添付一覧
○医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について〔医師法〕
(平成19年12月28日)
(医政発第1228001号)
(各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知)
近年、医師の業務については、病院に勤務する若年・中堅層の医師を中心に極めて厳しい勤務環境に置かれているが、その要因の一つとして、医師でなくても対応可能な業務までも医師が行っている現状があるとの指摘がなされているところである。また、看護師等の医療関係職については、その専門性を発揮できていないとの指摘もなされている。
良質な医療を継続的に提供していくためには、各医療機関に勤務する医師、看護師等の医療関係職、事務職員等が互いに過重な負担がかからないよう、医師法(昭和23年法律第201号)等の医療関係法令により各職種に認められている業務範囲の中で、各医療機関の実情に応じて、関係職種間で適切に役割分担を図り、業務を行っていくことが重要である。
このため、今般、医師等でなくても対応可能な業務等について下記のとおり整理したので、貴職におかれては、その内容について御了知の上、各医療機関において効率的な業務運営がなされるよう、貴管内の保健所設置市、特別区、医療機関、関係団体等に周知方願いたい。
なお、今後も、各医療機関からの要望や実態を踏まえ、医師、看護師等の医療関係職、事務職員等の間での役割分担の具体例について、適宜検討を行う予定であることを申し添える。
記
1.基本的考え方
各医療機関においては、良質な医療を継続的に提供するという基本的考え方の下、医師、看護師等の医療関係職の医療の専門職種が専門性を必要とする業務に専念することにより、効率的な業務運営がなされるよう、適切な人員配置の在り方や、医師、看護師等の医療関係職、事務職員等の間での適切な役割分担がなされるべきである。
以下では、関係職種間の役割分担の一例を示しているが、実際に各医療機関において適切な役割分担の検討を進めるに当たっては、まずは当該医療機関における実情(医師、看護師等の医療関係職、事務職員等の役割分担の現状や業務量、知識・技能等)を十分に把握し、各業務における管理者及び担当者間においての責任の所在を明確化した上で、安全・安心な医療を提供するために必要な医師の事前の指示、直接指示のあり方を含め具体的な連携・協力方法を決定し、関係職種間での役割分担を進めることにより、良質な医療の提供はもとより、快適な職場環境の形成や効率的な業務運営の実施に努められたい。
2.役割分担の具体例
(1) 医師、看護師等の医療関係職と事務職員等との役割分担
1) 書類作成等
書類作成等に係る事務については、例えば、診断書や診療録のように医師の診察等を経た上で作成される書類は、基本的に医師が記載することが想定されている。しかしながら、①から③に示すとおり、一定の条件の下で、医師に代わって事務職員が記載等を代行することも可能である。
ただし、医師や看護師等の医療関係職については、法律において、守秘義務が規定されていることを踏まえ、書類作成における記載等を代行する事務職員については、雇用契約において同趣旨の規定を設けるなど個人情報の取り扱いについては十分留意するとともに、医療の質の低下を招かないためにも、関係する業務について一定の知識を有した者が行うことが望ましい。
他方、各医療機関内で行われる各種会議等の用に供するための資料の作成など、必ずしも医師や看護師等の医療関係職の判断を必要としない書類作成等に係る事務についても、医師や看護師等の医療関係職が行っていることが医療現場における効率的な運用を妨げているという指摘がなされている。これらの事務について、事務職員の積極的な活用を図り、医師や看護師等の医療関係職を本来の業務に集中させることで医師や看護師等の医療関係職の負担の軽減が可能となる。
① 診断書、診療録及び処方せんの作成
診断書、診療録及び処方せんは、診察した医師が作成する書類であり、作成責任は医師が負うこととされているが、医師が最終的に確認し署名することを条件に、事務職員が医師の補助者として記載を代行することも可能である。また、電磁的記録により作成する場合は、電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)第2条第1項に規定する電子署名をもって当該署名に代えることができるが、作成者の識別や認証が確実に行えるよう、その運用においては「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を遵守されたい。
② 主治医意見書の作成
介護保険法(平成9年法律第123号)第27条第3項及び第32条第3項に基づき、市町村等は要介護認定及び要支援認定の申請があった場合には、申請者に係る主治の医師に対して主治医意見書の作成を求めることとしている。
医師が最終的に確認し署名することを条件に、事務職員が医師の補助者として主治医意見書の記載を代行することも可能である。また、電磁的記録により作成する場合は、電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)第2条第1項に規定する電子署名をもって当該署名に代えることができるが、作成者の識別や認証が確実に行えるよう、その運用においては「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を遵守されたい。
③ 診察や検査の予約
近年、診察や検査の予約等の管理に、いわゆるオーダリングシステムの導入を進めている医療機関が多く見られるが、その入力に係る作業は、医師の正確な判断・指示に基づいているものであれば、医師との協力・連携の下、事務職員が医師の補助者としてオーダリングシステムへの入力を代行することも可能である。
2) ベッドメイキング
保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第5条に規定する療養上の世話の範疇に属さない退院後の患者の空きのベッド及び離床可能な患者のベッドに係るベッドメイキングについては、「ベッドメイキングの業務委託について(回答)」(平成12年11月7日付け医政看発第37号・医政経発第77号。以下「業務委託通知」という。)において示しているとおり、看護師及び准看護師(以下「看護職員」という。)以外が行うことができるものであり、業者等に業務委託することも可能である。
ただし、入院患者の状態は常に変化しているので、業務委託でベッドメイキングを行う場合は、業務委託通知において示しているとおり、病院の管理体制の中で、看護師等が関与して委託するベッドの選定を行うなど、病棟管理上遺漏のないよう十分留意されたい。
3) 院内の物品の運搬・補充、患者の検査室等への移送
滅菌器材、衛生材料、書類、検体の運搬・補充については、専門性を要する業務に携わるべき医師や看護師等の医療関係職が調達に動くことは、医療の質や量の低下を招き、特に夜間については、病棟等の管理が手薄になるため、その運搬・補充については、看護補助者等の活用や院内の物品運搬のシステムを整備することで、看護師等の医療関係職の業務負担の軽減に資することが可能となる。その際には、院内で手順書等を作成し、業務が円滑に行えるよう徹底する等留意が必要である。
また、患者の検査室等への移送についても同様、医師や看護師等の医療関係職が行っている場合も指摘されているが、患者の状態を踏まえ総合的に判断した上で事務職員や看護補助者を活用することは可能である。
4) その他
診療報酬請求書の作成、書類や伝票類の整理、医療上の判断が必要でない電話対応、各種検査の予約等に係る事務や検査結果の伝票、画像診断フィルム等の整理、検査室等への患者の案内、入院時の案内(オリエンテーション)、入院患者に対する食事の配膳、受付や診療録の準備等についても、医師や看護師等の医療関係職が行っている場合があるという指摘がなされている。事務職員や看護補助者の積極的な活用を図り、専門性の高い業務に医師や看護師等の医療関係職を集中させることが、医師や看護師等の医療関係職の負担を軽減する観点からも望ましいと考えられる。
また、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)の遵守等、事務職員の適切な個人情報の取り扱いについて十分留意されたい。
(2) 医師と助産師との役割分担
保健師助産師看護師法において、助産師は助産及びじょく婦及び新生児の保健指導を担っているものである。医師との緊密な連携・協力関係の下で、正常の経過をたどる妊婦や母子の健康管理や分娩の管理について助産師を積極的に活用することで、産科医療機関における医師の業務負担を軽減させることが可能となる。こうした産科医療機関における医師の業務負担の軽減は、医師が医師でなければ対応できない事案により専念できることにより、医師の専門性がより発揮されることを可能とするとともに、地域のより高次の救急医療を担う医療機関における産科医師の負担の軽減にも資することとなる。
特に医療機関においては、安全・安心な分娩の確保と効率的な病院内運用を図るため、妊産婦健診や相談及び院内における正常分娩の取扱い等について、病院内で医師・助産師が連携する仕組みの導入も含め、個々の医療機関の事情に応じ、助産師がその専門性を発揮しやすい環境を整えることは、こうした業務分担の導入に際し有効なものである。
医師と助産師の間で連携する際には、十分な情報の共有と相互理解を構築するとともに、業務に際しては母子の安全の確保に細心の注意を払う必要があることは当然の前提である。
(3) 医師と看護師等の医療関係職との役割分担
医師と看護師等の医療関係職との間の役割分担についても、以下のような役割分担を進めることで、医師が医師でなければ対応できない業務により集中することが可能となる。また、医師の事前指示やクリティカルパスの活用は、医師の負担を軽減することが可能となる。
その際には、医療安全の確保の観点から、個々の医療機関等毎の状況に応じ、個別の看護師等の医療関係職の能力を踏まえた適切な業務分担を行うことはもとより、適宜医療機関内外での研修等の機会を通じ、看護師等が能力の研鑽に励むことが望ましい。
1) 薬剤の投与量の調節
患者に起こりうる病態の変化に応じた医師の事前の指示に基づき、患者の病態の変化に応じた適切な看護を行うことが可能な場合がある。例えば、在宅等で看護にあたる看護職員が行う、処方された薬剤の定期的、常態的な投与及び管理について、患者の病態を観察した上で、事前の指示に基づきその範囲内で投与量を調整することは、医師の指示の下で行う看護に含まれるものである。
2) 静脈注射
医師又は歯科医師の指示の下に行う看護職員が行う静脈注射及び、留置針によるルート確保については、診療の補助の範疇に属するものとして取り扱うことが可能であることを踏まえ、看護職員の積極的な活用を図り、医師を専門性の高い業務に集中させ、患者中心の効率的な運用に努められたい。
なお、薬剤の血管注入による身体への影響は大きいことから、「看護師等による静脈注射の実施について」(平成14年9月30日医政発第0930002号)において示しているとおり、医師又は歯科医師の指示に基づいて、看護職員が静脈注射を安全にできるよう、各医療機関においては、看護職員を対象とした研修を実施するとともに、静脈注射の実施等に関して、施設内基準や看護手順の作成・見直しを行い、また、個々の看護職員の能力を踏まえた適切な業務分担を行うことが重要である。
3) 救急医療等における診療の優先順位の決定
夜間・休日救急において、医師の過重労働が指摘されている現状を鑑み、より効率的運用が行われ、患者への迅速な対応を確保するため、休日や夜間に診療を求めて救急に来院した場合、事前に、院内において具体的な対応方針を整備していれば、専門的な知識および技術をもつ看護職員が、診療の優先順位の判断を行うことで、より適切な医療の提供や、医師の負担を軽減した効率的な診療を行うことが可能となる。
4) 入院中の療養生活に関する対応
入院中の患者について、例えば病棟内歩行可能等の活動に関する安静度、食事の変更、入浴や清拭といった清潔保持方法等の療養生活全般について、現在行われている治療との関係に配慮し、看護職員が医師の治療方針や患者の状態を踏まえて積極的に対応することで、効率的な病棟運営や患者サービスの質の向上、医師の負担の軽減に資することが可能となる。
5) 患者・家族への説明
医師の治療方針の決定や病状の説明等の前後に、看護師等の医療関係職が、患者との診察前の事前の面談による情報収集や補足的な説明を行うとともに、患者、家族等の要望を傾聴し、医師と患者、家族等が十分な意思疎通をとれるよう調整を行うことで、医師、看護師等の医療関係職と患者、家族等との信頼関係を深めることが可能となるとともに、医師の負担の軽減が可能となる。
また、高血圧性疾患、糖尿病、脳血管疾患、うつ病(気分障害)のような慢性疾患患者においては、看護職員による療養生活の説明が必要な場合が想定される。このような場合に、医師の治療方針に基づき看護職員が療養生活の説明を行うことは可能であり、これにより医師の負担を軽減し、効率的な外来運営が行えるとともに、患者のニーズに合わせた療養生活の援助に寄与できるものと考える。
6) 採血、検査についての説明
採血、検査説明については、保健師助産師看護師法及び臨床検査技師等に関する法律(昭和33年法律第76号)に基づき、医師等の指示の下に看護職員及び臨床検査技師が行うことができることとされているが、医師や看護職員のみで行っている実態があると指摘されている。
医師と看護職員及び臨床検査技師との適切な業務分担を導入することで、医師等の負担を軽減することが可能となる。
7) 薬剤の管理
病棟等における薬剤の在庫管理、ミキシングあるいは与薬等の準備を含む薬剤管理について、医師や看護職員が行っている場合もあると指摘されているが、ミキシングを行った点滴薬剤等のセッティング等を含め、薬剤師の積極的な活用を図り、医師や看護職員の業務を見直すことで、医療安全の確保及び医師等の負担の軽減が可能となる。
8) 医療機器の管理
生命に影響を与える機器や精密で複雑な操作を伴う機器のメンテナンスを含む医療機器の管理については、臨床工学技士法(昭和62年法律第60号)に基づき、医師の指示の下、臨床工学技士が行うことができるとされているところであるが、医師や看護職員のみで行っている実態も指摘されている。臨床工学技士の積極的な活用を図り、医師や看護職員の業務を見直すことで、医療安全の確保及び医師等の負担の軽減が可能となる。