添付一覧
○国際共同治験に関する基本的考え方について
(平成19年9月28日)
(薬食審査発第0928010号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
従来、我が国においては、ICH―E5ガイドラインに基づく「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因について(平成10年8月11日医薬審第762号厚生省医薬安全局審査管理課長通知)」により、いわゆる「ブリッジング」による海外臨床試験成績を承認申請資料として活用することを認めており、また、欧米諸国における市販後調査等の結果についても必要に応じ承認審査に際して活用しているところである。
他方、総合科学技術会議報告書「科学技術の振興及び成果の社会への還元に向けた制度改革について(平成18年12月)」においては、新規医薬品開発の効率化・迅速化の観点から外国との国際共同治験を推進すべき旨指摘しており、また、厚生労働大臣の検討会報告書「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会報告書(平成19年7月)」においては、「ドラッグ・ラグ(欧米で承認されている医薬品が我が国では未承認であって国民に提供されない状況)」解消のためには、国際共同治験の推進を図る必要があり、承認審査の観点から必要な国際共同治験実施に当たっての基本的考え方を明らかにする必要がある旨、指摘している。
このような状況を踏まえ、今般、独立行政法人医薬品医療機器総合機構における対面助言等の国際共同治験に関する現時点の知見について、別添「国際共同治験に関する基本的考え方」としてとりまとめたので、貴管下製造販売業者等の業務に活用するよう、周知方お願いする。
なお、本通知の写しを日本製薬団体連合会他関連団体宛てに発出していることを申し添える。
(別添)国際共同治験に関する基本的考え方
はじめに
我が国では、ICH―E5ガイドライン(「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因について」平成10年8月11日医薬審第672号厚生省医薬安全局審査管理課長通知)が公表されて以来、ブリッジング開発戦略を通じて、医薬品の種類、対象疾患領域及び臨床開発の国際的進展状況に応じ、国内外の治験データを活用する知識及び経験が着実に蓄積しつつある。このような知識及び経験を生かし、近年、開発初期の段階から国際共同治験の実施を含めた開発戦略を採用するケースが増加しつつあり、日本における医薬品の開発戦略は、今後さらに多様化するものと考えられる。
我が国では、現在、国内での新薬承認時期が諸外国よりも数年遅いという問題(「ドラッグ・ラグ」)が深刻化しており、この問題を本質的に解消するためには、我が国における医薬品の開発時期を諸外国と同調させる必要がある。このための有効な手段の一つとして、日本が国際共同治験に早期から参加することが考えられる。これにより日本での医薬品開発が促進され、「ドラッグ・ラグ」が解消できれば、日本の患者が有効で安全な医薬品を諸外国に遅れることなく使用できるようになると考えられ、日本における薬剤治療レベルの向上及び公衆衛生の向上に大きく寄与するものと考えられる。
日本を含む国際共同治験を推進するため、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「総合機構」という。)は、平成18年度より国際共同治験に関する対面助言の予約申込みに際して優遇措置を講じている。国際共同治験の実施を前提とした治験デザイン、治験データ等の取扱いについて、総合機構と企業との間で、個々のケースに応じた検討を行うことは重要であり、これまでも対面助言を通じて対応してきたところであるが、今般、これまでの個々の事例等を踏まえ、国際共同治験を計画・実施する際の基本的な考え方をとりまとめることとしたものである。
本文書は、国際共同治験に関する現時点における基本的な考え方をまとめたものであり、企業における検討を促進し、日本の積極的な国際共同治験への参加を推進することに資するものと考える。
なお、本文書に挙げた各事項は、現時点における科学的知見に基づいて検討されたものであり、今後の状況の変化、科学技術の進歩等に応じて随時見直され、改訂されるべきものであることに留意する必要がある。
適用範囲
本文書は、主に、新規の医薬品を今後開発する場合を想定しているが、既に諸外国において第Ⅱ相又は第Ⅲ相臨床試験が終了し、外国人に関する一定のデータが得られている場合にも適用可能な事項も含まれている。
基本的考え方
国際共同治験は、国内臨床試験とは異なり、様々な地域及び民族にまたがって臨床試験が実施されるため、その治験計画に際しては、民族的要因を考慮して計画することが必要である。したがって、ICH―E5ガイドラインで述べられている事項を検討することは、国際共同治験を計画する場合にも有用である。ブリッジングの考え方については、諸外国で開発が先行している場合のみならず、国際共同治験のように同時期に実施する場合にも適用可能である。この考え方は、ICH―E5ガイドラインのQ&A(「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因についての指針」に関するQ&Aについて(その2)平成18年10月5日厚生労働省医薬食品局審査管理課事務連絡)の質問11において明確に示されているので参照されたい。
国際共同治験を計画・実施する際の基本的な考え方については、以下にQ&A形式で示すこととするが、これらは一般的な原則を示すものであり、最適な開発戦略は個々の医薬品で異なることも想定される。個々のケースにおいては、開発戦略、試験デザイン等、本文書に掲げられた事項を予め検討すべきであり、可能な限り早期に総合機構との対面助言を活用すべきである。
なお、この文書において「国際共同治験」とは、新規の医薬品の世界的規模での開発及び承認を目指して企画される治験であって、一つの治験に複数の国や地域の医療機関が参加し、共通の治験実施計画書に基づき、同時並行的に進行するものを言う。
1.国際共同治験を実施する上での基本的な要件は何か? |
以下のすべての条件を満たすことが必要である。
・ 参加するすべての国、医療機関等でICH―GCPに準拠した臨床試験が実施可能であること。
・ 参加するすべての国、医療機関等で日本からのGCP実地調査を受入れ可能であること。
・ 治験薬の有効性及び安全性に影響を及ぼしうる要因(人種、地域、患者背景等)を予め検討するとともに、当該要因に関する部分集団解析が実施可能であり、適切な考察が可能であること。
・ 慣習などの社会的相違や試験の管理・運営等各施設における治験実施状況を適切に把握でき、認められた差異が試験結果に影響を及ぼしうるものであるかどうかについて、適切に考察可能な状況であること。
2.日本はいつからグローバル開発に参加すべきか? |
世界的に進行している臨床開発について、できるだけ早期に参加することが望ましい。このため、遅くとも用量反応性を探索的に検討する段階の試験から参加できるよう予め検討しておくことが重要である。
3.削除 |
4.海外臨床試験成績に基づき用量設定を行い、国内での用量反応試験を実施せずに、検証的な第Ⅲ相試験から日本人を組み入れるという開発計画は受入れ可能か? |
これまでの承認事例及びICH―E5ガイドラインに基づく承認審査の経験等を踏まえると、日本人と外国人との間で薬物の体内動態等が異なることもあり、また、外国人での臨床試験結果に基づき設定された推奨用量が日本人での推奨用量であると結論付けることは困難である場合もみられることから、質問のような開発計画を基本的考え方とすることは有効かつ安全な医薬品を日本人患者の元へ届けるという本来の目的からして適切ではない。
したがって、開発を円滑に進め、日本における承認時期を諸外国と同時期とするためには、用量反応試験に日本人の患者等を組み入れ、民族間での用量反応性の差異を臨床開発の早期に同定し、その後の検証的試験を計画することが望まれる。また、仮に日本人と外国人とで推奨用量が異なっている場合、各地域ごとに設定した用量について、有効性及び安全性の検証が同等に扱えることを適切に説明できるのであれば、その後の第Ⅲ相国際共同治験(検証的試験)において各地域での結果を統合し主要な解析集団として取り扱うことも可能である。
なお、PK(pharmacokinetics)に類似性があり、PKと臨床効果との関連が明らかとなっているPD(pharmacodynamics)との間で相関性が示されているような場合等には、臨床効果を指標とした日本人での用量反応試験は必ずしも必要ないと考えられる。
(注)希少疾病用医薬品又は生命に関わるような疾患で他の治療法が確立していないような場合、そもそも国内での用量反応試験を行うことが困難な場合があり、このような場合には、医師の厳重な管理下で第Ⅲ相試験を行うなどの工夫を検討すべきである。
5.国際共同治験を計画する場合の基本的な留意事項は何か? |
基本的には以下の事項について留意すべきである。なお、詳細については、ICH―E5ガイドラインのQ&Aの質問11を参照されたい。
・ 国際共同治験を実施する場合には、それぞれの地域における民族的要因が治験薬の有効性及び安全性に及ぼす影響について評価し、また、日本人における治験薬の有効性及び安全性について評価できるよう計画することが必要である。
・ 実施する国際共同治験のデザイン及び解析方法が我が国にとって受入れ可能なものであることが必要である。
・ 主要評価項目は、各地域に許容されているものであるべきであり、主要評価項目が地域により異なる場合には、すべての地域においてすべての主要評価項目に関するデータを収集し、地域間での差異を検討できるようにすべきである。
・ 安全性評価を適切に実施するため、全地域での有害事象の収集方法及び評価方法をできる限り統一すべきである。
6.用量反応試験等の探索的な試験あるいは検証的な試験を国際共同治験として実施する場合に、症例数の設定及び日本人の症例の割合の決定はどのようにすることが適切であるか? |
・ 国際共同治験では、全集団での結果を前提とした症例数の設定も可能であり、日本人の部分集団において統計的な有意差を検出するだけの検出力を必ずしも確保する必要はない。しかし、検証的試験での主要な解析対象を全集団として規定する場合には、各地域での集団ではなく、全地域での集団を一つの集団としてみなすことができると考えた根拠を説明する必要がある。
・ 仮に日本人の部分集団での結果が、全集団での結果と著しく乖離している場合にはその理由を十分検討すべきであり、必要に応じさらなる臨床試験の実施も考慮すべきであることから、このような場合には、総合機構における対面助言を活用することが推奨される。
・ 国際共同治験は、全集団での結果と日本人集団での結果に一貫性が得られるよう計画すべきであり、各地域での一貫性が担保されることで、全集団での結果を適切に各地域に外挿することが可能となると考えられる。
・ したがって、症例数については、一般的に推奨できる方法は現時点で確立されておらず、実施地域の数、試験規模、対象疾患、全体での症例数と日本人症例数との割合等を考慮して決定することが必要である。例えば、国際共同治験を計画する際に全集団と日本人集団において一貫した結果が得られる可能性を考慮する方法として、定量的な評価変数を用いたプラセボ対照試験を例にとると以下のような方法があると考えられる。
(1) 方法1:プラセボ群と治験薬群での群間差をD、その場合の全集団での群間差をDall、日本人集団における群間差をDJapanとすると、DJapan/Dall>πが成立するような確率が80%以上となるように日本人症例数を設定する。πについては、適切な値を設定する必要があるが、一般的には0.5以上の値をとることが推奨される。この方法では、日本人症例数を最小にしようとすると、全体での症例数が増加し、全体での症例数を最小にしようとすると日本人症例数が増加するという関係が認められる。
(2) 方法2:全集団におけるプラセボ群と治験薬群での群間差をDall、例えば3地域が試験に参加し、各地域でのプラセボ群と治験薬群での群間差をそれぞれD1、D2、D3とすると、D1、D2、D3が全て同様の傾向にあることを示す。例えばDallが正の値をとるとすると、D1、D2、D3のいずれの値も0を上回る確率が80%以上となるように症例数を設定する。この方法では、各地域から均等に症例数を集積した場合に、確率が高くなるという傾向があり、全体の症例数を変更することなく日本人症例数を検討することが可能であるが、日本人の構成比率が小さく、症例数が少ない場合に、地域間比較が十分に行えない場合があることに留意すべきである。
(参考)例えば、数百例程度を対象に、プラセボを対照とした2群での並行群間比較試験を実施する場合、各地域での有効性が同様であると仮定すると、試験結果に基づき科学的に適切な評価を行うためには、方法1においては、全体の症例数の増加を適度に抑制しながら日本人症例数を最小としようとする場合、およそ20%の症例を確保することが必要になる。また、方法2の場合には、全集団での検出力を90%として3地域で実施するのであれば、日本人症例数としておよそ15%以上を確保することが必要になる。
(注)個々のケースにおける具体的な目標症例数の設定については、総合機構と相談することが可能である。
7.国際共同治験においては、諸外国では確立されているが、我が国ではまだ確立されていないような指標であっても、主要評価項目とせざるを得ない場合もあるが、このような場合でもその指標は受け入れ可能か? |
そのような場合が想定されるのであれば、できる限り早期に国内でパイロット試験等を実施し、海外臨床試験結果と同様の反応が得られるかどうか確認しておく必要があると考えられる。また、国際共同治験実施前には、予め統一的な評価方法に関する研修プログラムを作成し、実施するなど、評価者間、施設間、各地域間での差を最小限にする工夫が必要である。質問のような場合、何ら国内での検討がない状況で国際共同治験に参加することは、日本での成績が適切に得られないばかりか、試験全体に悪影響を及ぼす可能性があることに留意すべきである。
8.日本を含まない諸外国で既に実施されている国際共同治験と同一のプロトコルによる小規模の国内治験を別途実施し、それらの結果をもって国内外での有効性及び安全性が同様と結論付けることは可能か? |
既に海外で実施されている臨床試験があって、国内試験結果とは別に解析が実施されるような場合には、一般的に別試験として考えるべきである。このような場合、設定されている主要評価項目が適切であるとの前提で、国内で統計的な検討も実施できるよう症例数を確保したブリッジング試験をプロスペクティブに計画・実施し、ICH―E5ガイドラインに基づき、海外臨床試験成績との差異等について検討することが適切であると考えられる。
9.第Ⅲ相の検証的な国際共同治験での対照群について (1) 国際共同治験でプラセボのみが対照群と設定されている場合があるが、そのような場合においても日本では別途実薬を対照群として設定することが必要であるか? (2) 対照群として用いられる実薬が国際的な標準薬であっても、国内では未承認の場合があるが、このような場合に国内での対照薬をどのように設定すべきか? |
(1) 原則としてその必要はなく、治験薬のプラセボに対する優越性が検証され、全集団と日本人集団との間で一貫した結果が得られるよう臨床試験を計画することが適切である。なお、別途実薬を対照とした比較試験成績があれば、治験薬の臨床的位置づけが明確になる場合もあると考えられるが、臨床的位置付けについては他の方法によって説明可能な場合もあり、一律にそのような試験の実施を求めるものではない。
(2) 用いようとしている実薬が国際的に標準薬であることが諸外国等のガイドライン等の記載から客観的に説明できるのであれば、国内で未承認の医薬品であっても、治験における対照薬として試験を実施することは可能であるが、当該未承認薬が日本人にどのような影響を及ぼすか、特に当該未承認薬の安全性について予め検討しておく必要がある。なお、非劣性検証を目的とした試験における結果の解釈については慎重に判断する必要があるので、当該未承認の対照薬の有効性・安全性に関するデータ、特に日本で既承認である医薬品と当該未承認薬の相違等について、可能な限り情報を収集し、得られる結果の日本人患者への外挿性を予め検討しておくことが望ましい。
10.国際共同治験で設定される併用薬、併用療法等を完全に国内外で同一に設定することは困難であるが、どのように設定することが適切であるか? |
併用薬、併用療法といっても多種多様であり、一概に回答することは困難であるので、2つの例を挙げることとする。
なお、いずれの場合についても、併用薬の用法用量の妥当性について、個々のケースに応じた十分な検討が必要である。その前提の上で、実施しようとする国際共同治験の計画の根拠が諸外国におけるエビデンスに大きく依存しているような場合には、基本的には、諸外国と同一の併用薬、併用療法等を用いて国内での臨床試験を実施する方が理論的であり、かつ試験の成功率を高めるものと考えられる。
(1) 抗がん剤の併用療法のように、治療域が狭く毒性の強い薬剤同士を併用するような場、国内外で厳密に同一の用法・用量を設定することが望ましい。
(2) ある疾患に対して用いられる標準的治療法として通常併用される薬剤又は治療法については、各地域の用法・用量を同一に規定することが困難であることも想定される。このような場合、必要最小限の差異については許容可能であるが、これらの差異が治験薬の有効性及び安全性に及ぼす影響を最小限にとどめるため、併用時の用法・用量等を前観察期も含めて治験期間中は変更せず、患者ごとに一定にするなどの配慮が必要である。
11.国際共同治験を実施することが望ましい領域はあるか? |
どのような領域であっても国際共同治験を実施することは可能であるが、希少疾病等の国内で大規模な検証試験を実施することが困難と考えられる疾患であれば、より積極的に国際共同治験の実施を検討すべきである。これまでは国内で少数例の使用経験的な試験が実施されている場合もあったが、このような開発戦略よりも、国際共同治験の中に可能な限り多くの日本人の症例を組み入れ、より適切な臨床試験デザインに基づくエビデンスを構築することが望ましい。また、希少疾病でなくても、生存率等の真の臨床的エンドポイントを用いた臨床試験で症例数が数千例規模に上る場合等、世界的にも症例の集積に時間を要すると予想される時には、日本も積極的に参加してエビデンスの構築に貢献することも考えられる。このような方策をとることで、最終的には各地域での承認申請時期を同様とすることが可能になると考えられる。
12.国際共同治験を実施することの適否を判断する上で、参考となるフローチャートはあるか? |
数多くの例外があると想定され、万能なアプローチは存在せず、個別に判断することが適切であると考えるが、現時点での一般的な考え方としては、下図のようなフローチャートが参考になると思われる。
なお、図中画像1 (1KB)
で示した事項は、同一疾患に対する先行試験の結果等からも確認可能な場合があると考えられる事項であり、また、重大な相違及び影響の有無については、実施された臨床試験のデザインや各集団での比較等も踏まえて判断する必要がある。