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○労働基準法施行規則の一部を改正する省令の施行について

(昭和五六年二月二六日)

(基発第一一四号)

(都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)

労働基準法施行規則の一部を改正する省令(昭和五六年労働省令第五号。以下「改正省令」という。)は、昭和五六年二月六日に公布され、同年四月一日(一部の改正規定については、昭和五八年四月一日)から施行されることとなつた。

今回の改正は、労働基準法(昭和二二年法律第四九号。以下「法」という。)第四〇条の規定に基づき一部の業種(特例業種)について設けられていた労働時間の特例を基本的に廃止することとしたものであるが、この改正は、法制定以来初めて労働時間の長さに関する法制度を大幅に手直しするものであり、特殊業種における労働時間の短縮の面ではもとより、全般的な労働時間対策の推進の上でも重要な意義を有するものである。

ついては、左記の事項に留意の上、改正省令の円滑な施行に遺憾なきを期されたい。

第一 改正の趣旨及び経緯

一 改正の趣旨

労働時間の特例(九時間労働制又は一〇時間労働制)は、法制定当初の社会経済情勢を背景として、特殊の必要が認められる業種、業態に限つて設けられたものであるが、これは、八時間労働制の原則に対する例外的な制度であり、基本的には、社会経済情勢や労働の実態の変化等に応じて検討され、廃止されるべき性格のものである。

最近の実情をみると、社会経済情勢の著しい変化、関係労使の自主的な努力、昭和四六年の労働基準法研究会の「労働時間、休日、休暇関係」の報告を受けて以来の行政指導の成果等により、特例業種においても労働時間の短縮が著しく進み、最近では、その約八割の事業場で八時間労働制が実施されるに至つており(昭和五四年度の特例業種の労働時間に関する実態調査の結果による。)、実態上労働時間について特例を必要とするような事情は少なくなつてきている。

一方、労働基準行政においては、近年、昭和五四年八月に閣議決定された第四次雇用対策基本計画等の趣旨に沿い、昭和六〇年度には我が国の労働時間の水準を欧米主要国並みに近づけることを目標に、行政指導により労働時間の短縮を進めてきており、また、今後就業者の増加が見込まれる第三次産業の労働者について適正な労働条件の確保に努めてきているが、これらの施策を円滑に進めていくためにも、特例業種について労働時間の特例を廃止し、他の業種並みに八時間労働制とすることが必要となつてきている。

そこで、特例業種における労働者の労働条件の改善を図り、併せて前記の諸施策の円滑な推進に資するため、原則として昭和六〇年までに、労働時間の特例を基本的に廃止することとしたものである。

二 改正の経緯

(一) 労働時間の特例の廃止については、全般的な労働時間の短縮傾向の中で、行政指導により、環境条件の整備を図つてきた。

昭和五四年度には特例業種の労働時間に関する実態調査を実施したが、その結果によると、特例業種のうち約八割の事業場では八時間労働制が実施されるに至つている。

(二) 昭和五五年度に入つて、(一)の実態調査の結果をも踏まえ、労働時間の特例は基本的に廃止するとの方針を固め、関係各方面と折衝に入つた。特に、特例業種は、業種が多種多様であり、なかでも商業、サービス業においては中小零細規模の事業場が多く、特例廃止に伴う企業経営への影響も予想されたことから、多数の使用者団体・業界団体、労働組合、関係省庁等と幾度となく話し合い、その意見を十分に聴取し、調整を図る等、広範な関係者ときめ細かに折衝し、調整を重ねた。そして、昭和五五年一二月関係者との協議が調い、成案を得るに至つた。

この折衝に当たつては、労働省としては、労働時間の特例は基本的に廃止するとの方針は堅持するものの、その実施については、問題の重大性にかんがみ、関係者の意見も聴きつつ段階的、漸進的に進めることが必要であると考えていたところ、折衝の過程において、使用者団体、業界団体から、特例の即時一律廃止について強い慎重論が出され、その廃止はそれぞれの業種の実情に応じて漸進的に進めるべきであるとの意見が出された。そのため、最終的には、それらの意見をも参酌して、労働時間の特例の廃止は、それぞれの業種の実情に応じ、原則として昭和六〇年までに段階的、漸進的に進めることとした。

(三) その後、昭和五五年一二月一八日に労働大臣から中央労働基準審議会に対し改正省令案の要綱について諮問し、労働時間部会の審議を経て、昭和五六年一月二一日に同審議会から労働大臣あて答申が出された。

この答申では、諮問案をおおむね妥当と認めつつ、一部についての修正意見と労働省において講ずべき措置について要望意見を述べている。

その後、同月二九日東京と大阪において、法第一一三条の規定に基づく公聴会が開催され、労使公益の各代表者から意見の開陳があつた。

(四) 改正省令は、これらの審議会の答申及び公聴会の意見を十分尊重して制定されたものであり、その運用においても、同様に対処することとしている。

第二 改正の内容

一 運送の事業又は貨物取扱いの事業に係る労働時間の特例の廃止

(一) 道路、鉄道、軌道、索道、船舶若しくは航空機による旅客若しくは貨物の運送の事業又は船きよ、船舶、岸壁、波止場、停車場若しくは倉庫における貨物の取扱いの事業のうち通運事業法(昭和二四年法律第二四一号)第二条第一項第一号から第四号までに掲げる業務に従事する労働者(乗務員を除く。)で特殊日勤又は一昼夜交替の勤務に就くものについての労働時間の特例を、昭和五六年四月一日から廃止することとしたこと(改正前の労働基準法施行規則(昭和二二年厚生省令第二三号)(以下「旧規則」という。)第二六条関係、改正省令附則第一条)。(これに伴い、昭和二七年九月二〇日付け基発第六七五号の関係部分は廃止する。)

(二) しかしながら、(一)の運送の事業の実情にかんがみ、暫定措置として、(一)の運送の事業に従事する労働者(乗務員を除く。)で特殊日勤又は一昼夜交替の勤務に就くものについて、①当分の間、一二週間平均で一週間四八時間以内の変形労働時間制によつて労働させることができること、②昭和六〇年三月三一日までの間は、①に加えて、一日九時間、一週間五四時間まで、又はその変形労働時間制によつて労働させることができることとしたこと(改正省令附則第二条第一項及び第二項)。

なお、②の暫定措置については、その期間の終了の時点における状況によつては、昭和六〇年四月一日以後も引き続きその措置を存続させておくことが必要な場合も考えられるので、労働大臣は、同年三月三一日までに暫定措置の延長の要否について中央労働基準審議会の意見を聴き、その結果、必要がある場合には、所要の措置を講ずるものとされたこと(改正省令附則第四条)。この場合、中央労働基準審議会の答申により、同審議会の意見を聴くに際しては、あらかじめ実態を十分に把握するよう努めることとされていること。

(三) 暫定措置において「特殊日勤」とは、従前と同様に、運送の事業における労働密度の薄い特殊な態様の日勤の勤務をいうが(昭和二三年二月二七日付け基発第三七四号参照)、従前の経緯にかんがみ、この勤務は日本国有鉄道においてのみ認められるものであること。

この特殊日勤については、事務簡素化等の見地から、従前の労働基準監督署長の許可制は廃止することとしたこと。これに伴い、その許可の基準を定めている関係通達(昭和二五年三月一八日付け基発第二一七号、昭和三三年六月一〇日付け基収第一八〇三号、昭和三三年九月一日付け基収第一八〇三号及び昭和三六年五月二三日付け三五基収第九六九五号)は廃止することとするが、暫定措置における特殊日勤もこれらの通達に定める基準を満たすものでなければならないものであること。

(四) 暫定措置の①は、法第三二条第二項の変形労働時間制における単位期間(四週間)の特例を定めたものであること。また、その暫定措置の期間を「当分の間」としたのは、(一)の運送の事業の実情から、改正省令の制定の時点では確定期限を付することが困難であつたことによるものであること。

(五) 暫定措置の①又は②により一昼夜交替の勤務に就く労働者については、従前と同様、夜間継続四時間以上の睡眠時間を与えなければならないものであること(改正省令附則第二条第三項)。なお、この睡眠時間は、従前と同様、法第三四条の休憩時間として取り扱つて差し支えないものであること(昭和二三年三月三一日付け基収第八八六号及び昭和二三年四月五日付け基発第五四一号参照)。

(六) また、暫定措置の①又は②により特殊日勤又は一昼夜交替の勤務に就く労働者に係る時間外労働又は深夜労働に対する割増賃金の支払についての考え方は、従前と同様であること(昭和二二年一〇月二五日付け基発第一八六号、昭和二三年四月五日付け基発第五四一号及び昭和二三年七月一〇日付け基発第九九六号参照)。

(七) なお、(一)の運送の事業に従事する乗務員で予備勤務に就くものについての労働時間の特例は、なお従前のまま残置されているものであること(改正後の労働基準法施行規則第二六条)。

二 卸売・小売業、理美容業、興業の事業、保健衛生の事業、旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽業の事業等に係る労働時間の特例の廃止

(一) 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理美容の事業(常時三〇人以上の労働者を使用する物品の販売又は配給の事業を除く。)、映画の映写、演劇その他興業の事業、病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業及び旅館、料理店、接客業又は娯楽場の事業についての労働時間の特例を、昭和五六年四月一日から廃止することとしたこと(旧規則第二七条関係、改正省令附則第一条)。

(二) しかしながら、(一)の事業では、業種が多種多様であり、中小零細規模の事業場が多いため、即時一律に労働時間の特例を廃止することは困難であり、特に中小零細規模の事業場にあつては新しい労働時間制度への移行に相当の対応期間を必要とすることにかんがみ、八時間労働制の原則を事業規模に応じて段階的に適用することとし、そのための暫定措置として、①常時一〇人以上五〇人以下の労働者(物品の販売又は配給の事業にあつては、常時一〇人以上三〇人未満の労働者)を使用する事業にあつては、昭和五八年三月三一日までの間は、従前と同様の労働時間の特例によつて労働させることができること、②常時一〇人未満の労働者を使用する事業にあつては、昭和六〇年三月三一日までの間は、従前と同様の労働時間の特例によつて労働させることができることとしたこと(改正省令附則第三条)。

なお、②の暫定措置については、一の(二)の②の暫定措置の場合と同様に、その期間の終了の時点における状況によつては、昭和六〇年四月一日以後も引き続きその措置を存続させておくことが必要な場合も考えられるので、労働大臣は、同年三月三一日までに暫定措置の延長の要否について中央労働基準審議会の意見を聴き、その結果、必要がある場合には、所要の措置を講ずるものとされたこと(改正省令附則第四条)。この場合、中央労働基準審議会の答申により、同審議会の意見を聴くに際しては、あらかじめ実態を十分に把握するよう努めることとされていること。

以上の(一)及び(二)のことを事業規模別に図示すれば、次のようになる。

(三) 暫定措置の①において「常時一〇人以上五〇人以下の労働者を使用する事業」としたのは、(一)の事業では卸売・小売業、サービス業等が中心をなしていることにかんがみ、中小企業基本法(昭和三八年法律第一五四号)(第二条第二号)にいう小売業又はサービス業の中小企業者と従業員規模が同様の範囲の事業であつて法第八九条の就業規則の作成義務のあるものを対象とすることとしたものであり、暫定措置の②において「常時一〇人未満の労働者を使用する事業」としたのは、同じく中小企業者と同様の範囲の事業であつて同条の就業規則の作成義務のない小規模のものを対象とすることとしたものであること。

三 小規模郵便局、警察官又は消防職員に係る労働時間の特例の廃止

(一) 屋内勤務者三〇人未満の郵便局において郵便、電信若しくは電話の事業に従事する労働者、警察官又は消防吏員若しくは常勤の消防団員についての労働時間の特例を、昭和五八年四月一日から廃止することとしたこと(旧規則第二八条及び第二九条関係、改正省令附則第一条)。

(二) (一)の労働者について改正省令の施行期日を昭和五八年四月一日としたのは、これらの事業にあつては、事業の性格等からして、新しい労働時間制度への移行のための準備、手続等に相当の期間を必要とすることによるものであること。

(三) なお、旧規則第二八条が削除されることに伴い、旧規則第三二条第一項について所要の形式的整備を行うこととしたこと。

(四) 旧規則第二八条が削除されることに伴い、同条関係の通達(昭和二三年四月五日付け基発第五四〇号及び昭和三三年二月一三日付け基発第九〇号の関係部分)は、昭和五八年三月三一日限り廃止することとする。

第三 留意事項

一 改正省令の内容等の周知徹底

(一) 改正省令は長年の労働時間の長さに関する法制度を大幅に手直しするものであり、また、特例業種は、業種が多種多様であつて、中小零細規模の事業場が多いことから、改正省令の施行に当たつては、関係の使用者、使用者団体等(地方公共団体も含む。)に対して、各種の広報活動、集団指導等により、改正省令の内容、改正省令の施行に伴う法の関係規定適用上の取扱い((参考)参照)等について十分に周知徹底を図ること。

(二) 特例業種は、いわゆる第三次産業であり、国民の日常生活と深いかかわりをもつ業種であるので、労働時間の特例の廃止に伴い営業のあり方等が変わる場合には、国民の生活上の利便に影響が生ずることも考えられるが、労働基準監督機関としても、一般国民への改正省令の内容の周知等により、国民の理解と協力が得られるよう配慮すること。

二 労働時間制度及び労働時間管理についての行政指導

特例業種のうち特に第二の二の(一)の事業にあつては、その業種、業態、事業規模等の実情からして、八時間労働制の原則が適用されることとなつた時点以後においても、実際上、なお八時間労働制への移行が困難な場合も少なからず予想されるところである。

そのため、これらの事業については、中央労働基準審議会の答申にのつとり、第二の二の(一)及び(二)により事業規模に応じて八時間労働制の原則が適用されることとなつた時点以後それぞれ二年間は「指導期間」とすることとし、その間は、徹底した行政指導により法の履行確保を図ることとしたこと。

この場合、行政指導を行うに当たつては、これらの事業の業種、業態等の実情を十分勘案し、労働時間、休憩時間、拘束時間等の労働時間制度に関する基本的な概念や適正な労働時間管理のあり方について、懇切にきめ細かな啓蒙指導を行うよう努めること。

なお、第二の二の(二)の暫定措置の期間中において行政指導を行う場合についても、同様であること。

三 改正省令の施行に伴う労働時間制度等の整備

(一) 改正省令の施行に伴い、使用者は、その施行の日以後は、八時間労働制(第二の一の(二)又は二の(二)の暫定措置が認められている期間においては、その暫定措置)を前提としてそれぞれの事業場の労働時間制度を設定しなければならないこととなるが、これに関連して、使用者は、労働者に法第三六条の時間外労働をさせる場合には新たにその八時間労働制等を前提として同条の規定に基づく労使間の協定(三六協定)を締結し、また、就業規則の規定の状況等からして必要がある場合には就業規則の関係規定の整備を行つて、それらを労働基準監督署に届け出ることが必要となる。

したがつて、改正省令の内容等の周知や行政指導を行うに際しては、これらの点についても十分に指導徹底を図ること。

なお、改正省令の施行に伴う新しい労働時間制度の設定については、これが重要な労働条件の問題であることから、関連する労働条件の問題も含め、労使間で十分話合いが行われ、明確化されることが望ましい。

(二) 改正省令の施行による新しい労働時間制度への移行に伴う賃金の取扱いの問題については、基本的には労使間の話合いで決められるべきものであるが、新しい労働時間制度への移行に伴い従業規則等に定める賃金額が改定され、それに基づいて賃金が支払われたような場合においては、その賃金額の支払が新しい労働時間制度への移行に伴う労働時間の変更との関係からみて合理性が認められるもの(例えば、時間当たり賃率に減少を伴わないものである等)であれば、法の適用上問題はないものとして取り扱つて差し支えないこと。

四 第三次産業に特有の労働時間問題についての解釈運用の検討

昭和五六年度には、労働時間に関する法の解釈運用の見直しを行うこととしているところであるが、第三次産業にあつては、休憩時間、休日の取扱い等について特有の問題もあるので、中央労働基準審議会の答申をも踏まえ、その見直しの一環として、合理的な解釈運用について検討することとしていること。

(参考)改正省令の施行に伴う法の関係規定適用上の取扱いを示すと、次のようになる。

① 所定労働時間としては、一日八時間、一週四八時間まで、又はその変形労働時間制(第二の一の(二)又は二の(二)の暫定措置が認められている期間においては、その暫定措置(以下「八時間労働制等の範囲」という。)によつてのみ労働させることができることとなること(法第三二条)。

② 法定の時間外労働は、八時間労働制等の範囲を超えて労働させる場合がこれに該当することとなるが、これに伴い

イ 八時間労働制等の範囲を超えて労働させる場合には、時間外労働の手続(法第三六条の規定に基づく労使間の協定(三六協定)の締結及びその労働基準監督署への届出又は非常災害等の場合の労働基準監督署の事前の許可若しくは事後の届出)が必要となること(法第三三条、第三六条本文)。

ロ 三六協定を締結し、それを労働基準監督署へ届け出た場合の時間外労働については、一定の有害業務従事者の場合は八時間労働制等の範囲から一日二時間の限度、満一八歳以上の女子の場合は八時間労働制等の範囲から一日二時間、一週間六時間、一年一五〇時間の限度でのみ労働させることができることとなること(法第三六条ただし書、第六一条)。なお、満一八歳未満の年少者については、従前から一日八時間、一週四八時間を超えて労働させることはできないこととされていること(法第六〇条第一項)。

ハ 割増賃金は、八時間労働制等の範囲を超えて労働させた時間に対して支払わなければならないこととなること(法第三七条)。

③ 就業規則において、八時間労働制等の範囲内で所定労働時間(始業及び終業の時刻、変形労働時間制)を設定し、これを労働基準監督署へ届け出ることが必要となること(法第八九条、第九二条)。