添付一覧
○勤労者財産形成促進法の一部を改正する法律の施行について
(昭和六二年一〇月一日)
(発基第八二号)
(各都道府県労働基準局長あて労働事務次官通達)
勤労者財産形成促進法の一部を改正する法律(昭和六二年法律第一〇〇号。以下「改正法」という。)は、昭和六二年九月二六日に公布され、原則として昭和六三年四月一日から施行されることとなつている(経過措置の一部は、本日から施行される。)。また、改正法の施行に必要な政令及び労働省令のうち、勤労者財産形成住宅貯蓄契約に関する事項及び勤労者財産形成貯蓄契約に係る経過措置に関する事項を定めた勤労者財産形成促進法施行令の一部を改正する政令(昭和六二年政令第三二六号。以下「改正令」という。)及び勤労者財産形成促進法施行規則の一部を改正する省令(昭和六二年労働省令第二九号)は、昭和六二年九月二九日に公布されたところである。
勤労者財産形成促進制度は、昭和四六年の勤労者財産形成促進法の制定以来着実に勤労者の間に定着し、特に勤労者財産形成貯蓄(以下「財形貯蓄」という。)及び勤労者財産形成年金貯蓄(以下「財形年金貯蓄」という。)の残高及び契約数は、昭和六一年度末現在でそれぞれ、約一一兆六、〇〇〇億円及び約一、九〇〇万契約に達している。しかし、財形貯蓄及び財形年金貯蓄に係る利子非課税制度を含む貯蓄優遇制度については、昨年一二月の税制調査会の答申の中で原則としてこれを廃止し、財形貯蓄のうち年金資金の保有及び持家取得を目的とするものに限つて課税の特例措置を講ずべきこととされた。また、財形貯蓄制度については、高齢化の進展や、離転職率の高い中小零細企業勤労者の就業実態を踏まえ、勤労者の計画的な貯蓄努力が着実に活かされるよう、制度面での改善を行うとともに、中小零細企業への勤労者財産形成促進制度の一層の普及促進が求められていた。このため、本年七月三一日、勤労者財産形成貯蓄制度の改善を内容とする勤労者財産形成促進法の一部を改正する法律案が第一〇九回臨時国会に提出され、九月四日一部修正の上衆議院を通過し、同月一九日参議院で可決・成立したものである。
この改正法及び関係政省令の改正並びに所得税法等の一部を改正する法律(昭和六二年九月二五日公布。法律第九六号。)による租税特別措置法(昭和三二年法律第二六号)の改正により、昭和六三年四月一日以降財形貯蓄に係る利子非課税措置は廃止され、財形年金貯蓄及び新設の勤労者財産形成住宅貯蓄(以下「財形住宅貯蓄」という。)について利子課税の特例措置が講じられることとなつたほか、転職、出向、転勤の際も財形貯蓄を継続し、もつて勤労者の計画的な財産形成を可能とするため、現在同一の取扱金融機関等のみで認められている財形貯蓄の継続措置をすべての金融機関間で認めることとするとともに、勤労者の多様な財産形成を可能とし、また、財形制度の一層の普及を促進するため、財形貯蓄等の範囲に、中小企業での利用の多い損害保険契約が加えられることとされた。
今回の改正法等の施行に当たつては、左記の事項に留意の上、関係者に対する周知徹底と円滑な実施に努められたく、命により通達する。
記
第一 改正法の趣旨及び内容
一 勤労者財産形成住宅貯蓄制度の創設
勤労者財産形成貯蓄制度に財形住宅貯蓄を加えることとしたこと。
(一) 勤労者財産形成住宅貯蓄契約
イ 契約の当事者
勤労者財産形成住宅貯蓄契約(以下「財形住宅貯蓄契約」という。)は、五五歳未満の勤労者が金融機関等、生命保険会社等又は損害保険会社を相手方として締結するものであること(改正法による改正後の勤労者財産形成促進法(以下「新法」という。)第六条第四項)。
ロ 契約の要件
財形住宅貯蓄契約は、預貯金等の預入等に関する契約、生命保険契約等又は損害保険契約であつて、次の要件を満たすものでなければならないものであること(新法第六条第四項各号)。
なお、「預貯金等の預入等に関する契約」、「生命保険契約等」及び「損害保険契約」の範囲は勤労者財産形成貯蓄契約(以下「財形貯蓄契約」という。)の場合と同様であり、したがつて財形年金貯蓄契約における「生命保険契約等」の範囲に含まれる郵便年金契約は財形住宅貯蓄契約における「生命保険契約等」の範囲に含まれないものであること。
① 預貯金等の預入等に係る金銭の払込み、生命保険契約等の保険料等の払込み又は損害保険契約の保険料の払込みは、五年以上の期間にわたつて定期に行うものであること。
なお、この場合の払込みには、継続預入等並びに財産形成給付金及び財産形成基金給付金によるものが含まれないので、(4)による賃金からの払込みを五年以上定期に行うものであることが必要であること(新法第六条第一項第一号イ参照)。
② 当該契約が預貯金等の預入等に関する契約である場合には、当該契約に基づく預貯金等及びその利子等については、政令で定めるところにより、持家としての住宅の取得のための頭金等その他政令で定める金銭の支払(以下「住宅取得資金の支払」という。)に充てられるほか、当該勤労者が死亡した場合(重度障害の状態となつた場合を含む。以下同じ。)を除き、これらの払出し等をしないこととされていること。ただし、政令で定める要件を満たす継続預入等のための払出し等については、この限りでないこと。
また当該契約が生命保険契約等又は損害保険契約である場合には、住宅取得資金の支払のほか、保険期間又は共済期間中に政令で定める特別の理由により死亡した場合に限り、保険金等の支払が行われるものであること。なお、その者が死亡した場合に支払われる保険金等の額は政令で定める額以下の額とされていること。
③ 持家としての住宅の取得のための対価から頭金等を控除した残額に相当する金額がある場合には、当該勤労者が、当該金額の支払を事業主等から貸付けを受けて支払う方法その他政令で定める方法により行うことを予定している旨が明らかにされているものであること。
④ 預入等に係る金銭の払込み又は保険料等の払込みは、当該勤労者とその者を雇用する事業主との契約に基づき、当該事業主が当該勤労者に支払う賃金から控除してその者に代わつて行うものであること。また、当該勤労者が財産形成給付金又は財産形成基金給付金に係る金銭により、政令で定めるところにより行うことができるものであること。
⑤ 当該契約が生命保険契約等又は損害保険契約である場合には、①から④までの要件のほか、次の要件を満たすものであること。
a 当該契約の被保険者又は被共済者と当該契約に基づく満期保険金等又は満期返戻金の受取人とが、共に当該勤労者であること。
b 当該契約に基づく剰余金の分配又は割戻金の割戻しは、利差益に係る部分に限り行われるものであること。
ハ 財形住宅貯蓄契約の数
既に財形住宅貯蓄契約を締結している勤労者は、新たに財形住宅貯蓄契約を締結することができないものであること。したがつて、勤労者が財形住宅貯蓄契約を締結している場合は、締結している財形住宅貯蓄契約の数は常に一つに限られることとなるものであること(新法第六条第五項)。
なお、一人の勤労者が、財形住宅貯蓄契約と財形貯蓄契約及び財形年金貯蓄契約を併せて締結することを妨げないものであること。
(二) 財形住宅貯蓄制度の創設に伴う諸制度の整備
イ 勤労者財産形成給付金制度及び勤労者財産形成基金制度についての改正
一年以上財形住宅貯蓄を有する勤労者も、財形貯蓄の場合と同様、勤労者財産形成給付金制度及び勤労者財産形成基金制度の対象とするものとしたこと(新法第六条の二第一項)。
したがつて、財形住宅貯蓄を行う勤労者に対しては、事業主は、これらの制度を利用して、その財産形成を援助することができるものであること。
なお、これらの制度による財産形成給付金又は財産形成基金給付金は、政令で定めるところにより勤労者が財形住宅貯蓄の預入等に充てることができることは1の(1)のロの④のとおりであること。
ロ 勤労者財産形成持家融資制度及び勤労者財産形成進学融資制度についての取扱い
財形住宅貯蓄を有する勤労者についても、持家取得の促進等を図るため、勤労者財産形成持家融資制度及び勤労者財産形成進学融資制度の対象とし、その残額をそれらの融資の貸付限度額の算定の基礎に算入するものとなること(第六条の二第一項)。
(三) 財形住宅貯蓄制度の実施細目等
財形住宅貯蓄制度の実施細目等については、別途労働省労働基準局長より指示するものであること。
二 転職等をした場合の継続措置の拡充
(一) 従来、財形貯蓄契約を締結している勤労者が転職、出向又は転勤(以下「転職等」という。)をした場合、転職等前の事業主(以下「従前の事業主」という。)の下で締結していた財形貯蓄契約の相手方である金融機関等又は生命保険会社等が、転職等後の事業主(以下「新事業主」という。)の下で締結することができる財形貯蓄契約の相手方となる金融機関等又は生命保険会社等の中に含まれておらず、かつ、従前の事業主の下で締結していた財形貯蓄契約の相手方である金融機関と新事業主の下で締結することができる財形貯蓄契約の相手方となる金融機関との間に預貯金に係る債務の承継に関する契約が締結されていないときには、勤労者は従前の事業主の下で締結していた財形貯蓄契約に基づく預入等を引き続き行うことができなかつたが、今回の改正により、財形貯蓄契約を締結している勤労者が転職等をした場合において、新事業主が従前の契約の相手方である財形貯蓄取扱機関に当該勤労者に代わつて当該契約に基づく預入等に係る金銭の払込みを行う旨の契約を締結することができないときには、一定の期間内に、新事業主の下での財形貯蓄取扱機関との契約(新契約)に基づき、①従前の契約の相手方である財形貯蓄取扱機関と新契約の相手方である財形貯蓄取扱機関との契約に基づき、従前の契約に基づく預貯金等及びこれに係る利子等又は保険料若しくは共済掛金の払込みに係る金額の金銭その他の金銭により、新契約に基づく最初の預入等に係る金銭の払込みを行うこと。②①の払込みの日以後、定期に(従前の契約に基づく預入等に係る金銭の払込みが行われた期間が三年未満であるときは、三年から従前の契約に基づく預入等に係る金銭の払込みが行われた期間を減じて得た期間以上の期間にわたつて定期に)、当該新契約に基づく預入等に係る金銭の払込みを行うものであること、③その他政令で定める事項、を定めたときは、従前の契約に基づく預貯金等及びこれに係る利子等又は保険料若しくは共済掛金の払込みに係る金額の金銭その他の金銭を新契約に引き継ぐことができるものとし、当該新契約は勤労者財産形成貯蓄契約に該当するものとみなすものとすることにより、転職等の場合にも財形貯蓄契約に基づく預入等を着実に継続できるようにするものであること(新法第六条第六項)。また、財形年金貯蓄契約及び財形住宅貯蓄契約についても同様の措置が講じられるものであること(新法第六条第七項)。
(二) 本措置に関する細目等については、関係政省令の整備を待つて、別途労働省労働基準局長より指示するものであること。
三 勤労者財産形成貯蓄契約等の範囲の拡大
財形貯蓄契約、財形年金貯蓄契約、財形住宅貯蓄契約、勤労者財産形成給付金契約及び勤労者財産形成基金契約の範囲に、新たに所定の要件を満たす損害保険契約を含めることとしたこと。これは、勤労者ができるだけ広く財形貯蓄等を利用することができるようにするとともに、中小企業での財形制度の普及が一層促進されることを期するものであること(新法第六条、第六条の二、第六条の三)。
なお、新たに追加された損害保険契約の細目等については、関係政省令の整備を待つて、別途労働省労働基準局長より指示するものであること。
四 財形貯蓄等に対する課税の特例の変更
(一) 課税の特例の変更の内容
従来、財形貯蓄及び財形年金貯蓄については、租税特別措置法の定めるところにより、これらの貯蓄を通じ元本五〇〇万円までから生ずる利子等について非課税措置が講じられてきたところであるが、所得税法等の一部を改正する法律による租税特別措置法の改正及び地方税法の一部を改正する法律(昭和六二年九月二二日公布。法律第九四号。)による地方税法(昭和二五年法律第二二六号)の改正に伴い、昭和六三年四月一日以降は、財形貯蓄については通常の預貯金と同様二〇%の税率による源泉分離課税(一五%が国税、五%が地方税)が行われることとなり、財形年金貯蓄と新設の財形住宅貯蓄について、租税特別措置法及び地方税法の定めるところにより、所得税及び道府県民税(都民税を含む。)の課税に関する特例措置が講じられることとされ、これらの貯蓄を通じ元本五〇〇万円までから生ずる利子等について非課税措置が講じられることとされたこと(新法第八条)。
(二) 課税の特例の変更に伴う経過措置
財形貯蓄等に対する課税の特例の変更に伴い、次のような経過措置を講ずるものとしたこと(改正法附則第二条第一項及び第二項)。
イ 施行日(昭和六三年四月一日)前に財形貯蓄契約を締結した勤労者は、昭和六二年一〇月一日以後昭和六三年九月三〇日(既に事業場で財形年金貯蓄を導入している場合であつて、当該勤労者が財形貯蓄を財形年金貯蓄に変更しようとするときは、昭和六三年四月一日以後の当該財形貯蓄契約に基づく最初の預入等の日(以下「初回預入日」という。)、当該契約に基づく最初の利子等の支払日(以下「初回利払日」という。)又は昭和六三年九月三〇日のいずれか早い日)までの間に限り、当該財形貯蓄契約を財形年金貯蓄契約又は財形住宅貯蓄契約に変更することができるものとしたこと。
ロ 施行日前に財形貯蓄契約を締結した勤労者は、昭和六三年四月一日以後同年九月三〇日(既に事業場で財形年金貯蓄を導入している場合であつて、当該勤労者が当該財形貯蓄により財形年金貯蓄契約に基づく預入等を行おうとするときは、初回預入日、初回利払日又は昭和六三年九月三〇日のいずれか早い日)までの間に限り、当該財形貯蓄により財形年金貯蓄契約又は財形住宅貯蓄契約に基づく預入等を行うことができるものとしたこと。
(三) 課税の特例の変更に関する実施細目等
前記(一)及び(二)の実施細目等については、別途労働省労働基準局長より指示するものであること。
第二 改正内容等の周知及び活用促進
今回の改正により、勤労者による本制度の利用が従来にも増して促進され、勤労者の福祉の一層の増進に寄与することとなるものと期待しているところであること。
ついては、勤労者、事業主等に対して、改善内容等について、関係機関等とも協力しつつ、その周知徹底に努められたいこと。特に、今回の税制改正に伴い、財形貯蓄等に対する課税の特例が変更されることとなるため、財形貯蓄から財形年金貯蓄又は財形住宅貯蓄への引継措置や新設される財形住宅貯蓄の内容の周知については特段に配慮すると同時に、今回の制度改善の目的のひとつは中小企業への財形制度の普及促進であることにかんがみ、中小企業への本制度の啓蒙広報にも一層尽力すること。