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○建設雇用改善計画の策定について
(昭和五二年七月二九日)
(職発第三七八号)
(各都道府県知事あて労働省職業安定局長通達)
建設労働者の雇用の改善等に関する法律(以下「建設雇用改善法」という。)の施行及びそれに伴う諸般の施策の推進については、種々御配意を煩わしているところであるが、今般、建設労働対策の総合的、かつ、中期的な施策の基本的な方向を明らかにするため、建設雇用改善法第三条の規定に基づき建設雇用改善計画(以下「計画」という。)が策定され、昭和五二年七月一九日労働省告示第七〇号をもって別添のとおり公布された。
今後は、この計画を指針として建設労働者の雇用の改善等のための具体的施策の展開が図られることとなる。
ついては、下記に御留意の上その趣旨を十分御理解され建設労働対策の一層の推進に当たられるようお願いする。
記
第一 建設雇用改善計画の概要
1 計画の基本的な考え方
(1) 計画のねらい
本計画は、建設生産の特殊性もあって、雇用関係が不明確あるいは不安定な場合が多いこと等、改善を要する雇用面の問題が少なくないという建設労働者の現状にかんがみ、「建設労働者の雇用の改善等のための基礎づくりとその定着」を課題として、建設労働者の雇用状態の改善、能力の開発及び向上並びに福祉の増進のために早急に講ずることが必要な施策の基本となるべき事項を明らかにしようとするものである。
(2) 計画の性格
この計画は、建設雇用改善法を中軸としつつ、建設業行政をはじめとする関連行政との連けいの下に、安定成長下における建設生産の動向に即応した建設労働者の雇用の改善等のための政策的対応の方途を示すものとする。
(3) 計画の期間
計画の期間は、昭和五二年度から五五年度までとする。
2 雇用の動向と問題点
(1) 建設労働の現状と問題点
全産業労働者の一〇・三パーセントを占めている建設業における雇用労働者については、建設生産が有期の受注生産であること、屋外生産が中心となること等の特質に加え、実際の工事が複雑な下請機構の下に小零細企業によって行われる場合が多いこと等から雇用の面で、幾多の問題が指摘されている。
イ 雇用管理体制の整備が立ち遅れており、雇用関係も不明確な場合が多い。
ロ 建設労働者については、他産業に比し、臨時・日雇といった雇用形態が多く、不安定雇用の改善の必要性は高い。
ハ 基幹的な技能労働力の不足が著しく、労働力の構成も高齢化しつつある。
ニ 福祉面の改善が、他産業に比して著しく立ち遅れている。その他、賃金不払、労働災害が多発している等の問題もあり、まず建設労働者の雇用状態の改善を図り、それを通じて解決が急がれなければならない問題が多い。
(2) 今後の経済見通しと建設労働者の動向
今後、中期的にみて、資源、エネルギーの制約等から成長率が低下し、安定成長へすすむものとみられる。しかしながらこのような経済情勢下においても、社会資本の充実という社会的要請の高まりに応えるため、建設業の役割はますます重要なものとなり、その基盤を支える建設労働者について、雇用の改善等を図っていく必要性はますます高まるであろう。
イ 今後の経済の見通し
これまでの経済成長の過程で、環境問題の深刻化、住宅と公的部門の立ち遅れ等各種のひずみが表面化し、国民の欲求は私的消費の増大よりも住宅等のストックの増大と社会的消費の充実等を重視するようになってきている。
このことから、昭和五〇年代の前期経済計画においても、建設生産の伸びは、国民総生産のそれを上回るものと見込まれており、安定成長経済の下においても建設業の果たすべき役割は、一層重要になるものとみられている。
ロ 今後における建設労働者の雇用の動向
今後の成長率を六パーセント程度とした場合、全体の就業者数は、昭和五〇年代においておよそ四五〇万程度の増加が見込まれるが、建設業の就業者数も、昭和五五年には、およそ五〇〇万人程度に達するものと見込まれる。
就業者数が上記のように移動する中で、新規学校卒業者の高学歴化、労働力人口の高齢化等労働力供給構造の変化は建設業に大きな影響を与える可能性があり、とりわけ、建設労働者の雇用の改善をすすめる上で次の事項に留意する必要がある。
(イ) 新規学校卒業者の高学歴化
(ロ) 労働力の高齢化
(ハ) 技能労働力の不足
(ニ) 不安定雇用の動向
3 建設労働者に係る雇用状態の改善を図るために講じようとする施策の基本となるべき事項
(1) 建設労働者の雇用の改善等に関する法律の周知徹底
建設雇用改善法が末端の下請企業にまで深く浸透し、同法による雇用管理責任者の選任等の措置を個々の建設事業主の間に定着させることが建設労働者の雇用状態の改善のための出発点である。そのため、次の施策を講じ、同法の周知徹底をすすめるとともに、その推進体制を充実することとする。
イ 建設雇用改善法の周知
職業安定機関、建設雇用改善指導員による啓発活動を強化するとともに、元請事業主を通じての建設雇用改善法の浸透を図る。
ロ 建設事業主に対する指導監督
関係行政機関等による指導体制を強化するとともに、同法によって義務づけられた事項を遵守していない事業所の把握と、その是正のための効果的方策を講ずる。
(2) 雇用関係の明確化と雇用管理体制の整備
イ 雇用管理責任者の資質の向上
雇用管理責任者の選任の徹底を図るとともに、雇用管理研修の積極的実施により、その資質の向上に努める。
ロ 雇入通知書の交付徹底による雇用関係の明確化等
雇入通知書の交付の徹底を図るため、労働基準監督機関と職業安定機関との連けい等を通じて指導監督を強力にすすめる。
ハ 建設業界の自主的な雇用改善の促進
中小零細企業の多い建設業の特質を考慮しつつ、建設業界の自主的な雇用改善の努力を促すこととする。
ニ 就労経路の正常化の推進
公共職業安定所を中心とした公的機関を通じての就労を推進するとともに、労働者の雇入れに際し、法令による規制が十分遵守されるよう建設業行政との密接な連けいのもとに指導を積極的に推進する。
(3) 不安定雇用の改善
イ 常用化の促進
通年雇用奨励金制度の充実、活用をはじめ、常用化の促進を図るための効果的な方策を検討する。
ロ 出稼・季節労働対策の強化
4 建設労働者の能力の開発及び向上を図るために講じようとする施策の基本となるべき事項
建設業においては、恒常的に技能労働力が不足しており、一方、建設技術の高度化、多様化が著しく進展している。このような建設業の現状に対処して、建設労働者の能力の開発及び向上を図るため、次の施策を重点的に推進するものとする。
(1) 職業訓練推進体制の整備
イ 建設技術の高度化、多様化に対応した職業訓練実施体制の整備
(イ) 公共職業訓練における訓練職種、訓練方法、訓練内容等の改善
(ロ) 建設技術の高度化、多様化の進展に対応する専門的かつ組織的な職業訓練の実施方法の確立と必要な施設の整備の促進
ロ 建設業の特質に適合した職業訓練の推進
(イ) 事業内訓練への助成措置の充実と指導援助の強化を図る。
(ロ) フオア・マンに対する教育訓練の実施について検討推進する。
ハ 職業訓練の推進のための事業主に対する援助
労働者の職業訓練等への派遣を促進するための効果的方策について検討推進する。
(2) 技能に対する適正な評価とそれに基づく処遇の改善
5 建設労働者の福祉の増進を図るために講じようとする施策の基本となるべき事項
(1) 適正な労働条件の確保を通じての福祉の増進
イ 雇入通知書の完全交付による雇用関係の明確化と労働条件の改善
ロ 建設業界の自主的な活動との密接な連けいによる日曜全休の普及
ハ 常時建設業に従事する期間雇用者について、収入の伴つた休暇が実質的に確保される方向での適切な方策の検討
(2) 社会保険の適用
(3) 建設労働者の職業環境の整備
イ 作業員宿舎の整備その他住居施設の整備
ロ 建設労働者の福祉施設等の整備
(4) その他
建設労働者の福祉の増進を図るため改善を必要とされる事項は多いが、当面はさらに次の施策を重点的に実施するものとする。
イ 建設労働者の健康管理に関する施策の強化
ロ 建設労働者の退職金共済制度の普及
第二 建設雇用改善計画と今後の業務運営方針
建設雇用改善計画は、上記1のとおり、建設労働者の雇用状態の改善、能力の開発及び向上並びに福祉の増進のために講ずべき施策の方向について定めたものであり、今後はこの計画の内容を具体化し、あるいは、必要な検討を促進することにより、建設労働対策の一層の拡充を図つていくものである。
これら建設労働対策の拡充に当たつて先ず前提となるのは、計画中においても建設労働者の雇用状態の改善の出発点であると指摘されている建設雇用改善法の周知徹底である。
また、今後拡充される施策を円滑に推進していくためには、現在実施されている建設雇用改善助成金の活用をさらに進めることが重要である。
このことにかんがみ、建設雇用改善法の周知徹底と建設雇用改善助成金の活用をさらに促進するため、次の措置を講ずることとする。
1 建設雇用改善法の周知促進
建設雇用改善法の趣旨及び内容の周知を末端の下請企業まで深く浸透させ、雇用管理責任者の選任、雇入通知書の交付等の措置を個々の事業主の間に深く定着させるため、次の措置を講じ、建設雇用改善法の周知を急ぐこととする。
(1) 職業安定機関、雇用促進事業団とくに建設雇用改善指導員とが一体となつて、建設事業主に対する啓発活動をすすめること。
そのため、あらゆる機会をとらえ、建設雇用改善法のPRに努めることとするが、とくに次の方法を十分活用するよう配意すること。
イ 関係行政機関若しくは建設事業主の団体又は地方公共団体の広報誌、機関紙等によるPR
ロ テレビ・ラジオによる建設雇用改善法の趣旨及び内容の紹介(とくに建設雇用改善助成金について)
ハ 都道府県建設主管部局に対する関係資料の提供等、連けいの強化
ニ 建設関係の会議(関係行政機関又は建設事業主団体の主催する会議等)への積極的参加
(2) 複雑な下請機構のもとに実際の工事が施工される建設業の特質を考慮し、元請事業主又は建設事業主の団体を通じて建設雇用改善法の趣旨及び内容が、末端の下請企業にまで浸透するように努めるため、次の措置をさらに推進すること。
イ 現在行つている建設雇用改善法の施行状況に関する建設事業主からのヒヤリングをさらに継続して実施することとし、そのヒヤリングを通じて元請事業主については、建設雇用改善法に規定されている義務事項を自ら遵守するよう指導するとともに、建設雇用改善法第八条による下請事業主の把握と下請事業主に対する指導援助を積極的に行うようよびかけること。
また、最初のヒヤリングの際、建設雇用改善法による義務事項の遵守状況又は下請事業主に対する指導援助が不十分であると思料された元請事業主については、再びヒヤリングの対象とし、その後における改善の状況を中心にヒヤリングを実施すること。
ロ 元請事業主又は建設事業主の団体による雇用管理研修の開催を通じて、小零細企業への建設雇用改善法の浸透を図ることとし、そのため、昭和五二年二月二八日雇対発第六号「建設雇用改善助成金の利用促進等について」の記の三「雇用管理研修助成金を利用する事業主等への援助」に示すところにより、雇用管理研修の実施を積極的によびかけること。
2 建設事業主に対する指導監督の推進
上記一による建設雇用改善法の周知促進と併せて、建設事業主に対する指導監督をすすめ、これを通じて、その徹底を図ることとする。
(1) ヒヤリングを通じての指導
上記一の(2)のイによるヒヤリングを通じての指導を効果的に行うこと。
(2) 労働基準監督機関との連けい
イ 建設雇用改善法によつて義務づけられている事項の遵守は、適正な労働条件の確保、労働条件をめぐる紛争の未然防止のためにも不可欠のものであることにかんがみ、次の事項について労働基準監督機関の協力が得られるよう、相互の連けい体制の確立を図ること。
なお、都道府県職業安定主務課においては、都道府県労働基準局との連絡の場を活用し、十分意志の疎通を図るとともに、下記(イ)及び(ロ)についての職業安定機関と労働基準監督機関との連絡の方途等についてもあらかじめ協議しておくこと。
(イ) 都道府県職業安定主務課と都道府県労働基準局との連けい
重大災害又は大型賃金不払いの事案について都道府県労働基準局からの情報提供を受け、法による義務事項の遵守状況及び元請事業主の指導援助の状況について所要の把握を行うこと。
(ロ) 公共職業安定所と労働基準監督署の連けい
次の事案について、労働基準監督署の情報提供を受け、建設事業主に対する指導監督をすすめること。
a 雇入通知書の交付が行われていない事業場において、賃金不払又は賃金に関する紛争等が生じた事案
b 安全衛生規則第六六四条第一項第二号に係る「関係請負人の事業の種類並びに当該事業場の名称及び所在地」の報告が管轄労働基準監督署長に行われておらず、かつ関係請負人の把握がなされていない事案
c その他前二号に準じ相互の連絡を要すると考えられる事案
(3) 建設雇用改善法第一一条による報告命令制度の活用等
上記(2)及び職業安定機関の活動等により建設雇用改善法による義務的事項が遵守されていない事業場及び下請事業主の把握等の不十分な元請事業主が把握された場合には、それらの事業主に対して強力に指導を行うものとするが、そのほか、その事案の内容に応じ、別途指示するところにより、元請事業主に対して、下請事業主の雇用管理の把握状況、今後における改善についての考え方等に関して建設雇用改善法第一一条による報告を求めること。
(4) 出稼労働対策との連けい
出稼労働者の就労先の多くが建設業であること、雇用関係の明確化等の必要性が、出稼労働者をはじめとする期間雇用者についてとくに高いことにかんがみ、次に掲げる措置により、これらの者に対する雇入通知書の完全交付を期することはもとより、その他建設雇用改善法による義務的事項についても、遵守の徹底を図ることとする。
イ 送出地の職業安定機関においては、現地相談等求人者と接する機会を利用して、建設雇用改善法による義務事項の遵守、とりわけ雇入通知書が必ず交付されるよう指導を徹底すること。
また、需要地の職業安定機関においては、出稼労働者受入協議会等の場を活用して、建設雇用改善法の周知と義務的事項の遵守についての指導を行うこと。
ロ 出稼労働者自身とくにグループリーダーに対しては、建設雇用改善法の趣旨及び内容を周知させるとともに、雇入通知書が種々の紛争の未然防止に果たす役割を十分理解させておくこと。
ハ 出稼労働対策等に関係する市町村に対して、関係資料の提供を行い、建設雇用改善法の趣旨及び内容について理解させておくこと。
3 建設雇用改善助成金の利用促進について
建設雇用改善助成金の利用状況が低調であることから、建設雇用改善助成金の支給要件等について、五二年度から改正を行つている。
ついては、建設雇用改善指導員との連けい協力のもとに、これら改正事項のPRを急ぐとともに、さきに指示された昭和五二年二月二八日雇対発第六号に掲げる措置を強力に推進し建設雇用改善助成金の利用促進を図ること。