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○労働者災害補償保険法の一部を改正する法律第三条の規定の施行について

(昭和四一年一月三一日)

(基発第七三号)

(都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)

労働者災害補償保険法の一部を改正する法律(昭和四〇年法律第一三〇号。以下「改正法」という。)第三条の規定、労働者災害補償保険法施行令の一部を改正する政令(昭和四一年政令第八号。以下「改正政令」という。)及び労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令(昭和四一年労働省令第二号。以下「改正省令」という。)は、昭和四一年二月一日から施行され、これによつて同法による改正は完結するのであるが、この第三次改正こそ今次法改正の主体をなすものであるので、左記に留意のうえ、その施行事務に万全を期せられたい。

第一 第三次改正の趣旨

第三次改正は、昭和三五年の法改正以来予定されていた保険給付の年金化を実施するものであるが、これによつて労災保険の給付内容を一新し、一定額をもつて補償を打ち切る一時金中心の給付体系から「補償を必要とする期間、必要な補償を行なう」給付体系へ、根本的な給付改善が達成され、制度発足以来の画期的な制度改革が実現されることとなつた。

もとより、労災保険制度の改革は、これをもつて完成されるものではなく、さらに、予定されている全面適用の実現によつて、労災補償制度としての一元的補償体制を確立することを今後の基本的課題としており、また、保険給付についても今後検討すべき課題が残されていることにかんがみ、第三次改正の施行事務の処理にあたつては、今次法改正の趣旨に十分留意して遺憾のないようにされたい。

第二 保険給付に関する一般的事項

一 保険給付の種類及び支給事由

(一) 保険給付の種類については、名称が一新されたほか、旧法の長期傷病者補償の仕組みが改められた(法第一二条第一項)。旧法の長期傷病者補償は、かつての打切補償費に代わるものとして、傷病、障害、遺族及び葬祭の各給付を包含し、かつ、遺族給付の額に逓減制が設けられていた。新法の長期傷病補償給付についてはこのような打切補償費に由来する内容が根本的に改められた。

(二) 保険給付(長期傷病補償給付を除く。)の事由については、労働基準法上の災害補償の事由と同一である点において従来と変わりないが、これに関する規定が整備されるとともに、保険給付(長期傷病補償給付を除く。)が受給権者の請求に基づいて行なわれるものであることが明確になつた(法第一二条第二項)。

長期傷病補償給付については、その内容は療養補償給付及び休業補償給付を実質的に引き継ぐものといつてよいが、その年金部分は、わが国の公的年金給付の体系との関連では障害年金又は廃疾年金に相当する(法別表第一、施行令第三条〔現行令本則。以下同じ〕)ものであるので、単に療養開始後三年を経過しても傷病がなおらないだけでなく、傷病がなおらないため長期間にわたり労働不能の状態が継続するものと認められることを要するものとして、「政府が必要と認める場合に」その決定を行なうべきものであることが明確にされた(法第一二条第三項)。

なお、長期傷病補償給付を受ける者に対しても、障害補償給付、遺族補償給付及び葬祭料の支給事由が生じた場合には、当該保険給付を行ない、また、長期傷病補償給付を行なう必要がなくなつた場合には、その給付の決定を取り消し得ることはもちろんであつて、その後においては必要に応じて療養補償給付及び休業補償給付を行なうこととなる。

二 年金たる保険給付の支給期間及び支払期月

年金たる保険給付は、支給事由が生じた月の翌月から当該事由が消滅した月まで支給され、支給期間が月単位となつた(法第一二条の三第一項)。したがつて、新法の年金たる保険給付は、昭和四一年三月分から支給されることとなる。

なお、改正法施行の際現に旧法の第一種障害補償費若しくは第一種障害給付又は傷病給付を受けることができる者については、改正法施行の際新法の障害補償年金の支給事由又は長期傷病補償給付の給付事由が生じている(改正法附則第一五条第一項)のであるから、昭和四一年二月分からこれらの年金たる保険給付を支給すべきものである。

(一) 年金たる保険給付の支給停止(支分権たる支払請求権の停止)についても、その期間は、支給停止事由の生じた月の翌月から支給停止事由の消滅した月までである(法第一二条の三第二項)。

(二) 年金たる保険給付は、毎年二月、五月、八月、一一月の支払期月に、それぞれ、一一~一月分、二~四月分、五月~七月分、八~一〇月分(一カ月分は年金額の一二分の一)が支払われる。しかし、受給権が中途で消滅したときは、支払期月でなくても支払うものとされている(法第一二条の三第三項)。なお、長期傷病補償給付たる年金の支払期月については特例がある(改正法附則第四〇条、改正省令附則第六項、後記第三、八、(四)、ハ参照)。

(三) 年金たる保険給付の支払については、支払期月の五日までに到達することを目途に、前月までの分について支払通知書を受給者に送付されたい(別途通達参照)。

三 死亡の推定

法第一二条の四の死亡の推定の規定は、旧法第一五条の二の規定が改められたものであるが、規定する内容は何ら変りがない。なお、旧法の規定では、船舶等に乗り組んでいた労働者について定めていたが、死亡の推定は、労働者が船舶等の乗組員であると乗客であるとを問わないから、新法の規定では船舶等に乗つていた労働者はすべて推定の対象となることが明確にされた。

四 未支給の保険給付

(一) 保険給付の受給権者が死亡した場合において、その者に支給すべき保険給付でまだ支給しなかつたものがあるときは、従来は、遺族補償費及び遺族給付について特則(旧規則第一六条第七項)があるほか、すべて受給権者の相続人に支給することとしていたが、年金たる保険給付については、受給権者が死亡した場合に必ず未支給分が生ずるので、保険給付の大幅年金化を機会に、未支給の保険給付(以下「未支給給付」という。)については、その受給権を承継するにふさわしい者として、受給権者と生計を同じくしていた遺族(未支給分の遺族補償年金については、同順位の受給権者があるときは同順位の受給権者、同順位の受給権者がないときは次順位の受給権者)を請求権者としたものである(法第一二条の五)。

(二) 未支給給付に関する規定は、その限りで相続に関する民法の規定を排除するものであるが、未支給給付の請求権者がない場合には、保険給付の本来の死亡した受給権者の相続人がその未支給給付の請求権者となる。また、未支給給付の請求権者が、その未支給給付を受けないうちに死亡した場合には、その死亡した未支給給付の請求権者の相続人が請求権者となる。

(三) 「未支給の保険給付」とは、支給事由(法第一二条第二項及び第三項)が生じた保険給付であつて、請求されていないもの(法第一二条の五第二項)並びに請求はあつたがまだ支給決定がないもの及び支給決定はあつたがまだ支払われていないもの(法第一二条の五第一項)をいう。

(四) 未支給給付の請求権者の範囲は、死亡した受給権者の配偶者(婚姻の届出はしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。以下同じ。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であつて、受給権者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものであるが、未支給の遺族補償年金については、死亡した労働者の遺族たる配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であつて次順位の受給権者となるもの(法第一六条の二第一項及び第二項、改正法附則第四三条第一項)であり、死亡した受給権者の配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹ではない。

(五) 「生計を同じくする」とは、一個の生計順位の構成員であるということであるから、生計を維持されていることを要せず、また、必ずしも同居していることを要しないが、生計を維持されている場合には、生計を同じくしているものと推定して差し支えない。

(六) 未支給給付の請求権者の順位は、死亡した受給権者の配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹の順序による。ただし、遺族補償年金の未支給給付にあつては、遺族補償年金を受けるべき順序による(法第一二条の五第三項、改正法第四三条第二項、則第一〇条第一項)。

(七) 未支給給付については、手続を簡素化するため、同順位者が二人以上ある場合について、特別の規定(法第一二条の五第四項)が設けられているので、請求人の一人に全額を支給すればよいこととなる。ただし、二人以上が同時に請求した場合に、請求人の人数で等分して各人に支給することを排除する趣旨のものではない。

(八) 未支給給付に関する手続

イ 死亡した受給権者がすでに請求していた保険給付の未支給分(未決定給付及び未支給付)の請求については、未支給給付の請求書及び未支給給付の請求人たることについての証明資料を所轄署長に提出しなければならない(則第一〇条第二項及び第三項)。

ロ 死亡した受給権者が未だ請求していなかつた保険給付の請求については、前記イの手続とあわせて、死亡した受給権者が提出すべきであつた請求書及び添付資料を所轄署長に提出しなければならない(則第一〇条第四項)。

ハ 未支給給付の請求人が、請求人自身を受給権者とする遺族補償給付又は葬祭料の支給を同時に請求する場合には、未支給給付の請求書の添付書類のうち前者の請求書の添付書類と重複するものがあれば、省略して差し支えない(則第一〇条第五項)。

ニ 未支給給付についてその支給を決定したときは、遅滞なく文書で、その旨を請求人に通知することとなる(則第一九条)。

五 年金たる保険給付の内払

年金たる保険給付については、支給停止又は減額改定の事由が生じた場合における支給事務の円滑を図るため、支給停止すべき分又は減額すべき分の金額が支払われた場合には、支給の取消しを行なうことなく、その後に支払われるべき金額が内払されたものとみなすことができることとなつた(法第一二条の六)。したがつて後に支払われるべき金額については、内払相当額をこえるときは、その超過額のみを支払い、内払相当額に満たないときは、内払相当額に達するまで支払わないこととする。

なお、内払とみなされる金額は、支給停止(受給権者の所在不明の場合、改正法附則第四二条の遺族一時金が支給された場合)及び減額改定(障害の程度の減退遺族補償年金の算定の基礎となる遺族の数の減少、厚生年金保険等の年金給付が支給される場合の減額等の場合)に係るものに限られ、単なる計算違い等による過払分は含まれない。

六 年金たる保険給付を受ける権利の構成

旧規則においては、年金たる保険給付を受ける権利について、給付決定により基本権を確定し、支給決定により支分権を確定すべきものと構成されていたが、今次法改正に伴いこれが整備され、基本権(支給を受ける権利)は支給又は給付決定によつて確定し、支分権(支払を受ける権利)は特別の決定処分をまたずに支払期月ごとに法律上当然に生ずるものとされている。したがつて、支払期月が到来したときは、政府(所轄署長)は、当然に生ずる支払義務の履行のため支払通知を発することとし(別途通達)、受給権者の請求を要しないこととなつた。これは、年金受給権の実体的変更が図られたものではなく、手続的構成を改めて簡素化が図られたものである。

なお、障害の程度の変更、遺族補償年金の額の算定の基礎となる遺族の増減、支給額のスライドによる変更、給付基礎日額の変更等がある場合には、年金額の改定(支給決定の変更処分)を行なつて基本権の内容を変更し、その旨を受給権者に通知しなければならない(則第一九条)。

七 保険給付の請求人

保険給付の請求人は、当該保険給付の受給権者であることはいうまでもないが、事業主には助力義務(則第二三条)があり、事業主、家族等が使用者等として、事実としての請求行為を行なうことがありうるのは当然であつて、未支給給付については特別の規定が設けられたことでもあるので、労働者以外の者が請求人となる場合についての旧規則の規定(旧規則第九条第一項第二号、第一三条第一項第二号、第一四条第一項第二号等)は廃止した。もとより、これに関する取扱いを改める趣旨でないので、従来どおり処理して差し支えない。

八 保険給付に関する処分の通知

旧規則においては、障害補償費の変更に関する決定及び長期傷病者補償の給付決定以外は、すべて請求人の請求書の提出があつた場合にのみ、保険給付に関する処分の通知をするものとされていたが、新規則においては、すべての保険給付に対する所轄署長の処分について、受給権者、受給権者であつた者等にその内容を通知すべきものとすることに改められた(則第一九条、別紙様式)。

第三 保険給付の内容及び手続

一 療養補償給付

(一) 旧法の療養補償費は、療養の費用に対する補償を原則としていたが、新法の療養補償給付では療養の給付を原則とし、療養の給付を行なうことが困難な場合又は療養の給付を受けないことにつき労働者に相当の理由がある場合に療養の費用を支給することとしている(法第一三条、則第一二条)。

療養の給付を行なうことが困難な場合とは、当該地区に指定病院等(則第一一条の二の「指定病院等」をいう。以下同じ。)がない場合とか、特殊な医療技術又は診療施設を必要とする傷病の場合に最寄りの指定病院等にこれらの技術又は施設の整備がなされていない場合等政府側の事情において療養の給付を行なうことが困難な場合をいう。これに対し、療養の給付を受けないことにつき相当の理由がある場合とは、労働者側に療養の費用によることを便宜とする事情がある場合、すなわち、当該傷病が指定病院等以外の病院、診療所等で緊急な療養を必要とする場合とか、最寄りの病院、診療所等が指定病院等でない等の事情がある場合をいう。

新法において、療養の給付を原則としたのは、業務上の傷病を回復するための給付を指定病院において直接に行なうことによつて補償の実効と適正を期そうとしたものであるが、療養の費用の支給を強いて制限する趣旨のものではないので、上に述べた原則の適用については、被災者の便に支障を生ずることのないよう配意する必要がある。

(二) 療養の給付については、従来は指定病院等を変更する場合にはその都度請求書を提出させて療養の給付の決定を行なうこととされていたが、これについては、最初の請求について給付の決定を行なえば、指定病院等の変更の場合にあらためて請求書を提出させる必要がないので、単にその者の届書(告示様式第六号)の提出をもつて足りることとなつた。(則第一一条の二)。

療養の費用の請求にあたつての看護又は移送に要した費用については、これを一般的に診療担当者(則第一二条の二第二項の「診療担当者」をいう。以下同じ。)に証明させることは適当でないので、診療担当者の一般的証明事項から除外させることが明確にされた。もちろん、これらの費用について、診療担当者の証明を排除する趣旨ではない。

二 休業補償給付

休業補償給付については、名称が改められたほか、その内容は従来の休業補償費と全く同様であり、これに関する手続も若干の整備がなされたほか、従来と同様である。

三 障害補償給付

(一) 今次法改正における給付改善の中心をなすものは、遺族補償の年金化とともに障害補償の年金給付の範囲の拡大である。昭和三五年の法改正では、障害等級の第一級から第三級まで、つまり労働能力の永久的全部喪失について障害補償が年金化されたが、今次法改正では、障害等級第七級まで、つまり労働能力の永久的過半喪失について障害補償が年金化され、障害補償年金となつた(法第一五条、別表第一)。これは厚生年金保険の障害年金等の給付対象と一致する(例えば厚生年金保険法別表第一)。新たに年金化された障害等級第四級から第七級までの年金額は、障害等級第一級から第三級までの場合と同様に、旧法における一時金の六年分割支給における一年分の額に相当する。

障害等級第八級から第一四級までについては、従来と同額の一時金として障害補償一時金が支給される(法第一五条、別表第二)。

新法の障害補償年金と障害補償一時金は、療養補償給付を受けていた者のみならず、長期傷病補償給付を受けていた者に対しても支給される。

(二) 障害等級

イ 障害等級表については、障害補償の年金化に伴い、厚生年金保険の障害年金の対象となる廃疾の範囲との均衡を図る必要が生じたことを機会に、従来から問題のあつた部分について必要最少限度の手直しが行なわれた。

すなわち、旧規則の障害等級第八級中第三号の「神経系統の機能に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」が障害等級第七級に引き上げられるとともに、第八級の第九号及び第一〇号の障害に該当した障害のうち「一上肢に仮関節を残し、著しい運動障害を残すもの」及び「一下肢に仮関節を残し、著しい運動障害を残すもの」が新たに障害等級第七級とされた(則別表第一〔現行則別表〕の障害等級第七級第四号、第九号、第一〇号)。

神経障害の認定は、従前と同様であるが、仮関節による障害の認定は次によることとする。

障害等級第七級の「一上肢に仮関節を残し、著しい運動障害を残すもの」とは、

(イ) 上腕骨に仮関節を残すもの、又は

(ロ) 撓骨及び尺骨の双方に仮関節を残すもの、

とする。

障害等級第七級の「一下肢に仮関節を残し、著しい運動障害を残すもの」も、

(イ) 大腿骨に仮関節を残すもの、又は

(ロ) 脛骨及び腓骨の双方に仮関節を残すもの、とする。

したがつて、障害等級第八級の「一上肢に仮関節を残すもの」又は「一下肢に仮関節を残すもの」とは、撓骨若しくは尺骨のいずれか一方又は脛骨若しくは腓骨のいずれか一方に仮関節を残すものに限られることとなる。

ロ 障害の程度の変更

障害補償年金の支給事由となつている障害の程度が新たな傷病によらず、又は傷病の再発によらず、自然的に変更した場合には職権又は請求によりその変更が障害等級第一級から第七級の範囲内であるときは、その変更のあつた月の翌月の分から障害補償年金の額を改定し、その変更が障害等級第八級以下に及ぶときは、障害補償年金の受給権が消滅するので、その月分をもつて障害補償年金の支給を打ち切り、障害補償一時金を支給する(法第一五条の二)。

ハ 障害等級の併合

同一の業務上の傷病により、系列を異にする二以上の障害が残つた場合における障害等級の併合方法は従来と同様であるが(則第一四条第二項及び第三号)、障害等級第一級から第七級までについては障害補償年金が支給されることになつたことに伴い、併合繰上げされた障害等級に応ずる障害補償給付の額を各障害についての障害補償給付の合算額に止める範囲は、併合繰上げされた障害等級が第八級以下である場合に限られることとなつた(則第一四条第三項ただし書)。なお、これに該当する例は、第九級(三五〇日分)と第一三級(九〇日分)とが併合繰上げされる場合(第八級となるが四四〇日分に止められる。)だけである。

ニ 障害の加重

既存障害が業務上の傷病(再発した傷病を含む。)により同一部位について加重した場合の処理は、従来と同様であるが、既存障害についての障害補償給付が障害補償一時金であり、加重後の障害についての障害補償給付が障害補償年金である場合には、受給者の平均受給期間を考慮して、前者の額の二五分の一相当額を後者の額から減ずることに改められた(則第一四条第五項)。この場合における減額の計算は、給付基礎日額に乗ずべき新法別表第一及び第二下欄の日数によつて行なうこととする。

(三) 請求手続

障害補償給付の支給の請求(支給決定の請求)の手続は、旧法の障害補償費の給付決定の請求の手続とおおむね同様である(則第一四条の二、告示様式第一〇号)が、障害補償年金の支給が決定された場合でも、従来と異なり、あらためて毎期の支払分について請求を行なう必要はない。

(四) 支給手続

障害補償給付について、障害補償年金の支給を決定したときは、当該支給決定通知書(別紙様式)及び年金証書(告示様式第一七号)を請求人に送付し(則第一九条、第二〇条)障害補償一時金の支給を決定したときは、当該支給決定書を請求人に送付する(則第一九条)。障害補償年金については、その支払期月(二月、五月、八月、一一月)が到来したときは、支払通知書を受給権者に送付する。なお、障害補償年金の支給決定にあたつては、従来のような所轄局長への禀伺は必要がない。

支払通知書を受けた受給権者は、その通知書及び年金証書を提示して支払を受けることとなる。

(五) 障害補償給付の変更手続

障害補償年金の受給権者の障害の程度の変更に伴う障害補償給付の変更(法第一五条の二)の手続は、おおむね従来と同様であるが、障害等級第一級から第七級までの範囲において障害の程度が変更した場合には新たな障害補償年金の支給を決定し、障害等級第八級以下に障害の程度が変更した場合には、新たに障害補償一時金の支給を決定して、それぞれ所要の支給決定通知を行なわなければならない(則第一四条の三、第一九条、別紙様式)。なお、新たに支給されることとなる障害補償一時金については、従来のような請求手続(旧規則第一四条の六第二項)を要しないこととなつた。

四 遺族補償年金

遺族補償の年金化は、今次法改正による保険給付の年金化の中心をなすものであるが、遺族補償給付が年金を主体とすることにかんがみ、遺族補償給付を受けることができる者(受給資格者)を遺族に限定し、遺族以外の被扶養者は受給資格者とならないこととなつた。労働基準法による遺族補償についても同様である(同法第七八条)。遺族補償年金の額は、ほぼ従来の遺族補償費の六年分割支給における一年分の額を限度とし、ILO条約第一〇二号の定める基準を考慮して、定められ、また、従来の遺族補償費との関連を考慮し、調整的給付として遺族補償年金の平均額の約三年分に相当する遺族補償一時金が設けられた。さらに、労働者の死亡直後における遺族の一時的出費の便宜のため、遺族補償年金の一括前払の制度も設けられている。

(一) 「受給資格者」

遺族の範囲は、死亡労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であるが、遺族補償年金を受けることができる遺族(受給資格者)となる要件は、次のイ及びロ又はイ及びハである(法第一六条の二第一項、改正法附則第四三条第一項)。

イ 労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していたこと(前記第二の四(五)参照)。

ロ 労働者の死亡の当時、夫、父母及び祖父母については五五歳以上、子及び孫にあつては一八歳未満、兄弟姉妹にあつては一八歳未満又は五五歳以上であること(妻については年齢を問わない)。

ハ 上記ロに該当しない夫、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹については、労働者の死亡の当時廃疾の状態にあること。

「子」には、労働者の死亡の当時胎児であつた子が含まれ、出生のとき以降、受給資格者となる(法第一六条の二第二項)。非嫡出子については、認知があつたことを要する。

「労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していた」ことについては、次の点に留意されたい。

イ 死亡の当時には、負傷又は発病後死亡までに相当期間が経過していても、その労働者が業務災害を被らなかつたならば、その死亡の当時においても、その収入で生計を維持していたであろう場合を含むが、死亡の当時労働者を遺棄しているような場合は、含まれない。

ロ 労働者の収入には、賃金収入はもちろん、休業補償給付その他各種保険の現金給付その他一切の収入が含まれる。

ハ もつぱら又は主として労働者の収入によつて生計を維持されていることを要せず、労働者の収入によつて生計の一部を維持されていれば足りる。したがつて、いわゆる共稼ぎもこれに含まれる。

「労働者の死亡の当時廃疾の状態にある」とは、労働者の死亡の時から引き続き現に障害等級第五級以上の身体障害がある状態又は傷病がなおらないで労働が高度の制限を受けるか、若しくは労働に高度の制限を加える必要がある程度以上の身体障害がある状態(少なくとも厚生年金保険の障害等級第二級程度以上の廃疾の状態に相当する状態)にあることをいう(則第一五条)。労働の高度の制限とは、完全な労働不能で長期間にわたる高度の安静と常時の監視又は介護を要するものよりも軽いが、労働の著しい制限よりは重く、長期間にわたり中等度の安静を要することをいう。なお、この廃疾の状態は、厚生年金保険の遺族年金を受けることができる廃疾の状態と同様である。

(二) 受給権者

遺族補償年金を受ける権利を有する遺族(受給権者)は、受給資格者のうち次の順序による最先順位者であり、同順位者が二人以上あるときは、全員がそれぞれ受給権者となる(法第一六条の二第三項、改正法附則第四三条第二項)。ただし、トからヌまでの者は、受給権者となつても、六〇歳に達するまで、支給が停止される(改正法附則第四三条第三項)。

イ 妻又は六〇歳以上若しくは廃疾の夫

ロ 一八歳未満又は廃疾の子

ハ 六〇歳以上又は廃疾の父母

ニ 一八歳未満又は廃疾の孫

ホ 六〇歳以上又は廃疾の祖父母

ヘ 一八歳未満若しくは六〇歳以上又は廃疾の兄弟姉妹

ト 五五歳以上六〇歳未満の夫

チ 五五歳以上六〇歳未満の父母

リ 五五歳以上六〇歳未満の祖父母

ヌ 五五歳以上六〇歳未満の兄弟姉妹

(三) 年金額の算定

遺族補償年金の額は、給付基礎年額(給付基礎日額の三六五倍)の三〇%以上五〇%以下であり、同順位者が二人以上あるときは、これを等分した額が各受給権者についての支給額とする(新法第一六条の三第一項及び第二項、別表第一第三号)。

具体的な額は、次の基本額と加算額とを合計した額である。

イ 基本額 給付基礎年額の二五%

ロ 加算額 給付基礎年額の五%に加算対象者(受給権者及び受給権者と生計を同じくしている受給資格者)の数を乗じて得た額(二五%を最高限度とする。)

加算対象者には、受給権者(同順位者が二人以上あるときは各受給権者)自身も含まれるが、所在不明により支給を停止された受給権者、その者と生計を同じくしていた受給資格者、所在不明となり受給権者と生計を同じくしなくなつた受給資格者は含まれず、また五五歳以上六〇歳未満であつて廃疾の状態にない夫、父母、祖父母及び兄弟姉妹は、受給資格者であつても六〇歳に達するまで加算対象者とならない(改正法附則第四三条第一項後段)。

同順位の受給権者が二人以上あるときは、各受給権者に支給される年金額は、各受給権者に係る加算対象者の有無及び数の多少に関係なく、受給権者の数で等分した額となる(法第一六条の三第二項)。

(四) 年金額の改定

遺族補償年金の額は、スライド等によるほか、加算対象者の数の増減に応じ、その増減のあつた月の翌月分から改定する(法第一六条の三第三項)。

(五) 受給権の消滅(失権)

遺族補償年金の受給権は、受給権者が次のいずれかに該当した場合には、その者について消滅する。その場合において同順位者がなくて後順位者があるときは、次順位者が受給権者となり、遺族補償年金の支給を受けることとなる(転給)(法第一六条の四第一項、改正法附則第四三条第一項及び第二項)。すなわち、遺族補償年金の受給権(基本権)は、先順位者から後順位者へ承継される性質をもつた権利である。したがつて、転給の決定は、すでに支給決定をした遺族補償年金の基本権について、その承継者を確定する処分としての性質をもつ。

イ 死亡したとき。

ロ 婚姻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)をしたとき。すなわち被扶養利益の喪失状態が解消したとみなされるからである。

ハ 直系血族又は直系姻族以外の者の養子(届出をしていないが事実上養子縁組関係と同様な事情にある者を含む。)となつたとき。すなわち、受給権者が自己又は自己の配偶者の父母、祖父母等でない者、例えば自己のおじ、おば(傍系の親族)その他の者の養子となつたときである。この場合も、被扶養利益の喪失状態が解消したとみなされるわけである。なお、事実上の養子縁組関係とは、主として未成年の受給権者が傍系尊族その他の者によつて扶養される状態があり、かつ、扶養者との間に養親又は養子と認められる事実関係を成立させようとする合意がある場合を想定したものであるが、これを受給資格要件として認めないのは、親族関係のない扶養者を新法において排除したことによるものである。

ニ 離縁(養子縁組関係の解消)によつて、死亡労働者との親族関係が終了したとき。すなわち、受給権者が子である場合には死亡労働者の養子でなくなつたとき、父母である場合には死亡労働者の養父母でなくなつたとき、孫であるときは死亡労働者の子の養子でなくなつたとき、祖父母である場合には死亡労働者の父母の養父母でなくなつたとき、兄弟姉妹である場合には死亡労働者の父母の養子でなくなつたときである。

ホ 子、孫又は兄弟姉妹については、一八歳に達したとき(労働者の死亡の時から引き続き則第一五条の廃疾の状態にあるときを除く。)

ヘ 則第一五条の廃疾の状態にある夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、その事情がなくなつたとき(夫、父母又は祖父母については労働者の死亡の当時五五歳以上であるとき、子又は孫については一八歳未満であるとき、兄弟姉妹については一八歳未満であるか又は労働者の死亡の当時五五歳以上であるときを除く。ただし、五五歳以上六〇歳未満の夫、父母、祖父母又は兄弟姉妹については、六〇歳に達するまで、支給が停止される。)。

(六) 受給資格の喪失(失格)

遺族補償年金の受給資格は、受給資格者が前記(五)イからヘまでに該当したときは失われる(法第一六条の四第二項)。なお、前記(五)への場合において、五五歳以上六〇歳未満の夫、父母、祖父母又は兄弟姉妹は、六〇歳に達するまで遺族補償年金の額の加算対象者でもなくなる。

(七) 胎児出産の場合

胎児であつた子が出生して最先順位者となつた場合において、その次順位者が受給権者であつたときは、その者は受給権を失い(失権)、胎児であつた子が受給権者となる(転給)。もとより、胎児であつた子は「将来に向かつて」(法第一六条の二第二項)受給権者となるのであるから、そのときまでにおける次順位者の受給権は影響を受けない。

(八) 所在不明の場合

受給権者の所在が不明であるときは、その者について財産管理人が置かれない限り、当該保険給付については支払を差し止めることとするが、遺族補償年金については、その受給権者の所在が一年以上不明である場合には、同順位者があるときは同順位者の申請により、同順位者がなくて後順位者があるときは次順位者の申請により、所在不明の間(所在不明となつたときにさかのぼり、その月の翌月分から)その支給を停止する。支払差止めは、受給権者が所在不明であるかぎり職権で行なうことができるが、支給停止は、申請がない限り行なうことができない。支給停止をした場合には、受給権者が所在不明となつた時にさかのぼつて、他の同順位者のみが受給者となるか、又は次順位者が最先順位者となつて受給権者となる(法第一六条の五第一項及び第二項、第一二条の三第二項)。

所在不明によつて支給停止をした場合において、同順位者があるときは、同順位者に支給する遺族補償年金の額は、所在不明者及びその者とのみ生計を同じくしていた受給資格者に係る加算額分を減額して改定することとなる(基本額は、所在不明者を除いた同順位の受給権者間で等分することとなる。)同順位者がなくて次順位者に支給される遺族補償年金の額は、受給権者となつた次順位者の人数に応じて再計算することとなる。

支給停止を受けた所在不明者は、いつでも支給停止の解除を申請することができる(法第一六条の五第二項)から、その者の所在が明らかとなつても、申請がない限り、支給停止を解除する必要はなく、また、支給停止を解除したときは、その解除の月の翌月分から支給を再開すればよく、所在が明らかとなつたときにさかのぼることを要しない。

受給権者以外の加算対象者が、所在不明となつたときは、所在不明の間は受給権者と生計を同じくしているとはいえないので所在不明となつた月の翌月分から、その者に係る加算額分を減額して年金額を改定すべきこととなる。

(九) 一括前払の暫定措置

イ 遺族補償年金の一括前払としての一時金は昭和四一年二月一日から昭和四六年一月三一日までの間に業務上労働者が死亡した場合における暫定措置として、請求に基づき遺族補償年金の受給権者に支給され、その額は、給付基礎日額の四〇〇日分である(改定法附則第四二条第一項)。

ロ 一時金の請求は、遺族補償年金の受給権者が、年金の請求と同時に行なわなければならない(改正法附則第四二条第二項)。年金の受給権者が二人以上である場合には、それらの者の全員が請求をした場合にのみ、それらの者全員に対して、一個の一時金として給付基礎日額の四〇〇日分相当額を支給することとする。一時金の請求をすることができる年金の受給権者は、労働者の死亡の際に年金の受給権者となつた者に限られ、その後に年金の転給によつて受給権者となつた者は、一時金を請求することができない。一時金の支給を受ける権利は、年金の受給権者が、年金の受給権者となつた時(労働者の死亡の時)から二年を経過したときは、時効によつて消滅する(改正法附則第四二条第四項)。

ハ 一時金が支給された場合には、年金の受給権者全員(後順位者を含む。)に対して各月に支給されるべき額に年利五分の利息分を考慮して別表右欄の率を乗じて得た額の合計額が給付基礎日額の四〇〇日分に達するまでの間、年金の支給が停止される。その場合、各月に支給されるべき年金の額は、厚生年金保険等との調整が行なわれるときは調整後の額により、年金額の算定の基礎となる遺族の増減、スライド等があるときは、改定額によることは、いうまでもない。

年金の受給権者が二人以上ある場合には、それらの者の全員について一律に同期間、年金の支給が停止されることはいうまでもない。一時金の支給を受けた年金の受給権者が失権したため、次順位者が年金の受給権者となつた場合において、未だ支給停止期間が満了していないときは、さらに、新たに年金の受給権者となつた者について年金の支給停止が継続される。

ニ 一時金は、遺族補償年金とみなされる(改正法附則第四二条第五項)から、年金の受給権者が一時金の請求をして受給前に死亡し、又は請求をしないで死亡した場合には、その次順位の受給権者(同順位の受給権者があるときは、その者)に限つて、法第一二条の五の規定により、未支給給付としての一時金を請求することができる。

五 遺族補償一時金

(一) 遺族補償一時金を支給すべき場合は、次の二つの場合である。

イ 労働者の死亡の当時、遺族補償年金の受給資格者がないとき(法第一六条の六第一号)。

ロ 最後順位の遺族補償年金の受給権者が失権した場合において当該年金の受給権者であつた者全員に支給された年金の額の合計額が給付基礎日額の四〇〇日分に達しないとき(法第一六条の六第二号)。

(二) 受給権者

遺族補償一時金の受給権者は、次に掲げる順序による最先順位者であり、同順位者が二人以上あるときは、全員がそれぞれ受給権者となる(法第一六条の七第二項)。

なお、死亡した労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹の身分は、労働者の死亡の当時の身分による。

イ 前記(一)のイの場合

(イ) 労働者の死亡の当時生計維持関係になかつた配偶者又は労働者の死亡の当時生計維持関係にあり、五五歳未満であつて、廃疾状態になかつた夫

(ロ) 労働者の死亡の当時生計維持関係にあつた次の者で廃疾状態になかつた者

a 一八歳以上の子

b 五五歳未満の父母

c 一八歳以上の孫

d 五五歳未満の祖父母

(ハ) 労働者の死亡の当時生計維持関係にはなかつた次の者

a 子

b 父母

c 孫

d 祖父母

(ニ) 労働者の死亡の当時生計維持関係にあり、一八歳以上五五歳未満であつて、廃疾状態になかつた兄弟姉妹及び労働者の死亡の当時生計維持関係になかつた兄弟姉妹

ロ 前記(一)のロの場合

(イ) 配偶者

(ロ) 労働者の死亡の当時生計維持関係にあつた次の者

a 子

b 父母

c 孫

d 祖父母

(ハ) 労働者の死亡の当時生計維持関係になかつた次の者

a 子

b 父母

c 孫

d 祖父母

(ニ) 兄弟姉妹(労働者の死亡の当時の生計維持関係及び年齢は問わない。)

(三) 一時金の額

イ 前記(一)のイの場合

給付基礎日額の四〇〇日分である。同順位者が二人以上あるときは、これを等分した額が各受給権者についての支給額となる(法第一六条の八及び別表第二)。

ロ 前記(一)のロの場合

給付基礎日額の四〇〇日分から遺族補償年金の受給権者であつた者のすべてに支給された年金の額の合計額を差し引いた残額である。同順位者が二人以上ある場合については、前記イと同様である(法第一六条の八及び別表第二)。

六 遺族補償給付の請求

(一) 遺族補償年金の請求手続については、三通りの手続が定められている。

イ 則第一五条の二に規定する手続

最先順位の受給権者たる請求人又は先順位の受給権者が年金の支給の決定を受けていない場合に転給により受給権者となつた請求人は、則第一五条の二に規定する手続による。これらの請求人は、死亡した労働者に係る遺族補償年金を最初に請求する者であるから、請求にあたつては、自己が年金の受給権者であること及びその年金の額の算定の基礎となる事項のほかに、後順位者に関し、それらの者が受給資格者であるために必要とされる労働者の死亡の当時の生計維持関係と労働者との身分関係を合わせて明らかにすることを要することとした。

請求書の記載事項のうち、第二号の「請求人」には、則第一五条の五第一項の規定による代表者も含まれ、かつ、その代表者を選任した同順位の受給権者全員がこれに該当し、したがつて、添付書類も、それらの同順位の受給権者全員について当該事項を証明することができるものでなければならない。また、同号の「請求人以外の遺族補償年金を受けることができる遺族」には、請求人により後順位にある受給資格者のすべてが該当する。請求人が則第一五条の五第一項ただし書の規定に該当するため、代表者を選任せず、単独で年金の請求をする場合には、「請求人」にはその者のみが該当し、「請求人以外の遺族補償年金を受けることができる遺族」には、請求人と同順位の受給権者及び請求人より後順位にある受給権者全員が該当する。

請求書の記載事項のうち、厚生年金保険等の遺族年金等の受給関係については、請求書の提出の際の状態を記載すれば足りる。

ロ 則第一五条の三に規定する手続

労働者の死亡の当時胎児であつた子が先順位者(配偶者)の失権により受給権者となつた場合(他の同順位者(子)と同時に受給権者となつた場合―この場合には則第一五条の四の手続による―を除く。)又は労働者の死亡の当時胎児であつた子が出生したときに既に同順位者(子)若しくは次順位者が受給権者として年金の支給の決定を受けていた場合には、その胎児であつた子が年金の支給を請求する手続は、則第一五条の三の規定による。この請求にあたつては、他の同順位者(子)との間で請求についての代表者を選任する必要はない。記載事項のうち、則第一五条の三第一項第二号の「請求人」には、胎児であつた子のみが該当する。

ハ 則第一五条の四に規定する手続

既に年金の支給の決定を受けた先順位者(配偶者)が失権し、又は支給停止を受けたことにより、子以下の後順位の受給資格者が年金の転給を受けて新たに受給権者となつた場合において、それらの者が年金の支給を請求するときは、則第一五条の四に規定する手続による。

記載事項のうち、則第一五条の四第一項第二号の「請求人」には、代表者も含まれ、かつ、その代表者を選任した同順位の受給権者全員がこれに該当する。単独で年金の請求をする場合には、その者のみが請求人となる。

(二) 遺族補償年金の請求及び受領については、受給権者が二人以上あるときは、そのうちの一人を代表者に選任しなければならない(則第一五条の一五)。同順位者が代表者を選任している場合において、後から同順位者が生じた場合(胎児の出生の場合を除く。)には、その者が既に同順位者によつて選任されている代表者を追任しない限り、その者を含めた同順位者の間で新たに代表者を選任しなければならない。

なお、則第一九条の規定による支給決定通知は、代表者により支給の請求をした受給権者全員に対する支給決定通知として、別紙様式により当該代表者に対して行なうこととする。

(三) 遺族補償一時金の請求手続

遺族補償一時金の請求及び受領については、特に代表者の選任を予定していないから、請求書の記載事項のうち、則第一六条第一項第二号の「請求人」は、個々の一時金受給権者である。したがつて、一時金受給権者が二人以上あるときは、一時金の額を等分しなければならない(法第一六条の八第二項)から、則第一六条第三項第三号ロ又は則第一五条の二第三項第二号の規定により提出された死亡した労働者との身分関係を証明することができる戸籍の謄本又は抄本により、請求人と同順位の一時金受給権者の有無を確認しなければならない。

(四) 遺族補償給付の支給手続

遺族補償給付の支給手続については、前記三(四)と同様である。

七 葬祭料

(一) 葬祭料は、死亡した労働者の葬祭を行なう者にその費用を補償する給付であることから、新法においては、その額の算定にあたつては通常葬祭に要する費用を考慮して労働大臣が定める額となつた(法第一七条)。そこで、その額は、実際の葬祭の費用を考慮して、基本額三五、〇〇〇円に給付基礎日額の三〇日分を加算した額とした(則第一七条)。

(二) 新法の葬祭料に関する規定は、昭和四一年二月一日以後の労働者の死亡について適用されることはいうまでもない。したがつて、昭和四一年一月三一日以前の労働者の死亡に係る葬祭が昭和四一年二月一日以後に行なわれる場合にも、支給すべき葬祭料の額は旧法の規定による。

(三) 葬祭料の請求手続は、従前の請求手続とほぼ同様であるが、葬祭料の受給権者と遺族補償給付の受給権者とが必ずしも一致せず、したがつてまた葬祭料の請求が遺族補償給付の請求に先んじてなされる場合がありうるので、当該労働者の死亡について遺族補償給付の支給の請求がなされている場合を除き、葬祭料の請求書には労働者の死亡の事実及び死亡の年月日を証明することができる書類を添付させることとした(則第一七条の二第二項)。なお、同一人が遺族補償給付の請求と同時に葬祭料の支給を請求する場合には、遺族補償給付請求書に労働者の死亡に関する証明書が添付されていれば足りる(則第一七条の二第三項ただし書)。

八 長期傷病補償給付

(一) 長期傷病者に対する補償は、従来の複雑な給付体系を持つ長期傷病者補償から、療養の給付(又は療養の費用)と年金をその内容とする長期傷病補償給付に改められた。長期傷病補償給付は、旧法の傷病給付の第一種及び第二種を統合したものであるが、その内容は、かつての打切補償費と関連がなく、もつぱら療養補償給付及び休業補償給付との均衡が図られている。

(二) 給付の決定

イ 長期傷病補償給付の決定は、次のすべての要件を満たす場合に行なう(法第一二条第三項)。この場合には、療養補償給付及び休業補償給付を打ち切ることとなる(法第一八条第二項)。

(イ) 労働者が療養補償給付を受けていること。

(ロ) 労働者の傷病が療養の開始後三年を経過してもなおらないこと。

(ハ) 長期傷病補償給付を行なう必要があること。すなわち、当該傷病がなおらないため労働不能の状態が、その後長期間(少なくとも六ケ月以上)にわたつて継続すると認められること。

したがつて、長期傷病補償給付は、その決定後においても、上記ハの状態が消退した場合には、たとえ傷病がなおつていなくても、これを打ち切り、療養補償給付(及び必要がある場合には休業補償給付)を行なうべきこととなる。

ロ 長期傷病補償給付の決定にあたつては、年金の支払期月との関係上、療養の給付(又は療養の費用)と年金とが同時に開始されることとなるよう、開始期日を月の末日と定めることとされたい。

ハ 長期傷病補償給付の決定を行なおうとするときは、原則として、あらかじめ労働者から報告を徴し、前記(イ)に述べた要件の具備の認定に適確を期する必要がある。報告の徴取は、法第四七条(則第五一条の二)の規定による個別命令によつて行なうことになるが、報告事項及び関係資料については原則として旧規則第一九条の三の規定の例によるものとする。なお、長期傷病補償給付の決定にあたつては、従来のような所轄局長への禀伺は必要がない。

ニ 長期傷病補償給付の決定は、療養の給付の決定又は療養の費用の支給決定及び年金の支給決定を包括するものであるから、この決定がなされるときは、療養の給付及び年金についてあらためて個別的に決定を行なう必要はないが、療養の費用については、その性質上その都度支払請求(告示様式第七号)及び支払決定を必要とする。長期傷病補償給付の決定をしたときは、遅滞なく、文書で、その内容を受給権者に通知しなければならない(則第一九条)。この場合には、当該給付を開始すべき日を明記する必要がある。

ホ 改正法の施行の際現に旧法の規定による傷病給付を受けている者の当該傷病給付は、昭和四一年二月一日以降、自動的に新法の長期傷病補償給付に切り替えられるので、当該長期傷病補償給付については、あらためて決定を行なう必要はない(改正法附則第一五条)。

(三) 療養の給付(又は療養の費用)

イ 長期傷病補償給付たる療養の給付は、実質的には療養補償給付と全く同じ内容の給付である。療養補償給付の場合と同様、療養の給付をすることが困難な場合及び療養の給付を受けないことについて労働者に相当の理由がある場合には、療養の費用の支給にすることができる(法第一八条第三項、則第一二条)。

ロ 長期傷病補償給付たる療養の給付又は療養の費用に関する手続は、療養の給付についてあらためて請求手続を要しないことのほか、療養補償給付の請求手続と同様であるが、長期傷病補償給付の決定を受けた労働者が療養補償給付たる療養の給付を受けていた指定病院等で引き続き長期傷病補償給付たる療養の給付を受けるにあたつては遅滞なく、その旨を所轄署長に届け出ること(告示様式第六号)を要することとなつた(則第一八条)。

なお、昭和四一年三月二日までに附則第一五条第一項の規定による申出をしなかつた者のうち、指定病院等で療養の給付を受けようとするものについては、則第一八条第二項の届書を指定病院等を経由せずに直接所轄署長に提出させたうえ、その者が療養の給付を受けようとする指定病院等に対し所轄署長から、法改正によりその者について昭和四一年二月一日以後療養の給付を行なうこととなつた旨を通知されたい。

(四) 年金

イ 長期傷病補償給付たる年金は、休業補償給付との均衡を考慮し、給付基礎年額の六〇%に相当する額(給付基礎日額の二一九日分)の年金とされている。しかしながらこの年金部分の機能は、実質的には他の社会保険における障害年金に相当するもので、障害補償年金、遺族補償年金の場合と同様、他の社会保険給付との給付の調整が行なわれる(法別表第一、施行令第三条、後記第五参照)。

ロ 長期傷病補償給付たる年金については、特別の請求手続は規定されていない。すなわち、長期傷病補償給付は政府が必要とみとめて決定したときから行なわれるものであるから、年金については、当該受給権者からの請求をまたずに支払期月ごとに支払を行なうことになる。

給付事由の消滅(前記(二)のイ参照)の把握については、受給権者(又はその遺族)からの届出(則第二一条の二第一項第七号及び第二項)をまつまでもなく、療養の経過等に留意し、把握もれのないようにされたい。

ハ (省略)

ニ 旧法の規定による第一種傷病給付を受けていた者で改正法附則第一五条第一項の規定により昭和四一年二月一日から新法の長期傷病補償給付に切り替えられるものに係る当該長期傷病補償給付については、新法の施行後三〇日以内に政府に申出をすれば、当該傷病が転帰するまで、又は当該傷病について入院療養を必要とするに至るまでの間、従前の例による額の年金のみを内容とする(したがつて、療養の給付又は療養の費用を含まない。)長期傷病補償給付を行なうこととされているので、当該者に対する規定の趣旨の周知徹底に努められたい。

ホ 昭和三五年改正法附則第五条第二項の規定の適用を受けていた者で改正法附則第一五条第一項の規定により昭和四一年二月一日から新法の長期傷病補償給付に切り替えられるものに係る当該長期傷病補償給付たる年金の額については、従来どおり、給付基礎日額の四〇日分が控除される(改正法附則第一五条第二項、改正省令附則第五項)。

ヘ 長期傷病補償給付たる年金の額のスライドは、従来どおり、昭和三五年改正法附則第一六条第一項及び昭和三五年改正省令附則第一一条の規定の例によつて行なう(改正法附則第四二条)。

九 年金のスライド

今次法改正により、障害等級第四級から第七級までに応ずる障害補償及び遺族補償が年金化されたので、これらの年金も、従前の例(昭和三五年改正法附則第一六条、昭和三五年改正省令附則第一一条)によつてスライド制が適用されることとなつた(改正法附則第四一条)。

一〇 年金等に関するその他の事項

(一) 年金証書

障害補償年金、遺族補償年金又は長期傷病補償給付の受給者には、支給決定通知書又は給付決定通知書の送付とともに、年金証書を交付しなければならない(則第二〇条)。

年金証書は、当該年金等の受給者たることの証明書であり、その限度で必要な事項のみを記載することとした。この記載事項は、通常変更が予想されないものに限られているから、従来の長期給付証書のように記載事項の変更に関する事務を要しない。もし記載事項に変更を生じた場合(年金証書の番号、受給権者の氏名、署の名称が変更した場合)には、新たに証書を交付し、旧証書の返納を求めることとする。

年金証書を用いる場合は、次のとおりである。

イ 年金の支払を受ける際に窓口で提示すること。

ロ 所在不明により遺族補償年金の支給を停止されていた受給権者が支給停止の解除を申請する場合に所轄署長に提出すること(則第一五条の七)。

ハ 長期傷病補償給付を行なうことの決定を受けた者が、その後最初の療養の給付を受けようとする場合又は療養の給付を受ける指定病院等を変更しようとする場合において届書を指定病院等を経由して所轄署長に提出しようとするときに、当該指定病院等に提示すること(則第一八条第四項)。

年金証書の亡失等の場合における再交付手続及び受給権者の失権の場合における返納義務については、従来と同様である(則第二〇条の二、第二〇条の三)。

(二) 年金等の受給権者の定期報告及び届出

イ 障害補償年金、遺族補償年金又は長期傷病補償給付の受給者は、従来と同様、毎年一回二月中に現状について報告書を提出しなければならない(則第二一条)。

ロ 障害補償年金、遺族補償年金又は長期傷病補償給付の受給者は、当該保険給付の適確な支給に必要な諸事項に変更を生じたときは、遅滞なく、文書で、その旨を所轄署長に届け出なければならない(則第二一条の二)。

ハ 今次法改正に伴い、年金については支払期ごとの請求手続を要しないこととなつたので、年金の適確な支給を行なうためには、上記の定期報告及び変更事項の届出が必要不可欠なものであつて、もし定期報告書又は変更事項の届書の提出がないときは、その提出を命じ、それでも正当な理由がなくてその提出がないときは、当該年金等の支払を差し止めることとする(法第四七条の三)。

(三) 旧長期給付受給者に対する指導

昭和四一年三月三一日において旧法の規定による第一種障害補償費若しくは第一種障害給付又は傷病給付を受けることができる者に対しては、すみやかに、次の事項について周知させること。

イ 昭和四一年二月から当該保険給付の種類(旧法の傷病給付受給者にあつては、給付の内容を含む。)が改められること。

ロ 旧法の第一種傷病給付受給者については、昭和四一年二月一日から三月二日までの間に申出があつたときは、旧法の第一種傷病給付と同じ内容の年金のみの長期傷病補償給付を行なうこと。

ハ 年金の支払期が変わり、二~四月分を五月に、五~七月分を八月に、八~一〇月分を一一月に、一一~一月分を二月に支払うこととなり(旧法の傷病給付の受給者であつた者については、昭和四一年二月分を三月に、三~四月分を五月に、五~六月分を七月に、七~八月分を九月に、九~一〇月分を一一月に、一一~一二月分を昭和四二年一月に、一~二月分を三月に支払うこととなり、以下同様とする。)その都度の請求を要せず、所轄署長の支払通知があれば支払を受けることができることとなつたこと。

ニ 昭和四一年一月までの間に係る旧法の長期給付については、旧法の手続によること。(改正法附則第一四条、改正省令附則第二項)。

(四) 給付原簿の作成

給付原簿の作成は、内部事務の問題であるので、これに関する規定(旧規則第二一条の一二)は廃止された。もちろん、原簿作成の事務そのものを廃止する趣旨ではなく、これに関しては、別に通達する。

第四 労働基準法との関係

一 基本的な考え方

労働基準法による災害補償制度と労災保険との関係は、昭和三五年の法改正及び今次の法改正(特に第三次改正)により労災保険の給付体系が労働基準法の補償体系とは独自に拡充されたことによつて、基本的に明確なものとなつた。

すなわち、労災保険制度は、労働基準法による災害補償制度から直接に派生したものではなく、両者は、業務災害に対する事業主の補償責任の法理を共通の基盤として並行しているものと理解されるべきであり、現実の機能においては、むしろ後者は未加入事業について前者を補充する関係に立つこととなつた。

それと同時に、両者の補償内容の格差も顕著となつたことに伴い、労災補償制度全体としては、近い将来に現在のような二元的状態を克服し、労災保険制度に一元化されるべきことが要請されるのであつて、今次法改正における全面適用の指向も、かかる要請に応えようとするものにほかならない。

二 具体的な関係

(一) 補償事由の同一性

保険給付の事由については、今次法改正にあたり、業務上外の認定及び通勤途上災害の取扱いについて問題が提起されているが、労災保険制度が労働基準法による災害補償制度と共通の法理的基盤に立つていることはいうまでもないのであつて、労働基準法上の災害補償の事由を保険給付の事由とすることは、従来と同様である(法第一二条第二項)。

(二) 長期傷病補償給付と解雇制限との関係

長期傷病補償給付は、その給付内容において、旧法の長期傷病者補償と異なるが、労働基準法上の解雇制限との関係においては、なお従来と同様に、労働基準法による打切補償と同一の効果をもつている(法第一九条の三)。

(三) 保険給付と個々の使用者の補償責任との関係

旧法第一九条の三においては、保険給付の種類ごとに労働基準法上の災害補償との相当関係及び等価関係を定め、労働基準法の旧第八四条第一項において災害補償に相当する給付の価額の限度で個々の使用者について補償責任の免除を規定していたが、今次法改正による保険給付の大幅年金化及び事業主の責に帰すべき事由による支給制限の廃止に伴い、法第一九条の三の規定が整備されるとともに、労働基準法第八四条第一項の規定が改められて、およそ労災保険の保険給付が「行なわれるべきものである場合」すなわち保険給付の事由が生じた場合には、使用者は、補償の責めを免れることとなつた。したがつて、保険給付が行なわれるべき場合に該当しない休業最初の三日を除き、労災保険に加入している事業主はすべて労働基準法上の補償責任を負わないこととなる。

第五 他の社会保険等との調整

一 調整の基本的考え方

(一) 労災保険の保険給付は、業務災害に対する使用者の補償責任を法理上の基礎とし、被災者の損害を回復し、又は補てんすることを目的としている点において、厚生年金保険その他の社会保険の給付と性格を異にするものであるが、今次法改正によつて保険給付が大幅に年金化されたことにより、労災保険の年金たる保険給付は、その所得保障的機能において他の社会保険の年金給付と共通性をもつにいたつた。

(二) このため、同一の事由につき労災保険の年金と他の社会保険の年金とが競合する場合に両保険の関係をいかに調整すべきかが、今次法改正にあたり公的年金制度全体の在り方と関連して問題となつたが、他の社会保険の給付内容、給付費の負担内容等が区々であり、しかも適用範囲が一致していない現状では、一律の調整方式によることが無理であるので、従来の調整方式を考慮しつつ、可能な限り調整内容を整備したが、全面的な解決は将来に委ねられることとなつた。すなわち「労働者の業務災害に対する年金による補償」(労災保険の年金だけでなく、およそ労働者の業務災害に対して支給されるあらゆる種類の年金給付による補償をいう。)に関しては、「労働者災害補償保険制度と厚生年金保険その他の社会保険制度との関係を考慮して引き続き検討が加えられ、その結果に基づき、すみやかに、別に法律をもつて処理されるべきもの」とされたのである(改正法附則第四五条)。

(三) 調整を行なうのは年金と年金との関係に限られる。年金と一時金との関係は、調整になじまないので、両者は調整しないで併給されることとなる。なお、労働基準法上の一時金たる災害補償と他の社会保険の年金との関係は、将来の再検討の機会までに従前のとおりとしておくこととなつた。

(四) 労災保険の年金の額が調整されるのは、他の社会保険の年金が「同一の事由」により「支給される場合」であるから、その年金が同時に支給される場合でも支給事由を異にするとき(例えば障害補償年金と老齢年金)又はその年金の受給権があつても支給を受けられない場合(全額支給停止又は全額支給制限の場合)には、調整を要せず、また、その年金が受給権者を異にする場合でも同一の事由により支給されるときは(遺族補償年金について起りうる)、調整を要する。

調整による減額分の算定の基礎となるものは、他の社会保険の年金の「支給額」であるから、その年金が一部支給停止され、又は一部支給制限されている場合には、実際の支給額を基礎として減額分を算定すべきものである。

他の社会保険において年金の支給事由となる廃疾の併合が行なわれた場合(例えば厚生年金保険法第四八条、国民年金法第三一条)において、前後の廃疾のいずれかが業務外であるときは、業務上の廃疾のみに係る年金額(A)と業務外の廃疾のみに係る年金額(B)との割合により、併合後の年金の支給額に(A/(A+B))を乗じて得た額を基礎として減額調整を行なうこととする。ただし、同一部位について障害が加重したものであるときは、加重前の年金の額と加重後の併合された年金の支給額との差額を基礎として減額調整を行なうこととする。

二 厚生年金保険との調整

(一) 労災保険の障害補償年金又は長期傷病補償給付たる年金と厚生年金保険の障害年金、労災保険の遺族補償年金と厚生年金保険の遺族年金とが同一の事由によつて併給される場合には、労災保険の年金の額は、新法別表第一下欄の額から厚生年金保険の年金の支給額の五〇%相当額を減じた額となる(法別表第一第一号)。

(二) 労災保険の障害補償給付と厚生年金保険の障害手当金との関係については、従来と同様に、後者が不支給とされることによつて調整される(厚生年金保険法第五六条)。

労災保険の遺族補償一時金については、厚生年金保険の給付との調整問題は生じない。

(三) 他方、厚生年金保険の障害年金又は遺族年金は、労災保険の保険給付との関係では、六年間の支給停止を行なわないこととなつた(改正法附則第二五条、厚生年金保険法第五四条、第六四条)。なお、経過措置として、旧法の第一種障害補償費の受給権を取得したことにより支給を停止されている厚生年金保険の障害年金は昭和四〇年二月分から支給され(改正法附則第二六条第三項)(したがつて、新法の障害補償年金は、同月分から調整を行なうべきこととなる。)、旧法の第二種障害補償費又は遺族補償費の支給事由が生じたことにより支給が停止されている厚生年金保険の障害年金又は遺族年金は従来どおり六年間の支給停止が存続する(改正法附則第二六条第一項)。

三 国民年金との調整

労災保険の給付と国民年金の給付との関係については、従来は、もつぱら後者の六年間支給停止によつて調整が行なわれていたが、今次法改正により、その調整方式は全面的に改められた。

(一) 労災保険の障害補償年金又は長期傷病補償給付たる年金と国民年金の障害年金(障害福祉年金を除く。以下同じ。)、労災保険の遺族補償年金と国民年金の母子年金、準母子年金、遺児年金又は寡婦年金(母子福祉年金及び準母子福祉年金を除く。以下同じ。)とが、同一の事由により支給される場合には、労災保険の年金の額は、新法別表第一下欄の額から国民年金の支給額の三分の一相当額を減じた額となる(法別表第一、第二号、施行令第三条第二号)。

(二) 労災保険の障害補償一時金及び遺族補償一時金については、国民年金の給付との調整問題は生じない。

(三) 他方、国民年金の年金(福祉年金を除く。以下同じ。)は、労災保険の保険給付との関係では六年間の支給停止を行なわないこととなつた(改正法附則第三一条、国民年金法第三六条、第四一条第一項、第四一条の三第一項、第四六条、第五二条)。これに伴う経過措置は、厚生年金保険の年金の六年支給停止の撤廃に伴なう経過措置(上記二(三)と同様であるが(改正法附則第三二条第一項及び第二項)、旧法の第一種障害給付及び傷病給付と国民年金の障害年金との関係については調整が行なわれていなかつたので、改正法施行の際同一の事由により双方の年金給付を受けることができる者に支給される障害補償年金及び長期傷病補償給付たる年金の額については、従来のとおり、調整を行なわないこととなつた(改正政令附則第三項)。

(四) さらに、労災保険の年金と国民年金の福祉年金(障害福祉年金、母子福祉年金、準母子福祉年金及び老齢福祉年金)との関係については、労災保険の年金は、従前と同様に、調整は行なわれず、他方、国民年金の福祉年金は労災保険の年金が支給される限り原則として全額支給停止されることとなつた(改正法附則第三一条、国民年金法第六五条、第七九条の二第六項)。この場合における経過措置としては、旧法の障害補償費又は遺族補償費の受給権を取得したことにより改正法施行の際支給停止されている国民年金の福祉年金については、従前どおり支給停止を六年間にとどめ(改正法附則第三二条第一項)、また、改正法施行の際現に旧法の第一種障害給付又は傷病給付と国民年金の障害福祉年金とを同一の事由により受けることができる者に支給される国民年金の障害福祉年金は、従前と同様に支給されることとされている(改正法附則第三二条第三項)。

四 船員保険との調整

従来は、労災保険の給付と船員保険の給付とが併給されることはなかつたのであるが、今次法改正と同時に行なわれた船員保険法の一部改正(昭和四〇年法律第一〇五号、同年六月一日施行)により、船員保険の任意継続被保険者にも障害年金及び遺族年金が支給されることとなつたため、(船員保険法第二〇条第四項)これらの年金と労災保険の年金とが競合するに至つたので、厚生年金保険の第四種被保険者との関係に準じ、同一の事由により船員保険のこれらの年金が支給される場合には、その支給額の五〇%相当額を労災保険の障害補償年金若しくは長期傷病補償給付たる年金又は遺族補償年金の額から減ずることとなつた(法別表第一第二号、施行令第三条第一号)。

五 共済組合等との調整

農林漁業団体職員共済組合、私立学校教職員組合及び地方公務員等共済組合の給付との関係については、労災保険の障害補償年金若しくは長期傷病補償給付たる年金又は遺族補償年金は、そのまま支給されることとなり、これら共済組合の職務による障害年金若しくは公務による廃疾年金又は職務若しくは公務による遺族年金は、労災保険の年金が支給される間一部支給停止を行なうこととなつた(改正法附則第二八条、農林漁業団体職員共済組合法第四三条、第四九条の二、改正法附則第二三条、私立学校教職員共済組合法第二五条の表第八六条の項下欄及び第九二条の項下欄、改正法附則第三六条、地方公務員等共済組合法第九一条、第九七条)。すなわち、従来の併給開始後六年間の調整方式を六年経過後の支給期間にも及ぼすこととなつた。

なお、経過措置として、改正法施行の際現に旧法の第二種障害補償費又は遺族補償費の支給事由が生じたことにより一部支給停止されている共済組合の年金については、改正法施行後も、従来どおり六年間一部支給停止が行なわれる(改正法附則第二四条、第二九条、第三七条)。

また、児童扶養手当及び重度精神薄弱児扶養手当は、旧法の遺族補償費を受けることができるときは、六年間支給されないこととされていたが、今後は、労災保険の年金たる給付が支給される間は、これらの手当は支給されないこととなつた(改正法附則第三四条、児童扶養手当法第三条第二項第一六号、第四条第二項、改正法附則第三八条、重度精神薄弱児扶養手当法第三条第二項第一七号、第四条第三項)。なお、これらの手当についても所要の経過措置がある(改正法附則第三五条、第三九条)。

六 国民健康保険との関係

今次法改正による保険給付の種類変更に伴い、国民健康保険法の規定についても字句整理が行なわれ、労災保険法の規定による療養補償給付又は長期傷病補償給付を受けることができるときは、国民健康保険の療養の給付は行なわれないが(国民健康保険法第五六条)。改正法附則第一五条第一項後段の規定により従前の例による額の年金のみとされる長期傷病補償給付の受給者であつて国民健康保険の被保険者であるものについては、従来と同様に、国民健康保険の療養の給付を併わせて受けることができる取扱いとされているので留意されたい。

七 調整事務

厚生年金保険、船員保険及び国民年金の年金との調整に関しては、当該年金の受給状況について、障害補償年金、遺族補償年金及び長期傷病補償給付たる年金の各請求書の記載、受給権者の定期報告及び届出(規則第二一条、第二一条の二)によるほか、必要に応じ所轄社会保険事務所に照会して確認されたい。

第六 保険給付を受ける権利の時効

保険給付を受ける権利の時効については、保険給付の大幅年金化に伴い規定が整備されたので、今後は次によつて取り扱うこととする。

一 新法第四二条第一項及び改正法附則第四二条第四項の規定により保険給付を受ける権利として時効消滅するのは、当該保険給付の支給決定請求権(年金たる保険給付については、基本権の確定を受ける権利であり、遺族補償年金の転給については、すでに支給決定された遺族補償年金の基本権の承継者たることの確定を受ける権利)である。支給決定のあつた保険給付の支払請求権(年金たる保険給付については、支払期月ごとに生ずる支分権たる支払請求権)は、会計法第三〇条後段の規定により、五年で時効消滅する。

二 長期傷病補償給付は、請求によらないで行なわれるものであるから、これを行なうことの決定を受ける権利の時効という問題は生じないため、これに関する規定はないが、年金の部分について支払期月ごとに生ずる支払請求権の時効は、会計法第三〇条後段の規定による。療養の給付又は療養の費用の部分については、長期傷病補償給付を行なうことの決定に給付決定又は支給決定が含まれているのであるから、療養の給付については、時効の問題は生ぜず、また、療養の費用については、当該費用を要した都度その支払請求権が生じ、その時効は会計法第三〇条後段の規定によることとなる。ただし、この療養の費用については、支払にあたり、その金額について政府の支払決定処分が介在するが、支払請求権の時効の進行に対しては影響を及ぼさない。

三 未支給の保険給付の請求権については、当該保険給付の受給権者の死亡がその保険給付の支給決定前であるか、あるいは支給決定後であるか、そのいずれかによつて時効の取扱いも異なつてくる。

受給権者の死亡が保険給付の支給決定前である場合には、未支給の保険給付の請求権は、当該保険給付の支給決定請求権そのものであるから、その時効は、新法第四二条第一項の規定によることとなり、さらに支給決定後については会計法第三〇条後段の規定によることとなる。

受給権者の死亡が保険給付の支給決定後である場合には、未支給の保険給付の請求権については、会計法第三〇条後段の規定による。

いずれの場合にも、受給権者の支給決定請求権又は支払請求権が時効消滅している場合には、未支給の保険給付は、請求することができない。

第七 保険料(略)

第八 保険給付の特例

保険給付の特例の制度は、従来必ずしも活用されていたとはいえないが、今次改正により、政令による強制適用事業の範囲の拡大が予想され、しかも保険給付が大幅に年金化されることに伴い、新法においてはこの特例制度がすべての保険給付に及ぼされることとなつた(法第三四条の三〔現行整備法第七条〕)。

一 特例による保険給付の申請

特例による保険給付の申請の要件として、労働基準法の療養補償が現に行なわれていること、当該事業についてすでに保険関係が成立していること、使用労働者の過半数が希望した場合には保険加入者は特例の申請義務を負うことは従来と同様であるが、申請手続については、次の点が改正された。

(一) 申請手続は、個々の労働者ごとに行なうことを要せず、一括して申請することができることとした(則第四六条の二第一項〔現行整備則第七条〕)。

(二) 特例制度がすべての保険給付に及ぼされることとなつたことに伴い、保険給付の種類の指定及びその変更の申出は必要でなくなつた。

(三) 申請後の報告の手続が廃止された。

上記申請があつた場合には、所轄所長は遅滞なく文書で認否を保険加入者に通知しなければならない。(則第四六条の第二項)。承認は、申請の一部について行なうこともできる。すなわち、申請書記載の療養補償の実施経過にかんがみ、当該傷病により将来において長期傷病補償給付、障害補償年金又は遺族補償年金に移行する可能性がないと見込まれる労働者については、承認の対象から除外しても差し支えない。また、継続事業の場合の年金給付に見合う特別保険料については一三の保険年度にわたつて徴収することとなるので、特別保険料の確実な徴収を担保するため、近い将来において事業の廃止が見込まれるような継続事業については、特例の承認は行なわないものとする。

二 特別保険料の徴収期間

特別保険料の徴収期間は、当該事業が継続事業であるか有期事業であるかによつてその取扱いが異なる。

(一) 継続事業の場合にあつては、個々の給付ごとに次の期間(則第四六条の五第一項〔現行整備則第八条第一項〕)

イ 療養補償給付又は休業補償給付に係る特別保険料については、当該保険給付が行なわれる期間

すなわち、当該期間内の保険年度ごとに、当該保険年度中に行なわれた特例による当該給付に見合う特別保険料を徴収する。

ロ 障害補償年金、遺族補償年金又は長期傷病補償給付に係る特別保険料については、一三年すなわち、特例による当該給付の支給事由が生じた日の属する保険年度を含めてそれ以後一三の保険年度にわたつて特別保険料を徴収する。

ハ 障害一時金、遺族補償一時金又は葬祭料に係る特別保険料については、当該給付が行なわれることとなつた日の属する保険年度の末日までの期間すなわち、特例による当該給付の支給事由が生じた日の属する保険年度に特別保険料を徴収する。

(二) 有期事業の場合にあつては、当該事業が終了する日までの期間(則第四六条の五第二項〔現行整備則第八条第二項〕)すなわち、特例により行なわれたすべての保険給付に見合う特別保険料を事業の終了(又は廃止)による保険関係の消滅があつたときに徴収する。

三 特別保険料の算定

特別保険料も賃金総額にその事業についての保険料率を乗じて算定することとされている点においては一般の保険料の場合と変わりがないが、その額については、次の率を保険料率とみなして算定することとする。(法第三四条の四〔現行整備法第一九条〕、則第四六条の六〔現行昭四七告一八号〕)

(一) 継続事業の場合にあつては、当該保険年度中に行なわれた特例による保険給付の額(障害補償年金、遺族補償年金、又は長期傷病補償給付については、給付基礎日額を基礎として、それぞれ、労働基準法の規定により算定される障害補償、遺族補償又は打切補償額(下記(二)において「労働基準法の補償額」という。)を一三で除して得た額と当該事業の賃金総額に一〇〇〇分の一五を乗じて得た額との合計額とする。)の当該事業の賃金総額に対する率

(二) 有期事業の場合にあつては、当該事業の期間中に行なわれた特例によるすべての保険給付の額(障害補償年金、遺族補償年金又は長期傷病補償給付については、労働基準法の補償額と当該事業の賃金総額に一〇〇〇分の一五を乗じて得た額との合算額とする。)の当該事業の賃金総額に対する率

第九 経過措置

一 保険給付についての経過措置

昭和四一年一月三一日以前に支給事由が生じたため旧法の規定によつて受ける第一種障害補償費、傷病給付及び第一種障害給付のうち、昭和四一年一月三一日までに係る分並びに第二種障害補償費、遺族補償費、葬祭料、第二種障害給付、遺族給付及び葬祭給付であつて、昭和四一年一月三一日までにまだ支給されていないものについては、従前の例による(改正法附則第一四条)。旧法の規定による療養補償費及び休業補償費についても同様であることは、いうまでもない。

この場合、請求等の手続をしていないときは、その請求は、なお従前の例による手続によつて行なうこととなる(改正省令附則第二項)。

二 特別保険料の徴収期間及び料率についての経過

昭和四一年一月三一日において、旧法の規定により特例による保険給付が行なわれている事業に係る特別保険料の徴収期間及び料率は、なお従前の例によることとなる(改正省令附則第三項)。

三 保険給付に関する管轄についての経過措置

保険給付の支給に関する事務は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長が行なう(則第一条第二項、第三条の二第五項及び第八条の二第五項)のであるが、旧法の規定による第一種障害補償費又は長期傷病者補償を受ける長期給付受給者に関しては、管轄の特例が認められていた(旧規則第二一条の九、第二一条の一〇及び第二一条の一一)。しかし、従来の事務処理の経過及び今後における事務処理の見通しに照らし、必ずしも特例の必要がないので、これを廃止することとしたのであるが、昭和四一年一月三一日以前に旧規則第二一条の九又は第二一条の一〇により保険給付の支給の事務に関する事務を移管された受給者に関しては、申出に係る住所地を管轄する署長がその後も引き続きその保険給付の支給に関する事務を行なう。この場合、その後に受給者が住所を変更しても、新住所地を管轄する署長にその事務を移すことはできないのはいうまでもない(改正省令附則第四項)。

四 旧けい肺及びせき損療養者の取扱い

改正法施行の際昭和三五年改正法附則第五条の規定により引き続き旧法の第一種障害給付又は傷病給付を受けていて、さらに改正法附則第一五条第二項の規定により障害補償年金又は長期傷病補償給付を受ける者に関する保険給付の取扱いは、従前の例に従うこととされており、次のとおりとなる(改正省令附則第五項)。

(一) 長期傷病補償給付の受給者が当該負傷又は疾病により死亡した場合には、遺族補償給付及び葬祭料は支給されない。

(二) 障害等級第一級から第三級までに応ずる障害補償年金及び長期傷病補償給付の額は、新法別表第一に規定する額から給付基礎日額の四〇日分を減じた額である。

(三) 障害等級の第四級から第七級に応ずる障害補償年金の額は、新法別表第二に規定する額から給付基礎日額の二〇日分を減じた額である。

五 労働基準法及び労働基準法施行規則の改正

(一) 労働基準法上の遺族補償を受けることができる者の範囲については、労災保険法の遺族補償給付を受けることができる者の範囲から遺族以外の者を排除したことに伴い、労働基準法第七九条及び同法施行規則第四三条について同様の改正が行なわれた(改正法附則第一九条、改正省令附則第八項)。

(二) 労働基準法施行規則別表第二の身体障害等級表については、労災保険法施行規則別表第一の障害等級表の改正に伴い、第七級及び第八級の項について同様の改正が行なわれた(改正省令附則第八項)。

別表

遺族補償年金受給権者に給付基礎日額の四〇〇日分の一時金を支給した場合における年金支給停止期間の計算に用いる経過期間別調整係数

経過期間

上の期間中の各月に支給されるべき遺族補償年金の額に乗ずる率

年金の支給事由発生の月の翌月から

一・〇〇〇

一時金を支給した月までの期間

 

一時金を支給した月の翌月から一年以内の期間

一・〇〇〇

 〃 一年以上二年未満の期間

〇・九五三

 〃 二年以上三年未満の期間

〇・九〇九

 〃 三年以上四年未満の期間

〇・八七〇

 〃 四年以上五年未満の期間

〇・八三四

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