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(注) 本表は、各種の作業等の運動強度の目安であり、作業等の内容によっては作業強度の数値が本表と合致しないことがある。

3 腹部臓器の障害

(1) 治ゆの判断

ア 食道

食道を狭さくし、流動食以外は通過することができないような症状を呈した場合には、手術ないしブジーの措置により狭さく部の改善を試みるのが通常である。また、手術によっても流動食以外は通過することができないような症状を残した場合には、終身高カロリー輸液(IVH)等が必要であることから、療養の対象となり、治ゆとすることはできない。

イ 胃

胃の全部又は一部を摘出したことにより生じ得る慢性の症状には、消化吸収障害、ダンピング症候群、逆流性食道炎のほかに貧血及び骨代謝障害があるが、貧血及び骨代謝障害の症状が現れた場合は、通常、療養の対象となる。

ウ 肝臓

慢性肝炎及び肝硬変については、ウイルスが陰性化した場合のほかは、ウイルスの持続感染が認められ、かつ、AST・ALTが持続的に低値であるものに限り治ゆと判断することができる。

なお、抗ウイルス剤、免疫調節薬の投与又はグリチルリチンの注射等積極的治療を目的とする薬剤の持続的な投与によりAST・ALTが持続的に正常な状態が維持されている場合については、治療を中止した場合、病態の悪化が避けられないことから、治ゆと判断することはできない。

エ すい臓

すい臓の損傷後に生じる合併症として、すい液瘻や仮性嚢胞がある。

重症で難治性のすい液瘻が形成されると、多量のすい液漏出のために電解質バランスの異常、代謝性アシドーシス、蛋白喪失及び局所の皮膚びらんが生じるから、すい液ドレナージとすい液漏出による体液喪失に対する補液、電解質の補正等の治療が必要であり、治ゆとすることはできない。

難治性の軽微なすい液瘻があり、瘻孔からしみ出たすい液によって皮膚のびらんを生じることがあるが、このうち、補液、電解質の補正等の治療は不要であって、通院加療を要しないと判断されたものについては、治ゆと判断することができる。

外傷後に生じる仮性嚢胞は、感染等の合併がなければ自然に吸収されることも多いものの、腫瘤の増大傾向を認めたり、疼痛等の自覚症状を伴う場合には治療が必要となるため、治ゆと判断することはできない。

オ ヘルニア(腹壁瘢痕ヘルニア、腹壁ヘルニア、鼠径ヘルニア及び内ヘルニア)

ヘルニアについては、手術を行うのが通常であり、多くは手術により脱出を認めなくなることから、修復術を試みたが完治を期待できない場合(例:腹壁欠損が大きいため、直接縫合が困難で、手術後も腹帯の着用が必須である場合)又は手術適応とならない場合に限り、障害を残したまま治ゆとなる。

(2) 評価の考え方

ア 胃の障害

胃を切除したことによる後遺症状のうち、消化吸収障害、ダンピング症候群及び胃切除術後逆流性食道炎を後遺症状として評価する。

(ア) 消化吸収障害

消化吸収障害は、胃酸・ペプシンの欠如又は不足により、食餌が消化されないまま腸管に移動することなどにより生じるものである。胃の相当部分を切除しても消化吸収障害を認めないことがあるので、消化吸収障害の有無は、低体重(BMIが20以下のもの)であるか否かにより判断する。胃の全部を切除した場合には、胃液の分泌等が全く行われなくなることから、消化吸収障害が生じているものとする。

(イ) ダンピング症候群

ダンピング症候群は、胃の幽門部を切除したために食餌が急速に小腸内に墜落することにより生ずるものである。ダンピング症候群は、胃の全部を切除した場合には高率で生じるものの、必ず生じるというわけではなく、また、幽門部を含む胃の部分切除にとどまる場合であっても、症状が重篤なことがある。

(ウ) 胃切除術後逆流性食道炎

胃切除術後逆流性食道炎は、胃の噴門部を切除したために胃液あるいは腸液が食道内に逆流するために生じるものである。胃切除術後逆流性食道炎は、胃の全部を切除した場合には高率で生じるものの、必ず生じるというわけではなく、また、噴門部を含む部分胃切除にとどまる場合であっても、症状が重篤なことがある。

イ 小腸の障害

小腸は、消化管の中で最も長い臓器であり、十二指腸、空腸、回腸という3つの部分から構成されている。

十二指腸は、胃と空腸の間にあり、長さ20~30cmのC字型をした腸管である。

空腸と回腸を合わせた長さは6mほどであり、その上方2/5が空腸、下方3/5が回腸であるが、両者の間に判然とした境界があるわけではない。空腸は、十二指腸空腸曲から始まり、回腸は回盲境界部で終わる。

(ア) 小腸の大量切除

小腸が大量に切除されると、小腸の実効吸収面積が著しく減少するので、消化吸収障害を生じることがある。

小腸切除後に残存する空・回腸の長さが75cm以下となった場合は、相当程度の消化吸収障害を来す。この場合は、いわゆる短腸症候群であり、療養(静脈栄養法や成分栄養経腸栄養法)を要する場合が多いが、経口的な栄養管理が可能な場合は、治ゆと判断できる。

なお、残存する空・回腸の長さが300cmを超える場合は、通常、消化吸収障害は認められないことから、障害として評価しない。

(イ) 小腸皮膚瘻

小腸皮膚瘻とは、小腸内容が皮膚に開口した瘻孔から出てくる病態をいい、粘液瘻を除く。

粘液瘻とは、小腸皮膚瘻には当たるものの、空置された腸管と皮膚の間に生じた瘻孔であり、排出されるのは小腸内容ではなく粘液であって、その障害もごく軽いものである。障害等級認定基準においては、瘻孔から小腸内容が出ることによって消化吸収障害等を生じることを評価するものであることから、粘液瘻は評価の対象としない。

(ウ) 小腸の狭さく

小腸の内腔には輪状の粘膜のひだが存在しており、このひだのことを、「ケルクリングひだ」という。

通常、単純エックス線でケルクリングひだを確認することはできないが、小腸に狭さくがあると、その口側にガスが貯留し、そのガスによって粘膜のひだが造影剤なしでも単純エックス線で確認できるようになる(ケルクリングひだは、胃の縦ひだと異なり、小腸が膨脹しても消失しない。)。

ウ 大腸の障害

大腸は、盲腸、結腸(上行結腸、横行結腸、下行結腸及びS状結腸)、直腸に分けられるが、その機能上から、肛門管を含むことが多く、障害等級認定基準上も肛門管を含めて大腸という。

(ア) 大腸の狭さく

結腸の内腔には半月状のひだ(結腸半月ひだ)が存在しており、それらの間の外側に向かって膨出した部分を「結腸膨起」という。

大腸の狭さくがない場合であっても、単純エックス線像で結腸膨起が短い区間認められることがあるが、大腸に狭さくがあると、大腸に滞留した大量のガスにより、単純エックス線像で結腸膨起が相当区間にわたって認められるようになる。

(イ) 便秘

便秘は、医学的には「便が大腸内に長時間にわたって滞留し、排便が順調に行われていない状態」をいうとされており、単に回数が少ないだけでは便秘には該当せず、排便に支障があることが要件とされている。高度なものになると、排便がいきみと腹圧をかけるのみでは行うことができなくなり、自然の排便ができなくなることから、用手摘便によらざるを得なくなる。

業務上の事由によるものとしては、せき髄等の中枢神経系の損傷によるものが考えられる。

(ウ) 便失禁

便失禁は肛門括約筋の働きが障害されることにより生じるものであり、肛門括約筋の機能が全部失われると、完全便失禁となる。

(エ) 人工肛門

小腸や大腸が損傷を受けた場合は、人工肛門を設けることがある。

人工肛門を設けた場合、排便はストマ(排泄口)にパウチ(蓄便袋)を装着して管理することとなるが、ストマ周囲に著しい皮膚のびらんを生じ、パウチによる管理が困難となることがある。

エ 胆のうの障害

胆のうを損傷し、非観血的療法が無効な場合等には、胆のうの摘出が行われる。

オ すい臓の障害

内分泌機能の障害については、糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(日本糖尿病学会 1999年)の「糖代謝異常の判定区分」により判断する。

【糖代謝異常の判定区分】

正常型

空腹時血糖値が110mg/dl未満かつ75gOGTTの2時間値が140mg/dl未満であるもの

境界型

空腹時血糖値が110mg/dl以上又は75gOGTTの2時間値が140mg/dl以上であって、糖尿病型に該当しないもの

糖尿病型

空腹時血糖値が126mg/dl以上又は75gOGTTの2時間値が200mg/dl以上のいずれかを満たすもの

4 泌尿器・生殖器の障害

(1) じん臓の障害

じん機能が著しく低下したもの(糸球体濾過値≦30ml/分)及び定期的に透析療法が必要なものは、療養の対象となる。

なお、糸球体濾過値(GFR)とは、糸球体の機能を検査するものであり、内因性クレアチニンクリアランスによって計測することが広く行われている。

(2) 尿管、膀胱及び尿道の障害

ア 尿路変向術

(ア) 尿禁制型尿路変向術

尿禁制型尿路変向術には、尿管S状結腸吻合術、禁制型尿リザボア(CUR,continent urinary reservoir)(コックパウチ、インディアナパウチ等)、下部尿路再建術(人工膀胱)、外尿道口形成術、尿道カテーテル留置等の術式がある。

禁制型尿リザボアについては、当初は尿の禁制は保たれているものの、術後一定期間経過すると、蓄尿機能が失われることも少なくないことから、障害等級の認定に当たっては、非尿禁制型尿路変向術と同様の評価をする。

(イ) 非尿禁制型尿路変向術

非尿禁制型尿路変向術には、皮膚造瘻術及び回腸(結腸)導管の術式がある。

尿失禁があり、尿の禁制は保たれない。

イ 尿失禁

(ア) 持続性尿失禁

持続性尿失禁とは、膀胱の括約筋機能が低下又は欠如しているため、尿を膀胱内に蓄えることができず、常に尿道から尿が漏出する状態をいう。

膀胱括約筋の損傷又は支配神経の損傷により生じる。

(イ) 切迫性尿失禁

切迫性尿失禁とは、強い尿意に伴って不随意に尿が漏れる状態であり、尿意を感じても便所まで我慢できずに尿失禁が生じるものである。

業務上の事由によるものとしては、脳の排尿中枢を含む排尿反射抑制路の障害によるものが考えられる。

(ウ) 腹圧性尿失禁

腹圧性尿失禁とは、笑ったり、咳やくしゃみ、重い荷物を持ち上げたりしたときや歩行や激しい運動等によって急激に腹圧が上昇したときに尿が漏れる状態をいう。

業務上の事由によるものとしては、尿道外傷による括約筋の障害後に生じることがある。

ウ 尿道の閉塞

尿道の器質的な閉塞による排尿障害は、療養の対象となる。

(3) 生殖機能の障害

ア 狭骨盤とは、次のいずれかに該当するものをいう。

(ア) 産科的真結合線9.5cm未満

(イ) 入口部横径10.5cm未満

イ 比較的狭骨盤とは、次のいずれかに該当するものをいう。

(ア) 産科的真結合線10.5cm未満9.5cm以上

(イ) 入口部横径11.5cm未満10.5cm以上

(4) 勃起障害と射精障害

勃起障害は、「性交時に十分な勃起が得られない、あるいはその維持ができないために満足な性行為が行えない状態」と定義とされている(NIH、1992年)。射精とは、精液を受精の場所たる子宮に送り届けるための現象であって、「精液を急速に体外に射出する」ことであり、これが障害された状態を射精障害という。

射精は、通常、勃起に引き続いて行われることから、一見勃起障害のみを評価すれば足りると考えられるが、勃起と射精は、異なる神経の支配を受けていることから、必ずしも両者の障害が伴って生じるわけではない。すなわち、勃起をしても射精しない場合、勃起はしないものの射精をする場合がある。

以上のとおり、射精障害と勃起障害は、異なる原因によって生じるものであり、また、生じている現象も異なることから、それぞれについて障害として評価することとした。