添付一覧
○医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインについて
(平成18年4月18日)
(薬食審査発第0418001号)
(都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
医薬品の製造又は輸入の承認申請における毒性試験等の取扱いについては、平成元年9月11日薬審1第24号「医薬品の製造(輸入)承認申請に必要な毒性試験のガイドラインについて」等により取り扱ってきたところですが、今般、新たに「医薬品の免疫毒性試験に関するガイドライン」を別添のとおり定めましたので、下記事項を御了知の上、貴管内関係業者等に対し周知方御配慮願います。
記
1.背景
近年、優れた医薬品の国際的な研究開発の促進及び患者への迅速な提供を図るため、承認審査資料の国際的なハーモナイゼーション推進の必要性が指摘されている。このような要請に応えるため、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)が組織され、その合意に基づき、「医薬品の免疫毒性試験に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)が制定された。
2.本ガイドラインの要点
(1) 標記ガイドラインは、ヒトへの投与を意図した新医薬品の免疫毒性の検出のために行われる非臨床試験の望ましい実施方法を示すものであり、従来の非臨床試験における安全性評価に係るガイドラインを補完するものである。
(2) 免疫毒性試験の実施が必要か否かの判断は、①標準的毒性試験から得られた所見、②薬剤の薬理学的性質、③適応の対象となる患者集団、④既知の免疫調節剤との構造の類似性、⑤薬物の分布及び⑥臨床情報をその重要性に基づいて評価すること(weight-of-evidence review)により行う。
(3) 免疫毒性の懸念要因が特定された場合には、その化合物の免疫毒性の有無を確認するため、免疫毒性試験を実施する必要がある。
(4) 免疫毒性試験は別添の別紙「2.免疫毒性試験」として示している。
3.今後の取扱い
平成18年10月1日以降に申請される医薬品に添付される免疫毒性に関する資料は、本ガイドラインに基づいたものであること。ただし、平成18年10月1日以前に既に開始されている試験については、従前のとおりで差し支えない。
○医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインについて
(平成18年4月18日)
(薬食審査発第0418002号)
(日本製薬団体連合会あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
標記について、平成18年4月18日付薬食審査発第0418001号をもって、別添写しのとおり、各都道府県衛生主管部(局)長宛て通知したので、貴会会員への周知徹底方御配慮願います。
○医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインについて
(平成18年4月18日)
(薬食審査発第0418002号)
(米国研究製薬工業協会在日技術委員会あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
標記について、平成18年4月18日付薬食審査発第0418001号をもって、別添写しのとおり、各都道府県衛生主管部(局)長宛て通知したので、貴会会員への周知徹底方御配慮願います。
○医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインについて
(平成18年4月18日)
(薬食審査発第0418002号)
(欧州製薬団体連合会在日執行委員会あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
標記について、平成18年4月18日付薬食審査発第0418001号をもって、別添写しのとおり、各都道府県衛生主管部(局)長宛て通知したので、貴会会員への周知徹底方御配慮願います。
○医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインについて
(平成18年4月18日)
(薬食審査発第0418002号)
(日本トキシコロジー学会あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
標記について、平成18年4月18日付薬食審査発第0418001号をもって、別添写しのとおり、各都道府県衛生主管部(局)長宛て通知したので、貴会会員への周知徹底方御配慮願います。
○医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインについて
(平成18年4月18日)
(薬食審査発第0418002号)
(日本QA研究会あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
標記について、平成18年4月18日付薬食審査発第0418001号をもって、別添写しのとおり、各都道府県衛生主管部(局)長宛て通知したので、貴会会員への周知徹底方御配慮願います。
○医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインについて
(平成18年4月18日)
(薬食審査発第0418002号)
(日本薬学会あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
標記について、平成18年4月18日付薬食審査発第0418001号をもって、別添写しのとおり、各都道府県衛生主管部(局)長宛て通知したので、貴会会員への周知徹底方御配慮願います。
○医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインについて
(平成18年4月18日)
(薬食審査発第0418002号)
(日本免疫毒性学会あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
標記について、平成18年4月18日付薬食審査発第0418001号をもって、別添写しのとおり、各都道府県衛生主管部(局)長宛て通知したので、貴会会員への周知徹底方御配慮願います。
○医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインについて
(平成18年4月18日)
(薬食審査発第0418002号)
(化学物質等安全性試験受託研究機関協議会あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
標記について、平成18年4月18日付薬食審査発第0418001号をもって、別添写しのとおり、各都道府県衛生主管部(局)長宛て通知したので、貴会会員への周知徹底方御配慮願います。
○医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインについて
(平成18年4月18日)
(薬食審査発第0418003号)
(独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
標記について、平成18年4月18日付薬食審査発第0418001号をもって、別添写しのとおり、各都道府県衛生主管部(局)長宛て通知したので、御了知願います。
別添
ICH S8:医薬品の免疫毒性試験に関するガイドライン
目次
1.序論
1.1 ガイドラインの目的
1.2 背景
1,3 ガイドラインの適用範囲
1.4 概要
2.ガイドライン
2.1 免疫毒性の評価において考慮すべき要因
2.1.1 標準的毒性試験
2.1.2 薬理学的性質
2.1.3 適応患者集団
2.1.4 構造類似性
2.1.5 薬物の分布
2.1.6 臨床試験または臨床適応において認められた所見
2.2 重要性に基づいた評価
3.免疫毒性試験の選択とデザイン
3.1 目的
3.2 試験法の選択
3.3 試験デザイン
3.4 免疫毒性試験の評価と追加試験の必要性
4.免疫毒性試験の実施時期と臨床試験
5.文献
図1 免疫毒性評価のフローチャート
別紙 免疫毒性を評価するための方法
1.序論
1.1 ガイドラインの目的
本ガイドラインの目的は、(1)免疫毒性を有する可能性のある化合物の検出を目的として行われる非臨床試験の望ましい進め方を示すこと、及び(2)得られた知見の重要性(weight-of-evidence)に基づいて、免疫毒性試験の方針を決定するための指針を示すことである。本ガイドラインで対象とされる免疫毒性とは、非意図的な免疫抑制あるいは免疫亢進を指し、薬剤起因性の過敏症や自己免疫を除く。
1.2 背景
医薬品の免疫系に対する毒性の評価も、標準的な医薬品開発過程において行われる必要がある。免疫系に対する有害作用は多岐に亘るが、免疫応答の抑制や亢進が含まれる。免疫応答の抑制は、病原体や腫瘍細胞に対する宿主抵抗性の低下を招く。一方、免疫応答の亢進は自己免疫疾患や過敏症の悪化の原因となりうる。また、薬物または薬物―タンパク質付加体が外来異物として認識され、薬物に対する免疫応答が起こると、その後の薬物曝露に伴い過敏症(アレルギー)反応が惹起される。従来、医薬品の免疫毒性学的研究や試験法の開発とその評価においては、多くの場合、開発候補品の免疫抑制作用または接触(皮膚)感作性の評価に重点が置かれてきた。現在、医薬品の全身または呼吸器系におけるアレルゲン性(抗原性)や薬物特異的な自己免疫を評価する標準的な試験方法はなく、これらを評価する試験は現時点では三極のいずれの国においても要求されていない。また、皮膚感作性の評価手法にも三極間に差はない。
免疫抑制あるいは免疫亢進は、次の2つの異なるグループの薬剤で認められる。
1) 治療を目的として意図的に免疫機能を調節する薬剤(例えば、臓器移植拒絶反応を抑えるための薬剤)であり、副作用としての免疫抑制はその過度の薬理作用によるものと考えられる。
2) 免疫機能に影響を及ぼすことを意図していないのにも拘わらず免疫毒性を誘起しうる薬剤であり、例えば、免疫系細胞の壊死やアポトーシスを引き起こす薬剤、標的組織と非標的免疫系細胞の両者に共通して存在する受容体に作用する薬剤などが含まれる。
がん治療に用いられる細胞増殖阻害剤は、非意図的な免疫抑制を誘起する薬剤の一例である。この場合には、非臨床試験における毒性所見からヒトにおける免疫毒性が比較的容易に予測できる。すなわち、標的となる組織は、通常、骨髄由来の免疫系前駆細胞のように急速な増殖を行っている細胞であるため、薬剤のリスク評価という点では、免疫毒性を同定するための試験の有用性は低いものと予想される。このような場合、免疫機能に対する毒性は、薬理学的活性に基づいて予測することができ、通常は、非臨床試験により誤りなく評価することが可能であろう。他のタイプの化合物で、非意図的に免疫機能を抑制する場合には、過度の薬理作用と非標的免疫系細胞に対する影響との違いが明瞭でないこともありうる。一例を挙げれば、抗炎症剤の中にはある種の自然免疫機能に対する作用を有するものがあるが、必ずしも獲得免疫機能には影響を及ぼさない。
1.3 ガイドラインの適用範囲
本ガイドラインでは、医薬品の免疫毒性の検出のため行われる非臨床試験の望ましい実施方法を中心に述べる。その適用範囲は非意図的な免疫抑制と免疫亢進であり、アレルゲン性や薬物特異的な自己免疫は除かれる。
本ガイドラインはヒトへの投与を意図した新医薬品に適用される。また、既に市販されている製剤であって、現行の添付文書の効能・効果やその他の変更に伴い、新たに免疫毒性学的問題が生じる可能性がある場合にも適用される。さらに、臨床試験期間中や承認後に免疫抑制を疑わせる臨床症状が認められた薬剤についても、本ガイドラインが適用される場合がある。本ガイドラインは、ICH S6ガイドライン1の対象となるバイオテクノロジー応用医薬品やその他の生物学的製剤等には適用されない。
感作性あるいは過敏症に関する既存のガイドラインは引き続き有効であり、本ガイドラインに影響されることはない。個別の免疫毒性試験の実施方法に関する細かい指針を設けることは、本ガイドラインの目的ではなく、試験方法に関する総則的な指針を別紙に記載した。
1.4 概要
本ガイドラインの一般原則は以下の通りである。
1) 全ての新医薬品について、その免疫毒性の可能性を評価する。
2) 試験方法としては、標準的毒性試験(standard toxicity studies:STS)と必要に応じて実施される追加免疫毒性試験(以下、免疫毒性試験)がある。免疫毒性試験の実施が必要か否かの判断は、2.1項に示された要因をその重要性に基づいて評価すること(weight-of-evidence review)により行う。
本ガイドラインの記述は、図1のフローチャートに示された推奨される免疫毒性評価手順に従っている。また、試験方法の詳細は別紙に記載した。
2.ガイドライン
2.1 免疫毒性の評価において考慮すべき要因
以下の項目から、免疫毒性試験の実施の必要性を判断する上で考慮すべき要因を同定する:(1)標準的毒性試験から得られた所見、(2)薬剤の薬理学的性質、(3)適応の対象となる患者集団、(4)既知の免疫調節剤との構造の類似性、(5)薬物の分布、及び(6)臨床情報。
免疫毒性の可能性をスクリーニングするための方法としては、先ず標準的毒性試験があげられる。げっ歯類及び非げっ歯類を用いて実施される開発初期の短期反復投与毒性試験及び、より長期の反復投与毒性試験において得られたデータを考慮する必要がある。評価すべきパラメータ、及び病理組織学的所見に関しては、詳しい補足説明を別紙に記載した。
2.1.1 標準的毒性試験
標準的毒性試験から得られたデータについては、免疫毒性の可能性を示す変化(徴候)について評価を行う必要がある。考慮すべき変化は以下の通りである。
1) 白血球の減少または増加、顆粒球の減少または増加、リンパ球の減少または増加などの血液学的変化
2) 免疫系器官の重量または組織像の変化(例えば、胸腺、脾臓、リンパ節、または骨髄の変化など)
3) 血清グロブリン濃度の変化:肝臓または腎臓への作用など、他に適切な理由がなければ、血清免疫グロブリン濃度が変化した可能性を示している。
4) 感染の発生率の増加
5) 腫瘍の発生率の増加:遺伝毒性、ホルモン作用、または肝臓の酵素誘導など、他に妥当な原因がなければ、免疫抑制の可能性を示す徴候である場合がある。
これらのパラメータの変化は免疫機能の抑制あるいは亢進を反映している場合がある。通常、免疫パラメータ値の減少は免疫抑制を、増加は免疫亢進を反映する。しかし、これらの関係は絶対的なものではなく、ある場合には逆転している。
他の器官への毒性のリスク評価と同様であるが、免疫毒性の評価に際して考慮すべき点は、以下の通りである。
・認められた変化の統計学的有意差及び生物学的意義
・変化の重篤性
・用量または曝露量との相関性
・想定される臨床用量に対する安全係数
・投与期間
・変化の認められた動物種の数及びパラメータの数
・別の要因により二次的に発生したと思われる変化(例えば、ストレス、別紙1.4項参照)
・予想される標的細胞及び作用機序
・変化が認められた用量と他の毒性が認められた用量との関係
・認められた変化の回復性
2.1.2 薬理学的性質
被験物質の薬理学的性質から、免疫機能に影響を及ぼす可能性が考えられる場合には(例えば、抗炎症剤)、免疫毒性試験の実施を考慮する必要がある。非臨床の薬理学的研究から得られた当該化合物の免疫系への影響に関する情報が、免疫毒性試験の必要性を判断する際の重要性に基づく評価に利用できる場合がある。
2.1.3 適応患者集団
薬剤が用いられる患者集団の大部分が疾病に伴って、または併用される治療によって免疫不全の状態となる場合には、免疫毒性試験の実施が必要とされよう。
2.1.4 構造類似性
免疫毒性作用が知られている化合物と構造的に類似した化合物についても、免疫毒性試験の実施を考慮する必要がある。
2.1.5 薬物の分布
薬物またはその代謝物が免疫系細胞に高濃度で蓄積する場合にも、免疫毒性試験の実施を考慮する必要がある。
2.1.6 臨床試験または臨床適応において認められた所見
薬剤を投与された患者において免疫毒性を示唆する臨床所見が認められた場合には、非臨床免疫毒性試験の実施が必要とされることがある。
2.2 重要性に基づいた評価
上述の全ての項目に関する情報を対象として重要性に基づいた評価を行い、免疫毒性の懸念要因が存在するか否かを判断する必要がある。一つの要因でも、それが重要な所見である場合には免疫毒性試験を実施する必要がある。単独では十分な根拠とならない場合でも、二つ以上の要因が認められた場合は、免疫毒性試験の実施が必要となる場合がある。免疫毒性試験を実施しない場合には、正当な理由が示される必要がある。
3.免疫毒性試験の選択とデザイン
3.1 目的
免疫毒性の懸念要因が特定された場合には、その化合物の免疫毒性の有無を確認するため、免疫毒性試験を実施する必要がある。これらの試験は、影響を受ける細胞のタイプ、回復性及び作用機序を明らかにするのにも役立つ。得られる情報は、可能性のあるリスクに対する理解を深めるとともに、臨床試験におけるバイオマーカーの選択に有用となろう。
3.2 試験法の選択
重要性に基づいた評価により免疫毒性試験の必要性が示された場合、使用しうる多くの試験法がある。標準的毒性試験で免疫毒性を示唆する変化がみられた場合、認められた免疫学的変化及び薬物クラスから想定される懸念に基づいて、適切な免疫毒性試験法を選択する。免疫毒性試験としては、T細胞依存性の抗体産生(TDAR)のような免疫機能試験の実施が望まれる。標準的毒性試験において、ある特定のタイプの免疫系細胞に影響がみられ、その標的細胞がTDARに関与しないことが知られている場合には、その細胞の機能を測定する試験法を実施しうる(別紙参照)。免疫毒性の標的が特定されていない場合には、TDARが推奨される。
また、白血球ポピュレーションのイムノフェノタイピングは、機能試験には該当しないものの、影響を受けた特定の細胞集団の同定に用いることができ、有用な臨床バイオマーカーを見いだせる場合もある。
3.3 試験デザイン
薬物による免疫毒性を評価するためのげっ歯類を用いる試験デザインとしては、28日間の反復投与が一般的である。げっ歯類を用いる免疫毒性試験法の非げっ歯類への適用も報告されている。免疫毒性試験に用いられる動物種、系統、投与用量、投与期間並びに投与経路は、可能であれば、免疫系への影響が認められた非臨床毒性試験にあわせる必要がある。通常、これらの試験では、霊長類を除いては、両性を用いる必要がある。霊長類以外の動物種で片性のみを用いる場合には、その妥当性を示す必要がある。高用量は、無毒性量(NOAEL)よりも高く、またストレスによる二次的変化が発現する用量よりも低く設定する必要がある(別紙1.4項参照)。用量依存関係を明らかにし、免疫毒性が認められない用量を決定するために、複数の投与用量を設定することが望まれる。
3.4 免疫毒性試験の評価と追加試験の必要性
免疫毒性試験で得られた結果については、免疫毒性のリスクを適正に判断するに足る十分なデータであるか否かを評価する必要がある。
1.免疫毒性試験で免疫毒性のリスクが認められない場合は、さらに試験を行う必要はない。
2.免疫毒性試験で免疫毒性のリスクが認められたものの、リスク―ベネフィットを適切に判断するに足る十分なデータが得られない場合がある。このような場合には、さらに追加試験を行うことで、リスク―ベネフィットの判断のために十分な情報を得ることができる。
3.リスク―ベネフィットを総合的に勘案した結果、免疫毒性のリスクが認容できるか、安全性監視計画(ICH E2Eガイドライン2)で対応が可能な場合は、動物を用いる追加試験は必要ない。
4.免疫毒性試験の実施時期と臨床試験
重要性に基づく評価により、免疫毒性試験が必要とされた場合には、その薬剤が多数の患者に投薬される前に、通常は第Ⅲ相試験までに、免疫毒性試験を終了している必要がある。これにより、必要に応じて、免疫系パラメータのモニタリングを臨床試験に含めることが可能となる。免疫毒性試験の実施時期の決定は、被験物質の作用様式、免疫毒性試験が陽性の場合に必要と考えられる臨床試験の検査項目にもよるであろう。対象患者が免疫不全である場合には、その薬剤の開発の早期段階で免疫毒性試験を開始する場合がある。
5.文献
1.ICH Harmonised Tripartite Guideline(S6)“Preclinical Safety Evaluation of Biotechnology-Derived Pharmaceuticals”
2.ICH Harmonised Tripartite Guideline(E2E)“Pharmacovigilance Planning”
図1 免疫毒性評価のフローチャート
別紙:免疫毒性を評価するための方法
1.標準的毒性試験
標準的毒性試験において免疫毒性の徴候として評価すべきパラメータを下表に示す。これらのパラメータ(血液学及び血液生化学を除く)、試料の採取方法及び組織切片の評価方法については、専門の毒性病理学会等から発行されている文書でより詳細に記述されている。
パラメータ |
検査項目 |
血液学 |
総白血球数及び白血球型別絶対数 |
血液生化学 |
グロブリン濃度1及びA/G比 |
剖検 |
リンパ系器官/組織 |
臓器重量 |
胸腺、脾臓(オプションとして、リンパ節) |
病理組織学 |
胸腺、脾臓、所属リンパ節及び1つ以上の他のリンパ節、骨髄2、パイエル板3、BALT4、NALT4 |
1説明できないグロブリン濃度の変化が認められる場合には、免疫グロブリン濃度の測定が必要とされる場合がある。
2末梢血の血球分画あるいは病理組織学的検査において説明できない変化が認められる場合には、骨髄の細胞学的評価の実施が適切である場合がある。
3経口投与のみ。
4吸入あるいは経鼻投与のみ。BALT:気管支関連リンパ組織、NALT:鼻咽頭関連リンパ組織
1.1 血液学的検査及び血液生化学的検査
免疫毒性の評価には、総白血球数及び白血球型別絶対数が必要とされる。グロブリン濃度の変化を評価する際には、他の要因(例えば、肝毒性や腎毒性)を考慮する必要がある。血清グロブリン濃度の変化は、血清中の免疫グロブリン変化の指標になりうる。血清免疫グロブリン濃度は免疫抑制の指標としての感度は低いが、その変化は免疫毒性の標的となる細胞集団の同定や作用機序を理解する上で時として有用な場合がある。
1.2 剖検及び臓器重量
すべてのリンパ組織について剖検時に肉眼的変化を評価する必要がある。しかし、げっ歯類のパイエル板は小さいため、観察が困難な場合がある。脾臓と胸腺については重量の測定が必要である。イヌ及びサルでは、脾臓重量のばらつきを抑えるために、剖検時に十分に放血することが望まれる。加齢に伴う胸腺の萎縮によって、胸腺重量の正確な測定ができない場合がありうる。
1.3 病理組織学的検査
脾臓及び胸腺の病理組織学的な変化は、全身的な免疫毒性の指標として評価される必要がある。また、薬剤投与部位の所属リンパ組織あるいは薬剤投与部位に接するリンパ組織(したがって、薬剤に最も高濃度で曝露されている)の検査を行う必要がある。これらの部位には、経口投与剤ではパイエル板及び腸間膜リンパ節が、吸入剤では気管支関連リンパ組織(BALT)が、吸入あるいは経鼻投与剤では(可能ならば)鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)が、経皮、筋肉内、皮内、髄腔内、あるいは皮下に投与される薬剤では最も近傍の所属リンパ節が含まれる。投与経路により異なる所属リンパ節及び追加のリンパ節の選択には、経験に基づく判断が必要とされる。静脈内投与される薬剤では、脾臓を所属リンパ組織と考えることができる。
リンパ組織の所見の記録及び投薬関連変化の報告に当たっては、リンパ組織を領域(compartment)別に分け、“半定量的な”記述によりその変化を表すことが望まれる。
1.4 ストレスに関連する変化の解釈
標準的毒性試験で、最大耐量あるいはそれに近い用量ではストレスによる免疫系の変化が生じうる(例えば過剰な薬理作用によるストレス)。このような免疫系への影響は、おそらく、コルチコステロンあるいはコルチゾール等の放出の増加を介して生じるものと考えられる。ストレスに関連する免疫系の変化としては、末梢血好中球数の増加、末梢血リンパ球数の減少、胸腺重量の減少、胸腺皮質細胞数の減少とそれに関連した病理組織学的変化、脾臓及びリンパ節の細胞数の変化がよく観察される。副腎重量の増加あるいは組織学的な副腎皮質の肥厚も認められることがある。体重減少及び活動性の低下のような臨床的な症状に伴って認められる胸腺重量の減少は、多くの場合ストレスが原因である。しかし、これらの所見のみでストレスに関連する免疫毒性の十分な証拠になると考えるべきではない。免疫毒性試験を実施しない場合には、ストレスに起因することを示す明瞭な証拠を提示する必要がある。
2.免疫毒性試験
2.1 試験法の妥当性とバリデーション
一般に、選択する免疫毒性試験法は、広く用いられており、既知の免疫抑制物質に対して十分な感度と特異性を有することが示されている必要がある。しかし、時として、十分なバリデーションが完了してない場合やその試験法が広く用いられていない場合もある。このような場合には、その試験法を採用する科学的・機序的な根拠が必要とされ、また可能であれば、適切な陽性対照を試験系に含める必要がある。
個々の免疫毒性の検査項目で、異なる試験施設で得られる応答性にばらつきが生じる可能性がある。多くの場合、施設間変動は免疫毒性試験法としての評価能には影響を及ぼさないが、試験が適切に実施されていることや試験施設の技術的水準を保証するために、標準的な試験技術に関するバリデーション項目を、いくつか検討しておく必要がある。これらの項目には、併行精度、試験間精度、試験者間精度、定量限界、定量の直線性を与える範囲、被験試料の安定性が含まれる。さらに、既知の免疫抑制物質に対する試験法の検出感度を明らかにしておく必要がある。霊長類を用いる試験を除き、試験の適切な実施を保証するために、各試験施設で試験毎にまたは定期的に陽性対照物質を含めて試験を実施することが望まれる。イムノフェノタイピングについては、試験技術のバリデーションが適切に実施されていれば、各試験毎に陽性対照物質を必ずしも含めなくてもよい。
免疫毒性試験はGLPを遵守した形で実施することが望ましい。但し、下記に示されたような特殊な試験法に関しては、GLPに完全に適合しない場合もありうる。
2.2 T細胞依存性抗体産生(TDAR)試験
T細胞依存性抗体産生(TDAR)試験は、確実な抗体産生を引き起こすことが知られているT細胞依存性抗原(例えば、ヒツジ赤血球(SRBC)またはkeyhole limpet hemocyanin(KLH))を用いて実施される必要がある。抗体産生の指標には、用いた試験法及び動物種において最適なものを選択する必要がある。
正当な理由がない場合は、免疫の際、抗原とアジュバントを併用すべきではない。アラム(alum)の使用は霊長類においてのみ認められる場合がある。特にマウスにおいては、TDARの応答性に系統差がみられることがある。非近交系ラットでは、同一群の個体間で明らかなばらつきが認められることがある。標準的毒性試験で使用した系統との関連づけができる十分な曝露データを提供しうる場合は、近交系ラットを使用できる。
抗体は酵素免疫測定法(ELISA)または他の免疫学的アッセイ法により測定することができる。抗体産生細胞数の測定に比べてELISAが優れている点の一つとして、試験期間中にサンプルを経時的に採取できることがある。サルでは、抗体産生の経時変化に大きな個体間差があるため、経時的採血が重要となろう。この場合には、数回の採血によって得られた抗体量などの総和を、データとして用いることができる(例えば、曲線下面積)。
ELISAにおいてSRBC抗原を用いる場合、プレートのコーティングに用いる抗原の調製方法が重要である。SRBC抗原としては、固定した赤血球や細胞膜分画を使用することができる。ELISAの結果は、吸光度(OD値)ではなく、濃度または抗体価として表示することが望ましい。
2.3 イムノフェノタイピング
イムノフェノタイピングとは、抗体を用いた白血球サブセットの同定や計数を指す。通常、イムノフェノタイピングはフローサイトメーターによる解析(フローサイトメトリー法)または免疫組織化学的手法により行われる。
特定の細胞群を計数するフローサイトメトリー法は、免疫機能検査とはみなされない。しかし、フローサイトメトリー法は、リンパ球の抗原特異的な免疫応答の測定に用いることができる。臨床試験においても末梢血白血球の計数が行われるため、末梢血から得られたデータは、非臨床試験から臨床試験への橋渡しとして役立つ場合がある。薬物投与による変化を評価するためには、リンパ球サブセットの百分率のみならず絶対数を使用することが望まれる。
フローサイトメトリー法に比して免疫組織化学的手法が優れている点の1つは、免疫毒性の所見がみられた場合に、標準的毒性試験で採取された組織を使い、レトロスペクティブな解析ができることである。加えて、リンパ組織のある特定な領域(compartment)内での細胞のタイプの変化を観察することも可能である。ただし、ある動物種のリンパ球マーカーの中には、ホルマリン固定により抗原性を失うものがあり、特定の固定液を使用した場合や瞬間凍結した組織でのみ、組織中の局在の観察が可能である。さらに、白血球サブセットの計数及び染色強度の定量的評価は、免疫組織化学的手法においては非常に困難である。
イムノフェノタイピングを、ある特定の白血球集団の変化の同定や特徴づけに利用する場合、既に観察された変化に基づいて、その対象をリンパ系器官や末梢血から選択する必要がある。イムノフェノタイピングは、標準的毒性試験に容易に加えることができ、投与期間及び休薬期間(回復期間)における変化を追うことができる。
2.4 ナチュラルキラー細胞活性検査
ナチュラルキラー(NK)細胞活性検査は、イムノフェノタイピングにおいてNK細胞数の変化がみられた場合、標準的毒性試験でウイルス感染の発生率が増加した場合、または他に懸念される要因がある場合に実施される。一般に、全てのNK細胞活性検査はexvivo試験であり、被験物質の投与を受けた動物の組織(脾臓など)や血液を使用する。組織や血液から調製された細胞は、放射性クロミウム(51Cr)で標識した標的細胞と混合培養される。適切なバリデーションが行われていれば、非放射性標識による新しい方法を使用してもよい。十分なレベルの細胞障害性及び反応曲線を得るためには、検査毎に、種々の標的細胞とエフェクター細胞の比率で検査を行う必要がある。
2.5 宿主抵抗性試験
宿主抵抗性試験では、被験物質を複数の用量で投与されたマウスやラットに、種々の濃度の病原体(細菌、真菌、ウイルス、寄生虫)や腫瘍細胞を接種する。媒体投与群と被験物質投与群との間で感染率や腫瘍増殖率を比べ、被験物質が宿主抵抗性に変化をもたらしたか否かを判定する。Listeria monocytogenes、Streptococcus pneumoniae、Candida albicans、インフルエンザウイルス、サイトメガロウイルス、Plasmodium yoelii、Trichinella spiralisなど、様々な病原体を用いた評価モデルが開発されている。マウスの腫瘍宿主抵抗性モデルでは、B16F10メラノーマ細胞株やPYB6肉腫細胞株が使用されている。
宿主抵抗性試験の結果から、特定の感染体や腫瘍細胞に対する感受性の情報を得ることができ、それを安全性監視計画に反映させることができる。また、宿主抵抗性試験は被験物質の影響を受けた細胞のタイプの同定や確認を行う上でも重要である。さらに、宿主抵抗性試験には自然免疫の防御機構が関与しているが、その活性測定を目的とする免疫機能検査法はまだ開発されていない。宿主抵抗性試験を実施する際に、試験担当者は、病原体と腫瘍細胞の増殖及び病原性に対する被験物質の直接的または間接的な(非免疫的な機構による)作用を注意深く考察する必要がある。例えば、ある種の腫瘍細胞の増殖を抑制する化合物は、見かけ上宿主抵抗性を増加させる。従って、病原体等に対する直接作用をin vitroで調べることが推奨される。
2.6 マクロファージ/好中球機能
マクロファージ及び好中球のin vitro機能検査(食作用、活性酸素生成、走化性及び細胞溶解活性)は、数種の動物種において報告されている。これらの試験では、被験物質によりin vitro処理された細胞、または被験物質を投与した動物から採取された細胞(ex vivo試験)を用いて、マクロファージや好中球の機能を評価する。In vivoで被験物質の影響を検討することも可能であり、放射性標識あるいは蛍光標識された標的細胞の細網内皮系細胞による貪食作用への影響を評価する試験もある。
2.7 細胞性免疫能の検査
細胞性免疫の測定法は抗体産生測定法ほど十分には確立されていない。In vivoアッセイ法として、抗原を用いた感作法がある。この場合、抗原惹起に対する応答への薬剤の影響が評価指標となる。感作及び惹起に蛋白抗原を用いる遅延型過敏(DTH)反応は、マウスとラットで報告がある。接触感作性物質を用いる動物モデルはマウスで検討されているが、十分に検証されておらず、広く使用されるには至っていない。マウスでは、抗原としてウイルス、腫瘍細胞株または同種異系移植片を用いて誘導した細胞障害性T細胞活性の測定を行うことができる。サルを用いたDTH反応も報告されている。しかし、サルのDTH反応では一貫した再現性を得ることが非常に難しい。さらに、抗体と補体によるアルツス反応とDTH反応とを区別することが必要である。