濃度 |
30% |
70% |
90% |
グリセリン(g) |
6.3 |
6.3 |
6.3 |
エタノール(mL) |
30 |
70 |
90 |
精製水(mL) |
65 |
25 |
5 |
(9) DAPI保存液:メタノール1mLにDAPI(4',6―diamidino―2―phenylindole)2mgを溶解する。密閉容器に入れ、遮光して冷蔵庫に保管する。
(10) DAPI染色液:PBS50mLにDAPI保存液10μLを加えて混合する。本液は使用時に調製する。残った希釈液は所定の方法で廃液として処理する。
2) 器具及び器材
(1) メンブレンフィルター:セルロースアセテート又はPTFE製で、孔径2μm以下、直径25mmのもの。
(2) スライドグラス
(3) カバーグラス
(4) フィルター用ピンセット
(5) 恒温器:温度を35~37℃に保持できるもの。
(6) 吸引瓶又はマニホールド
(7) フィルターホルダーベース:直径25mmメンブレンフィルター用のもの注1)。
(8) 吸引ポンプ又はアスピレーター
(9) 撥水ペン
(10) マイクロピペット
(11) 湿箱:遮光・密閉でき、底部が平らなもの(金属製の菓子箱などで代用できる)。内部に精製水を含ませた紙等を置き、高湿度に保っておく。
注1) 焼結ガラス製のものを用いると、メンブレンフィルターにゆがみが生じにくい。
3) 操作
特別の留意点:以下の操作は、途中の段階で乾燥が生じると染色不良となるので、一つの操作が終わったら速やかに次の操作に移る。一連の操作を途中で中断してはならない。
(1) 染色用試料の調製:2.4粉体ろ過法以外の捕捉・濃縮法より回収した沈渣はPBSを加えて一定量とする。2.4粉体ろ過法により回収した濃縮物は、塩酸を用いて粉体を溶解後に精製水を加えて一定量とする。3.1密度勾配遠沈法(浮遊法)により精製した染色用試料はそのまま使用する。3.2免疫磁性体粒子法(免疫磁気ビーズ法)により分離精製した染色用試料は、必要に応じてPBSを加えて一定量とする。いずれも液量を読みとり、記録しておく。
(2) フィルターの調製:メンブレンフィルターの中央に撥水ペンで直径約15mmの円を描き、PBSで濡らす注1)。フィルターホルダーのベースを吸引瓶等にセットし、弱く吸引しながら、ベース上端面をPBSでゆっくりと洗浄したのち、円を描いた面を上にしてメンブレンフィルターをホルダーベース上に載せる。
(3) 染色用試料の添加:染色用試料の適量注2)、陰性対照(PBS液)及び陽性対照注3)(試薬キット添付又は自家調製)をそれぞれ個別のメンブレンフィルターに少量ずつ、円内全面に行き渡るように滴下しながら、必要に応じて弱く吸引して、ゆっくりろ過注4、5、6)する。次いで、少量のブロッキング試薬を円内全面に行き渡るように滴下し、室温で約5分間作用注7)させた後、残ったブロッキング試薬を吸引除去する(除去したら直ちに吸引を停止し、速やかに(4)の操作に移る)。
(4) 抗体処理:メンブレンフィルターの円外部分をフィルター用ピンセットで挟んでスライドグラス上に移し、湿箱に入れる。少量の抗体試薬をメンブレンフィルターの円内全面に行き渡るように滴下し、室温で所定の時間注8)反応させる注9)。反応終了5分前にDAPI液100μLを加える注10)。反応後、メンブレンフィルターをホルダーベースに戻し、弱く吸引しながら、PBS約10mLを用いて円内全面をゆっくりとろ過洗浄する注11)。
(5) 脱水処理:(セルロースアセテートメンブレンフィルターを用いた場合にのみ適用)エタノール段階希釈液を、エタノール濃度の低いものから順にそれぞれ約1mLずつ、弱く吸引しながら、円内全面をゆっくりとろ過・脱水する注12)。
(6) 封入処理:(セルロースアセテートメンブレンフィルターを用いた場合にのみ適用)
i) 封入用スライドグラスの準備:予め、清浄なスライドグラスに検体名、試料番号、その他必要事項を記載したのち、封入剤約75μLをスライドグラス上に載せ、35~37℃で保温しておく。
ii) 封入操作:スライドグラスの封入剤の上に、試料面を上にしてメンブレンフィルターを載せた後注13)、35~37℃で約20分間保温する注14)。スライドグラスを取り出し、メンブレンフィルター上面に封入剤約25μLを滴下する。気泡を入れないように注意してメンブレンフィルターの上にカバーグラスを掛け、カバーグラスからはみ出した封入剤を拭き取る。周囲をネイルエナメル等で封じたのち、4.1.3顕微鏡観察に移る。直ちに顕微鏡観察できない場合は、遮光して冷蔵保存する。
(7) 封入処理:(PTFEメンブレンフィルターを用いた場合にのみ適用)
i) 封入用スライドグラスの準備:予め、清浄なスライドグラスに検体名、試料番号、その他必要事項を記載しておく。
ii) 封入操作:スライドグラスに、試料面を上にしてメンブレンフィルターを載せた後、メンブレンフィルター上面に市販の蛍光試料用水性封入剤又はDABCO―PBS約25μLを滴下する。気泡を入れないように注意しながら、メンブレンフィルターの上にカバーグラスを掛け、カバーグラスからはみ出した封入剤を拭き取る。周囲をネイルエナメル等で封じたのち、4.1.3顕微鏡観察に移る。直ちに顕微鏡観察できない場合は、遮光して冷蔵保存する。
注1) 予めPBSをシャーレに入れておき、撥水ペンで円を描いた面を上にしてメンブレンフィルターを液に浮かべると、撥水ペンの線を濡らさないですむ。濡れた場合は水滴を拭き取ってからろ過する。
注2) メンブレンフィルターのろ過能力が低下するほど多量の染色用試料を添加すると、染色や洗浄に影響するだけでなく、粒子が重なって顕微鏡観察に支障を来す。
注3) 陽性試料が他の試料等に混入しないように十分注意する。
注4) 強く吸引すると標本が乾燥するだけでなく、メンブレンフィルター面の捕捉に著しいムラが生じ、顕微鏡観察が妨げられる。このため、染色用試料が円内全面に渡ってゆっくりろ過できる状態になるよう、極めて微弱な陰圧状態でろ過しなければならない。これができない場合は、吸引を停止した状態で染色用試料を少量ずつ円内全面に滴下した後、吸引ポンプのスイッチを一瞬入れてろ過する。
注5) ろ過した染色用試料の液量を必ず記録しておく(後の計算に用いる)。
注6) 染色用試料中にショ糖等が含まれている場合は、PBS約10mLを用いて円内全面をゆっくりとろ過洗浄する。染色用試料中に塩酸が含まれている場合は、精製水約10mLとPBS約10mLを用いて円内全面をゆっくりとろ過洗浄する。
注7) 抗体の非特異吸着を防止するための処理である。この間、必要に応じてブロッキング試薬を追加し、ブロッキング試薬が常時保持された状態を保つ。
注8) 蛍光抗体染色法での反応時間は室温で30分以上が一般的だが、低温下で一晩の反応でも良好な結果が得られる。なお、試薬キットに記載された取扱方法がこれと異なる場合は、その指示に従う。
注9) 時々湿箱内を開けて、メンブレンフィルター円内の抗体液の残量をチェックする。なくなるようであれば少量ずつ追加する。
注10) この処理を行うとDAPIにより核が青色の蛍光を発するようになり、判定が容易になることが多い。ただし、DAPI液との反応時間が長すぎると夾雑物が強く染色され、判別を妨害するようになる。
注11) 円内を丁寧に洗浄する。洗浄液が円外に流れると染色用試料が流出するので、円を越えて流出しないように注意して操作する。
注12) 急激にろ過すると十分な脱水が行われないので、注4)に準じてゆっくりろ過する。
注13) エタノール段階希釈液(90%)で湿った状態のメンブレンフィルターを載せる。乾燥させてはならない。また、メンブレンフィルターとスライドグラスの間に気泡を入れないように留意する。
注14) この過程でメンブレンフィルターが透明化する。
備考 陽性対照が他の標本に混入しないよう操作の全体を通して注意する。また、マイクロピペットの先端をメンブレンフィルターに触れさせないよう十分注意し、標本中のオーシストの剥離を避ける。
4.1.2 間接蛍光抗体染色法
本法は、染色用試料をろ過して懸濁粒子をメンブレンフィルター上に捕捉し、メンブレンフィルター上のオーシスト等を一次抗体(抗―クリプトスポリジウムオーシストマウス単クローン抗体等)と特異的に反応させたのち、FITC標識二次抗体(抗―マウス免疫抗体ウサギ抗体等)を加えて一次抗体と反応させることにより、オーシスト等をFITCで標識する方法である。
間接蛍光抗体染色法の基本操作及び留意事項は次の通りである。
(1) 一次抗体処理:4.1.1 3)の(1)~(4)に準じて一次抗体処理を行う。
(2) 標識二次抗体処理:メンブレンフィルターをスライドグラスに移して湿箱に入れ、少量の標識二次抗体試薬をメンブレンフィルターの円内全面に行き渡るように滴下し、室温で所定の時間注1)反応させる。反応終了5分前にDAPI液100μLを加える。メンブレンフィルターをホルダーベースに戻し、弱く吸引しながら、PBS約10mLを用いて円内全面をゆっくりとろ過洗浄する。(セルロースアセテートメンブレンフィルターの場合は、洗浄後速やかに4.1.1 3)の(5)及び(6)の操作に移る。PTFEメンブレンフィルターの場合は、洗浄後速やかに4.1.1 3)の(7)の操作に移る。)
注1) 蛍光抗体染色法での反応時間は室温で30分以上が一般的だが、低温下で一晩の反応でも良好な結果が得られる。なお、試薬キットに記載された取扱方法がこれと異なる場合は、その指示に従う。
4.1.3 顕微鏡観察
蛍光抗体染色法で染色した顕微鏡標本を蛍光顕微鏡及び微分干渉顕微鏡により観察し、特異蛍光を発する粒子の寸法、外部及び内部形態を精査してオーシストを検出する。検出したオーシストを顕微鏡標本ごとに計数する。
1) 試薬及び器材
(1) 油浸オイル
(2) 顕微鏡:蛍光装置と微分干渉装置付き。20倍、40倍及び100倍の対物レンズ付き。
(3) ミクロメーター:接眼スケール又はその他の計測機器を付属すること。
(4) レンズペーパー
2) 顕微鏡観察の手順
(1) 陰性対照標本の観察:陰性対照標本を3)観察方法に従って検査し、標本中にオーシストが一切検出されないことを確認して(2)陽性対照標本の観察へ移行する。万一、標本中にオーシストが検出されるようなことがあれば標本作製の過程でなんらかの操作ミス(オーシストの混入など)があったものと判断してその時点で試験を中止し、作製した標本をすべて廃棄する。原因を究明した上で試験を始めからやり直す。
(2) 陽性対照標本の観察:陽性対照標本を3)観察方法に従って検査し、標本中のオーシストがFITCの特異蛍光を示していること、及び大半の夾雑物、又は標本のある部分が一面に特異蛍光を発するなどの異常が認められないことを確認して(3)検査用顕微鏡標本の観察に移行する。万一、標本中のオーシストがFITCの特異蛍光を示さない場合、オーシストが検出されない場合、又は上記の異常が認められた場合には標本作製の過程でなんらかの操作ミスがあったと判断してその時点で試験を中止し、作製した標本をすべて廃棄する。原因を究明した上で試験を始めからやり直す。
(3) 検査用顕微鏡標本の観察:3)観察方法に従って検査し、オーシストの有無とその数を数える。
3) 観察方法
(1) 低倍率によるFITCの蛍光観察:光源はB励起を選択し、20倍の対物レンズを用いてFITCの特異蛍光(緑色)を示す5μm程度の粒子を探す。粒子が検出されたらその都度(2)高倍率での観察に移る。標本中に特異蛍光を示す粒子が検出されなければ陰性と判断し、観察を終了する。
(2) 高倍率での観察:必要に応じて40倍~100倍の対物レンズを用い、B励起(FITCの蛍光観察)、UV励起(DAPIの蛍光観察)、及び微分干渉装置を用いて粒子のサイズを測定し、染色性や微細構造等を詳細に観察する。形態観察の要点を―)~―)に示すが、標本の状態によって観察できる微細構造は限られることが多い。なお、蛍光の減衰を考慮して、蛍光顕微鏡観察は手際よく行う必要がある。
i) 一般的特徴:オーシストは類円形で、その長径は約5μmであるが、測定状況によって3.5~6.5μmの範囲に入る。オーシスト壁は薄く平滑で、その1ヶ所に縫合線(脱嚢時の開口部分)と呼ばれる亀裂様構造を有する。内部には4個の三日月型をしたスポロゾイト、残体とその他の顆粒を含む。標本によってはオーシストが変形して紙風船がひしゃげたような形状を呈することがある。また、縫合線が開口し、内部構造が消失していることもある。
ii) 蛍光抗体染色法で染色されたオーシストの特徴:B励起下でのFITCの特異蛍光は緑色である。オーシストが示す蛍光は一様ではなく、辺縁(シスト壁)の蛍光が強く、それに比して中央部は弱い。観察の方向によっては縫合線が確認できることがある。オーシストの内部が赤色、又は強い黄色を呈することはない。
iii) DAPI染色されたオーシストの特徴:UV励起下でのDAPIの特異蛍光は青色である。オーシスト内にスポロゾイトの核が1~4個青色に染まって見える。
iv) 微分干渉像の特徴:表面が平滑なオーシスト壁、その中に1~4個のスポロゾイト及び残体とその他の顆粒構造が確認できる。
(3) 判定:FITC標識蛍光抗体染色で緑色の特異蛍光を示す類円形の粒子で、3.5~6.5μmの範囲に入るもののうち、以下の条件のいずれかを満たす粒子をオーシストと認定し、その数を数える。
i) 蛍光抗体染色像又は微分干渉像で明らかに縫合線が観察される場合注1)。
ii) 微分干渉像でスポロゾイトが確認される場合。
iii) DAPI染色の結果、オーシスト中のスポロゾイトの核が明瞭に観察される場合
注1) 縫合線は開口している場合もある。
4) オーシストの計数
顕微鏡標本の試料塗布面全面を精査してオーシストを計数する。ただし、標本中に検出されるオーシストが非常に多い場合は標本を定量的に部分観察して検水20L当たりに換算表示してもよい。
5) オーシスト数の算出
オーシスト数の算出は以下の計算式に従って行う。
O20:試料水20L中のオーシストの数(個/20L)
N:検出されたオーシストの総数(個)、
Vt:試料水Vs(L)を濃縮して得た染色用試料の総液量(mL)
Vn:顕微鏡検査した染色用試料の総液量(mL)
Vs:濃縮した試料水量(L)
備考 本文ではクリプトスポリジウムについて記載したが、多くの市販の蛍光抗体試薬キットには抗―ジアルジア抗体が含まれており、ジアルジアのシストの同時検出が可能である。観察は3)観察方法に準じて行う。ジアルジアシストの形態的特徴及びその判定基準を以下に示した。
i.一般的特徴:ジアルジアのシストは卵円形で、その長径は8~12μm、短径5~8μmであるが、測定状況によっては長径が8~18μmの範囲に入る。シスト壁は薄く、平滑である。成熟したシストでは4核を備え、その他に軸糸(太目の繊維用構造で、一端が湾曲する。鞭毛との区別は容易でない。)、曲刺(釜状の構造物で、吸着円盤等の遺残物)、中央小体(微細顆粒の集合体として観察される)、鞭毛等が認められる。
ii.蛍光抗体法で染色されたシストの特徴:B励起下でのFITCの特異蛍光は緑色である。シストが示す蛍光は一様ではなく、辺縁(シスト壁)の蛍光が強く、それに比して中央部は弱い。
iii.DAPI染色されたシストの特徴:UV励起下でのDAPIの特異蛍光は青色である。シスト内に栄養体の核が1~4個青色に染まって見える。クリプトスポリジウムのオーシストに比べてシスト壁がDAPIに染まりやすく、青色を帯びて観察される傾向がある。
iv.微分干渉像の特徴:表面が平滑なシスト壁、その中に1~4個の核、軸糸(又は鞭毛)、曲刺、中央小体等が観察される。
したがって、蛍光抗体染色標本で緑色の特異蛍光を示す卵円形の粒子のうち長径が8~18μmの範囲に入るもので、iv.に示した内部構造のいずれかが観察された粒子をジアルジアのシストと認定し、その数を数える。
4.2 遺伝子検出法
本法は、遺伝子検出法用に調製した試料から抽出した核酸を用いて遺伝子増幅反応を行い、標的とする生物種に特異的な遺伝子配列を定性的(あるいは定量的)に検出する方法である。標的配列の増幅の検出には、蛍光強度をリアルタイムに測定する方法(リアルタイムPCR法)あるいは濁度を測定する方法(LAMP法)等が一般に使用される。この用途に向けて、既に試薬と機器が市販されているが、目的の生物種や属にのみ反応する特異性が重要であり、実際の河川水を用いて特異性の検証を経た上で使用する必要がある。さらに、試料水中の1個のオーシスト等を検出する感度が求められることから、基本的にrRNAやrDNA等の多コピーの遺伝子を標的とし、rRNAについてはその逆転写産物を標的とする逆転写PCR法(RT―PCR法)や逆転写LAMP法(RT―LAMP法)が用いられる。
遺伝子検出法の基本操作及び留意事項は次の通りである。
3.2 免疫磁性体粒子法(免疫磁気ビーズ法)を用いて夾雑物を除去した精製物から核酸を抽出し、抽出した核酸を遺伝子増幅試薬と混合して反応を行う。核酸抽出操作として、凍結融解、タンパク質分解酵素処理、熱処理等を行う。遺伝子増幅反応は、基本的に逆転写反応(RT反応)とPCRあるいはLAMPとの組み合わせにより行う。増幅の有無は、蛍光強度や濁度の変化として確認する。
なお、本法を採用する場合は以下の点に十分留意する必要がある。
(1) 遺伝子検出法の反応特異性はプライマー等によって異なり、種類によっては偽陽性のおそれもある。したがって、実使用における反応特異性の実態が明らかになるまでの間は、本法によって水道水が陽性と判断された試料について、速やかに蛍光抗体染色―顕微鏡検査法による追加確認を行う必要がある。
(2) 操作法等については試薬キットの用法や使用上の注意に従う。
(3) 遺伝子増幅産物や陽性対照による汚染を防止するため、作業場所及び操作機器は、遺伝子検査試薬調製、核酸抽出、陽性対照添加の目的別に分けることが望ましい。また、増幅反応後のチューブを開封すること等により、増幅産物で試験環境を汚染しないよう十分注意する必要がある。したがって、本法に習熟するまでの間は、蛍光抗体染色―顕微鏡検査法により検出結果の確認を行うことが望ましい。
(4) 汚染の有無と試薬の機能を確認するため、陽性対照、陰性対照及び試料を別々のチューブで同時に反応させ、正しい結果が得られることを確認する。
(5) 核酸以外の夾雑物が混入した試料では遺伝子増幅が阻害されるおそれがあるので、遺伝子増幅反応への阻害物質の混入を極力防ぐ必要がある。そのためには、夾雑物が完全に除去されるまで免疫磁性体粒子とオーシスト等が結合した状態で繰り返し洗浄を行い、夾雑物の除去を徹底する。なお、夾雑物の混入を抑えるために抽出核酸試料の使用量を減らすと、阻害が回避できる場合がある。
(6) 免疫磁性体粒子法で塩酸解離した後の試料は、適切に中和し、必要により遠心洗浄を行なわなければ、遺伝子増幅反応が阻害されることがあるので注意する。免疫磁気ビーズから解離せずに抽出操作を行う場合は、磁気ビーズへの核酸の吸着があることを考慮する必要がある。
(7) 試料中の核酸は分解酵素により分解されるおそれがあるので、使用する試薬は、市販の調整済み試薬で、かつDNA分解酵素、RNA分解酵素を含まない分子生物学グレードのものとする。なお、試薬の保存は添付説明書の条件に従う。
(8) 試料と試薬の分解等を抑制するため、操作中は試料、試薬ともアイスバスのアルミブロック等で冷却して扱う。
(9) 核酸抽出した後、直ちに遺伝子増幅反応を行わない場合は、試料を凍結保存(-20℃前後)する。
付録1 精度管理のためのオーシスト等の添加実験
1 概要
水試料からのオーシスト等の回収率を算定するための実験で、オーシスト等の添加の実施方法について述べる。技術の確認、技術の向上、新しく導入する方法や改良法の評価、回収率に対する水試料の影響についての検討などに用いる。
2 オーシスト等の原液の濃度確認
原液中のオーシスト等の数は、血球計算板による計数か段階希釈法で予め調べておく。
2.1 血球計算板を用いる方法
1) 試薬及び器具
(1) オーシスト等の原液
(2) Buerker―Tuerk型血球計算板(又はimproved Neubauer型)
(3) 顕微鏡
(4) マイクロピペット
2) 操作
(1) オーシスト等は集塊をつくりやすいので、原液をミキサーで2分間攪拌し、均一な浮遊液とする。
(2) 血球計算板に専用のカバーグラスをNewton輪ができるようにすり合わせ、マイクロピペットを用いて、カバーグラスと血球計算板の間のチャンバー(上下2つ)へ原液10μLずつを注入する。オーシスト等が沈むまで2~3分静置する。
(3) 顕微鏡下400倍で、上部チャンバー内の分画(1mm2)の4隅と中央の計5区画中のオーシスト等の数を数える。
(4) 血球計算板の1mm2が0.1μLの液量に相当する場合、原液のオーシスト等の数(N)は以下の式で算出する。なお、オーシスト等の数は個/mLで表現する。
N=(5区画中のオーシスト等の数/5)×104
(5) 1区画中のオーシスト等の数が多すぎた場合は原液を適当に希釈して計数し直す。
(6) 同様に、(3)~(5)の方法に従って下部チャンバー内の5区画中のオーシスト等の数を数える。2つのチャンバーで得られたオーシスト等の数が大きく隔たっていないことを確認し、その算術平均値を持って原液中のオーシスト等の数とする。
(7) 血球計算板から注意深くカバーグラスを取り、洗浄液はビーカー等に受けるようにして血球計算板とカバーグラスを洗い流し、続いてアルコール綿で血球計算板とカバーグラスを十分に拭き、乾燥させる。この操作は手袋をはめて行い、洗浄液とアルコール綿はオートクレーブで滅菌する。
2.2 段階希釈による方法
1) 試薬及び器具
(1) オーシスト等の原液
(2) 精製水
(3) 蛍光染色に必要な試薬及び器具(4オーシスト等の検出 参照)
(4) 蛍光顕微鏡
(5) マイクロピペット
(6) 段階希釈用試験管:蓋付きサンプルチューブ1.5mLなど
2) 操作
(1) 試験管数本に精製水を900μLずつ分注する。
(2) 原液の100μLを上記の試験管の1本に入れ、十分撹拌する。
(3) (2)の希釈液から100μLを取り、別の精製水900μLの入った試験管に入れ、十分撹拌する。この操作を3、4回繰り返し、数段階の10倍段階希釈液を調製する。各希釈段階で使用するマイクロピペットのチップを必ず交換する。
(4) 各段階の希釈液の100μLを4.1.1又は4.1.2に準じて蛍光染色を施し、染色されたオーシスト等の数を数える注1)。
(5) 原液中のオーシスト等の数(N)は以下の式で算出する。なお、オーシスト等の数は個/mLで表現する。
N=(標本(100μL)中のオーシスト等の数)×(希釈倍数)×1mL/100μL
注1) 計数に用いる際の標本はオーシスト等が50~500個/mLとなるように希釈されていることが望ましい。
3 添加液の調製及び添加
3.1 添加液の調製
1) 試薬及び器具
(1) オーシスト等の原液
(2) 精製水
(3) 蛍光抗体染色に必要な試薬及び器具(4オーシスト等の検出参照)
(4) 蛍光顕微鏡
(5) マイクロピペット
2) 操作
(1) 100μL中のオーシスト等の数が100~500個程度の範囲内に入るように精製水で原液を希釈し、添加液とする。
(2) 添加液から100μLを5~10回取り、それぞれ試験方法に準じて蛍光染色を施し、各標本のオーシスト等の数を蛍光顕微鏡下で数える。得られた計測値から算術平均を求め、添加数とする。
3.2 添加
1) 器具
(1) 試料容器
(2) マイクロピペット
2) 操作
(1) 添加実験に用いる試料水が入ったスクリューキャップ付き試料容器に添加液100μLを加えて攪拌する。なお、河川水等を用いる場合、その試料水中にオーシスト等が既に含まれている可能性があるので、予め試料水中のオーシスト等の数を計数し、記録しておく。
(2) 回収率を算定しようとする試験方法でオーシスト等を回収し、オーシスト等の数を数える。
(3) 次の計算式で回収率を計算する。
備考 クリプトスポリジウムのオーシスト及びジアルジアのシストは病原体レベル分類で「レベル2」に位置付けられている(参考:国立感染症研究所病原体等安全管理規程)。したがって、生存オーシストを添加する場合の扱いは「レベル2」となり、「レベル2」に対応した封じ込め設備を具備した実験施設内での扱いが必要である。ただし、不活化(固定、熱処理、放射線、紫外線照射等)されたオーシスト等を扱う場合はこの限りではない。なお、水質試験のための試料は「レベル1」の扱いとなり、通常の実験室での試験でよい。
付録2 顕微鏡の取扱い
本試験方法で用いる顕微鏡には、蛍光装置、微分干渉装置、20、40、100倍の対物レンズが必要である。また、一般に接眼レンズは10倍が用いられる。このほか、粒子サイズ測定のために、接眼スケール又はその他の計測機器を付属させる。
1) 蛍光顕微鏡装置
落射型と透過型の2種類がある。落射型は不透明な支持体上の標本でも観察が可能で、メンブレンフィルターを用いた顕微鏡標本の観察には落射型を用いるのがよい。個々の蛍光色素は特有の励起波長を持った光の照射により励起光とは異なった(それよりも長波長の)蛍光を発する。したがって、染色に用いた蛍光色素に合わせて、励起波長と接眼フィルターを組み合わせる必要がある。
2) 微分干渉装置
微分干渉装置はポラライザー(偏光板)、2枚のDICプリズム、アナライザー(偏光板)からなり、それらが一般の生物顕微鏡に組み込まれる。光源として偏光が用いられ、光線が標本を通過する際に標本中の光学的厚さの差によって生じる光路差(二次光線の位相の差)をコントラストの差(又は色の差)に変換する装置で、通常は標本の厚さの差が明暗の差として観察される。顕微鏡観察に先立って、ケーラー照明法に準じた顕微鏡の調製が必要である。
ケーラー照明法
(1) 未調整の顕微鏡に染色標本を載せて焦点を合わせる。
(2) 視野絞りを絞り込み、視野に絞りの影を確認する。その際、コンデンサー絞りを適度に絞ると視野絞りの影が見やすくなる。
(3) コンデンサーを上下して、視野絞りの影が最もシャープに見える位置に固定する。
(4) 視野絞りの開口部を視野の中心に位置させる(センタリング)。
(5) 視野絞りを開ける。その際、開口率を80%程度に設定すると対物レンズのもつ解像力がほぼ完全に引き出される。
(6) 対物レンズを換えた場合には視野絞りを絞って、絞りの影が明瞭に見えることを確認する。
付録3 顕微鏡観察における蛍光フィルター選択と観察上の注意
顕微鏡観察においては、試料中に混在する藻類等の植物プランクトン粒子とオーシスト等との判別が困難な場合があることが知られている。これに対応するための蛍光フィルター選択と観察上の注意について述べる。
1 蛍光顕微鏡用フィルター
蛍光顕微鏡の使用に際しては、目的の蛍光を効率的に観察するために励起フィルターとバリアフィルターの選択、組み合わせが重要となる。
1.1 フィルターの種類
1) 帯域透過フィルター:決められた波長域の光のみを透過するように設計されたフィルターで、目的に応じて励起フィルター、バリアフィルターの両方に用いられる。狭い波長域のみを透過することから狭帯域(バンドパス)フィルターとも呼ばれる。
2) 長波長透過フィルター:決められた波長よりも長い波長域にある光を透過するように設計されたフィルターで、バリアフィルターに用いられる。広い波長域を透過することから広帯域(ロングパス)フィルターとも呼ばれる。
3) 短波長透過フィルター:決められた波長よりも短い波長域にある光を透過するように設計されたフィルターで、励起フィルターに用いられる。これも広帯域フィルターである。
このほかに多重励起用のフィルターも開発されている。
1.2 各種の蛍光色と観察用フィルターの関係
1) FITC染色像観察
FITCは励起光として468~505nm付近の光を吸収して501~541nm付近の緑色蛍光を発する蛍光色素である。したがって、観察には490nmよりも短波長側の光に対して透過特性を有する励起フィルターと、515nmよりも長波長側の光を透過するバリアフィルターの組み合わせ、すなわちB励起フィルター系(Blue Excitation)が用いられる。バリアフィルターとしてはロングパスフィルターとバンドパスフィルターのどちらも選択することができるが、観察像はフィルターの種類によって著しく異なる。ロングパスフィルターでは緑色から赤色までの色帯の蛍光を観察することができるのに対して、バンドパスフィルターでは緑色一色の像となる。
ところで、B励起光はFITCのみならず植物の含有する赤色系の蛍光色素クロロフィルやフィコビリン系の色素も励起する。したがって、バリアフィルターにロングパスフィルターを選択した場合、標本中に植物プランクトンがいればこれらの赤色自家蛍光も観察される。
2) DAPI染色像観察
核染色に用いられるDAPIは359nm付近の光を吸収して、461nmの蛍光(青色)を放出する色素である。したがって、観察にはUV励起フィルター系(UltraViolet Excitation)、すなわち励起フィルターに365nm以下の紫外光を透過する短波長透過フィルター、バリアフィルターには420nmよりも長波長側の光を透過するロングパスフィルターが用いられる。
3) 植物プランクトンの赤色自家蛍光観察
植物プランクトンにはフィコエリスリン、フィコシアニン等のフィコビリン系色素、あるいはクロロフィル系色素を含有しており、486~575nm付近の光を吸収し、568nm以上の橙色から赤色蛍光を発する。観察にはG励起フィルター系(Green Excitation)が用いられる。したがって、励起フィルターに546nm付近に透過性を有するバンドパスフィルター、バリアフィルターには590nmよりも長波長の光を透過するロングパスフィルターが用いられる。
2 検査用蛍光抗体試薬の選択
オーシスト等の検査用キットは数社から発売されている。いずれも壁に対する単クローン抗体を用いた試薬で、間接蛍光抗体染色試薬と直接蛍光抗体染色の2種類がある。後者の直接蛍光抗体染色試薬は糞便検査用に開発されたものが多いが、水道水等からのオーシスト等の検出にも用いることができる。
試薬キットによってはエバンス青やエリオクローム黒などの色素(赤色蛍光)をカウンター染色剤注1)として添加していることがある。その場合は壁を除く夾雑物が染色され、B、G励起下でいずれも赤色蛍光を発する。嚢子壁に傷がある場合や縫合線が開列している場合には内部構造が染色されて赤色の蛍光を発することがある。したがって、今後はカウンター染色剤の使用を控えることが望ましい。
また、かつてオーシスト等の生死判定用としてPI染色注2)が行われたことがあったが、生死判定にも効果的とは言えない。通常のオーシスト等の検出試験においてはカウンター染色剤と同様の理由で使用を控えることが望ましい。
注1) 市販のオーシスト等の検出用蛍光抗体試薬キットの中には非特異反応を抑えるためにカウンター染色用の色素を用いている製品があるが、カウンター染色剤にはもっぱら赤色系の蛍光色素が用いられている。
注2) 細胞の生死判定(核酸染色)にPropidium Iodide(PI)が用いられることがあるが、PIは536nm付近の光を吸収して、617nmの赤色蛍光を放出する色素であることから、観察にはG励起系フィルターが用いられる。
3 蛍光抗体試薬に非特異反応を示す植物プランクトンとの分別点
市販の蛍光抗体試薬は試料中に混在する藻類等の植物プランクトン粒子と非特異反応を示す例が知られている。稀に、微分干渉顕微鏡による内部構造観察においても酷似するものがあり、オーシスト等との判別が極めて難しいことがある。このような場合には通常のB励起フィルター系による観察と並行してG励起フィルター系での蛍光像観察を行うことが推奨される。
多くの植物プランクトンは細胞小器官内にクロロフィルやフィコビリン系(フィコエリスリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン等)、その他の色素を含有しており、G励起下で橙色から赤色の蛍光(自家蛍光)を発する。したがって、形態的に類似していても粒子の内部が赤色系の蛍光を発することが確認できればオーシスト等を否定することができる。
注意点
(1) 標本作製過程でアセトン処理や熱処理等が加えられると植物系色素の蛍光は減衰・変性する可能性がある。
(2) 植物由来の自家蛍光(赤色)を並行して観察するためにはカウンター染色剤の含有されていない試薬キットを用いること、PIによる二重染色を行わないことが必須条件となる。
(3) 長時間の励起光照射により植物プランクトンの自家蛍光も減衰するので注意すること。
(4) バリアフィルターにロングパスフィルターを用いた場合、同時に青から赤までの蛍光色が観察される場合もある。
付録4 遺伝子検出法におけるオーシスト等の定量
1 概要
水試料中のオーシスト等の数を求める定量PCR法について述べる。通常のオーシスト等の数を求めたい未知試料と濃度既知の比較的新鮮な原液試料から同一の方法で核酸抽出と遺伝子増幅反応を行い、Ct値(定量PCRの蛍光による遺伝子検出に要するサイクル数)を測定する。オーシスト等の数とCt値の関係から検量線を作成する。この検量線を用いて、未知試料のCt値からオーシスト等の数を算出する。
2 オーシスト等の原液の濃度確認
付録1 2に同じ。
3 オーシスト等の希釈系列の調製及び検量線作成
1) 試薬及び器具
(1) オーシスト等の原液:ホルマリン固定されていないもの
(2) 核酸抽出に必要な試薬及び器具
(3) 核酸抽出した未知試料
2) 操作
(1) 原液から核酸抽出を行い、RT―PCR法の場合は概ね10-4~101個相当/5μLの濃度範囲となるように、TE緩衝液を用いて10倍希釈系列を作成する。
(2) 各希釈試料及び未知試料から遺伝子増幅反応を行い、Ct値を測定する。
(3) 片対数グラフに、反応チューブあたりのオーシスト等の数(対数軸)とCt値との関係を座標にとり、回帰直線を検量線とする。
(4) 作成した検量線を用いて、未知試料の反応チューブ内のオーシスト等の数を算出する。液量、希釈操作等の定数を考慮して、未知試料水中のオーシスト等の数を計算により求める。
[参考]検査室におけるクリプトスポリジウム等の感染防止方法
クリプトスポリジウムオーシスト1個を経口摂取したときの感染確率は4~16%(USEPA.National Primary Drinking Water Regulations: Long Term 2 Enhanced Surface Water Treatment Rule; Final Rule. 71 FR 654, January 5, 2006.)、ジアルジアシスト1個では2%(Rose JB, Haas CN,Regli S (1991). Risk assessment and control of waterborne giardiasis. American Journal of Public Health, 81:709.713.)と計算されており、いずれも感染力の強い病原体である。また、熱や乾燥によりオーシスト等は失活するが、検査室などで使用する消毒液には強い抵抗性を示す。このため、検査に当たっては無菌操作など感染防止に必要な技術を修得した者が担当することとし、バイオハザード対策に関する以下の諸点に留意しなければならない。
(5) 汚染の疑われる試料水の採取においてはゴム手袋を着用する。
(6) 採水等に使用した用具はビニール袋に入れて持ち帰り、加熱処理(5分以上煮沸)した後、洗浄して使用又は廃棄する。
(7) 試料水の取り扱いにおいてはその飛散に注意する。
(8) 試料水及び検査に使用した器具で熱処理の可能なものは70℃以上で10分間程度の加温処理を行う。また、検査に使用した上清液等の廃液は所定の方法で処理する。
(9) 検査者の手指や身体の一部がオーシスト等で汚染されたときはアルコール綿等で拭いた後、石けんで洗浄し、紙タオル等で拭いてからよく乾燥させる。
(10) 実験台や器材がオーシスト等で汚染されたときも同様にアルコール綿等でよく拭き、十分に乾燥させる。
(11) 使用したアルコール綿や紙タオル等はオートクレーブ処理か、焼却処分する。
(12) 検査室内にサンプラー管が引かれている場合は、返送水等が汚染されないように十分に注意する。
(13) クリプトスポリジウム等による感染者は水源地、取水施設、浄水施設及び配水施設への立ち入りは無論、検査や業務に従事してはならない。
(14) 試験に用いられる試薬類には発癌性を示すものがあり、検査担当者本人の汚染を回避するのみならず、環境汚染を招かないように廃棄処理を徹底する必要がある。