添付一覧
Ⅰ 純音による聴力損失値の測定
Ⅰ―1 気導聴力検査
定義:純音の気導音による聴力損失値を一側の耳ごとに測定することを目的として行う検査である。ある周波数について、検査耳の最小可聴値とJIS T―1201に規定された基準の最小可聴値との比をデジベルで表したものを聴力損失と呼び、オージオメータではその値が直読できるようになっている。
使用機器:JIS(T1201―1963)診断用オージオメータ、マスキング用雑音発生装置。
測定法およびその注意:
(1) オージオメータはつねに正規の状態で動作するように整備する必要がある。そのためには少くとも年1回の較正がのぞましい。そのほか聴力検査時にはつねに電源電圧が規定の範囲内にあるよう監視するとともに、受話器から正しく音が出ていることをたしかめることを忘れてはならない。
(2) 測定は原則として防音室内で行う。騒音が30ホン以下の場所では測定値に対する影響はほとんどないが、それ以上の騒音があると測定値に悪影響があらわれる。
(3) 気導受話器は両耳用ヘッドバンド(圧抵圧500g以上)を用い、検査耳の外耳道入口部に正しくあてるようにし、耳あて部の周囲にはできるだけすき間がないよう耳介を圧抵するかたちで装着することが望ましい。受話器が1個の機器では対側に受話器型ダミーを用いる。
(4) 検査は、1000Hzより始め、順を追って2000Hz、4000Hz、8000Hzにすすむ。8000Hzが終ると再び1000Hzを測定し、そのあと順を追って500Hz、250Hz、125Hzを測定する。
1000Hzは2回測定することになるが、おのおのの測定値の差が5dB以内なら測定値が信頼できるものとみなして、2回の値のうち低い方の値をとる。その差が10dB以上の場合は測定結果が不確実であったとみなして、もう一度くり返して検査をする必要がある。ただし2000Hzで差が5dB以内なら他の周波数は測定しなくてよい。
(5) 最小可聴域値の測定は上昇法による。検査音をきかせる時間は各ステップごとに1~2秒が適当である。
検査音をまず被検者に十分きこえる強さできかせたあと、被検者が全くききとれないレベルまで検査音を弱める。そこから5dBずつ音を強くしてゆき、はじめて音を被検者が確実にきこえた最小のレベルをその回の測定値とする。そのあとさらに音を15~20dB強くして検査音を被検者にはっきりと確認させる。ついで検査音を急速に域値下まで弱める。この操作を2回くり返して測定値が同じ値であったら、これをその回の聴力損失値として記録し、つぎの周波数の測定にうつる。1回目と2回目の値が5dB以上の差があったときはもう一度同じ操作を行い、それで得た値が少し前のどちらかの値と等しければその値をとる。3回とも値が異なったら、さらに同じ操作をくり返し、検査の回数の過半数で同じ値を得るまで行う。
検査音を断続するには、連続音を手動断続器を用いて断続する方法以外に、自動断続器によって断続することもできるが、断続回数は2Hz程度が適当である。自動断続音を用いる場合、1つのステップごとにきかせる時間はやや長くした方がよい。
(6) 気導聴力検査の際のマスキング
1) 被検耳の気導聴力損失測定値が40dBをこえるときには、反対側耳のマスキングを考慮しなければならない。
2) マスキングを行うときには、検査音として断続音を用いることが望ましい。マスキングしたときと、マスキングしないときの測定値の差が5dB以内のときは、マスキングしないときの値を採用する。
3) マスキング用雑音の強さは、交叉聴取を防ぐのに充分な強さを有し、かつ、強すぎてオーバー・マスキングにならない範囲の強さにする必要がある。
きこえの良い方の耳が正常もしくは感音(性)難聴耳であるときにはオージオメータ・レベル40dBで充分であるが、きこえのよい方の耳に伝音障害があるときは、40dBでは不充分なことが少なくないので、きこえのよい方の耳の気導聴力域値の差を考慮して、マスキング用雑音の強さを必要なだけ強くする。
4) マスキングを行なった場合には、オージオグラムに雑音の種類、強さを付記しておくことが望ましい。
(注
1) 気導検査音の両耳間移行減衰量は、標準型受話器を使用したときは50dB以上とみなされるが、臨床検査では測定誤差を比較的大きく考慮する必要があるので、気導聴力損失値の差が40dB以上あれば交叉聴取を考慮する必要がある。しかし、きこえの良い方の耳に伝音障害があると、気導聴力が低下していても、骨導聴力は気導聴力と同程度低下することなく、両耳の気導聴力損失値の差が40dB以内であってもマスキングを必要とする場合が生じる。従って、被検耳の気導聴力損失値が40dBをこえるときには、きこえの良い方の耳の気導聴力損失値のいかんにかかわらず、原則としてきこえの良い方の耳をマスキングする。ただし、きこえの良い方の耳に伝音障害がない場合には、両耳の気導聴力損失値の差が40dB未満のときにはマスキングの必要はない。
2) マスキング用雑音をきかせると、雑音の強さが、オーバー・マスキングにならない強さであっても、反対側耳の聴力損失測定値に影響することがある。そのためマスキングしたとき、マスキングしないときの値の差が5dB以内のときはマスキングしないときの値をとることにした。
検査音として通常の連続音を用いるよりも、断続音を用いた方が、反対側にきかせている雑音の影響を受けにくいことが知られている。自動断続装置のないオージオメータでは、手動の断続器を使ってもよい。しかし、オージオメータの出力ダイヤルを動かして音の強さを変化させ、断続音の代用にする方法はクリックを発することが多いので望ましくない。
3) 広帯域雑音を使用するときは、マスキング効果が各検査周波数に対して一様ではないから注意する必要がある。ことに500Hz以下ではマスキング効果(正常の耳に対する)が雑音出力目盛りの値よりかなり小さいことが多い。
必要にして充分なマスキング用雑音の強さは、雑音の出力目盛りと周波数別マスキング効果(正常耳に対する)の関係を示す表を予め作製しておけば、その表を基にして、マスキングする耳の気導の骨導域値検査音のレベルから算定可能なことが多い。しかし、両耳とも高度の難聴で、かつ、きこえの良い方の耳に伝音障害がある場合など、症例によっては適正なマスキングが困難あるいは不能なこともある。
マスキング用雑音が適正で正しい検査が行われたか否か疑わしいときは、マスキング用雑音の強さを±10dB以上増減し、測定値の変動が5dB以内にとどまるか否かチェックする。測定値の変動が10dB以上のときはマスキング不足であることが多い(ときにはオーバー・マスキングのこともある。)。)
Ⅰ―2 自動記録装置を用いた域値検査
定義:押しボタンスイッチの操作により、あらかじめ設定されたプログラムにより出力変化の検査音の出力が増強、減弱する装置を用い、聴力損失値の測定を調整法を加味した極限法により行う方法で、固定周波数方式と連続周波数方式がある。
域値曲線の時間的推移、持続検査音による記録と自動断続検査音による記録の比較、鋸歯状曲線の振巾等によって感音難聴の検査法としても利用されることがある。
使用機器:JIS診断用オージオメータ、出力音圧自動調整装置およびそれに連動した記録計。
方法および測定上の注意:
(1) 測定環境、測定周波数、受話器の装置、非検査耳のマスキングはⅠ―1、Ⅱ―1、Ⅰ―1―(6)に準ずる。
(2) 出力変化の速度は毎秒2ないし2.5dBとする。
(3) 調整法が加味された検査であるため、検査に先立って、検査の方法、応答の具体的方法の説明および予備測定は、通常の純音最小可聴(域)値測定の場合よりも慎重に行う必要がある。
(4) 測定周波数の順序はⅠ―1―(4)による方法以外、低音→高音の方法を用いてもよい。
(5) 検査をはじめる検査音の強さは域値以下、域値以上の2つの方法があるが、固定周波数方式を手動(周波数切換え)で行なう場合でⅠ―1、Ⅱ―1による固定周波数方式の場合には最初にきかせる検査音の域値下から聴取させはじめる。
(6) 聴力損失の判定には鋸歯状波の下降から上昇に転ずる屈折点を用いる(Ⅰ―1、Ⅱ―1で上昇法をとっているため)。
固定周波数方式の場合、1検査周波数あたり4個以上の屈折点(上記)が得られるまで検査を続ける。(域値の時間的推移をみるためには1周波数あたり1分間以上とする必要がある。)
(注
(イ) 本法は調整法が加味された検査であるため、Ⅰ―1の検査が円滑に行われ難い被検者を対象とした場合は測定不能なことが少なくない。
(ロ) 検査音を持続音とし、減衰器のステップを細かくすると測定不能例、あるいは判定不能例が増加することが多い。
(ハ) 鋸歯状波曲線の振巾が異常に大きい場合、屈折点(上記)のバラツキがはなはだしい場合には、Ⅰ―1により聴力損失値を再検査する必要がある。
(ニ) 鋸歯状波の振巾を診断に利用する場合には、減衰器のステップ、出力変化の速度を考慮して判定する必要があるので注意を要する。)
Ⅱ―1 骨導聴力検査
定義:骨導受話器を用いて、純音の骨導による聴力損失値を測定する検査である。
使用機器:
(1) JIS(T1201―1963)診断用オージオメータ
(2) マスキング用雑音発生装置
方法及び測定上の注意:
(1) 測定は防音室内で行う。骨導の測定は気導の測定に比し環境騒音にとくに影響され易い。したがって骨導の測定は測定値に影響をあたえないような場所で行う必要がある。
(2) 骨導受話器を耳介の後の乳様突起または前額正中に一定の圧力で正しく装着する。この場合、毛髪や耳介が妨害しないように注意する。
(3) 骨導聴力の基準値は、それぞれのオージオメータについて正常耳*11耳以上の骨導聴力損失目盛の値をもとめ、その中央値を0dB(基準値)**とする。
(* 伝音障害がなく、500Hz以下の周波数の気導聴力が正常な感音難聴耳を用いて骨導聴力損失値を測定して、気導聴力損失値によって補正してもよい。
** オージオメーターの骨導聴力の0dBの基準値は、現状では物理的に校正規定することができないので、上記の手順でそれぞれのオージオメータについて決めなければならない。オージオメータには骨導値の読みは一応メーカーでダイヤルに目盛ってあるが、これは仮のものであるから上記の手順で得られた値に補正して用いる。骨導受話器を交換した場合にも同様の補正が必要である。)
(4) 骨導聴力検査では検査しない側の耳を必ずマスキングしなければならない。(マスキングの詳細についてはⅡ―4、骨導聴力測定の際のマスキング法の解説の項を参照のこと。)
(5) 6000Hz、8000Hzは測定しなくてもよい。また、その他の周波数でも気導聴力が両側とも正常な場合は骨導聴力を検査しなくてもよい。
(6) 測定方法は気導聴力検査に準じて行う。
(7) 250、500Hzの検査音は振動感と誤らぬように注意する。
Ⅱ―2 骨導聴力検査の際のマスキング
(1) 骨導聴力測定の際は非検査耳に若干の例外を除き、必ずマスキングを行う。
(2) あらかじめマスキングなしの骨導聴力を(乳様突起に骨導受話器を装着するときは、少なくとも一側について)測定する。この測定値(または良聴耳側の測定値)をマスキングする耳の骨導聴力と仮定する。
(3) 40dB実効レベル(非検査耳の気導聴力損失値+40dB実効オージオメータ・レベル)の雑音で非検査耳をマスキングしながら骨導聴力を測定する。この時の測定値が(2)の測定値に比して10dB内の変動ならば、その測定値は(骨導)検査耳のものである。真の骨導聴力損失値は、この測定値から中枢性マスキングによる域値損失分、数dBを差引いた値である。また、雑音の実効ヒヤリングレベルは(2)のマスキングなしの骨導聴力損失値とノイズ受話器の両耳間移行減衰量の代数和をこえてはならない(オーバーマスキングが考えられる)。伝音難聴が高度になると40dB以下の実効レベルでもこの限界を越える場合が多くなる。そのような場合はマスキング不可能。したがってこの方法では1側ごとの骨導聴力を明らかにすることはできない。
(4) (3)のとき15dB以上の測定値の変動が起これば、変動分に等しいdB値だけ雑音レベルを増大し、測定値の変動が5dB以内にとどまる雑音レベルに到達するまで繰り返し測定を行う(チェンジングオーバーポイントまたはプラトーを見出す。)。この場合にも気導聴力損失値が両耳間移行減衰量に近ずくとプラトーが存在しない場合がある(その他、気導聴力測定の際のマスキング法参照のこと。)。
(注 (1)、(2)、骨導受話器を乳様突起に装着した場合、反対耳への減衰量は5~10dB程度である(前額正中部に装着したときはもちろん0dBである)。低音では、両耳間移行減衰量が負になる場合があり、さらに患者の受聴耳の指示は必ずしも正しくない。したがって、1側ごとの骨導聴力はマスキングが正しく行われたときにはじめて明らかになる。
(3) 40dB実効レベルによるマスキングは、(2)での測定値が検耳のものかどうかを確認することを目的としている。したがって雑音のレベルは絶対に(2)の測定値に対してオーバーマスキングになってはならない。40dB実効レベルの雑音による骨導域値に対するマスキング効果は40dBから雑音受話器の閉鎖効果(標準型受話器の場合250、500Hzで約20dB、1kHzで約5dB)だけ小さい。したがって約20dBのマスキング効果が期待できるから(3)の10dB以内の変動は検査耳の反応と考えてよい。40dB実効レベルは現実的な妥協的な数値に過ぎない。このほかにも違った見方を根拠にいろいろのレベルを考えることができる。いずれにせよ実効レベルを考えることによって全くマスキング効果のない雑音レベルから雑音漸増法を行う無駄を避けることができる。
(4) 10dB以下測定値が増大したことは、検査耳にこの増大分以上の感音性難聴のあることを意味するので、雑音の実効オージオメータレベルが正常耳の両耳間移行減衰量を、この増大分だけ超過してもオーバーマスキングにはならない。)
Ⅱ―3 その他の骨導聴力検査
○検査音を被検耳に気導音として聴取させる骨導聴力検査法
A 唸りの現象を利用した方法
使用機器:JIS診断用オージオメータ、可聴周波数発振器、ミクサ
検査法:
1) 発振器からの純音(検査音と2~3Hz周波数が異なるようにする)を気導最小可聴値上5dBに固定してきかせながら、オージオメータからの検査音をミクサにより同一受話器からきかせる。オージオメータからの検査音を域値下30dBより5dB段階で増強し、唸りのきこえ始めるレベルを指摘させる(そのレベルを域値下((A))dBとする)。
2) 発振器からの気導音を固定したままオージオメータから骨導音(純音)を5dB段階で増強しながらきかせ、唸りのきこえ始めるレベルを指摘させる((B))。
骨導聴力損失値=((B))-((A))とする。
(注
1) 500Hz以下では両耳性唸りの現象があるため、両耳の骨導聴力に20dB以上差があるときは骨導不良聴耳の測定が不能なことがある。
2) 本検査に先立ち周波数が2~3Hz異なった2つの純音をミクサにより同一受話器からきかせ、唸りの感じを認識させ、唸りがきこえ始める点を合図するように練習させる。
3) 気導受話器による外耳道閉鎖効果のため1000Hz以下で伝音障害のない耳では骨導聴力が実際よりよく出る。これを避けるためには外耳道閉鎖効果がおこらない容量の大きな受話器を使用する。)
B 骨導ノイズ法
検査音を被検耳にあてた気導受信器から気導音としてきかせ、前頭部にあてた骨導受話器からきかせる雑音(以下単に骨導雑音と呼ぶ。)によって検査音を遮蔽して、骨導聴力を測定する。
ΔFournier―Ranville法
使用機器:JIS診断用オージオメータ、ミクサ、気・骨導雑音発生装置
1) 断続音で気導聴力損失値を測定(AdBとする。)。
2) AdBの断続音と雑音をミクサにより同一気導受話器より同時にきかせ、気導音がきこえなくなり始める雑音レベルを求める(この雑音レベルを正常耳の域値上BdBとする。)。
3) AdBの断続気導音と骨導雑音を同時にきかせ、気導音がきこえなくなりはじめる骨導雑音のレベルを求める(求めた骨導雑音のレベルを正常耳の域値上CdBとする。)。
骨導聴力損失値=C+(A-B)
ΔM―R test
検査法:F―R法の第2段2)を省略、あらかじめ3)のCの正常値を求めておく(C′dB)
骨導聴力損失値=C-C′
備考:気導聴力損失値AdBのときAdBの気導音を遮蔽させるよりも、A+5dBの気導音を遮蔽させた方が測定誤差が少ない。
ΔSAL test(sensorineural acuity level test)
F―R法、M―R法と異なり、既知のマスキング効果を有する骨導雑音により被検耳にみられる気導測定値の変動から骨導聴力を判定する方法である。
検査法:
i) 予め一定レベルの骨導雑音による、気導聴力に対するマスキング効果を正常耳について求めておく(ZdB)
ii) 気導聴力損失(AdB)の被検耳について(正常耳におけるマスキング量が既知の)骨導、雑音聴取下で気導検査音がきこえはじめる最小のレベルを求める(A′dB)。
SALの測定値=Z-(A′-A)(骨導聴力損失値)
骨導雑音法実施上の注意事項:
i) 気導検査法はⅠ―1―(5)に記載されている断続音を用いる。
ii) F―R法の第2段階を省略したM―R test、SAL testでは、雑音による遮蔽効果が異常に大きくなる症例では骨導聴力損失値が過少となり、また心理的要因で、測定誤差が大きくなる傾向がある。
iii) 気導受話器による外耳道閉鎖効果のため、伝音難聴耳では1000Hz以下で骨導聴力損失値として大きな値が得られる。これを避けるためには外耳道閉鎖効果が起こらない気導受話器を使用して骨導雑音の実効レベルを求める。
付記:オージオグラムの記載法
(1) オージオグラム用紙の型式は、横軸に周波数を対数直線目盛でとり、縦軸に聴力損失をdB目盛で表示する。さらにオクターブの間隔は、20dBの間隔と等しくする。
(2) 聴力損失値の記入法は気導聴力では右耳を○記号、左耳を×記号であらわし、これを線で結ぶ。スケールアウトの場合は、画像1 (1KB)
または画像2 (1KB)
であらわし、測定した最大出力のところに横にずらして記入し、隣の周波数の域値記号とは線で結ばない。骨導聴力では右耳が画像3 (1KB)
記号、左耳が画像4 (1KB)
記号で示し、線で結ばない。スケールアウトの場合は画像5 (1KB)
または画像6 (1KB)
とあらわす(スケールアウトとは、オージオメータの出しうる最大のレベルできこえない場合をいう。)。
Ⅱ―4 骨導聴力測定の際のマスキング法の解説
はじめに:聴力検査における実際的なマスキング法が現在まで幾つか提案されてきた。これらの方法はいずれもクリティカルバンド・マスキング、両耳間移行減衰量、閉鎖効果、中枢性マスキングなどの諸現象に関する知識を両耳を機能的に分離するという目的のために系統的に構成したものである。その際、現象的法則の簡略化は避けられないがその程度の差および強調点の差が主として具体的なマスキング法のちがいとなってあらわれたのである。したがって特定のマスキング法を理解し、それが正しいか否か、さらに個々の事例に適用できるかどうかを判断するには、上に述べた諸現象の定量的な理解とその運用が必要である。もしこの理解が不十分であると、たとえマスキング法の手順を逐一守ったとしても、個々の検査の場合に誤まりを犯すことは避けられないであろう。
(1) 雑音実効レベル、実効オージオメータレベルとマスキング効果
聴力検査におけるマスキングの目的は、雑音を負荷することによって、非検査耳の域値をあらかじめ予定したところまで上昇させ、検査しようとする耳からだけの反応が得られるようにすることである。この目的のために検査者のできることはオージオメータに付属している雑音減衰器を操作して任意の雑音レベル(強さ)にすることだけである。狭・広帯域切替えの雑音をもつオージオメータの場合でも周波数と帯域幅は検査周波数と連動するが、固定的であるから事情は同じである。いうまでもなく雑音減衰器のdB値はマスキング効果をそのまま表わすものではないから(そのような特殊な場合は後述する。)、雑音のレベルと周波数別のマスキング効果の関係、およびこれらの関係に影響する要因を定量的に知っておくことが不可欠である。
聴力検査に用いられるマスキング用雑音は普通は連続スペクトル(雑音の周波数成分が1Hzごとにぎっしりつまっている。)であり、ある限られた周波数帯域幅では1Hzごとの周波数成分がみな同じ強さ*になっている(この帯域幅が可聴周波数全域にわたっている場合をホワイト雑音という。)。雑音の強さを考える際に全体としての強さ(over―all level)と個々の周波数成分の強さ(spectrum level)(バンド幅1Hz当りのSPLの方がよいという意見もある。)を明確に区別しておく必要がある。純音に対する雑音のマスキング効果はこの両者が独特な仕方で関係するからである。すなわち有名なクリティカル・バンドの概念がそれである。
純音をマスクするには純音の周波数を中心とした限られた帯域幅の雑音成分だけが有効である。この周波数に固有な帯域幅をクリティカル・バンド(C.B.)という。C.B.以下の狭帯域幅の雑音の場合には、雑音の全体としての強さ(スペクトルレベル×帯域幅)をその個人の域値上のdB値で表わした値―(雑音)の実効(マスキング)レベル―とその雑音によって起こるマスキング量(遮蔽域値と絶対域値のdB差)は等しいという関係式が成立する。言いかえればC.B.に入る全部の雑音成分がマスキングに有効である。
C.B.以上の広帯域幅の雑音の場合はC.B.の中に入ってマスキングに有効な成分と、C.B.の外にあってマスキングに無効な雑音成分に分けて考えねばならない。すなわち、スペクトルを増大して雑音の強さを大きくすればマスキング量はその増大分に等しく増える(マスキングの直線性)が、雑音の帯域幅をC.B.以上に広げることによって雑音の強さを大きくしてもマスキング量は増えない。具体的に言えば、雑音がどれほど大きいラウドネスで聞こえていても問題の検査音の実効レベルが0dB以下の場合(雑音が受話器の周波数特性のためにカットされているとか聴力損失が大きいなどのため)、マスキング効果は全くないことを銘記しておかねばならない。広帯域雑音の場合、帯域幅の効果を相殺するため雑音の強さをスペクトルレベルで表わし、これとマスキングとの関係を求めると、マスクされた音の強さ(SPL)とスペクトルレベル(SPL)のdB差は音の周波数だけに固有な値になる。この固有な値がC.B.に一致することはいうまでもないであろう。
以上のことを具体的な数値例について説明しよう。100~8000Hz(この帯域幅をdBで表わせば10log-(8000-100)=39dB)の白色雑音のover allのSPLが68dB(これは平常耳の感覚レベルで約60dB)の場合1000Hzに対するマスキング効果を求めてみる。1000HzにおけるC.B.は約60Hz(約18dB)である。一方この雑音のスペクトルレベル(SPL)は29dB(68-39)でC.B.に入る雑音の強さは47dB SPL(29+18)になる。1000Hzにおける聴力損失が0dBの耳を考えると、1000Hzを中心とする雑音の実効レベルは30dB-17dB)(JISの0dBは17dB SPL)に等しい。であるから、前述の関係式によって域値は実効レベル30dB上昇(マスキング量)して30dB聴力損失レベルになる。これをSPLで表わせば47dB(30+17)である。聴力損失10dBの耳の場合、実効レベルは20dB(47dB-17dB-10dB)、したがって域値は10dBから20dB上昇して30dB聴力損失レベル(47dB SPL)になる。
この例でもわかるように実効レベル(客観的に同じ強さでも個人の域値に応じて変る。)とマスキング量が等しいということと、遮蔽域値における音の強さと雑音のスペクトルレベルの比(SN比、上の例では18dB=49-31)が一定であるということとは同一事実の異なった表現に過ぎない。**聴力検査の場合のように(何らかの形で)既知の雑音レベルから、その雑音による遮蔽域値のレベルを知ろうとする目的のためにはSN比が一定であり、しかもこのことが域値の個人差と無関係であるという表現の方が応用しやすいことは明らかであろう。聴力損失値0dB(JIS T1201の基準の最小可聴値)を基準とした雑音のC.B.レベルを実効オージオメータレベルと呼ぶことにする(実効レベルと違って客観的なレベルである点に注意。特定の個人の実効レベルは実効オージオメータレベルからその周波数の聴力損失値を引いた値になる。)。雑音の実効オージオメータレベルが判れば、その雑音による遮蔽域値は聴力損失値としてただちに予測することが可能となる。オージオメータの使用を前提とするマスキングにおいては、ここに最後に到達した実効オージオメータレベルと遮蔽域値の聴力損失値が数値的に等しいというマスキング効果の法則がいかに簡単でしかも包括的であるかということに疑問の余地はないであろう。
病的な聴力損失(ただし後迷路難聴を除く。)の場合にもこの法則があてはまるか。正常、病的いずれの場合もマスキング効果が10dB以上すなわち10dB実効レベル以上の雑音の範囲で適用することができる。また難聴の性質に関係なく実用的に妥当するものと考えてよい(後迷路難聴以外の各種の難聴の場合にもC.B.の値が正常耳とほぼ同じであることから)。ただしこの法則は同一耳に与えられた気導雑音が気導純音をマスクする場合または骨導雑音対骨導純音の場合に限られる。骨導聴力検査のマスキングの場合のように骨導音と気導音によって遮蔽しようとするときには実効レベルの基準(したがって検査周波数の域値)を内耳におけるレベルに修正しなければならない。すなわち気導雑音の内耳における実効レベルは伝音系の損失分だけ小さくなり、この小さく修正された実効レベルに等しい量だけ骨導域値(ほぼ伝音損失と無関係な)が上昇する。したがって骨導の遮蔽域値は気導骨導域値差分だけ雑音の実効オージオメータレベルよりも小さくなる。いうまでもなく内耳性難聴の場合には骨導域値は気導実効オージオメータレベルに一致する。実際の測定の場合では骨導域値に影響する雑音受話器の閉鎖効果などをさらに補正しなければならない。
(* 均等な強さでなく、何らかの周波数特性を加重した特殊な雑音もある。
** 厳密にいえば、実効レベルがマスキング量に等しいということは遮蔽域値のSN比が一定という現象的事実を説明するために考えられた仮説である。実際に狭帯域雑音を用いて測定すると、C.B.の帯域幅はSN比から計算した値より広い(約4dB)。最近では従来から言われてきた(本文でも今まで述べてきた)C.B.を事実に忠実にcritical ratioと呼び狭帯域雑音など実験的に得られた帯域幅の方をC.B.という。)
(2) オージオメータのマスキング用雑音の出力を実効オージオメータレベルに換算する方法
オージオメータのマスキング用雑音の出力ダイヤルが全周波数とも実効オージオメータレベルで目盛られているか、またはダイヤル目盛を周波数別に実効オージオメータレベルに換算する図表のようなものが用意してあれば、マスキングはかなり容易にそして正しく行われるようになることは想像にかたくない。わが国の現状では雑音用のダイヤルは、dB目盛になっているが、その0dBの基準は必ずしも明瞭でない(特に古い機種において)。また雑音の種類も白色、ピンク、帯域の各雑音、鋸歯状波パルス、混合型と多い。聴力検査を行う者は自己の使用するオージオメータの雑音がどの種類か知っておかねばならない。マスキング効果についても実効オージオメータレベルまたは聴力の明らかな耳についての実効レベルに関するデータがない場合は数名の正常耳について実測しなくてはならない。
測定にあたっては、まず、雑音と検査音を混合(混合できないオージオメータではミクサを用意する。)して一つの気導受話器(動電型標準品)に入れる。雑音のレベル数点について、その雑音中での域値を求め聴力損失値であらわす(マスキング量ではない点を注意せよ。)。遮蔽聴力損失値を雑音のdB値の関数としてグラフにし聴力損失値20dB以上の直線部分を外挿して0dB聴力損失の線と交叉する雑音のdB値を求める。ここの点がこの周波数における0dB実効オージオメータレベルである。ミクサによる使用状態での出力の低下(ミクサ損失)を検査音と雑音のそれぞれについて確認し、その分を上に述べたグラフの目盛に補正し、正しい0dB実効オージオメータレベルを求める(ミクサを付属しているオージオメータでも同じである。)。なぜなら、聴力検査のマスキングでは雑音と検査音は別々の受話器に送られミクサ損失のような伝送損失を含まないからである。0dB実効オージオメータレベルにあたる雑音の出力目盛のdB値を周波数別に表に貼布しておくと便利であろう。
最近の精密級のオージオメータでは白色雑音(標準動電型受話器を雑音受話器として)の場合の0dBをSPLの0dBにする傾向がみられる。この場合実効オージオメータレベルは前に述べたように算出できる。
|
250Hz |
500Hz |
1kHz |
2kHz |
4kHz |
C.B.(dB) |
17 |
17 |
18 |
20 |
23 |
0dBのときC.B.level(SPL) |
-22 |
-22 |
-21 |
-19 |
-16 |
JIS 0dB (SPL) |
40 |
25 |
17 |
16 |
15 |
実効オージオメータレベル0dBになる目盛 |
62 |
47 |
38 |
35 |
31 |
帯域雑音を装備しているオージオメータでは、雑音の帯域中心周波数は周波数ダイヤルによって検査周波数と一致して切替えられるようになっているが、帯域幅がC.B.(前節で述べた近代的な広い方の)以下でかつ0dBの基準も周波数ダイヤルによって自動的に0dB聴力損失値に切替えられるような製品が普及してきた。すなわち実効オージオメータレベル(メーカーでは実効マスキングレベルなどと呼んでいるが正確な表現でない。)で目盛られている。帯域雑音であっても古い機種ではdB目盛が実効オージオメータレベルになっていないから、そのときはマスキング効果を実測しなければならない。
最新の実効オージオメータレベル雑音や0dB SPLの白色雑音を装備したオージオメータでも、指定以外の雑音受話器を用いれば、マスキング効果が受話器の感度や特性に制約されるので実効オージオメータレベルや音圧レベルで表示された白色雑音として使用できないことはいうまでもないであろう。
(3) 雑音受話器の両耳間移行減衰量
オーバーマスキングの原因となる雑音受話器の両耳間移行量(気導受話器としてはシャドーヒヤリングを起こす。)は受話器の種類、形状、周波数によって変化する。両耳を標準動電型受話器で覆った場合の両耳間移行減衰量はおよそ次のようである。
Hz |
250 |
500 |
1K |
2K |
4K |
両耳間移行減衰量(dB) |
45 |
50 |
55 |
60 |
65 |
両耳間移行減衰量は上の条件のほかにも、クロスヒヤリングを受ける耳の条件によっても変化する。この表の値は両耳に受話器を装着した状態で前額部に骨導受話器をあてた場合に適用される。骨導検査耳を開放すれば両耳間減衰量は特に低音でこの表の値より大きくなる。耳栓式の受話器はさらに一段と大きくなる。骨導聴力測定を大きく制約するオーバーマスキングは雑音受話器の両耳間移行減衰量で規定せられ、この両耳間移行の経路は骨導である。したがって雑音の実効レベル(すなわちマスキング効果)は遮蔽耳の気導聴力損失値の増大とともに小さくなるが、一方負荷できる最大雑音レベルは気導聴力とは関係なく検査耳の骨導域値によって決まる。両耳間移行減衰量より大きい実効オージオメータレベルの雑音を用いねばならない場合は特に注意を要する。
Ⅱ 語音による聴力検査
1 語音聴取域値検査
定義:語音によって語音聴取域を測定する検査である。了解度の高い特定語音の50%正答率が得られるレベルを求める。
使用機器:語音再生装置、(JISまたはJISに準ずる)出力調整装置、JIS T1201に準ずる気導イヤホン、57式語表レコードまたは67式語表テープ、マスキング用雑音発生装置。
(注 検査用語はあらかじめレコードあるいは磁気録音テープに録音された語音を語音再生装置を用いて発生させる方法と、マイクロホンを用いて一定のレベルで発声された生の語音をオージオメータに送って用いる方法がある。そのいずれの方法をとったかは明記しておく必要がある。
テープレコーダを使用する場合には次の項目をチェックする必要がある。
① トーンコントロールはmax,minは避けて中点にセットする。
② テープに録音されている較正用1000Hz純音信号が大幅に波打ったり音が飛んだりしないことを確かめる。
③ ヘッドの汚れに注意し適切な処置をとる。)
測定法およびその注意:
(1) 録音された較正用1000Hzの出力をオージオメータまたはこれに準じた出力調整装置のVUメータの0dBに合うように調整する。
(2) 検査の条件は純音気導聴力検査に準じて行う。語音検査のレベル60dB以上の語音をきかせる場合は、非検査耳のマスキングを考慮する必要がある。マスキング用雑音は少なくとも250~4000Hzまでの広帯域雑音を用い、そのレベルは純音気導聴力検査に準ずる。
(3) 検査用語音は一桁数字のうち「ニ」、「サン」、「ヨン」、「ゴ」、「ロク」、「ナナ」の6個を用いる。
(注 語音聴取域値検査の目的にはできるだけ了解しやすい有意の単語を用いるのがよい。日本オージオロジー学会では検討の結果、一桁数字がこの目的に最も適しているのでこれを採用し、「57式語表レコード」および「67式語表テープ」に一定のレベルで録音されている。語音聴取域値測定用語表の一例(57式語表)
4,2,7,3,5,7,
5,3,2,6,2,3,
7,4,6,7,3,6,
2,6,5,4,7,5,
6,7,3,5,4,4,
3,5,4,2,6,2,)
(4) 検査用語音は域値上の充分きこえる強さからきかせはじめ、下降法で6個きかせる。同じことを6回くり返し、その中で50%了解できたレベルを求めこれを語音聴取域値とする。
(注 まず充分にきこえる音の強さ、たとえば500Hz、1000Hz、2000Hz平均聴力損失値のレベルより15~20dB強いレベルで最初の数字をきかせ、1語につき5~10dBずつ音の強さを弱めてゆく。数字は次第にきこえにくくなり、ついにきこえなくなる。この方法を各行について行うが、最初にきかせる音の強さや、つぎつぎと弱めてゆく音の強さは同じでなければならない。被検者はきこえた通りの数字を録音されている指示に従って「数字のきこえ方検査用紙」に横に記入する。このようにして6個の数字を6回きかせると、検査用紙に記録された6行の縦の列はすべて同じレベルできかされた数字が記録されていることになる。これらのいろいろなレベルできかされた時の正答率を語音オージオグラムに記入し各点を結んでその線が50%横軸と交叉するレベルを5dBステップで求める。)
2 語音弁別検査
定義:語音をきかせて被検者がどのくらいききわけられるかを検査し、被検者の言語の受聴能力について判定の資料を得るための検査である。
使用機器:(1) 測定装置および検査の条件は語音聴取域値検査に準ずる。
方法および測定上の注意:(2) 検査用語音は単音節を用いる。
(注 用いる語音の種類によって結果は異なるので、わが国では無意単音節の特定の語音をえらんで検査用語とされている。検査用語表としては日本オージオロジー学会では「57式語音表」(50語音構成)と「67式語音表」(20語音構成)を採用することにし、前者はレコード、後者はテープに録音されたものを作成し、一般に提供している。検査結果は検査語音の種類、発声者、録音状態によって異なるので検査結果にはこれらの項目を明記する必要がある。
語音弁別検査用語表の例
57式語表
ガデワコクニテトカナ
マノオタシイスキサウ
ラモルアツリダヨチハ
ミムフヒメシバロセケ
ドネヤソエレゴホユズ
67式語表
アキシタニヨジウクス
ネハリバオテモワトガ
1つのレベルできかせる語音の数は多い方が検査結果のばらつきが少なくなる。実験結果では語音の数が50以上になると、それ以上用いた場合と差はなくなり、40以下では少しずつばらつきが大きくなる傾向がある。10以下になると急激にばらつきが大きくなり検査の目的には不適当となるが、現在のところ57式、67式語表のどちらを使ってもよい。一つの語表の一部のみを使ってはいけない。)
(3) 検査は原則として被検者にきこえた通り検査用紙に記入させる。被検者が自分で記入できない場合は、きこえたままを復唱させ、検者または介助者がかわって記入する。
(4) 検査は充分なレベルからはじめ、一つの表を検査するあいだ検査音の強さを変えない。一つの表が終れば音の強さを10~20dB変えて次の語音表で検査する。このようにしていろいろなレベルで検査をおこない、それぞれのレベルごとに正答率(%)を求め、これを語音明瞭度としてスピーチオージオグラムに記入する。
(注 普通は最初語音聴取域値あるいは純音気導聴力検査による500、1000、2000Hzの域値の平均値から40dB大きい音から検査をはじめる。一般には4~5つの異なったレベルで検査を行い、それぞれの明瞭度を語音オージオグラムの上で結び、語音明瞭度曲線を作成する。一つの曲線で最も明瞭度の高い値を最高明瞭度または語音弁別能という。)
付記:スピーチオージオグラムの記載法
(1) スピーチオージオグラムの用紙の形式は、横軸に語音検査のレベルをdB目盛で表示し、縦軸には語音明瞭度を%で示す。さらに10dBの間隔と15%の間隔を等しくする。
(2) 語音検査のレベルの0dB基準値は1000Hz純音のJIS規格による気導検査の0dBの値と等しくする。
(3) 各レベルにおける明瞭度測定値は右耳は○記号、左耳は×記号で記入する。語音弁別検査ではそれぞれの測定値を実線で結び、語音聴取域値検査では測定値を破線で結ぶ。
(4) 100%から最高明瞭度の値を引いた値を語音弁別損失とよぶ。
Ⅲ 選別聴力検査
定義:身体検査などで集団の中から難聴耳を発見、選別する目的で行なう検査である。学童難聴、職業性難聴、薬物中毒難聴などを対象としておこなわれる。
方法および測定上の注意:
(1) 検査音の周波数と強さは、それぞれの目的によって異なり、
(a) 学童難聴選別の場合は学校保健法の規定にあるように、1000Hzおよび4000Hzの2周波数で、それぞれ20dBオージオメータレベルの強さの音を用いて行う。
(b) 職業性難聴選別の場合は通常4000Hzを用い、強さについては適当な基準を定めて行う。
(c) ストマイ難聴選別の場合は通常8000Hzを用い、適当な選別基準を定めて行う。
(2) 検査は少なくとも用いる検査音の強さより5dB弱い音が正常耳に確実にきこえる場所をえらんで行う必要がある。
(3) 選別用検査音を所定の強さで気導受話器より出してきかせ、その音がきこえるか、きこえないかを判定する。この場合断続器を用いて検査音を断続してきかせる。
(4) 選別用検査音がきこえないものは不合格として、さらにくわしく聴力検査を行う。
別紙2
関節運動可動域の測定要領
1 労災保険における関節運動可動域の測定
各関節の運動機能の障害にあっては、その認定方法として、障害の存する関節の運動可能領域を算定し、原則として健側の運動可動域と比較して障害等級を認定する。
ただし、健側の運動可動域と比較することが適当でない場合にあっては、正常可動範囲を参考として障害等級を認定する。
関節運動可動域の測定等については、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」によるが、労災保険の場合には、採用しない項目があることに注意を要する。
(1) 測定する角度は、原則として、各関節の主要運動(屈伸等各関節において日常の動作に一番重要なものをいう。たとえば肘関節にあっては屈曲及び伸展運動)を中枢側、末梢側各肢節の軸(基本軸、移動軸)のなす角度で計り、同一面の運動範囲は一括して取り扱い、その他の運動は参考とする。
(2) 関節の機能障害は、関節そのものの器質的損傷によるほか、各種の原因で起こり得るから、その原因を無視して機械的に角度を測定しても、労働能力の低下の程度を判定する資料とすることができない。従って、測定を行う前にその障害の原因を明らかにしておく必要がある。関節角度の制限の原因を大別すれば、器質的変化によるものと機能的変化によるものとに区分することができる。更に、器質的変化によるもののうちには、関節それ自体の破壊や強直によるもののほかに、関節外の軟部組織の変化によるもの(たとえば、阻血性拘縮)もあり、機能的変化によるもの(たとえば、神経麻痺)には、障害の原因を調べ、その症状に応じて測定方法等に、後述するとおり、考慮をはらわねばならない。
なお、機能(運動)障害の原因が明確な場合には、自動運動による運動可動域を採用するが、心因性の原因が疑われる場合等、機能障害の原因が明確でない場合には他動運動による運動可動域を参考として判定することを要する。
(3) 被測定者の姿勢と肢位によって、各関節の運動範囲は著しく変化する。特に関節自体に器質的変化のない場合にはこの傾向が著しい。たとえば、前述した阻血性拘縮では手関節を背屈すると各指の屈曲が起こり、掌屈すると各指の伸展が起こる。また、肘関節では、その伸展筋が麻痺していても、下垂位では、自然に伸展する。
関節の各度は、日常よく使用する状態で測定するのが一番よい。従って、下肢は体重を負荷して測定するとよいが、疼痛又は心因性の要素が原因である場合にはかかる方法をとると、著しく障害の程度が高くなる。そこで、各論において述べる基本的な測定姿勢のほか、それぞれの事情に応じ、体位を変えて測定した値をも考慮して運動制限の範囲を判定しなければならない。
なお、関節には、運動機能のほか、身体の支持力も重要な機能であるから、支持力の減弱が著明で不安定、動揺性のある場合には、これをも十分に考慮する必要がある。
(4) 人の動作は、1関節の単独な運動のみで行われることは極めて稀であって、1つの動作には、数多くの関節の運動が加わるのが普通である。従って、関節の角度を測定する場合にも、たとえば、せき柱の運動には股関節の運動が、前腕の内旋又は外旋運動には、肩関節の運動が入り易いこと等に注意しなければならない。しかし、他面、かかる各関節の共働運動は無意識のうちにも起こるものであるから注意深く観察すれば、心因性の運動制限を診断し、又は詐病を鑑別するに際して役立つことがある。なお、障害補償の対象となる症状には心因性要素が伴われがちであるが、これが過度にわたる場合は当然排除しなければならない。その方法としては、前述の各関節の共働運動を利用して、被測定者の注意をり患関節から外させて測定する方法のほかに、感電、筋電図の利用、神経科診断等が有効である。
2 関節可動域表示ならびに測定法
(1) 基本的事項
イ 関節可動域測定の目的
(イ) 測定することによって、関節の動きを阻害している因子を発見する。
(ロ) 障害の程度を判定する。
(ハ) 治療法への示唆をあたえる。
(ニ) 治療、訓練の評価手段となる。
ロ 関節可動域の種類
(イ) 自動:被検者が自分の力で動かしうる関節可動域
(ロ) 他動:外的な力で動かされる関節可動域
( )で表示
ハ 基本肢位
すべての関節について解剖学的肢位を0度とする。なお、前腕については手掌面が矢状面にある状態を0度とする。(注:従来の測定方法とは異なるので特に注意を要する。)
ニ 角度計のあてかた、基本軸・移動軸
(イ) 角度計は、基本軸と移動軸のなす角度を測定するようにあてること。
(ロ) 正常可動範囲はあくまでも参考角度として取り扱うこと。
(ハ) 肩関節の運動の中心は解剖学的には肩峰ではないが計測上の容易さから肩峰を用いることとしている。
(ニ) 母指の対立運動の反対の運動を復位運動とする。
ホ 測定にあたっての留意すべき事項
(イ) 測定しようとする関節は十分露出すること。
とくに女性の場合には、個室、更衣室の用意が必要である。
(ロ) 被検者に精神的にもおちつかせる必要があり、測定の趣旨をよく説明するとともに、気楽な姿勢をとらせること。
(ハ) 基本軸の固定が大切であり、固定する場所は関節の近位あるいは遠位端であって関節そのものではいけないこと。
(ニ) 角度計の軸は関節の軸とよく一致させること。ただし、軸の平行移動は差支えない。
(ホ) 角度計は、関節を動かす前後2回あてて測定すること。
(ヘ) 膝関節のような2関節筋(多関節筋)のある関節ではその影響を十分配慮すること。
(2) 各論
イ 顎関節
顎関節 |
・開口位で上顎の正中線上で上歯と下歯の先端との間の距離をmmで表現する ・左右偏位に関しては上顎の正中線を軸として下歯列の動きを左右ともmmで表現する ・正常値は上下第1切歯対向縁間の距離50mm 左右偏位は10mmである |
ロ せき柱
部位名 |
運動方向 |
正常可動範囲 |
角度計のあてかた |
注意 |
備考 |
|||
|
|
|
基本軸 |
移動軸 |
軸心 |
|
|
|
頸部 |
前屈 (屈曲) |
0~60 |
前額面 中央線 |
耳孔と頭頂との結合線 |
肩関節中心 (肩峰部) |
頭部体幹の側面で行なう原則として腰かけ坐位,その他立位,臥位 |
||
|
後屈 (伸展) |
0~50 |
〃 |
〃 |
〃 |
|||
|
回旋 (捻転) |
左旋 |
0~70 |
背面 |
鼻梁と後頭結節との結合線 |
頭頂 |
測定は頭頂水平面で行なう。体位は腰かけ坐位,立位または背臥位 |
|
|
|
右旋 |
0~70 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
|
側屈 |
左屈 |
0~50 |
第7頸椎棘突起と第5腰椎棘突起との結合線 |
頭頂と第7頸椎棘突起との結合線 |
第7頸椎棘突起 |
測定は頭部体幹の前面または背面で行なう,体位は腰かけ坐位,立位背臥位または腹臥位 |
|
|
|
右屈 |
0~50 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
胸腰部 |
前屈 (屈曲) |
0~45 |
第5腰椎棘突起をとおる垂線 側臥位では水平線 |
第7頸椎と第5腰椎棘突起の結合線 |
第5腰椎棘突起 |
測定は体幹側面で行なう体位は腰かけ坐位,立位または側臥位,軸心は第5腰椎棘突起が判然としない場合はジャコビー線の中央にたてた垂線との交叉点を用いてもよい |
||
|
後屈 (伸展) |
0~30 |
〃 |
〃 |
〃 |
|||
|
回旋 (捻転) |
左旋 |
0~40 |
腰かけの背あて(垂直)の線 |
両肩甲部の切線 |
両肩甲部の切線と背あての延長線の交点 |
測定は腰かけの背あてに腰殿部を固定した位置で行なう 体位は腰かけ坐位 |
|
|
|
右旋 |
0~40 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
|
側屈 |
左屈 |
0~50 |
ジャコビー線の中点にたてた垂線 |
第7頸椎棘突起と第5腰椎棘突起の結合線 |
第5腰椎棘突起 |
測定は体幹の背面で行なう体位は腰かけ坐位または立位 |
|
|
|
右屈 |
0~50 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
注:
脊柱に変形があるときは測定は困難なので便宜上起立位で腰部を前屈し上肢を伸展させてその指尖と床面との距離をcmで表現する。側屈も同じ
起立不能の時は臥位のまま下肢を伸展させた位置で鼻先母趾先端までの距離をcmで表わす
胸腰部の測定には股関節の運動がはいらぬよう注意する。そのためフレキシブルテープで長さを計測するのもよい。
ハ 上肢
関節名 (部位名) |
運動方向 |
正常可動範囲 |
角度計のあてかた |
注意 |
備考 |
||
|
|
基本軸 |
移動軸 |
軸心 |
|
|
|
肩 (肩甲骨の動きも含む) |
屈曲 (前方挙上) |
0~180 |
肩峰を通る垂直線(起立または坐位) |
上腕骨 |
肩峰 |
体幹が動かないように固定する 脊柱が前後屈しないように |
|
伸展 (後方挙上) |
0~50 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
||
|
外転 (側方挙上) |
0~180 |
〃 |
〃 |
〃 |
角度計は前後どちらにあててもよい 体の側屈が起こらぬように90°以上になったら前腕を回外することを原則とする 内転の計測は20°または45°屈曲位ではかる方法もある |
|
|
内転 |
0 |
〃 |
〃 |
〃 |
||
|
外旋 |
0~90 |
床に垂直(右図) |
尺骨 |
肘頭 |
上腕を体幹に接し,肘関節を前方に90°屈曲した位置を原点とする~1. |
|
|
内旋 |
0~90 |
〃 |
〃 |
〃 |
肩関節を90°外転した位置ではかることもある~2. |
|
肘 |
屈曲 |
0~145 |
上腕骨 |
橈骨 |
肘関節 |
角度計は外側にあてる |
|
|
伸展 |
0~5 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
前腕 |
回内 |
0~90 |
床に垂直 (右図) |
伸展した母指を含む手掌面 |
第3指先 |
肩の回旋が入らないように肘を90°に屈曲する 0°の位置は前腕の中間位回外は手掌が天井をむいた状態 回内は手掌が床面をむいた状態 |
|
|
回外 |
0~90 |
〃 |
〃 |
〃 |
||
手 |
背屈 |
0~70 |
橈骨 |
第2中手骨 |
手関節 |
前腕は中間位,角度計は橈側にあてる |
|
|
掌屈 |
0~90 |
〃 |
〃 |
〃 |
||
|
橈屈 |
0~25 |
前腕骨 (前腕軸の中心) |
第3中手骨 〃 |
手関節 |
|
|
|
尺屈 |
0~55 |
〃 |
〃 |
〃 |
|