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○労働安全衛生法及びじん肺法の一部を改正する法律の施行について(じん肺法関係)

(昭和五三年四月二八日)

(発基第四七号)

(各都道府県労働基準局長あて労働事務次官通達)

労働安全衛生法及びじん肺法の一部を改正する法律は、昭和五二年七月一日、法律第七六号として公布され、そのうちじん肺法の改正規定(以下「改正法」という。)は、労働安全衛生法及びじん肺法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(昭和五三年政令第三二号)により、本年三月三一日から施行されることとなつた。

改正法は、じん肺に関する健康管理を格段に充実強化したものであり、今後のじん肺対策の推進の根幹となるものであるので、左記の事項に十分留意の上、その運用に万全を期されるよう、命により通達する。

第一 じん肺法の改正の経緯及び趣旨

一 じん肺法は、昭和三五年に制定されて以来一〇数年を経過しており、その間の産業活動の進展に伴い、粉じん作業従事労働者が約六〇万人にも達し、じん肺により要療養となる者の数も年々増加している等の変化が見られる一方、じん肺に関する医学的研究も進歩してきたことから、同法の改正が提起されるに至つたものであり、昭和五〇年九月には、じん肺審議会から法改正を前提としての意見書が労働大臣あて提出された。

このような情勢を踏まえ、労働省は、昭和五〇年六月じん肺健康管理専門家会議を設置し、粉じん作業従事労働者のより一層の健康管理の充実を図るため医学的、工学的専門事項について検討を依頼するとともに、じん肺法改正の準備を進めてきたところ、昭和五一年一二月に同専門家会議の検討結果が取りまとめられ、これに基づいてじん肺法改正の基本方針を作成した。

この基本方針をめぐつて同年一二月からじん肺審議会で検討が重ねられた結果、昭和五二年三月同審議会の答申を得、これを受けて今回の改正を行つたものである。

二 じん肺は、長期間粉じんを吸入することによつて、肺に線維増殖性変化を主体とする一般的には不可逆性の病変を起こす疾病であり、現在の医学ではこの病変を回復させる有効な治療の方策は一般的にはない。

このような特性を有することから、じん肺の発生を防止するためには、作業環境対策に加えて、

① 定期的な健康診断によつてその病状を早期に、かつ、的確には握し、

② それに基づいて適切な管理区分を設定し、

③ 各管理区分に応じて、粉じんの暴露量を減少し、又は暴露機会をなくすことを基本とする的確な健康管理上の措置を講ずる、

ことにより、じん肺のより以上の進展を防止することが不可欠である。

このため、改正法では、じん肺の定義、じん肺管理区分、じん肺健康診断、健康管理のための措置等について整備充実を図るとともに、じん肺と密接な関連を有する合併症について療養を主体とした健康管理の措置を講ずることとしたものである。

第二 じん肺法の改正の内容

一 じん肺の定義(第二条関係)

(一) 改正前のじん肺法(以下「旧法」という。)では、じん肺の合併症として肺結核を取りあげ、これをじん肺の定義の中に含めていたが、最近の医学的知見によれば、肺結核以外にもじん肺と密接な関連があると認められる疾病が明らかになつており、これらの疾病も肺結核と同様に合併症としてじん肺法の中で位置づけ健康管理を行う必要が生じてきた。

これらの合併症は、重篤化しない段階においては一般に可逆的であり、その症状が発現したときに速やかに的確な治療を加えることが健康管理上必要である。

このため、合併症はじん肺そのものとは別個に定義し、じん肺の進展防止方策と並んで、療養を主体とした適切な健康管理の措置を講ずることとしたものである。

なお、肺結核については、旧法と異なり、じん肺管理区分の決定の要件から除外されているが、進行したじん肺に合併した肺結核は、いまだ相当に治ゆが困難であることから、肺結核り患者の早期治療、完治までの十分な治療の保障等について、事業者に対し、積極的に指導されたいこと。

(二) じん肺を起こす起因粉じんについて、旧法では「鉱物性粉じん」としていたが、近年、特定の有機粉じんを吸入することによつても鉱物性粉じんによるものと同様のじん肺が起こるとの意見もあるところから、今後の医学的解明の結果によつては有機粉じんをも含み得る余地を残すため、「鉱物性」という文言を削除したものであること。今後の調査研究により、特定の有機粉じんについてもじん肺を起こすとの専門家の合意が得られれば、その時点で当該粉じんに係る作業を「粉じん作業」としてじん肺法施行規則に追加することとなるものであること。

二 エツクス線写真の像の区分(第四条第一項関係)

エツクス線写真の像の区分について、近年の医学的知見の進歩、エツクス線撮影技術の向上等を背景に国際的にも一九七一年のILO U/C分類が採用されていることを考慮し、改正法では、この一九七一年のILO U/C分類を参考としてその表現を改めることとしたものであること。この法律上の表現の改訂によつてエツクス線写真の読影に関し、従来と実質的な差違が生じないものであること。

三 じん肺管理区分(第四条第二項関係)

改正法では、じん肺の進展度合に応じた適切な健康管理のための措置を行うことにより、じん肺の進展を的確に防止するという観点から、不可逆性のじん肺そのものに着目して管理区分を定めることとし、じん肺の病像をより客観的に反映し、かつ、再現性の高いエツクス線写真の像を基礎として五つに区分し、その呼称も「じん肺管理区分」と改めたものであること。

したがつて、じん肺の病像の区分を労働者の現実の健康状態に着目し、じん肺健康診断の結果を組み合わせてじん肺の健康管理の区分として定めていた旧法とは基本的にその考え方を異にするものであること。

四 じん肺健康診断の実施(第七条から第九条の二まで関係)

じん肺を早期に発見し、又はその進展の度合を的確には握するため、定期健康診断について、現に常時粉じん作業に従事しているじん肺有所見者すべてについて一年以内ごとに一回、じん肺健康診断を実施すべきこととするとともに、粉じん作業から作業転換した後の定期健康診断の規定を充実し、また、定期外健康診断については、じん肺管理区分の変更につながることが予想される場合に行うべきこととし、さらに、新たに離職時健康診断制度を設け、粉じん作業から離れる労働者の離職後の健康管理の適正化に資することとしたものであること。

五 じん肺管理区分の決定の通知(第一四条関係)

都道府県労働基準局長からじん肺の管理区分の決定通知を受けた事業者が労働者に対して行うべき通知については、従来その方法は任意とされ、時には不徹底のきらいがあつたが、改正法では、これを確実に行わせるため、通知の方法を労働省令で定めることとし、かつ、通知した旨を記載した書面を作成して保存しなければならないこととしたものであること。

六 エツクス線写真等の提出命令(第一六条の二関係)

旧法では、じん肺健康診断の結果、じん肺の所見があると診断された労働者であつても、事業者が都道府県労働基準局長にエツクス線写真等を提出しない限り、当該労働者についてのじん肺の管理区分を決定し得ないという問題点があつたが、改正法では、じん肺の所見のある者がすべて適正なじん肺管理区分の決定を受け得ることを制度的に担保するため、新たに都道府県労働基準局長のエツクス線写真等の提出命令の規定を設けたものであること。

七 粉じんにさらされる程度を低減させるための措置(第二〇条の三関係)

じん肺管理区分が管理二又は管理三イである労働者に対する健康管理のための措置として新たに規定したものであり、粉じん作業への就業を続けさせる場合には、粉じんにさらされる程度を低減させるための適切な措置を講ずるべき努力義務を事業者に課することとしたものであること。

なお、本条の運用に当たり、作業場所の変更、労働時間の短縮等を行う場合には、労働者の意思や職場の事情を無視するなど職場の摩擦を生ずることのないよう慎重を期されたいこと。

八 作業の転換(第二一条関係)

じん肺のより以上の進展を防止するためには、労働者を粉じん作業から他の作業へ転換することが最も効果的な措置であるが、この作業の転換については、じん肺の症状に応じて段階的にきめ細かく規制することとし、新たに管理三ロの労働者に対する一般的な作業転換の努力義務及び都道府県労働基準局長の作業転換の指示の規定を設けることとしたものであること。

なお、作業転換の指示に当たつては、長年なれ親しんだ職場を離れること、賃金の変動等現実に関係労使に対して及ぼす影響が重大であるので、適当な転換先職場の有無等を考慮し、労使の意見を十分聴取する等特に慎重を期されたいこと。

九 転換手当(第二二条関係)

旧法では、都道府県労働基準局長の勧告を受けて常時粉じん作業に従事しなくなつた労働者のみを転換手当の支払いの対象としていたが、改正法では、作業転換の努力義務の対象者を拡大したことに伴い、転換手当の支払いの対象者をも拡大するとともに、都道府県労働基準局長から作業転換の指示を受けた労働者については、作業転換が極めて重要であり、これを早急に行うことを促進するため、平均賃金の六〇日分に相当する額の転換手当を支払うべきこととしたものである。

一〇 作業転換のための教育訓練(第二二条の二関係)

作業転換に当たつて、労働者が他の作業に就くために必要な知識技能を有していない場合も多く、これが円滑な作業転換を阻害する一つの要因ともなつているので、作業転換のための教育訓練を新たに事業者の努力義務として規定したものであること。

一一 療養(第二三条関係)

旧法では、合併症については、活動性の肺結核にかかつた者のみが管理四として療養の対象とされていたが、改正法では、肺結核以外にも合併症の範囲を拡大するとともに、じん肺管理区分が管理二又は管理三の者であつても合併症にかかつていると認められる者は療養の対象とすることとして、その健康管理の適正化を図つたものであること。