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○労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法について
(平成四年七月二日)
(発基第五八号)
(都道府県労働基準局長あて労働事務次官通達)
労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法(平成四年法律第九〇号)については、本年三月二四日に第一二三回国会に提出され、審議が重ねられてきたところであるが、衆議院で一部修正の上可決、六月一九日の参議院本会議で可決成立し、本日公布されたところである。
労働時間の短縮は、豊かでゆとりある勤労者生活を実現し、生活大国に向けての前進を図るために不可欠な国民的課題となっているが、労働時間の動向を見ると、昭和六三年に改正労働基準法が施行されて以来着実に短縮しているものの、年間総労働時間一八〇〇時間を達成するという政府の目標の実現のためには、より一層の努力が必要である。
特に、企業間の競争、同業他社との横並び意識、取引慣行の問題等により、個々の企業の自主的努力だけでは、労働時間の短縮が困難な状況も見られることから、労働時間の短縮を促進するためには、個個の企業による自主的な努力を促進するための環境整備を図っていくことが重要な課題となってきているところである。
この法律は、このような観点に立って、本年一月に行われた中央労働基準審議会の「労働時間の短縮の促進に関する施策の充実について」の建議に沿い、労働時間短縮推進計画の策定、企業内の労働時間短縮推進体制の整備、業種ごとの実情に応じた労働時間短縮の推進等を図るものであり、その主たる内容は下記のとおりである。
労働省としては、この法律の円滑な施行に万全を期すこととしており、この法律の施行のために必要な関係政省令については、今後中央労働基準審議会に諮り、その答申を得て、制定、公布することとしている。貴職におかれては、以上のことを十分御理解の上、所要の準備に努められたく、命により通達する。
記
1 目的(第一条関係)
この法律は、我が国における労働時間の現状及び動向にかんがみ、労働時間短縮推進計画を策定するとともに、事業主等による労働時間の短縮に向けた自主的な努力を促進するための特別の措置を講ずることにより、労働時間の短縮の円滑な推進を図り、もって労働者のゆとりのある生活の実現と国民経済の健全な発展に資することを目的とすること。
2 関係者の責務(第二条及び第三条関係)
(1) 事業主は、その雇用する労働者の労働時間に関し、その短縮を計画的に進めるため、休日数の段階的な増加その他必要な措置を講ずるように努めなければならないものとすること。
(2) 事業主の団体は、その構成員である事業主の雇用する労働者の労働時間の短縮に関し、必要な助言、協力その他の援助を行うように努めなければならないものとすること。
(3) 事業主は、他の事業主との取引を行う場合において、当該他の事業主の講ずる労働時間の短縮に関する措置の円滑な実施を阻害することとなる取引条件を付けない等取引上必要な配慮をするように努めなければならないものとすること。
(4) 国は、労働時間の短縮について、事業主、労働者その他の関係者の自主的な努力を尊重しつつその実情に応じてこれらの者に対し必要な指導、援助等を行うとともに、これらの者その他国民一般の理解を高めるために必要な広報その他の啓発活動を行う等、労働時間の短縮を促進するために必要な施策を総合的かつ効果的に推進するように努めなければならないものとすること。
(5) 地方公共団体は、国の施策と相まって、広報その他の啓発活動を行う等労働時間の短縮を促進するために必要な施策を推進するように努めなければならないものとすること。
3 労働時間短縮推進計画(第四条及び第五条関係)
(1) 国は、労働時間の短縮を推進するための計画(以下「労働時間短縮推進計画」という。)を策定しなければならないものとすること。
(2) 労働時間短縮推進計画に定める事項は、次のとおりとすること。
イ 労働時間等の動向に関する事項
ロ 労働時間の短縮の目標に関する事項
ハ 労働時間の短縮を推進するための事業主、労働者その他の関係者に対する指導及び援助に関する事項
ニ その他労働時間の短縮の推進に関する重要事項
(3) 労働時間短縮推進計画は、政府の策定する経済全般に関する計画と調和するものでなければならず、かつ、事業主、労働者その他の関係者による労働時間の短縮に向けた自主的な努力を助長するように配慮して定められなければならないものとすること。
(4) 労働大臣は、労働時間短縮推進計画の案を作成して、閣議の決定を求めなければならないものとすること。
(5) 労働大臣は、労働時間短縮推進計画の案を作成する場合には、あらかじめ、関係行政機関の長と協議し、及び都道府県知事の意見を求めるとともに、中央労働基準審議会の意見を聴かなければならないものとすること。
(6) 労働大臣は、閣議の決定があったときは、遅滞なく、労働時間短縮推進計画を公表しなければならないものとすること。
(7) 労働大臣は、労働時間短縮推進計画の的確かつ円滑な実施のため必要があると認めるときは、関係団体に対し、労働時間の短縮に関する事項について、必要な要請をすることができるものとすること。
4 労働時間短縮の実施体制の整備(第六条及び第七条関係)
(1) 事業主は、事業主を代表する者及び労働者を代表する者を構成員とする労働時間の短縮を図るための措置等を調査審議する委員会を設置する等労働時間の短縮を効果的に実施するために必要な体制の整備に努めなければならないものとすること。
(2) 次の要件を満たす労働時間短縮推進委員会が設置されている事業場においては、労使協定に代えて当該委員会の委員全員の合意による決議によりフレックスタイム制等を行うことができることとし、当該決議のうち三箇月単位の変形労働時間制、一週間単位の非定型的変形労働時間制及びみなし労働時間制に係るものについては、労働基準監督署への届出を要しないものとすること。
イ 当該委員会の委員の半数については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の推薦に基づき指名されていること。
ロ 当該委員会の設置について、労働基準監督署長に届け出ていること。
ハ 当該委員会の議事について、議事録が作成され、及び保存されていること。
ニ その他労働省令で定める要件
5 労働時間短縮実施計画(第八条から第一一条まで関係)
(1) 同一の業種に属する二以上の事業主であって、営業時間の短縮、休業日数の増加その他の労働時間の短縮が見込まれる措置(以下「労働時間短縮促進措置」という。)を実施しようとするものは、共同して、実施しようとする労働時間短縮促進措置に関する計画(以下「労働時間短縮実施計画」という。)を作成し、これを労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣に提出して、その労働時間短縮実施計画が適当である旨の承認を受けることができるものとすること。
(2) 労働時間短縮実施計画には、次に掲げる事項を記載しなければならないものとすること。
イ 労働時間短縮促進措置の実施により達成しようとする目標
ロ 労働時間短縮促進措置を実施する事業場
ハ 労働時間短縮促進措置の内容及びその実施時期
ニ その他省令で定める事項
(3) 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、労働時間短縮実施計画の承認の申請があった場合において、その実施計画が次の各号に適合するものであると認めるときは、その承認をするものとすること。
イ 労働時間短縮の目標が当該計画に係る事業場の労働者の労働時間等に関する実情に照らして適切なものであること。
ロ 労働時間短縮促進措置の内容等が労働時間短縮の目標を確実に達成するために必要かつ適切なものであること。
ハ 一般消費者及び関連事業主の利益を不当に害するおそれがあるものでないこと。
ニ 当該労働時間短縮実施計画の実施に参加し、又はその実施から脱退することを不当に制限しないこと。
(4) 労働大臣は、労働時間短縮実施計画の承認をしようとするときは、あらかじめ、中央労働基準審議会の意見を聴くとともに、当該計画に係る事業場の労働者の意見を聴くように努めるものとすること。
(5) 承認を受けた事業主(以下「承認事業主」という。)は、承認を受けた労働時間短縮実施計画(以下「承認計画」という。)を変更しようとするときは、労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣の承認を受けなければならないものとすること。
(6) 公正取引委員会との関係
イ 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、労働時間短縮実施計画の承認をしようとする場合において、必要があると認めるときは、申請書の写しを公正取引委員会に送付するとともに、公正取引委員会に対し、必要な事項について意見を述べるものとすること。
ロ 公正取引委員会は、必要があると認めるときは、労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣に対し、送付された労働時間短縮実施計画について意見を述べるものとすること。
ハ 公正取引委員会は、送付された労働時間短縮実施計画であって承認を受けたものに従ってする行為について、当該承認後私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の規定に違反する事実があると考えるときは、その旨を労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣に通知するものとすること。
ニ 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、公正取引委員会からの通知を受けたときは、公正取引委員会に対し、当該承認後の労働時間等の動向及び経済的事情の変化に即して意見を述べることができるものとすること。
ホ 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、公正取引委員会からの通知を受けた場合において、当該通知に係る承認計画が(3)の要件に適合するものでなくなったと認めるときは、当該承認計画の変更を指示し、又はその承認を取り消さなければならないものとすること。
ヘ 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、承認計画の承認を取り消したときは、公正取引委員会に対し、その旨を通知するものとすること。
(7) 労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、承認事業主に対し、必要な情報及び資料の提供、助言を行う者の派遣その他必要な援助を行うように努めるとともに、特に必要があると認めるときは関係事業主に対し、必要な協力を要請することができるものとすること。
6 報告の徴収等(第一二条関係)
労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、承認事業主に対し、承認計画の実施状況について報告を求めることができるものとすること。
また、承認事業主が報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、労働大臣及び当該業種に属する事業を所管する大臣は、当該承認計画の承認を取り消すことができるものとすること。
7 権限の委任(第一三条関係)
5及び6に定める労働大臣又は当該業種に属する事業を所管する大臣の権限は、政令で定めるところにより、その一部を都道府県労働基準局長又は地方支分部局の長若しくは都道府県知事に委任することができるものとすること。
なお、5に定める労働大臣の権限が委任された場合には、「中央労働基準審議会」とあるのは「地方労働基準審議会」と読み替えるものとすること。
8 適用除外(第一四条関係)
この法律は、国家公務員及び地方公務員並びに船員法の適用を受ける船員については、適用しないものとすること。
9 施行時期等(附則第一条から第五条まで関係)
(1) この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行すること。
(2) この法律は、この法律の施行の日から五年以内に廃止するものとすること。
(3) その他所要の整備を行うものとすること。