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○労働者災害補償保険法の一部を改正する法律等の施行について

(昭和四八年一一月二二日)

(基発第六四四号)

(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)

※ 昭和五一年五月二七日法律第三二号の改正に伴い、本通達中「長期傷病給付」、「長期傷病補償給付」は、「傷病年金」、「傷病補償年金」と読み替える。

労働者災害補償保険法の一部を改正する法律(昭和四八年法律第八五号)、労働者災害補償保険法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令(昭和四八年政令第三二二号)、労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令(昭和四八年労働省令第三五号)、及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(昭和四八年労働省令第三六号)並びに関係告示(昭和四八年労働省告示第六八号、第六九号及び第七〇号)が、本年一二月一日から施行され、通勤災害保護制度が同日から発足することとなつた。新制度の大綱については、昭和四八年一一月二二日付け労働省発基第一〇五号により、労働事務次官から通達されたところであるが、同制度に係る事務取扱いについては、下記事項を了知の上、特に制度発足の当初においては、局署職員が一体となつて一日も早く制度の運営を軌道に乗せるべく、格段の努力を払い、業務運営に遺憾なきを期されたい。

(注) 法令の略称は、次のとおりである。

改正法 労働者災害補償保険法の一部を改正する法律

新法 改正法による改正後の労働者災害補償保険法

旧法 改正法による改正前の労働者災害補償保険法

新整備法 改正法による改正後の失業保険法及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律

改正省令 労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令

新規則 改正省令による改正後の労働者災害補償保険法施行規則

新整備省令 改正規則による改正後の失業保険法及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律の施行に伴う労働省令の整備等に関する省令

第一 労災保険の目的の改正

今次の制度改正により、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)の目的として、労働者の通勤災害についても保険給付及び保険施設を行うことが加えられた(新法第一条)。新法第一条においては、従来の「災害補償」を行うという文言に代えて、「保険給付」を行うという表現に改められているが、これは、本来事業主に災害補償責任のない通勤災害についても「災害補償」を行うというのは適切でないので、「保険給付」を行うというより一般的な表現を用いたものであつて、業務災害に関する保険給付は従来のとおり「災害補償」として行われるものである。このことは、労働基準法(昭和二二年法律第四九号)第八四条の規定に今回何らの変更がなされなかつたことからも明らかである。

第二 保険給付関係

旧法においては、保険給付及び保険施設について第三章としてまとめて規定されていたものが、新法においては、保険給付については第三章として、保険施設については第三章の二として、それぞれ規定されることとなつた。さらに、第三章は、「第一節 通則」、「第二節 業務災害に関する保険給付」及び「第三節 通勤災害に関する保険給付」の三節に分かたれて規定されることとなつた。

1 通則関係

第一節には、業務災害に関する保険給付及び通勤災害に関する保険給付の双方に適用される通則的規定が置かれた(新法第七条から第一二条の七まで)。

(1) 業務災害及び通勤災害

新法第七条第一項の規定は、労災保険から業務災害及び通勤災害に関して保険給付が行われるものであること並びに業務災害及び通勤災害の定義を定めたものである。業務災害の認定に関する取扱いは従来のとおりであるが、通勤災害の認定については、新たに発足した労働者の通勤災害保護制度の運営上の重要な問題であるので、別紙「通勤災害の範囲について」により慎重に行うこととされたい。

なお、通勤災害の認定についても、全国を通じて統一的に行う必要があるので、各都道府県労働基準局において、別紙「通勤災害の範囲について」によつては、通勤災害に該当するか否かの認定の困難な事案については、当分の間、事案毎に本省あてりん伺することとされたい。

(2) 給付基礎日額

通勤災害に関する保険給付に係る給付基礎日額も、業務災害の場合と同様であり、原則として、労働基準法第一二条の平均賃金に相当する額を用いるものとされている(新法第八条)。新法第八条の規定は、旧法第一二条の二の規定について、当該平均賃金の算定事由の発生した日を明確に定めるための改正が行われたものである。

(3) その他の通則規定

新法第九条から第一二条の七までの規定は、旧法第一二条の三から第一二条の六まで及び第一九条から第二二条の二まで(第一九条の三を除く。)の規定に相当するもので、これらの規定について所要の整理が行われたものである。

2 業務災害に関する保険給付関係

業務災害に関する保険給付については、第三章第二節として新法第一二条の八から第二〇条までに規定されることとなつたが、これらの規定に相当する旧法の規定について所要の整理が行われたほかは、従来と変りがない。

3 通勤災害に関する保険給付関係

通勤災害に関する保険給付については、第三章第三節として、新法第二一条から第二二条の七までに規定されているところである。

(1) 保険給付の種類等

通勤災害に関する保険給付は、新法第二一条に規定されているとおり、療養給付、休業給付、障害給付、遺族給付、葬祭給付及び長期傷病給付の六種類で、これらの給付は、それぞれ業務災害に関する療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料及び長期傷病補償給付と同一内容であり、その支給事由、受給権者、他の社会保険による給付との調整等も業務災害の場合と同様である(新法第二二条から第二二条の六まで)。

(2) 保険給付の請求

通勤災害に関する保険給付の請求手続については、業務災害に関する保険給付の場合と基本的には同様であるが、通勤災害の性格上、請求書の記載事項等について必要な限度において差異が設けられている。たとえば、通勤災害に関する保険給付の請求書には、業務災害の場合の記載事項に加えて、次の事項を記載しなければならないこととされている(新規則第一八条の五第一項等)。

① 災害の発生の時刻及び場所

② 就業の場所並びに災害が出勤の際に生じたものである場合には就業開始の予定の時刻、災害が退勤の際に生じたものである場合には就業終了の時刻及び就業の場所を離れた時刻

③ 通常の通勤の経路及び方法

④ 住居又は就業の場所から災害の発生の場所に至つた経路、方法、所要時間その他の状況

なお、②については必ず、①及び③に掲げる事項については、事業主が知り得た場合に、その証明を受けなければならないこととされている(新規則第一八条の五第二項等)。

第三 保険施設関係

保険施設については、新法においては、第三章の二として独立の一章が設けられたほか、第二三条の規定が改正されて、外科後処置に関する施設等は、業務災害についてと同様に、通勤災害についても行われることとなつた。なお、第二三条の二に定められている災害予防に関する保険施設は、通勤災害については行われない。

第四 費用の負担関係

一 保険料の徴収について

通勤災害に関する保険給付等に要する費用にあてるための財源は、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四四年法律第八四号)の規定による労働保険料に含めて徴収されるものであり、これに伴い同法及び関係政省令について所要の改正が行われたが、これらに関しては、別途、昭和四八年一一月二二日付け労働省発労徴第八五号基発第六四五号により通達されているところである。

二 事業主からの費用徴収

通勤災害に関する事業主からの費用徴収は、保険料の滞納中に生じた事故についてのみ行われる。また、この場合における費用徴収の限度額は、業務災害の場合と同様である(新法第二五条第一項)。

なお、通勤災害の場合には、事業主の故意又は重大な過失による事故について費用徴収を行わないのは、通勤災害は事業主の支配下において生ずるものではなく、事業主に災害予防義務が課されていないためである。

三 労働者の一部負担

通勤災害に関する療養給付を受ける労働者は、二〇〇円(日雇労働者健康保険の被保険者は、五〇円)の一部負担金を納付しなければならないこととされているが、①第三者行為災害を被つた者、②療養開始後三日以内に死亡した者及び③転医した者の場合は、この限りでないとされている(新法第二五条第二項、新規則第四四条の二第一項及び第二項)。また、この一部負担金は、当該労働者に支払うべき療養給付たる療養の費用又は休業給付の額からこれに相当する額を控除することによつて徴収することができることとされている(新法第二五条第三項、新規則第四四条の二第三項)。

なお、一部負担金の徴収手続等は、事業主からの徴収金の場合と同様とされているところである(新法第二五条第四項)。

第五 特別加入関係

特別加入者については、その実態の特性等に鑑み、通勤災害に関する保険給付は、行われないものである(新法第二八条及び第二九条)。

第六 不服申立て及び訴訟関係

新法第三八条は、旧法においては、労働保険の保険料の徴収等に関する法律中の規定の準用について各徴収金に関する条項ごとに規定されていたものを、まとめて規定したものである。

第七 雑則関係

保険給付についての時効に関する規定その他第六章(雑則)の規定は、通勤災害に関する場合も、業務災害に関する場合と同様に適用される。

新法第四五条は、旧法第四五条の規定を改め、戸籍に関する証明は、市町村等の条例で定めた場合には、無料とすることができることとしたものである。

新法第四七条の規定は、通勤災害の多くは第三者行為災害であるため、保険給付の原因である事故を発生させた第三者に対しても、行政庁が必要な報告、届出、文書その他の物件の提出を命ずることができることとしたものである。なお、この場合の第三者については、他の関係者と異なり行政庁への出頭を命ずることはできないものである。

第八 暫定措置及び特例措置

年金たる保険給付の額についてのスライド制の適用、遺族に対する前払一時金の支給及び五五歳以上六〇歳未満の遺族に係る年金に関する特例は、いずれも、通勤災害に関する保険給付についても、業務災害の場合と同様、実施されることとされている(改正法附則第三条から第五条まで)。

また、通勤災害についても、業務災害の場合と同様、保険給付の特例が設けられており、この場合にも、労働保険料のほか、特別保険料を徴収することとしている(新整備法第一八条の二、第一九条等及び新整備則第七条から第九条まで)。

第九 新法の適用

新法は、昭和四八年一二月一日以後に発生した事故に起因する通勤災害に関して適用される(改正法附則第二条)。したがつて、たとえ同日以後に支給事由が生ずるものであつても、同日前に発生した事故に起因する通勤災害については、新法に基づく保険給付は行われないこととなる。

(別紙)

「通勤災害の範囲について」

通勤災害については、労災保険法第7条第1項第2号において「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」をいうものと定義されている。

また、通勤については、同条第2項及び第3項において次のとおり定義されている。

「前項第二号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。

一 住居と就業の場所との間の往復

二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動

三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)」

「労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第二号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。」

併せて、労災保険法第7条第2項第2号の厚生労働省令で定める就業の場所は、労災保険法施行規則第6条において次のように定められている。

一 法第三条第一項の適用事業及び整備法第五条第一項の規定により労災保険に係る保険関係が成立している同項の労災保険暫定任意適用事業に係る就業の場所

二 法第三十四条第一項第一号、第三十五条第一項第三号又は第三十六条第一項第一号の規定により労働者とみなされる者(第四十六条の二十二の二に規定する者を除く。)に係る就業の場所

三 その他前二号に類する就業の場所」

また、労災保険法第7条第2項第3号の厚生労働省令で定める要件は、労災保険法施行規則第7条において次のように定められている。

「法第七条第二項第三号の厚生労働省令で定める要件は、同号に規定する移動が、次の各号のいずれかに該当する労働者により行われるものであることとする。

一 転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復の距離等を考慮して困難となつたため住居を移転した労働者であつて、次のいずれかに掲げるやむを得ない事情により、当該転任の直前の住居に居住している配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この条及び次条において同じ。)と別居することとなつたもの

イ 配偶者が、要介護状態(負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、二週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態をいう。以下この条及び次条において同じ。)にある労働者又は配偶者の父母又は同居の親族を介護すること。

ロ 配偶者が、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校、同法第百二十四条に規定する専修学校若しくは同法第百三十四条第一項に規定する各種学校(以下この条において「学校等」という。)に在学し、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第三十九条第一項に規定する保育所(次号ロにおいて「保育所」という。)若しくは就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)第二条第七項に規定する幼保連携型認定こども園(次号ロにおいて「幼保連携型認定こども園」という。)に通い、又は職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第十五条の六第三項に規定する公共職業能力開発施設の行う職業訓練(職業能力開発総合大学校において行われるものを含む。以下この条及び次条において「職業訓練」という。)を受けている同居の子(十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある子に限る。)を養育すること。

ハ 配偶者が、引き続き就業すること。

ニ 配偶者が、労働者又は配偶者の所有に係る住宅を管理するため、引き続き当該住宅に居住すること。

ホ その他配偶者が労働者と同居できないと認められるイからニまでに類する事情

二 転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復の距離等を考慮して困難となつたため住居を移転した労働者であつて、次のいずれかに掲げるやむを得ない事情により、当該転任の直前の住居に居住している子と別居することとなつたもの(配偶者がないものに限る。)

イ 当該子が要介護状態にあり、引き続き当該転任の直前まで日常生活を営んでいた地域において介護を受けなければならないこと。

ロ 当該子(十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある子に限る。)が学校等に在学し、保育所若しくは幼保連携型認定こども園に通い、又は職業訓練を受けていること。

ハ その他当該子が労働者と同居できないと認められるイ又はロに類する事情

三 転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復の距離等を考慮して困難となつたため住居を移転した労働者であつて、次のいずれかに掲げるやむを得ない事情により、当該転任の直前の住居に居住している当該労働者の父母又は親族(要介護状態にあり、かつ、当該労働者が介護していた父母又は親族に限る。)と別居することとなつたもの(配偶者及び子がないものに限る。)

イ 当該父母又は親族が、引き続き当該転任の直前まで日常生活を営んでいた地域において介護を受けなければならないこと。

ロ 当該父母又は親族が労働者と同居できないと認められるイに類する事情

四 その他前三号に類する労働者」

さらに、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものは、労災保険法施行規則第8条において、次のように定められている。

「法第七条第三項の厚生労働省令で定める行為は、次のとおりとする。

一 日用品の購入その他これに準ずる行為

二 職業訓練、学校教育法第一条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為

三 選挙権の行使その他これに準ずる行為

四 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為

五 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)」

上に述べた定義について、具体的に説明すると次のとおりである。

1 「通勤による」の意義

「通勤による」とは通勤と相当因果関係のあること、つまり、通勤に通常伴う危険が具体化したことをいう。

① 具体的には、通勤の途中において、自動車にひかれた場合、電車が急停車したため転倒して受傷した場合、駅の階段から転落した場合、歩行中にビルの建設現場から落下してきた物体により負傷した場合、転倒したタンクローリーから流れ出す有害物質により急性中毒にかかった場合等、一般に通勤中に発生した災害は通勤によるものと認められる。

② しかし、自殺の場合、その他被災者の故意によって生じた災害、通勤の途中で怨恨をもってけんかをしかけて負傷した場合などは、通勤をしていることが原因となって災害が発生したものではないので、通勤災害とは認められない。

2 「就業に関し」の意義

「就業に関し」とは、移動行為が業務に就くため又は業務を終えたことにより行われるものであることを必要とする趣旨を示すものである。つまり、通勤と認められるには、移動行為が業務と密接な関連をもって行われることを要することを示すものである。

① まず、労働者が、業務に従事することになっていたか否か、又は現実に業務に従事したか否かが、問題となる。

この場合に所定の就業日に所定の就業場所で所定の作業を行うことが業務であることはいうまでもない。また、事業主の命によって物品を届けに行く場合にも、これが業務となる。また、このような本来の業務でなくとも、全職員について参加が命じられ、これに参加すると出勤扱いとされるような会社主催の行事に参加する場合等は業務と認められる。さらに、事業主の命をうけて得意先を接待し、あるいは、得意先との打合せに出席するような場合も、業務となる。逆に、このような事情のない場合、例えば、休日に会社の運動施設を利用しに行く場合はもとより会社主催ではあるが参加するか否かが労働者の任意とされているような行事に参加するような場合には、業務とならない。ただし、そのような会社のレクリエーション行事であっても、厚生課員が仕事としてその行事の運営にあたる場合には当然業務となる。また、事業主の命によって労働者が拘束されないような同僚との懇親会、同僚の送別会への参加等も、業務とはならない。

さらに、労働者が労働組合大会に出席するような場合は、労働組合に雇用されていると認められる専従役職員については就業との関連性が認められるのは当然であるが、一般の組合員については就業との関連性は認められない。

(イ) 出勤(労災保険法第7条第2項第1号の住居から就業の場所への移動をいい、同項第2号の場合の第2の就業の場所への移動を含む。以下同じ。)の就業との関連性についてであるが、所定の就業日に所定の就業開始時刻を目途に住居を出て就業の場所へ向う場合は、寝すごしによる遅刻、あるいはラッシュを避けるための早出等、時刻的に若干の前後があっても就業との関連性があることはもちろんである。他方、運動部の練習に参加する等の目的で、例えば、

i) 午後の遅番の出勤者であるにもかかわらず、朝から住居を出る等、所定の就業開始時刻とかけ離れた時刻に会社に行く場合や

ii) 第2の就業場所にその所定の就業開始時刻と著しくかけ離れた時刻に出勤する場合

には、当該行為は、むしろ当該業務以外の目的のために行われるものと考えられるので、就業との関連性はないと認められる。

なお、日々雇用される労働者については、継続して同一の事業に就業しているような場合は、就業することが確実であり、その際の出勤は、就業との関連性が認められるし、また公共職業安定所等でその日の紹介を受けた後に、紹介先へ向う場合で、その事業で就業することが見込まれるときも、就業との関連性を認めることができる。しかし、公共職業安定所等でその日の紹介を受けるために住居から公共職業安定所等まで行く行為は、未だ就職できるかどうか確実でない段階であり、職業紹介を受けるための行為であって、就業のための出勤行為であるとはいえない。

(ロ) 退勤(労災保険法第7条第2項第1号の就業の場所から住居への移動をいう。)の場合であるが、この場合にも、終業後ただちに住居へ向う場合は就業に関するものであることについては、問題がない。このことは、日々雇用される労働者の場合でも同様である。

また、所定の就業時間終了前に早退をするような場合であっても、その日の業務を終了して帰るものと考えられるので、就業との関連性を認められる。

なお、通勤は1日について1回のみしか認められないものではないので、昼休み等就業の時間の間に相当の間隔があって帰宅するような場合には、昼休みについていえば、午前中の業務を終了して帰り、午後の業務に就くために出勤するものと考えられるので、その往復行為は就業との関連性を認められる。

また、業務の終了後、事業場施設内で、囲碁、麻雀、サークル活動、労働組合の会合に出席をした後に帰宅するような場合には、社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間となるような場合を除き、就業との関連性を認めても差し支えない。

(ハ) 労災保険法第7条第2項第3号の通勤における帰省先住居から赴任先住居への移動の場合であるが、実態等を踏まえ、業務に就く当日又は前日に行われた場合は、就業との関連性を認めて差し支えない。ただし、前々日以前に行われた場合は、交通機関の状況等の合理的理由があるときに限り、就業との関連性が認められる。

(ニ) 労災保険法第7条第2項第3号の住居間移動における赴任先住居から帰省先住居への移動の場合であるが、実態等を踏まえて、業務に従事した当日又はその翌日に行われた場合は、就業との関連性を認めて差し支えない。ただし、翌々日以後に行われた場合は、交通機関の状況等の合理的理由があるときに限り、就業との関連性が認められる。

3 「合理的な経路及び方法」の意義

「合理的な経路及び方法」とは、当該移動の場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいうものである。

① 経路については、乗車定期券に表示され、あるいは、会社に届け出ているような、鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等が合理的な経路となることはいうまでもない。また、タクシー等を利用する場合に、通常利用することが考えられる経路が二、三あるような場合には、その経路は、いずれも合理的な経路となる。また、経路の道路工事、デモ行進等当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸切の車庫を経由して通る経路等通勤のためにやむを得ずとることとなる経路は合理的な経路となる。さらに、他に子供を監護する者がいない共稼労働者が託児所、親せき等にあずけるためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然、就業のためにとらざるを得ない経路であるので、合理的な経路となるものと認められる。

逆に、上に述べたところから明らかなように、特段の合理的な理由もなく著しく遠まわりとなるような経路をとる場合には、これは合理的な経路とは認められないことはいうまでもない。また、経路は、手段とあわせて合理的なものであることを要し、鉄道線路、鉄橋、トンネル等を歩行して通る場合は、合理的な経路とはならない。

② 次に方法については、鉄道、バス等の公共交通機関を利用し、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法は、当該労働者が平常用いているか否かにかかわらず一般に合理的な方法と認められる。しかし、例えば、免許を一度も取得したことのないような者が自動車を運転する場合、自動車、自転車等を泥酔して運転するような場合には、合理的な方法と認められない。なお、飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、免許証更新忘れによる無免許運転の場合等は、必ずしも、合理性を欠くものとして取り扱う必要はないが、この場合において、諸般の事情を勘案し、給付の支給制限が行われることがあることは当然である。

4 「業務の性質を有するもの」の意義

「業務の性質を有するもの」とは、当該移動による災害が業務災害と解されるものをいう。

具体例としては、事業主の提供する専用交通機関を利用してする通勤、突発的事故等による緊急用務のため、休日又は休暇中に呼出しを受け予定外に緊急出勤する場合がこれにあたる。

5 「住居」の意義

① 労災保険法第7条第2項第1号の「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところを指すものである。

したがって、就業の必要性があって、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くに単身でアパートを借りたり、下宿をしてそこから通勤しているような場合は、そこが住居である。さらに通常は家族のいる所から出勤するが、別のアパート等を借りていて、早出や長時間の残業の場合には当該アパートに泊り、そこから通勤するような場合には、当該家族の住居とアパートの双方が住居と認められる。また、長時間の残業や、早出出勤及び平成13年2月1日付け基発第75号通達における新規赴任、転勤のため等の勤務上の事情や、交通ストライキ等交通事情、台風などの自然現象等の不可抗力的な事情により、一時的に通常の住居以外の場所に宿泊するような場合には、やむを得ない事情で就業のために一時的に居住の場所を移していると認められるので、当該場所を住居と認めて差し支えない。

逆に、友人宅で麻雀をし、翌朝そこから直接出勤する場合等は、就業の拠点となっているものではないので、住居とは認められない

なお、転任等のやむを得ない事情のために同居していた配偶者と別居して単身で生活する者や家庭生活の維持という観点から自宅を本人の生活の本拠地とみなし得る合理的な理由のある独身者にとっての家族の住む家屋については、当該家屋と就業の場所との間を往復する行為に反復・継続性が認められるときは住居と認めて差し支えない。

② 労災保険法第7条第2項第3号の通勤における赴任先住居とは、①の住居の考え方と同様に、労働者が日常生活の用に供している家族等の場所で本人の就業のための拠点となるところを指すものである。また、同号の通勤における帰省先住居についても、当該帰省先住居への移動に反復・継続性が認められることが必要である。さらに、労災保険法施行規則第7条第1号イにおける労働者又は配偶者の父母の居住している場所についても、反復・継続性が認められる場合は「住居」と認められる。

6 「就業の場所」の意義

「就業の場所」とは、業務を開始し、又は終了する場所をいう。

業務の意義については2の①について述べたところであるが、具体的な就業の場所には、本来の業務を行う場所のほか、物品を得意先に届けてその届け先から直接帰宅する場合の物品の届け先、全員参加で出勤扱いとなる会社主催の運動会の会場等がこれにあたることとなる。

なお、外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数カ所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所であり、最後の用務先が、業務終了の場所と認められる。

また、労災保険法第7条第2項第2号の通勤における第1の就業の場所についても、労災保険法の適用事業、通勤災害保護制度の対象となっている特別加入者に係る就業の場所及びこれらに類する就業の場所とする。「類する就業の場所」とは、具体的には、地方公務員災害補償法、国家公務員災害補償法又は船員保険法による通勤災害保護対象となる勤務場所又は就業の場所とする。

7 「逸脱」、「中断」及び「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のもの」の意義

① 「逸脱」とは、通勤の途中において就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、「中断」とは、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいう。具体的には、途中で麻雀を行う場合、映画館に入いる場合、バー、キャバレー等で飲酒する場合、デートのため長時間にわたってベンチで話しこんだり、経路からはずれる場合がこれに該当する。

しかし、経路の近くにある公衆便所を使用する場合、帰途に経路の近くにある公園で短時間休息する場合や、経路上の店でタバコ、雑誌等を購入する場合、駅構内でジュースの立飲みをする場合、経路上の店で渇をいやすため極く短時間、お茶、ビール等を飲む場合、経路上で商売している大道の手相見、人相見に立寄って極く短時間手相や人相をみてもらう場合等のように通常経路の途中で行うようなささいな行為を行う場合には、逸脱、中断に該当しない。ただし、飲み屋やビヤホール等において、長時間にわたって腰をおちつけるに至った場合や、経路からはずれ又は門戸を構えた観相家のところで、長時間にわたり、手相、人相等をみてもらう場合等は、逸脱、中断に該当する。

② 逸脱、中断の間及びその後の移動は原則として通勤とは認められないが、当該逸脱・中断が日用品の購入その他これに準ずる行為等をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、当該逸脱、中断の後、合理的な経路に復した後は通勤と認められることとされている。

なお、「やむを得ない事由により」とは、日常生活の必要のあることをいい、「最小限度のもの」とは、当該逸脱又は中断の原因となった行為の目的達成のために必要とする最小限度の時間、距離等をいう。

(イ) 「日用品の購入その他これに準ずる行為」とは、具体的には、帰途で惣菜等を購入する場合、独身者が食堂に食事に立ち寄る場合、クリーニング店に立ち寄る場合等がこれに該当する。

また、労災保険法第7条第2項第2号の通勤では、これらに加え、次の就業場所の始業時間との関係から食事に立ち寄る場合、図書館等における業務に必要な情報収集等を行う場合等も含み、同項第3号の通勤では、長距離を移動するために食事に立ち寄る場合やマイカー通勤のための仮眠を取る場合等も該当するものとする。

(ロ) 「これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為」とは、職業能力開発総合大学校における職業訓練及び専修学校における教育がこれに該当する。各種学校における教育については、就業期間が1年以上であって、課程の内容が一般的に職業に必要な技術、例えば、工業、医療、栄養士、調理師、理容師、美容師、保母教員、商業経理、和洋裁等に必要な技術を教授するもの(茶道、華道等の課程又は自動車教習所若しくはいわゆる予備校の課程はこれに該当しないものとして取り扱う。)は、これに該当するものとして取り扱うこととする。

(ハ) 「選挙権の行使その他これに準ずる行為」とは、具体的には、選挙権の行使、最高裁判所裁判官の国民審査権の行使、住民の直接請求権の行使等がこれに該当する。

(ニ) 「病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為」とは、病院又は診療所において通常の医療を受ける行為に限らず、人工透析など比較的長時間を要する医療を受けることも含んでいる。また、施術所において、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等の施術を受ける行為もこれに該当する。

(ホ) 「要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)」とは、例えば、定期的に、帰宅途中に一定時間父の介護を行うために父と同居している兄宅に立ち寄る場合等が該当する。

「介護」とは、歩行、排泄、食事等の日常生活に必要な便宜を供与するという意である。「継続的に又は反復して」とは、例えば毎日あるいは1週間に数回など労働者が日常的に介護を行う場合をいい、初めて介護を行った場合は、客観的にみてその後も継続的に又は反復して介護を行うことが予定されていればこれに該当する。

8 「転任」の意義

「転任」とは、企業の命を受け、就業する場所が変わることをいう。また、就業していた場所、つまり事業場自体の場所が移転した場合も該当することとする。

9 「距離等を考慮して困難」の意義

転任直前の住居と就業の場所との間の距離について、最も経済的かつ合理的と認められる通常の経路で判断するものとする。

具体的には、その経路について、徒歩による測定距離や鉄道事業法(昭和61年法律第92号)第13条に規定する鉄道運送事業者の調べに係る鉄道旅客貨物運賃算出表に掲げる距離等を組み合わせた距離が60キロメートル以上の場合又は、60キロメートル未満であっても、移動方法、移動時間、交通機関の状況等から判断して60キロメートル以上の場合に相当する程度に通勤が困難である場合とする。

10 「要介護状態」の意義

「常時介護を要する状態」とは、別表により判断する。

11 「類する事情」の例示

(イ) 労災保険法施行規則第7条第1号ホの事情とは、例えば以下のような事情とする。

・ 配偶者が、引き続き特定の医療機関において治療を受けざるを得ない子を養育すること。

・ 配偶者が、引き続き特定の医療機関において治療を受けざるを得ないこと。

・ 配偶者が、要介護状態にあり、引き続き当該転任の直前まで日常生活を営んでいた地域において介護を受けざるを得ないこと。

・ 配偶者が、学校等に在学し、又は職業訓練を受けていること。

(ロ) 労災保険法施行規則第7条第2号ハの事情とは、例えば以下のような事情とする。

・ 子が、引き続き特定の医療機関において治療を受けざるを得ないこと。

(ハ) 労災保険法施行規則第7条第3号ロの事情とは、例えば以下のような事情とする。

・ 労働者が同居介護していた要介護状態にある父母又は親族が、当該転任の直前まで日常生活を営んでいた地域の特定の医療機関において引き続き治療を受けざるを得ないこと。

(ニ) 労災保険法施行規則第7条第4号の労働者は、例えば以下のような労働者とする。

・ 第1号から第3号までのいずれかの転任後、さらに転任をし、最初の転任の直前の住居から直近の転任の直後の就業の場所に通勤することが困難な労働者。

・ 同条第1号から第3号までのいずれかの転任後、配偶者等が転任直前の住居から引っ越した場合において、同条第1号から第3号までにのいずれかのやむを得ない事情が引き続いており、引っ越し後の住居と転任直後の就業の場所との間を日々往復することが困難な労働者。

・ 当該転任の直前の住居から当該転任の直後の就業の場所へ通勤することが困難ではないが、職務の性質上、就業の場所に近接した場所に居住することが必要なため、住居を移転し、同条第1号から第3号までに掲げる者と別居することとなった労働者。

・ 労働者が配偶者等を一旦帯同して赴任したが、学校に入学する子を養育する等のやむを得ない事情により、配偶者等が再び転任直前の住居に居住することとなり別居するに至った労働者。

別表

常時介護を必要とする状態に関する判断基準

「常時介護を必要とする状態」とは、次のいずれかに該当するものとする。

1 日常生活動作事項(第1表の事項欄の歩行、排泄、食事、入浴及び着脱衣の5項目をいう。)のうち、全部介助が1項目以上及び一部介助が2項目以上あり、かつその状態が継続すると認められること。

2 問題行動(第2表の行動欄の攻撃行為、自傷行為、火の扱い、徘徊、不穏興奮、不潔行為及び失禁の7項目をいう。)のうちいずれか1項目以上が重度又は中度に該当し、かつ、その状態が継続すると認められること。

<第1表>

事項

態様

1 自分で可

2 一部介助

3 全部介助

イ 歩行

杖等を使用し、かつ、時間がかかっても自分で歩ける

付添いが手や肩を貸せば歩ける

歩行不可能

ロ 排泄

・自分で昼夜とも便所でできる

・自分で昼は便所、夜は簡易便器を使ってできる

・介助があれば簡易便器でできる

・夜間はおむつを使用している

常時おむつを使用している

ハ 食事

スプーン等を使用すれば自分で食事ができる

スプーン等を使用し、一部介助すれば食事ができる

臥床のままで食べさせなければ食事ができない

ニ 入浴

自分で入浴でき、洗える

・自分で入浴できるが、洗うときだけ介助を要する

・浴槽の出入りに介助を要する

・自分でできないので、全て介助しなければならない

・特殊浴槽を使っている

・清拭を行っている

ホ 着脱衣

自分で着脱できる

手を貸せば、着脱できる

自分でできないので全て介助しなければならない

<第2表>

行動

程度

重度

中度

軽度

イ 攻撃的行為

人に暴力をふるう

乱暴なふるまいを行う

攻撃的な言動を吐く

ロ 自傷行為

自殺を図る

自分の体を傷つける

自分の衣服を裂く、破く

ハ 火の扱い

火を常にもてあそぶ

火の不始末が時々ある

火の不始末をすることがある

ニ 徘徊

屋外をあてもなく歩きまわる

家中をあてもなく歩きまわる

時々部屋内でうろうろする

ホ 不穏興奮

いつも興奮している

しばしば興奮し騒ぎたてる

ときには興奮し騒ぎたてる

ヘ 不潔行為

糞尿をもてあそぶ

場所を構わず放尿、排便をする

衣服等を汚す

ト 失禁

常に失禁する

時々失禁する

誘導すれば自分でトイレに行く