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○労働基準法施行規則の一部を改正する省令等の施行について

(昭和五三年三月三〇日)

(基発第一八六号)

(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)

労働基準法施行規則の一部を改正する省令(昭和五三年労働省令第一一号。以下「改正省令」という。)及び昭和五三年労働省告示第三六号(労働基準法施行規則(昭和二二年厚生省令第二三号)別表第一の二第四号の規定に基づき、労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに労働大臣が定める疾病を定める告示。以下「告示」という。)が昭和五三年三月三〇日に公布され、同年四月一日から施行されることとなつたので、下記事項に留意のうえ、事務処理に遺憾なきを期されたい。

目次

第一 改正の趣旨

一 改正の目的

二 新規定及びこれに基づく告示の基本的考え方

第二 新規定の内容

一 大分類(別表各号)の概要

二 別表各号の規定の内容

(一) 「業務上の負傷に起因する疾病」(第一号)

(二) 「物理的因子による次に掲げる疾病」(第二号)

(三) 「身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する次に掲げる疾病」(第三号)

(四) 「化学物質等による次に掲げる疾病」(第四号)

(五) 「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法(昭和三五年法律第三〇号)に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則(昭和三五年労働省令第六号)第一条各号に掲げる疾病」(第五号)

(六) 「細菌、ウイルス等の病原体による次に掲げる疾病」(第六号)

(七) 「がん原性物質若しくはがん原性因子又はがん原性工程における業務による次に掲げる疾病」(第七号)

(八) 「前各号に掲げるもののほか、厚生労働大臣の指定する疾病」(第一〇号)

(九) 「その他業務に起因することの明らかな疾病」(第一一号)

第三 新規定の運用上の留意点

第四 その他

別添一 「告示の表中上欄に掲げる化学物質にさらされる業務に従事した労働者に発生したことのある症状又は障害」

別添二 「農薬その他の薬剤の有効成分たる化学物質一覧」

別添三 「告示において指定された化学物質の該当旧規定及び該当認定基準」

第一 改正の趣旨

一 改正の目的

労働基準法第八章の災害補償事由の一であり、かつ、労災保険の保険事故の一である業務上疾病の範囲は、労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)第三五条において定められているが、同条の規定は昭和二二年の労働基準法の施行時に定められて以来今般の改正に至るまで実質的な改正は全く行われたことはなかつた。この間に、急速な産業技術の進歩、産業構造、就業構造の変化等社会経済及び労働環境の変化に伴い、業務上疾病についてもその病像が変貌し、新しい要因による疾病が発生してきている。すなわち今日みられる中毒や職業がん、特殊な作業態様に起因する神経系の疾患等の疾病には、昭和二二年労基則制定当時その発生が予測されなかつた疾病が少なからず含まれている。これらの業務上疾病の災害補償ないし労災保険給付を行う上では改正前の労基則第三五条(以下「旧規定」という。)第三八号その他の規定により対処してきたところであるが、規定の明確性を欠く憾みもなしとしないので、旧規定の例示規定を業務上疾病の現状に即さないまま放置することが適切でない点も生じてきた。そこで労働者の災害補償又は労災保険給付の請求権の適切な行使や労災保険における業務上疾病の認定等の迅速公正な事務処理の推進を図るとともに、業務上疾病の予防や治療に役立つ適切な疾病統計の作成に資するため、同条の見直しを行い、その規定を全面的に改正することとしたものである。

なお、改正省令の施行に関連して、今後においても産業・労働の実態の変化、医学の進歩等に伴つて生ずる新しい要因による業務上疾病や業務上疾病の病像、病態の変化に対処しうるよう定期的に労基則別表第一の二(第三五条関係)の規定及びこれに基づく告示の内容の検討を行い、その結果によつて所要の規定の改正を行う予定であるので、念のため申し添える。

二 新規定及びこれに基づく告示の基本的考え方

(一) 改正後の労基則第三五条及び別表第一の二並びに告示(以下「新規定」という。)においても、旧規定と同様に、一定の疾病を例示列挙するとともに包括的な救済規定を補足的に設けるいわゆる「例示列挙主義」を堅持している。したがつて、業務上疾病の範囲を具体的に掲げられた疾病に限定するものではなく、列挙疾病以外の疾病であつても業務との相当因果関係が認められるものは、上記の包括的救済規定によつて災害補償又は労災保険給付の対象となることは当然である。

(二) 新規定においては従来の疾病の一律列挙方式を廃して、労働者や行政庁等関係者による業務上疾病の検索、業務上疾病統計の作成及び例示疾病への新しい疾病の追加を容易にすることを目的として、疾病発性原因となる因子(以下「有害因子」という。)の種類の別を主体とし、これに、疾病の性質、疾病の発生する集団ないし労務の特異性等も加味して疾病をそれぞれの群(労基則別表第一の二(以下「別表」という。)の各号)に大分類として分類して規定された。

すなわち、業務上の負傷との関連性の深い業務上の負傷に起因する疾病を第一号とし、次いで主として有害因子の種類等に応じて、別表第二号から第九号までが大分類として分類された。

この場合において、じん肺症及びじん肺との合併症については、じん肺症が、粉じんの肺への沈着及びそれに対する肺組織の反応であること、その病態が不可逆性であること等の点で化学物質等による他の呼吸器疾患とは異なること等の理由により独立の大分類(別表第五号)とされた。

また、いわゆる「職業がん」については、これが発がんの原因として化学物質のほか物理的因子である電離防射線によるものがあり、さらには特定作業工程従事労働者のがんについては、現在のところその原因を特定の化学物質に帰し難い場合が少なくないこと等の理由により、独立の大分類(別表第七号)とされた。

さらに、例示列挙主義を明確にするために、別表の第二号、第三号、第四号、第六号及び第七号の末尾に「その他」の規定(いわゆる包括的救済規定)が設けられ、さらに、別表第一〇号として旧規定第三七号と同趣旨の規定が、別表第一一号として第一号から第九号までに該当する疾病以外の業務上疾病をとらえるための「その他」の規定(包括的救済規定)がそれぞれ設けられた。

なお、単体なる化学物質及び化合物(合金を含む。)による疾病は、これを告示によつて定めることとしたが、これは化学物質の数が多いこと、症状・障害が複雑多様であり、それらをできるだけ詳細かつ具体的に規定する必要があるが、別表中に掲げることは技術的に困難であること、科学技術の進歩に応じて労働の場における取扱い物質の種類やは握される疾病の内容が急速に変化することも予想され、この変化に機動的に対処する必要があること等の理由によるものである。

(三) 次に、別表第二号、第三号、第四号、第六号、第七号、第八号及び第九号については、最近の医学的知見により業務上疾病として定型化、一般化して捉えられるものをできるだけ具体的に規定することとし、これを有害因子の種類、疾病の性質、疾病の発生する集団ないし業務の特異性等を考慮して、分類列挙するとともに、できるだけ具体的に、有害因子、疾病の内容を規定することにより、業務上疾病の範囲の明確化が図られた。

すなわち、新規定の各号に列挙されている疾病は、可能な限り最近に至るまでの国の内外を通じての労働の場において発生した症例の医学的調査研究報告、専門機関の評価が加えられた出版物を収集し、検討した結果業務との因果関係が確立していると考えられる疾病を可能な限り具体的に例示疾病として分類列挙したものである。

上記の場合、疾病の内容、特に告示に掲げられた主な症状・障害については、労働の場で起こつたもののうち、収集された文献に現われている共通的なものを中心に列挙したものであり、動物実験等により人体に対する有害作用が推測されるにとどまつているような疾病ないし症状・障害については、例示の対象から除外されている。

また、化学物質への高濃度ばく露を受けて急性中毒死したような事例については、例示された部位以外の部位の症状・障害や二次的な症状・障害がみられるのが通例であるが、原則としてこれらについても例示の対象から除外されている。

なお、突発的な原因による疾病や産業・労働の場における総取扱量が極めて少ない物質等による疾病のように、個々のケースにおいては業務との因果関係が明確であつても一般的に業務上疾病として発生することの極めて少ないものは、例示の対象から除外されている。

(四) 以上のように、現在までに業務との因果関係の確立したものをできる限り定型化して、例示疾病として掲げているので、例示疾病(別表第一〇号により指定される疾病を含む。)については、一般的に業務と疾病との因果関係が推定されるものである。これらに対する労災保険における取扱いとしては、従来と同様、一定のばく露条件や症状等を満たす場合には、特段の反証のない限りその疾病は業務に起因するものとして取り扱われるものである。

これに対して、例示疾病として掲げられていない疾病については、上記のような意味における一般的な形で業務との因果関係が推定されるものではない。したがつて、労働基準法の災害補償の場合においては、請求人が使用者に対しこれらの疾病と業務との相当因果関係を立証しない場合には、災害補償は行われない。労災保険の場合にも基本的には請求人の側に立証責任があることはいうまでもないが、請求人の一定の疎明資料に基づいて行政庁が必要な補足的調査を行うことにより、業務との相当因果関係の有無を慎重に判断する必要がある。この場合、上記一のなお書、二(一)等の趣旨を体して、別表第二号一三、第三号五、第四号九、第六号五、第七号二二及び第一一号の運用について遺憾のないようにされたい。

第二 新規定の内容

一 大分類(別表各号)の概要

(一) 第一号の「業務上の負傷に起因する疾病」は、旧規定の第一号と同趣旨である。

(二) 第二号の「物理的因子による疾病」は、電離放射線以外の有害光線(マイクロ波を含む。)、電離放射線、異常気圧、異常温度条件、騒音、超音波その他の物理的因子による疾病を掲げたものである。このうち、有害光線による疾病については、旧規定第三号及び第四号に規定する疾病にほぼ対応するものであるが、第二号一から五までとして有害光線の種類ごとに疾病内容が明確に確定された。また、異常気圧による疾病については、旧規定第九号に対応するものであるが、第二号六及び七として気圧条件の差異に対応して該当業務及び疾病の内容が明確に規定された。異常温度条件による疾病については、旧規定第五号及び第六号に対応するものであるが、第二号八から一〇までとして疾病の種類ごとに明確に規定された。第二号四及び一二については、旧規定にはこれに対応する具体的な規定はなかつた。なお、第一号の業務上の負傷に起因する疾病、第三号の身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する疾病及び第七号の「職業がん」のうち物理的因子によるものは、この号から除かれる。

(三) 第三号の「身体に過度の負担のかかる作業態度に起因する疾病」は使用する機械器具又は取り扱う物とこれに関連した作業密度、作業姿勢、身体局所に加わる負荷等いわゆる「人間―機械(物)系」から生ずる有害因子による疾病を掲げたものである。このうち、第三号二、四の一部等については、旧規定にはこれに対応する具体的な規定はなかつた。

(四) 第四号の「化学物質等による疾病」は、主として化学物質(単体、化合物(合金を含む。)及び混合物をいう。)の化学的性質に基づく有害作用に起因する疾病を掲げたものである。なお、「化学物質等」の「等」には酸素欠乏が含まれる趣旨である。

このうち、第四号二及び四から八までについては、旧規定にはこれに対応する具体的な規定はなかつた。また、化学物質等による疾病であつても第七号に掲げる「職業がん」については、同号に別掲してあるので、第四号の疾病からは除かれる。

(五) 第五号の「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法(昭和三五年法律第三〇号)に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則(昭和三五年労働省令第六号)第一条各号に掲げる疾病」は、粉じんの吸入に起因するじん肺症及びじん肺との合併症をいうものである。

(六) 第六号の「細菌、ウイルス等の病原体による疾病」は、病原体すなわち細菌、ウイルス、リケツチア、原虫及び寄生虫に起因する伝染性疾患等の疾病を掲げたものである。

(七) 第七号の「がん原性物質若しくはがん原性因子又はがん原性工程における業務による疾病」は、発がん性を有する化学物質若しくは電離放射線又は発がんの危険のある工程に起因するいわゆる「がん」と総称される疾病、すなわち、いわゆる「職業がん」が規定されたものである。

(八) 第一〇号の「前各号に掲げるもののほか、厚生労働大臣の指定する疾病」は、旧規定第三五条第三七号と同趣旨の規定である。

(九) 第一一号の「その他義務に起因することの明らかな疾病」は以上に掲げられている疾病以外に業務に起因したものと認められる疾病が発生した場合にはこれに該当するものであり、旧規定第三五条第三八号と同趣旨の規定である。

二 別表各号の規定の内容

(一) 「業務上の負傷に起因する疾病」(第一号)

〔要旨〕

本規定は、業務上の負傷に起因する疾病が業務上の疾病に該当することを明らかにしたものである。

〔解説〕

旧第一号の規定と同趣旨の規定であるが、疾病原因が業務上の負傷である趣旨を明らかにするために「業務上の」の文字を冠したものである。(なお、労働者災害補償保険法施行規則(昭和三〇年労働省令第二二号)第一八条の四中に「通勤による負傷に起因する疾病」とあるのを参照。)

業務上の負傷に起因する疾病とは、業務上の負傷が原因となつて第一次的に発生した疾病(以下「原疾患」という。)のほか、原疾患に引き続いて発生した続発性の疾病その他原疾患との間に相当因果関係の認められる疾病をいう。

本規定に該当する疾病には、以下のものが含まれる。

(イ) 業務上の頭部又は顔面部の負傷による慢性硬膜下血腫、外傷性遅発性脳卒中、外傷性てんかん等の頭蓋内疾患

(ロ) 業務上の脳、脊髄及び末梢神経等神経系の負傷による皮膚、筋肉、骨及び胸腹部臓器等の疾患

(ハ) 業務上の胸部又は腹部の負傷による胸膜炎、心膜炎、ヘルニア(横隔膜ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニア等)等の胸腹部臓器の疾患

(ニ) 業務上の脊柱又は四肢の負傷による関節症、腰痛(いわゆる「災害性腰痛」)等の非感染性疾患

(ホ) 業務上の皮膚等の負傷による破傷風等の細菌感染証(蜂窩織炎(旧第一〇号)もこれに該当する。)

(ヘ) 業務上の負傷又は異物の侵入・残留による眼疾患(旧第三号参照)その他の臓器、組織の疾患

(ト) その他業務上の負傷に起因することの明らかな疾病。ハチやマムシ等による刺傷又は咬傷から体内に侵入した毒素による疾病もこれに該当する。

(二) 「物理的因子による次に掲げる疾病」(第二号)

イ 「紫外線にさらされる業務による前眼部疾患又は皮膚疾患」(第二号一)

〔要旨〕

本規定は、有害光線の一種である紫外線にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する前眼部疾患又は皮膚疾患を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「紫外線」とは、可視光線より波長が短い電磁波をいう。紫外線は、物理的には若干の電離作用を有し、おおむね三〇〇ミリミクロン(mμ)よりも短波長では人体に有害となる。

(ロ) 該当業務としては、例えば、アーク溶接・溶断、ガス溶接・溶断、殺菌、検査等の業務がある。

(ハ) 「前眼部疾患」とは、主として結膜又は角膜に起こる疾病をいい、これには結膜炎、角膜表層炎等の疾患がある。眼に紫外線が照射されると、大部分が角膜で吸収され紫外線眼炎をおこす。この紫外線眼炎のうち、電気溶接あるいは水銀灯などの特殊電球などによるものは電気性眼炎と呼ばれる。

(ニ) 「皮膚疾患」については、アーク溶接及びガス溶接で発生する紫外線は、ばく露の程度により、ばく露皮膚の皮膚火傷をきたすことがあるとされている。

ロ 「赤外線にさらされる業務による網膜火傷、白内障等の眼疾患又は皮膚疾患」(第二号二)

〔要旨〕

本規定は、光線の一種である赤外線にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する網膜火傷、白内障等の眼疾患又は皮膚疾患を業務上の疾病として定めたものである。なお、旧第三号の「高熱に因る眼の疾患」はこの規定に吸収された。

〔解説〕

(イ) 「赤外線」とは、可視光線より波長が長い電磁波をいう。おおむね七六〇ミリミクロン(mμ)よりも長波長の強烈な赤外線照射による障害は、永久的であり蓄積的であつて、紫外線の眼に対する障害が一時的であるのと対照的である。

(ロ) 該当業務としては、例えば、製鉄、製鋼、ガラス等の炉前作業、造塊などの高熱物体取扱作業、赤外線乾燥作業等に係る業務がある。

(ハ) 「網膜火傷、白内障等の眼疾患」について

a 「等」には、眼瞼縁炎、角膜炎、調節障害、早期老眼、虹彩萎縮、黄斑変性等がある。

b 赤外線による白内障は、急性疾患である電気性眼炎と異なり、比較的長期間就労している者に発生する慢性疾患である。

(ニ) 「皮膚疾患」については、赤外線による皮膚障害が発生した場合には本規定が適用される。なお、第二号九に掲げる疾病に該当する皮膚疾患は除かれる。

ハ 「レーザー光線にさらされる業務による網膜火傷等の眼疾患又は皮膚疾患」(第二号三)

〔要旨〕

本規定は、光線の一種であるレーザー光線にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する網膜火傷等の眼疾患又は皮膚疾患を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「レーザー光線」とは、特殊な装置を用いて人工的につくる電磁波をいい、赤外線や可視光線の一種であるが、一般の光線と異なり単一波長で位相のそろつた指向性の強い光線である。

(ロ) 該当業務としては、例えば、通信、測定、分光分析等の業務がある。

(ハ) 「網膜火傷等の眼疾患」について

a 「等」には出血、壊死、網膜剥離等がある。

b レーザー光線による網膜損傷は、軽いものでは一過性の発赤、重症のものでは網膜の浮腫、壊死、出血、炭化、気泡発生、網膜剥離、失明までおこる。

(ニ) 「皮膚疾患」については、高出力のレーザー光線をうけておこる皮膚障害として火傷があり、熱凝固、壊死、炭化などがおこるとされている。

ニ 「マイクロ波にさらされる業務による白内障等の眼疾患」(第二号四)

〔要旨〕

本規定は、電磁波の一種であるマイクロ波にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する白内障等の眼疾患を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「マイクロ波」とは周波数がほぼ通常の無線通信用電波と赤外線との間にある電磁波をいい、極超短波とも呼ばれる。

(ロ) 該当業務としては、例えば、木材、ゴム、プラスチツク等の加工、通信、医療等の業務がある。

(ハ) 「白内障等の眼疾患」について

a 「等」には水晶体の不透明がある。

b 眼に対しては、一〇〇~一〇、〇〇〇メガヘルツのマイクロ波は、眼球の温度上昇を起こし、白内障を起こすことがあり、このような白内障や水晶体の変化は、治療が不可能で永久的な障害とされている。

c なお、マイクロ波にさらされる業務により皮膚の紅斑等の障害が発生した場合には、第二号一三の規定が適用される。

ホ 「電離放射線にさらされる業務による急性放射線症、皮膚潰瘍等の放射線皮膚障害、白内障等の放射線眼疾患、放射線肺炎、再生不良性貧血等の造血器障害、骨壊死その他の放射線障害」(第二号五)

〔要旨〕

本規定は、電離放射線にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する急性放射線症、皮膚潰瘍等の放射線皮膚障害、白内障等の放射線眼疾患、放射線肺炎、再生不良性貧血等の造血器障害、骨壊死その他の放射線障害を業務上の疾病として定めたものである。

これは、旧第四号に含まれていた電離放射線による疾病について疾病内容が明確化されたものである。

〔解説〕

(イ) 「電離放射線」とは、放射線のうち生物に電離作用を起こして生物学的影響を与えるものをいい、その種類については、電離放射線障害防止規則(昭和四七年労働省令第四一号)第二条第一項を参照されたい。

(ロ) 該当業務としては、例えば、核燃料・ラジオアイソトープ取扱業務又はその近接業務、工業用又は医療用検査業務等がある。

(ハ) 「急性放射線症」については、昭和五一年一一月八日基発第八一〇号(以下「五一年基発第八一〇号」という。)記第二の一を参照されたい。

(ニ) 「皮膚潰瘍等の放射線皮膚障害」について

a 「等」には、皮膚の紅斑、水疱、脱毛、爪の異常又は皮膚の乾燥、萎縮等の病的変化がある。

b 「放射線皮膚障害」は、被ばくの形態により急性放射線皮膚障害と慢性放射線皮膚障害に分類される。

これらについては、五一年基発第八一〇号記第二の二及び三を参照されたい。

(ホ) 「白内障等の放射線眼疾患」について

a 「等」には、結膜炎、水晶体の混濁等がある。

b 電離放射線による白内障については、五一年基発第八一〇号記第二の六を参照されたい。

(ヘ) 「放射線肺炎」とは、電離放射線に被ばくしたことにより起こる主として肺胞上皮及び血管内皮の障害をいう。

(ト) 「再生不良性貧血等の造血器障害」について

a 「等」には、白血球減少等の血液変化がある。

b 「造血器障害」については、五一年基発第八一〇号記第二の四の「放射線造血器障害」を参照されたい。

c 電離放射線を被ばくしたことによつておこつた白血球は第七号一四(「職業がん」)の規定が適用される。

(チ) 「骨壊死」とは、電離放射線に被ばくしたことにより骨の組織・細胞が死んだ状態をいい、電離放射線による退行性疾患の一つである。

(リ) 「その他の放射線障害」としては、電離放射線に被ばくしたことにより起こる骨粗鬆症、身体局所の線維症等がある。

ヘ 「高圧室内作業又は潜水作業に係る業務による潜函病又は潜水病」(第二号六)

〔要旨〕

本規定は、気圧の高い作業環境下において業務に従事することにより発生する潜函病又は潜水病を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「高圧室内作業又潜水作業」について

a 「高圧室内作業」とは、潜函工法その他の圧気工法により大気圧を超える気圧下の作業室、シヤフトの内部等において行う作業をいう。ここにいう高圧室内作業は、労働安全衛生法施行令(昭和四七年政令第三一八号。以下「安衛令」という。)第六条第一号の高圧室内作業より広義である。

b 「潜水作業」とは、潜水器を用いて、あるいはこれを用いないで水中において行う作業をいう。ここにいう潜水作業に係る業務は、安衛令第二〇条第九号の潜水業務より広義である。

(ロ) 該当業務としては、例えば、潜函工法、圧気シールド工法等による潜函作業及び沈没船の引上げ、海産物採取等のための潜水作業に係る業務がある。

(ハ) 「潜函病又は潜水病」とは、高圧室内作業又は潜水作業に係る業務に従事した際に、高圧下の作業を終えて常圧に戻る時に体内で過剰に溶解した窒素の排せつが間に合わず過飽和状態になつて気泡を形成し、この気泡が血液の循環を阻害したり組織を圧迫しておこる疾病をいい、これには次の症状又は障害がみられる。

a 皮膚障害(減圧後に生ずる痛がゆい感じ、丘疹、大理石斑等)

b ベンズ(bends)と呼ばれる主として四肢の関節又はその周辺部の疼痛及びそれに基づく運動機能障害

c 前胸痛、頻呼吸、息切れ等のいわゆるチヨークス(chokes)並びに血圧低下、チアノーゼ等のシヨツクを呈する呼吸器及び循環器の障害

d 麻痺、知覚障害、直腸膀胱障害、めまい、頭痛、腹痛、意識障害等の中枢神経系の障害

e 内耳前庭機能障害によるめまい又は平衡機能障害

なお、潜函病又は潜水病に付随する疾病としては、肺の過伸展による肺組織の損傷及びその続発性、圧不良性骨壊死、聴器、副鼻腔、歯、肺の締めつけによる障害、潜水器具による締めつけ障害、酸素中毒、窒素酔いによる精神神経障害、二酸化炭素中毒等がある。締めつけ障害には、潜水器具装置によつて生じるもの、例えば、ヘルメツト潜水器により潜水墜落をした時に起こる頭部の締めつけ障害などがある。これらの疾病は、第二号一三に該当するものであるが、上記(ハ)のaからeまでに掲げる症状又は障害とともに現われた場合には、本規定に該当する疾病として取り扱われる。

ト 「気圧の低い場所における業務による高山病又は航空減圧症」(第二号七)

〔要旨〕

本規定は、気圧の低い作業環境下において業務に従事することにより発生する高山病又は航空減圧症を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「気圧の低い場所」とは、大気圧よりも低い気圧の場所をいう。

(ロ) 該当業務としては、例えば、高山における気象観測、植樹等の労働、航空機乗務等の業務がある。

(ハ) 「高山病又は航空減圧症」とは、高山労働、航空機乗務等の業務に従事した際に、主として急激に高度が上がつて減圧されることによりおこるベンズ、チヨークス又は精神神経障害を主たる症状又は障害とする疾病をいう。

チ 「暑熱な場所における業務による熱中症」(第二号八)

〔要旨〕

本規定は、温度の高い作業環境下において業務に従事することにより発生する熱中症を業務上の疾病として定めたものであり、旧第五号に対応するものである。

〔解説〕

(イ) 「暑熱な場所」とは、体温調節機能が阻害されるような温度の高い場所をいう(安衛令第二一条第二号参照)。

(ロ) 該当業務としては、例えば、夏季の屋外労働、炉前作業等に係る業務がある。

(ハ) 「熱中症」とは、夏季の屋外労働、炉前作業に従事した際に、高温のほか湿度などの要因も加わつて体温の熱放散が困難となつて体温調節機能が阻害されて起こる熱虚脱、熱疲はい又は熱けいれん及び重症の場合には、中枢神経系の障害、発汗停止、体温異常上昇等の症状を主たる症状とする疾病をいい、熱中症には、日射病と熱射病が含まれる。

リ 「高熱物体を取り扱う業務による熱傷」(第二号九)

〔要旨〕

本規定は、高熱物体を取り扱う業務においてこれに接触又は接近することにより発生する熱傷を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「高熱物体」とは、鉱石等の溶融物、火焔、熱湯、高温の蒸気等の高温の物体をいう。

(ロ) 該当業務としては、例えば、製鉄、製鋼等における溶融、鋳込み又はガラス製造における成型等の業務がある。

(ハ) 「熱傷」とは、火傷又はやけどとも呼ばれ次のaからdまでに区分されている。一般に第二度以上の熱傷は、療養を要することが多い。

a 第一度紅斑性熱傷(発赤と軽度腫腸をきたし、灼熱感を伴う最も軽度の熱傷で、組織壊死はみられない。)

b 第二度水泡性熱傷(水泡が形成される。)

c 第三度壊死性熱傷(皮膚、皮下組織あるいは深部組織が熱のため壊死に陥り焼痂を形成し、ケロイド状瘢痕を残す。)

d 第四度組織が炭化するもの

(ニ) 高熱物体を取り扱う業務以外の業務に従事する者が偶然の事故的な事由により高熱物体に接触したことによる「火傷」は、負傷として取り扱うこととする。

ヌ 「寒冷な場所における業務又は低温物体を取り扱う業務による凍傷」(第二号一〇)

〔要旨〕

本規定は、温度の低い作業環境下における業務に従事することにより、又は低温物体を取り扱う業務においてこれに接触又は接近することにより、それぞれ発生する凍傷を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「寒冷な場所」とは、末梢循環や脳の血行が阻害されるような温度の低い場所をいう(安衛令第二一条第二号参照)。

(ロ) 「寒冷な場所における業務」としては、例えば、冷凍庫・冷蔵庫内における作業、寒冷地における屋外作業等の作業に係る業務がある。

(ハ) 「低温物体」とは、氷、冷凍品、多量の液体空気、ドライアイス等の低温の物体をいう。

(ニ) 「低温物体を取り扱う業務」としては、例えば、製氷、冷凍品製造、ドライアイス製造等の業務がある。

(ホ) 「凍傷」とは、寒冷のため末梢血管その他の組織の損傷をいい、これには凍死が含まれる。凍傷も熱傷と同様にその局所変化により、第一度(紅斑性凍傷)第二度(水疱性凍傷)、第三度(壊死性凍傷)に分類されるが、実際には混合してくるので区分は困難である。一般に第二度以上の凍傷は療養を要することが多い。

なお、凍傷以外の末梢循環障害、腎障害、神経痛、関節炎等の疾病のうち寒冷下における業務と因果関係が認められる疾病については、第二号一三の規定が適用される。

(ヘ) 低温物体を取り扱う業務以外の業務に従事する者が偶然の事故的事由により低温物体と接触したことによる「凍傷」は、負傷として取り扱うこととする。

ル 「著しい騒音を発する場所における業務による難聴等の耳の疾患」(第二号一一)

〔要旨〕

本規定は、著しい騒音にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する難聴等の耳の疾患を業務上の疾病として定めたものであり、旧第一二号に対応するものである。

〔解説〕

(イ) 「著しい騒音」とは、長期間ばく露されているうちに聴力低下が徐々に進行し、又は突発的に若しくは数十時間のうちに急速に聴力低下が起こるような騒音をいう(安衛令第二一条第三号参照)。

(ロ) 該当業務としては、例えば、製缶、鍛治、金属研磨等の業務がある。

(ハ) 「難聴等の耳の疾患」について

「等」には、耳なり、内耳前庭機能障害によるめまい等がある。

なお、爆発など強大な音響や気圧によつて、あるいは頭頚部の外傷などによつて瞬時に聴力が低下するいわゆる災害性難聴は、第一号の規定(業務上の負傷に起因する疾病)が適用される。

ヲ 「超音波にさらされる業務による手指等の組織壊死」(第二号一二)

〔要旨〕

本規定は、超音波にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する手指等の組織壊死を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「超音波」とは、可聴閾を超えた高い周波数をもつ音波をいう。

(ロ) 該当業務としては、例えば、超音波溶着機(プラスチツク溶着等に使用)、超音波洗浄装置、超音波診断装置等を取り扱う業務、超音波を用いて行う通信、計測等の業務がある。

(ハ) 「手指等の組織壊死」について

「等」には、超音波にさらされるおそれのある身体局所がある。

なお、手指等の組織壊死に付随して耳なり、頭痛、耳内痛等の症状が発生し、療養を要する場合には、第二号一三の規定が適用される。

ワ 「一から一二までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他物理的因子にさらされる業務に起因することの明らかな疾病」(第二号一三)

〔要旨〕

本規定は、第二号一から一二までに掲げる疾病以外に、①これらの疾病に付随する疾病(原疾患たる各規定に例示された疾病に引き続いて発生した続発性の疾病その他原疾患との間に相当因果関係の認められる疾病をいう。以下第五号、第一〇号及び第一一号を除く各号の末尾に設けられた規定において同じ。)、②第二号一から一二までに掲げる疾病の発生原因因子によるこれらの例示疾病以外の疾病又は③第二号一から一二までに掲げる疾病の発生の原因因子以外の物理的因子にさらされる作業環境下において業務に従事した結果発生したものと認められる疾病に対して適用される趣旨で設けられたものである。

〔解説〕

本規定に定める疾病のうち上記③に該当するものとして、地下作業による眼球震盪症(旧第八号)等の疾病がある。

なお、本規定において用いられている「明らかな」の文言に関しては、第二号一から一二までにおいて業務との因果関係が確立したものとして列挙されている例示疾病以外の疾病であつても業務との相当因果関係が認められるものは、災害補償又は労災保険給付の対象になることは当然である。

すなわち、「業務に起因することの明らかな疾病」の「明らか」とは、有害因子への事故的ばく露による急性疾患のように業務起因性の明白な疾病のほか、列挙疾病とは異なり一般的な形での業務起因性の推定は困難であるが、有害因子へのばく露条件や身体的素因等を検討した結果個別に業務と当該疾病との間に相当因果関係が客観的に認められる疾病は、業務上疾病として取り扱うということの意である(以下第三号、第四号、第六号及び第七号末尾の規定において同じ。)。特に、労災保険給付については、上記のような検討を経た行政庁による業務起因性の認定の結果として業務と疾病との相当因果関係が客観的に明確であれば足りるので、念のため申し添える。

(三) 「身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する次に掲げる疾病」(第三号)

イ 「重激な業務による筋肉、腱、骨若しくは関節の疾患又は内臓脱」(第三号一)

〔要旨〕

本規定は、重激な業務に従事することにより発生する筋肉、腱、骨若しくは関節の疾患又は内臓脱を業務上の疾病として定めたものであり、旧第二号とほぼ同一のものであるが、「骨の疾患」が例示疾病として加えられた。

〔解説〕

(イ) 「重激な業務」とは、重量物を間断なく取り扱う港湾荷役作業等の重筋作業に係る業務又はこれに匹敵する程度の身体局所に過度の負担が急激にあるいは持続的に加わる業務をいう。

(ロ) 該当業務としては、例えば、港湾荷役作業、採石作業、貨物取扱作業等に係る業務がある。

(ハ) 「筋肉の疾患」としては、筋の過度伸長により起こる筋断裂がある。

(ニ) 「腱の疾患」としては、腱断裂、腱鞘炎等がある。

(ホ) 「骨の疾患」としては、疲労骨折、骨棘形成、踵骨棘等がある。

(ヘ) 「関節の疾患」としては、関節炎、膝関節部の慢性滑液包炎(粘液嚢炎)及びキーンベツク病(月状骨軟化症)がある。

(ト) 「内臓脱」としては、腹部ヘルニア及び子宮脱がある。

ロ 「重量物を取り扱う業務、腰部に過度の負担を与える不自然な作業姿勢により行う業務その他腰部に過度の負担のかかる業務による腰痛」(第三号二)

〔要旨〕

本規定は、例示されたような腰部に過度の負担のかかる業務に従事することにより発生するいわゆる「非災害性腰痛」を業務上疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「重量物を取り扱う業務」については、昭和五一年一〇月一六日基発第七五〇号(以下「五一年基発第七五〇号」という。)〔解説〕二(二)イの「おおむね三〇kg以上の重量物を労働時間の三分の一程度以上取り扱う業務及びおおむね二〇kg以上の重量物を労働時間の半分程度以上取り扱う業務」をいう。

(ロ) 「腰部に過度の負担を与える不自然な作業姿勢により行う業務」については、五一年基発第七五〇号〔解説〕二(一)イ(ロ)及び(ハ)の「極めて不自然ないしは非生理的な姿勢で毎日数時間程度行う業務又は長時間にわたつて腰部の伸展を行うことのできない同一作業姿勢を持続して行う業務」をいう。

(ハ) 「その他腰部に過度の負担のかかる業務」とは、五一年基発第七五〇号〔解説〕二(一)イ(イ)の「おおむね二〇kg程度以上の重量物又は軽量不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務、腰部に著しく粗大な振動を受ける作業を継続して行う業務」又は同二(二)ロの「腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務」をいう。

(ニ) 該当業務としては、例えば、港湾荷役作業、配電工の行う柱上作業に係る業務、重度身障者施設の保母等の行う介護の業務、大工、左官、長距離トラツクの運転、車両系建設用機械の運転等の業務がある。

(ホ) ここにいう「腰痛」は、災害性の原因によらない腰痛をいう。

なお、災害性の原因による腰痛は、第一号(業務上の負傷に起因する疾病)の規定が適用される。

ハ 「さく岩機、鋲打ち機、チエーンソー等の機械器具の使用により身体に振動を与える業務による手指、前腕等の末梢循環障害、末梢神経障害又は運動器障害」(第三号三)

〔要旨〕

本規定は、例示されたような振動工具を使用することによつて身体に振動を与える業務により発生するいわゆる「振動障害」を業務上の疾病として定めたものである。この規定は、旧第一一号に対応するものであるが、例示する振動工具の種類にチエーンソーが加えられ、また、疾病内容が具体化された。

〔解説〕

(イ) 「さく岩機、鋲打ち機、チエーンソー等の機械器具」については、昭和五二年五月二五日基発第三〇七号(以下「五二年基発三〇七号」という。)〔解説〕二の振動工具をいう。

(ロ) 該当業務としては、例えば、採石作業における岩石の破砕作業、土木建築などにおける鋲締め作業、林業における伐採又は刈払い作業、金属部品のはつり作業等に係る業務がある。

(ハ) 「手指、前腕等の末梢循環障害」の「等」には上腕がある(以下(ニ)及び(ホ)において同じ。)。

ここにいう「末梢循環障害」は、振動ばく露により手指等の末梢の血管運動神経が障害されて起こる血行障害をいい、レイノー現象(蒼白発作、いわゆる白ろう現象)、手指の冷感ないし皮膚温の低下、爪圧迫による退色回復時間の遅延などがみられる。

(ニ) 「手指、前腕等の末梢神経障害」における「末梢神経障害」には、末梢神経線維に振動刺激を与えることにより起こる手指のしびれ感等の感覚異常、痛覚消失等の知覚鈍麻等がある。

(ホ) 「手指、前腕等の運動器障害」における「運動器障害」とは、振動ばく露によつて起こる主として上肢の筋肉、骨、関節等の障害をいい、これには筋肉痛、筋萎縮、月状骨、舟状骨等の手根骨の変化又は肘関節、肩関節等の関節の障害等がある。

(ヘ) 振動障害では、通常、握力、つまみ力若しくは手指の運動としてのタツピング数の低下等の運動機能障害や手掌発汗、不眠等の症状がみられるが、これらの症状又は障害は上記(ハ)から(ホ)までに掲げる症状又は障害とともに現われるので、いずれも本規定が適用される。

ニ 削除

ホ 「一から四までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他身体に過度の負担のかかる作業態様の業務に起因することの明らかな疾病」(第三号五)

〔要旨〕

本規定は、第三号一から四までに掲げる疾病以外に、①これらの疾病に付随する疾病、②第三号一から四までに掲げる疾病発生の原因因子となる業務によるその他の疾病又は③第三号一から四までに掲げる疾病発生の原因因子となる業務以外の身体に過度の負担のかかる作業態様の業務に従事した結果発生したものと認められる疾病に対して適用される趣旨で設けられたものである。

なお、「明らか」の意義については、(ニ)のワ〔解説〕参照。

(四) 「化学物質等による次に掲げる疾病」(第四号)

イ 「労働大臣の指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)にさらされる業務による疾病であつて、労働大臣が定めるもの」(第四号一)

〔要旨〕

本規定は、単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)(以下このイにおいては、単に「化学物質」という。)のうち一定の化学物質にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する疾病を総括的に労働大臣が業務上疾病として定めることとしたものである。(すなわち、旧第一四号から第二九号及び第三二号に掲げられていたものに対応するものを総括的に告示において定めることとしたものであるが、その理由については、第一の二(二)参照。また、旧規定との対応については下記〔解説〕(ハ)参照。)

〔解説〕

(イ) 列挙疾病の選定、分類等について

告示に掲げられている化学物質による疾病(がんを除く。以下この(イ)の項において同じ。)の選定、表記等に関する基本的な考え方は、以下に掲げるとおりである。

a 列挙疾病の選定

原則として、次の(a)及び(b)に該当する疾病のうち、通常労働の場において発生しうると医学経験則上評価できるものを列挙疾病として規定した。

したがつて、症例の報告があるものでも、それが事故的な原因による疾病や総取扱量が極めて少ない化学物質による疾病のように、一般的には業務上疾病として発生することが極めて少ないものは除かれている。

(a) わが国において症例があつたもの

(b) わが国において症例がなくとも、諸外国において症例が報告されているもの

b 疾病の分類

各化学物質の化学構造式の類似性、人体への有害作用等の差異に配慮しつつ、有害因子たる化学物質の種類ごとに分類(必要に応じ細分類)されている。このうち、「農薬その他の薬剤の有効成分」については、おおむね以下に掲げる点で主として工業原料に用いられる一般の化学物質と異なるため、告示の表中で独立の分類項目とするとともに、略称等を付してわかりやすく表記した。

(a) 農薬の有効成分である化学物質の多くは、化学構造式及び化学名が複雑であるうえ、一般には略称ないし通俗名が用いられており、化学名によつて一般の化学物質の中に配列すると関係者の検索が容易でないこと。

(b) これらの物質による業務上疾病は、製造過程の労働者と異なり、科学的情報を十分持たない使用過程の労働者において発生する可能性が高いので、その検索の便宜を図る必要があること。

(c) 生物に対する毒性が強いほか、利用目的が特定されていること。

なお、砒素及びその化合物、臭化メチル等の物質は一般工業原料と農薬の両方に使用されているが、これらの物質は一般工業原料としての化学物質の中で分類記載し、農薬その他の薬剤の有効成分には再掲していないので、留意すること。

c 化学物質の配列

化学物質は上記bに掲げる疾病の分類に対応して分類配列されているが、各分類項目中の個々の物質については化学物質の名称の五〇音順により配列されている。

d 疾病内容の記載等について

(a) 症状又は障害の例示

疾病の内容ないし病像については、労働の場で起こつた症例のうち、文献において共通的に現われた症状又は障害を「主たる症状又は障害」として掲げたものである。したがつて、動物実験等により人体に対する有害作用が推測されるにとどまつているような症状・障害あるいは化学物質への高濃度ばく露を受けて急性中毒死した場合等の際にみられる一般的でない障害や二次的な障害が原則として記載されていないのは、前記第一の二(三)に述べたとおりである。

次に、告示の表中下欄に掲げられている症状又は障害が「主たる症状又は障害」である旨記載されているのは、これらの症状又は障害以外の症状又は障害の現われた疾病であつても業務との因果関係の認められるものについては本規定が適用される場合のある趣旨を明らかにしたものである。

なお、告示の表中上欄に掲げる化学物質にさらされる業務に従事した労働者に発生したことのある症状又は障害例を別添一に掲げる。これらの症状又は障害はいずれも症例報告の中にみられるものであるが、これらの中には特異的なばく露条件でのみしか起こりにくいと思われるもの、同時にばく露を受けた他の化学物質による影響が否定できないものなど医学的には必ずしも一般的な形における当該物質との関連性が明らかにされていないと考えられるものが含まれているので留意する必要がある(これらの認定については、第三の一参照。)。

別添一に記載した症状又は障害の現われた疾病であつて療養を要する疾病のうち、同別添の表の左欄に掲げる化学物質に起因したと認められる疾病に対しては、原則として本規定が適用される。しかし、これらの疾病に続発して、ないしは後遺症として生じた疾病又は同表左欄に掲げる化学物質以外の化学物質によつて発生したとみとめられる疾病については、第四号八の規定が適用される。

(b) 症状又は障害の記載の順序

主として急性症状として疾病の初期に現われる自覚症状たる「中枢神経性急性刺激症状」を最初に掲げ、次いで、他覚所見について、原則としてそれぞれの因子に特徴的なものから順次掲げている。このうち、特に皮膚障害は、直接皮膚に受けたばく露の影響によるものが多いので、他覚所見の中では第一番目に掲げられている。

(ロ) 告示中の用語について

a 告示の本文中の用語について

(a) 「単体」とは、化学上は単一の元素から成り、化学変化によつて二種又はそれ以上の物質に分けることのできない物質をいう。告示の表中上欄に掲げる化学物質のうちこれに該当するものには、金属(セレン及び砒素を含む。)の元素、ハロゲン(弗素、塩素、臭素、沃素)及び黄りんがある。

(b) 「化合物(合金を含む。)」とは、化学物質のうち単体以外の物質をいう。

このうち、化学変化によつて二種又はそれ以上の物質に分けることのできる物質を化合物といい、二種以上の金属をそれぞれの融点以上の温度で混合したものを冷却して凝固させたものを合金という。

b 告示の表中上欄に掲げる化学物質の分類項目等について

(a) 「無機の酸及びアルカリ」とは、水に溶けて酸性を示す物質及びアルカリ性を示す物質のうち無機化合物をいう。

これらの物質の人体に対する主な有害作用には、刺激作用と腐食作用がある。

(b) 「金属(セレン及び砒素を含む。)及びその化合物」とは、金属元素又は金属と非金属の中間的性質を有するセレン及び砒素(これらの物質を亜金属又はメタロイドと呼ぶことがある。)とこれらの無機若しくは有機化合物であるが、上記(a)に掲げる物質は除かれる。なお、告示備考一において「金属及びその化合物には、合金を含む。」とされている。

これらの物質による疾病の多くは、いわゆる金属中毒と呼ばれるものである。

(c) 「ハロゲン及びその無機化合物」とは、周期律表第Ⅶ族のうち弗素、塩素、臭素、沃素等の特に金属元素と塩を作りやすい物質(ハロゲン)とその無機化合物であるが、上記(a)及び(b)に掲げる物質は除かれる。

これらの物質の人体に対する主な有害作用には、刺激作用がある。

(d) 「りん、硫黄、酸素、窒素及び炭素並びにこれらの無機化合物」とは、例示された元素を含有する無機化合物であつて中毒を起こすことが知られている物質であるが、上記(a)から(c)までに掲げる物質は除かれる。

なお、「シアン化水素、シアン化ナトリウム等」の「等」には、シアン化カリウム及びシアン化カルシウムがある。

(e) 「脂肪族化合物」とは、炭素と水素を基本元素とする鎖式化合物の総称であり、後述する芳香族化合物と並んで有機化合物の代表的物質である。

(f) 「脂肪族炭化水素及びそのハロゲン化合物」とは、炭素と水素のみからなる脂肪族炭化水素とそのハロゲン化合物をいう。

これらの物質はいずれも、有機溶剤であるか、又は有機溶剤によく溶ける物質で、中枢に対する作用その他の中毒作用を有する。

(g) 「アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン及びエステル」とは、アルカル基(脂肪族炭化水素から水素一原子を除いた残りの原子団をいい、以下「R」と記す。また、二つのアルキル基を有する化合物の場合は、他方のアルカル基を「R′」と記す。)を基本にして、それぞれ、R―OH(アルコール)、R―O―R′(エーテル)、R―CHO(アルデヒド)、R―CO―R′(ケトン)及びR―COO―R′(エステル)の化学構造を有する化合物をいう。

これらの物質は、上記(f)に掲げる物質と同様に、いずれも、有機溶剤であるか、又は有機溶剤によく溶ける物質で中枢に対する作用その他の中毒作用を有する。

(h) 「その他の脂肪族化合物」とは、上記(f)及び(g)に掲げる物質以外の脂肪族化合物であつて中毒を起こすことが知られている物質をいう。

(i) 「脂環式化合物」とは、炭素環式化合物のうち後述する芳香族化合物の性質を有さない物質の総称であり、その性質が脂肪族化合物に似ているところからこの名称が付されている。

(j) 「芳香族化合物」とは、後述するベンゼン環を有する炭素環式化合物をいう。一般に芳香を呈する物質が多いことからこの名称が付されている。

(k) 「ベンゼン及びその同族体」とは、炭素六原子・水素六原子からなる六員環をなし交互に二重結合を有するベンゼン(ベンゼン環とも呼ばれる。)とベンゼン環一つにアルキル基(―R)が結合した物質をいう。

これらの物質はいずれも、有機溶剤であつて、中枢に対する作用その他の中毒作用を有する。

(l) 「芳香族炭化水素のハロゲン化物」とは、ベンゼン環を一つ又はそれ以上有する芳香族化合物にハロゲンのみが置換された化合物をいう。これらの物質はいずれも、ハロゲンの活性に基づく作用特性を有する。

(m) 「芳香族化合物のニトロ又はアミノ誘導体」とは、芳香族化合物にニトロ基(―NO2)又はアミノ基(―NH2)をそれぞれ一つ又はそれ以上有する化合物をいう。

これらの物質は、血液への作用としてのメトヘモグロビン形成を特徴とするほか、その他の中毒作用を有する。

(n) 「その他の芳香族化合物」とは、上記(k)~(m)に掲げる物質以外の芳香族化合物であつて中毒を起こすことが知られている物質をいう。

(o) 「複素環式化合物」とは、二種又はそれ以上の元素の原子(炭素のほか、窒素、酸素、硫黄等)から環が構成されている環式化合物をいい、ヘテロ環式化合物とも呼ばれる。

(p) 「農薬その他の薬剤の有効成分」とは、農薬取締法第一条の二第一項に呈める農薬及び農薬の目的以外の目的で製造、輸入、販売及び使用がなされる薬剤の中に含まれる殺菌、殺虫その他の薬理作用を有する成分たる物質をいう。

これらの薬剤は製剤(粉剤、粒剤、水和剤、乳剤)に有効成分となる原体が含有されたものであるが、製造工程におけるこれら原体も「農薬その他の薬剤の有効成分」に含まれることは当然である。

なお、参考のため別添二として「農薬その他の薬剤の有効成分たる化学物質一覧」を掲げる。

(q) 「有機りん化合物」とは、りん原子pを含むエステル系の化合物をいう。

これらの物質はいずれも、共通してコリンエステラーゼ活性阻害作用による中毒症状を呈するので、告示の表中上欄には「有機りん化合物」を一括して掲げ、これに対応する症状又は障害を同表下欄に掲げている。

なお、告示の表中上欄に掲げる有機りん化合物の一物質なる各物質にばく露すると同表下欄に掲げる症状又は障害のすべてが必発するという趣旨ではなく、下欄に掲げる症状又は障害のうち一つ又はそれ以上のものの現われた疾病が発生した場合、上欄に掲げる有機りん化合物のうちのいずれかの物質にばく露しておれば業務以外の原因による疾病でない限り業務上の疾病として取り扱われる趣旨である。この趣旨は、下記のカーバメイト系化合物又はジチオカーバメート系化合物においても同じである。

(r) 「カーバメート系化合物」とは、化合物の構成元素として塩素やりんを含まずとも殺虫及び除草の薬理作用を有するカルバミン酸エステル類をいい、そのうち多くの化合物が置換フエニルカーバメート類である。

これらの物質は、上記(q)に掲げる有機りん化合物よりも、コリンエステラーゼとの結合が弱く、生体内での離脱が早く行われるが、有機りん化合物と同様にコリンエステラーゼ阻害作用を有するため、これと同じ症状又は障害を起こすものである。

(s) 「ジチオカーバメイト系化合物」とは、ジチオカルバミド酸の金属塩類をいう。

(t) 「二・四―ジクロルフエニル=パラーニトロフエニル=エーテル(別名NIP)」から「硫酸ニコチン」までの物質は、上記(q)から(s)までに掲げる物質と異なり必ずしも類型化になじまないが、それぞれ疾病発生との因果関係の存在は認められているものである。

c 告示の表中下欄に掲げる症状又は障害について

告示の表中下欄に掲げる症状又は障害のうち、特殊な用語及び各化学物質に対応する症状又は障害が相互に関連性を有するものの意義は、次に掲げるとおりである(その他のものの意義については、当面適当な医学辞典等を参照されたい。)。

(a) 「皮膚障害」とは、刺激作用(感作性及び光過敏性を含む。)及び腐蝕作用によつて生ずる皮膚(爪を含む。)の障害をいい、これには皮膚の発赤、腫脹、発疹、潰瘍、色素異常(沈着又は脱失)等がある。

(b) 「前眼部障害」とは、粘膜の刺激作用によつて生ずる主として結膜又は角膜の障害をいい、これには結膜炎、角膜炎等がある。

なお、酸又はアルカリが眼内に異物として侵入し、これらの物質の腐蝕作用によつて起こる眼障害(第一号の規定が適用される。)及び化学物質の経気道吸収又は経皮吸収によつて起こる視神経炎、視力障害、視野障害等の神経系の眼障害はこれに含まれない。

(c) 「気道障害」とは、気道の上皮組織に対する刺激作用によつて生ずる障害をいい、これには鼻炎、咽頭炎、喉頭炎、気管炎、気管支炎、細気管支炎、肺胞炎、肺炎及び肺水腫がある。

(d) 「中枢神経性急性刺激症状」とは、主として急性症状として疾病の初期に現われる頭重、頭痛、悪心、嘔吐、倦怠感、めまい等の自覚症状をいう(告示備考二参照)。

(e) 「口腔粘膜障害」とは、口腔の上皮組織に対する刺激作用によつて起こる障害をいい、水銀及びその化合物(アルキル水銀化合物を除く。)によるものとしては歯肉炎(歯ぎん炎)、口内炎及び口内の粘膜潰瘍がある。

(f) 「肺肉芽腫」とは、肺内の肉芽組織(線維芽細胞等の細胞からなる増殖性に富んだ若い結合組織をいう。)でできた炎症性の結節をいい、ベリリウム及びその化合物による肺肉芽腫は、慢性障害の一つであつて特徴的な病変である。

なお、ベリリウム及びその化合物が皮下に侵入すると皮下肉芽腫を起こすが、この疾病に対しても本規定が適用される。

(g) 「言語障害、歩行障害、振せん等の中枢性神経症候群」とは、錐体外路症候を主徴とする運動減少筋硬直症候群の一種で、パーキンソン症候群又はパーキンソニスムスとも呼ばれる。マンガン及びその化合物による中枢性神経症候群は慢性障害の一つであつて、言語障害、歩行障害及び振せんのほかに仮面状顔貌、小字障害、突進症状(前方、側方又は後方)等がみられる。

(h) 「精神神経障害」とは、中枢神経が侵されて精神障害と神経障害が共に現われる障害をいう。例えば、一酸化炭素中毒では、急性期から慢性期のものについてみると、昏睡、記憶減退、性格変化、失見当識、幻覚、意識障害、せん妄等の精神障害と運動失調、視力障害、色視野障害、前庭機能障害等の神経障害がみられるとされている。

ただし、診断の時期により、あるいは個々の症例により、これらの症状・障害のうちいくつかのもののみが認められるのが通常である。

(i) 「顎骨壊死」とは、顎骨に生じた壊死(骨の組織、細胞が死んだ状態をいう。)をいい、黄りんによる顎骨壊死は、慢性中毒の特異な障害であつて、下顎骨に現われやすいが、口蓋上顎等にもみられる。

(j) 「上気道障害」とは、上気道の上皮組織に対する刺激作用によつて生じる障害をいい、これには鼻炎、咽頭炎及び喉頭炎がある。

(k) 「呼吸困難」とは、呼吸に際して感ずる息苦しさをいい、その症状は軽いものから重度なものにわたる。

シアン化水素、シアン化ナトリウム等のシアン化合物による呼吸困難は、シアンイオンの作用によつて大脳の酸素欠乏をきたす結果起こるとされている。血中のシアン値が増加すると呼吸が不整となり、さらに進むと呼吸停止に至り、この間に意識喪失、全身痙攣(下記(一)参照)を伴う。

また、硫化水素による急性中毒では呼吸中枢の麻痺による呼吸停止がみられる。

硫化水素への高濃度ばく露では、突然に虚脱(急性循環不全)が起こり、全身の痙攣次いで呼吸麻痺によつて急速に死に至るとされている。

(l) 「全身痙攣」とは、全身の筋又は筋群の発作性収縮をいう。シアン化水素、シアン化ナトリウム等のシアン化合物による全身痙攣は、シアンイオンの作用によつて起こる大脳の酸素欠乏による末期の窒息性痙攣であつて、重症の場合は意識喪失・痙攣・呼吸停止を経て死に至ることがある。

オルトーフタロジニトリルによる全身痙攣は、特に前駆症状がなく突然起こる激しいてんかん様発作であつて、発作中は間代性痙攣(後記(r)参照)と徐脈が現われる。一般にシアン化合物による中毒よりも軽症の場合が多く、発作がおさまれば外見上後遺症が残らず回復する。

なお、農薬その他の薬剤の有効成分による痙攣については後記(q)及び(r)を参照されたい。

(m) 「多発性末梢神経障害」とは、多発性神経炎とも呼ばれ、局所の限られた神経組織でなく末梢神経系全般におよぶ末梢優位の知覚鈍麻を主徴とする神経障害をいい、これには四肢末端のしびれ感、筋力低下、筋萎縮等がある。

(n) 「中枢神経系抑制」とは、中枢神経の機能が初期亢進から減弱・制止にいたる過程の状態をいう。塩化メチル等の化学物質の吸入によつて起こる場合には、興奮・抑制・麻痺へと進行するとされているが、興奮の段階を経ずに抑制から麻痺に至ることがある。

また、クロロホルム等の物質による急性中毒では、麻酔(中枢神経系の機能が抑制されて意識が消失し、全身の知覚が鈍麻又は消失した状態をいう。)が現われる。

(o) 「メトヘモグロビン血」とは、血球のヘモグロビンがメトヘモグロビン(二価の鉄をもつヘモグロビンが酸化されて三価となつたものをいう。)になつたために起こる血液変化をいう。

芳香族化合物のニトロ又はアミノ誘導体や亜硝酸塩による中毒の特徴であり、脱力、チアノーゼ、呼吸困難等が現われる。慢性ばく露の場合には、ハインツ小体を伴うメトヘモグロビン血症がみられ、さらに貧血が加わるとされている。

なお、トリニトロトルエンによる中毒では、高濃度ばく露の場合、ハインツ小体を伴うメトヘモグロビン血症や造血器障害に伴う血液変化のほか、溶血性貧血(赤血球の破壊亢進による貧血をいう。)がみられる。また、血球中の酵素の一種であるG六PDの欠損のある者は、これらの酸化剤に対して極めて敏感であり、血液の障害が起こりやすい。

(p) 「代謝異常亢進」とは、外因性の毒物によつて基礎代謝(生命保持に必要な最低のエネルギーを産生するための代謝をいう。)が異常に亢進するために諸症状の現われる病的変化をいう。

ジニトロフエノール及びその誘導体による中毒では、代謝異常亢進が起こつて発熱、異常発汗、脱力等が現われる。さらに進むと、チアノーゼを伴う無酸素症、アシドーシス、振せんなどがみられ、昏睡を経て死亡に至ることがある。

ペンタクロルフエノール(PCP)による中毒では、上記ジニトロフエノールによる作用と類似の作用により代謝異常亢進が起こり、発熱、異常発汗、脱力等が現われる。重症の場合は、全身痙攣・虚脱をきたし、さらに死亡に至る。

(q) 「筋の線維生攣縮」とは、筋線維束の不随意的収縮をいい、四肢、顔面、舌、体幹等に起こる。これは比較的早期に現われる徴候であつて、筋のあちこちがピクピク動く状態が観察される。

有機りん化合物、カーバメート系化合物及び硫酸ニコチンによる中毒でこのような筋の線維生攣縮がみられる。

(r) 「強直性若しくは間代性筋痙攣」の「強直性筋痙攣」とは、筋肉の収縮が持続して起こる痙攣をいい、「間代性筋痙攣」とは、筋肉の収縮と弛緩が交互に起こる痙攣をいう。通常強直性痙攣が先行し、間代性痙攣がこれに代わり、次いで消失する。

強直性痙攣では、筋強直のために一定の姿勢に固定され、不動のままであるのが特徴である。

一方、間代性痙攣では、四肢の交互運動、頭の屈伸運動等がみられる。

モノフルオル酢酸ナトリウムによる中毒では、てんかん発作に似た痙攣が起こる過程でこのような強直性若しくは間代性筋痙攣がみられる。

なお、有機りん化合物、カーバメート系化合物、6・7・8・9・10・10―ヘキサクロール1・5・5a・6・9・9・a―ヘキサヒドロ―6・9―メタノ―2・4・3―ベンゾジオキサチエピン3―オキシド(別名ベンゾエピン)及び硫酸ニコチンによる中毒でみられる痙攣は、重症の場合、全身性の痙攣であり、このうちベンゾエピンによる痙攣は、てんかん発作に似た痙攣であるとされている。

(ハ) 告示において指定された化学物質が該当する旧規定及び認定基準は、別添三のとおりである(なお、後記第三の一参照。)。

ロ 「弗素樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂の熱分解生成物にさらされる業務による眼粘膜の炎症又は気道粘膜の炎症等の呼吸器疾患」(第四号二)

〔要旨〕

本規定は、弗素、塩素、窒素などの元素を含有する合成樹脂が熱分解により不完全燃焼したときに生ずる粘膜刺激作用のある物質等の混合物質にさらされる作業環境下における業務に従事することにより発生する眼粘膜の炎症又は気道粘膜の炎症等の呼吸器疾患を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「弗素樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等」の「等」には、下表左欄に掲げるポリウレタン以下の合成樹脂があり、これらの合成樹脂の「熱分解生成物」のうち主なものには、それぞれ同表右欄に掲げる物質がある。

合成樹脂の名称

合成樹脂の主な熱分解生成物

弗素樹脂(ポリテトラフルオルエチレン等)

テトラフルオルエチレン、ヘキサフルオルプロピレン、オクタフルオルシクロブタン、カルボニルフルオリド、一酸化炭素、オクタフルオルイソプチレン、四弗化炭素、ヘキサフルオルエタン、オクタフルオルプロパン、トリフルオルアセチルフルオリド

塩化ビニル樹脂

塩化水素、二酸化炭素、一酸化炭素、ベンゼン

アクリル樹脂

二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、アンモニア、シアン化物

ポリウレタン

シアン化物、二酸化炭素、一酸化炭素、メチルアルコール、アセトアルデヒド、アセトン

ポリイミド

二酸化炭素、一酸化炭素、アンモニア、シアン化物

ポリスチレン

ベンゼン、トルエン、スチレン、メチルスチレン、二酸化炭素、一酸化炭素

ポリエステル

二酸化炭素、一酸化炭素、メチルアルコール、アセトアルデヒド

フエノールホルムアルデヒド

二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、アンモニア

ポリエチレン

二酸化炭素、一酸化炭素、メタン

(ロ) 該当業務としては、例えば、合成樹脂の製造、成型加工、コーテイング、合成樹脂被覆電線の溶接の業務等がある。

(ハ) ここにいう「眼粘膜の炎症」とは、熱分解生成物のうち、塩化水素、アンモニア等の物質の眼粘膜に対する刺激作用によつて生ずる炎症症状をいう。

(ニ) 「気道粘膜の炎症等」について

a 「気道」とは、鼻腔、副鼻腔、鼻咽腔、咽頭、喉頭、気管、気管支又は肺をいい、気道粘膜の炎症性疾患の原因物質及び発生状況は、上記(ハ)「眼粘膜の炎症」の場合に類似している。

b 「等」には、喘息等がある。

なお、弗素樹脂の熱分解生成物では、亜鉛等の金属ヒユームによる金属熱に類似した悪寒、発熱等の症状がみられるが、これらの症状は、一般に喉頭の炎症等の気道粘膜の炎症とともに現われるので、本規定に該当する疾病として取り扱われるべきものである。

ハ 「すす、鉱物油、うるし、テレビン油、タール、セメント、アミン系の樹脂硬化剤等にさらされる業務による皮膚疾患」(第四号三)

〔要旨〕

本規定は、職業性皮膚疾患の原因物質として従来から知られているすす、鉱物油、うるし、タール及びセメントに加えて近年多数の障害発生をみたアミン系の樹脂硬化剤等の混合物質にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する皮膚疾患を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 例示された有害物質の意義は、以下に述べるとおりである。

a 「すす」とは、石炭等が不完全燃焼して発生した無定形炭素で、工業製品としてはカーボンブラツク等がある。

b 「鉱物油」とは、植物性油に対する鉱物性油を総称するもので、石油、ケツ岩油、石炭系油等がある。

c 「うるし」とは、主成分としてウルシオールを含有するウルシ科の植物から得られる天然樹脂である。

d 「テレビン油」とは、マツ科植物の水蒸気蒸留や乾留によって得られる環状の炭化水素で、α―ピネンを主成分とし、少量のβ―ピネンやジペンテンなどを含む混合物である。なお、テレビン油は、第三種有機溶剤等に該当する有機溶剤として有機溶剤中毒予防規則(昭和四七年九月三〇日労働省令第三六号)に規定されている。

e 「タール」とは、芳香族高分子炭化水素等の化合物を多種類含有する石炭等を乾留して得られる黒色ないし黒褐色の粘稠性物質をいう。

f 「セメント」とは、気硬性、水硬性その他の特殊な工業用途に供するため各種の物理化学的性質を有し、水で練つたとき硬化性を示す粉末状の無機物質である。

g 「アミン系の樹脂硬化剤」とは、接着剤、表面被覆剤、塗料等としてエポキシ樹脂に混入して用いられるアミノ基を有する樹脂硬化剤で、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン類及びフエニレンジアミン等の芳香族ポリアミン類がある。

h 「すす、鉱物油、うるし、テレビン油、タール、セメント、アミン系の樹脂硬化剤等」の「等」には、ガラス繊維、ゴム添加剤等がある。

(ロ) 該当業務としては、例えば、次に掲げるものがある。

a 「すす:カーボンブラツクの製造又は加工(黒色印刷インキの原料、ゴム配合剤等)、黒鉛の製造、煉炭の製造等の業務

b 鉱物油:切削油等の潤滑油、電気絶縁油又は熱処理油の製造又は取扱い業務等

c うるし:うるしの栽培、うるし液の採取、漆器用又は塗料用のうるし製造の業務等

d テレビン油:テレビン油を用いた塗料、コーティング剤、医薬品等の製造又は取扱い業務等

e タール:タールの分留又は加工(エナメル、電極等の製造)の業務、コークス炉作業に係る業務等

f セメント:混合セメントの製造、セメント製品の製造の業務等

g アミン系の樹脂硬化剤:エポキシ樹脂接着剤、表面被覆剤(コンデンサー、トランス等)、塗料等の製造、加工及び取扱い業務等

(ハ) 「皮膚疾患」について

a すすによる皮膚疾患には、皮膚の角化等の病変がある。

b 鉱物油による皮膚疾患には、急性皮膚炎(かぶれ)、油疹(毛包炎又は毛嚢炎ともいう。)等がある。色素沈着とゆうぜい(イボ)の形成がみられることがある。

c うるしによる皮膚疾患には、うるしかぶれと呼ばれる感作性皮膚炎がある。

d テレビン油による皮膚疾患には、アレルギー性接触皮膚炎がある。

e タールによる皮膚疾患には、湿疹、皮膚角化等の病変及びタール座瘡がある。色素沈着とゆうぜい(イボ)の形成がみられることがある。

f セメントによる皮膚疾患には、いわゆるセメント皮膚炎がある。

g アミン系の樹脂硬化剤による皮膚疾患には、主として脂肪族ポリアミン類によるじん麻疹及び主として芳香族アミン類による接触性皮膚炎がある。

ニ 「蛋白分解酵素にさらされる業務による皮膚炎、結膜炎又は鼻炎、気管支喘息等の呼吸器疾患」(第四号四)

〔要旨〕

本規定は、蛋白質を人工的に分解させることを目的として開発された蛋白分解酵素にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する皮膚炎、結膜炎又は鼻炎、気管支喘息等の呼吸器疾患を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「蛋白分解酵素」とは、タンパク質やペプチドなどのペプチド結合(―NH―CH―CO―NH―)を加水分解する酵素の総称で、プロテアーゼとも呼ばれる。合成洗剤等に含有される。

(ロ) 該当業務としては、例えば、タンパク分解酵素の製造、合成洗剤の製造又は合成洗剤を使用して行う洗滌の業務等がある。

(ハ) 「皮膚炎」としては、湿疹がある。

(ニ) 「結膜炎」としては、酵素の溶液に接したときに起こる結膜の炎症がある。

(ホ) 「鼻炎」としては、酵素の粉じんを吸入したときに起る急性鼻炎(鼻カタルとも呼ばれる。)がある。

(ヘ) 「気管支喘息」としては、酵素の粉じんを吸入したときに起こる気管支喘息がある。

(ト) 「鼻炎、気管支喘息等の呼吸器疾患」の「等」には、息切れ、胸痛、気管支攣縮、気管支炎及び流行性感冒に似た症状がある。

ホ 「木材の粉じん、獣毛のじんあい等を飛散する場所における業務又は抗生物質等にさらされる業務によるアレルギー性の鼻炎、気管支喘息等の呼吸器疾患」(第四号五)

〔要旨〕

本規定は、職業性のアレルギー性呼吸器疾患を起こす場合に抗原となる物質にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生するアレルギー性の鼻炎、気管支喘息等の呼吸器疾患を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「木材の粉じん」とは、米杉、ラワン、リヨウブ、クワ等アレルギー性呼吸器疾患の抗原物質を含有する木材の粉じんをいう。

(ロ) 「獣毛のじんあい」とは、ヒツジ、ネコ、ヤギ、ウマ、ブタ等の動物の微細な毛をいうが、実際には、フケ、ダニ、カビ等が混在した状態でばく露することがある。

(ハ) 「木材の粉じん、獣毛のじんあい等」の「等」には、カキ殻に着生したホヤ、マブシ(蚕がマユを作りやすいようにワラまたはボール紙で作つた養蚕用の器具)等を取り扱う際に飛散する粉じんがある。

(ニ) 「抗生物質」とは、主として微生物が産出する化学物質であつて、他の微生物の発育又は代謝機能を抑制する物質をいい、これにはペニシリン、ストレプトマイシン等がある。

(ホ) 「抗生物質等」の「等」には、アスピリン、サルフア剤等の薬剤がある。

(ヘ) 該当業務としては、例えば、次に掲げるものがある。

a 木材の粉じん‥米杉、ラワン、リヨウブ、クワ等の製材、木材加工の業務等がある。

b 獣毛のじんあい‥毛筆の製造、獣医、農夫、実験動物取扱の業務等がある。

c 抗生物質‥薬品製造の業務、医療業務、薬局における調剤の業務等

(ト) 「アレルギー」とは、上記(イ)から(ホ)までに掲げる感作性物質を体内にとり込んだために起こる抗原抗体反応が生体に及ぼす作用のうち病的な過程をいう。

(チ) 「アレルギー性の鼻炎」とは、鼻粘膜におけるアレルギー反応の結果、鼻を支配する副交感神経の興奮が誘発されこのために生ずる鼻疾患をいい、主な症状には、水様性鼻汁、くしやみ、鼻内画像1 (1KB)別ウィンドウが開きます
痒感、鼻づまりがある。

なお、アレルギー性の皮膚炎に対しては第四号三の規定が、アレルギー性の結膜炎に対しては第四号九の規定が、それぞれ適用される。

(リ) 「アレルギー性の気管支喘息」とは、上記(チ)のアレルギー性鼻炎と同様にアレルギー反応の結果起こる気管支喘息をいう。

(ヌ) 「アレルギー性の鼻炎、気管支喘息等」の「等」には、アレルギー性の喉頭炎等がある。

ヘ 「落綿等の粉じんを飛散する場所における業務による呼吸器疾患」(第四号六)

〔要旨〕

本規定は、原綿夾雑物を比較的多く含有する落綿等の粉じんにさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する呼吸器疾患を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「落綿」とは、主として綿糸紡績の前工程においてできる屑綿をいう。主として原綿を原材料として行う混打綿、梳綿、コーマー(繊維の長さを均一にすること)等の過程で排除されたものとして得られるため、原綿夾雑物(綿の種子、苞、茎がく等)を含有する。

(ロ) 「落綿等」の「等」には原綿、亜麻及び大麻がある。

(ハ) 該当業務としては、例えば、がら紡や脱脂綿製造のほか、混打綿、亜麻紡績、大麻製糸等の工程における植物屑等の夾雑物にさらされる業務がある。

(ニ) ここにいう「呼吸器疾患」としては、ビシノーシス等がある。なお、綿じん熱(Cotton dust fever,原綿夾雑物を含有する粉じんにばく露開始後二~三日のうちに発熱のみ現われ、気道の発赤等はみられない病変)が発生した場合には、第四号九の規定が適用される。

ト 「空気中の酸素濃度の低い場所における業務による酸素欠乏症」(第四号八)

〔要旨〕

本規定は、酸素欠乏の状態に至つた作業環境下において業務に従事することにより発生する酸素欠乏症を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「空気中の酸素濃度の低い場所」とは、酸素欠乏症の症状があらわれる程度に空気中の酸素濃度の低い場所をいう。

(ロ) 「酸素欠乏症」とは、体組織とりわけ脳神経細胞に酸素不足をきたした結果起こる疾病をいう。軽度のときは、頻脈、精神障害、呼吸促迫、血圧上昇、チアノーゼ等の症状があらわれるが、高度になると意識不明、痙攣、血圧下降等がみられ放置しておくと死亡する。

チ 「一から八までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他化学物質等にさらされる業務に起因することの明らかな疾病」(第四号九)

〔要旨〕

本規定は、第四号一から八までに掲げる疾病以外に、①これらの疾病に付随する疾病、②第四号一から八までに掲げる疾病発生の原因因子によるその他の疾病又は③第四号一から八までに掲げる疾病発生の原因因子以外で化学物質等にさらされる作業環境下において業務に従事した結果発生したものと認められる疾病に対して適用される趣旨で設けられたものである。

この規定に該当するものとしては、例えば、「刺激性のガス又は蒸気による眼の疾患」(旧第三号)(第四号一及び第四号二に該当するものを除く。)及び「製糸紡績等の業務による手指の皮膚炎」(旧第一〇号)がある。

なお、「明らか」の意義については、(二)のワ〔解説〕参照。

(五) 「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法(昭和三五年法律第三〇号)に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則(昭和三五年労働省令第六号)第一条各号に掲げる疾病」(第五号)

〔要旨〕

本規定は、じん肺起因粉じんにさらされる作業環境下において、業務に従事することにより発生するじん肺症又はじん肺法(昭和三五年法律第三〇号)に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則(昭和三五年労働省令第六号)第一条各号に掲げる疾病を業務上の疾病として定めたものであり、旧第七号とほぼ同一である。

〔解説〕

(イ) 「粉じんを飛散する場所」とは、じん肺病変が現われる程度の粉じん(有機粉じんを含む。以下同じ。)が飛散する場所をいう(なお、じん肺法施行規則(昭和三五年労働省令第六号。以下「じん肺則」という。)別表第一の粉じん作業参照。)。

(ロ) 「じん肺症」とは、じん肺(粉じんを吸入することによつて肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病をいう。)のうち療養を要するものをいう。なお、じん肺法第二三条においては、じん肺法第二条第一項第一号に規定するじん肺のうち、じん肺管理区分が管理四のものについて療養を要するものとして規定している。

(ハ) 「じん肺法に規定するじん肺と合併したじん肺則第一条各号に掲げる疾病」とは、じん肺法第二条第一項に規定する合併症(じん肺管理区分が管理二又は管理三と決定された者に係るじん肺と合併した次に掲げる疾病)のほか、じん肺管理区分が管理四と決定された者に係るじん肺と合併した次に掲げる疾病を含む趣旨である。

① 肺結核

② 結核性胸膜炎

③ 続発性気管支炎

④ 続発性気管支拡張症

⑤ 続発性気胸

⑥ 原発性肺がん

(六) 「細菌、ウイルス等の病原体による次に掲げる疾病」(第六号)

イ 「患者の診療若しくは看護の業務、介護の業務又は研究その他の目的で病原体を取り扱う業務による伝染性疾患」(第六号一)

〔要旨〕

本規定は、例示されたような病原体にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する伝染性疾患を業務上の疾病として定めたものであり、旧第三三号とほぼ同一である。

〔解説〕

(イ) 「患者の診療若しくは看護の業務」とは、病院又は診療所において医師の行う患者の診断、検査若しくは治療又は看護婦等の行う看護の業務をいう。

(ロ) 「介護の業務」とは、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者に対し、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練及び療養上の管理その他のその者の能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようにするためのサービスを行う業務をいうものであること。

(ハ) 「研究その他の目的で病原体を取り扱う業務」とは、病院又は診療所において診療放射線技師、診療X線技師、臨床検査技師、衛生検査技師等の行う上記(イ)に掲げる業務以外の業務であつて、細菌、ウイルス等の病原体によつて汚染のおそれのある業務並びに病院又は診療所以外の衛生試験所、医学研究所、保健所等において医師、研究者又はこれらの助手等の行う研究、検査及びこれらの業務に付随する業務であつて、病原体によつて汚染のおそれのある業務をいう。

(ニ) 「伝染性疾患」としては、コレラ、赤痢、腸チフス、発疹チフス等の法定伝染病のほか、結核、らい、ウイルス性肝炎等がある。

(ホ) なお、病院又は診療所において患者の分泌物又は排泄物等を介して感染したウイルス性肝炎等の伝染性疾患あるいは伝染性疾患ではなくても病原菌にさらされる業務(炊事婦、介助人等)に従事したことにより起きた細菌性中毒等の疾病に対しては、第六号五の規定が適用される。

ロ 「動物若しくはその死体、獣毛、革その他動物性の物又はぼろ等の古物を取り扱う業務によるブルセラ症、炭疸病等の伝染性疾患」(第六号二)

〔要旨〕

本規定は、例示されたような獣類の人畜共通伝染病病原体にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する人畜共通伝染病であるブルセラ症、炭疸病等の伝染性疾患を業務上の疾病として定めたものであり、旧第三六号に対応するものであるが、例示疾病が改められた。

〔解説〕

(イ) 「その他動物性の物」には、動物の骨、内臓等加工していない動物の身体の部分がある。

(ロ) 「ぼろ等の古物」の「等」には、使い古した家具調度品がある。

(ハ) 該当業務としては、例えば、家畜の飼育、獣医の業務、屠殺、皮革製品の製造、刷毛又は筆の製造の業務、廃品回収の業務等がある。

(ニ) 「ブルセラ症」とは、ブルセラ菌に感染して起こる伝染性疾患をいい、これに感染する動物は通常ヤギ、ウシ、ブタ等の家畜であつて、これらの病獣等を介してブルセラ菌に感染することにより起こる場合が多い。

(ホ) 「炭疸病」とは、元来はウシ及びヒツジまれにウマ、ブタ、ネコ等が自然感染する疾患であるが、死獣又は病獣からの排泄物等を介して炭疸菌に感染(通常経皮感染、ときに経口感染)することにより起こる伝染性疾患をいう。

(ヘ) 「ブルセラ症、炭疸病等」の「等」には、ペスト、痘瘡等がある。

ハ 「湿潤地における業務によるワイル病等のレプトスピラ症」(第六号三)

〔要旨〕

本規定は、病原体の一種であるレプトスピラ(ねずみの尿中に排泄された病原体)で汚染された湿潤地における業務に従事することにより発生するワイル病等のレプトスピラ症を業務上の疾病として定めたものであり、旧第三四号に対応するものであるが、その例示疾病が改められた。

〔解説〕

(イ) ここにいう「湿潤地」とは、常時湿潤な状態を保有する土地を意味し、水田地帯や地下水の浸出する炭鉱地帯をいう。

(ロ) 該当業務としては、例えば、炭坑夫及び土木工事従事者の業務、街路清掃、じんあい処理の業務等がある。

(ハ) 「ワイル病」とは、鼠の尿で汚染された水、土壌、食物等を介してレプトスピラに経皮的又は経口的に感染することにより起こる伝染性疾患をいい、黄疸出血性レプトスピラ病とも呼ばれる。

(ニ) 「ワイル病等のレプトスピラ症」の「等」には、黄疸出血性レプトスピラ病以外のレプトスピラ症が含まれ、これには無菌性髄膜炎等がある。

ニ 「屋外における業務による恙虫病」(第六号四)

〔要旨〕

本規定は恙虫病のリケツチアに感染する恐れのある地域の屋外における業務に従事することにより発生する恙虫病を業務上の疾病として定めたものであり、旧第三五号と同一である。

〔解説〕

(イ) ここにいう「屋外における業務」とは、恙虫の幼虫に刺されるおそれのある地域の屋外における業務をいう。

(ロ) 該当業務としては、上記(イ)に掲げた関係地域の屋外における土木工事、護岸作業、農業に係る業務等がある。

(ハ) 「恙虫病」とは、野鼠により運搬された恙虫の幼虫(ダニの一種で赤虫とも呼ばれる。)に刺された傷口から、その幼虫の体内に保有されていたリケツチアに感染することにより起こる急性発診性熱性疾患をいう。

ホ 「一から四までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他、細菌、ウイルス等の病原体にさらされる業務に起因することの明らかな疾病」(第六号五)

〔要旨〕

本規定は、第六号一から四までに掲げる疾病以外に、①これらの疾病に付随する疾病、②第六号一から四までに掲げる疾病発生の原因因子によるその他の疾病又は③第六号一から四までに掲げる疾病発生の原因因子以外で細菌、ウイルス等の病原体にさらされる作業環境下において業務に従事した結果、発生したものと認められる疾病に対して適用される趣旨で設けられたものである。

〔解説〕

第六号一及び二に掲げる疾病のうち、急性伝染性疾患は二次感染を起こすことがあるが、このような二次感染により起こる疾病に対しては本規定が適用される。

なお、「明らか」の意味については、(二)ワ〔解説〕参照。

(七) 「がん原性物質若しくはがん原性因子又はがん原性工程における業務による次に掲げる疾病」(第七号)

イ 「ベンジジンにさらされる業務による尿路系腫瘍」(第七号一)

〔要旨〕

本規定は、がん原性物質であるベンジジンにさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する尿路系腫瘍を業務上の疾病として定めたものである。

〔解説〕

(イ) 「ベンジジン」とは画像2 (5KB)別ウィンドウが開きます
の化学構造式を有する白色ないし黄味又は赤味を帯びた灰色の結晶性粉末の物質である。

なお、現在は労働安全衛生法(昭和四七年法律第五七号)(以下「安衛法」という。)第五五条により製造等が禁止されている(ただし、試験研究の業務については、一定の要件を付して製造等が認められている。以下「禁止物質」という。)

(ロ) 該当業務としては、たとえば、安衛法による禁止前において染料及び試薬の製造・取扱いの業務があつた。なお、これらの業務は、ベンジジンの含有量が重量で一パーセント以下の物である場合を除き、安衛法第六七条による健康管理手帳交付の対象業務(以下「健康管理手帳交付対象業務」という。)となつている。

(ハ) ここにいう「尿路系腫瘍」とは、尿路(腎臓、腎盂、尿管、膀胱及び尿道をいう。以下同じ。)に原発した腫瘍(良性腫瘍を含む。以下同じ。)をいう。

ロ 「ベーターナフチルアミンにさらされる業務による尿路系腫瘍」(第七号二)