アクセシビリティ閲覧支援ツール

添付一覧

添付画像はありません

○「過活動膀胱治療薬の臨床評価方法に関するガイドライン」について

(平成18年6月28日)

(薬食審査発第0628001号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)

医薬品の承認申請の目的で実施される過活動膀胱治療薬の臨床試験の評価方法として、その標準的方法を別添の通り取りまとめましたので、貴管下関係業者に対して周知方お願いいたします。

なお、学問上の進歩等を反映した合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしもここに示した方法を固守するよう求めるものではないことを申し添えます。

[別添]

過活動膀胱治療薬の臨床評価方法に関するガイドライン

1.緒言

膀胱の機能障害をきたす重要な病態のひとつに、過活動膀胱が挙げられる。最近、過活動膀胱の疾患概念が再検討され、過活動膀胱を症状症候群として定めるようになった。これに伴い、過活動膀胱の治療薬の評価に関して一定の基準が求められている。

本ガイドラインは、新たな定義による過活動膀胱の治療薬を開発するにあたって、開発に関する臨床試験(以下、「治験」という)の計画、実施及び評価に関わる要点をまとめたものである。過活動膀胱の治験が科学的かつ倫理的に、適正に実施されるために、本ガイドラインが役立つ事を願うものである。

なお、本ガイドラインは現時点において妥当とされる科学的知見に基づき作成されたが、過活動膀胱の研究の進歩に伴い、新しい検査法、治療法が導入されることも予想される。したがって、合理的な根拠がある場合には、本ガイドラインに拘ることなく、柔軟な対応が望まれる。

2.過活動膀胱の特徴

(1) 疾患の概念

従来の過活動膀胱の診断は、尿流動態検査において排尿筋過活動を確認することで行われてきた。しかし、診断のために尿流動態検査という専門的な検査が必要なこと、その検査結果と症状との関連性が必ずしも高くないこと等が指摘されるようになった。このような状況を踏まえ、過活動膀胱の診断を症状に基づいて行うように改められた。

新たな定義によると、過活動膀胱とは、尿意切迫感・頻尿・切迫性尿失禁で構成される症状症候群を呈する病的状態である。症状症候群の構成では、尿意切迫感が必須で、通常は頻尿と夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うこともある。ただし、同様な症状をきたす他の明らかな疾患は除外されたものとする。除外が必要な疾患としては、下部尿路の炎症・感染(例えば、細菌性膀胱炎、間質性膀胱炎、尿道炎、前立腺炎)、下部尿路の新生物(例えば、膀胱癌、前立腺癌)、尿路結石(例えば、膀胱結石、尿道結石)、腹圧性尿失禁、多尿等が挙げられる。

(2) 病態・病因

過活動膀胱の病態は排尿筋の不随意な収縮、すなわち排尿筋過活動である。しかし、排尿筋過活動の病因は様々である。

過活動膀胱は、排尿筋過活動の病因に基づいて、神経因性過活動膀胱と非神経因性過活動膀胱に大別される。神経因性過活動膀胱とは下部尿路の支配神経に障害がある時にみられる過活動膀胱で、1)脳幹部橋排尿中枢より上位の脳障害(脳血管障害、パーキンソン病等)、2)仙髄より上位の核上型脊髄障害(脊髄損傷、多発性硬化症等)、の2つが代表的な原因疾患である。これらは神経因性膀胱の一種とも言える。非神経因性過活動膀胱とは臨床的に明らかな神経障害がない場合の過活動膀胱で、従来は不安定膀胱といわれたものに類似する。非神経因性過活動膀胱の原因としては、前立腺肥大症のような下部尿路閉塞疾患、加齢、骨盤底筋障害等がある。しかし、大部分は病因が特定できない(特発性過活動膀胱)。

(3) 疫学

過活動膀胱の頻度は、欧米諸国の報告では一般住民の10~20%とされる。わが国でも、全国の40歳以上の一般住民を対象とした調査によると、過活動膀胱の頻度は12.4%で、その実数は約810万人と推定される。その頻度は加齢と高い相関を有し、70歳以上では30%以上に達する。また、過活動膀胱は患者の生活の質(Quality of Life:QOL)を低下させる。つまり、過活動膀胱は極めて一般的な疾患で、重要な健康問題である。

(4) 臨床的特徴

過活動膀胱は、尿意切迫感を必須とし、通常は頻尿及び夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うこともある症状症候群である。

最近の国際禁制学会の用語標準化報告によると、尿意切迫感とは、急に尿意がおこり我慢するのが難しいという知覚をいう。頻尿とは、患者の主観で排尿回数が多いという訴えをいうが、ひとつの目安としては1日に8回以上の排尿等とする。夜間頻尿とは、夜寝ついてから朝床を離れるまでの間に、1回以上排尿のために起きることをいう。切迫性尿失禁とは、尿意切迫感が先行した又は尿意切迫感と同時におこる尿の漏れをいう。

過活動膀胱患者のQOLは、妥当性の確認された問診票の調査により、日常生活や精神状態を含む広い領域でその質が低下していることが示されている。

過活動膀胱の検査所見では、膀胱内圧検査の注入相における排尿筋過活動がもっとも特徴的で、過活動膀胱患者の約60%に認められる。しかし、排尿筋過活動は特に下部尿路の症状を有さない人でも10~20%にみられる。すなわち、この検査は感度、特異度ともに十分に高いとは言えない。また、膀胱内圧検査は侵襲的な検査である。したがって、過活動膀胱患者に対して内服薬の治療を行うには、膀胱内圧検査は必ずしも必要でないと考えられる。

外来診療の対象となる過活動膀胱は、神経因性過活動膀胱、中高年男性に見られる前立腺肥大症に合併した過活動膀胱、女性に多い特発性過活動膀胱、腹圧性尿失禁に合併した過活動膀胱(混合型尿失禁)等である。

3.過活動膀胱治療薬の有効性の評価方法

(1) 症状とその関連項目の評価

過活動膀胱は症状によって定義されるので、評価にあたっては症状がもっとも重要である。評価すべき症状とその関連項目は、過活動膀胱と関連性が高く、その変化が患者にとって重要であることが必要である。また、その症状や症状の変化を観察する方法の妥当性が確認されていることも必要である。

1) 症状とその関連項目の種類と特徴

過活動膀胱と関連性の高い症状・項目には、尿意切迫感、排尿回数、排尿量、尿失禁回数、パッド使用枚数、尿失禁量等がある。これらの症状を総合的に観察する項目としては、症状質問票、排尿状態に関する患者の印象等が考えられる。

これらのうち、排尿回数、尿失禁回数、パッド使用枚数、排尿量、尿失禁量については、個別にその数値を観察できる。ただし、パッド枚数については、個人の好みやパッドの種類によって使用状況が変動する可能性が高い。排尿量や尿失禁量は正確な測定が困難なことがあり、観測値の信頼性に懸念がある。尿意切迫感は過活動膀胱の中心的な症状であり、症状質問票や患者の印象では総合的な症状の評価が可能である。しかし、排尿回数、尿失禁回数を除くその他の項目については、現在のところ妥当性の確認された観察方法がない(表1)。

表1:症状とその関連項目の特徴と問題点

症状・関連項目

特徴

問題点

排尿回数

数値を直接測定できる

 

尿失禁回数

 

パッドの枚数

 

パッドの種類や交換の基準に個人差がある

排尿量

量を直接測定できる

正確な測定が困難なことがあり、信頼性に疑問がおこりえる

尿失禁量

尿意切迫感

中心となる症状

妥当性の確認された観察方法がない

症状質問票

症状の総合的な評価が可能

 

患者の印象

 

2) 症状とその関連項目の観察方法

観察方法には、患者の思い起こしと排尿日誌とがある。患者の思い起こしには、医療者の聴取に対する患者の口頭による回答(いわゆる問診)、質問票に対する患者の自己記入による回答がある。排尿日誌とは、24時間以上の期間にわたって患者自身が排尿に関して記録するものである。記録内容としては、排尿回数、排尿時刻、排尿量、尿失禁回数、尿失禁量、パッド使用状況、尿意切迫感、水分摂取量等がある。ただし、排尿日誌は記録する患者の手間は決して小さくない。また、排尿日誌の記載が行動療法としての効果がある可能性がある。観察方法のうち、問診への回答は、聴取する側の者(医師等)の影響が否定できないので、治験で用いる方法としては推奨できない。

3) 治験の評価において推奨される観察項目

治験の評価においては、排尿日誌に基づいた排尿回数若しくは尿失禁回数又はその両者が、適切な観察項目として推奨される。

排尿日誌の記録期間は、その観察対象とする症状と患者集団の特性によって適切に設定する。排尿回数のみを観察する場合は3日間以上が、尿失禁回数を観察する場合は1週間程度が望ましい。

あまりにも長期間にわたる排尿日誌の記録は、治験薬の効果の評価を困難にする可能性がある。同様な理由から、治療の前後で排尿日誌を記録させ比較する場合には、適切な間隔を設けることが望ましい。

(2) QOLの評価

過活動膀胱において妥当性の確認されたQOL尺度を用いる。海外で開発された尺度を用いる場合には、日本人における妥当性を確認してから用いるべきである。日本人の過活動膀胱患者において妥当性の確認された尺度としては、キング健康調査票がある。他には、尿失禁患者において妥当性の確認されたQOL尺度もある。QOLの測定は、一定期間の状態について患者が質問票に自己記入する方法で行う。

なお、QOLは排尿状態を含む患者の全体像を反映することから、QOLの評価は症状の評価を補完・確認するために用いるのが望ましい。

(3) 尿流動態検査の評価

尿流動態検査とは下部尿路の生理機能検査のひとつである。尿流動態検査のうち過活動膀胱治療薬の評価と関連性の高い検査は、膀胱内圧検査、尿流測定、残尿測定等である。これらの尿流動態検査の長所は、症状やQOLに比べてプラセボ効果が小さく、変化が短期間で現れることである。短所としては、過活動膀胱の症状やQOLとの関連性が必ずしも高くなく、一部の検査は侵襲的であることである。したがって、尿流動態検査は臨床薬理学的評価で活用することが望ましい。

1) 膀胱内圧検査

過活動膀胱の膀胱内圧検査における特徴は、排尿筋過活動である。排尿筋過活動は、膀胱内圧検査で排尿筋の不随意収縮又は最大膀胱容量の低下として観察される。従って、それらの所見が薬剤の投与で変化すれば、その薬剤のヒトにおける薬理作用を裏付けることになる。

そこで、膀胱内圧検査を活用する方法としては、不随意収縮を有する過活動膀胱症例を対象に選び、不随意収縮の変化(消失若しくは最大圧の低下)又は最大膀胱容量の増加を指標として、薬理作用を確認する方法等が推奨される。その際、不随意収縮の変化よりも最大膀胱容量の増加のほうが、感度が高いようである。

なお、膀胱内圧検査所見は、その解釈の客観性と統一性を保つため、中央委員会等により集中判定を行うことが望ましい。

2) 残尿測定・尿流測定

一部の過活動膀胱治療薬では、薬理作用として排尿筋収縮が抑制される。そのような薬剤では、残尿測定や尿流測定を行い、残尿量・尿流率の変化(増悪)からその薬剤の副作用(尿閉等)が発現する用量を推定することができる。なお、残尿測定は侵襲性、尿路感染症のリスク及びカテーテル挿入時の排尿パターンへの影響の観点から、超音波測定によることが望ましい。

(4) 評価に関するその他の注意点

1) 排尿に関する行動は、摂取する飲食物、患者の社会的な活動状況、排尿に関する環境(例えば、近くにトイレがあるか否か)等に影響されるので、短期間(例えば、数時間)の観察では評価できない。従って、特定の時点の評価には、その時点に先行する適切な一定期間の状態に関する評価を適用する。

2) 症状に関する数値は、対象期間の平均値(1日当り、1週間当り等)を代表値として扱い、その投与前後の変化を効果の指標とする。変化は、前後差、前後比、変化率(前後差/前値)等の変数として算出できるが、その解析には変数の持つ特性に従って適切な手法を用いる。

3) 薬剤の投与期間は、その薬剤の特性によって適切な長さを定める。

4) 下部尿路には性差があるので、男性・女性それぞれについての有効性を検討することが望ましい。

5) 過活動膀胱に対する治療効果は症状に対する効果で判定されるが、症状の評価は患者が行うのでプラセボ効果も大きい。したがって、治験薬の臨床効果を検証する試験では、プラセボ又は標準薬を対照とした二重盲検試験により検討すべきである。また、探索的検討でもプラセボを対照とすることが望ましい。

6) 比較試験の解析対象は、最大の解析集団又は実施計画書通りに治験が遂行された集団のいずれかから、「臨床試験のための統計的原則」に従い、試験の目的によってより適切な集団を選択して検討する。あわせて、他方の集団の解析でも結論が変わらないことを確認することが望ましい。

4.非臨床試験

治験に用いる薬物(以下「治験薬」という)をヒトに投与するには、それに先立って治験薬に関する以下のような非臨床資料を整備・検討し、ヒトにおける有効性及び安全性を予測しておくことが必要である。試験は「医薬品の臨床試験のための非臨床安全性試験の実施時期についてのガイドライン」等、適切なガイドラインに従って行う。

(1) 起原又は発見の経緯及び外国における使用状況等に関する資料

(2) 製造方法並びに規格及び試験方法等に関する資料

(3) 安定性に関する資料

(4) 薬理作用に関する資料

① 動物種の選定

治療薬の効果を動物で評価する際には、ヒトへの外挿性を考慮し、適切な種類の動物を選択する。

② 作用機序に関するデータ

治験薬に予想される作用機序について、正常・病的な動物又はヒトの摘出組織を用いる等、各薬剤に応じて適切な手法で検討する。病的な動物の作成方法としては、膀胱内への薬剤注入、脳・脊髄損傷、末梢神経損傷、尿道閉塞等の処置がある。検討方法としては、摘出膀胱切片に対する作用の検討、膀胱内圧検査を用いた検討、膀胱の知覚神経に対する効果の検討、動物の排尿回数・1回排尿量に関する検討等がある。

(5) 吸収、分布、代謝、排泄に関する資料

(6) 急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性、催奇形性その他の毒性に関する資料

5.臨床試験

(1) 臨床試験全般について

非臨床試験において、ヒトに投与した場合の安全性と過活動膀胱に対する有効性が示唆される成績が得られた場合、その薬剤の臨床試験を実施することができる。

臨床試験は、「医薬品の臨床試験の実施の基準」(GCP)を遵守し、被験者の安全と人権の保護に対する倫理的な配慮のもとに、科学的に適正に実施されなければならない。

臨床試験を行う際には、関連するガイドライン(巻末参照)も参考にすること。

治験依頼者は、治験の発案、運営・管理等に責任を負い、治験の遂行に必要な業務手順書を作成するとともに、専門的知識を有するものを確保し、治験責任医師と協議の上で適切な治験実施計画書を作成する。治験責任医師はGCPに記載されている要件を満たし、過活動膀胱の診断・治療に造詣が深く、治療薬の薬効を適切に評価できる能力を備えていなければならない。

医薬品の臨床開発は4相(第Ⅰ相、第Ⅱ相、第Ⅲ相、製造販売後)に分けられる。

(2) 第Ⅰ相試験

第Ⅰ相は、治験薬をはじめてヒトに適用する臨床試験である。比較的限定された数の健康人志願者等が対象となり、入院又はそれに準じた状態で安全性の確認に重点がおかれる。あわせて、薬物動態学的な検討と、可能であれば、有効成分の薬力学的プロフィールに関する予備的検討も行う。プラセボ投与群をおくことが望ましい。

1) 試験対象

原則として、健康成人とする。

2) 用法・用量

単回投与と反復投与を行い、単回投与試験で安全性及び忍容性が確認された後に、反復投与試験を実施する。

単回投与試験の初回投与量は、非臨床試験から推定される安全な最低用量とする。その後、安全性・忍容性を確認しながら逐次増量し、予想される臨床用量の最大量あるいはそれを超す用量まで検討する。

反復投与試験の投与量は、単回投与試験の成績と予想される臨床用量を踏まえて設定し、原則として血中薬物濃度が定常状態に達すると推定されるまで反復投与する。

3) 観察・検査項目

a) 安全性評価のために、以下のような観察及び検査を実施する。

・自覚症状

・他覚所見(体重、血圧、脈拍、体温、心電図、視力、眼底等)

・一般臨床検査(血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査等)

・その他、治験薬に応じて、必要とされる安全性評価のための観察及び検査項目

b) 薬物動態

c) 必要に応じて、非侵襲的な尿流動態検査(尿流測定、残尿測定等)を行う。

4) 臨床評価

a) 安全性評価

治験薬が投与された際に起こる、あらゆる好ましくない、あるいは意図しない徴候(臨床検査値の異常を含む)、症状又は病気は、治験薬との因果関係の有無の如何にかかわらず「有害事象」(Adverse Event)として扱う。症例報告書にその内容、程度、発現時期及び消失時期、治験薬の服薬状況、処置の有無、経過等を記載するとともに、治験薬との因果関係を判定する。有害事象のうち、治験薬との因果関係が否定できないものを「副作用(Adverse Drug Reaction)」として取り扱う。

有害事象が重篤な場合には、治験責任医師は直ちに適切な処置を行うとともに、所属医療機関の長及び治験依頼者に連絡する。さらに、速やかに文書による報告を行う。有害事象がみられた場合には、治験責任医師の判断により、当該被験者についての治験薬投与の継続又は中止を決定し、その内容(症状、発現日、程度、処置、持続時間、経過、転帰)の詳細を治験薬とその因果関係とともに記載する。重篤な有害事象又は副作用の経過観察は、原則として症状又は臨床検査異常変動が消失するまで行う。安全性に問題がある場合には、治験薬の毒性試験や薬効薬理試験から予想されるものか否かを検討する。

b) 薬物動態等の評価

治験薬の薬理学的及び薬物動態学的な特性から、適当な用法・用量を推定して、第Ⅱ相へ進む。

(3) 尿流動態検査を用いた臨床薬理試験

必要に応じて、過活動膀胱患者を対象として、治験薬の臨床薬理学的効果を尿流動態検査で検討し、有効かつ安全な用量を推定する。独立した試験とせず、他試験の一部の患者を対象として行うこともできる。

1) 試験対象

過活動膀胱患者を対象とする。ただし、重大な合併症を有する患者、有効性の評価が難しい患者は避ける。

2) 試験方法

治験薬投与前、投与中、終了時(又は中止時)に尿流動態検査を行う。尿流動態検査の内容は治験薬の特性によって適切に定める。

3) 臨床評価

試験期間を通じ、特定の被験者については、同一の検査器械を用いて同一の検査者によって行われることが望ましい。

a) 有効性評価

膀胱内圧検査で、不随意収縮の消失又は圧の低下、最大膀胱容量の増加等を指標として、治験薬の薬効の確認と有効な臨床用量の推定を行う。

b) 安全性評価

第Ⅰ相試験と同様に行う。また、尿流測定や残尿測定により、過剰な薬理作用による尿閉等の副作用の発現する用量を推定する。

(4) 前期第Ⅱ相試験

過活動膀胱患者を対象として、有効かつ安全な用量を推定するための探索的検討を行う。ただし、海外の治験結果等から薬理作用の発現用量が推定される場合は、前期第Ⅱ相試験なしに後期第Ⅱ相試験に入ることもできる。

1) 試験対象

過活動膀胱患者を対象とする。

ただし、ヒトにおける有効性と安全性に関する情報が極めて限られた段階であることを考慮し、重大な合併症を有する患者は避ける。また、有効性の評価が難しい患者は避けるのが望ましい。

2) 試験方法

治験薬の投与期間、用法・用量は、評価方法や治験薬の性質に依存するので、それぞれの治験薬の特徴を生かして適宜設定する。

臨床検査として治験薬投与前、投与中、治験終了時(又は中止時)に、一般臨床検査(血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査等)を実施する。治験薬の特性に応じて必要ならば心電図検査も行う。治験薬投与中に実施する場合には、治験薬の特性と患者の負担を考慮し、適切な間隔を設定する。また、治験薬の種類によっては、治験薬投与終了後にわたり一定期間の経過観察を行う。

3) 臨床評価

試験期間を通じ、少なくとも同一の被験者については、同一の治験責任医師等によって行われることが望ましい。

a) 有効性評価

主要評価項目を定め(排尿回数、尿失禁回数等)、投与前値又は対照群と比べて評価する。副次的評価項目も観察する。

b) 安全性評価

第Ⅰ相試験と同様に行う。

c) その他の評価

必要に応じて、薬物濃度の測定を行い、治験薬の薬物動態を把握する。

(5) 後期第Ⅱ相試験

後期第Ⅱ相試験では、臨床効果の用量反応関係を明らかにし、第Ⅲ相試験で用いる用法・用量を定める。

1) 試験対象

過活動膀胱患者を対象とする。

重大な合併症を有する患者は避け、治験薬の特性から判断して、有効性の評価に著しい影響を与えるような病態による過活動膀胱患者は除外することが望ましい。

2) 試験方法

無作為に割り付けた複数用量で、群間比較試験を行う。この場合、プラセボを含めた少なくとも3用量群を含む二重盲検法で行うことが望ましい。投与期間については、前期第Ⅱ相試験の結果も参照して、治験薬に応じて適宜設定する。被験者数は、統計学的な考察に基づき、評価可能な成績を得るために必要な数とする。

3) 臨床評価

a) 有効性評価

前期第Ⅱ相試験と同様に行う。

b) 安全性評価

第Ⅰ相試験と同様に行う。

c) その他の評価

前期第Ⅱ相試験と同様に行う。

(6) 第Ⅲ相試験

第Ⅲ相では、前の臨床試験で設定された推奨用量を用い、適切な対照薬と比較して、治験薬の過活動膀胱に対する有効性と安全性を検証する。

1) 試験対象

過活動膀胱患者を対象とする。

重大な合併症を有する患者は避け、治験薬の特性から判断して、有効性の評価に著しい影響を与えるような病態による過活動膀胱患者は除外することが望ましい。

2) 試験方法

前の臨床試験で設定された治験薬の推奨用量と適切な対照薬を並行させた、並行群間比較二重盲検法により比較する。また、前相の試験で推奨用量の検証が十分行えなかった場合には、複数の用量群を設定して推奨用量の検証をあわせて行うこともできる。投与期間については、治験薬に応じて適宜設定する。被験者数は、統計学的な考察に基づき、評価可能な成績を得るために必要な数とする。

3) 臨床評価

a) 有効性評価

第Ⅱ相試験と同様に行う。

b) 安全性評価

第Ⅰ相試験と同様に行う。

c) その他の評価

前期第Ⅱ相試験と同様に行う。

(7) 長期投与試験

長期投与試験では、長期投与時の安全性、有効性の検討を行う。

1) 試験対象

第Ⅲ相の二重盲検比較試験と同様の過活動膀胱患者を対象とする。第Ⅲ相の二重盲検比較試験の患者をそのまま長期投与試験に移行させることもできる。

2) 試験方法

後期第Ⅱ相(又は第Ⅲ相の二重盲検比較試験)で検証された至適用量を投与する。被験者数、投与期間については、「致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間について」に従って、統計学的な考察により適宜設定する。

3) 臨床評価

第Ⅲ相試験と同様に行う。

(8) 特殊集団、薬物相互作用に関する試験

健康成人を対象とする他に、過活動膀胱を有しない高齢者を対象とした検討、また、治験薬の薬物動態上の特徴により、肝機能障害、腎機能障害患者等を対象とした検討が必要な場合がある。また、薬物相互作用が予測される場合は、特定の薬物との併用療法による検討が必要な場合がある。このような場合においては、適宜検討を行う。

実施については「医薬品の臨床薬物動態試験について」及び「薬物相互作用の検討方法について」を参考にする。

(9) 製造販売後臨床試験

製造販売後臨床試験は承認時までに得られた有効性、安全性及び用量に関する情報をさらに上回る知見を得ることを目的として実施する。承認時までの臨床試験では、症例数、投与期間、患者背景等が限定されているので、過活動膀胱治療薬の安全で有効な使用方法を確立する上で重要である。

(10) 外国で行われた臨床試験成績

外国で行われた臨床試験成績を利用して我が国で承認申請を行おうとする場合には、「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因について」に基づいた検討が必要となる。

本ガイドラインは、厚生労働省からの委託により、日本泌尿器科学会において原案の検討及び作成が行われ、同案につき各方面から寄せられた意見を踏まえて検討及び修正を加え、最終的な内容とした。

(参考)臨床試験に関連するガイドライン等

http://www.nihs.go.jp/dig/ich/eindex.html

http://www.hourei.mhlw.go.jp/hourei.index.html

ICHガイドライン(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use、日米EU医薬品規制調和国際会議)

E1:致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間について(平成7年5月24日薬審第592号)

E2A:治験中に得られる安全性情報の取り扱いについて(平成7年3月20日薬審第227号)

E3:治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドラインについて(平成8年5月1日薬審第335号)

E4:「新医薬品の承認に必要な用量―反応関係の検討のための指針」について(平成6年7月25日薬審第494号)

E5:外国で実施された医薬品の臨床データの取扱いについて(平成10年8月11日医薬発第739号)、外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因について(平成10年8月11日医薬審第672号)、「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因についての指針」に関するQ&A(平成16年2月25日事務連絡)

E6:医薬品の臨床試験の実施に関する省令(平成9年3月27日厚生省令第28号)、医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令の施行について(平成9年薬発第430号)

E7:高齢者に使用される医薬品の臨床評価方法に関するガイドラインについて(平成5年12月2日薬新薬第104号)

E8:臨床試験の一般指針について(平成10年4月21日医薬審第380号)

E9:「臨床試験のための統計的原則」について(平成10年11月30日医薬審第1047号)

E10:「臨床試験における対照群の選択とそれに関連する諸問題」について(平成13年2月27日医薬審第136号)

M3:医薬品の臨床試験実施のための非臨床安全性試験実施時期についてのガイドラインについて(平成10年11月13日医薬審第1013号)、医薬品の臨床試験実施のための非臨床安全性試験の実施時期についてのガイドラインの改正について(平成12年12月27日医薬審第1831号)

医薬品の臨床薬物動態試験について(平成13年6月1日医薬審第796号)

薬物相互作用の検討方法について(平成13年6月4日医薬審第813号)