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○家内労働法の施行について

(昭和四五年一二月二八日)

(基発第九二二号)

(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)

家内労働法(以下「法」という。)及び同法施行規則(以下「則」という。)の施行については、昭和四五年一〇月一日付け労働省発基第一一五号により労働事務次官から通達されたところであるが、その細部の取扱いについて下記のとおり定めたので、家内労働の実態に即しつつ円滑な実施を図るよう配意されたい。

Ⅰ 定義

一 家内労働者

(一) 法第二条第二項中「主として労働の対償を得るために」とは、家内労働者の労働者的性格を定義上、より明確にしたものであり、例えば高価な機械設備を保有する企業的なものは本法の保護の対象から除かれるものである。したがつて、家内労働者の範囲は、具体的には、製造加工等に係る収入が、就業時間、技能等を考慮して、なお同種の雇用労働者の賃金と比較して相当高額になる場合には、当該製造、加工等に係る収入の主たる部分が雇用労働者の賃金(労働基準法第一一条参照)に相当する部分で占められているかどうかによつて判断するものとする。

(二) また、同項中「同居の親族以外の者を使用しないことを常態とするもの」とは、同居の親族以外の者(以下「他人」という。)を使用しないことを常態とする者がたまたま臨時的に他人を使用しても家内労働者たる属性を失うものでなく、また、常時他人を使用する者が、たまたま一時期において他人を使用しない常態になつても、直ちに家内労働者となるものでないことを意味するものである。

二 委託者

(一) 法第二条第三項においては、委託者の範囲を改正前の最低賃金法第二条第三項と同様「物品の製造、加工等又は販売を業とする者」のほか、「これらの請負を業とする者」(以下「請負業者」という。)をも含むものとしているが、この場合の請負業者とは、注文者に対し作業の完成について財産上及び法律上のすべての責任を負い、これを自己の名において他人に委託することを業とする者をいうものとする。なお、いわゆる請負的仲介人は、おおむねこれにあたるものである。

(二) また、「業務の目的物たる物品」とは、当該物品が製造・販売業者又は請負業者の製造、加工、販売の対象物若しくはその一部であるか、又は治具、いこみ成形の型等当該物品が、製造・販売業者若しくは請負業者の事業遂行に関連のある物品に限られるものであり、たとえば物品製造会社がその雇用する労働者の福利厚生のために行なう運動会に使用する物品をたまたま委託する場合等、当該物品が事業遂行に関連がない場合には、業務の目的物たる物品とはならないものとする。

Ⅱ 工賃の支払い

一 工賃の一部控除

法第六条第一項の規定は、全額払い及び通貨払いの原則を規定しており、工賃からの控除及び現物給与の支給は禁止されていると解すべきである。したがつて委託者が工賃支払い後に検査を行ない、不良品を発見して工賃を減額する必要が生じた場合にもその後に支払うべき工賃の中からこの分を控除することは認められない。

二 則第三条の支払い

則第三条は家内労働の性格上、委託者と家内労働者とが遠く離れている場合が少なくないことが予想されるので、この事情を考慮して規定したものであるから、委託者の便宜のみから一方的に家内労働者にその同意がおしつけられる等のことがないよう委託者を指導するものとする。なお委託者が家内労働者の同意を得て則第三条各号に掲げる方法により工賃の支払いを行なう場合、当該支払い方法によるための所要の経費は、委託者において負担しなければならないものとする。

三 工賃の非常時払い

本法は、工賃の非常時払いについて規定していないが、家内労働者又は補助者が出産、疾病、災害等非常の場合の費用にあてるため既往の労働に対する工賃の支払いを請求する場合には、労働基準法第二五条の趣旨に準じて、委託者が当該工賃を支払うよう指導するものとする。

四 法施行時の第六条の取扱い

法第六条の規定は、原則として本年一〇月一日以降、家内労働に従事した分に対する工賃の支払いから適用されるものであるが、家内労働の場合、委託者が物品を提供してから、製品として再び受領するまでの間に相当の期間があるのが一般であり、家内労働者が当該製品の製造又は加工等に従事した時点が明確でないので、委託から受領までの間に法第六条の施行の日が含まれる場合に、当該委託にかかる工賃のすべてに法第六条を適用することは、当該規定は罰則をもつてその履行を強制していることにかんがみ適当でない。したがつて、これら法施行日以前の委託に係る工賃の支払いに関しては、法第六条は適用せず、施行日以後の委託に係る工賃の支払いについて適用するものとする。ただし、法施行日以前の委託であつても委託者が、でき上つた製品を順次受領しているような場合であつて、受領した製品が明らかに法施行日以後の就業に基づくものであると認められるものについては、当該製品に係る工賃の支払いから法第六条を適用するものとする。

Ⅲ 安全及び衛生

一 構造規格適合等の確認

則第一一条の規定の施行は、則附則第一条の規定により、昭和四六年七月一日となつているが、当該規定の施行前においても、委託者が則第一一条に規定する安全装置、機械又は器具を家内労働者に譲渡し、貸与し、又は提供する場合には、昭和四六年一月中に告示される予定の構造規格に適合したものとするよう指導するものとする。

二 防護措置

則第一三条の規定は、家内労働の特殊性にかんがみ、労働安全衛生規則上使用者の義務とされているもののうち、委託者に義務付けることの可能なものに限つて規定したものである。

三 危害防止のための書面の交付等

(一) 則第一四条第一項の規定による書面の交付は、委託者が危険有害な業務に従事する家内労働者及び補助者に対し、その業務の危険性を十分認識させるとともに、安全な作業方法を徹底させることを目的としたものである。

(二) 書面は、一定の機械、器具又は原材料その他の物品を家内労働者に譲渡し、貸与し、又は提供する場合に交付することとなつているが、委託業務の内容、使用する機械、器具又は原材料その他の物品について変更のない限り、委託者は、最初の委託にあたつて交付すれば足りるものである。

(三) 則別表第一について

イ 「機械」の第二号中の「そうじ」には、切粉払いは含まれない。また、同号ただし書の「機械の構造上作業者が危害をうけるおそれのない場合」とは、旋盤においてバイトを取り替える場合、マジツクチヤツクを備えたボール盤においてドリルを取り替える場合等をいう。

ロ 「研削といし」の第二号については、研削といしをその最高使用周速度をこえて使用しないために、研削といしの回転数を適時測定するように努め、とくに圧縮空気により駆動する可搬式のグラインダで直径が六五ミリメートル以上の研削といしを使用するものについては、一月に一回以上及び異常を認めたつど、研削といしの回転数を測定することを書面に記載するよう指導するものとする。

ハ(イ) 「有機溶剤等」の有機溶剤等とは、有機溶剤中毒予防規則第一条という有機溶剤又は有機溶剤含有物をいうものであるが、最近、例えば、メチルクロロホルム等有機溶剤中毒予防規則別表第一から別表第三までに掲げる有機溶剤以外の新たな有機溶剤が広く用いられるようになつてきているので、これらについても有機溶剤中毒予防規則別表第一から別表第三までの有機溶剤に準じて取り扱うよう指導するものとする。

(ロ) 家内労働で主として使用されている有機溶剤等には、次のようなものがある。

(Ⅰ) 有機溶剤……トルエン、キシレン、ベンジン、三塩化エチレン、アセトン、エーテル、メチルイソブチルケトン、テレビン油、ノルマルヘキサン、メチルクロロホルム、ベンゼン、ガソリン等

(Ⅱ) 有機溶剤含有物……塗料、絵具、接着剤

(ハ) 家内労働において、有機溶剤等を取り扱う業務には、次のようなものがある。

塗料(鋳物、バトミントンラケツト、漆器、こけし等の製造)

接着(プラスチツク履物、スリツパ、草履、ヘツプサンダル、地下足袋、ベルト、人形、造花装飾品、写真機、ケミカルシユーズ等の製造)

絵付(陶磁器、人形装飾品等の製造)

洗浄又は払しよく(メツキ、電気器具部品)

(ニ) 「有機溶剤の人体に及ぼす作用」については、次のような内容のものを記載して交付するよう指導するものとする。

(Ⅰ) 頭痛、けん怠感、めまい

(Ⅱ) 貧血(ベンゼン、トルエン、キシレン、三塩化エチレン等芳香族炭化水素及びハロゲン化炭化水素を主成分とする有機溶剤を使用する場合に限る。)

(Ⅲ) 肝臓障害(三塩化エチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素を主成分とする有機溶剤を使用する場合に限る。)

(ホ) 「有機溶剤等が皮膚にふれないようにすること。」については、一般に有機溶剤は、ガス、蒸気として呼吸器から体内に摂取され、中毒症状をあらわすが、次に掲げる有機溶剤等は、皮膚からも呼吸されて毒性を発揮するので、これらを取り扱う場合には、この事項の遵守について特段に留意するよう指導するものとする。

なお、保護具の使用については、則第一九条によるよう指導するものとする。

四塩化炭素(テトラクロルメタン)

二硫化炭素

ベンゼン

クレゾール

ジオキサン(ジエチレンジオキサイド)

(ヘ) 「必要な健康診断」については、有機溶剤中毒予防規則第二九条に掲げる項目について、年二回の定期の健康診断を受けることを書面の記載事項とするよう指導するものとする。

なお、前記(ニ)の自覚症状を訴え、又は誤つて有機溶剤等を飲みこんだときは、直ちに医師の診断を受けることを書面の記載事項とするよう指導するものとする。

(ト) 則別表第一に掲げるもののほか、その業務の態様に応じ空容器の処理(有機溶剤中毒予防規則第三四条参照)についても書面の記載事項とするよう指導するものとする。

ニ(イ) 「鉱物性粉じんを発散する原因となる物品」の「鉱物性粉じん」とは、じん肺法に規定するものをいう。

(ロ) 家内労働においてこれらの物品を取り扱う業務には、次のようなものがある。

(Ⅰ) 研ま材を用いる動力研ま(時計、洋食器、機械部品、自動車部品等)

(Ⅱ) 陶磁器、タイル等の製造(成型、生地加工等)

(ハ) 「鉱物性粉じんの人体に及ぼす作用」については、次のような内容のものを記載して交付するよう指導するものとする。

(Ⅰ) 息切れ、せき、たん、動悸、胸痛、呼吸困難

(Ⅱ) エツクス線写真の異常

(ニ) 「必要な健康診断」については、じん肺法に定めるじん肺健康診断を受けることを書面の記載事項とするよう指導するものとする。

ホ(イ) 「鉛等」の「鉛等」とは、鉛中毒予防規則に規定するものをいい、家内労働で主として使用される鉛等には、次のようなものがある。

鉛合金(ハンダ)、酸化鉛(一酸化鉛、四三酸化鉛、三二酸化鉛)、水酸化鉛、炭酸鉛、クロム酸鉛

(ロ) 家内労働において鉛等を取り扱う業務には、次のようなものがある。

(Ⅰ) ハンダ付け

(Ⅱ) 鉛化合物を含有する釉薬又は絵具を用いる施釉、絵付け又は焼成

(Ⅲ) 金属の焼入れ

(ハ) 「鉛等の人体に及ぼす作用」については、次のような内容のものを記載して交付するよう指導するものとする。

(Ⅰ) 便秘、腹部の疝痛

(Ⅱ) 四肢の伸筋麻ひ又は知覚異常、手指の振せん、握力の減退、関節痛

(Ⅲ) 鉛縁、鉛顔貌、貧血

(Ⅳ) 頭痛、不眠、めまい

(ニ) 「必要な健康診断」の内容については、鉛中毒予防規則第四七条の健康診断の受診を書面の記載事項とするよう指導するものとする。

(ホ) 則別表第一に掲げるもののほか、書面に記載すべき事項としては、その業務の態様に応じ、からの容器等の処理(鉛中毒予防規則第三七条参照)があるので、その点を指導するものとする。

四 有害物についての容器の使用等

(一) 則第一五条第一項の「当該物品が漏れ、又は発散するおそれのない容器」とは、ポリエチレン製、金属製等の容器であつて、蓋のしまるものをいい、破損のおそれのないものを使用させるものとする。

(二) また、同項の「当該物品の名称及び取扱い上の注意事項」とは、具体的には、次のような内容の事項をいう。

イ 有機溶剤及びこれを含有する塗料、絵具又は接着剤については、

(イ) 火気に近づけないこと。

(ロ) みだりに開放しないこと及び使用後は蓋をすること。

(ハ) なめたり、さわつたり、又は飲んだりしないこと。

ロ 鉛化合物を含有する絵具又は釉薬については、なめないこと。

(三) 同条第二項は、家内労働者が同条第一項各号の物品を委託者以外の者から購入して使用する場合のほか、家内労働者が当該物品を使用する際に小出しする容器等についても、同条第一項の規定を準用したものであるので、前記(一)、(二)によるよう指導するものとする。

五 設備等の設置

(一) 則第一八条の規定は、中毒予防の措置として、有害物のガス、蒸気又は粉じんの発散抑制設備を設けることを努力義務として課したものである。

(二) また、これらの設備は、直ちに設置することが困難である場合が少なくないと思われるので、設置までの間は、窓の開放等による自然換気を励行するよう指導するものとする。

(三) 則第一八条表中「有機溶剤又は有機溶剤含有物を取り扱う業務」の「局所排気装置」又は「排気筒」は、有機溶剤中毒予防規則でいう「局所排出装置」又は「排気管」と同趣旨である。

なお、指導に際しては、作業の性質上「蒸気の発散源を密閉する設備」を設けることが困難な場合には、「局所排気装置」が最も望ましいものであることを指導するものとする。

六 保護具等の使用

(一) 則第一九条表中の「ガス、蒸気又は粉じん」には、則第一八条及び則別表第一にいう有機溶剤等、鉛等及び鉱物性粉じんのガス、蒸気又は粉じんはもちろんのこと、酸、アルカリ等呼吸器より吸入され、人体に障害を及ぼす総ての物質のガス、蒸気又は粉じんが含まれるものである。

(二) 「防毒マスク」については、ガス又は蒸気の種類にみあうものを使用するよう指導するものとする。

(三) 「防毒マスク」及び「防じんマスク」については、国家検定合格品(国家検定の行なわれていないものについては日本工業規格品)を用いるよう指導するものとする。

(四) 「塗布剤、不浸透性の作業衣又は手袋」は、有機溶剤等にあつては、前記三、(三)、ハ、(イ)に掲げたものを取り扱う場合にも使用させるものとする。

Ⅳ その他

一 営業所

法及び則にいう「営業所」とは、委託者の委託業務の場所的中心をいうものであつて、委託業務に関する意思決定ができる人的組織・機関を備えているものである。これは労働基準法における事業又は事務所に相当するものである。

「営業所」には、一般に委託者の営業活動の本拠のほか委託者たる法人又は人の支店、営業所、出張所が含まれ、支所、連絡所、集積所等の名称で呼ばれていても上記の実態を備えたものは、その名称の如何を問わず営業所に該当する。

なお、代理人が委託業務を行なつている場所的中心は、委託者の「営業所」とはならないが、家内労働者からの申告に基づく監督指導等については現地において処理することが有効であると考えられるので、代理人が委託業務に関し、物品の受渡し、仕事の割り振り、家内労働手帳の記入、工賃の支払い等を行なつている場合には、委託者が備えつけるべき帳簿の写しを当該代理人の住所(代理人の営業活動の本拠を含む。)に備えつけるよう指導するものとする。

二 代理人

(一) 則第一条及び則第二四条中「代理人」とあるのは、その授与された代理権の範囲内において委託者のために行為する者をいい、単に委託者の指示に従い物品の運搬、物品の受渡し等事実行為のみを行なう者は、これにあたらない。

(二) いわゆるグループリーダーについては、独立して次の各号の一に該当する業務を行ない、これに対し委託者からリーダー手当等の報酬を得ている場合には「代理人」であると解する。

イ 家内労働者の技能、能率等を勘案して仕事の段取り、割り振りを行なうこと。

ロ グループ内の家内労働者のために補助材料等を購入して支給すること。

ハ 製造又は加工等に係る物品の検査を行なうこと。ただし、グループ内における製品の自主的なチエツクはこの限りでないこと。

(三) なお、上記(二)の各号に該当する行為を行なつている者であつても、委託者に使用され、賃金の支払いを受けている場合には、委託者の代理人ではなく、委託者の労働者である。

(四) なお、家内労働者に代わつて、委託者との委託条件の交渉、取り決め、物品又は工賃の受領等を行ない委託者からなんら報酬を受けない者は、委託者の従業員とはならない。

三 両罰規定

本法では、委託者の責任は、委託に係る事業を行なう人又は法人(事業主)にあり、事業主のために行為する者は「委託者」の範囲に含まれていないが(法第二条第三項参照)、委託者たる法人の代表者又は委託者の代理人、使用人その他の従業者が委託者の業務に関して違反行為をしたときは、法第三六条により当該従業者等が罰せられるとともに、委託者にも罰金刑が科せられるものである。