添付一覧
○障害等級認定基準の一部改正について〔労働基準法〕
(平成16年6月4日)
(基発第0604002号)
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
(公印省略)
手指の亡失等に係る労働基準法施行規則及び労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令の施行については、平成16年6月4日付け基発第0604001号をもって通達したところであるが、今般の労働者災害補償保険法施行規則の改正に伴い、昭和50年9月30日付け基発第565号別冊「障害等級認定基準」の「第1 障害等級認定にあたっての基本的事項」(以下「基本通達」という。)の一部を下記のとおり改正したので、了知の上、その事務処理に遺漏なきを期されたい。
記
1 改正の趣旨
今般の基本通達の改正は、「障害等級表」が改正されたことに伴うもののほか、用語及び例示等について必要な整理を行ったものであること。
2 改正内容
(1) 2の(1)中、「138種」を「136種」に改める。
(2) 3の(1)のイの(ロ)中、「眼瞼」を「まぶた」に改める。
(3) 3の(2)中、「同一系列として取り扱われることとなる」を「同一系列とみなして(以下「みなし系列」という。)取り扱う」に改める。
(4) 3の障害系列表中、「眼瞼」を「まぶた」に、「奇形(変形)」を「変形」に改め、備考の「1」及び第2号の全文を削除する。
(5) 4の(3)のイの(ハ)中、「膝関節」を「ひざ関節」に改める。
(6) 4の(3)のニの(ホ)中、「眼瞼」を「まぶた」に改める。
(7) 5の(1)のイの(イ)の例中、「肘関節」を「ひじ関節」に、「第12級とする」を「併合第12級とする」に改める。
(8) 5の(1)のイの(ロ)の例中、「第7級」を「併合第7級」に改める。
(9) 5の(1)のロの例中、「腕関節」を「手関節」に、「第2級」を「併合第2級」に改める。
(10) 5の(1)のハの例中、「第1級とする」を「併合第1級とする」に改める。
(11) 5の(1)のニの(ハ)の例中、「上腕骨に仮関節」を「1上肢に偽関節」に、「第7級の9」を「第8級の8」に改める。
(12) 5の(1)のホの例中、「小指の亡失」を「母指の指骨の一部欠損」に改める。
(13) 5の(2)のイ中、「第12級の障害」を「準用第12級の障害」に改める。
(14) 5の(2)のロの(イ)の例中、「第7級」を「準用第7級」に改める。
(15) 5の(2)のロの(ロ)のaの例を次のように改める。
1手の「中指の用を廃し」(第12級の9)、かつ、「小指を失った」(第12級の8の2)場合は、併合の方法を用いると第11級となるが、この場合、当該障害の程度は、「1手の母指以外の2の手指の用を廃したもの」(第10級の6)よりも重く、「1手の母指以外の2の手指を失ったもの」(第9級の8)よりは軽いので、準用第10級に認定する。
(16) 5の(2)のロの(ロ)のbの例の1中、「第6級に認定する」を「準用第6級に認定する」に改める。
(17) 5の(2)のロの(ロ)のbの例の2中、「腕関節」を「手関節」に、「第6級に認定する」を「準用第6級に認定する」に改める。
(18) 5の(3)のロの例の1を次のように改める。
既に右示指の用を廃していた(第12級の9)者が、新たに同一示指を亡失した場合には、現存する身体障害に係る等級は第11級の6となるが、この場合の障害補償の額は、現存する障害の障害補償の額(第11級の6、給付基礎日額の223日分)から既存の障害の障害補償の額(第12級の9、給付基礎日額の156日分)を差し引いて給付基礎日額の67日分となる。
(19) 5の(3)のロの例の2中、「腕関節」を「手関節」に改める。
(20) 5の(3)のハの例中、「第13級の4」を「第12級の8の2」に改める。
(21) 5の(3)のニの例中、「腕関節」を「手関節」に改める。
(22) 5の(3)のホの(イ)の例を次のように改める。
「1手の示指を亡失」(第11級の6)していた者が、新たに「同一手の環指を亡失」(第11級の6)した場合、現存する障害は第9級の8となるが、この場合、現存する障害の障害補償の額(第9級の8、給付基礎日額の391日分)から既存の障害の障害補償の額(第11級の6、給付基礎日額223日分)を差し引くと、障害補償の額は給付基礎日額の168日分となり、新たな障害(第11級の6、給付基礎日額の223日分)のみが生じたこととした場合の障害補償の額より少ないので、この場合は、第11級の6の障害のみが生じたものとみなして、給付基礎日額の223日分を支給する。
(23) 5の(3)のホの(ロ)の例を次のように改める。
「1手の中指、環指及び小指の用を廃していた」(第9級の9)者が、新たに「同一手の小指を亡失」(第12級の8の2)した場合であっても、現存する障害は第8級には及ばないので第9級となり、加重の取扱いによれば、障害補償の額は0となるが、新たに障害が生じた小指についてのみ加重の取扱いをして「小指の亡失」の障害補償の額(第12級の8の2、給付基礎日額の156日分)から、既存の「小指の用廃」の障害補償の額(第13級の4、給付基礎日額の101日分)を差し引くと障害補償の額は給付基礎日額の55日分となるので、この場合の障害補償の額は、新たに小指のみに障害が加重されたものとみなして給付基礎日額の55日分を支給する。
○障害等級認定基準について
(昭和50年9月30日)
(基発第565号)
(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通知)
労働基準法施行規則及び労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令(昭和50年労働省令第23号)が本年9月1日から施行され、その施行に当っての留意事項について、昭和50年8月28日付基発第509号をもって指示したところであるが、今後、この改正省令施行を機に、新設又は改正された省令部分に係る障害等級の認定基準及び従来まで通達等により示してきたところの障害等級の認定基準を各科別に専門医師の意見を参酌して集大成し、別冊のとおり「障害等級認定基準」(以下「認定基準」という。)として定めたので、昭和50年9月1日以降に支給事由の生じた障害補償、障害補償給付及び障害給付に係る障害等級の認定等に関する取扱いについては、下記事項に留意のうえ、この「認定基準」により遺漏のないよう行うこととされたい。
なお、「障害等級認定基準(要旨)の新旧比較表」を添付するので参考とされたい。
記
1 「認定基準」の概要
(1) 障害等級の新設に伴い、認定基準を新設し又は改正したもの
イ 聴力障害関係
(イ) 両耳の聴力障害について、第6級の3の2、第7級の2の2、第9級の6の2、第9級の6の3、第10級の3の2及び第11級の3の3を、また、1耳の聴力障害について、第14級の2の2を新設したことに伴い、それぞれについての認定基準を定めたものであること。
また、等級の新設に伴い、聴力障害に係る従来までの認定基準を改めたものであること。
(ロ) 従来は、聴力障害の障害程度の評価は、原則として純音聴力検査結果のみにより行うこととしていたが、今後は、語音聴力検査結果をも加味したものに改めたものであること。
また、認定の時期及び聴力検査についても改正を行い、聴力検査方法については、日本オージオロジー学会制定の「標準聴力検査法」によることを明らかにしたものであること。
ロ 神経系統の機能又は精神の障害関係
(イ) 神経系統の機能又は精神の障害については、中枢神経系(脳)の障害、せき髄の障害、根性・末梢神経麻痺及びその他の特徴的な障害に大別し、またその他の特徴的な障害を、外傷性てんかん、頭痛、失調・めまい及び平衡機能障害、疼痛等感覚及び外傷性神経症に細分し、それぞれについて認定基準を定めたものであること。
(ロ) 第5級の1の2の新設に伴い、これに係る認定基準を定めたものであること。
また、このため、従来の第7級に係る認定基準を一部定めたものであること。
ハ 胸腹部臓器の障害関係
(イ) 第5級の1の3及び第9級の7の3の新設に伴い、それぞれについての認定基準を定めたものであること。
また、このため、従来の認定基準を一部改めたものであること。
(ロ) 新たに、じん肺による障害を障害補償の対象としたことに伴い、じん肺による障害に係る認定基準を定めたものであること。
なお、じん肺による障害の認定は、基本的には胸腹部臓器の障害について定めた方法によることとなるが、じん肺の特異性、複雑性に鑑み、特にじん肺による障害についての認定基準を定めたものであること。
(2) 従来の認定基準を改正整備したもの(障害等級の新設に伴って改正したものを除く。)
イ 同一眼球に2以上の障害を残す場合の取扱いについて
同一眼球に系列を異にする2以上の障害が存する場合の取扱いを改めたものであること。
ロ 外傷性散瞳について
外傷性散瞳については、従来の認定基準をより具体的にするとともに、当該障害が両眼に存する場合及び当該障害と視力障害とが併存する場合の取扱いを明らかにしたものであること。
ハ 視野の測定方法について
視野の測定方法を明らかにしたものであること。
ニ 鼓膜の外傷性せん孔に伴う耳漏等について
鼓膜の外傷性せん孔に伴う耳漏については、従来の認定基準を改めるとともに、外傷による外耳道の高度の狭さくで耳漏を伴わないものについても認定の基準を定めたものであること。
ホ 耳鳴について
耳鳴の取扱いを明らかにしたものであること。
ヘ 内耳損傷による平衡機能障害について
内耳損傷による平衡機能障害については、労働能力そう失の程度が近似している胸腹部臓器障害の等級に準じて取り扱っていたが、神経系統の機能の障害として取り扱うことと改めたものであること。
ト 頭蓋骨欠損に係る醜状障害の取扱いについて
頭蓋骨欠損に係る醜状障害の取扱いを定めたものであること。
チ せき柱の変形及び運動障害について
せき柱の変形及び運動障害の取扱いの一部を改めたものであること。
リ 指骨の一部欠損について
「指骨の一部を失ったもの」の取扱いの一部を改めたものであること。
ヌ 手指の用廃について
「手指の用を廃したもの」の取扱いの一部を改めたものであること。
ル 手指の末関節の屈伸不能について
「手指の末関節を屈伸することができないもの」の取扱いの一部を改めたものであること。
ヲ 母指の造指術後の障害について
母指の造指術後の障害の取扱いを明らかにしたものであること。
ワ 人工骨頭及び人工関節について
人工骨頭及び人工関節をそう入置換した場合の取扱いを明らかにしたものであること。
カ 関節運動可動域の測定方法について
関節運動可動域の測定は、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会において決定された「関節可動域表示並びに測定法」によることに改めたものであること。
2 「認定基準」運用上の留意事項
(1) この「認定基準」の施行に伴い、障害等級の認定基準に関する従来の通達(障害等級の認定基準以外の事項を併せ通達しているものについては、その認定基準に関する部分に限る。)は、昭和50年8月23日付基発第502号を除いて廃止するものであること。
(2) 「認定基準」の中の「注」書の部分は、それぞれの認定基準の理解を容意にするために解説したものであるので、それぞれの認定基準と一体として運用すべきものであること。
(3) 「認定基準」の「第2 障害等級認定の具体的要領」は、主として労働者災害補償保険法における取扱いの基準を示しているものであるが、労働基準法における取扱いについても、年金たる障害補償給付又は障害給付に係る取扱いを除いてこれによること。
(4) 労災病院、労災保険指定病院等関係医療機関の医師に対し、「認定基準」の周知徹底を図ること。
[昭和50年9月30日付]
[基発第565号]
[別冊]
障害等級認定基準
労働省労働基準局
目次
第1 障害等級認定にあたっての基本的事項
1 障害補償の意義
2 障害補償に係る規定の概要
(1) 障害等級
(2) 障害補償の額
(3) 障害等級の変更(年金たる障害補償の場合)
3 障害等級表の仕組みとその意義
(1) 部位
(2) 障害の系列
(3) 障害の序列
4 障害等級認定にあたっての原則と準則
5 障害等級認定の具体的方法(例示解説)
(1) 併合
(2) 準用
(3) 加重
第2 障害等級認定の具体的要領
1 眼(眼球及び眼瞼)
(1) 眼の障害と障害等級
(2) 障害等級認定の基準
イ 眼球の障害
(イ) 視力障害
(ロ) 調節機能障害
(ハ) 運動障害
(ニ) 視野障害
ロ 眼瞼の障害
(イ) 欠損障害
(ロ) 運動障害
(3) 併合、準用、加重
イ 併合
ロ 準用
ハ 加重
2 耳(内耳等及び耳介)
(1) 耳の障害と障害等級
(2) 障害等級認定の基準
イ 聴力障害
ロ 耳介の欠損障害
(3) 併合、準用、加重
イ 併合
ロ 準用
ハ 加重
3 鼻
(1) 鼻の障害と障害等級
(2) 障害等級認定の基準
鼻の欠損及び機能障害
(3) 準用
4 口
(1) 口の障害と障害等級
(2) 障害等級認定の基準
イ そしゃく及び言語機能障害
ロ 歯牙障害
(3) 併合、準用、加重
イ 併合
ロ 準用
ハ 加重
5 神経系統の機能又は精神
(1) 神経系統の機能又は精神の障害と障害等級
(2) 障害等級認定の基準
イ 中枢神経系(脳)の障害
ロ せき髄の障害
ハ 根性及び末梢神経麻痺
ニ その他特徴的な障害
(イ) その他特徴的な障害
(ロ) 頭痛
(ハ) 失調、めまい及び平衡機能障害
(ニ) 疼痛等感覚異常
(ホ) 外傷性神経症(災害神経症)
(3) 併合、準用
イ 併合
ロ 準用
6 頭部、顔面、頸部(上肢及び下肢の醜状を含む。)
(1) 醜状障害と障害等級
(2) 障害等級認定の基準
イ 外ぼうの醜状障害
ロ 露出面の醜状障害
(3) 併合、準用、加重、その他
イ 併合
ロ 準用
ハ 加重
ニ その他
7 胸腹部臓器
(1) 胸腹部臓器の障害と障害等級
(2) 障害等級認定の基準
イ 胸部臓器の障害(じん肺による障害を除く。)
ロ じん肺による障害
ハ 腹部臓器の障害
ニ 泌尿器の障害
ホ 生殖器の障害
8 せき柱及びその他の体幹骨
(1) せき柱及びその他の体幹骨の障害と障害等級
(2) 障害等級認定の基準
イ せき柱の障害
(イ) 変形障害
(ロ) 運動障害
ロ その他の体幹骨の変形障害
(3) 併合、準用
イ 併合
ロ 準用
9 上肢(上肢及び手指)
(1) 上肢及び手指の障害と障害等級
(2) 障害等級認定の基準
イ 上肢の障害
(イ) 欠損障害
(ロ) 機能障害
(ハ) 変形障害
ロ 手指の障害
(イ) 欠損障害
(ロ) 機能障害
(3) 併合、準用、加重、その他
イ 併合
ロ 準用
ハ 加重
ニ その他
10 下肢(下肢及び足指)
(1) 下肢及び足指の障害と障害等級
(2) 障害等級認定の基準
イ 下肢の障害
(イ) 欠損障害
(ロ) 機能障害
(ハ) 変形障害
(ニ) 短縮障害
ロ 足指の障害
(イ) 欠損障害
(ロ) 機能障害
(3) 併合、準用、加重、その他
イ 併合
ロ 準用
ハ 加重
ニ その他
別紙1 「標準聴力検査法」
別紙2 「関節運動可動域の測定要領」
第1 障害等級認定にあたっての基本的事項
1 障害補償の意義
労働基準法における障害補償並びに労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)における障害補償給付及び障害給付(以下「障害補償」という。)は、労働者が業務上(又は通勤により)負傷し、又は疾病にかかり、なおったとき身体に障害が存する場合に、その障害の程度に応じて行うこととされており(労働基準法第77条、労災保険法第12条の8及び第22条の3)、障害補償の対象となる障害の程度は、労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)別表第2身体障害等級表及び労働者災害補償保険法施行規則(以下「労災則」という。)別表障害等級表(以下これらを「障害等級表」という。)に定められている。
ところで、障害補償は、障害による労働能力のそう失に対する損失てん補を目的とするものである。したがって、負傷又は疾病(以下「傷病」という。)がなおったときに残存する、当該傷病と相当因果関係を有し、かつ、将来においても回復が困難と見込まれる精神的又は身体的なき損状態(以下「廃疾」という。)であって、その存在が医学的に認められ、労働能力のそう失を伴うものを障害補償の対象としているものである。
なお、ここにいう「なおったとき」とは、傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法(以下「療養」という。)をもってしても、その効果が期待し得ない状態(療養の終了)で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したときをいう。したがって、障害程度の評価は、原則として療養効果が期待し得ない状態となり、症状が固定したときにこれを行うこととなる。ただし、療養効果が期待し得ない状態であっても、症状の固定に至るまでにかなりの期間を要すると見込まれるものもあるので、この場合は、医学上妥当と認められる期間を待って、障害程度を評価することとし、症状の固定の見込みが6カ月以内の期間において認められないものにあっては、療養の終了時において、将来固定すると認められる症状によって等級を認定することとする。
また、「労働能力」とは、一般的な平均的労働能力をいうものであって、被災労働者の年令、職種、利き腕、知識、経験等の職業能力的諸条件については、障害の程度を決定する要素とはなっていない。
2 障害補償に係る規定の概要
(1) 障害等級
障害補償は、前記のとおり、障害の程度に応じて行うこととされており、またその対象とすべき身体障害の等級は、障害等級表に定めるところによることとされている(労基則第40条第1項、労災則第14条第1項)。したがって、障害等級表は、障害程度の評価にあたって適正に取り扱われるべきものである。
障害等級表においては、労働能力のそう失の程度の若干異なる身体障害が同一等級として格付けされ、また、同種の身体障害についてみると、労働能力のそう失の程度が一定の範囲内にあるものをくくって同一の等級に格付けしているものがある。
これらは、障害等級表が労働能力そう失の程度に応じ、障害の等級を第1級から第14級までの14段階に区分していること、及び138種の類型的な身体障害を掲げるにとどまることからくる制約によるものである。
したがって、同一等級に格付けされている身体障害相互間においても、労働能力そう失の程度に若干の相異があるものがあり、また、各等級に掲げられている身体障害についても、一定の幅のあるものがあるが、前記の制約によりやむを得ない結果であり、障害程度の評価にあたっては、労働能力のそう失の程度が同一であるとして取り扱われているものである。
なお、障害等級表に掲げる身体障害が2以上ある場合の取扱い及び障害等級表に掲げるもの以外の身体障害の取扱いについては、次のとおり定められている。
イ 障害等級表に掲げる身体障害が2以上ある場合は、重い方の身体障害の該当する等級によることとし(労基則第40条第2項、労災則第14条第2項)、次に掲げる場合にあっては、それぞれの方法により等級を繰上げ、当該身体障害の等級とする(労基則第40条第3項、労災則第14条第3項)(以下これを「併合」という。)。
(イ) 第13級以上に該当する身体障害が2以上ある場合は、重い方の身体障害の該当する等級を1級繰上げる。
(ロ) 第8級以上に該当する身体障害が2以上ある場合は、重い方の身体障害の該当する等級を2級繰上げる。
(ハ) 第5級以上に該当する身体障害が2以上ある場合は重い方の身体障害の該当する等級を3級繰上げる。
ロ 障害等級表に掲げるもの以外の身体障害については、その障害の程度に応じ、障害等級表に掲げる身体障害に準じてその等級を定めることとされている(労基則第40条第4項、労災則第14条第4項)(以下これを「準用」といい、これにより定められた等級を「準用等級」という。)。
(2) 障害補償の額
イ 上記(1)のイの(イ)、(ロ)又は(ハ)により併合し、等級の繰上げを行った場合の障害補償の額は、労災保険法における障害補償給付又は障害給付であって、等級を繰上げた結果が障害補償年金又は障害年金に該当する場合(第7級以上に該当する場合)を除き、各々の身体障害の該当する等級による障害補償の額の合算額を超えないこととされている(労基則第40条第3項ただし書、労災則第14条第3項ただし書)。
ロ 既に身体障害のあった者が、同一の部立について障害の程度を加重した場合の当該事由に係る障害補償の額は、現在の身体障害の該当する等級に応ずる額から、既にあった身体障害の該当する等級に応ずる障害補償の額を差し引いた額とされている(労基則第40条第5項、労災則第14条第5項)。
なお、労災保険法における障害補償給付又は障害給付の場合で、現在の身体障害の該当する等級に応ずる障害補償給付又は障害給付が障害補償年金又は障害年金であって、既にあった身体障害の該当する等級に応ずる障害補償給付又は障害給付が障害補償一時金又は障害一時金である場合には、現在の身体障害の該当する等級に応ずる障害補償年金又は障害年金の額から、既にあった身体障害の該当する障害補償一時金又は障害一時金の額を25で除して得た額を差し引いた額とされている(労災則第14条第5項)。
(3) 障害等級の変更(年金たる障害補償の場合)
障害補償年金又は障害年金を受ける労働者の当該障害の程度に変更があったために、新たに他の等級に該当するに至った場合には、新たに該当するに至った等級に応ずる障害補償年金又は障害年金若しくは障害補償一時金又は障害一時金を支給することとし、従前の等級に応ずる障害補償年金又は障害年金は、等級に変更のあった月の翌月から支給しないこととされている(労災保険法第9条第1項、第15条の2及び第22条の3)。
3 障害等級表の仕組みとその意義
障害補償の対象とすべき身体障害の程度を定めている障害等級表は、次のごとき考え方に基づいて定められている。
即ち、障害等級表は、身体をまず解剖学的観点から部位に分け、次にそれぞれの部位における身体障害を機能の面に重点を置いた生理学的観点から、たとえば、眼における視力障害、運動障害、調節機能障害及び視野障害のように一種又は数種の障害群に分け(これを便宜上「障害の系列」と呼ぶ。)、さらに、各障害は、その労働能力のそう失の程度に応じて一定の順序のもとに配列されている(これを便宜上「障害の序列」と呼ぶ。)。
障害等級の認定の適正を期するためには、障害の系列及び障害の序列についての認識を深めることにより、障害等級表の仕組みを理解することが、重要である。
(1) 部位
身体障害は、まず解剖学的な観点から次の部位ごとに区分されている。
イ 眼
(イ) 眼球
(ロ) 眼瞼(右又は左)
ロ 耳
(イ) 内耳等
(ロ) 耳介(右又は左)
ハ 鼻
ニ 口
ホ 神経系統の機能又は精神
ヘ 頭部、顔面、頸部
ト 胸腹部臓器(外生殖器を含む。)
チ 体幹
(イ) せき柱
(ロ) その他の体幹骨
リ 上肢(右又は左)
(イ) 上肢
(ロ) 手指
ヌ 下肢(右又は左)
(イ) 下肢
(ロ) 足指
なお、以上の区分にあたって、眼球及び内耳等については、左右両器官をもって1の機能を営むいわゆる相対性器官としての特質から、両眼球、両内耳等を同一部位とし、また、上肢及び下肢は、左右一対をなす器官ではあるが、左右それぞれを別個の部位とされている。
(2) 障害の系列
上記のとおり部位ごとに区分された身体障害は、さらに生理学的な観点から、次表のとおり35種の系列に細分され、同一欄内の身体障害については、これを同一の系列にあるものとして取り扱うこととする。
なお、下記のごとく、同一部位に系列を異にする身体障害を生じた場合は、同一もしくは相関連するものとして取り扱うことが、認定実務上合理的であるので、具体的な運用にあたっては同一系列として取り扱われることとなる。
イ 両眼球の視力障害、運動障害、調節機能障害、視野障害の各相互間
ロ 同一上肢の機能障害と手指の欠損又は機能障害
ハ 同一下肢の機能障害と足指の欠損又は機能障害
障害系列表
部位 |
器質的障害 |
機能的障害 |
系列区分 |
||
眼 |
眼球(両眼) |
|
視力障害 |
1 |
|
|
|
|
調節機能障害 |
2 |
|
|
|
|
運動障害 |
3 |
|
|
|
|
視野障害 |
4 |
|
|
眼瞼 |
右 |
欠損障害 |
運動障害 |
5 |
|
|
左 |
同上 |
同上 |
6 |
耳 |
内耳等(両耳) |
|
聴力障害 |
7 |
|
|
耳かく(耳介) |
右 |
欠損障害 |
|
8 |
|
|
左 |
同上 |
|
9 |
鼻 |
欠損及び機能障害 |
10 |
|||
口 |
|
そしゃく及び言語機能障害 |
11 |
||
|
歯牙障害 |
|
12 |
||
神経系統の機能又は精神 |
神経系統の機能又は精神の障害 |
13 |
|||
頭部、顔面、頸部 |
醜状障害 |
|
14 |
||
胸腹部臓器(外生殖器を含む) |
胸腹部臓器の障害 |
15 |
|||
体幹 |
せき柱 |
奇形(変形)障害 |
運動障害 |
16 |
|
その他の体幹骨 |
奇形(変形)障害(鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨又は骨盤骨) |
|
17 |
||
上肢 |
上肢 |
右 |
欠損障害 |
機能障害 |
18 |
|
|
奇形(変形)障害(上腕骨又は前腕骨) |
|
19 |
|
|
|
|
醜状障害 |
|
20 |
|
|
左 |
欠損障害 |
機能障害 |
21 |
|
|
|
奇形(変形)障害(上腕骨又は前腕骨) |
|
22 |
|
|
|
醜状障害 |
|
23 |
|
手指 |
右 |
欠損障害 |
機能障害 |
24 |
|
|
左 |
同上 |
同上 |
25 |
下肢 |
下肢 |
右 |
欠損障害 |
同上 |
26 |
|
|
奇形(変形)障害(大腿骨又は下腿骨) |
|
27 |
|
|
|
|
短縮障害 |
|
28 |
|
|
|
醜状障害 |
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29 |
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左 |
欠損障害 |
機能障害 |
30 |
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短縮(変形)障害(大腿骨又は下腿骨) |
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31 |
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短縮障害 |
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32 |
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醜状障害 |
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33 |
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足指 |
右 |
欠損障害 |
機能障害 |
34 |
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左 |
同上 |
同上 |
35 |
備考
1 「耳かく」については、以下「耳介」という。
2 「奇形」障害については、以下「変形」障害という。
(3) 障害の序列
イ 障害等級表は、上記のとおり労働能力のそう失の程度に応じて身体障害を第1級から第14級までの14段階に区分しており、この場合の同一系列の障害相互間における等級の上位、下位の関係を障害の序列(以下「序列」という。)という。
障害等級表上定めのない身体障害及び同一系列に2以上の身体障害が存する場合の等級の認定にあたっては、障害の序列を十分に考慮すべきものである。(後記「5 障害等級認定の具体的方法(例示解説)」を参照のこと。)
なお、同一系列における序列については、次の類型に大別されるので、それぞれの等級の認定にあたっては留意する必要がある。
(イ) 障害の程度を一定の幅で評価することから、上位等級の身体障害と下位等級の身体障害との間に中間の等級を定めていないもの
(例
1 1眼の視力障害については、視力0.1以下を第10級に視力0.6以下を第13級に格付けているので、第13級には、視力0.1をこえて0.6までの視力障害が含まれることとなり、その中間にあたる視力0.4の視力障害は、第13級となり、視力が0.1以下にならない限り、上位の等級には格付けされない。
2 両眼の視力障害については、両眼の視力0.1以下を第6級に、両眼の視力0.6以下を第9級に格付けているので、第9級には両眼の視力が0.1をこえて0.6までの視力障害が含まれることとなり、1眼の視力0.6、他眼の視力0.1の視力障害は、第9級となる。)
(ロ) 上位等級の身体障害と下位等級の身体障害との区別を、労働能力に及ぼす影響の総合的な判定により行っているもの
(例 胸腹部臓器の障害については、「常に介護を要するもの」(第1級)、「終身労務に服することができないもの」(第3級)、「特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」(第5級)、「軽易な労務以外の労務に服することができないもの」(第7級)、「服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」(第9級)、「障害を残すもの」(第11級)の6段階に区分されており、その労働能力に及ぼす影響を総合的に判定して等級を認定することとしている。)
(ハ) 障害等級表上、最も典型的な身体障害を掲げるにとどまり上位等級の身体障害と下位等級の身体障害との間に中間の身体障害が予想されるにかかわらず定めていないもの
(例
1 1上肢の機能障害については、「1上肢の用を廃したもの」(第5級)、「1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの」(第6級)、「1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」(第8級)、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」(第10級)、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」(第12級)の5段階に区分されており、1上肢の3大関節中の2関節の機能に障害を残すものは、第10級と第12級の中間の程度の身体障害であるにもかかわらず、障害等級表上には格付けられていない。
このように障害等級表における身体障害の定め方が最も典型的な身体障害を掲げるにとどまる場合に、上位等級の身体障害と下位等級の身体障害との等級差が2以上である場合は、障害の序列にしたがって、中間の等級を定めることができる。
2 しかしながら、たとえば「1上肢の用を全廃したもの」(第5級)と「1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの」(第6級)のごとく、等級差が1である場合には、障害等級表上、これらの中間の等級はないので、上位等級に達しない限り、下位等級に該当するものとして取り扱うこととなる。)
ロ 欠損障害は、労働能力の完全なそう失であり、障害等級表上、同一部位に係る機能障害よりも上位に格付けられているので、同一部位に欠損障害以外のいかなる身体障害が残存したとしても、その程度は欠損障害の程度に達することはない。
ただし、その例外として、機能の全部そう失については欠損障害と同等に評価されている場合がある(第1級の6と第1級の7又は第1級の8と第1級の9)。
ハ 上記イ、ロによるほか、系列を異にする2以上の身体障害が残存した場合で、障害等級表上組合せにより等級が定められているものについても、その等級間に、いわゆる序列に類する上位下位の関係が明らかにされている。したがって系列を異にする2以上の身体障害のうちこれら組合せのあるもの以外のものの等級の認定については、原則として併合の方法により、行うこととなるが、上位、下位の関係に留意のうえ等級を認定することが必要である。なお、この場合、両上肢及び両下肢の欠損障害については、障害等級表に組合せによる等級が掲げられているので、その等級以外の格付けはあり得ない。したがって、上位等級(第1級の6又は第1級の8)に達しないものは、すべて下位等級(第2級の3又は第2級の4)に該当するものとして取り扱うこととなる。
4 障害等級認定にあたつての原則と準則
障害等級の認定にあたっては、前記2(障害補償に係る規定の概要)のとおり、法令の定めるところによることを原則とするが、なお、これが運用にあたっては、次のごとき準則により取り扱うものとする。
(1) 併合(労基則第40条第2項、3項及び労災則第14条第2項、3項)の場合
イ 「併合」とは、系列を異にする身体障害が2以上ある場合に、重い方の身体障害の等級によるか、又はその重い方の等級を1級ないし3級を繰り上げて当該複数の障害の等級とすることをいう。
ロ 併合して等級が繰り上げられた結果、障害の序列を乱すこととなる場合は、障害の序列にしたがって等級を定めることとなる。
ハ 併合して等級が繰り上げられた結果、障害等級が第1級をこえる場合であっても、障害等級表上、第1級以上の障害等級は存在しないので、第1級にとどめることとなる。
ニ 系列を異にする身体障害が2以上存する場合には、併合して等級を認定することとなるが、次の場合にあっては、併合の方法を用いることなく等級を定めることとなる。
(イ) 両上肢の欠損障害及び両下肢の欠損障害については、本来、系列を異にする複数の身体障害として取り扱うべきものであるが、障害等級表上では組み合わせ等級として定められているので(第1級の6、第1級の8、第2級の3、第2級の4)、それぞれの等級を併合の方法を用いることなく、障害等級表に定められた当該等級により認定する。
(ロ) 1の身体障害が観察の方法によっては、障害等級表上の2以上の等級に該当すると考えられる場合であるが、これは、その1の身体障害を複数の観点(複数の系列)で評価しているにすぎないものであるから、この場合には、いずれか上位の等級をもって、当該身体障害の等級とする。
(ハ) 1の身体障害に他の身体障害が通常派生する関係にある場合には、いずれか上位の等級をもって、当該身体障害の等級とする。
(2) 準用(労基則第40条第4項及び労災則第14条第4項)の場合
イ 障害等級表に掲げるもの以外の身体障害については、その障害の程度に応じ障害等級表に掲げる身体障害に準じて、その等級を定めることとなるが、この「障害等級表に掲げるもの以外の身体障害」とは、次の2つの場合をいう。
(イ) ある身体障害が、障害等級表上のいかなる障害の系列にも属さない場合
(ロ) 障害等級表上に、その属する障害の系列はあるが、該当する身体障害がない場合
ロ この場合においては、次により、その準用等級を定めるものとする。
(イ) いかなる障害の系列にも属さない場合
その障害によって生ずる労働能力のそう失の程度を医学的検査結果等に基づいて判断し、その障害が最も近似している系列の障害における労働能力のそう失の程度に相当する等級を準用等級として定める。
(ロ) 障害の系列は存在するが、該当する障害がない場合
a この準用等級を定めることができるのは、同一系列に属する障害群についてであるので、この場合は、同一系列に属する2以上の障害が該当するそれぞれの等級を定め、併合の方法を用いて準用等級を定める。ただし、併合の方法を用いた結果、序列を乱すときは、その等級の直近上位又は直近下位の等級を当該身体障害の該当する等級として認定する。
b 本来は異なる系列のものを、同一系列の障害として取り扱っているもの(「3 障害等級表の仕組みとその意議」の(2)のイ~ハ)については、それぞれの障害について各々別個に等級を定め、さらにこれを併合して得られる等級を準用等級とする。ただし、併合の結果、序列を乱すときは、その等級の直近下位の等級を当該身体障害の該当する等級として認定する。
(3) 加重(労基則第40条第5項、労災則第14条第5項)の場合
イ 既に身体障害のあった者が業務災害(又は通勤災害)によって同一の部位について障害の程度を加重した場合は、加重した限度で障害補償を行う。
(イ) 「既に身体障害のあった者」とは、新たな業務災害(又は通勤災害)の発生前において、既に身体障害のあった者をいい、その身体障害が、当該事業場に雇用される前の災害によるものであると、当該事業場に雇用された後の災害によるものであるとを問うところでないし、また先天性のものであると、後天性のものであると、業務上の事由によるものであると、業務外の事由によるものであると、現実に給付を受けたものであると否とにかかわらず、既に障害等級表に定められている程度の身体障害が存していた者をいう。
(ロ) 「加重」とは、業務災害(又は通勤災害)によって新たに障害が加わった結果、障害等級表上、現存する障害が既存の障害より重くなった場合をいう。したがって、自然的経過又は既存の障害の原因となった疾病の再発など、新たな業務災害(又は通勤災害)以外の事由により障害の程度を重くしたとしても、ここにいう「加重」には該当しない。また、同一部位に新たな障害が加わったとしても、その結果、障害等級表上、既存の障害よりも現存する障害が重くならなければ、「加重」には該当しない。
なお、既存の障害が、業務災害(又は通勤災害)によるものである場合は、その後の障害の程度の変更いかんにかかわらず、既に障害補償のなされた等級(労災保険法第15条の2の規定により新たに該当するに至った等級の障害補償を行ったときは当該等級)を既存の障害の等級とする。
(ハ) ここにいう「同一の部位」とは、前記3の(2)の「同一系列」の範囲内をいう。ただし、異なる系列であったとしても、「欠損」又は「機能の全部そう失」は、その部位における最上位の等級であるので、障害が存する部位に「欠損」又は「機能の全部そう失」という障害が後に加わった場合(たとえば、右下肢の下腿骨に変形の既存障害が存する場合に、その後新たに右下肢を膝関節以上で失ったとき)は、それが系列を異にする障害であったとしても、「同一部位」の加重として取り扱うこととする。
ロ 加重の場合の障害補償の額は、加重された身体障害の該当する障害等級の障害補償の額(日数)から、既に存していた身体障害の該当する障害等級の障害補償の額(日数)を控除して得た額(日数)とする。
ただし、既存の身体障害が第8級以下に該当するものであって、新たに加重の結果、第7級(年金)以上になった場合には、現在の身体障害の該当する障害等級の障害補償の年額(日数)から既存の身体障害の障害補償の額(日数)の1/25を控除して得た額とする。
ハ 同一の部位に身体障害の程度を加重するとともに、他の部位にも新たな身体障害が残った場合は、まず、同一部位の加重された後の身体障害についてその障害等級を定め、次に、他の部位の身体障害について障害等級を定め、両者を併合して現在の身体障害の該当する障害等級を認定する。
ニ 系列を異にする身体障害で障害等級表上、特にその組合せを規定しているために、同一系列とされている次の場合に、既存障害としてその一方に身体障害を有していた者が、新たに他方に身体障害を加え、その結果組合せ等級に該当するに至ったときは、新たな身体障害のみの該当する等級によることなく、加重として取り扱うものとする。
(イ) 両上肢の欠損又は機能障害
(第1級の6、第1級の7、第2級の3)
(ロ) 両手指の欠損又は機能障害
(第3級の5、第4級の6)
(ハ) 両下肢の欠損又は機能障害
(第1級の8、第1級の9、第2級の4、第4級の7)
(ニ) 両足指の欠損又は機能障害
(第5級の6、第7級の11)
(ホ) 両眼瞼の欠損又は運動障害
(第9級の4、第11級の2、第13級の3)
ホ 手指及び足指並びに相対性器官(眼球及び内耳等)で身体障害の程度を加重した場合であっても、次の場合には、以下の準則により取り扱うこととする。
(イ) 手(足)指に既に身体障害を有する者が、同一手(足)の他指に新たに身体障害を加えた場合及び相対性器官の一側に既に身体障害を有する者が、他側に新たに身体障害を残した場合において、前記ロの方法により算定した障害補償の額(日数)が、新たな身体障害のみが生じたこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないときは、その新たな身体障害のみが生じたものとみなして障害等級の認定を行う。
(ロ) 一手(足)の2以上の手(足)指に既に身体障害を有する者が、その身体障害を有している手(足)指の一部について身体障害の程度を重くした場合において、前記ロの方法により算定した障害補償の額(日数)が、その一部の手(足)指のみに身体障害が存したものとみなして新たに身体障害の程度を加重したこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないときは、その一部の手(足)指にのみ新たに身体障害の程度を加重したものとみなし、取り扱うこととする。
(ハ) 相対性器官の両側に既に身体障害を有する者が、その1側について既存の障害の程度を重くした場合に、前記ロの方法により算出した障害補償の額(日数)が、その1側のみに身体障害が存したものとみなして新たに身体障害の程度を加重したこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないときは、その1側にのみ新たに身体障害の程度を加重したものとみなして障害等級の認定を行うこととする。
(ニ) 障害の程度を加重するとともに、他の部位にも新たな身体障害を残した場合には、前記ロの方法により算定した障害補償の額(日数)が、他の部位の新たな身体障害のみが生じたこととした場合における障害補償の額(日数)より少ないときは、その新たな身体障害のみが生じたものとみなして取り扱うこととする。
(ホ) 上記(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の場合において、前記ロの方法による加重後の身体障害の等級が第7級以上(年金)に該当し、新たに加わった身体障害が単独で生じたこととした場合の等級が第8級以下に該当するとき(既存の身体障害の等級と加重後の身体障害の等級が同等級である場合を除く。)は、加重後の等級により認定し、障害補償の額の算定にあたっては、その加重後の等級の障害補償の年額(日数)から既存の身体障害の障害補償の額(日数)の1/25を控除して得た額とする。
5 障害等級認定の具体的方法(例示解説)
(1) 併合
イ 併合の原則的取扱い
(イ) 重い方の身体障害の等級により等級を認定するもの
(例 肘関節の機能に障害を残し(第12級の6)、かつ、4歯に対し歯科補てつを加えた(第14級の2)場合には、併合して重い方の障害の該当する等級により、第12級とする。)
(ロ) 併合繰上げにより等級を認定するもの
(例 せき柱に運動障害を残し(第8級の2)、かつ、1下肢を4センチメートル短縮した(第10級の7)場合には、併合して重い方の等級を1級繰上げ、第7級とする。)
ロ 併合して等級が繰り上げられた結果、障害の序列を乱すこととなる場合で、障害の序列にしたがって等級を定めたもの
(例 1上肢を腕関節以上で失い(第5級の2)、かつ、他の上肢をひじ関節以上で失った(第4級の4)場合は、併合して等級を繰り上げると第1級となるが、当該障害は、「両上肢をひじ関節以上で失ったもの」(第1級の6)の障害の程度に達しないので第2級とする。)
ハ 併合して等級が繰り上げられた結果、障害等級が第1級をこえる場合で、第1級にとどめたもの
(例 両眼の視力が0.02以下になり(第2級の2)、かつ、両手の手指の全部を失った(第3級の5)場合は、併合して等級を繰り上げると第1級をこえることとなるが、第1級以上の障害等級はあり得ないので第1級とする。)
ニ 併合の方法を用いることなく等級を定めたもの
(イ) 両上肢の欠損障害及び両下肢の欠損障害について、障害等級表に定められた当該等級により認定するもの
(例 1下肢をひざ関節以上で失い(第4級の5)、かつ、他の下肢をひざ関節で失った(第4級の5)場合は、併合の方法を用いることなく「両下肢をひざ関節以上で失ったもの」(第1級の8)の等級に該当する。)
(ロ) 1の身体障害が観察の方法によっては、障害等級表上の2以上の等級に該当すると考えられる場合に、いずれか上位の等級をもって当該障害の等級とするもの
(例 大腿骨に変形を残した(第12級の8)結果、同一下肢を1センチメートル短縮した(第13級の8)場合は、上位の等級である第12級の8をもって当該障害の等級とする。)
(ハ) 1の身体障害に他の身体障害が通常派生する関係にある場合に、いずれか上位の等級をもって当該障害の等級とするもの
(例 上腕骨に仮関節を残す(第7級の9)とともに、当該箇所にがん固な神経症状を残した(第12級の12)場合は、上位等級である第7級の9をもって当該障害の等級とする。)
ホ 併合の結果が第8級以下である場合における障害補償の額の算定方法(労基則第40条第3項ただし書及び労災則第14条第3項ただし書)
(例 右手の母指の亡失(第9級、給付基礎日額の391日分)及び左手の小指の亡失(第13級、給付基礎日額の101日分)が存する場合には等級を繰上げて第8級(給付基礎日額の503日分)となるが、第9級と第13級の障害補償の合算額(給付基礎日額の492日分)がこれに満たないので、この場合の障害補償の額は当該合算額(492日分)となる。)
(2) 準用
イ いかなる障害の系列にも属さない場合
「嗅覚脱失」および「味覚脱失」については、ともに第12級の障害として取り扱う。嗅覚脱失等の鼻機能障害、味覚脱失等の口腔障害は、神経障害ではないが、全体としては神経障害に近い障害とみなされているところから、一般の神経障害の等級として定められている第12級の12「局部にがん固な神経症状を残すもの」を準用して等級を認定する。また、「嗅覚減退」については第14級の9「局部に神経症状を残すもの」を準用して等級を認定する。
ロ 障害の系列は存在するが、該当する障害がない場合
(イ) 併合繰上げの方法を用いて、準用等級を定めたもの
(例 「1上肢の3大関節中の1関節の用を廃し」(第8級の6)、かつ、「他の1関節の機能に著しい障害を残す」(第10級の9)場合には、併合繰上げの方法を用いて第7級に認定する。)
(ロ) 併合繰上げの方法を用いて準用等級を定めるが、序列を乱すため、直近上位又は直近下位の等級に認定したもの
a 直近上位の等級に認定したもの
(例 1手において、「母指の用を廃し」(第10級の6)、かつ、「示指を失った」(第10級の5)場合は、併合の方法を用いると第9級となるが、この場合、当該障害の程度は、「1手の母指及び示指の用を廃したもの」(第8級の4)よりも重く、「1手の母指及び示指を失ったもの」(第7級の6)よりは軽いので第8級に認定する。)
b 直近下位の等級に認定したもの
(例
1 「上肢の3大関節中の2関節の用を廃し」(第6級の5)、かつ、「他の1関節の機能に著しい障害を残す」(第10級の9)場合には、併合の方法を用いると第5級となるが、「1上肢の用を廃した」(第5級の4)障害の程度より軽いので、その直近下位の第6級に認定する。
2 ―本来、異系列のものを同一系列のものとして取り扱う場合の例―
「1手の5の手指を失い」(第6級の7)、かつ、「1上肢の3大関節中の1関節(腕関節)の用を廃した」(第8級の6)場合には、併合の方法を用いると第4級となるが、「1上肢を腕関節以上で失ったもの」(第5級の2)には達しないので、その直近下位の第6級に認定する。)
(3) 加重
イ 既に身体障害を有していた者が新たな災害により、同一部位に身体障害の程度を加重したもの
(例 既に、3歯に対し、歯科補てつを加えていた(第14級の2)者が、新たに3歯に対し歯科補てつを加えた場合には、現存する障害に係る等級は第13級の3の2となる。)
ロ 身体障害を加重した場合の障害補償の額の算定
(例
1 既に右示指の用を廃していた(第11級の7)者が、新たに同一示指を亡失した場合には、現存する身体障害に係る等級は第10級の5となるが、この場合の障害補償の額は、現存する障害の障害補償の額(第10級の5、給付基礎日額の302日分)から既存の障害の障害補償の額(第11級の7、給付基礎日額の223日分)を差し引いて給付基礎日額の79日分となる。
2 既に、1上肢の腕関節の用を廃していた(第8級の6)者が、新たに同一上肢の腕関節を亡失した場合には、現存する障害は、第5級の2(年金)となるが、この場合の障害補償の額は、現存する障害の障害補償の額(第5級の2、当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の184日分)から既存の障害の障害補償の額(第8級の6、給付基礎日額の503日分)の1/25を差し引いて、当該障害の存する期間1年について給付基礎日額の163.88日分となる。)
ハ 同一の部位に身体障害の程度を加重するとともに他の部位にも新たな身体障害を残したもの
(例 既に、1下肢を1センチメートル短縮していた(第13級の8)者が、新たに同一下肢を3センチメートル短縮(第10級の7)し、かつ、1手の小指を失った(第13級の4)場合の障害補償の額は、同一部位の加重後の障害(第10級の7)と他の部位の障害(第13級の4)を併合して繰上げた障害補償の額(第9級、給付基礎日額の391日分)から既存の障害の障害補償の額(第13級の8、給付基礎日額の101日分)を差し引いて、給付基礎日額の290日分となる。)
ニ 組合せ等級が定められているため、既にその一方に身体障害を有していた者が、新たに他方に身体障害を生じ、組合せ等級に該当するに至ったもの。
(例 既に、1上肢を腕関節以上で失っていた(第5級の2)者が、新たに他方の上肢を腕関節以上で失った場合は、その新たな障害(第5級の2)のみにより等級の認定を行うことなく、両上肢を腕関節以上で失ったもの(第2級の3)として認定する。
なお、この場合の障害補償の額は、現存する障害の障害補償の額(第2級の3、給付基礎日額の277日分)から、既存の障害の障害補償の額(第5級の2、給付基礎日額の184日分)を差し引いて給付基礎日額の93日分となる。)
ホ 手指及び足指並びに相対性器官の場合
(イ) 手(足)指に既に身体障害を有する者が、同一手(足)の他指に新たに身体障害を加えた者
(例 「1手の示指を亡失」(第10級の5)していた者が、新たに「同一手の薬指を亡失」(第11級の6)した場合、現存する障害は第9級の8となるが、この場合現存する障害の障害補償の額(第9級の8、給付基礎日額の391日分)から既存の障害の障害補償の額(第10級の5、給付基礎日額の302日分)を差引くと、障害補償の額は給付基礎日額の79日分となり、新たな障害(第11級の6、給付基礎日額の223日分)のみが生じたこととした場合の障害補償の額より少ないので、この場合は、第11級の6の障害のみが生じたものとみなして、給付基礎日額の223日分を支給する。)
(ロ) 一手(足)の2以上の手(足)指に、既に身体障害を有する者が新たにその一部の手(足)指について身体障害の程度を重くしたもの
(例 「1手の中指、薬指及び小指の用を廃していた」(第10級の6)者が、新たに「同一手の小指を亡失」(第13級の4)した場合であっても、現存する障害は第9級には及ばないので第10級となり、加重の取扱いによれば、障害補償の額は0となるが、新たに障害が生じた小指についてのみ加重の取扱いをして「小指の亡失」の障害補償の額(第13級の4、給付基礎日額の101日分)から、既存の「小指の用廃」の障害補償の額(第14級の5、給付基礎日額の56日分)を差し引くと障害補償の額は給付基礎日額の45日分となるので、この場合の障害補償の額は、新たに小指のみに障害が加重されたものとみなして給付基礎日額の45日分を支給する。)
(ハ) 相対性器官の両側に、既に身体障害を有していた者が、その1側について既存の障害の程度を重くしたもの
(例 「両眼の視力が0.6以下に減じていた」(第9級の1)者が、新たに「1眼の視力が0.06以下に減じた」(第9級の2)場合の現存する障害は第9級の1となり、前記ロの方法によれば障害補償の額は0となるが、新たに障害が生じた1眼についてのみ加重の取扱いをして「1眼の視力が0.06以下に減じたもの」の障害補償の額(第9級の2、給付基礎日額の391日分)から、既存の「1眼の視力が0.6以下に減じたもの」の障害補償の額(第13級の1、給付基礎日額の101日分)を差し引くと、障害補償の額は給付基礎日額の290日分となるので、この場合の障害補償の額は、新たに1眼のみに障害が加重されたものとみなして給付基礎日額の290日分を支給する。)
(ニ) 障害の程度を加重するとともに、他の部位にも新たな障害を残したもの
(例 「言語の機能に障害を残し」(第10級の2)ていた者が、新たに「そしゃくの機能に障害を残し」(第10級の2)、かつ、「両眼の視力が0.6以下に減じた」(第9級の1)の場合は、同一部位の加重後の障害である「そしゃく及び言語の機能に障害を残したもの」(第9級の6)と他部位の「両眼の視力が0.6以下に減じたもの」(第9級の1)を併合し、現存する障害は第8級となるが、加重の取扱いによれば、現存する障害の障害補償の額(第8級、給付基礎日額の503日分)から既存の障害の障害補償の額(第10級の2、給付基礎日額の302日分)を差し引くと障害補償の額は給付基礎日額の201日分となり、他部位の新たな障害(第9級の1、給付基礎日額の391日分)のみが生じたこととした場合の障害補償の額より少ないので、この場合は、両眼の視力が0.6以下に減じた障害のみが生じたものとみなして、給付基礎日額の391日分を支給する。)
第2 障害等級認定の具体的要領
1 眼(眼球及び眼瞼)
(1) 眼の障害と障害等級
イ 眼の障害については、障害等級表上、次のごとく、眼球の障害として視力障害、調節機能障害、運動障害及び視野障害について、また、眼瞼の障害として欠損障害及び運動障害について等級を定めている。
(イ) 眼球の障害
a 視力障害
両眼が失明したもの 第1級の1
1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの 第2級の1
両眼の視力が0.02以下になったもの 第2級の2
1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの 第3級の1
両眼の視力が0.06以下になったもの 第4級の1
1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの 第5級の1
両眼の視力が0.1以下になったもの 第6級の1
1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの 第7級の1
1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの 第8級の1
両眼の視力が0.6以下になったもの 第9級の1
1眼の視力が0.06以下になったもの 第9級の2
1眼の視力が0.1以下になったもの 第10級の1
1眼の視力が0.6以下になったもの 第13級の1
b 調節機能障害
両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの 第11級の1
1眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの 第12級の1
c 運動障害
両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの 第11級の1
1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの 第12級の1
d 視野障害
両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの 第9級の3
1眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの 第13級の2
(ロ) 眼瞼の障害
a 欠損障害
両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 第9級の4
1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 第11級の3
両眼のまぶたの一部に欠損を残し、又はまつげはげを残すもの 第13級の3
1眼のまぶたの一部に欠損を残し、又はまつげはげを残すもの 第14級の1
b 運動障害
両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 第11級の2
1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 第12級の2
ロ 障害等級表に掲げていない眼の障害については、労災則第14条第4項により、その障害の程度に応じて、障害等級表に掲げている他の障害に準じて等級を認定すること。
(2) 障害等級認定の基準
イ 眼球の障害
(イ) 視力障害
a 視力の測定は、原則として、万国式視力表によることとする(労災則別表障害等級表備考第1号)が、実際上これと同程度と認められる文字、図形等の視標を用いた試視力表又は視力測定法を用いてもよいこと。
b 障害等級表にいう視力とは、きよう正視力をいう(労災則別表障害等級表備考第1号)。したがって、眼鏡によりきよう正した視力について測定すること。(コンタクトレンズによりきよう正した視力を除く。)
ただし、視力のきよう正によって不等像症を生じ、両眼視が困難となることが医学的に認められる場合には、裸眼視力によること。
(注 不等像症とは、左右両眼の屈折状態等が異なるため、左眼と右眼の網膜に映ずる像の大きさ、形が異なるものをいう。)
c 「失明」とは、眼球を亡失(摘出)したもの、明暗を弁じ得ないもの及びようやく明暗を弁ずることができる程度のものをいう。
d 両眼の視力障害については、障害等級表に掲げている両眼の視力障害の該当する等級をもって認定することとし、1眼ごとの等級を定め併合繰上の方法を用いて準用等級を定める取扱いは行わないこと。
ただし、両眼の該当する等級よりも、いずれか1眼の該当する等級が上位である場合は、その1眼のみに障害が存するものとみなして、等級を認定すること。
(例 1眼の視力が0.5、他眼の視力が0.02である場合は、両眼の視力障害としては第9級の1に該当するが、1眼の視力障害としては第8級の1に該当し、両眼の場合の等級よりも上位であるので、第8級の1とする。)
(ロ) 調節機能障害
「眼球に著しい調節機能障害を残すもの」とは、調節領(調節力)が通常の場合の1/2以下に減じたものをいう。
ただし、50才以上の者については、通常の調節力が1ジオプトリー以下であり、1/2以下に減じた場合は、0.5ジオプトリー以下となり、調節力の減少をほとんど無視し得るので、障害補償の対象としないこと。
(注 調節力とは、明視できる遠点から近点までの空間(これを調節領という。)をレンズ(水晶体)の度をもって表わしたものであり、単位はジオプトリー(D)である。
調節力は、年令と密接な関係があり、次のとおりとなっている。
10才―12〔D〕 20才―8〔D〕 30才―7〔D〕
40才―4〔D〕 50才―1〔D〕 60才―0.5〔D〕)
(ハ) 運動障害
「眼球に著しい運動障害を残すもの」とは、眼球の注視野の広さが1/2以下に減じたものをいう。
(注
1 眼球の運動は、各眼3対、すなわち6つの外眼筋の作用によって行われる。この6つの筋は、一定の緊張を保っていて、眼球を正常の位置に保たせるものであるから、もし、眼筋の1個あるいは数個が麻痺した場合は、眼球はその筋の働く反対の方向に偏位し(麻痺性斜視)、麻痺した筋の働くべき方向において、眼球の運動が制限されることとなる。
2 両眼視のある人の眼筋の1個又は数個が麻痺すれば、複視を生ずる。
複視とは、単一の物体から2個の像を認識することであり、患眼によって見える物体を偽像という。
3 注視野とは、頭部を固定し、眼球を運動させて直視することのできる範囲をいう。
注視野の広さは、相当個人差があるが、多数人の平均では単眼視では各方面約50度、両眼視では各方面約45度である。)
(ニ) 視野障害
a 視野の測定は、フエステル視野計によること。
b 「半盲症」、「視野狭さく」及び「視野変状」とは、8方向の視野の角度の合計が、正常視野の角度の合計の60%以下になった場合をいう。
なお、暗点は絶対暗点を採用し、比較暗点は採用しないこと。
(注
1 視野とは、眼前の1点をみつめていて、同時に見得る外界の広さをいう。
なお、日本人の視野の平均値は、次のとおりである。
|
指標 |
白 |
方向 |
|
|
上 |
60(55―65) |
|
上外 |
75(70―80) |
|
外 |
95(90―100) |
|
外下 |
80(75―85) |
|
下 |
70(65―75) |
|
下内 |
60(50―70) |
|
内 |
60(50―70) |
|
内上 |
60(50―70) |
2 半盲症とは、視神経線維が、視神経交叉又はそれより後方において侵されるときに生ずるものであって、注視点を境界として、両眼の視野の右半部又は左半部が欠損するものをいう。両眼同側の欠損するものは同側半盲、両眼の反対側の欠損するものは交叉半盲という。
3 視野狭さくとは、視野周辺の狭さくであって、これには、同心性狭さくと不規則狭さくとがあり、前者は視神経萎縮、後者は脈絡網膜炎等にみられる。
高度の同心性狭さくは、たとえ視力は良好であっても、著しく視機能を阻げ、周囲の状況をうかがい知ることができないため、歩行その他諸動作が困難となる。また、不規則狭さくには、上方に起こるものや内方に起こるもの等がある。
4 視野変状には、半盲症、視野の欠損、視野狭さく及び暗点が含まれるが、半盲症及び視野狭さくについては、障害等級表に明示されているので、ここにいう視野変状は、暗点と視野欠損をいう。
なお、暗点とは、生理的視野欠損(盲点)以外の病的欠損を生じたものをいい、中心性網膜炎、網膜の出血、脈絡網膜炎等にみられる。比較暗点とは、白指標をみることができるけれども、その見え方が、周囲の健常部に比して黒ずんでみえる部分をいう。
また、網膜に感受不受部があれば、それに相当して、視野上に欠損を生じるが、生理的に存する視野欠損の主なものはマリオネット盲斑(盲点)であり、病的な視野欠損は、網膜の出血、動脈板の塞栓等にみられる。)
ロ 眼瞼の障害
(イ) 欠損障害
a 「まぶたに著しい欠損を残すもの」とは、閉瞼時(普通に眼瞼を閉じた場合)に、角膜を完全におおい得ない程度のものをいう。
b 「まぶたの一部に欠損を残すもの」とは、閉瞼時に角膜を完全におおうことができるが、球結膜(しろめ)が露出している程度のものをいう。
c 「まつげはげを残すもの」とは、まつげ縁(まつげのはえている周縁)の1/2以上にわたってまつげのはげを残すものをいう。
(ロ) 運動障害
「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは、開瞼時(普通に開瞼した場合)に瞳孔領を完全におおうもの又は閉瞼時に角膜を完全におおい得ないものをいう。
(3) 併合、準用、加重
イ 併合
眼瞼の障害において、系列を異にする2以上の障害が存する場合は、労災則第14条第2項及び第3項により併合して等級を認定すること。
(例 1眼のまぶたの著しい欠損障害(第11級の3)と、他眼のまぶたの著しい運動障害(第12級の2)が存する場合は、第10級とする。)
ロ 準用
(イ) 同一眼球に、系列を異にする2以上の障害が存する場合(たとえば、調節機能障害と視力障害が存する場合、眼球の運動障害と視力障害が存する場合又は視野障害と視力障害が存する場合等)は、併合の方法を用いて準用等級を定めること。
(ロ) 「眼球に著しい運動障害を残すもの」に該当しない程度のものであっても、正面視で複視を生じるものについては、両眼視することによって高度の頭痛、めまい等を生じ労働に著しく支障をきたすので、第12級を準用すること。
なお、左右上下視等で複視を生じ、正面視では複視を生じないものについては、労働に著しい支障をきたすものとは認められないが、軽度の頭痛、眼精疲労を訴えるので、第14級を準用すること。
(ハ) 外傷性散瞳については、次により取り扱うこと。
a 1眼の瞳孔の対光反射が著しく障害され、著明な羞明を訴え労働に著しく支障をきたすものについては、第12級を準用すること。
b 1眼の瞳孔の対光反射はあるが不十分であり、羞明を訴え労働に支障をきたすものについては、第14級を準用すること。
c 両眼について、前記aの場合には第11級を、またbの場合には第12級をそれぞれ準用すること。
d 外傷性散瞳と視力障害又は調節機能障害が存する場合は、併合の方法を用いて準用等級を定めること。
(注 散瞳(病的)とは、瞳孔の直径が開大して対光反応が消失又は減弱するものをいい、羞明とは、俗にいう「まぶしい」ことをいう。)
ハ 加重
(イ) 眼については、両眼球を同一部位とするので、次の場合は、加重として取り扱うこと。
a 1眼を失明し、又は1眼の視力を減じていた者が、新たに他眼を失明し、又は他眼の視力を減じた場合。
b 両眼の視力を減じていた者が、さらに1眼又は両眼の視力を減じ、又は失明した場合。
c 1眼の視力を減じていた者が、さらにその視力を減じ、又は失明した場合。
(ロ) 加重の場合の障害補償の額は、労災則第14条第5項により算定することとするが、1眼に障害を存する者が、新たに他眼に障害を生じた場合において、労災則第14条第5項により算定した障害補償の額(日数)が、他眼のみに新たな障害が生じたこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないときは、その新たな障害のみが生じたものとみなして障害補償の額を算定すること。
(例 既に右眼の視力が0.1(第10級の1、給付基礎日額の302日分)に減じていた者が、新たな業務災害により左眼の視力を0.6(第13級の1、給付基礎日額の101日分)に減じた場合の現存障害は第9級の1(給付基礎日額の391日分)に該当するが、この場合の障害補償の額は第13級の1の障害のみが生じたものとみなして101日分とする。)
また、両眼に障害を存する者が、その1眼について障害の程度を加重した場合において、労災則第14条第5項により算定した障害補償の額(日数)が、その1眼に新たな障害のみが生じたこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないときは、その新たな障害のみが生じたものとみなして障害補償の額を算定すること。
2 耳(内耳等及び耳介)
(1) 耳の障害と障害等級
イ 耳の障害については、障害等級表において、次のごとく聴力障害と耳介の欠損障害について等級を定めている。
(イ) 聴力障害
a 両耳の障害
両耳の聴力を全く失ったもの 第4級の3
両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 第6級の3
1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 第6級の3の2
両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では、普通の話声を解することができない程度になったもの 第7級の2
1耳の聴力を全く失い他耳の聴力が1メートル以上の距離では、普通の話声を解することができない程度になったもの 第7級の2の2
両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 第9級の6の2
1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの 第9級の6の3
両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの 第10級の3の2
両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 第11級の3の3
b 1耳の障害
1耳の聴力を全く失ったもの 第9級の7
1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 第10級の4
1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 第11級の4
1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 第14級の2の2
(ロ) 耳介の欠損障害
1耳の耳かく(耳介)の大部分を欠損したもの 第12級の4
ロ 障害等級表に掲げていない耳の障害については、労災則第14第第4項により、その障害の程度に応じて、障害等級表に掲げている他の障害に準じて等級を認定すること。
(2) 障害等級認定の基準
イ 聴力障害
(イ) 聴力障害に係る等級は、純音による聴力損失値(以下「純音聴力損失値」という。)の測定結果及び語音による聴力検査結果(以下「明瞭度」という。)を基礎として、次により認定すること。
a 両耳の障害
(a) 「両耳の聴力を全く失ったもの」とは、両耳の平均純音聴力損失値が80dB以上のもの又は両耳の平均純音聴力損失値が70dB以上であり、かつ、最高明瞭度が30%以下のものをいう。
(b) 「両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの」とは、両耳の平均純音聴力損失値が70dB以上のもの又は両耳の平均純音聴力損失値が40dB以上であり、かつ、最高明瞭度が30%以下のものをいう。
(c) 「1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力損失値が80dB以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力損失値が60dB以上のものをいう。
(d) 「両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの」とは、両耳の平均純音聴力損失値が60dB以上のもの又は両耳の平均純音聴力損失値が40dB以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のものをいう。
(e) 「1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力損失値が80dB以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力損失値が50dB以上のものをいう。
(f) 「両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの」とは、両耳の平均純音聴力損失値が50dB以上のもの又は両耳の平均純音聴力損失値が40dB以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のものをいう。
(g) 「1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力損失値が70dB以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力損失値が40dB以上のものをいう。
(h) 「両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの」とは、両耳の平均純音聴力損失値が40dB以上のもの又は両耳の平均純音聴力損失値が30dB以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のものをいう。
(i) 「両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの」とは、両耳の平均純音聴力損失値が30dB以上のものをいう。
b 1耳の障害
(a) 「1耳の聴力を全く失ったもの」とは、1耳の平均純音聴力損失値が80dB以上のものをいう。
(b) 「1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力損失値が70dB以上のものをいう。
(c) 「1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では、普通の話声を解することができない程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力損失値が60dB以上のもの又は1耳の平均純音聴力損失値が40dB以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のものをいう。
(d) 「1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力損失値が30dB以上のものをいう。
(ロ) 両耳の聴力障害については、障害等級表に掲げている両耳の聴力障害の該当する等級により認定することとし、1耳ごとの等級により併合の方法を用いて準用等級を定める取扱いは行わないこと。
(ハ) 職業性難聴については、強烈な騒音を発する場所における業務に従事している限り、その症状は漸次進行する傾向が認められるので、等級の認定は、当該労働者が強烈な騒音を発する場所における業務を離れたときに行うこと。
(ニ) 職業性難聴の場合の聴力検査は、90ホン以上の騒音にさらされた日後7日間は行わないこと。
また、聴力検査前90日の間に90ホン以上の騒音にさらされたことのないものについては、当該聴力検査値を基礎として等級を認定すること。
なお、聴力検査前8日ないし90日の間に90ホン以上の騒音にさらされたことのあるものについては、検査日後さらに7日間ごとの間隔をおいて聴力検査を重ね、その聴力検査に有意差のないことを確認のうえ、当該確認時の聴力検査値を基礎として等級を認定すること。
(ホ) 急性的に生ずる災害性難聴については、急性音響性聴器障害として職業性難聴と区別して取り扱うこと。
なお、一般の音響性難聴(災害性難聴)については、療養効果が十分期待できることから、等級認定のための聴力検査は、療養終了後30日ごとの間隔をおいて検査を重ね、その聴力検査に有意差のないことを確認のうえ、当該確認時の聴力検査値を基礎として等級を認定すること。
(ヘ) 障害等級認定のための聴力検査は、別紙1「標準聴力検査法」(日本オージオロジー学会制定)により行い(語音聴力検査については57式による)日を変えて3回測定し、2回目及び3回目の測定値の平均値をとること。
(ト) 平均純音聴力損失値は、周波数が500ヘルツ、1000ヘルツ、2000ヘルツ及び4000ヘルツの音に対する聴力損失を測定し、次式により求めること。
A+2B+2C+D/6
(注
A:周波数500ヘルツの音に対する純音聴力損失値
B:周波数1000ヘルツの音に対する純音聴力損失値
C:周波数2000ヘルツの音に対する純音聴力損失値
D:周波数4000ヘルツの音に対する純音聴力損失値)
ロ 耳介の欠損障害
(イ) 「耳介の大部分の欠損」とは、耳介の軟骨部の1/2以上を欠損したものをいう。
(ロ) 耳介の大部分を欠損したものについては、耳介の欠損障害としてとらえた場合の等級と外ぼうの醜状障害としてとらえた場合の等級のうち、いずれか上位の等級に認定すること。
(例 女子について、「耳介の大部分の欠損」は第12級の4に該当するが、一方、醜状障害としては第7級の12に該当するので、この場合は、外ぼうの醜状障害として第7級の12に認定する。)
(ハ) 耳介軟骨部の1/2以上には達しない欠損であっても、これが、「外ぼうの単なる醜状」の程度に達する場合は、男子については第14級の10、女子については第12級の14とすること。
(3) 併合、準用、加重
イ 併合
(イ) 障害等級表では、耳介の欠損障害について、1耳のみの等級を定めているので、両耳の耳介を欠損した場合には、1耳ごとに等級を定め、これを併合して認定すること。
なお、耳介の欠損を醜状障害としてとらえる場合は、上記の取扱いは行わないこと。
(ロ) 耳介の欠損障害と聴力障害が存する場合は、それぞれの該当する等級の併合して認定すること。
ロ 準用
(イ) 鼓膜の外傷性穿孔及びそれによる耳漏は、手術的処置により治ゆを図り、そののちに聴力障害が残れば、その障害の程度に応じて等級を認定することとなるが、この場合、聴力障害が障害等級に該当しない程度のものであっても、常時耳漏があるものは第12級を、その他のものについては、第14級を準用すること。また、外傷による外耳道の高度の狭さくで耳漏を伴わないものについては、第14級を準用すること。
(ロ) 難聴を伴い著しい耳鳴が常時あることが他覚的検査により立証可能であるものについては第12級を、また、難聴を伴い常時耳鳴があるものについては第14級を準用すること。
(ハ) 内耳の損傷による平衡機能障害については、神経系統の機能の障害の一部として評価できるので、神経系統の機能の障害について定められている認定基準に準じて等級を認定すること。
(ニ) 内耳の機能障害のため、平衡機能障害のみでなく、聴力障害も現存する場合には、併合の方法を用いて準用等級を定めること。
ハ 加重
(イ) 耳については、両耳を同一部位としているので、1耳に聴力障害が存する者が、新たに他耳に聴力障害を存した場合には、加重として取り扱うこと。
(例 1耳の聴力を全く失っていた者が、新たに他耳の聴力を全く失った場合の障害補償の額は、両耳の聴力障害に該当する障害補償の額(第4級の3、給付基礎日額の213日分の年金)から既存の1耳の聴力障害に該当する障害補償の額(第9級の7、給付基礎日額の391日分)の1/25の額を差し引いた額となる。)
(ロ) ただし、既に両耳の聴力を減じていた者が、1耳について障害の程度を加重した場合に、労災則第14条第5項により算定した障害補償の額(日数)が、その1耳に新たな障害のみが生じたこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないときは、その1耳に新たな障害のみが生じたものとみなして障害補償の額を算定すること。
(例 既に両耳の聴力損失が40dB(第10級の3の2)である者の1耳の聴力損失が60dBとなった場合の障害補償の額は、第11級の4(1耳の聴力損失が60dB以上)の障害補償の額から第14級の2の2(1耳の聴力損失が30dB以上)の障害補償の額を差し引いた額となる。)
3 鼻
(1) 鼻の障害と障害等級
イ 鼻の障害については、障害等級表上
鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの 第9級の5のみを定めている。
ロ 鼻の欠損を伴わない機能障害については、労災則第14条第4項により、その障害の程度に応じて、障害等級表に掲げている他の障害に準じて等級を認定すること。
(2) 障害等級認定の基準
イ 「鼻の欠損」とは、鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損をいう。
また、「機能に著しい障害を残すもの」とは、鼻呼吸困難又は嗅覚脱失をいう。
ロ 鼻の欠損が、鼻軟骨部の全部又は大部分に達しないものであっても、これが単なる「外ぼうの醜状」の程度に達するものである場合は、男子にあっては第14級の10、女子にあっては第12級の14とすること。
ハ 鼻の欠損は、一方では「外ぼうの醜状」としてもとらえうるが、耳介の欠損の場合と同様、それぞれの等級を併合することなく、いずれか上位の等級によること。
(例 女子が鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残す場合は、鼻の障害としては第9級の5に該当するが、一方、外ぼうの醜状障害として第7級の12に該当するので、この場合は、第7級の12とする。)
ニ 鼻の欠損を外ぼうの醜状障害としてとらえる場合であって、鼻以外の顔面にも瘢痕等を存する場合にあっては、鼻の欠損と顔面の瘢痕等を併せて、その程度により、単なる「醜状」か「著しい醜状」かを判断すること。
(3) 準用
イ 鼻の機能障害のみを残すものについては、障害等級表上特に定めていないので、その機能障害の程度に応じて、次により準用等級を定めること。
(イ) 嗅覚脱失又は鼻呼吸困難については、第12級の12を準用すること。
(ロ) 嗅覚の減退については、第14級の9を準用すること。
4 口
(1) 口の障害と障害等級
イ 口の障害については、障害等級表上、次のごとく、そしゃく及び言語機能障害並びに歯牙障害について等級を定めている。
(イ) そしゃく及び言語機能障害
そしゃく及び言語の機能を廃したもの 第1級の2
そしゃく又は言語の機能を廃したもの 第3級の2
そしゃく及び言語の機能に著しい障害を残すもの 第4級の2
そしゃく又は言語の機能に著しい障害を残すもの 第6級の2
そしゃく及び言語の機能に障害を残すもの 第9級の6
そしゃく又は言語の機能に障害を残すもの 第10級の2
(ロ) 歯牙障害
14歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 第10級の3
10歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 第11級の3の2
7歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 第12級の3
5歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 第13級の3の2
3歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 第14級の2
ロ 嚥下障害、味覚脱失等障害等級表に掲げていない口の障害については、労災則第14条第4項により、その障害の程度に応じて、障害等級表に掲げている他の障害に準じて等級を認定すること。
(2) 障害等級認定の基準
イ そしゃく及び言語機能障害
(イ) そしゃく機能の障害は、上下咬合及び排列状態並びに下顎の開閉運動等により、総合的に判断すること。
(ロ) 「そしゃく機能を廃したもの」とは、流動食以外は摂取できないものをいう。
(ハ) 「そしゃく機能に著しい障害を残すもの」とは、粥食又はこれに準ずる程度の飲食物以外は摂取できないものをいう。
(ニ) 「そしゃく機能に障害を残すもの」とは、ある程度固形食は摂取できるが、これに制限があって、そしゃくが十分でないものをいう。
(ホ) 「言語の機能を廃したもの」とは、4種の語音(口唇音、歯舌音、口蓋音、喉頭音)のうち、3種以上の発音不能のものをいう。
(ヘ) 「言語の機能に著しい障害を残すもの」とは、4種の語音のうち2種の発音不能のもの又は綴音機能に障害があるため、言語のみを用いては意思を疎通することができないものをいう。
(ト) 「言語の機能に障害を残すもの」とは、4種の語音のうち、1種の発音不能のものをいう。
(注 語音は、口腔等附属管の形の変化によって形成されるが、この語音を形成するために、口腔等附属管の形を変えることを構音という。
また、語音が一定の順序に連絡され、それに特殊の意味が付けられて言語ができあがるのであるが、これを綴音という。言語は普通に声を伴うが(有声言語)、声を伴わずに呼息音のみを用いてものをいうこともできる(無声言語)。
語音は、母音と子音とに区別される。この区別は、母音は声の音であって、単独に持続して発せられるもの、子音は、母音とあわせて初めて発せられるものであるという点にある。しかし、子音のうちには半母音のごとく母音と区別できないものがある。
子音を構音部位に分類すると、次の4種類となる。
1 口唇音(ま行音、ば行音、ぱ行音、わ行音、ふ)
2 歯舌音(な行音、た行音、だ行音、ら行音、さ行音、しゅ、し、ざ行音、じゅ)
3 口蓋音(か行音、が行音、や行音、ひ、にゅ、ぎゅ、ん)
4 喉頭音(は行音))
ロ 歯牙障害
「歯科補てつを加えたもの」とは、現実にそう失又は著しく欠損した歯牙に対する補てつをいう。したがって、有床義歯又は架橋義歯等を補てつした場合における支台冠又は鈎の装着歯やポスト・インレーを行うに留まった歯牙は、補てつ歯数に算入せず、また、そう失した歯牙が大きいか又は歯間に隙間があったため、そう失した歯数と義歯の歯数が異なる場合は、そう失した歯数により等級を認定すること。
(例 3歯のそう失に対して、4本の義歯を補てつした場合は、3歯の補てつとして取り扱う。)
(3) 併合、準用、加重
イ 併合
そしゃく又は言語機能障害と歯牙障害が存する場合であって、そしゃく又は言語機能障害が歯牙障害以外の原因(たとえば、顎骨骨折や下顎関節の開閉運動制限等による不正咬合)にもとづく場合は、労災則第14条第2項及び第3項により併合して等級を認定すること。
ただし、歯科補てつを行った後に、なお、歯牙損傷にもとづくそしゃく又は言語機能障害が残った場合は、各障害に係る等級のうち、上位の等級をもって認定すること。
ロ 準用
(イ) 食道の狭さく、舌の異常、咽喉支配神経の麻痺等によって生ずる嚥下障害については、その障害の程度に応じて、そしゃく機能障害に係る等級を準用すること。
(ロ) 味覚脱失については、次により取り扱うこと。
a 頭部外傷その他顎周囲組織の損傷及び舌の損傷によって生じた味覚脱失については、第12級を準用すること。
b 味覚障害は、テスト・ペーパー及び諸種薬物による検査結果がすべて無反応であるもののみを味覚脱失として取り扱い、その程度に達しないものは、障害補償の対象としないこと。
c 味覚障害については、その症状が時日の経過により漸次回復する場合が多いので、原則として療養を終了してから6カ月を経過したのちに等級を認定すること。
(ハ) 障害等級表上組合せのないそしゃく及び言語機能障害については、各障害の該当する等級により併合の方法を用いて準用等級を定めること。
(例
1 そしゃく機能の著しい障害(第6級の2)と言語機能の障害(第10級の2)が存する場合は、第5級とする。
2 そしゃく機能の用を廃し(第3級の2)、言語機能の著しい障害(第6級の2)が存する場合は、併合すると第1級となるが、序列を乱すこととなるので、第2級とする。)
(ニ) 声帯麻痺による著しいかすれ声については、第12級を準用すること。
ハ 加重
何歯かについて歯科補てつを加えていた者が、さらに歯科補てつを加えた結果、上位等級に該当するに至ったときは、加重として取り扱うこと。
5 神経系統の機能又は精神
(1) 神経系統の機能又は精神の障害と障害等級
イ 神経系統の機能又は精神の障害については、障害等級表上、次のごとく、神経系統の機能又は精神の障害並びに局部の神経系統の障害について等級を定めている。
(イ) 神経系統又は精神の障害
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 第1級の3
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 第3級の3
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 第5級の1の2
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 第7級の3
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 第9級の7の2
(ロ) 局部の神経系統の障害
局部にがん固な神経症状を残すもの 第12級の12
局部に神経症状を残すもの 第14級の9
ロ 神経系統の機能又は精神の障害については、原則として、脳、せき髄、末梢神経系にわけてそれぞれの等級により併合の方法を用いて準用等級を定めること。
ただし、脳、せき髄及び末梢神経系にわけることが困難な場合にあっては、総合的に認定すること。
ハ 器質的又は機能的障害を残し、かつ、局部に第12級又は第14級程度の疼痛などの神経症状を伴う場合は、これを個々の障害としてとらえることなく、器質的又は機能的障害と神経症状のうち、上位の等級により認定すること。
(2) 障害等級認定の基準
神経系統の機能又は精神の障害については、その障害により、第1級は「自用を弁ずることができないもの」、第3級は「多少自用を弁ずることができる程度のもの」、第5級は「自用を弁ずることができるが、労働能力に著しい支障が生じ、終身極めて軽易な労務にしか服することができないもの」、第7級は「一応労働することはできるが、労働能力に支障が生じ、軽易な労務にしか服することができないもの」、第9級は「通常の労働を行うことはできるが、就労可能な職種が相当程度に制約されるもの」、第12級は「他覚的に神経系統の障害が証明されるもの」及び第14級は第12級よりも軽度のものが該当するものであること。
イ 中枢神経系(脳)の障害
(イ) 「重度の神経系統の機能又は精神の障害のために、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」は、第1級の3に該当する。
脳損傷にもとづく高度の片麻痺と失語症との合併、脳幹損傷にもとづく用廃に準ずる程度の四肢麻痺と構音障害との合併など日常全く自用を弁ずることができないもの、又は高度の痴ほうや情意の荒廃のような精神症状のため常時監視を必要とするものが、これに該当する。
(ロ) 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高度の神経系統の機能又は精神の障害のために終身にわたりおよそ労務につくことができないもの」は、第3級の3に該当する。
四肢の麻痺、感覚異常、錐体外路症状及び失語等のいわゆる大脳巣症状、人格変化(感情鈍麻及び意欲減退等)又は記憶障害などの高度なものが、これに該当する。
(例 麻痺の症状が軽度で、身体的には、能力が維持されていても精神の障害のために他人が常時付き添って指示を与えなければ、全く労務の遂行ができないような人格変化が認められる場合は、第3級の3とする。)
(ハ) 「神経系統の機能又は精神の著しい障害のため、終身にわたりきわめて軽易な労務のほか服することができないもの」は、第5級の1の2に該当する。
神経系統の機能の障害による身体的能力の低下又は精神機能の低下などのため、独力では一般平均人の1/4程度の労働能力しか残されていない場合が、これに該当する。
(例 他人のひんぱんな指示がなくては労務の遂行ができない場合、又は、労務遂行の功緻性や持続力において平均人より著しく劣る場合等はこれに含まれる。)
(ニ) 「中等度の神経系統の機能又は精神の障害のために、精神身体的な労働能力が一般平均人以下に明らかに低下しているもの」は、第7級の3に該当する。
なお、「労働能力が一般平均人以下に明らかに低下しているもの」とは、独力では一般平均人の1/2程度に労働能力が低下していると認められる場合をいい、労働能力の判定にあたっては、医学的他覚所見を基礎とし、さらに労務遂行の持続力についても十分に配慮して総合的に判断すること。
(ホ) 「一般的労働能力は残存しているが、神経系統の機能又は精神の障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第9級の7の2に該当する。
身体的能力は正常であっても、脳損傷にもとづく精神的欠損症状が推定される場合、てんかん発作やめまい発作発現の可能性が、医学的他覚所見により証明できる場合あるいは軽度の四肢の単麻痺が認められる場合など(たとえば、高所作業や自動車運転が危険であると認められる場合)が、これに該当する。
(ヘ) 「労働には通常差し支えないが、医学的に証明しうる神経系統の機能又は精神の障害を残すもの」は、第12級の12に該当する。
中枢神経系の障害であって、たとえば、感覚障害、錐体路症状及び錐体外路症状を伴わない軽度の麻痺、気脳撮影により証明される軽度の脳萎縮、脳波の軽度の異常所見等を残しているものが、これに該当する。
なお、自覚症状が軽い場合にあっても、これらの異常所見が認められるものは、これに該当する。
(ト) 「労働には通常差し支えないが、医学的に可能な神経系統又は精神の障害に係る所見があると認められるもの」は、第14級の9に該当する。
医学的に証明しうる精神神経学的症状は明らかでないが、頭痛、めまい、疲労感などの自覚症状が単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるものが、これに該当する。
(注
1 中枢神経系(脳)の負傷又は疾病による障害については、その多岐にわたる臨床症状のうえから、精神障害と神経系統の障害を区別して考えることは医学上からも不自然であり、実際にも細目を定めることが困難であるので、原則として、それらの諸症状を総合し、全体病像から判断して障害等級を認定すべきである。したがって、たとえば精神障害が第5級に相当し、片麻痺が第7級に相当するから、併合の方法を用いて準用等級を第3級と定めるのではなく、その場合の全体病像として、第1級に該当するか第3級に該当するかを認定しなければならない。
なお、その認定にあたっては、精神神経科、脳神経外科、神経内科、眼科、耳鼻咽喉科等の専門医の診断が必要であり、これらの総合知見を要する場合が多い。
2 第1級にいう「常に他人の介護を要するもの」とは、家族を含め、いわゆる第三者の介護、監視を要する場合をいい、医師又は看護婦の介護、監視の意味ではない。医師や看護婦の医療介護を中止すれば、生命の維持が危ぶまれるごとき重症者に対しては、「治ゆ」の状態に至ったとは判断すべきではない。(以下、第1級について同様である。))
ロ せき髄の障害
外傷、減圧症又はその他の疾病などによるせき髄の障害は、複雑な諸症状を呈する場合が多いので、原則として、中枢神経系(脳)の場合と同様に、これらの諸症状を総合評価して、その労働能力に及ぼす影響の程度により、次の6段階に区分して等級を認定すること。
(イ) 「生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」は、第1級の3に該当する。
(ロ) 「生命維持に必要な身のまわりの処理の動作は可能であるが、終身にわたりおよそ労働に服することはできないもの」は、第3級の3に該当する。
(ハ) 「麻痺その他の著しいせき髄症状のため、独力では一般平均人の1/4程度の労働能力しか残されていないもの」は、第5級の1の2に該当する。
(ニ) 明らかなせき髄症状のため、独力では一般平均人の1/2程度の労働能力しか残されていないもの」は、第7級の3に該当する。
(ホ) 「一般的労働能力はあるが、明らかなせき髄症状が残存し、就労の可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第9級の7の2に該当する。
(ヘ) 「労働には通常差し支えないが、医学的に証明しうるせき髄症状を残すもの」は、第12級の12に該当する。
(注 強い外力がせき柱に作用した場合(胸・腰椎移行部の損傷が一番多く、頸部がこれに次ぎ、上部胸椎部、下部腰椎部の損傷が少い。)、せき柱管内に包蔵されたせき髄が損傷を受けることがあり、これを外傷性せき髄損傷という。この場合には、せき椎の圧迫骨折や脱臼骨折を伴うことが多いが、骨に明らかな損傷がない場合にもせき髄の損傷はおこりうる。また、まれにはせき椎の骨折や脱臼があってもせき髄が全く損傷をうけないこともある。
せき髄損傷の程度により、四肢等の運動障害、感覚障害、腸管機能障害、尿路機能障害又は生殖器機能障害等が発現するが、それらは必ずしもすべてが非可逆的ではなく、せき髄に作用した外力の程度によっては、自然経過として、又は治療によって程度の差はあるが、ある程度の回復は期待できることがある。しかし、重篤な場合は、せき髄が解剖学的に完全に切断される場合もある。
せき髄が損傷されると、その臨床症状は、損傷の生じた部位によって異なり、四肢麻痺あるいは対麻痺(下半身麻痺)となるが、たとえば、胸椎下部から下の損傷には、しばしば下肢が完全に麻痺したり、あるいは多少運動ができても感覚が鈍麻することは、一般によく知られている。前者を完全麻痺又は横断麻痺、後者を不完全麻痺という。また、四肢の麻痺の型には、弛緩性麻痺と痙性麻痺とがある。前者は俗にいう麻痺肢のブラブラになった状態のものをさし、せき髄前角細胞以下の末梢神経(第2ニューロン以下)の損傷によって生じ、後者は四肢筋肉の緊張が異常に亢進し、かつ錐体路障害を示す病的反射を証明するものである。せき髄は、どの高さの部分で損傷を受けたかによって、発現する運動、感覚麻痺の範囲が定まるので、逆にその症状によって損傷の部位を診断することができる。
さらに、せき髄損傷は、せき髄の全断面にわたって生じた場合と、いずれか半側又は一部に生じた場合とによって、その症状が異なる。前者の場合は、障害部位から下方の感覚脱失又は感覚鈍麻が、運動麻痺とほぼ同じ範囲に生ずる。せき髄損傷による感覚過敏は、いわゆる完全横断損傷の場合にも生じ、時に後根刺激状態としての感覚過敏帯を証明することもある。馬尾神経がある部位の損傷(腰仙椎)では、筋の反射消失を伴う弛緩性麻痺が生じ、筋肉の萎縮、腰髄・仙髄に当る後根の感覚脱失をみる。
また、せき髄が完全又はこれに近い程度に損傷された場合には、上述の障害のほかに、腸管機能障害(腸の蠕動が障害されるために内容物が停帯し、便泌を呈し、その甚だしいものは腸閉塞様となる。)
尿路機能障害(尿失禁の状態となり、これは重い化膿性炎症の原因を作り、上行性に尿路炎、腎盂炎をひきおこす場合もある。)を生じ、さらに、生殖器機能障害をも伴う。
減圧症にあっては、その神経系統の障害は脳とせき髄にわたり多発性病巣を生ずるものであるので、症状は甚だ多彩であり、障害等級認定にあたっては、その症状の分析を基礎とした総合的判断が特に必要とされる。)
ハ 根性及び末梢神経麻痺
根性及び末梢神経麻痺に係る等級の認定は、原則として、損傷を受けた神経の支配する身体各部の器官における機能障害に係る等級を準用すること。
ニ その他特徴的な障害
(イ) 外傷性てんかん
a てんかんの治ゆの時期は、療養効果が期待できないと認められるとき又は療養により症状が安定したときとすること。
b 外傷性てんかんに係る等級の認定は発作型のいかんにかかわらず、発作回数、発作の労働能力に及ぼす影響の程度、非発作時の精神症状等を総合的に判断し、中枢神経系(脳)の障害の認定の基準に従い、次によること。
(a) 「十分な治療にかかわらず、頻回の発作又は高度な精神の障害のため、終身労務に服することができないもの」は、第3級の3に該当する。
(b) 「十分な治療にかかわらず、発作の頻度又は発作型の特徴などのため一般平均人の1/4程度の労働能力しか残されていないもの」は、第5級の1の2に該当する。
なお、てんかんの特殊性からみて、就労可能な職種が極度に制限されるものは、これに該当する。
(c) 「十分な治療にかかわらず、1カ月に1回以上の意識障害を伴う発作があるか、又は発作型の特徴などのため一般平均人の1/2程度の労働能力しか残されていないもの」は、第7級の3に該当する。
なお、てんかんの特殊性からみて、就労可能な職種が著しく制限されるものは、これに該当する。
(d) 「服薬を継続する限りにおいては、数カ月に1回程度又は完全に発作を抑制しうる場合、もしくは発作の発現はないが、脳波上明らかにてんかん性棘波を認めるもの」は、第9級の7の2に該当する。
通常の労働は可能であるが、その就労する職種が相当な程度に制限を受ける場合は、これに該当する。
(注 てんかんは、反復するてんかん発作を主症状とする慢性の脳障害であり、そのてんかん発作とは、大脳のある部位の神経細胞が発作性に異常に過剰な活動を起こし、これがある程度広範な領域の神経細胞をまきこんで、一斉に興奮状態に入った場合に生ずる運動感覚、自律神経系又は精神などの機能の一過性の異常状態のことである。したがって、てんかんの原因は、神経細胞の生来の性質のほか、脳の器質性疾病や外傷など多岐にわたり、また発作発現の誘因としては、さらに多くの身体的条件が関与するものである。
ここに「外傷性てんかん」の項を設けたが、これは、業務に起因するてんかんのうちの代表例として挙げたものであって、脳を侵かす各種中毒症によってもてんかんが発症することがある。
頭部外傷とてんかんの因果関係の認定については、困難な場合が多いが、明らかな頭部外傷後2ないし3カ月以後にてんかん発作が初発し、遺伝的素因や乳幼児期の痙攣発作の既往が否定される場合には、たとえ純粋の外傷性てんかんでなくとも、頭部外傷が、てんかん症状の発現に相当の因果関係をもったものと認めざるを得ないことがある。
てんかんの分類は、現在なお国際的にも定まっていないが、ここで通常みられる発作型を挙げると、大発作、焦点発作(焦点性運動発作、ジヤクソン型発作及び焦点性感覚発作が含まれる。)及び精神運動発作などがある。
同一人が、2つ以上の発作をもつことは、しばしばあり、また、経過中に変化していくものもある。これらの発作の反復によって、脳がさらに2次的に障害を生ずることもある。
発作型、適正な治療方法又は2次的な脳損傷の程度などについての正しい判定には、てんかん発作、脳波、神経学的及び精神医学的所見などの総合による専門の医師の診断が必要である。
前記のようなてんかん発作は、あくまでも一過性の精神神経系統の異常状態であるから、非発作時には正常な精神神経系統の機能を維持している場合が少なくない。したがって、てんかんの労働に対する直接の影響は、てんかん発作によってそれがどのような形で中断されるかという点にあり、その際の危険度に応じ、また、発作の頻度に応じて全般的な労働への制限が考えられ、障害等級の認定にあたってはその点に留意して非発作時のみならず、発作に対応する職種の制限をみて行わねばならない。
さらに、発作とともに重視すべきものとしては、てんかん発作の反復によって、性格の変化その他の精神障害が進行する場合があることで、その高度のものは痴ほうあるいは人格崩壊にいたり、てんかん性精神病というべき状態となることである。
てんかんの治療は、薬物療法が基本となるものであって、手術的療法(発作焦点となっている脳の部分切除等)を行った場合でも薬物療法は引き続き長期間にわたり行わなくてはならないことが多い。そして、薬物の継続服用によって、てんかん発作を完全に抑制することが治療の目標である。発作が完全に抑制された場合はもちろんであるが、ある程度の発作があっても症状が安定してきた場合には、なるべく早く社会復帰を指導することが望ましい。
なお、この項に、第1級の障害を入れていないのは、てんかんのため常時介護を要する程度の症状であれば、当然療養の対象となるものであることによる。また、十分な治療にもかかわらず、頻回の発作のため、終身労務に服することができないと認められるもののうちには療養を必要とするものも少くないので留意する必要がある。)
(ロ) 頭痛
a 「一般的な労働能力は残存しているが激しい頭痛により、時には労働に従事することができなくなる場合があるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第9級の7の2に該当する。
b 「労働には通常差し支えないが、時には労働に差し支える程度の強い頭痛がおこるもの」は、第12級の12に該当する。
c 「労働には差し支えないが、頭痛が頻回に発現しやすくなったもの」は、第14級の9に該当する。
(注 頭痛あるいは頭重感の発現機序は多様であり、それら頭痛型の診断については困難な場合も少くないが、頭部外傷後又は各種中毒症等の後に障害として残存する主な型としては、次のようなものがある。
1 頭部の挫傷、創傷の加わった部位より生ずる疼痛
2 血管性頭痛(動脈の発作性拡張によって生ずるもので片頭痛というのはこの型の1つである。)
3 筋攣縮性頭痛(頸部、頭部の筋より疼痛が発生するもの)
4 頸性頭痛(後頸部交感神経症候群)
5 大後頭神経痛など上位頸神経の神経痛または三叉神経痛(後頭部から顔面や眼にかけての疼痛)
6 心因性頭重
(ハ) 失調、めまい及び平衡機能障害
a 「生命の維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高度の失調又は平衡機能障害のために終身にわたりおよそ労務に就くことができないもの」は、第3級の3に該当する。
b 「著しい失調又は平衡機能障害のために、労働能力がきわめて低下し一般平均人の1/4程度しか残されていないもの」は、第5級の1の2に該当する。
c 「中等度の失調又は平衡機能障害のために、労働能力が一般平均人の1/2以下程度に明らかに低下しているもの」は、第7級の3に該当する。
d 「一般的な労働能力は残存しているが、めまいの自覚症状が強く、かつ、他覚的に眼振その他平衡機能検査の結果に明らかな異常所見が認められるもの」は、第9級の7の2に該当する。
e 「労働には通常差し支えないが、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められるもの」は、第12級の12に該当する。
f 「めまいの自覚症状はあるが、他覚的には眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められないもので単なる故意の誇張でないと医学的に推定されるもの」は、第14級の9に該当する。
(注 頭部外傷後又は中枢神経系(脳及びせき髄)の疾病に起因する失調、めまい及び平衡機能障害は、内耳障害によるのみならず、小脳、脳幹部、前頭葉又はせき髄など中枢神経系の障害によって発現する場合が多いものである。また、頸性頭痛症候群のなかに含めてよい頸部自律神経障害によるめまいも少くない。
これらの症状は、その原因となる障害部位によって分けることが困難であるので、総合的に認定基準に従って障害等級を認定すべきである。)
(ニ) 疼痛等感覚異常
a 脳神経及びせき髄神経の外傷その他の原因による神経痛については、疼痛発作の頻度、疼痛の強度と持続時間及び疼痛の原因となる他覚的所見などにより、疼痛の労働能力に及ぼす影響を判断して次のごとく等級の認定を行うこと。
(a) 「軽易な労働以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があるもの」は、第7級の3に該当する。
(b) 「一般的な労働能力は残存しているが、疼痛により時には労働に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第9級の7の2に該当する。
(c) 「労働には通常差し支えないが、時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの」は、第12級の12に該当する。
b カウザルギーについては、aと同様の基準により、それぞれ第7級の3、第9級の7の2、第12級の12に認定すること。
c 受傷部位の疼痛については、次により等級を認定すること。
(a) 「労働には通常差し支えないが、時には強度の疼痛のため、ある程度差し支える場合があるもの」は、第12級の12に該当する。
(b) 「労働には差し支えないが、受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの」は、第14級の9に該当する。
なお、神経損傷により、疼痛のほかに異常感覚(蟻走感、感覚脱失等)が発現した場合は、その範囲が広いものに限り、第14級の9に認定すること。
(注 外傷が治ゆするまでの経過中に、疼痛の性質、強さなどについて病的な状態を呈することがある。この外傷後疼痛のうち特殊な型としては、四肢又はその他の神経の不完全損傷によって生ずる灼熱痛(カウザルギー)があり、これは、血管運動性症状、発汗の異常、軟部組織の栄養状態の異常、骨の変化(ズデック萎縮)などを伴う強度の疼痛である。
また、これに類似して、神経幹の損傷がなくても、外傷部位に、同様の、しかし軽度な疼痛がおこることがある(小さなカウザルギーともいわれる。)。
このような疼痛は、医学的に異常な疼痛の原因が説明されうるものであるから、消退することなく残存した場合は障害補償の対象となる。
なお、障害等級認定時において、外傷後生じた疼痛が自然的経過によって消退すると認められるものは、障害補償の対象とはならない。)
(ホ) 外傷性神経症(災害神経症)
外傷又は精神的外傷ともいうべき災害に起因するいわゆる心因反応であって、精神医学的治療をもってしても治ゆしなかったものについては、第14級の9に認定すること。
(注 外傷性神経症(外傷を契機として発生した器質的変化を証明することができない心因反応をいう。)は、頭部外傷に限らずあらゆる外傷に伴って起こることがある。しかし、外傷のうちでも、頭部外傷とせき椎外傷は、古くから神経症としばしば結びつけられてきた。それは頭部外傷やせき椎外傷が、とくに神経症と密接な関係にあるのではなく、頭痛、腰痛等を主体とした難治の後遺症状が残りやすく、それが客観的所見に乏しく、しかも治療効果をあげにくいことから、外傷性神経症として取り扱われていたものである。
しかし、近年、頭部外傷による脳の器質性症状が厳密に検査され、頭部外傷後遺症などの病因や病像がかなり明確に理解されるようになってきた。いわゆる外傷性神経症における種々の症状は、外傷に起因して条件的に発展した症状であるから、脳その他の器質性障害の有無には直接の関連性はない。また、当然素因の役割も考えられる。したがって、その症状を神経症として診断するためには、それが脳損傷その他の障害による症状としては、医学的に解釈できないということと、一方では、積極的に心因反応の症状とみなすことができるという両者の根拠がなければならない。いずれもその判別は困難であり、精神神経科などの専門の医師の診断を必要とする場合が多い。
外傷性神経症の一般的な鑑別点としては、かなり典型的な頭部外傷後遺症などの自覚症状群と異なり、ある一つの症状が極端に強く誇張して訴えられ、他の症状がこれに伴っていないこと、感覚、運動障害などが、神経学的検査で説明不可能なこと、また、症状の変化や消失の状態も合理性をもたないことなどが挙げられる。)
(3) 併合、準用
イ 併合
せき柱の骨折のため、せき柱の変形又は運動障害を残すとともにせき髄損傷により、たとえば、1下肢の完全麻痺のように他の部位に機能的障害を残した場合は、これらを併合して等級を認定すること。
ロ 準用
(イ) 中枢神経系の脱落症状として、四肢、感覚器等に機能障害を生じた場合であって、当該障害について、障害等級表上、該当する等級がある場合には、その等級を中枢神経系の障害の準用等級として定めること。
(例 1側の後頭葉視覚中枢の損傷によって、両眼の反対側の視野欠損を生ずるが、この場合は、視野障害の等級として定められている第9級の3を準用する。)
ただし、言語中枢の損傷にもとづく失語症については、通常は他の神経系統の機能又は精神の障害を伴うので、単なる言語機能の障害のみでなく、それらを総合的に判断して等級を認定すること。
(ロ) せき髄損傷により、身体各部に機能的障害を生じた場合であって、当該障害について、障害等級表上、該当する等級がある場合は、その等級をせき髄の障害の準用等級として定めること。
(例 せき髄損傷のため1下肢の完全麻痺(第5級の5)と軽度の尿路障害(第11級の9)が生じた場合は、併合の方法を用いて第4級とする。)
(ハ) 神経麻痺が、他覚的に証明される場合であって、障害等級表上、当該部位の機能的障害に係る等級がない場合は、第12級を準用すること。
6 頭部、顔面、頸部(上肢及び下肢の醜状を含む。)
(1) 醜状障害と障害等級
イ 醜状障害については、障害等級表上、次のごとく、外ぼうの醜状障害及び露出面の醜状障害について等級を定めている。
(イ) 外ぼうの醜状障害
女子の外ぼうに著しい醜状を残すもの 第7級の12
男子の外ぼうに著しい醜状を残すもの 第12級の13
女子の外ぼうに醜状を残すもの 第12級の14
男子の外ぼうに醜状を残すもの 第14級の10
(ロ) 露出面の醜状障害
上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの 第14級の3
下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの 第14級の4
ロ 外ぼう及び露出面以外の部分の醜状障害(以下「露出面以外の醜状障害」という。)については、障害等級表上定めがないので、労災則第14条第4項により、準用等級を定めること。
(2) 障害等級認定の基準
イ 外ぼうの醜状障害
(イ) 「外ぼう」とは、頭部、顔面部、頸部のごとく、上肢及び下肢以外の日常露出する部分をいう。
(ロ) 外ぼうにおける「著しい醜状を残すもの」とは、原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいう。
a 頭部にあっては、てのひら大(指の部分は含まない。以下同じ。)以上の瘢痕又は頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
b 顔面部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕、長さ5センチメートル以上の線状痕又は10円銅貨大以上の組織陥凹
c 頸部にあっては、てのひら大以上の瘢痕
(ハ) 外ぼうにおける単なる「醜状」とは、原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいう。
a 頭部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
b 顔面部にあっては、10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕
c 頸部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕
(ニ) 障害補償の対象となる外ぼうの醜状とは、人目につく程度以上のものでなければならないから、瘢痕、線状痕及び組織陥凹であって眉毛、頭髪等にかくれる部分については、醜状として取り扱わないこと。
(例 眉毛の走行に一致して3.5センチメートルの縫合創痕があり、そのうち1.5センチメートルが眉毛にかくれている場合は、顔面に残った線状痕は2センチメートルとなるので、外ぼうの醜状には該当しない。)
(ホ) 顔面神経麻痺は、神経系統の機能の障害ではあるが、その結果として現われる「口のゆがみ」は単なる醜状として、また閉瞼不能は眼瞼の障害として取り扱うこと。
(ヘ) 頭蓋骨の手のひら大以上の欠損により、頭部の陥凹が認められる場合で、それによる脳の圧迫により神経症状が存する場合は、外ぼうの醜状障害に係る等級と神経障害に係る等級のうちいずれか上位の等級により認定すること。
(ト) 眼瞼、耳介及び鼻の欠損障害については、これらの欠損障害について定められている等級と外ぼうの醜状に係る等級のうち、いずれか上位の等級により認定すること。
なお、耳介及び鼻の欠損障害に係る醜状の取扱いは、次によること。
a 耳介軟骨部の1/2以上を欠損した場合は、「著しい醜状」とし、その一部を欠損した場合は、単なる「醜状」とする。
b 鼻軟骨部の全部又は大部分を欠損した場合は、「著しい醜状」とし、その一部又は鼻翼を欠損した場合は、単なる「醜状」とする。
(チ) 2個以上の瘢痕又は線状痕が相隣接し、又は相まって1個の瘢痕又は線状痕と同程度以上の醜状を呈する場合は、それらの面積、長さ等を合算して等級を認定すること。
(リ) 火傷治ゆ後の黒褐色変色又は色素脱失による白斑等であって、永久的に残ると認められ、かつ、人目につく程度以上のものは、単なる「醜状」として取り扱うこと。この場合、その範囲は、当然前記(ハ)に該当するものであること。
ロ 露出面の醜状障害
(イ) 上肢又は下肢の「露出面」とは、上肢にあっては、ひじ関節以下(手部を含む。)、下肢にあっては、ひざ関節以下(足背部を含む。)をいう。
(ロ) 「2個以上の瘢痕又は線状痕」及び「火傷治ゆ後の黒褐色変色又は色素脱失による白斑等」に係る取扱いについては、外ぼうにおける場合と同様である。
(3) 併合、準用、加重、その他
イ 併合
次に掲げる場合においては、労災則第14条第2項及び第3項により併合して等級を認定すること。
(イ) 外ぼうの醜状障害と露出面の醜状障害が存する場合
(ロ) 外ぼうの醜状障害と露出面以外の醜状障害が存する場合
(例 頭部に第12級の13、背部に第12級相当の醜状障害が存する場合は、これらを併合して、第11級に認定する。)
(ハ) 上肢の露出面の醜状障害と下肢の露出面の醜状障害が存する場合
(ニ) 外傷、火傷等のための眼球亡失により、眼部周囲及び顔面の組織陥凹、瘢痕等を生じた場合は、眼球亡失に係る等級と瘢痕等の醜状障害に係る等級を併合して、等級を認定すること。
(例 男子で1眼及び眉毛を亡失し(第8級の1)、その周囲の組織陥凹が著しい(第12級の13)場合は、これらを併合して第7級とする。)
ロ 準用
次に掲げる場合においては、労災則第14条第4項により、準用して等級を認定すること。
(イ) 男子のほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪の感をいだかせる程度のものについては、第7級の12を準用する。
(ロ) 露出面以外の醜状障害については、次により準用等級を定めること。
a 上肢又は大腿にあっては、ほとんどその全域、胸部又は腹部にあっては、それぞれ各部の1/2程度、背部及び臀部にあっては、その全面積の1/4程度をこえるものは、単なる「醜状」として、第14級とする。
b 両上腕のほとんど全域、両大腿のほとんど全域、胸部又は腹部にあっては、各々その全域、背部及び腎部にあってはその全面積の1/2程度をこえるものは、「著しい醜状」として第12級とする。
ハ 加重
次に掲げる場合においては、労災則第14条第5項により、加重として取り扱うこと。
(イ) 既に、外ぼうに醜状障害が存していた者が、その程度を加重した場合
(ロ) 既に、上肢又は下肢の露出面に醜状障害が存していた者が、その程度を加重した場合
(ハ) 既に、露出面以外の醜状障害が存していた者が、その程度を加重した場合
ニ その他
上肢又は下肢の露出面の醜状障害と露出面以外の醜状障害が存する場合若しくは2以上の露出面以外の醜状障害が存する場合(たとえば胸部全域と上腕全域にわたる瘢痕)については、おのおの該当する等級のうち、いずれか上位の等級により認定すること。
7 胸腹部臓器
(1) 胸腹部臓器の障害と障害等級
イ 胸腹部臓器の障害については、障害等級表において、次のごとく、胸腹部臓器、ひ臓・じん臓及び生殖器のそれぞれの障害について等級を定めている。
(イ) 胸腹部臓器の障害
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 第1級の4
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 第3級の4
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 第5級の1の3
胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 第7級の5
胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 第9級の7の3
胸腹部臓器に障害を残すもの 第11級の9
(ロ) ひ臓、じん臓の障害
ひ臓又は1側のじん臓を失ったもの 第8級の11
(ハ) 生殖器の障害
両側のこう丸を失ったもの 第7級の13
生殖器に著しい障害を残すもの 第9級の12
ロ 胸腹部臓器の障害については、その労働能力に及ぼす影響を総合的に判断して等級を認定すること。したがって、胸腹部臓器の諸器官に2種以上の障害が存したとしても併合の方法により準用等級を定めるべきではない。
また、胸腹部臓器の障害の程度を判断するにあたっては、必要な検査の結果について専門医の意見を参考とし、かつ、既存の障害について調査したうえで等級を認定すること。
ハ 障害等級表に掲げていない胸腹部臓器の障害については、労災則第14条第4項により、その障害の程度に応じて障害等級表に掲げている他の障害に準じて等級を認定すること。
(2) 障害等級認定の基準
胸腹部臓器の障害(ひ臓、じん臓の障害及び生殖器の障害を除く。)については、その障害の程度により、「自用を弁ずることができないもの」を第1級、「多少自用を弁ずることができる程度のもの」を第3級、「自用を弁ずることができるが、労働能力に著しい支障が生じ、終身極めて軽易な労務にしか服することができないもの」を第5級、「一応労働することはできるが、労働能力に支障が生じ、軽易な労務にしか服することができないもの」を第7級、「通常の労働を行うことはできるが、就労可能な職種が相当程度に制約されるもの」を第9級、「機能の障害の存在が明確であって労働に支障をきたすもの」を第11級にとそれぞれ該当させるものであること。
イ 胸部臓器の障害(じん肺による障害を除く。)
(イ) 胸部臓器の障害に係る等級は、次により認定すること。
a 「重度の胸部臓器の障害のために、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」は、第1級の4に該当する。
b 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高度の胸部臓器の障害のために、終身にわたりおよそ労務に就くことができないもの」は、第3級の4に該当する。
c 「胸部臓器の障害のため、終身にわたりきわめて軽易な労務のほか服することができないもの」は、第5級の1の3に該当する。
胸部臓器の障害による身体的能力の低下などのため、独力では一般平均人の1/4程度の労働能力しか残されていない場合が、これに該当する。
労働能力の判定にあたっては、医学的他覚所見を基礎とし、さらに労務遂行の持続力についても十分に配慮して総合的に判断すること。
d 「中等度の胸部臓器の障害のために、労働能力が一般平均人以下に明らかに低下しているもの」は、第7級の5に該当する。
胸部臓器の障害による身体的能力の低下などのため独力では一般平均人の1/2程度の労働能力しか残されていない場合がこれに該当する。
e 「一般的労働能力は残存しているが、胸部臓器の障害のため社会通念上その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第9級の7の3に該当する。
f 「一般的労働能力は残存しているが、胸部臓器の機能の障害の存在が明確であって労働に支障をきたすもの」は、第11級の9に該当する。
(ロ) 胸部臓器の障害とは、心臓、心のう、肺臓、ろく(胸)膜、横隔膜等に他覚的に証明しうる変化が認められ、かつ、その機能にも障害が証明されるものをいう。
(ハ) 胸部臓器の障害については、心のうゆ着、心外膜障害、心内膜障害、心弁膜障害、ろく膜(横隔膜)ゆ着及び胼胝(ベンチ)並びに肺損傷後遺による肉変形成等の程度に応じて等級を認定すること。
なお、上記障害の検査は、聴打診、心電図、エックス線透視及び撮影、心肺機能検査(負荷試験を含む。)、血液ガス分析等によること。
ロ じん肺による障害
じん肺による障害については、基本的には、上記の「イ 胸部臓器の障害」の取扱いによることとなるが、その疾病のもつ特異性、複雑性等にかんがみ、特に次のように取り扱うこととする。
(イ) じん肺による障害に係る等級は、心肺機能の低下の程度及びエックス線写真の像型等をもって次により認定すること。
なお、心肺機能の低下の程度及びエックス線写真の像型については、「じん肺法」に定める検査方法によること。
a 「心肺機能に中等度の障害があり、エックス線写真の像型が第4型(大陰影の大きさが、1側の肺野の1/2以下のものに限る。以下同じ。)のもの」は、第7級の5に該当する。
b 「心肺機能に軽度の障害があり、エックス線写真の像型が第4型のもの」は、第9級の7の3に該当する。
c 「心肺機能に中等度の障害があり、エックス線写真の像型が第3型のもの」は、第9級の7の3に該当する。
d 「心肺機能に軽微な障害があり、エックス線写真の像型が第4型のもの」は、第11級の9に該当する。
e 「心肺機能に軽度の障害があり、エックス線写真の像型が第3型のもの」は、第11級の9に該当する。
f 「心肺機能に中等度又は軽度の障害があり、エックス線写真の像型が第2型のもの」は、第11級の9に該当する。
(ロ) 外科的療法により、ろく骨又はせき柱の変形障害とじん肺による障害が存する場合には、いずれか上位の等級により認定すること。
(ハ) 外科的療法により、ろく骨及びせき柱の変形障害並びにじん肺による障害が存する場合には、まず、ろく骨の変形障害とせき柱の変形障害とを併合して等級を定め、次にその等級とじん肺による障害の等級を比べ、いずれか上位の等級により認定すること。
(ニ) 「心肺機能の中等度の障害」とは、換気指数が40以上60未満のもの、「心肺機能の軽度の障害」とは、換気指数が60以上80未満のもの、また「心肺機能の軽微な障害」とは、換気指数が80以上のものをいう。
(ホ) じん肺による障害に係る等級認定の時期は、次によること。
a じん肺に活動性結核を伴わない者については、その症状が1年を通じて次の各号に該当しており、かつ、引続き6カ月を通じて経過観察を行っても、なお、その症状に変化が認められないとき。
(a) 心肺機能検査を各季節1回以上行い、心肺機能の障害が中等度以下であること。
(b) 呼吸困難度が常にⅡ度以下であること。
(c) ぜん息様症状を伴わないこと。
(注
1 「経過観察」とは、機能を高めるような薬剤等の投与を中止して医師の観察下にある状態をいう。
2 「呼吸困難度」とは、ヒュー・ジョンズの分類に準じ次のように区分される。
第Ⅰ度 同年令の健康者と同様に労働ができ、歩行、登山あるいは階段の昇降も健康者と同様に可能な程度のもの
第Ⅱ度 同年令の健康者と同様に歩くことには支障はないが、坂や階段は同様に昇れない程度のもの
第Ⅲ度 平地でも健康者なみに歩くことができないが、自己のペースでなら1km以上歩ける程度のもの
第Ⅳ度 50m以上歩くのに一休みしなければ歩けない程度のもの
第Ⅴ度 話したり着物を脱ぐのにも息切れがして、そのため屋外に出られない程度のもの
3 「ぜん息様症状」とは、気管部の喘鳴等(ゼイゼイ、ヒューヒュー)の症状をいう。)
b じん肺に活動性結核を伴うもので、十分な療養の結果、更に療養を続ける必要がなくなったと判断されるものについては、引き続き1年以上経過を観察しても結核再発の徴候が認められないとき。
ハ 腹部臓器の障害
(イ) 腹部臓器の障害に係る等級の認定については、「イ 胸部臓器の障害」におけると同様の基準により行うこと。
(ロ) 腹部臓器の障害については、ひ臓又は1側のじん臓亡失のごとく独自の等級が定められているものについては、それにより等級を認定することとなるが、それ以外の障害については、各器官相互に密接な関連性があるので、1つの検査結果のみにより判断することなく、関連する諸検査を行い、その障害の程度に応じて等級を認定すること。
(例 ひ臓及び1側のじん臓の摘出が認められる場合であっても、現状ではほとんど労務に支障をきたさないと認められるときには、第8級の11とすべきであるが、他側のじん臓に原因のいかんにかかわらず、じん炎が存する場合に、健側のじん臓を摘出したことによって全身疲労、頭痛等身体に及ぼす影響が大きく、軽労働以外には服することができないと認められるときには、第7級の5に認定する。)
(ハ) 腹部臓器の障害の検査は、エックス線透視及び撮影、内視鏡検査、消化液検査、尿検査、ふん便検査、肝・膵・じん臓等の機能検査、血液検査等によること。
なお、腹部臓器については、胸部臓器の場合と同様治ゆ後の症状が増悪する可能性が多く、再発しやすいことを考慮して、その検査記録を残しておくこと。
ニ 泌尿器の障害
(イ) 泌尿器は、じん臓、尿管、膀胱、尿道等からなり、その障害に係る等級は次により認定すること。
a じん臓の障害
(a) 「尿路変更術を余儀なくされたため、じん瘻、じん盂瘻、尿管皮膚吻合、尿管腸吻合を残したまま治ゆとすべき状態になったもの」は、第7級の5に該当する。
(b) 「明らかに受傷に原因する慢性じん盂じん炎、水じん症」は、第7級の5に該当する。
(c) 「1側のじん臓を亡失したもの」は、第8級の11に該当する。
(d) 「療養の最終段階として、尿道瘻、膀胱瘻孔及び数回にわたる手術にかかわらず、なお瘻孔を残し、根治のためには、ある一定の期間後に再び手術が必要であると認められる場合であっても、この状態において治ゆとしたもの」は、第11級の9に該当する。
(e) 「膀胱括約筋の変化によることが明らかな尿失禁」は、第11級の9に該当する。
b 膀胱の障害
(a) 「膀胱の完全な機能廃絶」は、第3級の4に該当する。
(b) 「萎縮膀胱(容量50cc以下)」は、第7級の5に該当する。
(c) 「常時尿漏を伴う軽度の膀胱機能不全又は膀胱けいれんによる持続性の排尿痛」は、第11級の9に該当する。
c 尿道狭さくの障害
(a) 「『シヤリエ式』尿道プジー第20番(ネラトンカテーテル第11号に相当する。)が辛うじて通り、時々拡張術を行う必要のあるもの」は、第14級を準用すること。
(b) 「糸状プジーを必要とするもの」は、第11級の9に該当する。
(c) 尿道狭さくのため、じん機能に障害をきたすものは、じん臓の障害により等級を認定すること。
ホ 生殖器の障害
生殖器の障害に係る等級は、次により認定する。
(イ) 生殖能力に著しい制限のあるものであって、性交不能をきたすようなもの」は、第9級の12に該当する。
〔例 陰茎の大部分の欠損、瘢痕による膣口狭さく等〕
(ロ) 「1側のこう丸の欠損又は欠損に準ずべき程度の萎縮」は、第11級の9に準じて取り扱うこととするが、1側の単なる腫大は障害補償の対象として取り扱わないこと。
(ハ) 陰萎が他の障害に伴って生ずる場合には、原則として、当該他の障害の等級を認定すること。
「軽い尿道狭さく、陰茎の瘢痕又は硬結等による陰萎があるもの及び明らかに支配神経に変化が認められるもの」は、第14級の9に該当するが医学的に陰萎を立証することが困難なものは、障害補償の対象としないこと。
8 せき柱及びその他の体幹骨
(1) せき柱及びその他の体幹骨の障害と障害等級
イ せき柱及びその他の体幹骨の障害については、障害等級表において次のごとく、せき柱の障害については、その変形障害及び運動障害について、また、その他の体幹骨の損傷による障害については、鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨、骨盤骨の変形障害について等級が定められている。
(イ) せき柱の障害
a 変形障害
せき柱に著しい奇形(変形)を残すもの 第6級の4
せき柱に奇形(変形)を残すもの 第11級の5
b 運動障害
せき柱に著しい運動障害を残すもの 第6級の4
せき柱に運動障害を残すもの 第8級の2
(ロ) その他の体幹骨の障害
鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨又は骨盤骨に著しい奇形(変形)を残すもの 第12級の5
ロ せき柱を形成する諸骨及び鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨及び骨盤骨以外の変形については、障害等級表上定めがないので、当該部位について定められている器質的障害又は機能的障害に係る等級により認定すること。
ハ 障害等級表に掲げていないせき柱及びその他の体幹骨の障害については労災則第14条第4項の規定により、その障害の程度に応じて障害等級表に掲げている他の障害に準じて等級を認定すること。
ニ せき柱の運動機能の測定は、別紙2「関節運動可動域の測定要領」によること。
(2) 障害等級認定の基準
イ せき柱の障害
(イ) 変形障害
a 「せき柱の著しい変形」とは、エックス線写真上明らかなせき椎圧迫骨折又は脱臼等にもとづく強度の亀背・側彎等が認められ衣服を着用していても、その変形が外部からみて明らかにわかる程度以上のものをいう。
b 「せき柱の変形」とは、エックス線写真上明らかなせき椎圧迫骨折又は脱臼が認められるもの、せき椎固定術後の運動可能領域の制限が正常可動範囲の1/2程度に達しないもの、又は、3個以上の椎弓切除術を受けたものをいう。
(ロ) 運動障害
a せき柱の運動障害は、せき柱を構成する各部分のうち、運動障害の最も高度な部分の運動障害をもって等級を認定すること。
b エックス線写真上では、せき椎骨の融合又は固定等のせき柱強直の所見がなく、また軟部組織の器質的病変の所見もなく、単に、疼痛のために運動障害を残すものは、局部の神経症状として等級を認定すること。
c 「せき柱の著しい運動障害」とは、広範なせき椎圧迫骨折又はせき椎固定術等にもとづくせき柱の強直もしくは背部軟部組織の明らかな器質的変化のため、運動可能領域が正常可動範囲の1/2以上制限されたもの又は常時コルセットの装着を必要とする等著しい荷重障害のあるものをいう。
d 「せき柱の運動障害」とは、次のいずれかに該当するものをいう。
(a) エックス線写真上明らかなせき椎圧迫骨折又は脱臼が認められ、もしくはせき椎固定術等にもとづくせき柱の強直があるか又は背部軟部組織の明らかな器質的変化のため、運動可能領域が正常可動範囲のほぼ1/2程度にまで制限されたもの
(b) 頭蓋・上位頸椎間の著しい異常可動性が生じたもの。
ロ その他の体幹骨の変形障害
(イ) 「鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」とは、裸体となったとき、変形(欠損を含む)が明らかにわかる程度のものをいう。したがって、その変形がエックス線写真によって、はじめて発見し得る程度のものは、これに該当しない。
(ロ) ろく骨の変形は、その本数、程度、部位等に関係なく、ろく骨全体を一括して1つの障害として取り扱うこと。
また、ろく軟骨についても、ろく骨に準じて取り扱うこと。
(3) 併合、準用
イ 併合
(イ) せき柱及びその他の体幹骨の障害で次のごとく系列を異にする2以上の障害が存する場合は、労災則第14条第2項及び第3項により併合して等級を認定すること。
ただし、せき柱に変形と運動障害が存する場合及び骨盤骨の変形とこれに伴う下肢の短縮が存する場合は、これらのうち、いずれか上位の等級により認定すること。
a せき柱の変形障害又は運動障害とその他の体幹骨の変形が存する場合
b 骨盤骨の高度の変形(転位)によって股関節の運動障害(たとえば、中心性脱臼)が生じた場合
c 鎖骨の著しい変形と肩関節の運動障害が存する場合
(ロ) せき柱の変形又はせき柱の運動障害で、せき髄又は神経の麻痺を伴う場合は労災則第14条第2項及び第3項により併合して等級を認定すること。
ただし、せき髄損傷の場合のごとく重い神経系統の障害を伴うせき柱の障害については、神経系統の障害として総合的に認定することとし、また、圧迫骨折等によるせき柱の変形に伴う受傷部位の疼痛については、そのいずれか上位の等級により認定すること。
ロ 準用
(イ) 荷重機能の障害については、装具(コルセット等)を用いても起居に困難を感ずる程度の荷重機能障害が存するものは、第6級の4として取扱い、その程度には至らないが、常に装具を必要とする程度の荷重障害が存するものは、第8級の2として取扱うこと。
(ロ) その他の体幹骨の2以上の骨にそれぞれ著しい変形が存する場合は、併合の方法を用いて準用等級を定めること。
(例 鎖骨及び肩こう骨の著しい変形障害が存する場合は、第11級に認定する。)
9 上肢(上肢及び手指)
(1) 上肢及び手指の障害と障害等級
イ 上肢及び手指の障害については、障害等級表上、次のごとく、上肢の障害として欠損障害、機能障害及び変形障害について、また、手指の障害として欠損障害及び機能障害について等級を定めている。
(イ) 上肢の障害
a 欠損障害
両上肢をひじ関節以上で失ったもの 第1級の6
両上肢を腕関節以上で失ったもの 第2級の3
1上肢をひじ関節以上で失ったもの 第4級の4
1上肢を腕関節以上で失ったもの 第5級の2
b 機能障害
両上肢の用を全廃したもの 第1級の7
1上肢の用を全廃したもの 第5級の4
1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの 第6級の5
1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの 第8級の6
1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの 第10級の9
1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの 第12級の6
c 変形障害
1上肢に仮(偽)関節を残し、著しい運動障害を残すもの 第7級の9
1上肢に仮(偽)関節を残すもの 第8級の8
長管骨に奇(変)形を残すもの 第12級の8
(ロ) 手指の障害
a 欠損障害
両手の手指の全部を失ったもの 第3級の5
1手の5の手指又は母指及び示指を含み4の手指を失ったもの 第6級の7
1手の母指及び示指を失ったもの又は母指若しくは示指を含み3以上の手指を失ったもの 第7級の6
1手の母指を含み2の手指を失ったもの 第8級の3
1手の母指を失ったもの、示指を含み2の手指を失ったもの又は母指及び示指以外の3の手指を失ったもの 第9級の8
1手の示指を失ったもの又は母指及び示指以外の2の手指を失ったもの 第10級の5
1手の中指又は薬指を失ったもの 第11級の6
1手の小指を失ったもの 第13級の4
1手の母指の指骨の一部を失ったもの 第13級の5
1手の示指の指骨の一部を失ったもの 第13級の6
1手の母指及び示指以外の手指の指骨の一部を失ったもの 第14級の6
b 機能障害
両手の手指の全部の用を廃したもの 第4級の6
1手の5の手指又は母指及び示指を含み4の手指の用を廃したもの 第7級の7
1手の母指及び示指又は母指若しくは示指を含み3以上の手指の用を廃したもの 第8級の4
1手の母指を含み2の手指の用を廃したもの 第9級の9
1手の母指の用を廃したもの、示指を含み2の手指の用を廃したもの又は母指及び示指以外の3の手指の用を廃したもの 第10級の6
1手の手指の用を廃したもの又は母指及び示指以外の2の手指の用を廃したもの 第11級の7
1手の中指又は薬指の用を廃したもの 第12級の9
1手の示指の末関節を屈伸することができなくなったもの 第13級の7
1手の小指の用を廃したもの 第14級の5
1手の母指及び示指以外の手指の末関節を屈伸することができなくなったもの 第14級の7
ロ 骨折部にキュンチャーを装着し、あるいは金属釘を用いたため、それが機能障害の原因となる場合は、当該キュンチャー等の除去を待って等級の認定を行うこと。
なお、当該キュンチャー等が、機能障害の原因とならない場合は、創面治ゆをもって等級の認定を行うこと。
また、廃用性の機能障害(たとえば、ギプスによって患部を固定していたために、治ゆ後に関節に機能障害を存すもの)については、将来における障害の程度の軽減を考慮して等級の認定を行うこと。
ハ 上肢及び手指の機能測定は、別紙2「関節運動可動域の測定要領」によること。
(2) 障害等級認定の基準
イ 上肢の障害
(イ) 欠損障害
a 「上肢をひじ関節以上で失ったもの」とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
(a) 肩関節において、肩甲骨と上腕骨とを離断したもの
(b) 肩関節とひじ関節との間において上腕を切断したもの
(c) ひじ関節において、上腕骨と橈骨及び尺骨とを離断したもの
b 「上肢を腕関節以上で失ったもの」とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
(a) ひじ関節と腕関節との間で切断したもの
(b) 腕関節において、橈骨及び尺骨と手根骨とを離断したもの
(ロ) 機能障害
a 「上肢の用を全廃したもの」とは、3大関節(肩関節、ひじ関節及び腕関節)の完全強直又はこれに近い状態及び手指の全部の用を廃したものをいう。
また、上腕神経叢の完全麻痺もこれに含まれる。
b 「関節の用を廃したもの」とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
(a) 関節の完全強直又はこれに近い状態にあるもの
(b) 人工骨頭又は人工関節をそう入置換したもの
c 「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、関節の運動可能領域が健側の運動可動域の1/2以下に制限されているものをいう。
d 「関節の機能に障害を残すもの」とは、関節の運動可能領域が健側の運動可動域の3/4以下に制限されているものをいう。
e 動揺関節の取扱い
上肢の「動揺関節」については、それが他動的なものであると、自動的なものであるとにかかわらず、次の基準によってその等級を認定すること。
(a) 労働に支障があり、常時固定装具の装着を必要とする程度のものは、「著しい障害を残すもの」とする。
(b) 労働に多少の支障はあっても、固定装具の装着を常時必要としない程度のものは、単なる「障害を残すもの」とする。
f 習慣性脱臼の取扱い
習慣性脱臼(先天性を除く。)は、「関節の機能に障害を残すもの」とする。
(ハ) 変形障害
a 「上肢に仮(偽)関節を残し著しい運動障害を残すもの」とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
(a) 上腕骨に仮(偽)関節(以下「偽関節」という。)を残すもの
(b) 橈骨及び尺骨の両方に偽関節を残すもの
b 「1上肢に仮(偽)関節を残すもの」とは、橈骨若しくは尺骨のいずれか一方に偽関節を残すものをいう。
c 上肢における「長管骨に奇(変)形を残すもの」とは、次のいずれかに該当する場合であって、外部から想見できる程度(165度以上わん曲して不正ゆ合したもの)以上のものをいい、長管骨の骨折部が良方向に短縮なくゆ着している場合は、たとえ、その部位に肥厚が生じたとしても、長管骨の変形としては取り扱わないこと。
(a) 上腕骨に変形を残すもの
(b) 橈骨及び尺骨の両方に変形を残すもの(ただし、橈骨又は尺骨のいずれか一方のみの変形であっても、その程度が著しい場合には、これに該当する。)
ロ 手指の障害
(イ) 欠損障害
a 「指を失ったもの」とは、母指にあっては指節間関節、その他の指にあっては、近位指節間関節以上を失ったものをいい、次の場合がこれに該当する。
(a) 指を中手骨又は基節骨で切断した場合
(b) 近位指節間関節(母指にあっては、指節間関節)において、基節骨と中節骨とを離断した場合
b 「指骨の一部を失ったもの」とは、1指骨の一部を失っていることがエックス線写真によって明らかであるもの及び遊離骨片が認められるものをいう。
ただし、その程度が手指の末節骨の長さの1/2以上を失った場合は、後述(ロ)のとおり手指の用を廃したものとすること。
(ロ) 機能障害
a 「手指の用を廃したもの」とは、次の場合をいう。
(a) 指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
(b) 中手指節関節又は近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)に著しい運動障害(運動可能領域が健側の運動可動域の1/2以下に制限される場合)が存するもの
b 「末関節を屈伸することができないもの」とは、次の場合をいう。
(a) 遠位指節間関節が完全強直又はこれに近い状態にあるもの
(b) 屈伸筋の損傷等原因が明らかなものであって、自動的屈伸が不能となったもの
c 母指の中手指節関節の運動(母指の対立及び指間の離開)制限については、指節間関節の運動障害と同様に取り扱うこと。
(3) 併合、準用、加重、その他
イ 併合
次に掲げる場合においては、労災則第14条第2項及び第3項により、併合して等級を認定すること。
(イ) 上肢の障害
a 1上肢の器質的障害と他の上肢の機能障害
1上肢の器質的障害と、他の上肢の機能障害が存する場合は、まず、各上肢ごとに等級を定め、次にこれらを併合して等級を認定すること。
(例 右上肢を腕関節から失い(第5級の2)、左上肢の1関節の用を廃した(第8級の6)場合には、これらを併合して第3級とする。)
b 両上肢の機能障害(両上肢の全廃を除く。)
両上肢に機能障害が存する場合(両上肢の全廃を除く。)も、前記aと同様にまず1上肢ごとに等級を定め、次にこれらを併合して等級を認定すること。
(例 1上肢の全廃(第5級の4)と他の上肢の1関節の著しい機能障害(第10級の9)を残す場合には、これらを併合して第4級とする。)
c 同一上肢の関節の機能障害と長管骨の変形
同一上肢に関節の機能障害と長管骨の変形又は偽関節が存する場合にはこれらを併合して等級を認定すること。
(例 同一上肢に腕関節の単なる機能障害(第12級の6)と上腕骨の変形(第12級の8)が存する場合には第11級とする。)
(ロ) 手指の障害
a 1手の指の欠損障害と他の手の指の欠損障害
1手の指の欠損障害と他の手の指の欠損障害が存する(両手の手指全部を失ったものを除く。)場合には、それぞれの手ごとに等級を定め、これらを併合して等級を認定すること。
(例 右手の示指の亡失(第10級の5)と左手の示指の亡失(第10条の5)の場合は、これらを併合して第9級とする。)
b 1手の指の機能障害と他の手の指の機能障害
1手の指の機能障害と他の手の指の機能障害(両手の指の全廃を除く。)についても、上記aの欠損障害の場合と同様に併合して等級を認定すること。
c 1手の指の欠損障害と他の手の指の機能障害
1手の指の欠損障害と他の手の指の機能障害が存する場合には、それぞれの手ごとに等級を定め、これらを併合して等級を認定すること。
(例 右手の5の手指の亡失(第6級の7)と左手の5の手指の用廃(第7級の7)の場合には、これらを併合して第4級とする。)
ロ 準用
次に掲げる場合においては、労災則第14条第4項の規定により、併合の方法を用いて、準用等級を定めることとなるが、その結果、等級の序列を乱すこととなる場合は、その等級の直近上位又は直近下位の等級をもって認定すること。
(イ) 上肢の障害
a 同一上肢に2以上の器質的障害が存する場合
(例
1 1上肢の上腕骨に偽関節を残し(第7級の9)、同上肢の橈骨及び尺骨に変形を残した(第12級の8)場合は、第6級とする。
2 1上肢を腕関節以上で失い(第5級の2)、同上肢の上腕骨に偽関節を残した(第7級の9)場合は、これらを併合すれば、第3級となるが、1上肢をひじ関節以上で失ったもの(第4級の4)には達しないので、第5級とする。)
b 同一上肢に欠損障害と機能障害が存する場合
(例 1上肢を腕関節以上で失い(第5級の2)、肩関節及びひじ関節の用を廃した(第6級の5)場合は、これらを併合すれば、第3級となるが、1上肢をひじ関節以上で失ったもの(第4級の4)には達しないので、第5級とする。)
ただし、腕関節以上の亡失又はひじ関節以上の亡失と関節の機能障害が存する場合は、機能障害の程度に関係なく、前者については第5級、後者については第4級とすること。
(例
1 1上肢を手関節以上で失い(第5級の2)、ひじ関節及び肩関節の用を廃した(第6級の5)場合は、第5級とする。
2 1上肢をひじ関節以上で失い(第4級の4)、肩関節の用を廃した(第8級の6)場合は、第4級とする。)
c 同一上肢の3大関節に機能障害が存する場合(用廃を除く。)
(例
1 1上肢の腕関節に単なる機能障害が存し(第12級の6)、同上肢のひじ関節に著しい機能障害が存している(第10級の9)場合は、第9級とする。
2 1上肢の肩関節及びひじ関節の用を廃し(第6級の5)同上肢の腕関節に著しい機能障害が存している(第10級の9)場合は、これらを併合すれば、第5級となるが、1上肢の用を廃したもの(第5級の4)には達しないので、第6級とする。)
なお、1上肢の3大関節のすべての関節の機能に著しい障害を残すものは第8級に、また、1上肢の3大関節のすべての関節の機能に障害を残すものは、第10級に準ずる障害として取り扱うこと。
d 1上肢の3大関節の機能障害と同一上肢の手指の欠損障害又は機能障害が存する場合
(例
1 1上肢の腕関節に単なる機能障害が存し(第12級の6)、同一上肢の母指の用を廃した(第10級の6)場合は、第9級とする。
2 1上肢の肩関節及びひじ関節の用廃(第6級の5)と、同一上肢の母指及び示指の欠損(第7級の6)とが存する場合は、これらを併合すれば、第4級となるが、1上肢の全廃(第5級の4)には達しないので、第6級とする。)
(ロ) 手指の障害
(例 1手の小指の亡失(第13級の4)と同一手の母指の用廃(第10級の6)が存する場合は、第9級とする。)
ハ 加重
(イ) 次に掲げる場合においては、労災則第14条第5項により加重として取り扱うこと。
a 上肢の障害
(a) 上肢に障害が存していた者が、同一系列内において、さらに障害を加重した場合
(例
1 1上肢を手関節又はひじ関節以上で失っていた者が、さらに同一上肢をひじ関節又は肩関節以上で失った場合
2 1上肢の腕関節に単なる機能障害又はひじ関節の用廃が存していた者が、さらに腕関節の著しい機能障害又は腕関節とひじ関節の用廃を存した場合
3 1上肢の橈骨及び尺骨に変形を存していた者が、さらに同一上肢の上腕骨に偽関節を存した場合)
(b) 上肢に障害が存していた者が、さらに既存の障害の部位以上を失った場合(上記(a)に該当する場合を除く。)
(例
1 1上肢の橈骨及び尺骨に変形を存していた者が、さらに同一上肢をひじ関節以上で失った場合
2 1手の手指の欠損又は機能障害を存していた者が、さらに同一上肢を腕関節以上で失った場合)
b 手指の障害
1手の手指に障害が存していた者が、さらに同一手の同指又は他指に障害を加重した場合
(例
1 1手の小指の用を廃していた者が、さらに同一手の中指の用を廃した場合
2 1手の母指の指骨の一部を失っていた者が、さらに同指を失った場合)
(ロ) 手指の障害で、次に掲げる場合に該当するときは、労災則第14条第5項の規定にかかわらず、新たな障害のみが生じたものとみなして取り扱うこと(第1の4の(3)のホ参照)。
a 1手の手指に障害を存していた者が、同一手の他指に新たな障害を加重した場合で、労災則第14条第5項により算定した障害補償の額(日数)が、他指に新たな障害のみが生じたこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないとき
b 1手の複数の手指に障害が存する者が、新たにその一部の手指について障害を加重した場合で、労災則第14条第5項により算定した障害補償の額(日数)が、その一部の手指に新たな障害のみが生じたこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないとき
ただし、加重後の等級が第7級以上(年金)に該当し、新たに加わった障害が単独で生じたこととした場合の等級が第8級以下(一時金)に該当するとき(既存の障害の該当する等級が同等級であるときを除く。)の障害補償の額は、労災則第14条第5項によること。
ニ その他
(イ) 上腕骨又は前腕骨(橈骨、尺骨)の骨折によって骨折部に偽関節又は変形が存するとともにその部位に疼痛(第12級相当)が存する場合には、いずれか上位の等級によること。
(ロ) 左右両上肢(両手指を含む。)の組合せ等級の取扱い
1上肢に障害を存していた者が、新たに他の上肢に障害を残したとき、又は同一上肢(手指を含む。)の障害の程度を加重するとともに他の上肢にも障害を残した結果、現存する障害が次の5種類のうちのいずれかに該当するときの障害補償の額は、加重の場合に準じて算定すること。
a 両上肢をひじ関節以上で失ったもの(第1級の6)
b 両上肢を腕関節以上で失ったもの(第2級の3)
c 両上肢の用を全廃したもの(第1級の7)
d 両手指の全部を失ったもの(第3級の5)
e 両手指の全部の用を廃したもの(第4級の6)
(ハ) 母指の造指術を行った場合にあっては、当該母指の機能的障害と造指術により失った指(示指又は薬指、母趾等)の器質的障害を同一災害により生じた障害として取り扱い、これらを併合して等級を認定し、又は準用等級を定めること。
10 下肢(下肢及び足指)
(1) 下肢及び足指の障害と障害等級
イ 下肢及び足指の障害については、障害等級表上、次のごとく、下肢の障害として欠損障害、機能障害、変形障害及び短縮障害について、また、足指の障害として欠損障害及び機能障害について等級を定めている。
(イ) 下肢の障害
a 欠損障害
両下肢をひざ関節以上で失ったもの 第1級の8
両下肢を足関節以上で失ったもの 第2級の4
1下肢をひざ関節以上で失ったもの 第4級の5
両足をリスフラン関節以上で失ったもの 第4級の7
1下肢を足関節以上で失ったもの 第5級の3
1足をリスフラン関節以上で失ったもの 第7級の8
b 機能障害
両下肢の用を全廃したもの 第1級の9
1下肢の用を全廃したもの 第5級の5
1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの 第6級の6
1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの 第8級の7
1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの 第10級の10
1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの 第12級の7
c 変形障害
1下肢に仮(偽)関節を残し、著しい運動障害を残すもの 第7級の10
1下肢に仮(偽)関節を残すもの 第8級の9
長管骨に奇(変)形を残すもの 第12級の8
d 短縮障害
1下肢を5センチメートル以上短縮したもの 第8級の5
1下肢を3センチメートル以上短縮したもの 第10級の7
1下肢を1センチメートル以上短縮したもの 第13級の8
(ロ) 足指の障害
a 欠損障害
両足の足指の全部を失ったもの 第5級の6
1足の足指の全部を失ったもの 第8級の10
1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの 第9級の10
1足の第1の足指又は他の4の足指を失ったもの 第10級の8
1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの 第12級の10
1足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの 第13級の9
b 機能障害
両足の足指の全部の用を廃したもの 第7級の11
1足の足指の全部の用を廃したもの 第9級の11
1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの 第11級の8
1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの 第12級の11
1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの 第13級の10
1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの 第14級の8
ロ 「廃用性の機能障害」に係る治ゆ認定及び「キュンチャー等の除去」に係る取扱いについては、上肢及び手指における場合と同様とする。
ハ 下肢及び足指の機能測定は、別紙2「関節運動可動域の測定要領」によること。
(2) 障害等級認定の基準
イ 下肢の障害
(イ) 欠損障害
a 「下肢をひざ関節以上で失ったもの」とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
(a) 股関節において寛骨と大腿骨を離断したもの
(b) 股関節とひざ関節との間(大腿部)において切断したもの
(c) ひざ関節において、大腿骨と下腿骨とを離断したもの
b 「下肢を足関節以上で失ったもの」とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
(a) ひざ関節と足関節との間(下腿部)において切断したもの
(b) 足関節において、下腿骨と距骨とを離断したもの
c 「リスフラン関節以上で失ったもの」とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
(a) 足根骨(踵骨、距骨、舟状骨及び3個の楔状骨からなる。)において切断したもの
(b) 中足骨と足根骨とを離断したもの
(ロ) 機能障害
a 「下肢の用を全廃したもの」とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
(a) 3大関節(股関節、ひざ関節及び足関節)及び足指全部の完全強直又はこれに近い状態にあるもの
(b) 3大関節のすべての完全強直又はこれに近い状態にあるもの
b 下肢の「関節の用を廃したもの」とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
(a) 関節の完全強直又はこれに近い状態にあるもの
(b) 人工骨頭又は人工関節をそう入置換したもの
c 下肢の「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、関節の運動可能領域が、健側の運動可動域の1/2以下に制限されているものをいう。
d 下肢の「関節の機能に障害を残すもの」とは、関節の運動可能領域が健側の運動可動域の3/4以下に制限されているものをいう。
e 下肢の「動揺関節」については、それが他動的なものであると、自動的なものであるとにかかわらず、次の基準によってその等級を認定すること。
(a) 労働に支障があり、常時固定装具の装着を絶対に必要とする程度のものは、「用を廃したもの」とする。
(b) 労働に多少の支障はあっても、固定装具の装着を常時必要としない程度のものは、「機能に著しい障害を残すもの」とする。
(c) 通常の労働には固定装具の装着の必要がなく、重激な労働等に際してのみ必要のある程度のものは、「機能に障害を残すもの」とする。
f 下肢の「習慣性脱臼(先天性を除く。)」及び「弾ぱつ膝」は、「関節の機能に障害を残すもの」とする。
(ハ) 変形障害
a 「1下肢に仮(偽)関節を残し、著しい運動障害を残すもの」とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
(a) 大腿骨に偽関節を残すもの
(b) 脛骨及び腓骨の両方に偽関節を残すもの
b 「1下肢に仮(偽)関節を残すもの」とは、脛骨若しくは腓骨のいずれかか一方に偽関節を残すものをいう。
c 下肢における「長管骨に奇(変)形を残すもの」とは、次のいずれかに該当する場合で、上肢における場合と同様、その変形を外部から想見できる程度(165度以上わん曲して不正ゆ合したもの)以上のものをいい、長管骨の骨折部位が正常位にゆ着している場合は、たとえ、その部位に肥厚があったとしても、長管骨の変形としては取り扱わないこと。
(a) 大腿骨に変形を残すもの
(b) 脛骨に変形を残すもの
ただし、腓骨のみの変形であっても、その程度が著しい場合には、これに該当する。
(ニ) 短縮障害
「下肢の短縮」については、上前腸骨棘と下腿内果下端間の長さを測定し、健側の下肢と比較し、短縮した長さを算出すること。
ロ 足指の障害
(イ) 欠損障害
「足指を失ったもの」とは、その全部を失ったものをいう。
したがって、中足指節関節から失ったものがこれに該当する。
(ロ) 機能障害
「足指の用を廃したもの」とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
a 第1の足指にあっては、末節骨の1/2以上を、その他の足指にあっては遠位指節間関節以上を失ったもの
b 第1及び第2の足指にあっては、中足指節関節又は近位指節間関節(第1の足指にあっては指節間関節)に著しい運動障害を残すもの
なお、「著しい運動障害を残すもの」とは、運動可能領域が健側の運動可動域の1/2以下に制限されるものをいう。
c 第3、第4、第5の足指にあっては、完全強直したもの
(3) 併合、準用、加重、その他
イ 併合
次に掲げる場合においては、労災則第14条第2項及び第3項により、併合して等級を認定すること。
(イ) 下肢の障害
a 両下肢に器質的障害(下腿の全部亡失を除く。)が存する場合
(例
1 両下肢に長管骨の変形が存する(それぞれ第12級の8)場合は、第11級とする。
2 1下肢の3センチメートル以上の短縮(第10級の7)と他の下肢の5センチメートル以上の短縮(第8級の5)とが存する場合は、第7級とする。
3 1下肢の偽関節(第8級の9)と他の下肢の5センチメートル以上の短縮(第8級の5)が存する場合は、第6級とする。)
b 両下肢の3大関節に機能障害を残した場合(両下肢の全廃を除く。)
(例
1 1下肢の足関節の用廃(第8級の7)と他の下肢のひざ関節の用廃(第8級の7)が存する場合は、第6級とする。
2 1下肢の全廃(第5級の5)と他の下肢のひざ関節及び足関節の用廃(第6級の6)が存する場合は、第3級とする。)
c 1下肢の3大関節の機能障害と他の下肢の器質的障害が存する場合
(例
1 1下肢の足関節の用廃(第8級の7)と他の下肢のリスフラン関節以上の亡失(第7級の8)が存する場合は、第5級とする。
2 1下肢のひざ関節の著しい機能障害(第10級の10)と他の下肢の偽関節(第8級の9)が存する場合は、第7級とする。
3 1下肢の全廃(第5級の5)と他の下肢の3センチメートル以上の短縮(第10級の7)が存する場合は、第4級とする。)
d 1下肢の亡失(ひざ関節以上の亡失を除く。)と変形が存する場合
(例
1 1下肢のリスフラン関節以上の亡失(第7級の8)と長管骨の変形(第12級の8)が存する場合は、第6級とする。
2 1下肢のリスフラン関節以上の亡失(第7級の8)と脛骨の偽関節(第8級の9)が存する場合は、繰上げると第5級となるが、1下肢の足関節以上の亡失(第5級の3)には達しないので、その直近下位の第6級とする。)
e 1下肢の3大関節の機能障害と変形又は短縮障害が存する場合
(例
1 1下肢の足関節の単なる機能障害(第12級の7)と脛骨の変形(第12級の8)が存する場合は、第11級とする。
2 1下肢のひざ関節の機能障害(第12級の7)と同一下肢の3センチメートル以上の短縮(第10級の7)が存する場合は、第9級とする。)
f 踵骨骨折治ゆ後の疼痛(第12級の12)と足関節の単なる機能障害(第12級の7)が存する場合は、第11級とする。
(ロ) 足指の障害
a 1足の足指の欠損障害と他の足の足指の欠損障害(両足の足指の全部欠損を除く。)が存する場合
(例
1 右足の第1の足指の亡失(第10級の8)と左足の全部の足指の亡失(第8級の10)が存する場合は、第7級とする。
2 右足の第1の足指の亡失(第10級の8)と左足の第1及び第2の足指の亡失(第9級の10)が存する場合は、第8級とする。)
b 1足の足指の欠損障害 他の足の足指の機能障害が存する場合
(例
1 右足の全部の足指の亡失(第8級の10)と左足の全部の足指の用廃(第9級の11)が存する場合は、第7級とする。
2 右足の第1の足指の亡失(第10級の8)と左足の第1及び第2の足指の用廃(第11級の8)が存する場合は、第9級とする。)
c 1足の足指の機能障害と他の足の足指の機能障害が存する場合(両足の足指の全廃を除く。)
(例
1 右足の第1の足指の用廃(第12級の11)と左足の全部の足指の用廃(第9級の11)が存する場合は、第8級とする。
2 右足の第1の足指の用廃(第12級の11)と左足の第1及び第2の足指の用廃(第11級の8)が存する場合は、第10級とする。)
ロ 準用
次に掲げる場合においては、労災則第14条第4項により、準用して等級を定めること。この場合、同一系列の複数の障害について準用等級を定めるにあたっては、併合の方法を用いることとなるが、その結果、等級の序列を乱すこととなる場合は、その等級の直近上位又は直近下位の等級をもって認定すること。
(イ) 下肢の障害
a 同一下肢に2以上の器質的障害が存する場合
(例
1 1下肢の大腿骨に偽関節を残し(第7級の10)、同下肢の脛骨に変形を残した(第12級の8)場合は、第6級とする。
2 1下肢を足関節以上で失い(第5級の3)、同下肢の大腿骨に偽関節を残した(第7級の10)場合は、これらを併合すれば第3級となるが、1下肢をひざ関節以上で失ったもの(第4級の5)には達しないので、第5級とする。)
b 同一下肢に欠損障害と機能障害が存する場合
(例
1 1下肢を足関節以上で失い(第5級の3)、股関節及びひざ関節の用を廃した(第6級の6)場合は、これらを併合すれば、第3級となるが、1下肢をひざ関節以上で失ったもの(第4級の5)には達しないので、第5級とする。
2 1下肢をひざ関節以上で失い(第4級の5)、股関節の用を廃した(第8級の7)場合は、これらを併合すれば、第2級となるが、1下肢の最上位の等級(第4級の5)をこえることとなり、序列を乱すので、第4級とする。
3 1下肢の足関節の用廃(第8級の7)と同時に、同下肢をリスフラン関節以上で失った(第7級の8)場合も、併合すれば第5級となるが、1下肢を足関節以上で失ったもの(第5級の3)には達しないので、第6級とする。)
c 同一下肢の3大関節に機能障害が存する場合(用廃を除く。)
(例
1 1下肢の足関節に単なる機能障害が存し(第12級の7)同下肢のひざ関節に著しい機能障害が存している(第10級の10)場合は、第9級とする。
2 1下肢の股関節及びひざ関節の用を廃し(第6級の6)、同下肢の足関節に著しい機能障害が存している(第10級の10)場合は、これらを併合すれば第5級となるが、1下肢の用を廃したもの(第5級の5)には達しないので、第6級とする。)
なお、1下肢の3大関節のすべての関節の機能に著しい障害を残すものは第8級に、また、1下肢の3大関節のすべての関節の機能に障害を残すものは、第10級に準ずる障害として取り扱うこと。
d 1下肢の3大関節の機能障害と同一下肢の足指の欠損障害又は機能障害がある場合
(例
1 1下肢の足関節に機能障害が存し(第12級の7)、同一下肢の第1の足指の用を廃した(第12級の11)場合は、第11級とする。
2 1下肢の股関節及びひざ関節の用廃(第6級の6)と同一下肢の指の全部の欠損(第8級の10)とが存する場合は、これらを併合すれば、第4級となるが、1下肢の全廃(第5級の5)には達しないので、第6級とする。)
(ロ) 足指の障害
a 足指を基部(足指の付け根)から失った場合は、「足指を失ったもの」に準じて取り扱うこと。
b 1足の足指に、障害等級表上組合せのない欠損障害が存する場合
(例 1足の第2の足指をあわせ3の足指の亡失は、「1足の第1の足指以外の4の足指を失ったもの」(第10級の8)と「1足の第2の足指を含み2の足指を失ったもの」(第12級の8)との中間に位するものであるが、その障害の程度が第10級の8までに達していないから、第11級とする。)
c 1足のある足指の欠損障害と同一足の他指の機能障害が存する場合
(例
1 1足の第1の足指の亡失(第10級の8)と同一足の第2指以下の用廃(第12級の11)が存する場合は、第9級とする。
2 1足の第3の足指の亡失(第13級の9)と同一足の第1の足指の用廃(第12級の11)が存する場合は、第11級とする。
3 1足の第2の足指をあわせ3の足指の用廃は、「1足の第1の足指以外の4の足指の用廃」(第12級の11)と「1足の第2の足指を含む2の足指の用廃」(第13級の10)との中間に位するものではあるが、その障害の程度が第12級の11には達しないので、第13級とする。)
ハ 加重
(イ) 次に掲げる場合においては、労災則第14条第5項により、加重として取り扱うこと。
a 下肢の障害
(a) 下肢に障害を存していた者が、同一系列内において、さらに障害を加重した場合
(例
1 1下肢をリスフラン関節又は足関節以上で失っていた者が、さらに同一下肢を足関節又はひざ関節以上で失った場合
2 1下肢の足関節の著しい障害又はひざ関節の用廃を存していた者が、さらに足関節以上で失った場合
3 1下肢の足関節の単なる機能障害又はひざ関節の用廃を存していた者が、さらに足関節の著しい機能障害又は足関節とひざ関節の用廃を存していた場合
4 1下肢の脛骨に変形を存していた者が、さらに同一下肢の大腿骨に偽関節を存した場合
5 1下肢を1センチメートル以上短縮していた者が、さらに同一下肢を5センチメートル以上短縮した場合)
(b) 下肢に障害を存していた者が、さらに既存の障害の部位以上を失った場合(上記(a)に該当する場合を除く。)
(例
1 1下肢の脛骨に変形を存していた者が、さらに同一下肢をひざ関節以上で失った場合
2 1下肢を1センチメートル以上短縮していた者が、さらに同一下肢を足関節以上で失った場合
3 1下肢の下腿骨に手掌大のケロイド瘢痕を存していた者が、さらに同一下肢をひざ関節以上で失った場合
4 1足の足指の欠損又は機能障害を存していた者が、さらに同一下肢をリスフラン関節以上で失った場合)
b 足指の障害
1足の足指に障害を存していた者が、さらに同一足の同指又は他指に障害を加重した場合
(例 1足の第5の足指の用を廃していた者が、さらに同一足の第1の足指の用を廃した場合)
(ロ) 足指の障害で、次に掲げる場合に該当するときは、労災則第14条第5項の規定にかかわらず、新たな障害のみが生じたものとみなして取り扱うこと(第1の4の(3)のホ参照)。
a 1足の足指に障害を存していた者が、同一足の他指に、新たな障害を加重した場合で、労災則第14条第5項により算定した障害補償の額(日数)が、他指に新たな障害のみが生じたこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないとき
b 1足の複数の足指に障害を存する者が、新たにその一部の足指について障害を加重した場合で、労災則第14条第5項により算定した障害補償の額(日数)が、その一部の足指に新たな障害のみが生じたこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないとき
ただし、加重後の等級が第7級以上(年金)に該当し、新たに加わった障害が単独で生じたこととした場合の等級が第8級以下(一時金)に該当するとき(既存の障害の該当する等級が同等級であるときを除く。)の障害補償の額は労災則第14条第5項によること。
ニ その他
(イ) 次の場合には、いずれか上位の等級によること。
a 骨切除が関節部において行われたために、下肢の短縮と関節機能障害が存した場合
b 長管骨の骨折部位が不正ゆ合した結果、長管骨の変形又は偽関節と下肢の短縮障害が存した場合
c 大腿骨又は下腿骨の骨折部に偽関節又は長管骨の変形が存するとともに、その部位に疼痛(第12級程度)が存した場合
(ロ) 左右両下肢(両足指を含む。)の組合せ等級の取扱い
1下肢に障害を存していた者が、さらに他の下肢に障害を生じ、又は同一下肢の障害の程度を加重するとともに他の下肢にも障害を生じた結果、次に掲げる障害に該当するに至った場合の障害補償の額は、加重の例に準じて算定すること。
a 両下肢をひざ関節以上で失ったもの(第1級の8)
b 両下肢を足関節以上で失ったもの(第2級の4)
c 両足をリスフラン関節以上で失ったもの(第4級の7)
d 両下肢の用を廃したもの(第1級の9)
e 両足指の全部を失ったもの(第5級の6)
f 両足指の全部の用を廃したもの(第7級の11)
別紙1
標準聴力検査法
Ⅰ 純音による聴力損失値の測定
Ⅰ―1 気導聴力検査
定義:純音の気導音による聴力損失値を一側の耳ごとに測定することを目的として行う検査である。ある周波数について、検査耳の最小可聴値とJIS T―1201に規定された基準の最小可聴値との比をデジベルで表したものを聴力損失と呼び、オージオメータではその値が直読できるようになっている。
使用機器:JIS(T1201―1963)診断用オージオメータ、マスキング用雑音発生装置。
測定法およびその注意:
(1) オージオメータはつねに正規の状態で動作するように整備する必要がある。そのためには少くとも年1回の較正がのぞましい。そのほか聴力検査時にはつねに電源電圧が規定の範囲内にあるよう監視するとともに、受話器から正しく音が出ていることをたしかめることを忘れてはならない。
(2) 測定は原則として防音室内で行う。騒音が30ホン以下の場所では測定値に対する影響はほとんどないが、それ以上の騒音があると測定値に悪影響があらわれる。
(3) 気導受話器は両耳用ヘッドバンド(圧抵圧500g以上)を用い、検査耳の外耳道入口部に正しくあてるようにし、耳あて部の周囲にはできるだけすき間がないよう耳介を圧抵するかたちで装着することが望ましい。受話器が1個の機器では対側に受話器型ダミーを用いる。
(4) 検査は、1000Hzより始め、順を追って2000Hz、4000Hz、8000Hzにすすむ。8000Hzが終ると再び1000Hzを測定し、そのあと順を追って500Hz、250Hz、125Hzを測定する。
1000Hzは2回測定することになるが、おのおのの測定値の差が5dB以内なら測定値が信頼できるものとみなして、2回の値のうち低い方の値をとる。その差が10dB以上の場合は測定結果が不確実であったとみなして、もう一度くり返して検査をする必要がある。ただし2000Hzで差が5dB以内なら他の周波数は測定しなくてよい。
(5) 最小可聴域値の測定は上昇法による。検査音をきかせる時間は各ステップごとに1~2秒が適当である。
検査音をまず被検者に十分きこえる強さできかせたあと、被検者が全くききとれないレベルまで検査音を弱める。そこから5dBずつ音を強くしてゆき、はじめて音を被検者が確実にきこえた最小のレベルをその回の測定値とする。そのあとさらに音を15~20dB強くして検査音を被検者にはっきりと確認させる。ついで検査音を急速に域値下まで弱める。この操作を2回くり返して測定値が同じ値であったら、これをその回の聴力損失値として記録し、つぎの周波数の測定にうつる。1回目と2回目の値が5dB以上の差があったときはもう一度同じ操作を行い、それで得た値が少し前のどちらかの値と等しければその値をとる。3回とも値が異なったら、さらに同じ操作をくり返し、検査の回数の過半数で同じ値を得るまで行う。
検査音を断続するには、連続音を手動断続器を用いて断続する方法以外に、自動断続器によって断続することもできるが、断続回数は2Hz程度が適当である。自動断続音を用いる場合、1つのステップごとにきかせる時間はやや長くした方がよい。
(6) 気導聴力検査の際のマスキング
1) 被検耳の気導聴力損失測定値が40dBをこえるときには、反対側耳のマスキングを考慮しなければならない。
2) マスキングを行うときには、検査音として断続音を用いることが望ましい。マスキングしたときと、マスキングしないときの測定値の差が5dB以内のときは、マスキングしないときの値を採用する。
3) マスキング用雑音の強さは、交叉聴取を防ぐのに充分な強さを有し、かつ、強すぎてオーバー・マスキングにならない範囲の強さにする必要がある。
きこえの良い方の耳が正常もしくは感音(性)難聴耳であるときにはオージオメータ・レベル40dBで充分であるが、きこえのよい方の耳に伝音障害があるときは、40dBでは不充分なことが少なくないので、きこえのよい方の耳の気導聴力域値の差を考慮して、マスキング用雑音の強さを必要なだけ強くする。
4) マスキングを行なった場合には、オージオグラムに雑音の種類、強さを付記しておくことが望ましい。
(注
1) 気導検査音の両耳間移行減衰量は、標準型受話器を使用したときは50dB以上とみなされるが、臨床検査では測定誤差を比較的大きく考慮する必要があるので、気導聴力損失値の差が40dB以上あれば交叉聴取を考慮する必要がある。しかし、きこえの良い方の耳に伝音障害があると、気導聴力が低下していても、骨導聴力は気導聴力と同程度低下することなく、両耳の気導聴力損失値の差が40dB以内であってもマスキングを必要とする場合が生じる。従って、被検耳の気導聴力損失値が40dBをこえるときには、きこえの良い方の耳の気導聴力損失値のいかんにかかわらず、原則としてきこえの良い方の耳をマスキングする。ただし、きこえの良い方の耳に伝音障害がない場合には、両耳の気導聴力損失値の差が40dB未満のときにはマスキングの必要はない。
2) マスキング用雑音をきかせると、雑音の強さが、オーバー・マスキングにならない強さであっても、反対側耳の聴力損失測定値に影響することがある。そのためマスキングしたとき、マスキングしないときの値の差が5dB以内のときはマスキングしないときの値をとることにした。
検査音として通常の連続音を用いるよりも、断続音を用いた方が、反対側にきかせている雑音の影響を受けにくいことが知られている。自動断続装置のないオージオメータでは、手動の断続器を使ってもよい。しかし、オージオメータの出力ダイヤルを動かして音の強さを変化させ、断続音の代用にする方法はクリックを発することが多いので望ましくない。
3) 広帯域雑音を使用するときは、マスキング効果が各検査周波数に対して一様ではないから注意する必要がある。ことに500Hz以下ではマスキング効果(正常の耳に対する)が雑音出力目盛りの値よりかなり小さいことが多い。
必要にして充分なマスキング用雑音の強さは、雑音の出力目盛りと周波数別マスキング効果(正常耳に対する)の関係を示す表を予め作製しておけば、その表を基にして、マスキングする耳の気導の骨導域値検査音のレベルから算定可能なことが多い。しかし、両耳とも高度の難聴で、かつ、きこえの良い方の耳に伝音障害がある場合など、症例によっては適正なマスキングが困難あるいは不能なこともある。
マスキング用雑音が適正で正しい検査が行われたか否か疑わしいときは、マスキング用雑音の強さを±10dB以上増減し、測定値の変動が5dB以内にとどまるか否かチェックする。測定値の変動が10dB以上のときはマスキング不足であることが多い(ときにはオーバー・マスキングのこともある。)。)
Ⅰ―2 自動記録装置を用いた域値検査
定義:押しボタンスイッチの操作により、あらかじめ設定されたプログラムにより出力変化の検査音の出力が増強、減弱する装置を用い、聴力損失値の測定を調整法を加味した極限法により行う方法で、固定周波数方式と連続周波数方式がある。
域値曲線の時間的推移、持続検査音による記録と自動断続検査音による記録の比較、鋸歯状曲線の振巾等によって感音難聴の検査法としても利用されることがある。
使用機器:JIS診断用オージオメータ、出力音圧自動調整装置およびそれに連動した記録計。
方法および測定上の注意:
(1) 測定環境、測定周波数、受話器の装置、非検査耳のマスキングはⅠ―1、Ⅱ―1、Ⅰ―1―(6)に準ずる。
(2) 出力変化の速度は毎秒2ないし2.5dBとする。
(3) 調整法が加味された検査であるため、検査に先立って、検査の方法、応答の具体的方法の説明および予備測定は、通常の純音最小可聴(域)値測定の場合よりも慎重に行う必要がある。
(4) 測定周波数の順序はⅠ―1―(4)による方法以外、低音→高音の方法を用いてもよい。
(5) 検査をはじめる検査音の強さは域値以下、域値以上の2つの方法があるが、固定周波数方式を手動(周波数切換え)で行なう場合でⅠ―1、Ⅱ―1による固定周波数方式の場合には最初にきかせる検査音の域値下から聴取させはじめる。
(6) 聴力損失の判定には鋸歯状波の下降から上昇に転ずる屈折点を用いる(Ⅰ―1、Ⅱ―1で上昇法をとっているため)。
固定周波数方式の場合、1検査周波数あたり4個以上の屈折点(上記)が得られるまで検査を続ける。(域値の時間的推移をみるためには1周波数あたり1分間以上とする必要がある。)
(注
(イ) 本法は調整法が加味された検査であるため、Ⅰ―1の検査が円滑に行われ難い被検者を対象とした場合は測定不能なことが少なくない。
(ロ) 検査音を持続音とし、減衰器のステップを細かくすると測定不能例、あるいは判定不能例が増加することが多い。
(ハ) 鋸歯状波曲線の振巾が異常に大きい場合、屈折点(上記)のバラツキがはなはだしい場合には、Ⅰ―1により聴力損失値を再検査する必要がある。
(ニ) 鋸歯状波の振巾を診断に利用する場合には、減衰器のステップ、出力変化の速度を考慮して判定する必要があるので注意を要する。)
Ⅱ―1 骨導聴力検査
定義:骨導受話器を用いて、純音の骨導による聴力損失値を測定する検査である。
使用機器:
(1) JIS(T1201―1963)診断用オージオメータ
(2) マスキング用雑音発生装置
方法及び測定上の注意:
(1) 測定は防音室内で行う。骨導の測定は気導の測定に比し環境騒音にとくに影響され易い。したがって骨導の測定は測定値に影響をあたえないような場所で行う必要がある。
(2) 骨導受話器を耳介の後の乳様突起または前額正中に一定の圧力で正しく装着する。この場合、毛髪や耳介が妨害しないように注意する。
(3) 骨導聴力の基準値は、それぞれのオージオメータについて正常耳*11耳以上の骨導聴力損失目盛の値をもとめ、その中央値を0dB(基準値)**とする。
(* 伝音障害がなく、500Hz以下の周波数の気導聴力が正常な感音難聴耳を用いて骨導聴力損失値を測定して、気導聴力損失値によって補正してもよい。
** オージオメーターの骨導聴力の0dBの基準値は、現状では物理的に校正規定することができないので、上記の手順でそれぞれのオージオメータについて決めなければならない。オージオメータには骨導値の読みは一応メーカーでダイヤルに目盛ってあるが、これは仮のものであるから上記の手順で得られた値に補正して用いる。骨導受話器を交換した場合にも同様の補正が必要である。)
(4) 骨導聴力検査では検査しない側の耳を必ずマスキングしなければならない。(マスキングの詳細についてはⅡ―4、骨導聴力測定の際のマスキング法の解説の項を参照のこと。)
(5) 6000Hz、8000Hzは測定しなくてもよい。また、その他の周波数でも気導聴力が両側とも正常な場合は骨導聴力を検査しなくてもよい。
(6) 測定方法は気導聴力検査に準じて行う。
(7) 250、500Hzの検査音は振動感と誤らぬように注意する。
Ⅱ―2 骨導聴力検査の際のマスキング
(1) 骨導聴力測定の際は非検査耳に若干の例外を除き、必ずマスキングを行う。
(2) あらかじめマスキングなしの骨導聴力を(乳様突起に骨導受話器を装着するときは、少なくとも一側について)測定する。この測定値(または良聴耳側の測定値)をマスキングする耳の骨導聴力と仮定する。
(3) 40dB実効レベル(非検査耳の気導聴力損失値+40dB実効オージオメータ・レベル)の雑音で非検査耳をマスキングしながら骨導聴力を測定する。この時の測定値が(2)の測定値に比して10dB内の変動ならば、その測定値は(骨導)検査耳のものである。真の骨導聴力損失値は、この測定値から中枢性マスキングによる域値損失分、数dBを差引いた値である。また、雑音の実効ヒヤリングレベルは(2)のマスキングなしの骨導聴力損失値とノイズ受話器の両耳間移行減衰量の代数和をこえてはならない(オーバーマスキングが考えられる)。伝音難聴が高度になると40dB以下の実効レベルでもこの限界を越える場合が多くなる。そのような場合はマスキング不可能。したがってこの方法では1側ごとの骨導聴力を明らかにすることはできない。
(4) (3)のとき15dB以上の測定値の変動が起これば、変動分に等しいdB値だけ雑音レベルを増大し、測定値の変動が5dB以内にとどまる雑音レベルに到達するまで繰り返し測定を行う(チェンジングオーバーポイントまたはプラトーを見出す。)。この場合にも気導聴力損失値が両耳間移行減衰量に近ずくとプラトーが存在しない場合がある(その他、気導聴力測定の際のマスキング法参照のこと。)。
(注 (1)、(2)、骨導受話器を乳様突起に装着した場合、反対耳への減衰量は5~10dB程度である(前額正中部に装着したときはもちろん0dBである)。低音では、両耳間移行減衰量が負になる場合があり、さらに患者の受聴耳の指示は必ずしも正しくない。したがって、1側ごとの骨導聴力はマスキングが正しく行われたときにはじめて明らかになる。
(3) 40dB実効レベルによるマスキングは、(2)での測定値が検耳のものかどうかを確認することを目的としている。したがって雑音のレベルは絶対に(2)の測定値に対してオーバーマスキングになってはならない。40dB実効レベルの雑音による骨導域値に対するマスキング効果は40dBから雑音受話器の閉鎖効果(標準型受話器の場合250、500Hzで約20dB、1kHzで約5dB)だけ小さい。したがって約20dBのマスキング効果が期待できるから(3)の10dB以内の変動は検査耳の反応と考えてよい。40dB実効レベルは現実的な妥協的な数値に過ぎない。このほかにも違った見方を根拠にいろいろのレベルを考えることができる。いずれにせよ実効レベルを考えることによって全くマスキング効果のない雑音レベルから雑音漸増法を行う無駄を避けることができる。
(4) 10dB以下測定値が増大したことは、検査耳にこの増大分以上の感音性難聴のあることを意味するので、雑音の実効オージオメータレベルが正常耳の両耳間移行減衰量を、この増大分だけ超過してもオーバーマスキングにはならない。)
Ⅱ―3 その他の骨導聴力検査
○検査音を被検耳に気導音として聴取させる骨導聴力検査法
A 唸りの現象を利用した方法
使用機器:JIS診断用オージオメータ、可聴周波数発振器、ミクサ
検査法:
1) 発振器からの純音(検査音と2~3Hz周波数が異なるようにする)を気導最小可聴値上5dBに固定してきかせながら、オージオメータからの検査音をミクサにより同一受話器からきかせる。オージオメータからの検査音を域値下30dBより5dB段階で増強し、唸りのきこえ始めるレベルを指摘させる(そのレベルを域値下((A))dBとする)。
2) 発振器からの気導音を固定したままオージオメータから骨導音(純音)を5dB段階で増強しながらきかせ、唸りのきこえ始めるレベルを指摘させる((B))。
骨導聴力損失値=((B))-((A))とする。
(注
1) 500Hz以下では両耳性唸りの現象があるため、両耳の骨導聴力に20dB以上差があるときは骨導不良聴耳の測定が不能なことがある。
2) 本検査に先立ち周波数が2~3Hz異なった2つの純音をミクサにより同一受話器からきかせ、唸りの感じを認識させ、唸りがきこえ始める点を合図するように練習させる。
3) 気導受話器による外耳道閉鎖効果のため1000Hz以下で伝音障害のない耳では骨導聴力が実際よりよく出る。これを避けるためには外耳道閉鎖効果がおこらない容量の大きな受話器を使用する。)
B 骨導ノイズ法
検査音を被検耳にあてた気導受信器から気導音としてきかせ、前頭部にあてた骨導受話器からきかせる雑音(以下単に骨導雑音と呼ぶ。)によって検査音を遮蔽して、骨導聴力を測定する。
ΔFournier―Ranville法
使用機器:JIS診断用オージオメータ、ミクサ、気・骨導雑音発生装置
1) 断続音で気導聴力損失値を測定(AdBとする。)。
2) AdBの断続音と雑音をミクサにより同一気導受話器より同時にきかせ、気導音がきこえなくなり始める雑音レベルを求める(この雑音レベルを正常耳の域値上BdBとする。)。
3) AdBの断続気導音と骨導雑音を同時にきかせ、気導音がきこえなくなりはじめる骨導雑音のレベルを求める(求めた骨導雑音のレベルを正常耳の域値上CdBとする。)。
骨導聴力損失値=C+(A-B)
ΔM―R test
検査法:F―R法の第2段2)を省略、あらかじめ3)のCの正常値を求めておく(C′dB)
骨導聴力損失値=C-C′
備考:気導聴力損失値AdBのときAdBの気導音を遮蔽させるよりも、A+5dBの気導音を遮蔽させた方が測定誤差が少ない。
ΔSAL test(sensorineural acuity level test)
F―R法、M―R法と異なり、既知のマスキング効果を有する骨導雑音により被検耳にみられる気導測定値の変動から骨導聴力を判定する方法である。
検査法:
i) 予め一定レベルの骨導雑音による、気導聴力に対するマスキング効果を正常耳について求めておく(ZdB)
ii) 気導聴力損失(AdB)の被検耳について(正常耳におけるマスキング量が既知の)骨導、雑音聴取下で気導検査音がきこえはじめる最小のレベルを求める(A′dB)。
SALの測定値=Z-(A′-A)(骨導聴力損失値)
骨導雑音法実施上の注意事項:
i) 気導検査法はⅠ―1―(5)に記載されている断続音を用いる。
ii) F―R法の第2段階を省略したM―R test、SAL testでは、雑音による遮蔽効果が異常に大きくなる症例では骨導聴力損失値が過少となり、また心理的要因で、測定誤差が大きくなる傾向がある。
iii) 気導受話器による外耳道閉鎖効果のため、伝音難聴耳では1000Hz以下で骨導聴力損失値として大きな値が得られる。これを避けるためには外耳道閉鎖効果が起こらない気導受話器を使用して骨導雑音の実効レベルを求める。
付記:オージオグラムの記載法
(1) オージオグラム用紙の型式は、横軸に周波数を対数直線目盛でとり、縦軸に聴力損失をdB目盛で表示する。さらにオクターブの間隔は、20dBの間隔と等しくする。
(2) 聴力損失値の記入法は気導聴力では右耳を○記号、左耳を×記号であらわし、これを線で結ぶ。スケールアウトの場合は、画像1 (1KB)
または画像2 (1KB)
であらわし、測定した最大出力のところに横にずらして記入し、隣の周波数の域値記号とは線で結ばない。骨導聴力では右耳が画像3 (1KB)
記号、左耳が画像4 (1KB)
記号で示し、線で結ばない。スケールアウトの場合は画像5 (1KB)
または画像6 (1KB)
とあらわす(スケールアウトとは、オージオメータの出しうる最大のレベルできこえない場合をいう。)。
Ⅱ―4 骨導聴力測定の際のマスキング法の解説
はじめに:聴力検査における実際的なマスキング法が現在まで幾つか提案されてきた。これらの方法はいずれもクリティカルバンド・マスキング、両耳間移行減衰量、閉鎖効果、中枢性マスキングなどの諸現象に関する知識を両耳を機能的に分離するという目的のために系統的に構成したものである。その際、現象的法則の簡略化は避けられないがその程度の差および強調点の差が主として具体的なマスキング法のちがいとなってあらわれたのである。したがって特定のマスキング法を理解し、それが正しいか否か、さらに個々の事例に適用できるかどうかを判断するには、上に述べた諸現象の定量的な理解とその運用が必要である。もしこの理解が不十分であると、たとえマスキング法の手順を逐一守ったとしても、個々の検査の場合に誤まりを犯すことは避けられないであろう。
(1) 雑音実効レベル、実効オージオメータレベルとマスキング効果
聴力検査におけるマスキングの目的は、雑音を負荷することによって、非検査耳の域値をあらかじめ予定したところまで上昇させ、検査しようとする耳からだけの反応が得られるようにすることである。この目的のために検査者のできることはオージオメータに付属している雑音減衰器を操作して任意の雑音レベル(強さ)にすることだけである。狭・広帯域切替えの雑音をもつオージオメータの場合でも周波数と帯域幅は検査周波数と連動するが、固定的であるから事情は同じである。いうまでもなく雑音減衰器のdB値はマスキング効果をそのまま表わすものではないから(そのような特殊な場合は後述する。)、雑音のレベルと周波数別のマスキング効果の関係、およびこれらの関係に影響する要因を定量的に知っておくことが不可欠である。
聴力検査に用いられるマスキング用雑音は普通は連続スペクトル(雑音の周波数成分が1Hzごとにぎっしりつまっている。)であり、ある限られた周波数帯域幅では1Hzごとの周波数成分がみな同じ強さ*になっている(この帯域幅が可聴周波数全域にわたっている場合をホワイト雑音という。)。雑音の強さを考える際に全体としての強さ(over―all level)と個々の周波数成分の強さ(spectrum level)(バンド幅1Hz当りのSPLの方がよいという意見もある。)を明確に区別しておく必要がある。純音に対する雑音のマスキング効果はこの両者が独特な仕方で関係するからである。すなわち有名なクリティカル・バンドの概念がそれである。
純音をマスクするには純音の周波数を中心とした限られた帯域幅の雑音成分だけが有効である。この周波数に固有な帯域幅をクリティカル・バンド(C.B.)という。C.B.以下の狭帯域幅の雑音の場合には、雑音の全体としての強さ(スペクトルレベル×帯域幅)をその個人の域値上のdB値で表わした値―(雑音)の実効(マスキング)レベル―とその雑音によって起こるマスキング量(遮蔽域値と絶対域値のdB差)は等しいという関係式が成立する。言いかえればC.B.に入る全部の雑音成分がマスキングに有効である。
C.B.以上の広帯域幅の雑音の場合はC.B.の中に入ってマスキングに有効な成分と、C.B.の外にあってマスキングに無効な雑音成分に分けて考えねばならない。すなわち、スペクトルを増大して雑音の強さを大きくすればマスキング量はその増大分に等しく増える(マスキングの直線性)が、雑音の帯域幅をC.B.以上に広げることによって雑音の強さを大きくしてもマスキング量は増えない。具体的に言えば、雑音がどれほど大きいラウドネスで聞こえていても問題の検査音の実効レベルが0dB以下の場合(雑音が受話器の周波数特性のためにカットされているとか聴力損失が大きいなどのため)、マスキング効果は全くないことを銘記しておかねばならない。広帯域雑音の場合、帯域幅の効果を相殺するため雑音の強さをスペクトルレベルで表わし、これとマスキングとの関係を求めると、マスクされた音の強さ(SPL)とスペクトルレベル(SPL)のdB差は音の周波数だけに固有な値になる。この固有な値がC.B.に一致することはいうまでもないであろう。
以上のことを具体的な数値例について説明しよう。100~8000Hz(この帯域幅をdBで表わせば10log-(8000-100)=39dB)の白色雑音のover allのSPLが68dB(これは平常耳の感覚レベルで約60dB)の場合1000Hzに対するマスキング効果を求めてみる。1000HzにおけるC.B.は約60Hz(約18dB)である。一方この雑音のスペクトルレベル(SPL)は29dB(68-39)でC.B.に入る雑音の強さは47dB SPL(29+18)になる。1000Hzにおける聴力損失が0dBの耳を考えると、1000Hzを中心とする雑音の実効レベルは30dB-17dB)(JISの0dBは17dB SPL)に等しい。であるから、前述の関係式によって域値は実効レベル30dB上昇(マスキング量)して30dB聴力損失レベルになる。これをSPLで表わせば47dB(30+17)である。聴力損失10dBの耳の場合、実効レベルは20dB(47dB-17dB-10dB)、したがって域値は10dBから20dB上昇して30dB聴力損失レベル(47dB SPL)になる。
この例でもわかるように実効レベル(客観的に同じ強さでも個人の域値に応じて変る。)とマスキング量が等しいということと、遮蔽域値における音の強さと雑音のスペクトルレベルの比(SN比、上の例では18dB=49-31)が一定であるということとは同一事実の異なった表現に過ぎない。**聴力検査の場合のように(何らかの形で)既知の雑音レベルから、その雑音による遮蔽域値のレベルを知ろうとする目的のためにはSN比が一定であり、しかもこのことが域値の個人差と無関係であるという表現の方が応用しやすいことは明らかであろう。聴力損失値0dB(JIS T1201の基準の最小可聴値)を基準とした雑音のC.B.レベルを実効オージオメータレベルと呼ぶことにする(実効レベルと違って客観的なレベルである点に注意。特定の個人の実効レベルは実効オージオメータレベルからその周波数の聴力損失値を引いた値になる。)。雑音の実効オージオメータレベルが判れば、その雑音による遮蔽域値は聴力損失値としてただちに予測することが可能となる。オージオメータの使用を前提とするマスキングにおいては、ここに最後に到達した実効オージオメータレベルと遮蔽域値の聴力損失値が数値的に等しいというマスキング効果の法則がいかに簡単でしかも包括的であるかということに疑問の余地はないであろう。
病的な聴力損失(ただし後迷路難聴を除く。)の場合にもこの法則があてはまるか。正常、病的いずれの場合もマスキング効果が10dB以上すなわち10dB実効レベル以上の雑音の範囲で適用することができる。また難聴の性質に関係なく実用的に妥当するものと考えてよい(後迷路難聴以外の各種の難聴の場合にもC.B.の値が正常耳とほぼ同じであることから)。ただしこの法則は同一耳に与えられた気導雑音が気導純音をマスクする場合または骨導雑音対骨導純音の場合に限られる。骨導聴力検査のマスキングの場合のように骨導音と気導音によって遮蔽しようとするときには実効レベルの基準(したがって検査周波数の域値)を内耳におけるレベルに修正しなければならない。すなわち気導雑音の内耳における実効レベルは伝音系の損失分だけ小さくなり、この小さく修正された実効レベルに等しい量だけ骨導域値(ほぼ伝音損失と無関係な)が上昇する。したがって骨導の遮蔽域値は気導骨導域値差分だけ雑音の実効オージオメータレベルよりも小さくなる。いうまでもなく内耳性難聴の場合には骨導域値は気導実効オージオメータレベルに一致する。実際の測定の場合では骨導域値に影響する雑音受話器の閉鎖効果などをさらに補正しなければならない。
(* 均等な強さでなく、何らかの周波数特性を加重した特殊な雑音もある。
** 厳密にいえば、実効レベルがマスキング量に等しいということは遮蔽域値のSN比が一定という現象的事実を説明するために考えられた仮説である。実際に狭帯域雑音を用いて測定すると、C.B.の帯域幅はSN比から計算した値より広い(約4dB)。最近では従来から言われてきた(本文でも今まで述べてきた)C.B.を事実に忠実にcritical ratioと呼び狭帯域雑音など実験的に得られた帯域幅の方をC.B.という。)
(2) オージオメータのマスキング用雑音の出力を実効オージオメータレベルに換算する方法
オージオメータのマスキング用雑音の出力ダイヤルが全周波数とも実効オージオメータレベルで目盛られているか、またはダイヤル目盛を周波数別に実効オージオメータレベルに換算する図表のようなものが用意してあれば、マスキングはかなり容易にそして正しく行われるようになることは想像にかたくない。わが国の現状では雑音用のダイヤルは、dB目盛になっているが、その0dBの基準は必ずしも明瞭でない(特に古い機種において)。また雑音の種類も白色、ピンク、帯域の各雑音、鋸歯状波パルス、混合型と多い。聴力検査を行う者は自己の使用するオージオメータの雑音がどの種類か知っておかねばならない。マスキング効果についても実効オージオメータレベルまたは聴力の明らかな耳についての実効レベルに関するデータがない場合は数名の正常耳について実測しなくてはならない。
測定にあたっては、まず、雑音と検査音を混合(混合できないオージオメータではミクサを用意する。)して一つの気導受話器(動電型標準品)に入れる。雑音のレベル数点について、その雑音中での域値を求め聴力損失値であらわす(マスキング量ではない点を注意せよ。)。遮蔽聴力損失値を雑音のdB値の関数としてグラフにし聴力損失値20dB以上の直線部分を外挿して0dB聴力損失の線と交叉する雑音のdB値を求める。ここの点がこの周波数における0dB実効オージオメータレベルである。ミクサによる使用状態での出力の低下(ミクサ損失)を検査音と雑音のそれぞれについて確認し、その分を上に述べたグラフの目盛に補正し、正しい0dB実効オージオメータレベルを求める(ミクサを付属しているオージオメータでも同じである。)。なぜなら、聴力検査のマスキングでは雑音と検査音は別々の受話器に送られミクサ損失のような伝送損失を含まないからである。0dB実効オージオメータレベルにあたる雑音の出力目盛のdB値を周波数別に表に貼布しておくと便利であろう。
最近の精密級のオージオメータでは白色雑音(標準動電型受話器を雑音受話器として)の場合の0dBをSPLの0dBにする傾向がみられる。この場合実効オージオメータレベルは前に述べたように算出できる。
|
250Hz |
500Hz |
1kHz |
2kHz |
4kHz |
C.B.(dB) |
17 |
17 |
18 |
20 |
23 |
0dBのときC.B.level(SPL) |
-22 |
-22 |
-21 |
-19 |
-16 |
JIS 0dB (SPL) |
40 |
25 |
17 |
16 |
15 |
実効オージオメータレベル0dBになる目盛 |
62 |
47 |
38 |
35 |
31 |
帯域雑音を装備しているオージオメータでは、雑音の帯域中心周波数は周波数ダイヤルによって検査周波数と一致して切替えられるようになっているが、帯域幅がC.B.(前節で述べた近代的な広い方の)以下でかつ0dBの基準も周波数ダイヤルによって自動的に0dB聴力損失値に切替えられるような製品が普及してきた。すなわち実効オージオメータレベル(メーカーでは実効マスキングレベルなどと呼んでいるが正確な表現でない。)で目盛られている。帯域雑音であっても古い機種ではdB目盛が実効オージオメータレベルになっていないから、そのときはマスキング効果を実測しなければならない。
最新の実効オージオメータレベル雑音や0dB SPLの白色雑音を装備したオージオメータでも、指定以外の雑音受話器を用いれば、マスキング効果が受話器の感度や特性に制約されるので実効オージオメータレベルや音圧レベルで表示された白色雑音として使用できないことはいうまでもないであろう。
(3) 雑音受話器の両耳間移行減衰量
オーバーマスキングの原因となる雑音受話器の両耳間移行量(気導受話器としてはシャドーヒヤリングを起こす。)は受話器の種類、形状、周波数によって変化する。両耳を標準動電型受話器で覆った場合の両耳間移行減衰量はおよそ次のようである。
Hz |
250 |
500 |
1K |
2K |
4K |
両耳間移行減衰量(dB) |
45 |
50 |
55 |
60 |
65 |
両耳間移行減衰量は上の条件のほかにも、クロスヒヤリングを受ける耳の条件によっても変化する。この表の値は両耳に受話器を装着した状態で前額部に骨導受話器をあてた場合に適用される。骨導検査耳を開放すれば両耳間減衰量は特に低音でこの表の値より大きくなる。耳栓式の受話器はさらに一段と大きくなる。骨導聴力測定を大きく制約するオーバーマスキングは雑音受話器の両耳間移行減衰量で規定せられ、この両耳間移行の経路は骨導である。したがって雑音の実効レベル(すなわちマスキング効果)は遮蔽耳の気導聴力損失値の増大とともに小さくなるが、一方負荷できる最大雑音レベルは気導聴力とは関係なく検査耳の骨導域値によって決まる。両耳間移行減衰量より大きい実効オージオメータレベルの雑音を用いねばならない場合は特に注意を要する。
Ⅱ 語音による聴力検査
1 語音聴取域値検査
定義:語音によって語音聴取域を測定する検査である。了解度の高い特定語音の50%正答率が得られるレベルを求める。
使用機器:語音再生装置、(JISまたはJISに準ずる)出力調整装置、JIS T1201に準ずる気導イヤホン、57式語表レコードまたは67式語表テープ、マスキング用雑音発生装置。
(注 検査用語はあらかじめレコードあるいは磁気録音テープに録音された語音を語音再生装置を用いて発生させる方法と、マイクロホンを用いて一定のレベルで発声された生の語音をオージオメータに送って用いる方法がある。そのいずれの方法をとったかは明記しておく必要がある。
テープレコーダを使用する場合には次の項目をチェックする必要がある。
① トーンコントロールはmax,minは避けて中点にセットする。
② テープに録音されている較正用1000Hz純音信号が大幅に波打ったり音が飛んだりしないことを確かめる。
③ ヘッドの汚れに注意し適切な処置をとる。)
測定法およびその注意:
(1) 録音された較正用1000Hzの出力をオージオメータまたはこれに準じた出力調整装置のVUメータの0dBに合うように調整する。
(2) 検査の条件は純音気導聴力検査に準じて行う。語音検査のレベル60dB以上の語音をきかせる場合は、非検査耳のマスキングを考慮する必要がある。マスキング用雑音は少なくとも250~4000Hzまでの広帯域雑音を用い、そのレベルは純音気導聴力検査に準ずる。
(3) 検査用語音は一桁数字のうち「ニ」、「サン」、「ヨン」、「ゴ」、「ロク」、「ナナ」の6個を用いる。
(注 語音聴取域値検査の目的にはできるだけ了解しやすい有意の単語を用いるのがよい。日本オージオロジー学会では検討の結果、一桁数字がこの目的に最も適しているのでこれを採用し、「57式語表レコード」および「67式語表テープ」に一定のレベルで録音されている。語音聴取域値測定用語表の一例(57式語表)
4,2,7,3,5,7,
5,3,2,6,2,3,
7,4,6,7,3,6,
2,6,5,4,7,5,
6,7,3,5,4,4,
3,5,4,2,6,2,)
(4) 検査用語音は域値上の充分きこえる強さからきかせはじめ、下降法で6個きかせる。同じことを6回くり返し、その中で50%了解できたレベルを求めこれを語音聴取域値とする。
(注 まず充分にきこえる音の強さ、たとえば500Hz、1000Hz、2000Hz平均聴力損失値のレベルより15~20dB強いレベルで最初の数字をきかせ、1語につき5~10dBずつ音の強さを弱めてゆく。数字は次第にきこえにくくなり、ついにきこえなくなる。この方法を各行について行うが、最初にきかせる音の強さや、つぎつぎと弱めてゆく音の強さは同じでなければならない。被検者はきこえた通りの数字を録音されている指示に従って「数字のきこえ方検査用紙」に横に記入する。このようにして6個の数字を6回きかせると、検査用紙に記録された6行の縦の列はすべて同じレベルできかされた数字が記録されていることになる。これらのいろいろなレベルできかされた時の正答率を語音オージオグラムに記入し各点を結んでその線が50%横軸と交叉するレベルを5dBステップで求める。)
2 語音弁別検査
定義:語音をきかせて被検者がどのくらいききわけられるかを検査し、被検者の言語の受聴能力について判定の資料を得るための検査である。
使用機器:(1) 測定装置および検査の条件は語音聴取域値検査に準ずる。
方法および測定上の注意:(2) 検査用語音は単音節を用いる。
(注 用いる語音の種類によって結果は異なるので、わが国では無意単音節の特定の語音をえらんで検査用語とされている。検査用語表としては日本オージオロジー学会では「57式語音表」(50語音構成)と「67式語音表」(20語音構成)を採用することにし、前者はレコード、後者はテープに録音されたものを作成し、一般に提供している。検査結果は検査語音の種類、発声者、録音状態によって異なるので検査結果にはこれらの項目を明記する必要がある。
語音弁別検査用語表の例
57式語表
ガデワコクニテトカナ
マノオタシイスキサウ
ラモルアツリダヨチハ
ミムフヒメシバロセケ
ドネヤソエレゴホユズ
67式語表
アキシタニヨジウクス
ネハリバオテモワトガ
1つのレベルできかせる語音の数は多い方が検査結果のばらつきが少なくなる。実験結果では語音の数が50以上になると、それ以上用いた場合と差はなくなり、40以下では少しずつばらつきが大きくなる傾向がある。10以下になると急激にばらつきが大きくなり検査の目的には不適当となるが、現在のところ57式、67式語表のどちらを使ってもよい。一つの語表の一部のみを使ってはいけない。)
(3) 検査は原則として被検者にきこえた通り検査用紙に記入させる。被検者が自分で記入できない場合は、きこえたままを復唱させ、検者または介助者がかわって記入する。
(4) 検査は充分なレベルからはじめ、一つの表を検査するあいだ検査音の強さを変えない。一つの表が終れば音の強さを10~20dB変えて次の語音表で検査する。このようにしていろいろなレベルで検査をおこない、それぞれのレベルごとに正答率(%)を求め、これを語音明瞭度としてスピーチオージオグラムに記入する。
(注 普通は最初語音聴取域値あるいは純音気導聴力検査による500、1000、2000Hzの域値の平均値から40dB大きい音から検査をはじめる。一般には4~5つの異なったレベルで検査を行い、それぞれの明瞭度を語音オージオグラムの上で結び、語音明瞭度曲線を作成する。一つの曲線で最も明瞭度の高い値を最高明瞭度または語音弁別能という。)
付記:スピーチオージオグラムの記載法
(1) スピーチオージオグラムの用紙の形式は、横軸に語音検査のレベルをdB目盛で表示し、縦軸には語音明瞭度を%で示す。さらに10dBの間隔と15%の間隔を等しくする。
(2) 語音検査のレベルの0dB基準値は1000Hz純音のJIS規格による気導検査の0dBの値と等しくする。
(3) 各レベルにおける明瞭度測定値は右耳は○記号、左耳は×記号で記入する。語音弁別検査ではそれぞれの測定値を実線で結び、語音聴取域値検査では測定値を破線で結ぶ。
(4) 100%から最高明瞭度の値を引いた値を語音弁別損失とよぶ。
Ⅲ 選別聴力検査
定義:身体検査などで集団の中から難聴耳を発見、選別する目的で行なう検査である。学童難聴、職業性難聴、薬物中毒難聴などを対象としておこなわれる。
方法および測定上の注意:
(1) 検査音の周波数と強さは、それぞれの目的によって異なり、
(a) 学童難聴選別の場合は学校保健法の規定にあるように、1000Hzおよび4000Hzの2周波数で、それぞれ20dBオージオメータレベルの強さの音を用いて行う。
(b) 職業性難聴選別の場合は通常4000Hzを用い、強さについては適当な基準を定めて行う。
(c) ストマイ難聴選別の場合は通常8000Hzを用い、適当な選別基準を定めて行う。
(2) 検査は少なくとも用いる検査音の強さより5dB弱い音が正常耳に確実にきこえる場所をえらんで行う必要がある。
(3) 選別用検査音を所定の強さで気導受話器より出してきかせ、その音がきこえるか、きこえないかを判定する。この場合断続器を用いて検査音を断続してきかせる。
(4) 選別用検査音がきこえないものは不合格として、さらにくわしく聴力検査を行う。
別紙2
関節運動可動域の測定要領
1 労災保険における関節運動可動域の測定
各関節の運動機能の障害にあっては、その認定方法として、障害の存する関節の運動可能領域を算定し、原則として健側の運動可動域と比較して障害等級を認定する。
ただし、健側の運動可動域と比較することが適当でない場合にあっては、正常可動範囲を参考として障害等級を認定する。
関節運動可動域の測定等については、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」によるが、労災保険の場合には、採用しない項目があることに注意を要する。
(1) 測定する角度は、原則として、各関節の主要運動(屈伸等各関節において日常の動作に一番重要なものをいう。たとえば肘関節にあっては屈曲及び伸展運動)を中枢側、末梢側各肢節の軸(基本軸、移動軸)のなす角度で計り、同一面の運動範囲は一括して取り扱い、その他の運動は参考とする。
(2) 関節の機能障害は、関節そのものの器質的損傷によるほか、各種の原因で起こり得るから、その原因を無視して機械的に角度を測定しても、労働能力の低下の程度を判定する資料とすることができない。従って、測定を行う前にその障害の原因を明らかにしておく必要がある。関節角度の制限の原因を大別すれば、器質的変化によるものと機能的変化によるものとに区分することができる。更に、器質的変化によるもののうちには、関節それ自体の破壊や強直によるもののほかに、関節外の軟部組織の変化によるもの(たとえば、阻血性拘縮)もあり、機能的変化によるもの(たとえば、神経麻痺)には、障害の原因を調べ、その症状に応じて測定方法等に、後述するとおり、考慮をはらわねばならない。
なお、機能(運動)障害の原因が明確な場合には、自動運動による運動可動域を採用するが、心因性の原因が疑われる場合等、機能障害の原因が明確でない場合には他動運動による運動可動域を参考として判定することを要する。
(3) 被測定者の姿勢と肢位によって、各関節の運動範囲は著しく変化する。特に関節自体に器質的変化のない場合にはこの傾向が著しい。たとえば、前述した阻血性拘縮では手関節を背屈すると各指の屈曲が起こり、掌屈すると各指の伸展が起こる。また、肘関節では、その伸展筋が麻痺していても、下垂位では、自然に伸展する。
関節の各度は、日常よく使用する状態で測定するのが一番よい。従って、下肢は体重を負荷して測定するとよいが、疼痛又は心因性の要素が原因である場合にはかかる方法をとると、著しく障害の程度が高くなる。そこで、各論において述べる基本的な測定姿勢のほか、それぞれの事情に応じ、体位を変えて測定した値をも考慮して運動制限の範囲を判定しなければならない。
なお、関節には、運動機能のほか、身体の支持力も重要な機能であるから、支持力の減弱が著明で不安定、動揺性のある場合には、これをも十分に考慮する必要がある。
(4) 人の動作は、1関節の単独な運動のみで行われることは極めて稀であって、1つの動作には、数多くの関節の運動が加わるのが普通である。従って、関節の角度を測定する場合にも、たとえば、せき柱の運動には股関節の運動が、前腕の内旋又は外旋運動には、肩関節の運動が入り易いこと等に注意しなければならない。しかし、他面、かかる各関節の共働運動は無意識のうちにも起こるものであるから注意深く観察すれば、心因性の運動制限を診断し、又は詐病を鑑別するに際して役立つことがある。なお、障害補償の対象となる症状には心因性要素が伴われがちであるが、これが過度にわたる場合は当然排除しなければならない。その方法としては、前述の各関節の共働運動を利用して、被測定者の注意をり患関節から外させて測定する方法のほかに、感電、筋電図の利用、神経科診断等が有効である。
2 関節可動域表示ならびに測定法
(1) 基本的事項
イ 関節可動域測定の目的
(イ) 測定することによって、関節の動きを阻害している因子を発見する。
(ロ) 障害の程度を判定する。
(ハ) 治療法への示唆をあたえる。
(ニ) 治療、訓練の評価手段となる。
ロ 関節可動域の種類
(イ) 自動:被検者が自分の力で動かしうる関節可動域
(ロ) 他動:外的な力で動かされる関節可動域
( )で表示
ハ 基本肢位
すべての関節について解剖学的肢位を0度とする。なお、前腕については手掌面が矢状面にある状態を0度とする。(注:従来の測定方法とは異なるので特に注意を要する。)
ニ 角度計のあてかた、基本軸・移動軸
(イ) 角度計は、基本軸と移動軸のなす角度を測定するようにあてること。
(ロ) 正常可動範囲はあくまでも参考角度として取り扱うこと。
(ハ) 肩関節の運動の中心は解剖学的には肩峰ではないが計測上の容易さから肩峰を用いることとしている。
(ニ) 母指の対立運動の反対の運動を復位運動とする。
ホ 測定にあたっての留意すべき事項
(イ) 測定しようとする関節は十分露出すること。
とくに女性の場合には、個室、更衣室の用意が必要である。
(ロ) 被検者に精神的にもおちつかせる必要があり、測定の趣旨をよく説明するとともに、気楽な姿勢をとらせること。
(ハ) 基本軸の固定が大切であり、固定する場所は関節の近位あるいは遠位端であって関節そのものではいけないこと。
(ニ) 角度計の軸は関節の軸とよく一致させること。ただし、軸の平行移動は差支えない。
(ホ) 角度計は、関節を動かす前後2回あてて測定すること。
(ヘ) 膝関節のような2関節筋(多関節筋)のある関節ではその影響を十分配慮すること。
(2) 各論
イ 顎関節
顎関節 |
・開口位で上顎の正中線上で上歯と下歯の先端との間の距離をmmで表現する ・左右偏位に関しては上顎の正中線を軸として下歯列の動きを左右ともmmで表現する ・正常値は上下第1切歯対向縁間の距離50mm 左右偏位は10mmである |
ロ せき柱
部位名 |
運動方向 |
正常可動範囲 |
角度計のあてかた |
注意 |
備考 |
|||
|
|
|
基本軸 |
移動軸 |
軸心 |
|
|
|
頸部 |
前屈 (屈曲) |
0~60 |
前額面 中央線 |
耳孔と頭頂との結合線 |
肩関節中心 (肩峰部) |
頭部体幹の側面で行なう原則として腰かけ坐位,その他立位,臥位 |
||
|
後屈 (伸展) |
0~50 |
〃 |
〃 |
〃 |
|||
|
回旋 (捻転) |
左旋 |
0~70 |
背面 |
鼻梁と後頭結節との結合線 |
頭頂 |
測定は頭頂水平面で行なう。体位は腰かけ坐位,立位または背臥位 |
|
|
|
右旋 |
0~70 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
|
側屈 |
左屈 |
0~50 |
第7頸椎棘突起と第5腰椎棘突起との結合線 |
頭頂と第7頸椎棘突起との結合線 |
第7頸椎棘突起 |
測定は頭部体幹の前面または背面で行なう,体位は腰かけ坐位,立位背臥位または腹臥位 |
|
|
|
右屈 |
0~50 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
胸腰部 |
前屈 (屈曲) |
0~45 |
第5腰椎棘突起をとおる垂線 側臥位では水平線 |
第7頸椎と第5腰椎棘突起の結合線 |
第5腰椎棘突起 |
測定は体幹側面で行なう体位は腰かけ坐位,立位または側臥位,軸心は第5腰椎棘突起が判然としない場合はジャコビー線の中央にたてた垂線との交叉点を用いてもよい |
||
|
後屈 (伸展) |
0~30 |
〃 |
〃 |
〃 |
|||
|
回旋 (捻転) |
左旋 |
0~40 |
腰かけの背あて(垂直)の線 |
両肩甲部の切線 |
両肩甲部の切線と背あての延長線の交点 |
測定は腰かけの背あてに腰殿部を固定した位置で行なう 体位は腰かけ坐位 |
|
|
|
右旋 |
0~40 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
|
側屈 |
左屈 |
0~50 |
ジャコビー線の中点にたてた垂線 |
第7頸椎棘突起と第5腰椎棘突起の結合線 |
第5腰椎棘突起 |
測定は体幹の背面で行なう体位は腰かけ坐位または立位 |
|
|
|
右屈 |
0~50 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
注:
脊柱に変形があるときは測定は困難なので便宜上起立位で腰部を前屈し上肢を伸展させてその指尖と床面との距離をcmで表現する。側屈も同じ
起立不能の時は臥位のまま下肢を伸展させた位置で鼻先母趾先端までの距離をcmで表わす
胸腰部の測定には股関節の運動がはいらぬよう注意する。そのためフレキシブルテープで長さを計測するのもよい。
ハ 上肢
関節名 (部位名) |
運動方向 |
正常可動範囲 |
角度計のあてかた |
注意 |
備考 |
||
|
|
基本軸 |
移動軸 |
軸心 |
|
|
|
肩 (肩甲骨の動きも含む) |
屈曲 (前方挙上) |
0~180 |
肩峰を通る垂直線(起立または坐位) |
上腕骨 |
肩峰 |
体幹が動かないように固定する 脊柱が前後屈しないように |
|
伸展 (後方挙上) |
0~50 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
||
|
外転 (側方挙上) |
0~180 |
〃 |
〃 |
〃 |
角度計は前後どちらにあててもよい 体の側屈が起こらぬように90°以上になったら前腕を回外することを原則とする 内転の計測は20°または45°屈曲位ではかる方法もある |
|
|
内転 |
0 |
〃 |
〃 |
〃 |
||
|
外旋 |
0~90 |
床に垂直(右図) |
尺骨 |
肘頭 |
上腕を体幹に接し,肘関節を前方に90°屈曲した位置を原点とする~1. |
|
|
内旋 |
0~90 |
〃 |
〃 |
〃 |
肩関節を90°外転した位置ではかることもある~2. |
|
肘 |
屈曲 |
0~145 |
上腕骨 |
橈骨 |
肘関節 |
角度計は外側にあてる |
|
|
伸展 |
0~5 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
前腕 |
回内 |
0~90 |
床に垂直 (右図) |
伸展した母指を含む手掌面 |
第3指先 |
肩の回旋が入らないように肘を90°に屈曲する 0°の位置は前腕の中間位回外は手掌が天井をむいた状態 回内は手掌が床面をむいた状態 |
|
|
回外 |
0~90 |
〃 |
〃 |
〃 |
||
手 |
背屈 |
0~70 |
橈骨 |
第2中手骨 |
手関節 |
前腕は中間位,角度計は橈側にあてる |
|
|
掌屈 |
0~90 |
〃 |
〃 |
〃 |
||
|
橈屈 |
0~25 |
前腕骨 (前腕軸の中心) |
第3中手骨 〃 |
手関節 |
|
|
|
尺屈 |
0~55 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
ニ 手指
関節名 (部位名) |
運動方向 |
正常可動範囲 |
角度計のあてかた |
注意 |
備考 |
||
|
|
基本軸 |
移動軸 |
軸心 |
|
|
|
母指 |
橈側外転 |
0~60 |
示指 (橈骨の延長上) |
母指 |
手根中手関節 |
運動方向は手掌面上 |
|
|
掌側外転 |
0~90 |
〃 |
〃 |
〃 |
運動方向は手掌面に直角 |
|
|
屈曲(MP) |
0~60 |
第1中手骨 |
第1基節骨 |
MP関節 |
|
|
|
伸展(MP) |
0~10 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
|
屈曲(IP) |
0~80 |
第1基節骨 |
第1末節骨 |
IP関節 |
|
|
|
伸展(IP) |
0~10 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
|
対立 |
左図のように母指尖端と小指MP間の距離で表示 この運動は外転,回旋,屈曲の3要素の合成で軸心も一点でないので角度で計測することは困難 |
|||||
指 |
屈曲(MP) |
0~90 |
第2~5中手骨 |
第2~5基節骨 |
MP関節 |
|
|
|
伸展(MP) |
0~45 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
|
屈曲(PIP) |
0~100 |
第2~5基節骨 |
第2~5中節骨 |
PIP関節 |
|
|
|
伸展(PIP) |
0 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
|
屈曲(DIP) |
0~80 |
第2~5中節骨 |
第2~5末節骨 |
DIP関節 |
|
|
|
伸展(DIP) |
0 |
〃 |
〃 |
〃 |
|
|
|
外転 |
|
第3指軸 |
2.4,5指軸 |
両軸の交点 |
第3指を中心に手掌面上で指のはなれる運動を外転とし指のあわさる運動を内転とする 指先間の距離で表示することもできる |
|
|
内転 |
|
〃 |
〃 |
〃 |
(注) MP……中手指節間関節 IP……指節間関節 PIP……近位指節間関節 DIP……遠位指節間関節
ホ 下肢
関節名 (部位名) |
運動方向 |
正常可動範囲 |
角度計のあてかた |
注意 |
備考 |
||
|
|
基本軸 |
移動軸 |
軸心 |
|
|
|
股 |
屈曲 |
0~90 0~125 (膝屈曲のとき) |
体幹と平行に |
大腿骨 (大転子と大腿骨外顆の中心) |
股関節 (大転子) |
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伸展 |
0~15 |
〃 |
〃 |
〃 |
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外転 |
0~45 |
左右の上前腸骨棘を結ぶ線への垂線 |
大腿中央線 (上前腸骨棘より膝蓋骨中心) |
上前腸骨棘 |
骨盤を固定 外旋しないようにする内転計測のときは反対肢を屈曲挙上して,その下をとおして内転する |
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内転 |
0~20 |
〃 |
〃 |
〃 |
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外旋 |
0~45 |
膝90°屈曲位で膝蓋骨より下した垂線 |
下腿長軸 |
膝蓋骨 |
膝関節を屈曲(90°)し股関節回旋の角度が下腿骨の移動角度で計測できる肢位(背臥位で膝から下をベットより出す。または腹臥位)骨盤の代償を少なくするように |
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内旋 |
0~45 |
〃 |
〃 |
〃 |
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膝 |
屈曲 |
0~130 |
大腿骨 (大転子と大腿骨外顆の中心) |
下腿骨 (腓骨小頭より腓骨果) |
膝関節 |
原則として腹臥位で行なうが股関節の屈曲拘縮等があり腹臥位がとれないときは背臥位で計測することもある |
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伸展 |
0 |
〃 |
〃 |
〃 |
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足(関節) |
背屈 |
0~20 |
下腿骨軸への垂線 (足底部) |
第5中足骨 |
足底 |
腰かけ坐位(腹臥,背臥位もあり得る)膝を屈曲して2関節筋の緊張を除いて計ること |
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底屈 |
0~45 |
〃 |
〃 |
〃 |
ヘ 足指
母指 (趾) |
屈曲(MP) |
0~35 |
第1中足骨 |
第1基節骨 |
MP |
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伸展(MP) |
0~60 |
〃 |
〃 |
〃 |
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屈曲(IP) |
0~60 |
第1基節骨 |
第1末節骨 |
IP |
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伸展(IP) |
0 |
〃 |
〃 |
〃 |
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足指 (趾) |
屈曲(MP) |
0~35 |
第2~5中足骨 |
第2~5基節骨 |
MP |
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伸展(MP) |
0~40 |
〃 |
〃 |
〃 |
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屈曲(PIP) |
0~35 |
第2~5基節骨 |
第2~5中節骨 |
PIP |
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伸展(PIP) |
0 |
〃 |
〃 |
〃 |
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屈曲(DIP) |
0~50 |
第2~5中節骨 |
第2~5末節骨 |
DIP |
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伸展(DIP) |
0 |
〃 |
〃 |
〃 |
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(注)
MP……中足指節関節
IP……指節間関節
PIP……近位指節間関節
DIP……遠位指節間関節
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