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○地域水道ビジョンの作成について

(平成17年10月17日)

(健水発第1017002号)

(各都道府県水道行政主管部(局)長あて厚生労働省健康局水道課長通知)

今日、我が国の水道は、国民の大部分が利用できるまでに普及しているが、今後、施設の老朽化に伴い大規模な更新が必要になると予想される中で、各水道事業及び水道用水供給事業(以下、「水道事業等」という。)においては、安全・快適な水の供給の確保や、災害時にも安定的な給水を行うための施設水準の向上等に向けた取組が求められるとともに、その基礎となる運営基盤の強化や技術力の確保等が必要とされている。これらの課題に適切に対処していくためには、各水道事業者等が自らの事業を取り巻く環境を総合的に分析した上で、経営戦略を策定し、それを計画的に実行していくことが必須である。

厚生労働省においては、昨年6月に「水道ビジョン」を作成し、水道関係者の共通の目標となる水道の将来像とそれを実現するための具体的な施策、工程を示したところであるが、今般、上述のような水道事業者等の取組を推進するため、「地域水道ビジョン」の作成を推奨することとし、別添のとおり、「地域水道ビジョン作成の手引き」を取りまとめた。

ついては、貴管内の水道事業者等が、本手引きを活用し、各事業の現状と将来見通しを分析・評価した上で、「水道ビジョン」の方針を踏まえて目指すべき将来像を描き、その実現のための方策等を含めた「地域水道ビジョン」を作成することにより、今後の水道事業等に求められる施策の着実な実施が図られるよう、周知されたい。

また、貴管内水道事業者等に対する監督に当たっては、各事業が「地域水道ビジョン」等の的確な将来計画に基づき経営されるよう十分留意されたい。さらに、水道事業者等が作成した「地域水道ビジョン」を踏まえ、水道整備基本構想等の的確な見直し等を行うよう努めるとともに、必要に応じ、広域的な観点から、貴都道府県が管内の水道事業等を包括した「地域水道ビジョン」を作成することについても検討されたい。

なお、厚生労働省においては、「地域水道ビジョン」の策定状況について定期的に取りまとめて公表することとしているので、申し添える。

地域水道ビジョン作成の手引き

1.目的

21世紀の初頭において、我が国の水道は、運営基盤の強化、安心・快適な給水の確保、災害対策等の充実、環境・エネルギー対策の強化、国際貢献等に関する取組を求められている。これらの課題に適切に対処していくためには、各水道事業者及び水道用水供給事業者(以下、「水道事業者等」という。)が自らの事業を取り巻く環境を総合的に分析した上で、経営戦略を策定し、それを計画的に実行していくことが必須である。

このような中で、厚生労働省では、平成16年6月に「水道ビジョン」を策定し、水道関係者が共通の目標をもち、互いに役割を分担しながら連携してその実現に取り組むために、我が国の水道の現状と将来見通しを分析・評価し、今後の水道に関する重点的な政策課題と、具体的な施策及び方策、工程等を示したところである。

今後、「水道ビジョン」が掲げる「世界のトップランナーを目指してチャレンジし続ける水道」を基本理念とし、「安心」、「安定」、「持続」、「環境」及び「国際」という5つの政策課題に関する目標を達成することにより、需要者のニーズに対応した信頼性の高い水道を次世代に継承していくためには、各水道事業者等が中心となって水道を改善・改革するための取組を進めていくことが必要不可欠である。

このため、水道事業者等が自らの事業の現状と将来見通しを分析・評価した上で、目指すべき将来像を描き、その実現のための方策等を示すものとして「地域水道ビジョン」の作成を推奨するものである。

2.作成主体

各水道事業者等が自らの事業を対象として作成することを基本とする。

ただし、簡易水道事業を有する市町村においてはそれらを包含して市町村単位で作成することを基本とする。また、水道用水供給事業とその受水水道事業においては、状況に応じ、共同で作成するか、互いに整合を図って作成することが望ましい。

なお、近い将来、広域化が想定される水道事業者等が共同で作成することや、広域的観点から、都道府県が管内の水道事業等を包括して作成することも考えられる。

注) ここでいう広域化とは、事業の統合のみを意味するものではなく、事業の一部の共同化や維持管理の一体化、ソフト面の連携等を含めた幅広い概念の広域化を意図している。

3.地域水道ビジョンの作成

3.1 記載事項

地域水道ビジョンに記載すべき事項と、その検討に関する基本的視点を以下に示す。

なお、地域水道ビジョンは、各水道事業等や地域の特性等を踏まえ、作成主体が創意工夫しつつ、作成すべきものであるので、その構成や記載内容については、以下にかかわらず柔軟に考えて作成することとして差し支えない。

[事業の現状分析・評価]

給水量、給水人口等の事業計画に関する事項、財政収支・組織体制等の経営基盤に関する事項、災害対策や環境保全対策に関する事項等について、総合的な観点から、事業の現状と将来見通しを分析・評価する。

[将来像の設定]

事業の現状や地域特性等を踏まえ、「世界のトップランナーを目指してチャレンジし続ける水道」を実践する各水道事業等としての将来像を設定する。

[目標の設定]

「水道ビジョン」において、「自らが高い目標を掲げて、常に進歩発展し、将来にわたって需要者の満足度が高くあり続け、需要者が喜んで支える水道であることが、水道事業運営の目標であるべき」とされていることに留意しつつ、水道ビジョンに掲げられた5つの政策課題(「安心」、「安定」、「持続」、「環境」及び「国際」)のほか、必要に応じて、地域特性を踏まえた課題に関する目標を設定する。

[実現方策の検討]

目標を実現するための具体的施策について、施設整備等のハード面、運営・管理等のソフト面から検討し、その工程とともに位置づける。

3.2 計画期間

地域水道ビジョンは、10年程度を目標期間として作成する。

3.3 事業の現状分析・評価

地域水道ビジョンを策定するにあたっては、まず、事業の現状及び将来見通しを分析・評価し、今後、取り組むべき課題を明確にすることが必要である。具体的には、以下のような観点から、それぞれに掲げる事項等について分析・評価することが考えられる。

(1) 安全な水、快適な水が供給されているか

・水質基準の適合状況

・異臭味被害の状況

・水源の水質、水質事故の発生状況

・浄水能力

・貯水槽水道の指導等の状況、直結給水の推進状況

・鉛製給水管の布設状況

(2) いつでも使えるように供給されているか

・需要(給水人口、給水量)

・供給能力(水源確保、水道施設容量、有収率)

・水道の普及状況(未普及地域、未規制施設の状況を含む)

・耐震化の進捗状況

・応急給水体制、応急復旧体制

(3) 将来も変わらず安定した事業運営ができるようになっているか

・老朽化施設とその更新計画

・経営・財務(収支、資本、企業債償還、料金、財源)

・需要者サービス

・技術者の確保

(4) 環境への影響を低減しているか

・環境対策(省エネルギー、廃棄物の有効利用等)の実施状況

(5) 国際協力に貢献しているか

・海外からの研修生受け入れ、海外への専門家派遣への協力状況

分析・評価にあたっては、平成17年1月に(社)日本水道協会規格として策定された「水道事業ガイドライン JWWA Q100」に基づく業務指標(PI)を活用することが有効である。この場合、業務指標の中には、算出根拠となる情報の不足等から算出が難しい指標等も含まれているため、まず、可能な範囲で指標を算出し、現状分析を行ってみることが適切である。

また、ハード的側面からの水道施設の機能診断については、平成17年7月に送付した「水道施設機能診断の手引き」を活用し、各水道施設に要求される機能を確認した上で、取水、導水、浄水、送水、配水の各施設又は施設から構成される系統又は施設を構成する設備・装置について実施する。老朽化施設の更新については、平成17年5月に(社)日本水道協会が策定した「水道施設更新指針」も参考となる。

3.4 将来像の設定

関係者が取組を進める上での共通の目標となるよう、水道ビジョンに示した水道の長期的な政策課題である「安心」、「安定」、「持続」、「環境」及び「国際」の視点に留意しつつ、今世紀半ば頃の各水道事業等のあるべき姿又は基本理念を示す。

3.5 目標の設定

水道ビジョンに示された施策群ごとの定量的・定性的な各施策目標の実現に留意しつつ、以下の項目を参考として、各水道事業等の自然的、社会的条件等を踏まえた計画期間内における適切な目標を設定する。

目標には定量的な数値目標と定性的な目標が含まれるが、定量的な数値目標については業務指標を活用し、その各項目について目標を設定することも考えられる。また、可能な限り達成期限を明記することが望ましい。

(1) 水道の運営基盤の強化・顧客サービスの向上

① 新たな概念の広域化の推進

水道事業等の技術的・財政的運営基盤を強化する観点から、施設の一体化、経営の一体化、管理の一体化、一部施設の共同化、特定の目的(業務)に関する広域的体制の整備といった多様な形態の広域化について、目標を設定する。

② 第三者委託の導入

特に技術力の弱い水道事業者等において適正な水道の管理を維持するために必要な技術的業務の実施体制の確保や運営管理コスト削減の観点から、技術上の業務の民間業者や他水道事業者等への第三者委託の導入の適否を検討し、合理的と評価される場合には、その導入について目標を設定する。

③ 技術基盤の確保

水道事業等の運営に必要な技術レベルを維持するため、技術職員の数又は全職員に対する割合、研修時間等に関し、目標を設定する。

④ 計画的な施設の更新

施設機能診断の結果等から直ちに更新が必要と評価される老朽化施設の更新完了時期とその更新計画の策定について、中長期的な財政見通しと整合した上で、できる限り早期に完了することを目指しつつ、目標を設定する。

(2) 安心・快適な給水の確保

① 異臭味被害の防止

異臭味被害を防止するための水質管理対策について、被害を5年後に半減し、その後早期に解消することを目指しつつ、目標を設定する。

② 水質事故の防止

給水停止に至るような水質事故を防止するための原水から給水に至るまでの水質管理対策について、事故を早期になくすことを目指しつつ、目標を設定する。

③ 原水水質の保全

できる限り良好な水質の水を原水として利用するために必要な場合に、水源保全対策や取水地点等の変更等による原水水質改善対策について、目標を設定する。

④ 未規制小規模施設の把握

給水区域内外に存在する水道法適用外の小規模水道施設を把握する施策について、保健所との協力等を含め、全ての施設をできる限り早期に把握することを目指しつつ、計画期間内における適切な目標を設定する。

⑤ 飲用井戸等の未規制小規模施設の管理体制強化

給水区域内外に存在する水道法適用外の小規模水道施設を把握するとともに、水道事業者が関与して水質管理体制を強化する施策について、保健所との協力等を含め、人口カバー率を100%とすることを目指しつつ、計画期間内における適切な目標を設定する。

⑥ 給水装置による事故の防止

給水管や給水用具が原因となる事故を防止するため、需要者による維持管理を徹底させるための周知や指定給水装置工事事業者との連携強化等の施策について、事故をできる限り早期になくすことを目指しつつ、目標を設定する。

⑦ 鉛給水管の更新

鉛給水管の更新を促進するための施策について、鉛給水管を5年後に半減し、その後できる限り早期に全廃することを目指しつつ、目標を設定する。

(3) 災害対策等の充実

① 基幹施設の耐震化

浄水場、配水池等の基幹施設の耐震化率の向上について、耐震化率を100%にすることを目指しつつ、計画期間内における適切な目標を設定する。特に東海地震対策強化地域及び東南海・南海地震対策推進地域(以下、「東海地域及び東南海・南海地域」という。)においては早期の達成を目指す。

② 管路網の耐震化

管路網の耐震化率の向上について、基幹管路の耐震化率を100%にすることを目指しつつ、計画期間内における適切な目標を設定する。特に東海地域及び東南海・南海地域においては早期の達成を目指す。

③ 渇水対策

渇水時においても給水区域内において断水を生じさせない給水やそのための水源確保等の渇水対策について、おおむね10年に1回程度の少雨の年を想定することを目安に、地域の実情に応じて、計画期間内における適切な目標を設定する。

④ 応急給水実施の確保

災害発生や水質事故等による給水停止事態においても必要な応急給水の実施を確保するための施策について、応急給水目標量等に関する目標を設定する。特に東海地域及び東南海・南海地域においては早期の達成を目指す。

⑤ 応急復旧体制の整備

他水道事業者等との災害時応援協定の締結等による応急復旧体制の整備について、目標を設定する。特に東海地域及び東南海・南海地域においては早期の達成を目指す。また、小規模の水道事業等においては、近隣の水道事業者等による支援体制の整備が重要であることに留意する。

(4) 環境・エネルギー対策の強化

① 浄水汚泥の有効利用

循環型社会の実現に貢献するため、浄水汚泥の有効利用の推進について、有効利用率100%を目指しつつ、計画期間内における適切な目標を設定する。

② 省エネルギー・石油代替エネルギー導入の推進

地球温暖化対策推進のため、より効率の高いポンプの導入等によるエネルギー利用の効率化や太陽光発電等の石油代替エネルギー利用の推進について、単位水量当たりの電力使用量の10%削減や石油代替エネルギーの導入を目指しつつ、計画期間内における適切な目標を設定する。

③ 有効率の向上

計画的な施設更新等による有効率の向上について、現在給水人口10万人以上の大規模事業においては98%以上、現在給水人口10万人未満の中小規模事業においては95%以上とすることを目指しつつ、計画期間内における適切な目標を設定する。

(5) 国際協力等を通じた水道分野の国際貢献

① 研修生の受け入れ

受け入れ可能な水道事業者等において、国際協力事業等による海外からの研修生の研修・実習の受け入れについて、目標を設定する。

② 開発途上国への技術専門家の派遣

(独)国際協力機構等による開発途上国への技術専門家派遣事業に協力するため、派遣可能な職員や退職者の養成、派遣要請があった場合の円滑な対応が可能となるような体制の確保、派遣する職員等の数等について、目標を設定する。

3.6 実現方策

3.5で設定した目標を実現するための具体的方策について、水道ビジョンに示された施策群毎の方策及びアクションプログラム等を参考に、各水道事業等において実施すべき方策を検討し、位置づける。

以下に、各政策課題毎に、実現方策の例を示す。各水道事業等を取り巻く内部環境、外部環境を踏まえ、適宜、これらの方策を取捨選択するとともに、独自の方策を検討することにより、計画期間内に実施すべき最適な方策を取りまとめる。

(1) 水道の運営基盤の強化・顧客サービスの向上

・水道事業間並びに水道用水供給事業及びその受水水道事業間の施設の一体化(事業統合)や経営の一体化、一部施設の共同化

・第三者委託制度の活用による民間業者等への技術上の業務の委託や近隣水道事業等との管理の一体化

・自己又は第三者機関等による公正な業務評価の実施

・施設の効率的運用やIT活用等による業務の効率化、組織の見直し等による経費の削減

・職員の研修、人事制度の見直し、職員の意識改革等による人材の強化

・参加型広報活動やIT活用等による広報の充実及び情報公開の推進

・水道モニター制度や顧客アンケート、パブリックコメント、顧客満足度調査の実施等による顧客のニーズの把握

・窓口の充実、トラブルサポートの充実等の顧客サービスの向上

(2) 安心・快適な給水の確保に係る方策

・水道原水の水質監視体制強化、水道原水水質改善対策の実施

・流域圏ごとの水質管理情報の共有化や公表の仕組みの構築、流域圏等における関係機関との連携方策推進による水源水質の向上

・原水水質に対応した浄水処理の高度化、膜処理、紫外線処理の導入

・鉛給水管布設替計画の策定と実施

・給水装置の適正な管理のための情報提供強化、質的改善のための工事業者の指導・育成

・水安全計画の策定と実施

・顧客に対する水質に関する情報提供、意見交換の推進によるリスクコミュニケーションの推進

・自家用水道、小規模水道、貯水槽水道も包含した市町村による水道サービス計画の策定

(3) 災害対策等の充実に係る方策

・安定した水源の確保や水道施設の多系統化

・連絡管の整備や配水ブロックの再編成等、効果的な水の融通が可能となる水運用機能の強化

・配水容量の拡大等による備蓄量の確保、給水拠点の整備

・施設の耐震化推進

・地震、水害等の各種危機管理マニュアルの策定

・他水道事業者等との災害時における相互応援協定等による応急給水・応急復旧体制の整備

・渇水時等の節水対策の推進

(4) 環境・エネルギー対策の強化

・環境報告書の作成や環境会計の算定

・小水力発電の導入や太陽光発電等の再生可能エネルギーやコージェネレーション等のエネルギー対策技術の採用

・浄水汚泥のリサイクルの推進

(5) 国際協力等を通じた水道分野の国際貢献

・職員の派遣や研修生の受け入れ等による水道分野の国際協力事業への協力

4.検討会の設置

地域水道ビジョンの策定にあたっては、学識経験者、需要者等の参加を得た検討会等を設置し、広く意見を聴取して、それを反映するよう努めることが望ましい。

5.策定のスケジュールとフォローアップ

(1) スケジュール

地域水道ビジョンは、平成20年度頃までを目途に策定することが望ましい。

(2) 公表・送付

地域水道ビジョンを策定した場合には公表し、広く周知を図るものとする。また、厚生労働省健康局水道課及び各都道府県水道行政担当部局に送付する。

(3) フォローアップ

地域水道ビジョンを着実に実施する体制の構築に努める。

また、目標の達成状況及び各実現方策の進捗状況について定期的(例えば、3年に1回程度)にレビューし、関係者の意見を聴取しつつ、必要に応じて地域水道ビジョンの見直しを行う。

6.既存の計画等との関係

各水道事業者等においては、既に、中長期的計画を策定し、その達成に向けて取組を進めている場合がある。このような計画のうち、各水道事業者等が事業の現状及び将来見通しを分析・評価し、目指す水道の将来像を示し、その実現方策を記述しており、かつ公表しているものは、本手引きで解説した地域水道ビジョンに該当するものと解釈して差し支えない。