添付一覧
○労働組合法及び労働関係調整法の一部を改正する法律の施行について
(昭和二四年六月九日)
(発労第三三号)
(各都道府県知事あて労働次官通達)
労働組合法及び労働関係調整法の一部を改正する法律は、六月一日に公布され、六月一〇日から施行されたが、これらの法律は、自由にして建設的な労働組合運動の助成を更に一層推進し、これより公正な労使関係の維持、労働争議と公共の福祉との関係の適正な調整を図ろうとするものである。従つてこれらの法律の施行については、使用者、労働組合はもとより広く一般にもその趣旨の徹底を図るとともに、特に左記事項に留意し、その万全を期せられたく命により通牒する。
なお、本件に関しては、別紙の通り中央労働委員会会長に通知したので申し添える。
記
一 これらの法律には、従前の労組法及び労調法にみられない新しい規定も規定せられているのであり、改正法施行までの期間は短期間であつた関係上、労政関係職員はもとより労働組合、使用者等一般関係者その他一般にも広く改正法の趣旨の速かなる徹底を図るよう特に配慮せられたい。
二 労組法第一条第二項但書では暴力の行使が禁止されているが、これは当然のことを念の為に規定したものであるから、いやしくも職権の濫用を来し、健全なる労働組合運動の弾圧に陥るがごときことのないよう、その趣旨を充分末端機関にまで徹底し、検察庁、警察官署等と緊密な連絡をとり誤解のないように努力されたい。
三 労組法第二条第一号及び第二号と労働省発労第四号労働次官通牒「労働組合の資格審査基準について」との関係について
(1) 右の労働次官通牒は、あくまで旧法の解釈であつて、改正法の解釈そのものではない。即ち労働次官通牒は旧法第六条の規定による労働組合資格審査の場合の基準であつて、かかる制度は改正法では採られていない。
しかし乍ら右の労働次官通牒に示された基準は、改正法第二条の解釈と概ね一致するのである。即ち同通牒中「使用者ノ利益ヲ代表トス認ムベキ者」の範囲と改正法第二条第一号の範囲とは解釈上異るところがない。「主タル経費」の範囲は、改正法第二条第二号の「使用者の経理上の援助」の範囲とは原則的に同一であるが、同通牒で認められていた「適度の数の支部若しくは全国大会に出席する適度の数の組合員の賃金を支給すること」は改正法では認められず、又次官通牒では許されていない事務所の提供は、改正法では「最小限の広さの事務所の提供」と規定されて認められることとなつた。
(2) 改正法の施行により、第二条については右次官通牒によらず改正法によつて律せられることとなることは言を俟たないところであるが、そこに示された解釈は改正法において殆ど踏襲されるものであり、改正法施行後においても依然として専従者の給与の支給を受けている労働組合の如きは改正法第二条の労働組合とはいえなくなるからこの点留意せられたい。
四 労働組合の規約について
(1) 旧法では、労働組合の規約の必要記載事項は、極めて形式的であつたが、改正法においては規約の必要記載事項が具体的となり、第五条第二項において九項目を定めている。労働組合は、その規約に第五条第二項各号に掲げる規定を記載しなければ、同条第一項の規定により、労働組合として労組法及び労調法に規定する手続に参与し、且つ、これらの法律に規定する救済を受けることができないのであるから、この点をよく理解して労働組合の啓蒙に当る必要がある。
(2) 第五条第二項各号のうち、第一号の「名称」と第二号の「主たる事務所の所在地」とは、いかなる組合規約にも記載されているから問題はないが、その場合でも「事務所は何々工場におく」という如く会社の承諾を得る前に規約で一方的に使用者の建物内に事務所をおく旨を記載することは望ましくない。第三号から第九号については組合によつては従来組合規約に欠けているものがある。しかし乍ら、組合規約に記載さるべき事項について、改正法施行後の猶予期間が設けられていないから、各都道府県においては、至急労働組合に対して規約に記載すべき事項を明瞭に指導する必要があるのであるが、次の諸点には特に留意されたい。
(イ) 組合規約に第五条第二項に規定する各号の一つでも積極的に規定していない場合は、その規約は、第五条第二項の要件を満たしていないからその組合は、労組法及び労調法に規定する手続に参与し、且つ、これらの法律に規定する救済を受けることはできない。
(ロ) 労働組合は、改正法施行の時において組合規約を変更して第五条第二項各号に掲げる事項を含む規約をもつことが理想的であるが、改正法施行後といえども組合規約に第五条第二項各号に掲げた事項が規定されていなくてもその規約自体は無効ではない。
(ハ) 具体的に規約が第五条第二項各号に掲げた事項を含んでいるかどうかが問題となるのは、現実に当該労働組合が労組法及び労調法の規定する手続に参与し、且つ、これらの法律に規定する救済を受けることが必要となる場合であるから、それまでに規約が変更されていればよいわけである。然しこうした問題が何時生ずるかは明確には分りにくいものであるからできる限り早く規約の変更をすることが適当である。
(ニ) 第五条第二項第三号の組合員の平等権は、組合員が平等であることを組合に対して要求しうることを含んでいる。然しこれは婦人部とか青年部とかの存在そのものを排除するものではなく、婦人であり青年であることによつて一般組合員と異なつて二重投票権を持つことその他の特権を有するようなことのないようにするものである。
(ホ) 現在労働組合の役員である者は、その任期中はたとえ第五条第二項第五号の規定する手続によつて選任されていなくても、その組合規約さえ第五号に適合した条項をもつていれば、問題を生じた場合に、当該労働組合は、労組法及び労調法に規定する手続に参与し、且つ、これらの法律に規定する救済を受けることはできる。但し、改正法第五条第二項の規約に適合した方法によつて速やかに役員を選任することが望ましい。
(ヘ) (略)
五 使用者の不当労働行為について
改正労組法第七条の規定により使用者の不当労働行為の範囲は旧法第十一条に比して拡大されたのであるが、次の諸点について留意されたい。
(1) 労組法第二条の規定に該当しない労働者の団体についても、その構成員たる労働者が労働組合を結成しようとするときに使用者がその労働者に対して不利益な取扱をすることは、当該労働者が結成せんとする労働組合が御用組合等であることが明かな場合を除いては、通常労組法上の労働組合を結成せんとするものであると推定されるから不当労働行為となると考えられる。
(2) 使用者が正当な理由なくして団体交渉を拒否することは第七条第二号において不当労働行為となることを改正法は規定しているが、使用者が応ずる義務ある団体交渉とは、労働組合の代表者たると委任状をもつ争議団の代表者による場合たるとを問わないのであつて、この点特に使用者に趣旨を徹底せられたい。
六 労働協約について
(1) 労働協約は旧法においてこれを書面に作成することのみによつて法律上有効に成立したのであるが、改正法第一四条では、その効力発生要件として「書面に作成し、両当事者が署名すること」を掲げているのである。従つて労働協約は記名捺印のみでは効力を発生せず、両当事者が自ら自己の氏名を記することが必要であるのであつて、署名のない労働協約は効力を発生しないのであるからその点注意されたい。
(2) 旧法では、労働協約に有効期間を規定することを強制していないので、有効期間を欠く労働協約も存在するが、改正法の施行によつて第一五条第一項の規定により有効期間のない労働協約は無効となるのである。なお有効期間は、その期間が確定期間たると不確定期間たるとを問わないが、条件は期間でないから注意せられたい。
(3) 改正法第一五条第一項後段は、労働協約はいかなる場合においても三年を越えて有効に存続することができないと規定しているが、これは旧法第一九条においても有効期間のある場合はそれが三年以内でなければならないと規定しているから同様である。三年の起算点は、改正法施行の日でなく現行協約が有効となつた日である。
(4) 改正法施行前から既に労働協約が自動延長に入つている場合、当事者の一方が改正法施行後その延長に反対の意思を表示すれば第一五条第二項の規定によりその協約は全部無効となる。
(5) 労働組合の専従役職員に使用者が給与を支給する旨の労働協約の規定がある場合、その条項の効力は別としても、その条項を実施すれば労働組合は改正法施行後において労組法上の労働組合ではなくなり、第五条第一項に規定する如く、労組法及び労調法に規定する手続に参与し、且つ、これらの法律に規定する救済を受けることができなくなり、使用者は改正法施行後行つた給与の支給について不当労働行為となる。
七 労働委員会について
(1) 旧法では労働委員会の権限として、第二七条で労働争議の統計の作成、労働事情の調査、関係行政庁への建議権等が定められていたが改正法では削除された。
(2) 中央労働委員会は、労働省設置法によつて労働省の外局となつたが、労組法及び労調法で明かに規定されている中労委の権限は、中労委が合議制の機関たるの性質上当然労働大臣の指揮監督を受けることなく独立に遂行するものであり、地方労働委員会についても、これと同様に取り扱われたい。
(3) 然し、これは労組法及び労調法で明記された労働委員会の権限に属する事項に関するものであつて、委員会の予算、事務局の人事は、当然労働大臣、都道府県知事の監督を受けるが、労政課は、その限度において地労委の事務に関与することは差支えない。然し、そのために地労委の職務遂行を妨害するような事態の発生することのないように戒められたい。
(4) 労働争議の予防、統計の作成、労働事情の調査は自らの資料に基くものの他は一切労働委員会の権限から除かれて都道府県労働部の責任となつたのであるからこの点は明確に処理されたい。
(5) 地労委の委員は、研究されていた地方公務員法案では特別職とされる予定であつたので、今日ではなお未定ではあるが、この線で処理されたい。なお、地労委の委員と国家公務員及び地方公務員の兼職の問題については、改正法施行後も、従来と同様に処理されたい。
(6) 地労委の事務局職員は、改正法施行後は、都道府県の正規の職員に切替え、その給与等は、合理的に処理されたい。右に関する細部事項については別途通牒する。
(7) 地労委の委員の手当は、条例を制定して支給されたい(地方自治法第二〇三条第三項)。改正法第一九条第一四項の「別の法律」は現在未だ制定されていないが、法律以外で給与を支給することを禁ずる趣旨ではないのであるから、地労委にあつては、当分の間従来通りにされたい。
(8) 地労委の委員の選任方法は旧法と同様である。即ち任命は、都道府県知事が明確にその責任において労使の推薦を受けた者の中からなすべきである。ただ、労働委員会の委員の推薦しうる労働組合は、改正労組法第二条に該当し、且つ、第五条第二項に規定する規約を満たすものでなくてはならない。従つて労働組合は、予め労働委員会に対して立証をしていなければならないからこの点を注意して、相当期間前に委員の推薦の公告をしておくことが必要である。この点については、労政関係の職員はもとより、地労委及び労働組合に充分徹底せしめ、公告は、地労委の事務の遂行とにらみ合せて行い、更に公告の中には必ず右のことを明確に記載し、無用の事務上の混乱を惹起しないよう特に留意されたい。尚これが実施方法については追つて通牒する予定である。
八 労働関係調整法第一一条の改正により、斡旋員名簿に記載されている者は、労働委員会の委員であることができなくなつたから、現に同一人が斡旋員候補者と労働委員会の委員とを兼ねている場合には候補者名簿から削除する措置をとられたい。なお、労働委員会の委員であつても例外的に、第一二条但書の規定によつて斡旋員となることができるが、この但書の適用については、慎重を期せられたい。
九 届出制の廃止と今後の措置について
改正法によつて労働組合の届出及び労働協約の届出は一切廃止されたが、これは改正法の基本的精神が自由にして建設的な労働組合の育成にあるので、行政機関の関与を排除するためである。しかし、この自由にして建設的な労働組合の発展のためには、現段階においては、労働組合に対し協力や勧告等を与えることが必要であると信じられるのであつて、今後においても改正法の精神に徹して、労働組合の健全な発達のために労働教育その他労働組合に対する協力、勧告を従来通り強力に行うべきであり、届出制からくる安易さを一擲して、更に積極的に取扱われることが特に望ましいと考える。
