル0dB以下の値が得られた被検者2名以上について、音圧レベルを測定できない騒音下において聴力(閾値)レベルを測定する。この2つのオージオグラムを比較することによって妨害音の音圧レベルを推定することが出来る。0dB以下の値の得られない場合は、必要とする最小の聴力(閾値)レベル以下の値の得られた被検者について行う。この方法は骨導聴力(閾値)レベル測定の場合にも応用可能である。

表3―代表的な気導受話器を用いて気導聴力(閾値)レベル測定を行うときに許容される。1/3オクターブ・バンド・レベルとして表された暗騒音レベルの最大値。

表3の値を用いれば、聴力(閾値)レベル0dBが2dB以内の誤差(暗騒音による)で測定できる。暗騒音により測定可能な聴力(閾値)レベルが+5dBになってもよければ表3の値にそれぞれ8dB加える。

1/3オクターブ・バンドの中心周波数

Hz

許容される暗騒音の最大値

Lmax(基準値:20μPa)

dB

検査周波数範囲

125~8000Hz

250~8000Hz

500~8000Hz

31.5

56

66

78

40

52

62

73

50

47

57

68

63

42

52

64

80

48

48

59

100

43

43

55

125

39

39

51

160

30

30

47

200

20

20

42

250

19

19

37

315

18

18

33

400

18

18

24

500

18

18

18

630

18

18

18

800

20

20

20

1000

23

23

23

1250

25

25

25

1600

27

27

27

2000

30

30

30

2500

32

32

32

3150

34

34

34

4000

36

36

36

5000

35

35

35

6300

34

34

34

8000

33

33

33

(ISO/DIS 8253.2、1986より)

表4―聴力(閾値)レベル0dBまで測定するときの、オクターブ・バンドで表したxとLmaxの最大値

オクターブ・バンドの中心周波数

x

Lmax

(基準値:20μPa)

Hz

dB

dB

31.5

73

73

63

58

59

125

43

47

250

28

33

500

9

18

1000

7

20

2000

6

27

4000

7

38

8000

10

36

注―検査周波数範囲500Hz以上(ISO 6189、1983より)

表5―表示した値(オクターブ・バンド・レベル)以上では、聴力(閾値)レベル0dBまで測定しようとする聴覚検査は行うべきでないxとLmax

オクターブ・バンドの中心周波数

x

Lmax

(基本値:20μPa)

Hz

dB

dB

31.5

80

80

63

70

70

125

55

57

250

39

44

500

19

26

1000

13

28

2000

11

37

4000

13

44

8000

16

41

注―検査周波数範囲500Hz以上(ISO 6189、1983より)

表6―代表的耳載せ型受話器における平均的遮音量

周波数(Hz)

平均遮音量(dB)

31.5

0

40

0

50

0

63

1

80

1

100

2

125

3

160

4

200

5

250

5

315

5

400

6

500

7

630

9

800

11

1000

15

1250

18

1600

21

2000

26

2500

28

3150

31

4000

32

5000

29

6300

26

8000

24

(ISO/DIS 8253.2、1986より)

注―表6に示した値は、Telephonics TDH39(MX41/ARつき)およびBeyerDT48受話器を使用し、自由音場内で純音を用いて測定した成績にもとづいたものである。

解4―2.骨導聴力(閾値)レベル0dBの測定時の環境音

気導聴力(閾値)レベル測定時と異なり、受話器装着による妨害音域衰が無いため、許容される妨害音レベルLmaxは表7の値となる。

表7―骨導聴力(閾値)レベル測定時に許容される1/3オクターブ・バンド・レベルとして表した暗騒音の最大値

1/3オクターブ・バンドの中心周波数

Hz

許容される暗騒音の最大値

Lmax(基準値:20μPa)

dB

検査周波数範囲

125~8000Hz

250~8000Hz

31.5

55

63

40

47

59

50

41

49

63

35

44

80

30

39

100

25

35

125

20

28

160

17

21

200

15

15

250

13

13

315

11

11

400

9

9

500

8

8

630

8

8

800

7

7

1000

7

7

1250

7

7

1600

8

8

2000

8

8

2500

6

6

3150

4

4

4000

2

2

5000

4

4

6300

9

9

8000

15

15