添付一覧
○「抗リウマチ薬の臨床評価方法に関するガイドライン」について
(平成18年2月17日)
(薬食審査発第0217001号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)
医薬品の承認申請の目的で実施される抗リウマチ薬の臨床試験の評価方法として、その標準的方法を別添の通り取りまとめましたので、貴管下関係業者に対して周知方お願いいたします。
なお、学問上の進歩等を反映した合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしもここに示した方法を固守するよう求めるものではないことを申し添えます。
[別添]
抗リウマチ薬の臨床評価方法に関するガイドライン
Ⅰ 緒言
Ⅱ 非臨床試験
1.薬効薬理試験
2.薬物動態試験
Ⅲ 臨床評価方法
1.抗リウマチ薬の臨床試験における評価方法に関する基本的考え方
2.評価方法の選択
3.評価方法の概要
4.治療効果の判定
5.試験デザインの決定に関する留意点
Ⅳ 臨床試験
1.治験の実施
2.第Ⅰ相試験
3.第Ⅱ相試験(前期)
4.第Ⅱ相試験(後期)
5.第Ⅲ相試験
6.第Ⅲ相試験(長期安全性試験)
7.製造販売後調査
8.製造販売後に考慮すべき臨床試験
Ⅴ 生物学的製剤
【付録】
Ⅰ 緒言
関節リウマチは免疫機能異常状態を基礎とする慢性炎症性疾患であり、多発する関節炎と急速に進行する関節破壊等の関節症状を主症状とし、関節外症状として肺臓、腎臓、心臓、眼、皮下組織等にも炎症性障害が分布する関節局所優位の全身性疾患である。基礎的及び臨床的研究の進歩により、関節リウマチの病因、病態は明らかにされつつあるが、未だに不十分である。そのため、関節リウマチは諸種の治療法に抵抗し、多くの例において関節炎症状は増悪、寛解を繰返して進行して、重症の関節障害、運動機能障害に陥る。
日本では、60~70万人の関節リウマチ患者が推定されており、40~50才の働き盛りの女性の発症が中心であるため、家族を含めての精神的、社会的問題そして国家レベルでの経済的損失も大きく、対策は重要となる。
関節リウマチの治療の目標は関節炎による疼痛の軽減、関節破壊の防止、関節機能の維持により、患者の身体的、精神的、社会的な生活の質の向上を図ることである。関節リウマチの治療の中心は薬物療法であり、抗リウマチ薬、非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド薬等がある。抗リウマチ薬は関節リウマチの免疫機能異常状態に起因する炎症をコントロールする薬剤であり、現状では免疫調節薬、免疫抑制薬、生物学的製剤等が含まれる。
本ガイドラインは、抗リウマチ薬として開発される新医薬品の臨床的有用性を検討するため、臨床試験の計画、実施、評価法等について標準的方法と手順を概説したものである。治験を科学的にかつ倫理的に行うために、本ガイドラインに準じることにより、治験の質的向上が図られることを望むものである。しかし、関節リウマチの臨床的、基礎的研究は、今後急速に進歩することが予想され、新しい検査法、治療法が導入される時点において、本ガイドラインも改訂されるべきである。今後の本ガイドラインの運用にあたっては柔軟に対応していくことが望まれる。
Ⅱ 非臨床試験
非臨床試験は、①対象疾患に対して有効性のある医薬品のスクリーニング、②医薬品の特性の明確化、③ヒトに投与するに際しての安全性の検討、④薬物相互作用の検討、そして⑤適切な臨床試験デザイン構築のための情報収集等のために求められるものである。しかし、本ガイドラインが新しい抗リウマチ薬の臨床評価ガイドラインであることから、主に薬効に関する点に絞って記す。(生物学的製剤については、「V 生物学的製剤」も参照)
1.薬効薬理試験(in vitro、in vivo)
抗リウマチ薬において行う標準的薬理試験を下記に示す。この中から治験薬の薬理作用の解明に必要と考えられる薬理試験を選択する。さらに、これ以外の薬理試験を追加することもできる。
1) 薬効を裏付ける作用機序解明のためのin vitro試験
(1) 薬効を裏付ける動物モデルを用いた試験につながる試験として行う。動物あるいはヒト由来の細胞、組織を用いて薬効のある薬物をスクリーニングするためにも用いられる。作用機序により、適切な評価指標が選択される。
○マクロファージに対する作用、線維芽細胞に対する作用、破骨細胞に対する作用等を検討する。
○生物学的製剤においては、ヒト組織由来細胞等を用いて標的分子(サイトカイン、そのレセプター等)への結合親和性及び特異性等を検討する。
(2) 免疫系に対する作用をT細胞及びB細胞機能(増殖、サイトカイン産生、抗体産生等)に及ぼす影響から検討する。
2) 薬効を裏付ける動物モデルを用いた試験
(1) ラットのアジュバント誘発関節炎における関節破壊を含む治療効果を評価する。
(2) コラーゲン誘発関節炎モデルを用いた薬物の発症予防効果及び発症後の炎症所見、免疫反応(抗コラーゲン抗体等)、関節破壊に対する治療効果を評価する。
(3) 自然発症関節炎動物モデル(MRL/lprマウス等)を用いた自己免疫に対する抑制効果を評価する。
(4) Streptococcal cell all誘発関節炎モデル動物における治療効果を評価する。
(5) 実験的臓器移植モデルを用いて薬物の免疫抑制活性を評価する。
(6) 薬効に関連したトランスジェニック動物モデル(例えばTNFαトランスジェニックマウス)を用いて評価する。
(7) その他
3) 代謝物の薬理作用を検索し、それを加えた臨床用量の推定等を行う。
2.薬物動態試験
1) 動物を用いて吸収、分布、代謝、排泄を検討し、治験薬の薬物動態学的プロファイルを明らかにする。動物での毒性及び薬理試験の条件設定に役立つだけでなく、ヒトでの有効性及び毒性発現の可能性を知るために有用である。
2) in vitroのシステムを用いてヒトにおける代謝酵素の解明、薬物相互作用等の検討を行う。さらに必要に応じて代謝酵素等の人種差、個人差を検討する。
3) 関節リウマチで用いられる可能性の高い非ステロイド性抗炎症薬を含む抗炎症鎮痛薬、ステロイド、疾患修飾性抗リウマチ薬及びその他の薬物との併用によって、薬物相互作用による有害反応の危険が増加する可能性を検討する。
4) 生物学的製剤においては、動物、ヒトにおける薬効を低下させる中和抗体の出現の有無とその影響の程度を検討する。
Ⅲ 臨床評価方法
1.抗リウマチ薬の臨床試験における評価方法に関する基本的考え方
関節リウマチ治療における真のエンドポイントはQOLの長期維持や関節の構造的損傷の防止であるが、長期間の観察を必要とするため、抗リウマチ薬の臨床評価には各種の代替マーカーが用いられることが多い。関節リウマチの活動性は、関節リウマチ炎症の程度を評価することによるプロセス指標と、関節リウマチ炎症の結果としての転帰を評価するアウトカム指標がある。当該薬剤の投与目的により、適切な代替マーカーを選択する必要がある。
2.評価方法の選択
臨床開発される抗リウマチ薬の期待される薬効及び投与目的を明確にし、それを客観的に評価しうる評価項目を選択することが最も重要である。FDA(米国食品医薬品局)が作成した関節リウマチに対して投与する薬剤の期待される薬効と推奨される評価項目を参考資料として【付録1】に掲載する。
3.評価方法の概要
【付録2】に掲載しているアメリカリウマチ学会(ACR)コアセットに含まれる評価項目を基本とする。
これは、関節リウマチの臨床試験における治療の有効性の評価を目的として、以前に使用されてきた指標について臨床的変化に対する相関性、信頼性、包括性、転帰への予知能、感度の視点からその妥当性を検討し、基本的な項目を抽出したものである。現在まで多くの臨床試験に用いられ、信頼性も高い。急性期反応物質の変化を示す赤沈値及び血清CRP値が含まれていることで、非ステロイド性抗炎症薬の臨床試験より、抗リウマチ薬の臨床試験に適した評価セットであると考えられる。
これらの評価項目を用いる場合には、特に医師が評価する項目においての標準化が望ましい。疼痛関節数、腫脹関節数、医師の全般的活動性評価に関しては、観察者間、施設間で大きな差ができる可能性があり、最終的な結果に大きな影響を及ぼす可能性が高い。これらの項目に関しては、臨床試験開始前に何らかの方法で標準化することが求められる。同様に、X線評価等は集中的な評価が必要である。各施設とは独立した同一の評価者により評価を行うことも一法である。
4.治療効果の判定
主要評価項目、副次的評価項目の選択は治験デザインの設定において最も重要なものである。治験薬の薬効を考慮し、最も適切な項目を選択する必要がある。
1.ACR改善基準【付録3】
2.EULAR改善基準【付録4】
3.寛解基準【付録5】
4.QOL指標【付録6】
5.試験デザインの決定に関する留意点
1) 全般的事項
試験デザインは、先行する試験で得られた情報及び治験薬の評価に影響を与え得る要因に関する十分な分析と検討を行い、試験の目的及び検証すべき仮説を踏まえて設定する。
2) 標準薬の設定
一般的に、医薬品の製造承認に関する取扱いが厳密化された昭和42年以降に承認又は再評価された薬で、精密かつ客観的な評価がなされている臨床試験のあるものが標準薬として選択されるべきである。個々の比較試験にあたって考慮すべき点は次の如くである。
(1) わが国で広く用いられていること
(2) 欧米の成績との比較が可能であること
(3) 臨床での適応(例えば、重症度、病期、合併症、併用薬、投与法)
現時点における関節リウマチに対する抗リウマチ薬の標準薬としてはメトトレキサート(MTX)又はサラゾスルファピリジン(SASP)を用いることが推奨される。
3) 組み入れ症例の選択
(1) アメリカリウマチ学会(ACR)の関節リウマチ分類基準(1987年)を満たすことは必須である。
(2) 一定以上の活動性を有する患者が推奨される。
(3) 選択基準、除外基準は薬剤の特性を考慮して合理的に決定する。
4) 評価項目の選択
主要評価項目はACR20%改善、副次評価項目をACR50%改善、ACR70%改善とすることが推奨されるが、薬剤の有用性によりACR50%改善を主要評価項目にすることも考慮すべきである。また、EULAR改善基準のDAS等の他の評価法も排除すべきでなく、妥当性があればこれら以外の方法も試みられてもよい。その場合には副次的評価項目には、ACR20%改善は必ず含むものとする。
Ⅳ 臨床試験
1.治験の実施
1) 治療評価の時期の設定
治験期間の設定は、以下の項目を考慮の上決定されるべきである。
(1) 予測される効果発現時期(一般に抗リウマチ薬は遅効性である。)
(2) 予測される副作用発現時期
(3) プラセボ対照群に対する倫理的配慮
関節リウマチは進行性の疾患であり、さらに治験では活動性の高い患者が組み入れられることになるので、長期間にわたりプラセボを投与し続けることには倫理的な問題がある。特に発病早期の関節リウマチを対象とした試験においては慎重な姿勢と十分な配慮が望まれる。
プラセボ単独で投与する群を設定する場合の治験期間は、一般的に12週間以内程度と考えられ、この期間内に十分な検討を行えるよう試験を計画すべきである。X線評価等を評価項目として設定する場合には6か月以上の試験期間が必要と考えられるので、別途考慮が必要である。
2) 被験者に対する試験終了後の対応
(1) 別途長期継続投与試験を実施する等、試験参加者に発売までの実薬提供等の救済措置を講じることも考慮すべきである。
(2) この期間の成績は長期投与成績として有効に活用する。
2.第I相試験
1) 目的
第I相試験は、非臨床試験で得られた情報をもとに、治験薬を初めてヒトに適用する臨床試験である。比較的限定された数の健康成人志願者等を対象とし、治験薬のヒトにおける安全な投与量の検討を主な目的とする。また、この段階で治験薬の吸収、分布、代謝、排泄等、薬物動態学的プロファイルの検討も行われる。
2) 治験責任医師及び治験実施医療機関
臨床薬理学に精通した者及び関節リウマチについて十分な知識と経験を有する医師とが協力して実施することが望ましい。また、被験者に対する十分な観察と管理ができ、緊急時にも十分な措置のできる医療機関で行われなければならない。
3) 被験者
原則的に健康成人を対象とする。比較的少人数を対象とし、短期(単回投与及び反復投与)の治験薬の投与を行う。試験期間中、被験者は入院又はそれに準じた状態におくものとする。薬剤の薬理作用の上で、健康成人への投与が問題となる場合には、治験薬の毒性に対して感受性を高めるような異常(例えば腎障害、肝障害)を有しない関節リウマチ患者も対象となる。
4) 試験デザイン
安全性の確認に最も重点をおく。また、治験薬の単回及び反復投与時の薬物動態の結果を理論的に考察し、有効性についても予備的に推論することが望ましい。
(1) 用法・用量
非臨床試験成績から推定された安全な最低用量の単回投与から開始し、安全性を確認しながら、用量と必要ならば投与回数を漸次増大させる。これにより将来予測される用法・用量を検討する目的で、可能な限り血中薬物濃度がプラトー値に達するまでの期間、反復投与を行う。
(2) 安全性の確認
自覚症状、他覚的所見及び検査所見について予想された異常(有害事象)及び予想されなかった異常(有害事象)の観察を行う。
(3) 一般観察項目
体重、血圧、脈拍、呼吸数、体温、皮膚所見(発疹、浮腫、出血傾向等)、視力、眼底、心電図、神経症状等、治験薬に応じて必要な項目を設定する。
(4) 一般臨床検査
血液生化学的検査、一般血液検査、血清免疫学的検査、尿検査。
(5) その他、安全性評価に必要な項目
治験中に発生した異常検査所見を発見するためには、すべての検査を試験の開始前後に行い、必要があれば試験中にも実施する。さらに、試験終了から一定期間、経過観察の時期を設定する必要がある。
(6) 薬物動態の検討
薬物の吸収・分布・代謝・排泄について検討する。単回投与時及び反復投与時に薬物の血中濃度を測定し、血中濃度―時間曲線下面積(AUC)、クリアランス、最高血中濃度、最高血中濃度到達時間、分布容積、半減期等を求め、後の試験の投与量及び投与方法の決定のための参考にする。また、線形性の有無や、定常状態に達するまでの投与回数とその血中濃度、蓄積性の有無等、薬物動態学的プロファイルを明らかにする。なお、臨床での用法が静脈内投与以外の治験薬においても、必要かつ可能であれば静脈内投与により薬物動態パラメータを得る。
(7) 治験薬の特性による特殊検査
予想される作用機序を考慮し、必要とされる特殊検査を実施する。
5) 臨床評価
以上の試験の結果、自覚症状、他覚的所見の項目及び一般臨床検査値の異常変動の項目と程度等、安全性について確認する。
患者を対象とした場合には、関節リウマチに関連する自他覚所見、炎症所見(赤血球沈降速度、CRP等)及び免疫学的所見(リウマトイド因子等)に関する検査を実施する。
3.第Ⅱ相試験(前期)
1) 目的
前期第Ⅱ相試験は、第I相試験で安全が確認された上で、治験薬を初めて関節リウマチ患者に(もしくは第I相に引き続き)投与する試験で、治療薬の相対的な有効性、安全性、用法・用量、用量反応性、関節の構造的損傷の程度や病期・病態による効果の違い等を探索的に検討する。
2) 治験責任医師及び治験実施医療機関
関節リウマチの診療経験豊富な臨床医が、臨床薬理学の知識を持つ者と協力して行うことが望ましい。また、被験者に対する十分な観察と管理ができ、緊急時にも十分な措置のできる複数の医療機関で行われなければならない。
3) 被験者
アメリカリウマチ学会(ACR)の1987年分類基準によって関節リウマチと診断された患者とする。選択基準としては、薬効を評価するのに十分な活動性を有する患者で、ACR機能障害度によって、Class1、2又は3に分類され、治験の目的、内容、予測される薬効・薬理作用及び危険性等について十分説明をうけ、理解が得られた20歳以上、65歳未満の患者が望ましい。
除外基準としては重篤な心血管系疾患、肺疾患、肝疾患、腎疾患、消化器系疾患、甲状腺疾患、血液系疾患、関節リウマチ以外の自己免疫疾患(慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群等を除く)、悪性腫瘍(既往歴を有する患者を含む)を有する患者等があげられる。また、治験薬投与開始前6カ月(180日)以内に滑膜切除術、関節形成術等の関節リウマチに対する外科的療法を実施した患者も除外対象となる。
その他、治験責任医師又は治験分担医師が本治験の対象として不適当と判断した患者を対象から除外する。
4) 試験デザイン
(1) 投与期間
12週を目処に治験薬の性質に応じ、適宜設定する。
(2) 用法・用量
治験薬の用法・用量の決定には第I相試験の成績を慎重に勘案し、安全かつ薬効の期待される最低用量及び用法で開始する。可能な限り盲検下で検討することが望ましい。
(3) 基礎治療及び併用薬
他の抗リウマチ薬、外科療法、血漿交換療法及び他の開発中の治験薬との併用は行わない。前投薬のウォッシュアウトは一定期間行うことが推奨される。ただし、他の抗リウマチ薬の併用を前提とする場合の開発では、安全性に留意し他の抗リウマチ薬を併用することができる。非ステロイド性抗炎症薬、プレドニゾロン換算で10mg/日以下の用量のステロイド薬との併用は可とするが、その場合には治験期間中は用量の増加及び投与薬剤を変更しないという条件が必要であり、併用薬剤が評価に影響していないことを十分に検討する必要がある。なお、投与期間中は併用薬及び併用療法を正確に記録しておく必要がある。
5) 臨床評価(有効性、安全性)
生年月日、性別、体重、既往歴、合併症、前治療、罹病期間、薬剤アレルギー等の患者背景を正確に記載する。また、生理学的検査(血圧、脈拍数等)、一般身体的所見、さらに副作用及び薬効を判定するのに必要と考えられる一般血液検査、血液生化学的検査、尿検査さらに免疫血清学的検査を適切に選択して実施する。なお、血液検査についてはCRP、リウマトイド因子等、関節リウマチの病態及び活動性評価に加え、抗核抗体、抗ds―DNA抗体、補体価、免疫複合体、細胞性免疫検査等、副作用に関連する検査を必要に応じて選択し、実施することも考慮する。
(1) 有効性の評価
a) 主要評価項目、副次的評価項目
通常は、アメリカリウマチ学会(ACR)コアセット20%改善を主要評価項目とする。なお、必要に応じてEULAR改善基準【付録4】及び寛解基準【付録5】や、その他妥当と思われる評価基準を用いることを否定するものではない。
副次的評価としてACRコアセット50%改善及び70%改善、疼痛関節数、腫脹関節数、被験者による痛みの程度及び全般評価、被験者による身体機能の評価(HAQ等)及びQOLの評価、医師による全般評価、急性期反応物質の評価等を実施する。また、主要評価項目にEULAR改善基準等を用いた場合には、ACRコアセット20%改善を副次的評価項目に加える。
b) 画像評価及びレスポンダー解析
24週以上投与した症例では、治験開始前と終了後に骨X線写真(手等)を撮影し、関節の構造的損傷を客観的に評価することも考慮する。
また、検査成績及び臨床症状から患者を層別(部分集団化)し、レスポンダーの特徴を探索的に解析することも検討する。
(2) 安全性に対する評価
a) 有害事象
治験期間中に観察されるすべての好ましくない兆候又は症状は、治験薬との因果関係の有無の如何にかかわらず「有害事象」として扱い、症例報告書にその内容、程度、発現時期及び消失時期、治験薬の服薬状況、処置の有無、経過等を記載するとともに、治験薬との因果関係を判定する。これらの有害な症状のうち、治験薬との因果関係が否定できないものを「副作用」として取り扱う。
治験薬の種類によっては、治験薬投与終了後にも一定の期間経過観察を必要とする場合もある。
b) 副作用
副作用と思われる症状が発現又は臨床検査値異常がみられた場合には治験責任医師の判断により、当該被験者についての治験薬投与の継続又は中止を決定し、その内容(症状、発現日、程度、処置、持続時間、経過、転帰)の詳細を治験薬との因果関係とともに記載する。
副作用は、原則として症状又は臨床検査値異常変動が消失するまで経過観察を行う。
c) 重篤な有害事象発現時の処置
有害事象が重篤な場合に、治験責任医師は直ちに適切な処置を行うとともに、所属医療機関の長及び治験依頼者に連絡する。さらに、速やかに文書による報告を行う。
4.第Ⅱ相試験(後期)
1) 目的
後期第Ⅱ相試験の主な目的は、関節リウマチ患者を対象として、用量反応関係を明らかにし、第Ⅲ相比較試験のための用法・用量を決定することにある。
2) 治験責任医師及び治験実施医療機関
前期第Ⅱ相試験に準ずる。
3) 被験者
原則として、選択基準、除外基準は、前期第Ⅱ相試験の結果から治験薬の評価が適切に行うことが可能と考えられる患者群を対象とするように設定することが望ましい。
治験に参加する医療機関数及び被験者数は、統計学的な考察に基づき、試験デザイン、試験目的及び検証すべき仮説に応じて設定する。
4) 試験デザイン
(1) 投与期間
前期第Ⅱ相試験の結果を参照し、治験薬剤の性質に応じ、適宜設定する。
(2) 用法・用量
通常、無作為に割り付けた複数用量での群間比較試験が行われ、プラセボに加え、少なくとも実薬を3用量群で行うことが推奨される。
(3) 基礎治療及び併用薬
前期第Ⅱ相試験に準じる。
5) 臨床評価(有効性、安全性)
(1) 被験者背景、生理学的検査、一般身体的所見、一般血液検査、血液生化学的検査、尿検査、免疫血清学的検査等。
(2) 有効性の評価
主要評価項目、副次的評価項目、骨X線検査等で有効性の評価を行い(前期第Ⅱ相試験参照)、患者の層別(部分集団化)等によりレスポンダーの特徴を解析する。
(3) 安全性に対する評価
有害事象、副作用、重篤な有害事象発現時の経過、処置、転帰、長期投与時の安全性の確認等。
以上、5)(1)―(3)は、前期第Ⅱ相試験に準じる。ただし、骨X線検査(手等)による関節の構造的損傷の評価は、24週以上投与した症例を対象に、治験開始前と終了後に客観的に評価する。
5.第Ⅲ相試験
1) 目的
抗リウマチ薬の薬効評価の中で、第Ⅱ相によって有効性と安全性が確認され、臨床用量が推定された薬物について、その有効性と安全性を固定用量で確認することを目的とする。通常は、プラセボ又は標準薬を用いた二重盲検比較試験で関節リウマチ炎症に対する有効性と安全性を検証する。
2) 治験責任医師及び治験実施医療機関
前期第Ⅱ相試験に準ずる。
3) 被験者
アメリカリウマチ学会(ACR)の1987年改訂分類基準を満足する関節リウマチ患者を対象とする。年齢は65歳未満が一般的であるが、臨床実態を考慮して、治験薬によっては70~75歳までの患者を含む計画も可能であろう。また、臨床評価方法に記載のある、さまざまな炎症所見で規定された一定の疾患活動性を有する症例にすべきである。治験薬によっては、既存薬の抗リウマチ薬に対する効果不十分例を対象とすべき場合も考えられるが、その治験薬の想定される位置付けから判断するのが適当である。
除外基準等は第Ⅱ相試験に準ずる。
また、治験に参加する医療機関数及び被験者数は、統計学的な考察に基づき、試験デザイン、試験目的及び検証すべき仮説に応じて設定する。
4) 試験デザイン
(1) 投与期間
試験期間は治験薬の性質を考慮して決定されるべきであり、通常12週間程度、必要に応じて6か月までの試験で関節リウマチ炎症(機能評価も含む)の改善及び安全性を確認することが最低限必要である。
(2) 用法・用量
後期第Ⅱ相試験までに有効性と安全性が確認された用量及び用法から治験薬の用法・用量を決定し、本試験を計画する。
(3) 対照薬
既に、後期第Ⅱ相試験においてプラセボを対照とした臨床試験が行われている場合、第Ⅲ相試験では標準薬を対照薬として選択することが有用である。対照薬としては、メトトレキサート(MTX)及びサラゾスルファピリジン(SASP)等、現状での世界の標準的抗リウマチ薬を選択するのが一般的であるが、新たな知見の蓄積、関連するガイドライン等を考慮した上で適切な対照薬を選択することが重要である。また、安全性を考慮して用量を漸増することが一般的な薬物では、試験計画でこの点も考慮する。また、MTXは、副作用予防の目的で葉酸の併用が行われることも多く、試験計画ではこの点も考慮すべきであるが、併用する場合には、それが評価に与える影響についても十分に検討すべきである。また、第Ⅲ相試験においても、対照薬との比較試験で無効同等である可能性が排除できない等、結果の解釈が困難になるおそれがある場合等にはプラセボも含めた比較試験の実施を検討することが適切である。
(4) 基礎治療及び併用薬
前期第Ⅱ相試験に準じる。
5) 臨床評価(有効性、安全性)
被験者背景、生理学的検査、一般身体的所見、一般血液検査、血液生化学的検査、尿検査、免疫血清学的検査等の情報については、第Ⅱ相試験に準じて記載する。
(1) 有効性の評価
主要評価項目、副次的評価項目、患者の層別とレスポンダーの解析等、第Ⅱ相試験に準じる。なお、6か月以上の試験では、骨X線検査等【付録1】による関節の構造的損傷の評価を行う。
(2) 安全性に対する評価
有害事象、副作用、重篤な有害事象発現時の経過、処置、転帰、長期投与時の安全性の確認等、第Ⅱ相試験に準じる。
6.第Ⅲ相試験(長期安全性試験)
1) 目的
関節リウマチは、長期治療が一般的であるが、検証的な第Ⅲ相比較試験では、長期の安全性について十分な検討を行えないため、原則として、1年間以上の長期第Ⅲ相試験を実施すべきである。なお、本来抗リウマチ薬で期待される効果は、関節の構造的損傷の防止に対する効果であり、このような効果が期待できる場合には、長期第Ⅲ相試験の中で、安全性の検討とともに、関節の構造的損傷の防止に対する効果についても可能な限り検討することが望ましい。
2) 治験責任医師及び治験実施医療機関
前期第Ⅱ相試験に準ずる。
3) 被験者
アメリカリウマチ学会(ACR)の1987年改訂分類基準を満足する関節リウマチ患者を対象とする。年齢は、臨床での実態を反映することを目的とするため特に上限を設けないが、薬物によっては考慮されるべきである。
一般に対象症例数は、治験薬の特性、一定の発現率の有害事象を発見する確率及び試験の実施可能性を考慮して設定されるべきであるが、1年間以上観察できた症例が100例以上は必要である。また、医療機関ごとの症例数は10例以上を目標とする。
4) 試験デザイン
原則的に非盲検非対照試験で実施されることが多いが、関節の構造的損傷の防止に対する効果を検証する場合には、無作為化割付による比較試験とすべきであり、必要に応じて盲検化も検討すべきである。
(1) 投与期間
原則的には1年間以上の試験とする。
(2) 用法・用量
後期第Ⅱ相試験までに有効性と安全性が確認された臨床用量及び用法から治験薬の用法・用量を決定し、本試験を計画する。症状に応じて用量を増減する必要性については、本試験を実施するまでに十分に検討しておくべきであるが、増減が必要と考えられる場合には、本試験においても増減時の安全性及び有効性を検討する必要がある。
(3) 対照薬
原則的に非盲検非対照試験であるため対照薬は不要であるが、関節の構造的損傷の防止に対する効果を第Ⅲ相試験で検証する場合は対照薬を置く必要がある。その場合、1年以上にわたるプラセボの使用は倫理的に容認されがたいため、メトトレキサート(MTX)又はサラゾスルファピリジン(SASP)等、その時点での世界の標準的抗リウマチ薬を選択するのが一般的である。
(4) 基礎治療及び併用薬
前期第Ⅱ相試験に準じる。
5) 臨床評価(有効性、安全性)
被験者背景、生理学的検査、一般身体的所見、一般血液検査、血液生化学的検査、尿検査、免疫血清学的検査等の情報については、第Ⅱ相試験に準じて記載する。
(1) 有効性の評価
主要評価項目、副次的評価項目、患者の層別とレスポンダーの解析等、第Ⅱ相試験に準じる。なお、1年以上の試験であるため、骨X線検査等【付録1】による関節の構造的損傷の評価を行う。
(2) 安全性に対する評価
有害事象、副作用、重篤な有害事象発現時の処置、転帰、長期投与時の安全性の確認等、第Ⅱ相試験に準じる。
7.製造販売後調査
1) 目的
抗リウマチ薬の評価は、第Ⅲ相までの比較的短期・小規模の臨床試験のみでは限界があり、特に、安全性の評価には多数例を長期に観察する必要がある。したがって、承認後においても製造販売後調査等により有効性と安全性の情報を継続して収集することが求められる。また、海外で開発が先行した薬剤をブリッジング戦略により導入し、承認を受けた場合には、日本人での安全性データが少なくなることから、より徹底した製造販売後調査が求められる。
抗リウマチ薬は免疫抑制作用を有するものが多い。当然、悪性腫瘍の合併等の副作用が懸念されることから、製造販売後調査等で検討すべきものである。
2) 被験者
第Ⅲ相試験までには発現しなかった低頻度の有害事象の検出確率を高めるために十分な症例数を確保する。
3) 調査デザイン
(1) 投与期間
安全性の評価のためには多数例を長期に観察する必要があるので、原則的には24週以上の調査とする。悪性腫瘍の合併等の調査に関してはより長期の経過観察を要することもある。
(2) 用法・用量
臨床実態の調査とする。
(3) 基礎治療及び併用薬
臨床実態の調査とする。
4) 臨床評価(有効性、安全性)
被験者背景、生理学的検査、一般身体的所見、一般血液検査、血液生化学的検査、尿検査、免疫血清学的検査等の情報については、臨床実態で可能な範囲の調査とするが、その内容、実施時期・頻度等の設定においては、努めて有害事象の要因解析が可能となるよう留意する。
(1) 有効性の評価
悪性リンパ腫等の一部の重篤な有害事象の発現率は、原疾患の活動性と関連することが予想されることから、ACR、DAS28等の国際的にも認められた活動性指標を少なくとも調査前後で測定することが望ましい。
(2) 安全性に対する評価
すべての有害事象及びその因果関係、経過、処置、転帰等を調査する。
8.製造販売後に考慮すべき臨床試験
1) 目的
例えば、併用療法の有用性等を含めた新たな臨床的な問題点を解決するためには、積極的に製造販売後の臨床試験を計画すべきである。また、関節の構造的損傷の防止に対する効果については、製造販売承認までの時点で十分に証明できなかった場合には、新たな臨床試験の中で検討し、その効果を検証する必要がある。
2) 責任医師及び実施医療機関
第Ⅲ相臨床試験に準じる。
3) 被験者
第Ⅲ相試験に準じる。
4) 試験デザイン
(1) 投与期間
試験の目的に合わせた期間とする。
(2) 用法・用量
承認用法・用量とする。
(3) 対照薬
第Ⅲ相試験に準じる。
(4) 基礎治療及び併用薬
第Ⅲ相試験に準じる。
5) 臨床評価(有効性、安全性)
被験者背景、生理学的検査、一般身体的所見、一般血液検査、血液生化学的検査、尿検査、免疫血清学的検査等の情報については、第Ⅲ相試験に準じて記載する。
(1) 有効性の評価
主要評価項目、副次的評価項目、患者の層別とレスポンダーの解析等、第Ⅲ相試験に準じる。なお、6か月以上の試験では、骨X線検査等【付録1】による関節の構造的損傷の評価を行う。
(2) 安全性に対する評価
有害事象、副作用、重篤な有害事象発現時の処置、長期投与時の安全性の確認等、第Ⅲ相臨床試験に準じる。
Ⅴ 生物学的製剤
【付録7】に掲載している生物学的製剤については、抗リウマチ薬のガイドラインのみならず、生物学的製剤のガイドラインにも従う必要がある。しかし、評価法等の臨床試験の進め方については、生物学的製剤であっても、今まで述べてきた抗リウマチ薬の臨床試験と大きく変わるものではない。なお、生物学的製剤の第Ⅰ相試験については、健康成人を対象に実施すべきか否かに関しては議論のあるところであり、製剤の性質を十分考慮して個々に決定すべき事項である。
本ガイドラインは、厚生労働省からの委託により、日本リウマチ学会において原案の検討及び作成が行われ、同案につき各方面から寄せられた意見を踏まえて検討及び修正を加え、最終的な内容とした。
【付録】
【付録1】関節リウマチ治療の臨床評価方法
1.関節リウマチ症状の緩和(Reduction in the signs and symptoms of RA)
ACR20%改善の達成率、EULAR反応基準が推奨される。
2.著明な臨床的反応(Major clinical response)
ACR70%改善の達成率が推奨される。
3.完全な臨床的反応(Complete clinical response)
連続した6か月間にわたりPinalsのACR寛解基準を満たし、かつX線上の骨破壊進展が阻止された状態を指す。寛解(Remission)はこのうちで薬剤を中止後も持続することを指す。
4.機能障害の防止(Prevention of disability)
長期間における臨床研究で推奨され、HAQ、AIMSのような検証済みの評価方法が推奨される。
5.関節の構造的損傷の防止(Prevention of structural damage)
今後開発される抗リウマチ薬においては非常に重要な評価であるが、1年以上の期間を要する。以下の方法が推奨される。
1) Larsen法、modified Sharp法等の検証されたX線評価法にて骨、関節破壊進展の遅延効果を証明する。
2) 新たな骨びらん出現の防止を証明する。
3) MRIによる検討:RAMRIS(RA―MRI scoring system)
4) 関節予後の基準としての人工関節置換術施行。
6.生命予後の改善
究極のアウトカムである死亡率についての検討
【付録2】アメリカリウマチ学会(ACR)コアセット
1.疼痛及び腫脹関節
疼痛・腫脹関節は、自発痛及び関節の圧迫等によって誘導される疼痛(圧痛)で評価する。ACRコアセットでの対象関節は、顎関節(2)、胸鎖関節(2)、肩鎖関節(2)、肩関節(2)、肘関節(2)、手関節(2)、MCP関節(10)、拇指IP関節(2)、DIP関節(8)、PIP関節(2)、股関節(2)、膝関節(2)、足関節(2)、足根骨部(2)、MTP関節(10)、拇趾IP関節(2)、PIP関節(8)の68関節である。腫脹関節数は、股関節を除く66関節で腫脹の有無を評価する。
*診察が容易な、上肢を中心とした28関節の評価〔肩関節(2)、肘関節(2)、手関節(2)、MCP関節(10)、拇指IP関節(2)、PIP関節(8)、膝関節(2)〕で臨床試験の効果判定には十分であるとの報告もあり、いずれを採用するかについては治験の目的に基づき決定されるべきである。
2.急性期反応物質
赤沈値と血清CRP値が用いられるが、赤沈値、CRPともに非特異的な炎症指標であり、感染症等他の炎症性疾患を合併した場合の評価についての考慮が望まれる。
3.患者の疼痛評価
患者が疼痛の強さを10cmの線上に記入するVAS(visual analogue scale)によって評価する。直線の右端は今まで経験した最も強い疼痛である。Likertの5段階法(なし、軽度、中等度、高度、きわめて高度)でもよい。
4.患者の全般的活動性評価
患者が自分の全身状態について10cmの線上に記入するVASによって評価する。直線の右端は今まで経験した最も悪い全身状態である。Likertの5段階法(なし、軽度、中等度、高度、きわめて高度)でもよい。
5.医師の全般的活動性評価
医師が患者の全般的活動性について10cmの線上に記入するVASによって評価する。直線の右端は「担当する医師が今まで経験した全患者のうちで最も悪い状態」である。Likertの5段階法(なし、軽度、中等度、高度、きわめて高度)でもよい。
6.身体機能評価
日常生活機能(ADL)障害の程度を検討する質問項目を用い、患者が記入する。HAQ(Health Assessment Questionnaire)が基本的なものであり、最近、日本語版の検証が行われた。
7.画像診断
今後開発される抗リウマチ薬においては、関節の構造的変化の進行抑制作用を証明することが望まれる。したがって、画像診断は抗リウマチ薬の治験にとって必須のものと言える。
X線評価としては、Steinbrocker、Larsen、Sharp法等多くの評価法があるが、vander Heidji modified Sharp法が標準である。MRIによる関節評価も今後検討されるべきである。
【付録3】アメリカリウマチ学会(ACR)改善基準
疾患活動性の評価にはPaulus改善基準及びACR予備改善基準が用いられる。主に疾患活動性の変化における改善の基準を示したものである。ACR予備改善基準は、以下の定義に基づき、ACR20%改善、50%改善、70%改善を決定する(表1)
表1 ACRのコアセットと臨床的改善の評価基準
◎ コアセット
1.疼痛(圧痛)関節数
2.腫脹関節数
3.患者による疼痛度の評価(analog scale又はLikert scale)
4.患者による疾患活動性の全般的評価(〃)
5.医師による疾患活動性の全般的評価(〃)
6.患者による身体機能の評価(AIMS、HAQ等)
7.急性期炎症反応物質(赤沈値又はCRP濃度)
8.X線所見等の画像診断法
◎ 関節リウマチの臨床的改善の評価基準
以下のA及びBを満たすとき、改善したと判定する。
A.上記項目の1及び2でともに20%以上の改善がみられること
B.3~7の5項目のうち、いずれか3項目で20%以上の改善がみられること
【付録4】ヨーロッパリウマチ学会(EULAR)改善基準
ヨーロッパリウマチ学会では、現在の患者の活動性を、複数の評価項目の数学的解析値として表現し、治療による変動を見る方法としてDAS(Disease Activity Score)を頻用している。これは、疼痛・圧痛関節(Ritchie関節指数)、腫脹関節数、赤沈値、患者の身体機能評価を指数化し、その合計から疾患活動性を評価する算定法であり、有用性が証明されている。評価関節数としては、28関節を用いる方法が一般的であり、DAS28と呼ばれる。
DAS28=0.56√TJC+0.28√SJC+0.70InESR+0.014GH
TJC=Tender Joint Count
SJC=Swollen Joint Count
ESR=Erythrocyte Sedimentation Ratio(mm/1hour)
GH=Gerenal Health(VAS of 100mm)
現在の患者の活動性の評価として、DAS28≦3.2を低活動性、3.2<DAS28≦5.1を中等度活動性、DAS28>5.1を高度活動性と規定するが、治療薬投与前後の反応性を見る目的では、治療前後のDASスコアの変化で治療の反応性を判定する(EULAR反応基準)。
【付録5】寛解基準
寛解基準は疾患活動性の有無を判定するもので、PinalsによるACRの臨床的寛解予備基準がある(表2)。
表2 アメリカリウマチ学会の臨床的寛解予備基準
以下基準の6項目のうち5項目以上を少なくとも2か月以上
1.朝のこわばりの消失
2.倦怠感の消失
3.関節痛の消失
4.関節の圧痛あるいは運動時痛の消失
5.関節あるいは腱鞘部の軟部組織腫脹の消失
6.赤血球沈降速度(Westergrern法)で女30mm/1時間、男20mm/1時間未満
EULAR基準によれば、DAS28スコアでは1.6以下が寛解に相当する。
【付録6】QOL指標
QOL指標であるSF―36、EQ―5D等も検証された日本語版があり、治験の目的によっては利用も勧められる。ただし、一般にADL指標に比してQOL指標は短期間の治験においては変化が少ない(sensitivity to changeが低い)点を考慮する。
【付録7】生物学的製剤
本ガイドラインにおける生物学的製剤とは、生物由来の医薬品の総称であり、生物から得た材料から抽出された製剤、又は遺伝子工学的に培養細胞等から精製される製剤を呼ぶ。一般に高分子蛋白製剤であり、近年関節リウマチの治療で注目を集めているのは主として抗サイトカイン作用を有するモノクローナル抗体や受容体製剤等である。しかし、関節リウマチ治療においても、抗サイトカイン製剤のみならず、リンパ球等の細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体やワクチン療法、さらに接着分子等に対する抗体等多様な候補製剤の開発が進んでいる。生物学的製剤であっても、抗リウマチ薬としての効果を期待するものであれば、抗リウマチ薬に含まれるが、医薬品としての申請のためには、Ⅴで示したように生物学的製剤のガイドラインに準じた手順による開発が必要である。