3.1 試験導入時のバリデーション
3.2 内部精度管理
3.3 手技の管理
4.特定原材料検知法開発者が公表すべき検査方法の性能とその範囲に関する提言
5.特定原材料検知検査者の信頼性確保システムに関する提言
参考1 定量検査法の試験室間バリデーション例
参考2 定性検査法の試験室間バリデーション例
参考3 定量検査用ELISAキットの精度
はじめに
近年、食品が原因となるアレルギーが増加しており、重篤な症状を引き起こす場合も多い。このことから、平成13年4月よりアレルギー誘発物質(アレルゲン)を含む食品に関する表示制度が創設された。
本表示制度が適切に実践されていることの検証のためには、特定原材料を含む食品の検査方法が必要である。平成14年11月に、「アレルギー物質を含む食品の検査方法について」が通知され、特定原材料5品目の検査方法が定められた。さらに平成17年11月には検査方法の追加が通知された。しかし、その後の研究による技術の向上や新たなアレルゲンの発見等に伴い、常に検査法を見直して適切な消費者保護に努める必要がある。不適切な検査方法による健康危害を起こさないためにも、検査技術の評価も行わなくてはならない。検査技術の評価方法として、分析法バリデーションが多くの分野で確立されているが、食品中のアレルゲン検査という特性から、従来の分析法の評価方法のみでは、適切な評価が難しいと考えられるため、ガイドラインを作成しアレルギー表示の検証に使用するに適正な検査方法の評価法を定めることとなった。本ガイドラインでは、アレルギー食品の検査方法の評価法、表示制度の検証のための検査方法に求められる特性、検査法実施者が行うべき信頼性確保について指針を示す。
1.食品中の特定原材料の検査方法
1.1 定量検査法(ELISA法)
抗原で動物を免疫して抗体を作り、その抗体への結合量から試料中の抗原量を定量する方法である。現在開発されている方法として、対象食品に含まれる多くのタンパク質に対する抗体を用いる方法と、特定のタンパク質に対する抗体を用いる方法がある。さらに、後者ではポリクローナル抗体とモノクローナル抗体のいずれかを用いる方法が考えられる。このような抗体の選択により、選択性、交差反応性、検出下限、食品への適用性などが変わる。特定のタンパク質に親和性の高い抗体を用いれば特異性は向上するが、食品の加工により対象としたタンパク質が変性すると検知できなくなる可能性がある。さらに、原材料の一部のみを使った場合に、その部分に対象となるタンパク質が含まれていない場合には検知できないために、偽陰性が増加する。一方、多くのタンパク質に結合する抗体を用いれば、上の様な問題を回避できるが、対象としている食品以外の食品に由来するタンパク質への結合が多くなり、偽陽性結果を生じる確率が高くなる。
1.2 定性検査法(ウェスタンブロット法、PCR法)
ウェスタンブロット法では、タンパク質を電気泳動で分離し、その後抗原抗体反応で検出する方法である。特定のタンパク質に対する抗体を用いると共に、バンドの場所による分子量の情報も得られるために、ELISA法よりも特異性が高く偽陽性が現れにくい。現行の通知では、この特性から卵と乳の確認検査法として位置づけられている。ウェスタンブロット法では目視でバンドを確認するために、定量検査法とはならず、定性検査法としてのバリデーションが必要である。
PCR法は、アレルゲン性を示す食品に特異的なDNA領域を、PCRで増幅し検出する方法である。適切な領域を設定すれば特異性が高く、現行の通知では小麦、そば、落花生の確認検査法とされている。一方、鶏肉と卵ではDNAは同一でありPCRで区別する事は困難である。
以上の特性から、現行のアレルギー物質を含む食品の検査方法では、スクリーニング法として定量検査法を用い、確認に定性検査法を用いている。
2.検査方法評価
2.1 定量検査法の評価基準
定量法の評価の基準となる性能パラメータは、Codexあるいは日本薬局方等で示されている。ISO、Codex、局方等それぞれ、定義が少しずつ異なっているが、表1に示すような量を使って、性能が評価される。対象とする検査法の使用目的によって、適切なパラメータを選択して評価する。一般に真度(回収率)、精度(併行・室内再現精度)はどのような目的の検査法であっても、必ず確認しなくてはならない。残留レベルの検査では定量下限、検出下限が重要であり、対象物質の予想される濃度が大きく変化する場合には、検査を適用できる範囲が重要なパラメータとなる。
これらのパラメータはバリデーションにより決定される。多くの場合、実験計画法に基づいたくり返し試験により統計的に推定されるので、バリデーションに参加する機関の数、用いる試料の数等により、得られたパラメータの信頼性が変化する。
表1 性能パラメータ
真度 |
精度(併行精度、室内再現精度、室間再現精度) |
特異性 |
検出限界 |
直線性 |
定量限界 |
範囲 |
頑健性 |
2.2 定性検査法の評価基準
定性法では、定量のように数値で示される結果は得られないので、定量法のパラメータをそのまま適用することはできない。真度と精度を合わせた概念としては、正答率、偽陽性率、偽陰性率等が考えられる。また、濃度が低くなれば判定が不正確になるので、正しく判定できる限界濃度も重要な性能パラメータである。
2.3 試験室間バリデーション
試験室間バリデーションは、多数の試験室が共通の試料を分析し、その結果を統計的に解析することにより、真度、併行精度、室間精度を評価する。Codexにおいても、試験室間バリデーションで性能が確認され公表されている方法が採用される。AOACINTERNATI0NALのOMA(Official method of analysis)は、試験室間バリデーションで評価された分析法である。AOACでは、試験室間のバリデーションをcollaborative studyとよび、プロトコルが定められている。ISO5725(JIS Z8402)にも、ほぼ同じプロトコルが示されている。
Collaborative studyでは、真度(回収率)、併行精度、室間精度が評価される。また、多数の試験室で実施するので、頑健性も保証される。定量法のCollaborative studyの実施要件は以下の通りである。
試料数5、試験室数8、くり返し数 1または2
Collaborative studyの前に、1試験室で頑健性を含めた以下の性能の評価を行う。
・検量線 分析法が使用できる濃度範囲を決定する。直線である必要はない。
・特異性 存在が予想される物質の妨害の程度。
・偏り(真度) 添加回収率から系統誤差を推定する。
・機器の性能、分析系の安定性の特定。
・精度 併行精度、室内精度、頑健性。
・既存の方法との比較。
試験室内の性能評価が許容できる場合のみ、Collaborative studyを実施する。
2.4 ピアレビュー
あらかじめ開発者が性能評価を行った後、第3者機関によりその性能を確認する方法が、ピアレビューと呼ばれている。試験室間バリデーションとは異なり、室間精度は求められない。ピアレビューを行うためには、あらかじめ以下の様な分析性能を評価しておく。
・検量線
定量検査法では最低5濃度(0を含まない)。直線である必要はない。標準溶液とマトリクス中の両方を示す。
定性検査法では、ネガティブコントロールを含む試料で定性範囲を確認する。それぞれの濃度で5~10の繰り返しを行う。濃度に対して陽性率をプロットする。
・適用できるマトリクス
適用可能なマトリクスを明示的に示す。
・真度
定量法では、適切な範囲の濃度を添加した試料からの回収率を、真度の指標とする。6試料でそれぞれ3濃度における回収率を示す。
定性法では既存の方法と比較する。
・精度
定量法では、異なる日間、分析者間、検量線間、試薬間、マトリクス間のRSDを示す。定性法では、数種類の濃度での正答率・偽陽性・偽陰性率で表す。
・既存の方法との比較
可能ならば既存の方法(バリデートされた方法が望ましい)との比較を行うことが、強く推奨される。
・交差反応性
類似物質、代謝物、マトリクス中に存在する可能性のある成分への反応性。
・安定性
時間、温度、凍結・融解サイクルに対する、キットの各部の頑健さを評価する。
・検出限界
定量検査法では、マトリクスブランクの平均値+3標準偏差を、分析対象の濃度に変換する。
・定量限界
マトリクス毎に、少なくとも6個の添加サンプルを実際に分析して決定する。
・偽陽性・偽陰性率
定性検査法に適用される。
・頑健性
試験環境で起こりうるわずかな変化による試験系の変動の程度の試験。
2.5 単一試験室におけるバリデーション(single laboratory validation)
試験室間試験の前に分析法の実行可能性を確認する。コラボラティブデータが得られない、あるいは正式なコラボラティブトライアルの実施が現実的ではない場合に、分析法の信頼性の証拠を提供する。既にバリデートされた方法が正しく使用されていることを保証する等の目的のために、1試験室におけるバリデーションが行われる。このバリデーションについては、IUPACの技術報告が調和ガイドラインを提供している。その中の勧告では、
・ 可能及び現実的ならば、国際的プロトコルに適合したコラボラティブトライアルで性能を評価された分析法を使用する。
・ そのような分析法がない場合には、顧客に分析データを提供する前に試験室内で分析法をバリデートする。
・ 単一試験室バリデーションでは、以下の中から適切な性能を選んで評価する:適用性、特異性、真度、精度、範囲、定量下限、検出下限、感度、頑健性。どの性能を選ぶかは、顧客の要求を考慮して決定する。
・ これらの性能が評価された証拠は、顧客から要求された場合には利用できるようにしておく。
とされている。
2.6 特定原材料検知方法評価における問題点
特定原材料タンパク質の検知法として多く用いられる、抗体を用いた酵素免疫測定法(ELISA法)あるいはウェスタンブロット法では、他の機器分析とは異なった問題がある。多くの理化学・微生物検査においては、分析対象物の物性・構造は明らかである。この物性・構造の情報に基づいて適切な手法を選択し、分析法が作成される。一方、食品のアレルゲン検知法においては、対象物が一意に定まらない。例えば、卵を検知する場合、表示は卵全体を含むか含まないかを示すが、検知する対象としては、卵の全てのタンパク質、卵に特異的なある特定のタンパク質、アレルギー性をもつ卵のタンパク質、卵(鶏)の遺伝子等が考えられる。全てのタンパク質を対象とした場合、その本質は明らかではない。特定のタンパク質を対象とした場合には、物性は明らかであるが、表示の対象である卵全体、あるいはアレルゲン性を持っているタンパク質との量的関係は明らかにする必要がある。結果の判定を行うためには、少なくとも、検量線に用いる標準のタンパク質の性質を明らかにすべきである。表示が特定原材料のタンパク質全体を対象としていることから、この標準タンパク質は特定のタンパク質やアレルゲン性を持つタンパク質ではなく、なるべく全てのタンパク質を含んでいることが望ましい。
加熱のような加工処理による、タンパク質の変性も重要な問題となる。表示制度の対象となるのは、全ての加工食品であり、それに含まれる特定原材料タンパク質は、加工過程で種種の程度の変性を受けている。この結果、使用されている抗体との結合が変化する。また、DNAを検知する方法では、増幅部位の切断が変動の原因となる。このため、キットに用いる抗体が異なれば、同一検体においても異なる結果が得られることは当然である。表示の確認のための検査法としては、高い真度を目指すよりも、広い範囲の食品で容認できる程度の真度を持つことが重要である。変性、妨害により真度が100%を大きく上回ったり、非常に小さくなったりする場合があることはやむを得ないが、検査の信頼性を高めるために、できる限りこのような情報を公表するべきである。
真度を評価するためには、標準品が必要である。「アレルギー物質を含む食品の検査方法について」(平成14年11月6日付け食発第1106001号厚生労働省医薬局食品保健部長通知)に示された標準品規格に適合した標準品を使用する。他の標準を用いる場合には、その作成法、性質を明らかにし、試験結果の解釈を正しく行うために、また現行の標準との差を明確にしておく必要がある。
3.試験室における信頼性保証
高い性能が保証された検査法が採用されたとしても、試験室における実施方法の不備から、検査結果が不正確になる要因がいくつか考えられる。これについては、他の食品分析と同じく、各検査機関の信頼性確保システムで対応すべきである。
3.1 試験導入時のバリデーション
試験室で新たに、食品中のアレルゲン検査を開始する際には、性能が評価され、公表されている検査法を導入すべきである。また、導入の際には単一試験室におけるバリデーションを行って、公表されている検査法(キット)の性能を達成できる能力があることを確認する。最低限、精度(併行精度、室内精度)、バイアスを確認する。公表データと差が大きい場合には、3.3に示す手技の管理を参考として手順を見直す必要がある。
3.2 内部精度管理
食安監発第0323003号(平成16年3月23日)別紙、登録検査機関における製品検査の業務管理要領では、日常的に検査の技能を評価するために精度管理(内部精度管理)を行うことが定められている。導入時のバイアス、室内精度等の能力が保持されていることの証拠を示すためにも、適切な管理試料を用いて内部精度管理を実施することが望ましい。
3.3 手技の管理
サンプリング
加工食品には、極度に不均一なものが多く、サンプリング及び試料調製段階に、大きな変動の原因が存在する可能性があるので、標準的なサンプリング手順の確立が必要である。
分析機器
多くの場合、濃度―測定値の関係に3次曲線あるいは4係数ロジスティック曲線等を当てはめて、検量線が作成される。4係数ロジスティック曲線は非線型であるため、初期値や収束の判定基準が不適切であると、正しい検量線関数が得られない。このような場合には、分析値に大きな誤差が生じることがある。
プレートリーダーにおける位置による吸光度の偏り、ピペットによる注入量のばらつきは、併行精度に大きく影響するので、使用する機器の日常的な点検も重要である。
精度の構造
アレルゲン検知で使用されているサンドイッチELISA法において、妨害のない状況で達成できる併行精度(ウェル間のばらつき)は、マイクロピペットによる液体の注入誤差、プレートウェル間の吸光度のばらつき等から、次式により計算できる。
PT2=Px2+Ps2+(σw/f(X))2
PT:測定値のRSD
px:分析対象物質の注入量のRSD(ピペットのばらつき)
ps:反応基質溶液量のばらつきが吸光度測定値のばらつきに与える影響
ps=(ピペットによる注入量のRSD)×(2/3)
σw:ウェル自体の吸光度のSD(ウェル間の吸光度のSD)
f(X):吸光度を表す検量線(Xは、分析対象物質の濃度)
典型的な値として、px=0.6%、ps=0.4%、σw=0.004Absとすると、ELISAキットで定量を行う吸光度範囲0.2~1.5におけるRSDは1~5%程度である。実際の検査において、標準液あるいは同一試験溶液をくり返し測定した場合に、吸光度1付近のRSDが5%を大きく超えるような場合には、ピペット注入精度、プレートの洗浄操作、プレートリーダーの位置調整等に異常があると考えられるので、原因を究明し精度の向上を図るべきである。
4.特定原材料検知法開発者が公表すべき検査方法の性能とその範囲に関する提言
ELISA法、ウェスタンブロット法、PCR法等の特定原材料検査方法を開発する際には、その性能が、以下の範囲にあることを、試験室間バリデーションにより示すべきである。
定量法の試験室間バリデーション
試験室数 8以上、試料数 5以上とする。
試料に含まれる特定原材料タンパク質濃度レベルの1つは、微量の定義である10μg/gを含める。試料は原材料に特定原材料を添加し、加熱等の製造方法で作成したモデル加工食品を含めるべきである。
ELISA法のような免疫化学反応に基づく定量法では、用いる抗体により定量値が異なる、つまり真度が異なることは予想されるが、アレルギー患者の健康保持という観点から、50%以上、150%以下の回収率であること。また、室間精度は25%以下であること。
定性法の試験室間バリデーション
試験室数 6以上、試料数 5以上とする。
試料に含まれる特定原材料タンパク質濃度レベルには、ブランクと微量の定義である10μg/gを含める。試料は原材料に特定原材料を添加し、加熱等の製造方法で作成したモデル加工食品を含めるべきである。
同一の試料・濃度のサンプルを各試験室毎に2サンプルずつ以上を送付して判定率を評価する。特定原材料タンパク質を含む試料についての陽性率は90%以上,ブランク試料における陰性率は90%以上とする。なお、いずれも95%以上であることが望ましい。
検査法は多くの種類の加工食品に適用されることから、バリデーションで評価する試料は、動物性の食品、植物性の食品、加工度の高いもの(長時間の加熱、高圧調理)、酸性を示すもの等の特性を持つ食品から選択することが望ましい。
試験室間バリデーションに先立って、開発者の試験室において単一試験室のバリデーションを実施すべきである。ここで、代表的なモデル加工試料について、添加濃度10μg/gにおける真度、室内精度を確認すると共に、種々の食品の抽出液に抗原を添加した試料を用いて広い範囲のマトリックスの影響、及び多くの抗原の偽陽性、偽陰性データを採集しその情報を公開するべきである。PCR法及びウェスタンブロット法のような定性検査法については、少なくとも20種類以上の性質・加工程度の異なるマトリクス中での、誤判定率を確認すべきである。低濃度では当然、誤判定率が高くなる。誤判定率が50%以上となると推定される濃度を判定限界として示す事が望ましい。
検量線用の標準液調製、真度確認のためには、「アレルギー物質を含む食品の検査方法について」(平成14年11月6日付け食発第1106001号厚生労働省医薬局食品保健部長通知)に示された標準品規格に適合した標準品を使用することが望ましい。使用できない場合には、用いている標準液、標準品との濃度の関係を明らかにし、検知法間の結果の解釈ができるような情報を提供すべきである。
5.特定原材料検査者の信頼性確保システムに関する提言
ELISA法、ウェスタンブロット法、PCR法等の特定原材料検査実施する施設は、3 試験室における信頼性保証に示した、導入時バリデーション、内部精度管理、手技の管理を実施して、検査結果の信頼性を保証すべきである。
参考1 定量検査法の試験室間バリデーション例
(架空のデータを用い分析法バリデーション結果を公表する書式を示した。キット等に添付する資料作成の参考とされたい)
バリデーション対象
卵検知用 Xキット
試料
ソーセージ、牛肉レトルトパウチ、ビスケット、オレンジジュース、ジャム。各試料には、卵一次標準粉末をタンパク濃度が10μg/gとなるように添加した。
参加機関
10機関
・A社○○研究所
・B研究所
・C協会XX研究所
・D社△△研究所
・E研究所
・F社○Xセンター
・G社○○部
・H研究センター
・I分析センター
・J社○○研究所
手順
抽出方法・キット操作方法・報告様式に関する文書、試料(5種類)、キットをそれぞれの参加機関に送付した。参加機関は各試料毎に2回の抽出・測定を行った。それぞれの抽出液の測定は3ウェルを用い、同一プレート上で8濃度(ブランクを含む)の検量線の測定を行い、得られた結果をコーディネータに返送した。
コーディネータは参加機関から送付されたデータを、AOAC INTERNATIONALあるいはJIS Z8402―2の手順に従い、外れ値を除外するためにCochran検定及びGrubbsの検定(両者とも有意水準2.5%)を行った後、平均値、併行再現性及び室間再現性を求めた。
バリデーション結果
表A―1に、それぞれのキットのバリデーションから得られた、回収率、併行精度(RSDr)及び室間精度(RSDR)を示す。回収率及び室間精度(RSDR)いずれも、通知(アレルギー物質を含む食品の検査方法について平成14年11月6日付け食発第1106001号厚生労働省医薬局食品保健部長通知)に示された基準を満たしている。
表A―1卵検知用Xキットバリデーション結果
試料 |
計算に含めた機関数 |
回収率 |
併行精度(RSD%) |
室間精度(RSD%) |
ソーセージ |
10 |
67.2 |
4.1 |
14.5 |
牛肉レトルト |
10 |
76.3 |
2.2 |
9.6 |
ビスケット |
9 |
66.1 |
4.7 |
10.8 |
オレンジジュース |
10 |
97.7 |
2.4 |
6.6 |
ジャム |
10 |
95.3 |
2.7 |
5.9 |
参考2 定性検査法の試験室間バリデーション例
(架空のデータを用い分析法バリデーション結果を公表する書式を示した。キット等に添付する資料作成の参考とされたい)
バリデーション対象
PCR法による落花生の検査方法
試料
ビスケット、チョコレート、カレーペースト、シリアル、ミートペースト。脱脂した落花生粉末をタンパク濃度が0、2、10μg/gとなるように添加した。
参加機関 6機関
・A社○○研究所
・B研究所
・C協会XX研究所
・D社△△研究所
・E研究所
・F社○Xセンター
手順
試料30個(5試料×3濃度×2、ランダムにコードを付与)、プライマー2種類、実験プロトコルをそれぞれの参加機関に送付した。参加機関は2週間以内に、各試料を測定し結果を送付した。
バリデーション結果を表A―2に示す。全ての試料で、植物DNA検出プライマーでの結果は陽性を示した。落花生濃度0μg/gのブランク試料では、全ての加工試料で落花生特異的プライマーによる結果は陰性であり、10μg/gの落花生を含む試料では全ての結果が陽性となった。以上より、ブランク試料の陰性率、2mg/kg及び10mg/kg添加試料における陽性率は90%以上であり、通知(アレルギー物質を含む食品の検査方法について平成14年11月6日付け食発第1106001号厚生労働省医薬局食品保健部長通知)の基準を満たしている。
表A―2
落花生 |
試料 |
植物DNA検出プライマー |
落花生特異的プライマー |
濃度(mg/kg) |
|
陽性率 |
陽性率 |
0 |
ビスケット |
12/12 |
0/12 |
|
チョコレート |
12/12 |
0/12 |
|
カレーペースト |
12/12 |
0/12 |
|
シリアル |
12/12 |
0/12 |
|
ミートペースト |
12/12 |
0/12 |
2 |
ビスケット |
12/12 |
12/12 |
|
チョコレート |
12/12 |
12/12 |
|
カレーペースト |
12/12 |
11/12 |
|
シリアル |
12/12 |
12/12 |
|
ミートペースト |
12/12 |
12/12 |
10 |
ビスケット |
12/12 |
12/12 |
|
チョコレート |
12/12 |
12/12 |
|
カレーペースト |
12/12 |
12/12 |
|
シリアル |
12/12 |
12/12 |
|
ミートペースト |
12/12 |
12/12 |
参考3 定量検査用ELISAキットの精度
3.3 手技の管理 精度の構造で述べたように、アレルゲン検知で使用されているサンドイッチELISA法において、妨害のない状況で達成できる併行精度(ウェル間のばらつき)は、マイクロピペットによる液体の注入誤差、プレートウェル間の吸光度のばらつき等から求められる。ここでは、実際に標準液を6ウェルに分注して得られた吸光度の併行精度と、計算式から求めた精度(精度プロファイル)を示す。
使用キット
A.森永生科学研究所製FASPEK 特定原材料測定キット(卵白アルブミン)
B.日本ハム社製FASTKITエライザVer.Ⅱシリーズ(小麦)
精度プロファイルの計算
次式に従い各濃度の精度を計算した。
PT2=px2+ps2+(σw/f(X))2 (式A1)
PT:測定値のRSD; px:分析対象物質の注入量のRSD(ピペットのばらつき)
ps:反応基質溶液量のばらつきが吸光度測定値のばらつきに与える影響
ps=(ピペットによる注入量のRSD)×(2/3)
σw:ウェル自体の吸光度のSD(ウェル間の吸光度のSD)
f(X):吸光度を表す検量線(Xは、分析対象物質の濃度)
px=0.6%,σw=0.004として得られた精度プロファイル及び実測の精度を図A―1に示す。
同一溶液から得られる吸光度のばらつきは、吸光度が小さい低濃度範囲を除いて、概ねRSD%として5%以下である。
図A―1 特定原材料検出キットの精度プロファイル
A.森永生科学研究所製FASPEK特定原材料測定キット(卵白アルブミン)
B.日本ハム社製FASTKITエライザVer.Ⅱシリーズ(小麦)
● 各濃度の標準液の併行精度(n=6) 実線 式A1より求めた精度