添付一覧
○労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律の施行(第二次分)等について
(昭和五六年一〇月三〇日)
(基発第六九六号)
(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)
労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(昭和五五年法律第一○四号)による労災保険制度の改善の大綱及び一部施行部分の実施細目については、既に昭和五五年一二月五日付け労働省発基第一○○号、同日付け基発第六七三号及び同日付け発労徴第六八号・基発第六七四号により、また同法の最終施行分である昭和五六年一一月一日施行分の一部に関し既に昭和五六年六月一二日付け発基第六○号により通達されたところであるが、今般同法の最終施行分が昭和五六年一一月一日から施行され、これに伴い、労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令(昭和五六年労働省令第三六号)、労働者災害補償保険特別支給金支給規則の一部を改正する省令(昭和五六年労働省令第三七号)及び労働者災害補償保険法の施行に関する事務に使用する文書の様式を定める告示の一部を改正する告示(昭和五六年労働省告示第九一号)が、昭和五六年一○月二九日に公布され、同年一一月一日から、施行されることとなつた。
ついては、左記の事項に留意の上、事務処理に遺憾なきを期されたい。
(注) 法令の略称は次のとおりである。
労災法=労働者災害補償保険法(昭和二二年法律第五○号)
改正法=労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(昭和五五年法律第一○四号)
新労災法=改正法第一条の規定による改正後の労災法
労災則=労働者災害補償保険法施行規則(昭和三○年労働省令第二二号)
労災則改正省令=労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令(昭和五六年労働省令第三六号)
新労災則=労災則改正省令による改正後の労災則
特支則=労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和四九年労働省令第三○号)
特支則改正省令=労働者災害補償保険特別支給金支給規則の一部を改正する省令(昭和五六年労働省令第三七号)
新特支則=特支則改正省令による特支則
記
第一 保険給付内容の改善
一 障害補償年金差額一時金及び障害年金差額一時金関係
(一) 障害補償年金差額一時金の趣旨及び内容
障害補償年金の受給権者が死亡した場合に支給される障害補償年金差額一時金が新たに設けられた。
すなわち、障害補償年金の受給権者が死亡した場合において、既に支払われた障害補償年金及び障害補償年金前払一時金の額(その額がスライドにより改定されたものである場合にはその改定がされなかつたものとした場合の額)の合計額が障害等級に応じて定められている一定額に満たないときは、その一定額との差額の障害補償年金差額一時金を、その遺族に対し、その請求に基づき、保険給付として支給することとしたものである(新労災法第五八条関係)。
障害補償年金差額一時金の支給要件及び支給額の基礎となる前記の一定額は、障害補償年金に係る障害等級に応じ次の表のとおり(受給権者が二人以上あるときは、その額をその人数で除して得た額)とされた(新労災法第五八条第一項及び第五項関係)。
障害等級 |
額 |
第1級 |
給付基礎日額の1,340日分 |
第2級 |
給付基礎日額の1,190日分 |
第3級 |
給付基礎日額の1,050日分 |
第4級 |
給付基礎日額の920日分 |
第5級 |
給付基礎日額の790日分 |
第6級 |
給付基礎日額の670日分 |
第7級 |
給付基礎日額の560日分 |
(二) 障害補償年金差額一時金の受給権者
障害補償年金差額一時金の支給を受けることができる遺族は、次のイ又はロに掲げる遺族とされ、これらの遺族の障害補償年金差額一時金の支給を受けるべき順位は、次のイ、ロの順序(イ又はロに掲げる遺族のうちにあつては、それぞれ当該イ又はロに掲げる順序)によることとされた(新労災法第五八条第二項関係)。
イ 労働者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情のあつた者を含む。ロにおいて同じ。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹
ロ 前記イに該当しない配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹
なお、障害補償年金の受給権者を故意に死亡させた者及び障害補償年金の受給権者の死亡前に、当該受給権者の死亡によつて障害補償年金差額一時金の受給権者となるべき者を故意に死亡させた者は、障害補償年金差額一時金の受給権者としないこととされた(新労災法第五八条第五項関係)。
(三) 加重障害の場合等における障害補償年金差額一時金の額
障害補償年金差額一時金の額は原則として前記(一)に示すところにより算定されるが、次のイからハまでの場合には、それぞれに示すところにより算定される額によるものである。
イ 加重障害の場合
既に身体障害のあつた者が、業務災害による傷病により同一の部位について障害の程度を加重した場合(加重後の身体障害の該当する障害等級(以下「加重後の障害等級」という。)が第一級から第七級までである場合に限る。以下「加重障害の場合」という。)における当該事由に係る障害補償年金差額一時金の額は、次のとおりとされた(新労災則附則第一七項関係)。
(イ) 既にあつた身体障害の該当する障害等級(以下「加重前の障害等級」という。)が第七級以上である場合
加重後の障害等級に応ずる前記(一)の表の右欄に掲げる額から既にあつた身体障害の該当する障害等級に応ずる同表の右欄に掲げる額を控除した額から、当該事由(加重分)に関し支給された障害補償年金及び障害補償年金前払一時金の額(その額がスライドにより改定されたものである場合には、当該改定がされなかつたものとした場合の額)の合計額を差し引いた額による。
(参考)
障害補償年金差額一時金の額
(ロ) 加重前の障害等級が第八級以下である場合
加重後の障害等級に応ずる前記(一)の表の右欄に掲げる額に加重後の障害等級に応ずる障害補償年金の額から加重前の障害等級に応ずる障害補償一時金の額を二五で除して得た額を差し引いた額を加重後の障害等級に応ずる障害補償年金の額で除して得た数を乗じて得た額から、当該事由(加重分)に関し支給された障害補償年金及び障害補償年金前払一時金の額(その額がスライドにより改定されたものである場合には、当該改定がされなかつたものとした場合の額)の合計額を差し引いた額による。
(参考)
障害補償年金差額一時金の額
ロ 再発した傷病が再治ゆした場合
業務災害による傷病が治ゆした後当該傷病が再発し、その後再治ゆして障害の程度が障害等級第七級以上に該当する障害補償年金受給権者が死亡した場合の障害補償年金差額一時金の額は、次のとおりとする。
(イ) 再発前の障害の程度が障害等級第七級以上である場合
再治ゆ後の障害等級に応じて前記(一)の表の右欄に掲げる額から当該事由(再発前の障害及び再治ゆ後の障害)に関して既に支給された障害補償年金及び障害補償年金前払一時金の額(その額がスライドにより改定されたものである場合には、当該改定がされなかつたものとした場合の額)の合計額を差し引いた額による。
(参考)
(ロ) 再発前の障害の程度が障害等級第八級以下である場合
前記イの(ロ)の加重障害の場合と同様の計算方法により算定される再治ゆ後の障害に対応する障害補償年金差額一時金の限度額から、当該事由(再治ゆ後の障害)に関して支給された障害補償年金及び障害補償年金前払一時金の額(その額がスライドにより改定されたものである場合には、当該改定がされなかつたものとした場合の額)の合計額を差し引いた額による。
(参考)
障害補償年金差額一時金の額
ハ 自然的経過による障害の程度の変更があつた場合
障害補償年金の受給権者のうち自然的経過による障害の程度の変更があつた者が死亡した場合における障害補償年金差額一時金については、当該死亡した時における障害の程度によつて支給額を算定することとする。
(四) 障害補償年金差額一時金の額の改定
障害補償年金差額一時金については、その支給事由につき障害補償年金が支給されるものとみなした場合に適用されるスライド率と同一の率によりその額の改定が行われることとされた(新労災法第六五条第一項関係)。
(五) メリット収支率の算定上の取扱い等
イ メリット収支率の算定に当たつての取扱い
障害補償年金差額一時金は、メリット収支率の算定に当たつて、その算定の基礎から除外することとされた(新労災法第五八条第四項関係)。
ロ 死亡の推定
障害補償年金の受給権者が行方不明等となつた場合には、労災法第一○条の規定により死亡の推定を行うこととされた(新労災法第五八条第四項関係)。
ハ 過誤払充当の処理
障害補償年金の受給権者である労働者が死亡した場合において当該労働者の死亡に係る障害補償年金差額一時金の受給権者が当該労働者の死亡に伴つて過誤払された障害補償年金の返還金債権についての債務の弁済をなすべき者であるときは、障害補償年金差額一時金の支払金を過誤払された障害補償年金の返還金債権の金額に充当することができることとされた(新労災法第一二条の二及び新労災則第一○条の二関係)。
(六) 障害補償年金差額一時金の請求手続
イ 障害補償年金差額一時金の支給を受けようとする者は、所定の請求書(告示様式第三七号の二)を所轄労働基準監督署長に提出するものとされた(新労災則附則第一八項関係)。
ロ イの請求書には、次に掲げる書類を添付するものとされた(新労災則附則第一九項関係)。
① 請求人が死亡した障害補償年金の受給権者と事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者であるときは、その事実を証明することができる書類
② 請求人が死亡した障害補償年金の受給権者と生計を同じくしていた者であるときは、その事実を証明することができる書類
③ 請求人と死亡した障害補償年金の受給権者との間の身分関係を証明することができる戸籍の謄本又は抄本
ハ 障害補償年金差額一時金の支給を受ける権利を有する者が二人以上あるときは、当該一時金の請求及び受領についての代表者の選任及び解任については、遺族補償年金の請求及び受領についての代表者の選任及び解任の手続に準ずるものとされた(新労災則附則第二○項による労災則第一五条の五の準用関係)。
ニ 障害補償年金差額一時金の支給を受ける権利は、五年を経過したときは、時効によつて消滅することとされた(新労災法第五八条第三項関係)。
(七) 障害年金差額一時金の取扱い
障害年金の受給権者が死亡した場合に支給される障害年金差額一時金に関しては、前記(一)から(六)まで((五)のイを除く。)に示すところに準ずるものである(新労災法第六一条関係)。
(八) 経過措置
障害補償年金差額一時金又は障害年金差額一時金は、昭和五六年一一月一日以後に障害補償年金又は障害年金の受給権者が死亡した場合に支給することとされた(改正法附則第二条第七項関係)。
二 障害補償年金前払一時金及び障害年金前払一時金関係
(一) 障害補償年金前払一時金の趣旨及び内容
業務災害による傷病の治ゆ直後における被災労働者の社会復帰等による一時的資金需要を考慮して、遺族補償年金前払一時金の場合と同様、障害補償年金についても当分の間の措置として一定額まで一括前払いする障害補償年金前払一時金が設けられた。
すなわち、労働者の業務災害による傷病に起因して障害が残つた場合の当該障害に関しては、原則として、障害等級に応じて前記一の(一)の表の右欄に掲げる額を限度として次の表の右欄に掲げる額の障害補償年金前払一時金を障害補償年金の受給権者に対し、その請求に基づいて保険給付として支給することとされた(新労災法第五九条及び新労災則附則第二一項関係)。
障害等級 |
額 |
第1級 |
給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1,000日分、1,200日分又は1,340日分 |
第2級 |
給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1,000日分又は1,190日分 |
第3級 |
給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1,000日分又は1,050日分 |
第4級 |
給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分又は920日分 |
第5級 |
給付基礎日額の200日分、400日分、600日分又は790日分 |
第6級 |
給付基礎日額の200日分、400日分、600日分又は670日分 |
第7級 |
給付基礎日額の200日分、400日分又は560日分 |
(二) 加重障害の場合等における障害補償年金前払一時金の額
障害補償年金前払一時金の額は、原則として、前記(一)に示すとおりであるが、次のイからハまでの場合にはそれぞれに示すところにより算出される額又は給付基礎日額の二○○日分、四○○日分、六○○日分、八○○日分、一、○○○日分若しくは一、二○○日分のうち次のイからハまでにより算出される額に満たない額とするものである。
イ 加重障害の場合
加重障害の場合における当該事由(加重分)に係る障害補償年金前払一時金の前払限度額は、次のとおりとされた(新労災則附則第二二項関係)。
(イ) 加重前の障害の程度が障害等級第七級以上である場合
加重後の障害等級に応ずる前記一の(一)の表の右欄に掲げる額から加重前の障害等級に応ずる同表の右欄に掲げる額を控除した額
(参考)
(ロ) 加重前の障害等級が第八級以下である場合
加重後の障害等級に応ずる前記一の(一)の表の右欄に掲げる額に加重後の障害等級に応ずる障害補償年金の額から加重前の障害等級に応ずる障害補償一時金の額を二五で除して得た額を差し引いた額を加重後の障害等級に応ずる障害補償年金の額で除して得た数を乗じて得た額
(参考)
ロ 再発した傷病が再治ゆした場合
再発した傷病が再治ゆした場合における障害補償年金前払一時金は、再治ゆにより障害の程度を加重した場合に限り支給することとするが、その前払限度額は、次のとおりとすることとする。
(イ) 再発前の障害の程度が障害等級第七級以上である場合
再治ゆ後の障害等級に応ずる前記一の(一)の表の右欄に掲げる額から再発前の障害等級に応ずる同表の右欄に掲げる額を控除した額
(ロ) 再発前の障害の程度が障害等級第八級以下である場合
再治ゆ後の障害等級に応ずる前記一の(一)の表の右欄に掲げる額に再治ゆ後の障害等級に応ずる障害補償年金の額から再発前の障害等級に応ずる障害補償一時金の額を二五で除して得た額を差し引いた額を再治ゆ後の障害等級に応ずる障害補償年金の額で除して得た数を乗じて得た額
(参考)
ハ 自然的経過による障害の程度の変更があつた場合
障害補償年金の受給権者のうち自然的経過により障害の程度に変更があつた場合における障害補償年金前払一時金については、変更後の障害の程度に応ずる前記一の(一)の表の右欄に掲げる額とすることとする。
(三) 障害補償年金前払一時金の額の改定
障害補償年金前払一時金については、その支給事由につき障害補償年金が支給されるものとみなした場合に適用されるスライド率と同一の率によりその額の改定が行われることとされた(新労災法第六五条第一項関係)。
(四) 障害補償年金前払一時金が支給された場合における障害補償年金の支給停止の方法
障害補償年金の支給停止期間は、遺族補償年金前払一時金の場合と同様に、支払うべき障害補償年金の額を年利五分(単利)で割り引く方法により計算した額の合計額が障害補償年金前払一時金の額に達するまでの期間とされた(ちなみに適用期間別の割引計算に用いる調整係数は次表のとおりである。)。
適用期間 |
調整係数 |
支給事由発生の日の属する月の翌月から前払一時金を支給した日の属する支払期まで、そのうえさらにその後1年間 |
1.000 |
その後1年間 |
0.953 |
〃 |
0.909 |
〃 |
0.870 |
〃 |
0.834 |
〃 |
0.800 |
〃 |
0.770 |
〃 |
0.741 |
〃 |
0.715 |
〃 |
0.690 |
〃 |
0.667 |
(注) 調整係数…小数点以下四位を切り上げた数値
なお、障害補償年金前払一時金の支給を受けたため障害補償年金の支給が停止されている間にあつても、国民年金法の福祉年金並びに児童扶養手当法及び特別児童扶養手当等の支給に関する法律による一定の手当の支給に関する取扱い上、障害補償年金は、これらの法律における公的年金給付として支給されているものとして取り扱われることとされた(新労災法第五九条第六項関係)。
(五) メリット収支率の算定上の取扱い等
イ 障害補償年金前払一時金は、メリット収支率の算定に当たつては、障害補償年金とみなしてその算定の基礎に入れることとされた(新労災法第五九条第五項関係)。
ロ 第三者の行為による災害について当該第三者から損害賠償を受けた場合における障害補償年金前払一時金の額については、その最高限度額からその受給権者が第三者から受けた損害賠償の額に相当する額を控除した額を前払限度額とすることとする。
(六) 障害補償年金前払一時金の請求手続等
イ 障害補償年金前払一時金の請求は、所定の請求書(年金申請様式第一○号)により支給を受けようとする前払額を示して、原則として障害補償年金の請求と同時に所轄労働基準監督署長に対して行わなければならないこととされた(新労災則附則第二三項本文及び第二五項前段関係)。
ロ イにかかわらず、障害補償年金の支給の決定の通知のあつた日の翌日から起算して一年を経過する日までの間は、障害補償年金の請求と同時でなくとも障害補償年金前払一時金を請求することができることとされた。この場合における前払限度額は前記一の(一)の表の右欄に掲げる額(加重障害の場合については前記(二)のイ又はロに示す前払限度額)から既支給の障害補償年金の額(当該請求に係る障害補償年金前払一時金が支給される月の翌月に支払われることとなる障害補償年金の額を含む。)の合計額を減じた額を超えてはならないこととされ、また、その場合の支給時期は、一月、四月、七月又は一○月のうち当該障害補償年金前払一時金の請求が行われた月後の最初の月とすることとされた(新労災則附則第二三項ただし書、第二五項後段及び第二六項関係)。
ハ 障害補償年金前払一時金の請求は、同一の事由に関し一回限りとすることとされた(新労災則附則第二四項関係)。
ニ 障害補償年金前払一時金の支給を受ける権利は、障害補償年金の支給事由が生じた時から二年を経過したときは時効により消滅する(新労災法第五九条第四項関係)。
(七) 障害年金前払一時金の取扱い
通勤災害による障害年金の受給権者に支給される障害年金前払一時金に関しては、前記(一)から(六)まで((五)のイを除く。)に示すところに準ずるものである(新労災法第六二条及び第六五条第一項並びに新労災則附則第三二項から第三四項まで関係)。
(八) 経過措置
障害補償年金前払一時金又は障害年金前払一時金は、昭和五六年一一月一日以降に、障害補償年金又は障害年金の支給事由が生じた場合に支給することとされた(改正法附則第二条第八項関係)。
三 遺族補償一時金及び遺族一時金の額の算定の改善関係
遺族補償年金又は遺族年金の受給権者の当該受給権が消滅した場合における労災法第一六条の六第二号の場合に支給される遺族補償一時金又は労災法第二二条の四第三項において読み替えて準用する労災法第一六条の六第二号の場合に支給される遺族一時金の額の算定に当たり給付基礎日額の一、○○○日分から控除することとされる遺族補償年金及び遺族補償年金前払一時金又は遺族年金及び遺族年金前払一時金の額については、当分の間、その額が労災法第六四条及び第六五条の規定により改定されたものである場合には、当該改定がされなかつたものとした場合の額とすることとされた(新労災法第六六条関係)。
第二 労働福祉事業の改善(年金たる保険給付の受給権を担保とする小口の資金の貸付)
一 被災労働者及びその遺族の援護に資するため、政府は、労働福祉事業として、これらの者が必要とする小口の資金の貸付けによる援護の事業を行うことができることとされ、この資金の貸付けの事業については、労働福祉事業団が労災保険の年金受給権を担保として小口の資金の貸付けを行うこととし、その業務の一部について金融機関に対して委託することができることとされたが、その細目については、労働福祉事業団業務方法書等において概略別添のとおり定められた(新労災法第二三条第一項第一号並びに新労働福祉事業団法第一九条及び第一九条の二並びに改正法第三条)。
二 この資金の貸付けは、労災保険の年金受給権を担保として行われるので、労働福祉事業団に年金受給権を担保に供する場合には年金受給権に対する担保禁止等の規定の適用が排除されることとされた(新労災法第一二条の五ただし書)。
三 なお、年金受給権を担保として貸付けを受けた場合には、年金の支払金による返済が完了するまで年金受給権者に対する年金の支払が停止されることとなるので、その点について十分説明し、安易に貸付けを受けることのないよう年金受給権者に対し指導することとする。
第三 労災保険の保険給付と民事損害賠償との調整
労災保険は、業務災害又は通勤災害に対して保険給付等を行うことを主たる目的としているが、保険給付の原因である事故が、事業主の有責な行為によつて又は事業主の直接的な行為はなくても事業主の責任の下に生じ、その結果、被災労働者又はその遺族に対する事業主の民法等に基づく損害賠償責任が発生する場合がある。
このような事故については、その発生について「事業主」の行為等による責任が介在するため、被災労働者又はその遺族は、労災保険に対し保険給付請求権を取得すると同時に、事業主に対しても民法等に基づく損害賠償(以下「民事損害賠償」という。)を請求する権利を取得することとなるが、同一の事由について重複して損害がてん補されることとなれば、実際の損害額よりも多くの支払いを受けることとなり、また労災保険については、その保険料は全額使用者負担であるので民事損害賠償と保険給付との重複は、事業主の負担の重複をもたらし、保険料負担者である事業主の保険利益を損なうなど不合理な結果を招くこととなる。
このため、新労災法第六七条が新設され、同一の事由について保険給付相当分を含む民事損害賠償と保険給付との調整について保険給付相当分を含む民事損害賠償の側における調整としての前払一時金最高限度額を限度とする履行猶予・免責及び労災保険の側による保険給付の支給調整の二つの調整が規定されたものである。
一 民事損害賠償の側における調整(新労災法第六七条第一項関係)
(一) 障害補償年金若しくは障害年金(第三において「障害(補償)年金」と略称する。)又は遺族補償年金若しくは遺族年金(第三において「遺族(補償)年金」と略称する。)の受給権者(これらの年金の受給権を有することとなつた時に、これらの年金に係る前払一時金を請求することができる者に限る。)が、同一の事由について、事業主から民事損害賠償(これらの年金によつててん補される損害をてん補する部分に限る。)を受けることができるときは、当分の間、その事業主は、これらの者の年金受給権が消滅するまでの間、次に示す額の限度で当該民事損害賠償の履行をしないことができる―履行が猶予される―こととされた。
すなわち、当該民事損害賠償の履行をしないことができる額(履行猶予額)は、その損害の発生時から当該年金に係る前払一時金を受けるべき時までの当該履行猶予額について法定利率により計算される額を当該履行猶予額に合算した場合における当該合算した額がその前払一時金の最高限度額に相当する額となるべき額(次の(二)により事業主が民事損害賠償の責めを免れることとされたときは、その免れた額を控除した額)とされている。
(参考)
(二) 前記(一)により民事損害賠償の履行が猶予されている場合において、当該年金たる保険給付(第三において「年金給付」という。)又は当該年金給付に係る前払一時金が支給されたときは、事業主は、次に示す額の限度で前記(一)により履行猶予されている損害賠償の責任を免れることとされる。
すなわち、免責される額は、その損害の発生時からこれらの年金給付又は当該年金給付に係る前払一時金が支給された時までのその免責される額について法定利率により計算される額を当該免責される額に合算した場合における当該合算した額がこれらの支給された年金又は前払一時金の額となるべき額とされている。
(参考)
(三) なお、同一の事由について、労災保険から保険給付が行われれば、一般に、少なくともその価額の限度で事業主が民事損害賠償の責任を免れることについては、特段の規定はなくても当然の理とされる。
二 労災保険の側における調整(保険給付の支給調整)(新労災法第六七条第二項関係)
(一) 総説
労働者又はその遺族が、当該労働者を使用している事業主又は使用していた事業主から損害賠償を受けることができる場合であつて、保険給付を受けるべきときに、同一の事由について、民事損害賠償(当該保険給付によつててん補される損害をてん補する部分に限る。)を受けたときは、政府は、労働者災害補償保険審議会の議を経て労働大臣が定める基準(以下「支給調整基準」という。)により、その価額の限度で、保険給付をしないことができることとされた。
この場合、次の点に留意する必要がある。
イ 保険給付の支給調整が行われることとなるのは、保険給付の事由と同一の事由に基づく民事損害賠償が行われた場合に限られる。したがつて、労災保険が業務災害及び通勤災害による稼得能力の損失をてん補することを主たる目的としており、精神的損害及び物的損害についてはてん補の対象としていないので、これらの損害項目について受給者が事業主から民事損害賠償を受けても、支給調整を行う必要はないこと。
ロ また、保険給付の支給調整が行われることとなるのは、保険給付相当分を含む民事損害賠償が行われた場合に限られる。したがつて、いわゆる保険給付の上積み分に相当する民事損害賠償を受けても、支給調整を行う必要はないこと。
ハ 保険給付の支給調整が行われるのは、同一の事由に基づき行われた民事損害賠償の賠償額のうち保険給付の支給水準相当分のみであり、これを上まわるいわゆる上積み分については、支給調整は行われないこと。
ニ なお、労災法第六七条第二項ただし書において、前払一時金最高限度額の範囲内において支給される保険給付については、前記一に示すとおり民事損害賠償の側で調整を行うことができるので、労災保険の側での支給調整は行われないこととされていること。
すなわち、事業主から民事損害賠償が行われた場合であつても支給調整が行われない保険給付は、次の(イ)から(ハ)までの給付とされる。
(イ) 障害(補償)年金及び遺族(補償)年金(支払うべき当該年金給付額を年利五分で割り引く方法により計算した額の合計額が、当該年金給付に係る前払一時金の最高限度額に相当する額(当該前払一時金給付の支給を受けたことがある者にあつては、当該支給を受けた額を控除した額とする。)に達するまでの間についての年金に限る。)(新労災法第六七条第二項第一号及び新労災則附則第四三項関係)
(ロ) 障害補償年金差額一時金及び障害年金差額一時金(第三において「障害(補償)年金差額一時金」と略称する。)並びに労災法第一六条の六第二号の場合に支給される遺族補償一時金及び労災法第二二条の四第三項において読み替えて準用する労災法第一六条の六第二号の場合に支給される遺族一時金(第三において「遺族(補償)年金失権差額一時金」と略称する。)(労災法第六七条第二項第二号関係)
(ハ) 障害補償年金前払一時金及び障害年金前払一時金(第三において「障害(補償)年金前払一時金」と略称する。)並びに遺族補償年金前払一時金及び遺族年金前払一時金(第三において「遺族(補償)年金前払一時金」と略称する。)(労災法第六七条第二項第三号関係)
(二) 損害賠償の受領に関する届出
イ 労働者又はその遺族が、当該労働者を使用している事業主又は使用していた事業主から民事損害賠償を受けることができる場合であつて、保険給付を受けるべきときに、同一の事由について、民事損害賠償(当該保険給付によつててん補される損害をてん補する部分に限る。)を受けたときは、次に掲げる事項を記載した「事業主責任災害損害賠償受領届」(告示様式第三七号の三。以下「受領届」という。)を、遅滞なく、所轄労働基準監督署長に提出しなければならないこととされた(新労災則附則第四四項関係)。
① 労働者の氏名、生年月日及び住所
② 民事損害賠償を受けた者の氏名、住所及び労働者との関係
③ 事業の名称及び事業場の所在地
④ 民事損害賠償の受領額及びその受領状況
⑤ 前各号に掲げるもののほか、法第六七条第二項の規定により行われる保険給付の支給停止又は減額の基礎となる事項
なお、受領届を提出する場合において、行政庁において必要があれば、判決文、和解書・示談書等の写しを添付させるものとする。
ロ 受領届の記載事項のうち前記③から⑤までの事項については、事業主の証明を受けなければならないものとし、事業主はこの届出手続について助力・協力しなければならないこととされている(新労災則附則第四五項及び第四六項関係)。
(三) 保険給付の支給調整事務の概要
事業主によつて保険給付相当分を含む民事損害賠償が行われたとき、受領届等に基づき、その保険給付相当分の額の範囲内で、おおむね次の手順により保険給付の支給調整を行うこととする。
① 損害項目別の民事損害賠償の賠償額のうち保険給付相当分(比較対象賠償額)の確定
② ①に対応する保険給付の種類の確定
③ ②の保険給付についての将来支給予定額が①の比較対象賠償額に達するまで支給停止又は減額等
④ ②の保険給付の支給予定額が①の比較対象賠償額を超えた時点(前払一時金最高限度額相当期間経過後九年経過時点、就労可能年齢時点)からの支給再開又は①の比較対象賠償額を超えた部分の支給
(四) 〔支給調整基準〕一(労災保険給付の支給調整の事由となる民事損害賠償)について
イ 労災保険給付の支給調整の事由となる民事損害賠償の損害項目(〔支給調整基準〕一(一)関係)
被災労働者又はその遺族が同一の災害に関し逸失利益、療養費又は葬祭費用を損害項目とする民事損害賠償を受けたときに、それぞれの損害項目に対応する保険給付が支給調整されるものである。
(イ) 「逸失利益」とは、加害行為がなければ被害者が得たであろう利益というものであるが、業務災害及び通勤災害の場合にはその災害がなければ労働者が稼働して得たであろう賃金分が該当するものである。このような逸失利益に相当する保険給付としては、障害補償給付及び障害給付(第三において「障害(補償)給付」と略称する。)、遺族補償給付及び遺族給付(第三において「遺族(補償)給付」と略称する。)、傷病補償年金及び傷病年金(第三において「傷病(補償)年金」と略称する。)並びに休業補償給付及び休業給付(第三において「休業(補償)給付」と略称する。)がある。
(ロ) 「療養費」とは、傷病の治療に要する費用である。狭義の治療費のほか、通院費、付添看護費用、入院雑費等が含まれることがある。療養費に対応する保険給付は、療養補償給付及び療養給付(第三において「療養(補償)給付」と略称する。)である。
(ハ) 「葬祭費用」とは、被害者が死亡したため一定の者が葬儀を営むために支出を余儀なくされたことによる損害であり、これに対応する保険給付は、葬祭料(葬祭給付)である。
このように、逸失利益、療養費及び葬祭費用についてなされた民事損害賠償に限つて、保険給付の支給調整を行うこととなるので、これらの損害項目以外の損害(例えば精神的損害)に対する民事損害賠償の賠償額については、保険給付の支給調整は行わないものである。
ロ 民事損害賠償の賠償額のうち比較の対象とする額(〔支給調整基準〕一(二)関係)
民事損害賠償においては、加害原因と相当因果関係に立つ損害のすべてが賠償対象となるのに対し、労災保険制度では、損害の全部のうち一定部分のみ、すなわち保険給付の支給水準に相当する部分のみの損害のてん補が行われることとなつているので、その賠償額のうち、保険給付に相当する部分のみが保険給付の支給調整に際して比較の対象とされたものである。
ハ 企業内労災補償、示談金、和解金、見舞金等の取扱い(〔支給調整基準〕一(三)関係)
(イ) 企業内労災補償の取扱い
「企業内労災補償制度」とは、企業内において、労働協約、労使協定、就業規則その他これらに準ずる規程によつて定められている業務災害又は通勤災害に対する給付制度であり、その趣旨・性格は区々でありうるが、通常は、保険給付の不足を補う趣旨すなわち保険給付に上積みして給付される趣旨のものと解される。したがつて、原則として保険給付の支給調整を行わないこととされているものである。しかしながら、例外的に、企業内労災補償制度は個別企業における諸々の状況を勘案して設けられるものであるので、事業主に民事損害賠償責任があり、かつ、企業内労災補償制度を定めている労働協約、就業規則その他の規程の文面上保険給付相当分を含むことが明らかである場合、すなわち保険給付と重複するものとして定められていることが明らかである場合には、損害のてん補が重複して行われることとなるので、保険給付に相当する額の範囲で保険給付の支給調整を行うこととされているものである。
(ロ) 示談金及び和解金の取扱い
労使間では、業務災害又は通勤災害については、保険給付が将来にわたつても支給されることは周知の事項であり、労使間でわざわざこれら保険給付と重複する内容の示談・和解を締結するとは通常考えにくいので、保険給付が将来にわたり支給されることを前提としてこれに上積みして支払われる示談金及び和解金については、保険給付の支給調整を行わないこととされているものである。
しかしながら、将来支給予定の保険給付も含めて一時金で賠償することもないとは断定できないので、そのような将来支給予定の保険給付相当分も含めて示談金又は和解金が支払われることが示談書の文面等により明らかであるケースについては、その重なり合う保険給付相当分について保険給付の支給調整を行うものである。
(ハ) 見舞金等の取扱い
見舞金は災害にあつたことがお気の毒であるという気持を表わす趣旨のものであり、賠償責任があることを前提として行われるものではないことが多く、その場合は、損害賠償としての性格を有しない。したがつて、事業主から見舞金を受領したとしても保険給付の支給調整を行わないものである。
しかしながら、名目上は見舞金であつても実質民事損害賠償として支払われることがありうるので、このようなものについては、保険給付の支給調整を行うべきか否か問題となるが、民事損害賠償として支払われたことが明らかであつても、前記(ロ)の示談金及び和解金の取扱いと同様に、保険給付が将来にわたり支給されることを前提としてこれに上積みして支払われる(精神的損害をてん補する目的で支払われる場合のほか、逸失利益分の上積みとして支払われる場合がある。)ことが通常であろうから、やはり、支給調整の対象とならないことが多いものと考えられる。
(五) 〔支給調整基準〕二(支給調整を行う労災保険給付)について
イ 支給調整を行う労災保険給付の種類(〔支給調整基準〕二(一)関係)
労災法第六七条第二項の規定による支給調整を行うのは、保険給付に限定されている。なお、労災法第一一条に規定するいわゆる未支給の保険給付も支給調整を行う保険給付に含まれることはいうまでもない。
ロ 支給調整が行われる労災保険給付の受給権者の範囲(〔支給調整基準〕二(二)関係)
第一に、支給調整が行われる保険給付の受給権者は、業務災害又は通勤災害に関して前記(四)に示した損害項目について事業主から民事損害賠償を受けた保険給付の受給権者に限られている。第二に、遺族(補償)年金の支給調整に当たつては、遺族(補償)年金の受給権者が失権した後に当該受給権の転給を受けた転給後の受給権者については、仮りに被災労働者の死亡に関し民事賠償を受けた場合であつても遺族(補償)年金の支給調整は行わないこととされている。
(六) 〔支給調整基準〕三(支給調整の事由となる民事損害賠償の損害項目に応じた労災保険給付の支給調整の方法)について
イ 逸失利益(〔支給調整基準〕三(一)関係)
(イ) 基本原則
逸失利益に対応する保険給付の支給調整に当たつての基本原則については、次の点に留意する必要がある(〔支給調整基準〕三(一)イ関係)。
a 保険給付の支給調整に当たつて保険給付と比較する逸失利益に対する民事損害賠償の賠償額は、逸失利益全額ではなく、そのうち保険給付の支給水準に相当する部分である。この保険給付の支給水準に相当する部分―これが「比較対象逸失利益額」と呼ばれている。―の算出は、後記(ロ)に示すとおり、逸失利益分に一定の給付相当率を乗じて算出することとされているものである。
b 支給調整の際に用いる比較対象逸失利益額は、災害発生時すなわち損害発生時から支給調整時までの利息分を加えた額ではなく、災害発生時の現価によるものである。
c 災害発生時からの賃金水準の変動に応じて給付額がスライドされることとなつているが、スライドが行われた場合にはスライド後の額により保険給付の支給調整を行うこととされている。
d 遺族(補償)給付の支給調整を行う際に比較対象とする逸失利益額は、同一人についての重複てん補を回避する趣旨から遺族(補償)給付の受給権者本人が受けた民事損害賠償のうち、逸失利益分に限られるものである。
e 受領した逸失利益に対する損害賠償額が多額であるような受給権者について逸失利益に対応する保険給付の支給調整を行う場合には、支給調整が行われる期間が長期にわたる可能性があることを考慮して、支給調整が行われる期間に上限が設けられ、支給調整が行われる期間が余り長期間とならないようにされている。
したがつて、逸失利益に対応する保険給付の支給調整は、この上限による範囲内すなわち調整対象給付期間の範囲内で行われ、この期間を超えて行われることはない。もちろん、調整対象給付期間内であつても所定の方法による調整が完了すれば、完了した時点から支給が再開されるのは当然である。
調整対象給付期間は、次のいずれか短い期間とされている。
(a) 九年の上限期間
ⅰ 前払一時金が設けられている年金給付(障害(補償)年金及び遺族(補償)年金)の場合
最高限度額の前払一時金(障害等級第一級の障害(補償)年金の場合には原則として給付基礎日額の一、三四○日分、遺族(補償)年金の場合には給付基礎日額の一、○○○日分)が支給されたと仮定した場合に支給されるべき年金が停止される期間(前払一時金最高限度額相当期間)(前記(一)ニ(イ)参照)が終了した月から起算して九年が経過するまでの期間
ⅱ 前払一時金が設けられていない保険給付(傷病(補償)年金及び休業(補償)給付)の場合
(ⅰ) 傷病(補償)年金
傷病(補償)年金の支給事由の発生した月の翌月から起算して九年が経過するまでの期間
(ⅱ) 休業(補償)給付の場合
負傷の原因である事故の発生した日又は診断によつて疾病の発生が確定した日から起算して九年が経過するまでの期間
(b) 就労可能年齢による期間
稼得能力を失つた場合の民事損害賠償では、逸失利益額は、当該被災労働者の一定の就労可能年数を前提として算定されるので、逸失利益に対応する保険給付の支給調整に際しても、民事損害賠償の逸失利益額の算定方法との均衡上、被災時の年齢に対応する就労可能年齢を超える部分については、支給調整を行わないこととされているものである。
また、支給調整を開始する時点は、原則として、受給権者が保険給付に相当する民事損害賠償を受領した時点であるが、前払一時金が設けられている年金給付については、①当該保険給付に相当する民事損害賠償を受領した時点、②前払一時金最高限度額に相当する期間を経過する時点のいずれか遅い時点が支給調整を開始する時点である。
(ロ) 個別の保険給付ごとの支給調整の具体的方法(〔支給調整基準〕三(一)ロ関係)
個別の保険給付ごとの支給調整の具体的方法について留意すべき点は次のとおりである。
a 障害(補償)年金
(a) 障害(補償)年金の支給調整は、調整対象給付期間内、すなわち、次の①又は②のいずれか短い期間内において、支給調整対象額に達するまで行うこととされているものである。
① 障害(補償)年金の前払一時金最高限度額に相当する額の障害(補償)年金が支給される期間が満了する月から起算して九年が経過する月までの期間
② 被災労働者が災害に遭わなければ、就労が可能であると考えられる年齢(六七歳を基準とするが、高年齢の場合には平均余命の二分の一を加えた年齢とされている。)を超えるに至る時までの期間
(b) 障害(補償)年金の支給停止は、次の①又は②のいずれか遅く到来する時点から開始するものである。
① 被災労働者が後遺障害による逸失利益についての民事損害賠償を受けた時
② 障害(補償)年金の前払一時金最高限度額に相当する額の障害(補償)年金が支給される期間が満了する時
(c) 支給調整対象額の算定に用いる「逸失利益額」は、判決・示談書等で明示された被災労働者が当該災害によつて喪失した稼得能力の評価額の全体をさす。したがつて、いわゆる損益相殺を行う前の額であるが、過失相殺についてはこれを行つた後の額とする。
また、「労働能力喪失率」及び「就労可能年数」についても、受領届に判決・示談書等における労働能力喪失率及び就労可能年数が明示されているときは、その率及び年数により取り扱つて差し支えないこととする。
なお、支給調整の対象となる保険給付が支給されるのと同一の事由により厚生年金等の公的年金が併給され、労災法別表第一第一号の規定に基づき、調整が行われるときは、逸失利益額に当該調整率(労災令第二条、第四条等による。)を乗じて得た額を逸失利益額として取り扱うこととする。
(d) 障害(補償)年金が障害(補償)年金の前払一時金最高限度額を超えて支給されている場合には、その既支給額は、やはり、民事損害賠償の側において民事損害賠償の賠償額から控除されるので比較対象逸失利益額から控除して支給調整対象額を計算するものである。
b 遺族(補償)年金
(a) 遺族(補償)年金の支給調整についても、調整対象給付期間内、すなわち、次の①又は②のいずれか短かい期間内において、支給調整対象額に達するまで行うこととされている。
① 遺族(補償)年金の前払一時金最高限度額に相当する額の遺族(補償)年金が支給される期間が満了する月から起算して九年が経過するまでの期間
② 被災労働者が災害に遭わずに生きていたならば就労が可能であると考えられる年齢(被災時の年齢に対応する就労可能年齢とする。)を超えるに至る時までの期間
(b) 遺族(補償)年金の支給停止は、次の①又は②のいずれか遅く到来する時点から開始するものである。
① 受給権者たる遺族が被災労働者の死亡による逸失利益についての民事損害賠償を受けた時
② 遺族(補償)年金の前払一時金最高限度額に相当する額の遺族(補償)年金が支給される期間が満了する時
(c) 支給調整対象額の算定に用いる「逸失利益額」は、判決・示談書等において明示された被災労働者が死亡によつて喪失した稼得能力の全体(被災労働者としての逸失利益額)のうち、遺族(補償)年金の受給権者である遺族の相続分(事案によつては失われた遺族の被扶養利益を遺族の逸失利益として捉えられることもある。)とする。被災労働者本人の生活費分については、控除後の額とするが、損益相殺を行う前の額である。過失相殺については、これを行つた後の額とする。
また、「死亡労働者本人の生活費の割合」、「就労可能年数」及び「相続割合」については、受領届に判決・示談書等におけるこれらの率及び年数が明示されているときは、これらの率及び年数により取り扱つて差し支えないこととする。
なお、支給調整の対象となる保険給付が支給されるのと同一の事由により厚生年金等の公的年金が併給され、労災法別表第一第一号の規定に基づき、調整が行われるときは、逸失利益額に当該調整率(労災令第二条及び第四条による。)を乗じて得た額を逸失利益額として取り扱うこととする。
(d) 「前払一時金最高限度額等」を控除する点については、前記a(d)参照
c 傷病(補償)年金
(a) 傷病(補償)年金の支給調整についても、調整対象給付期間内、すなわち、次の①又は②のいずれか短い期間内において、支給調整対象額に達するまで行うこととされている。
① 傷病(補償)年金の支給事由の発生した月の翌月から起算して九年が経過するまでの期間
② 被災労働者が事故に遭わなければ、就労が可能であると考えられる年齢(障害(補償)年金の場合に同じ。)を超えるに至る時までの期間
(b) 傷病(補償)年金の支給停止は、次の①又は②のいずれか遅く到来する時点から開始するものである。
① 傷病(補償)年金の支給事由が生じた時
② 療養のための労働不能による賃金喪失についての民事損害賠償を受けた時
(c) 支給調整対象額の算定に用いる「逸失利益額」、「労働能力喪失率」、「就労可能年数」及び「公的年金の併給調整が行われる場合の取扱い」については、前記aに準じて取り扱うこととする。
(d) 「既支給額」を控除する点については、前記a(d)参照
d 障害(補償)一時金
(a) 障害(補償)一時金については、その支給予定額が、支給調整対象額を上回る場合には、その上回る部分を支給し、下回る場合には、全額不支給とするものである。ただし、障害(補償)一時金の支給事由が災害発生日から起算して九年を経過する日の後に生じた場合すなわち災害発生日から九年経過後に治ゆして障害等級第八級から第一四級までに該当することとなつたか、災害発生時点において想定される被災労働者の就労可能年齢を超えた日以後に障害(補償)一時金の支給事由が生じたかのいずれかに該当する場合には、支給調整を行わないこととされている。
(b) 支給調整対象額の算定に用いる「逸失利益額」、「労働能力喪失率」及び「就労可能年数」については、前記aに準じて取り扱うこととする。
(c) 「既支給額」を控除する点については、前記a(d)参照
e 遺族(補償)一時金
(a) 遺族(補償)一時金については、その支給予定額が、支給調整対象額を上回る場合には、その上回る部分を支給し、下回る場合には、全額不支給とするものである。ただし、遺族(補償)一時金の支給事由が災害発生日から起算して九年を経過する日の後に生じた場合すなわち災害発生日から九年経過後に被災労働者が当該災害により死亡したか災害発生時点において想定される被災労働者の就労可能年齢を超えた日以後に遺族(補償)一時金の支給事由が生じたかのいずれかに該当する場合には、支給調整は行わないこととされている。
(b) 支給調整対象額の算定に用いる「逸失利益額」、「死亡労働者本人の生活費の割合」、「就労可能年数」及び「相続割合」については前記bに準じて取り扱うこととする。
(c) 「既支給額」を控除する点については、前記a(d)参照
f 前払一時金及び失権差額一時金
障害(補償)年金前払一時金、遺族(補償)年金前払一時金、障害(補償)年金差額一時金及び遺族(補償)年金失権差額一時金については、労災法第六七条第二項ただし書に規定するとおり支給調整を行わないこととされているので、民事損害賠償を受けたか否かに関係なく支給されることとなる。
g 休業(補償)給付
(a) 休業(補償)給付については、調整対象給付期間内、すなわち、次の①又は②のいずれか短い期間内において、支給調整対象額の限度で支給調整を行うこととされている。
① 災害発生日から起算して九年が経過する日までの期間
② 被災労働者が災害に遭わなければ、就労が可能であると考えられる年齢を超えるに至るまでの期間
(b) 休業(補償)給付の支給停止は、療養のための労働不能による賃金喪失についての民事損害賠償を受けた時点から開始されるものである。
(c) 支給調整対象額の算定に用いる「逸失利益額」、「労働能力喪失率」、「就労可能年数」及び「公的年金の併給調整が行われる場合の取扱い」については、前記aに準じて取り扱うこととする。
(d) 「既支給額」を控除する点については、前記a(d)参照
ロ 療養費
労災保険の療養(補償)給付の範囲は、健康保険等の場合と同じように、一定の範囲内の療養についてカバーするようなしくみになつており、民事損害賠償の側で治療費等の範囲に含まれるものであつても、これに見合うものが療養(補償)給付の療養の範囲に含まれないこともあるので、支給調整に当たつては、民事損害賠償額の算定対象とされた療養費に見合うものであるか否かの判定が必要である。
事業主から行われる療養費の賠償がありうるとしても労災保険の療養(補償)給付で認められていない入院雑費、付添看護費用の一部等を補てんするために行われる場合が多いので、このような場合は、いわゆる「上積み賠償」として、療養(補償)給付の支給調整を行う必要はない。
しかしながら、当事者間での示談書等の文章により労災保険の療養(補償)給付に見合う分を含む民事損害賠償が行われたことが明らかな場合には、その見合う分の限度で賠償時における未払分の療養(補償)給付の支給調整を行うものである。
したがつて、労災保険の療養(補償)給付相当分について支給調整を行うこととし、事業主から支払われた療養費の中に労災保険の療養(補償)給付の範囲外のものが含まれている場合には、その部分は調整対象額に含めないものである。
ハ 葬祭費用
葬祭料(葬祭給付)の支給に先行して、葬祭料(葬祭給付)に相当する部分を含める趣旨であることが、判決・示談書等の文面上明らかである葬祭費用部分の賠償が行われた場合には、葬祭費用について行われた民事損害賠償の賠償額の限度で葬祭料(葬祭給付)の支給調整を行うものである。すなわち、葬祭料(葬祭給付)の支給予定額から葬祭費用分の賠償額を差し引いて支給することとなり、差額が生じない場合には全額不支給とするものである。
しかしながら、事業主が葬祭を主催し、又は遺族等の行う葬祭に要する費用の補助を行う場合には、通常労災保険から支給される葬祭料(葬祭給付)に上積みして行われるものと解されるので、原則として支給調整を行う必要はない。
(七) 〔支給調整基準〕四(民事損害賠償の内訳等が不明なものの取扱い)について
被災労働者又はその遺族が事業主から業務災害又は通勤災害に関して民事損害賠償を受けたが、その性格、内訳等が不明であるものについての保険給付の支給調整は、保険給付相当分を含むが内訳不明のものと保険給付相当分を含むか否か不明なものとに区分して取り扱うこととされている。
イ 保険給付相当分を含む民事損害賠償であるが、その内訳等が不明なものの取扱い(〔支給調整基準〕四(一)関係)
事業主から受けた民事損害賠償の賠償額のうち次のケースに応じて算定した額を、保険給付との比較の対象とする額として保険給付の支給調整を行うものである。
(イ) 被災労働者が傷病が治ゆしたことによる後遺障害について民事損害賠償を受けたケース
前記(六)のイの(ロ)のaにおける障害(補償)年金の支給調整の際に用いる方法と同様に、労災保険の給付基礎日額を用いて算定される定型的逸失利益額を基礎とし、これに給付相当率を乗じる等所要の計算をした額を比較対象逸失利益として取り扱うものである(同一の事由について厚生年金等が併給され、労災法別表第一第一号又は第二号により調整が行われる場合には、当該調整率(前記(六)のイの(ロ)のaの(c)参照)を乗じて取り扱うこと。)。
(ロ) 遺族が被災労働者の死亡について民事損害賠償を受けたケース
前記(六)のイの(ロ)のbにおける遺族(補償)年金の支給調整の際に用いる方法と同様に、労災保険の給付基礎日額を用いて算定される定型的逸失利益額を基礎としてこれに相続割合、給付相当率○・六七を乗じる等所要の計算をした額を比較対象逸失利益として取り扱うものである(同一の事由について厚生年金等が併給され、労災法別表第一第一号又は第二号により調整が行われる場合には当該調整率(前記(六)のイの(ロ)のbの(c)参照)を乗じて取り扱うこと。)。
(ハ) 被災労働者が療養のため一時的労働不能による賃金喪失について民事損害賠償を受けたケース
a 傷病(補償)年金について
前記(六)のイの(ロ)のcにおける傷病(補償)年金の支給調整の際に用いる方法と同様に、労災保険の給付基礎日額を用いて算定される定型的逸失利益額を基礎としてこれに給付相当率○・六七を乗じる等所要の計算をした額を比較対象逸失利益として取り扱うものである(同一の事由について厚生年金等が併給され、労災法別表第一第一号又は第二号により調整が行われる場合には当該調整率(前記(六)のイの(ロ)のcの(c)参照)を乗じて取り扱うこと。)。
b 休業(補償)給付について
前記(六)のイの(ロ)のgにおける休業(補償)給付の支給調整の際に用いる方法と同様に、労災保険の給付基礎日額を用いて算定される定型的逸失利益額を基礎としてこれに給付相当率○・六を乗じる等所要の計算をした額を比較対象逸失利益として取り扱うものである(同一の事由について厚生年金等が併給され、労災法第一四条第三項第二号(労災法第二二条の二第二項による準用を含む。)により調整が行われる場合には当該調整率(前記(六)のイの(ロ)のgの(c)参照)を乗じて取り扱うこと。)。
ロ 保険給付相当分を含むことが明らかでない場合の取扱い(〔支給調整基準〕四(二)関係)
民事損害賠償の性格が不明な場合には、まず、当事者の意思内容が問題となるが、特に保険給付によつてカバーする損害を含める趣旨が当事者間での何らかの文章によつて明らかであるもの以外は、すべて上積みとして行われる賠償と評価して、保険給付の支給調整を行わないものとして取り扱うこととする。
第四 特別支給金関係
一 障害特別年金差額一時金の新設
(一) 障害特別年金差額一時金の趣旨及び内容
前記第一の一に説明した障害補償年金差額一時金又は障害年金差額一時金の新設に準じ、障害補償年金又は障害年金の受給権者の死亡に関して支給される障害補償年金差額一時金又は障害年金差額一時金の受給権者に対し、ボーナス等の特別給与を算定基礎とする障害特別年金差額一時金を特別支給金として、その申請に基づいて支給することとされたものである。
障害特別年金差額一時金の額は、障害等級に応じ、それぞれ次の表に掲げる額から既に支給された障害特別年金の額(その額がスライドにより改定された場合には当該改定がなされなかつたとした場合の額)を差し引いた額(当該障害特別年金差額一時金の支給を受ける遺族が二人以上ある場合には、その額をその人数で除して得た額)とされた(新特支則附則第七項関係)。
障害等級 |
額 |
第1級 |
算定基礎日額の1,340日分 |
第2級 |
算定基礎日額の1,190日分 |
第3級 |
算定基礎日額の1,050日分 |
第4級 |
算定基礎日額の920日分 |
第5級 |
算定基礎日額の790日分 |
第6級 |
算定基礎日額の670日分 |
第7級 |
算定基礎日額の560日分 |
(二) 加重障害の場合等における障害特別年金差額一時金の額
障害特別年金差額一時金の額は原則として前記(一)に示すところにより算定されるが、次のイ及びロの場合には、それぞれに示すところにより算定される額によるものである。
イ いわゆる加重障害の場合は、障害補償年金差額一時金の取扱い(前記第一の一の(二)のイ)に準ずることとされた(新特支則附則第九項による新労災則附則第一七項の準用関係)。
ロ 再発再治ゆの場合及び自然的経過による障害の程度の変更の場合の取扱いは、障害補償年金差額一時金の取扱い(前記第一の一の(二)のロ又はハ)に準ずることとする。
(三) 障害特別年金差額一時金の額の改定
障害特別年金差額一時金の額については、障害補償年金差額一時金又は障害年金差額一時金の額の改定の例により改定することとする(新特支則附則第一一項関係)。
(四) 障害特別年金差額一時金の申請手続
イ 障害特別年金差額一時金の支給を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書(告示様式第三七号の二)を、所轄労働基準監督署長に提出するものとすることとされた(新特支則附則第八項関係)。
① 死亡した労働者の氏名及び生年月日
② 申請人の氏名、生年月日、住所及び死亡した労働者との関係
ロ 障害特別年金差額一時金の支給の申請は、障害(補償)年金差額一時金の受給権者となつた日の翌日から起算して五年以内に、当該障害(補償)年金差額一時金の請求と同時に行わなければならないこととされた(新特支則附則第九項による特支則第七条第七項の準用関係)。
ハ 障害特別年金差額一時金を受ける者が二人以上ある場合の当該一時金の請求及び受領についての代表者の選任及び解任については、遺族補償年金の場合の取扱いに準ずるものとされた(新特支則附則第九項による労災則第一五条の五の準用関係)。
(五) その他
イ 過誤払充当の処理の範囲の拡大
障害特別年金を受けている者が死亡し、当該死亡に関して新たに障害特別年金差額一時金を受けることとなつた者が当該死亡に伴い過誤払された障害特別年金の返還金債権についての債務の弁済をなすべき者であるときは、障害特別年金差額一時金の支払金を過誤払された障害特別年金の返還金債権の金額に充当することができることとされた(新特支則第一四条の二関係)。
ロ メリット収支率の算定に当たつての障害特別年金差額一時金の取扱い
いわゆるメリット収支率の算定に当たつて労災法第五八条の規定による障害補償年金差額一時金の受給権者に支給される障害特別年金差額一時金はその算定の基礎から除外することとされていた(特支則改正省令による改正後の労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則附則第六条関係)。
二 遺族特別一時金の額の算定方法の改善
遺族(補償)年金の受給権者の当該受給権が消滅した場合に支給される遺族特別一時金の額の算定に当たつて算定基礎日額の一、○○○日分から控除される当該労働者の死亡に関し支給された遺族特別年金の額については、当分の間、その額についてスライドによる改定が行われたものである場合には当該改定が行われなかつたとした場合の額とすることとされた(新特支則附則第一二項関係)。
三 経過措置
前記一の障害特別年金差額一時金は、昭和五六年一一月一日以後に支給の事由の生じた場合に支給することとされ、前記二の改正は、同日以後に支給すべき事由の生じた遺族特別一時金について適用することとされた(特支則改正省令附則第一条及び第二条関係)。
第五 その他
一 障害補償年金差額一時金及び障害年金差額一時金並びに障害補償年金前払一時金及び障害年金前払一時金の支給に関する規定が新労災則附則に置かれることとなつたことに伴い遺族補償年金前払一時金及び遺族年金前払一時金に関する規定について所要の字句整理がなされた(新労災則附則第二九項、第三○項、第三五項、第三六項、第三九項等関係)。
二 第四の改正事項に関し年金たる特別支給金の額の改定に関する規定の項番号を移動させるとともに、これに伴い労働者災害補償保険特別支給金支給規則の一部を改正する省令(昭和五二年労働省令第七号)附則第八条について所要の字句整理がなされた(新特支則附則第一○項及び第一一項並びに改正特支則附則第四条関係)。
(別添)
労災保険の年金たる保険給付の受給権を担保とする小口の資金の貸付制度について
一 趣旨
労災保険の年金たる保険給付の受給者(以下「年金受給者」という。)のなかには、病気、子女の入学あるいは結婚等不時の出費を必要とする場合、親戚、勤務先、金融機関等からの借入れに依存しなければならない者が少なくないが、現在、必ずしも貸付けを受ける機会に恵まれていない。
一方、他制度(国民金融公庫が行う恩給担保融資制度、年金福祉事業団が行う年金担保融資制度)においても受給権を担保として小口の融資を行つている。また年金受給者の要望あるいは労災保険審議会の建議等もあり、これら年金受給者の生活の援護を図るため、臨時に必要とする小口の資金の貸付けを行う制度を新設し、昭和五六年一一月一日より施行することとした。
二 実施機関
(一) 年金担保貸付は労働福祉事業団が行う。
(二) 労働福祉事業団は貸付業務の一部を金融機関に委託する。
三 貸付条件
(一) 対象者
現に労災保険の年金たる保険給付を受給している者であつて、小口の資金を必要とし、かつ銀行その他一般の金融機関等から資金の融資を受けることが困難な者
(二) 貸付額
現に受給している年金額の一・五倍以内で最低一○万円から最高一五○万円の範囲内(一万円単位)
(三) 利率
年七・五パーセント(年金福祉事業団が行う貸付制度と同様)
(四) 償還方法
原則として年金の支払金の全額を政府から事業団が直接受領し、元利金等に充当する。
(五) 償還期間
貸付実行日から四年以内とする。
(六) 担保
年金受給権(取扱銀行で年金証書を預り、完済時に返却)
(七) 保証人
連帯保証人一名以上
四 借入申込みに必要な書類
(一) 借入申込書
(二) 年金証書
(三) 現在の年金額を証明できる書類(年金等/支給・変更/停止・解除/決定通知書、スライドによる変更決定通知書等)
(四) 借入申込者の印鑑証明書(発行後三カ月以内のもの)
(五) 保証人の印鑑証明書(発行後三カ月以内のもの)
(六) 申込者が未成年者等の場合
((イ)) 親権者等の印鑑証明書
((ロ)) 親権者等であることを証する書類(戸籍謄本等)
五 貸付金の使途
生業資金、住宅資金、教育資金、冠婚葬祭資金等
六 施行期日
昭和五六年一一月一日