添付一覧
○農業者年金基金法等の一部改正に伴う留意事項について
(平成三年三月二七日)
(厚生省年発第一九六四号・三構改B第三五三号)
(農業者年金基金理事長あて厚生省年金・農林水産省構造改善局長連名通知)
農業者年金基金法の一部を改正する法律(平成二年法律第二一号。以下「改正法」という。)が第一一八回国会において成立し、平成三年四月一日付けで施行されることとなり、また、農業者年金基金法施行令等の一部を改正する政令(平成三年政令第二九号)、農業者年金基金法施行規則の一部を改正する省令(平成三年厚生省令、農林水産省令第二号)及び農業者年金基金の業務方法書に記載すべき事項を定める省令の一部を改正する省令(平成三年厚生省令、農林水産省令第三号)等が同日付けで施行されることとなったので、左記事項に御留意の上、農業者年金事業等の適正かつ円滑な実施に努められたい。
なお、関係機関に対してもこの旨周知徹底されたい。
記
第一 改正の趣旨
農業者年金制度は、昭和四五年に発足し、農業者の老後生活の安定に寄与するとともに、適期の経営移譲を通じて若い農業者の確保、経営の細分化の防止、経営規模の拡大等農業構造の改善を進める上で大きな役割を果たしてきている。
しかしながら、近年、本制度をめぐる情勢には、大きな変化が見られる。すなわち、被保険者数の減少、年金受給権者数の増加等により、年金財政は、極めて厳しい状況にある。また、農村地域における高齢化の進展、産業構造の変化等を背景に、農業経営主の就業可能期間の長期化、後継者の就農形態の変化等が見られ、これらに対応した新たな年金給付体系の構築が求められていた。さらに、農業を取り巻く内外の厳しい状況の下で、農業構造の改善の一層の推進が必要となっていた。
このため、年金給付体系の変更による適期の経営移譲の推進と老後保障の充実、年金財政基盤の長期安定化、経営移譲を通じた営農意欲の高い農業者の規模拡大の一層の推進等を目的として、農業者年金基金法(昭和四五年法律第七八号。以下「法」という。)等の一部改正が行われたものである。
第二 年金給付体系の変更
1 経営移譲年金
(1) 経営移譲年金について、申出により六五歳までの範囲内で支給の繰下げを行うことができることとし、支給開始年齢を農業者個人の事情によって選択できることとされた。また、年金単価については、いずれの支給開始年齢を選択しても終身受給額がおおむね同一となるよう支給基準時年齢別に設定するとともに、従来の給付体系のように六五歳の前後において差を設けない終身同一額とすることとされた。
さらに、年金給付体系の変更に伴い、経営移譲年金の受給権者に対しては経営移譲年金のみを支給し、農業者老齢年金は支給しないこととし、両年金の政策上の位置付けが明確にされた。なお、経営移譲年金の受給権は、従来どおり法第四一条に定める要件を満たしたときに発生する。
(2) 経営移譲年金の受給権者となった者は、裁定請求と同時に、農業者年金基金(以下「基金」という。)に対し、経営移譲年金の支給の繰下げの申出をし、受給の開始を希望する月を指定月として指定することができることとされた。支給の繰下げの申出は、受給権を取得した日から一年を超えてはすることができないこととされた。なお、この申出は、裁定請求と同時に行うものであるが、これをもって裁定請求も受給権発生後一年以内に行えば足りると解すべきではなく、法第三四条第二項の規定により、受給権を有することとなったときは遅滞なく行わねばならないので留意されたい。
また、支給の繰下げの申出は、撤回はできるが、変更することができないので、指定月の指定は十分考慮の上行うよう農業者を指導されたい。
(3) 支給の繰下げの申出はいつでも撤回することができるが、この撤回は将来に向かってのみ効果を有し、受給権者が受給権を有することとなった日の属する月の翌月から撤回を申し出た日の属する月までの分についての経営移譲年金は支給されない。
また、支給の繰下げの申出をした者が、繰下げ後指定月に至る前に法第四六条第二項又は第三項の経営移譲年金の支給停止事由に該当した場合には、その申出は撤回したものとみなされるので留意されたい。なお、この措置は、支給の繰下げの申出をしなかった者が当該支給停止事由に該当した場合との均衡を保つためのものである。
2 農業者老齢年金
(1) 経営移譲年金の受給権者を農業者老齢年金の受給権者から除くとともに、支給要件のうち六○歳に達する日の前日において耕作又は養畜の事業を行っていたこと等の要件が廃止された。これにより、経営移譲をしなかった者は、保険料納付済期間等が二○年以上あれば六五歳から必ず農業者老齢年金を受給できることとなる。
(2) 農業者老齢年金について、本来の支給に加え、新たに特例支給が行われることとなった。本来の支給は、経営移譲をしなかった者を対象とし、経営移譲をした者は対象外として、その政策上の位置付けが明確にされた。特例支給は、経営移譲年金の支給が停止されている者を対象とするものであるので留意されたい。
(3) 特例支給は、六○歳以上の経営移譲年金の受給権者がその全額の支給を停止されている場合について、経営移譲をしなかった者が六五歳から本来の農業者老齢年金の支給を受ける場合との均衡を保つためのものである。
特例支給の農業者老齢年金の年金単価は、経営移譲年金と同様、支給基準時年齢別に設定され、六五歳から農業者老齢年金の本来の支給を受ける場合と比べ均衡のとれたものとされた。
特例支給の農業者老齢年金も、法第三四条の規定の適用を受けるものであり、その受給に当たり裁定請求を要するものである。また、当該受給権者が経営移譲年金の全額の支給停止事由に該当しなくなった場合は、特例支給の農業者老齢年金の受給権は消滅するので、経営移譲年金の支給停止を繰り返す場合は、その都度裁定請求を要することに留意されたい。
3 期間短縮の経過的特例の改正
本制度発足時において二○年以上の保険料納付済期間等を満たせない者に対しては、法第五一条の規定により年金の受給資格期間等を短縮する経過的措置が講じられているが、その適用を受ける者(昭和一○年一月一日以前に生まれた者)の年金額については、保険料納付済期間が短く年金給付水準が低いものとなり、経営移譲年金の政策効果が有効に発現しないこととなることから、法第五二条の規定により二○年からその被保険者期間を差し引いた期間の三分の一に係る期間分を経営移譲年金に加算して支給することとされている。
今回の給付体系の変更に伴い、経営移譲を行った者には経営移譲年金のみを支給することとされたところであるが、施行日以後に経営移譲年金の受給権者となった者でこの期間短縮の経過的特例措置の適用を受けるものに係る給付についても、前記と同様の取扱いを行うこととされた。また、給付体系の変更に伴う経過的特例として受給権者が改正法附則第一一条第一項の規定によりいわゆるピストル型の経営移譲年金の支給の申出をした場合にも、同様の取扱いが行われるので留意されたい。
第三 被保険者資格に関する改正
1 農業生産法人構成員期間
農地等につき所有権又は使用収益権に基づいて耕作又は養畜の事業を行う農業生産法人(以下単に「農業生産法人」という。)に使用されている常時従事者たる組合員又は社員(以下「構成員」という。)が、厚生年金保険又は農林漁業団体職員共済組合に加入することにより本制度の保険料納付済期間等を二○年以上とすることができなくなる場合が生ずるが、これらの者は、厚生年金保険等に加入した後も耕作又は養畜の事業に従事するという実態に変わりのない者であるので、この農業生産法人の構成員であった期間を保険料納付済期間等にカラ期間通算することとされたものである。
2 特定被用者年金期間
(1) 近年における農業者の他産業との兼業化の進展の中で、農業者年金の被保険者にあっても、他産業に従事することとなったことにより、本制度から脱退する者がみられる。これらの者のうちには、他産業に従事した後再び専業的農業者となっても、保険料納付済期間等を二○年以上とする見込みがなく、本年金に再加入して年金を受給することができないものが生じている。
このため、これらの者の老後保障を充実するとともに、その者の経営移譲を通じた農業構造の改善を推進するため、農業者年金の被保険者が他産業に就業して農業者年金を脱退した場合、当該他産業に従事した期間のうち耕作若しくは養畜の事業を行い又は当該事業に従事していた期間(以下「農業従事期間」という。)を五年を限度として保険料納付済期間等にカラ期間通算することとされたものである。
(2) この特定被用者年金期間のカラ期間通算は、社会通念上農業者として認め得るケースについて認めるものであるため、この措置の運用に当たって農業者としての実態を有するか否かを十分に確認することとされたい。当該農業従事期間の確認方法については、農業者年金への後継者加入における耕作又は養畜の事業に従事していた期間の確認等に準じて行うものとし、農業者年金事業の業務受託機関がその始期及び終期の把握を当事者及び関係者からの事情聴取、農地基本台帳等により行うこととされたい。
(3) また、農業従事期間は、被用者年金の加入期間すべてにわたる必要はなく、断続的なものであってもそれぞれの期間を合算した期間が特定被用者年金期間の算定基礎となるものであるので留意されたい。
3 特定配偶者期間
(1) 農業者年金の被保険者等(被保険者又は被保険者であった者で保険料納付済期間を有するものをいう。)が死亡し、その配偶者が当該被保険者等(以下「死亡被保険者等」という。)の経営を承継し、又は死亡被保険者等に代わって後継者となった場合等において、その者が四○歳を超えるときは、本年金に加入しても、将来的に二○年以上の保険料納付済期間等を満たすことができない場合が生じやすく、また、四五歳を超えるときは、原則として本年金への加入ができない。しかしながら、このような配偶者は、死亡被保険者等に準ずる担い手として農業に従事してきた者であり、また、将来このような配偶者によって適格な経営移譲が行われれば、農業構造の改善に資することになる。このため、このような配偶者につき加入の特例を設けることとされた。
(2) 特定配偶者期間の適用を受けようとする者が死亡被保険者等の死亡日に四○歳を超えていたことが要件とされたのは、四○歳以下であれば農業者年金に通常の加入をすることが可能であるからである。
(3) 特定配偶者期間の適用を受けて被保険者となった者にその後保険料の未納があった場合、当然加入被保険者として加入した者にあっては、六○歳以後高齢任意加入をすることにより、年金受給資格期間を満たすことが可能である。しかしながら、法第二三条第三項において準用する法第二二条第二項第七号の規定により、四五歳を超えて任意加入した被保険者にあっては、保険料の未納があった場合には年金受給に結び付かないこととなるので、この点につき農業者を十分に指導されたい。
(4) また、死亡被保険者等が経営移譲年金受給権者、農業者老齢年金受給権者又は離農給付金の支給を受けていた者である場合には、特定配偶者期間の適用を受けることができないこととされたので、この点についても十分指導されたい。
4 後継者任意加入
(1) 後継者として任意加入できる者は、従来は当然加入規模の農業経営主の直系卑属に限られ、当然加入規模に満たない規模の農業経営主及び農業生産法人の構成員の直系卑属は対象となっていない。しかしながら、農業をめぐる厳しい状況の中で農業生産の担い手の確保が重要な課題となっていることから、任意加入規模の農業経営主及び一定の要件を満たす農業生産法人の構成員の直系卑属にも農業者年金への任意加入資格を認めることとされた。
なお、これに伴い、親が経営移譲をする場合に、今回の改正により新たに任意加入資格を有することとなった後継者が農業者年金に加入していないときは、親は加算付きの経営移譲年金を受給することができないこととされたので留意されたい。
(2) また、後継者の加入要件に関しては、「加入申出の日まで引き続き六月以上耕作又は養畜の事業に従事していたこと」という要件を廃止し、「三年以上耕作又は養畜の事業に従事した経験があること」のみが要件とされた。なお、後継者移譲の際の後継者の農業従事要件は、従来どおりであるので留意されたい。
5 任意継続加入
(1) 農業生産法人構成員期間中に経営移譲した者であって、保険料納付済期間等が一五年以上二○年未満であるものについて、任意継続加入が認められた。
(2) 特定被用者年金期間の算定の基礎となる被用者年金期間中に経営移譲した者であって、保険料納付済期間等が一五年以上二○年未満であるものについて、任意継続加入が認められた。
ただし、当該被用者年金期間中、基準日までは国民年金の第二号被保険者であり、かつ、基準日までの当該被用者年金期間中はすべて耕作若しくは養畜の事業を行い又は当該事業に従事していることが必要である。また、基準日後の当該被用者年金期間中は引き続き国民年金の第二号被保険者である必要がある。
第四 経営移譲に関する改正
1 分割経営移譲
(1) 経営移譲については、第三者移譲が全体の件数の約一割にとどまる一方で、約九割を占める後継者移譲では国民年金の第二号被保険者たる後継者に対するものがその過半を占めている。
このような状況の下で、一挙に離農することを誘導するだけでなく、国民年金の第二号被保険者である後継者のうち農業に常時従事する者以外のもの等に経営規模の縮小や段階的離農の途を開くことは、農地等の出し手となる者がその農地等を流動化に供しやすくし、農地等の受け手となる農業者年金の被保険者等の経営規模の拡大を進める上で効果的と考えられる。
このため、経営移譲者が農業構造の改善の観点から評価できる規模の農地等を第三者に処分すること、また、農地等の処分先となる第三者は農業者年金の被保険者等に限り、農業構造改善効果の十分な発現を確保することを要件とした上で、国民年金の第二号被保険者である後継者であって耕作又は養畜の事業に常時従事する者以外のもの等と農業者年金の被保険者等に対し農地等を分割して経営移譲をする方式が創設された。
(2) 分割経営移譲による後継者及び第三者のいずれへの農地等の処分についても農地法(昭和二七年法律第二二九号)第三条第一項の許可が必要であり、当該許可は分割経営移譲完了後のそれぞれの耕作又は養畜の事業につき、下限面積の制限をはじめ同条第二項各号の基準で判断されることとなるので留意されたい。
(3) 分割経営移譲が認められる後継者については、国民年金の第二号被保険者であって耕作又は養畜の事業に常時従事する者以外のもののほか、国民年金の第二号被保険者でない者であって一定の障害の状態にあるもの(耕作又は養畜の事業に常時従事している者を除く。)とされた。国民年金の第一号被保険者又は第三号被保険者である後継者については、経営移譲を受ける前に耕作又は養畜の事業に常時従事していない場合であっても、当然加入規模以上の農地等について経営移譲を受ければ当然に農業者年金の被保険者となることから、このような者が後継者である場合には後継者一括移譲を誘導することが適切であるとの判断から分割経営移譲の相手方とはされていない。
なお、分割経営移譲の相手方となる後継者は、経営移譲を受ける段階では耕作又は養畜の事業に常時従事していない者であるが、経営移譲を受けた以後においては、経営可能な規模として譲り受けたものであることから、農地法上、常時従事の状況となることが必要である。
2 特定処分対象農地等
(1) 経営移譲年金の支給停止制度は、農業経営主の若返りによる農業経営の近代化及び農地保有の合理化という経営移譲による効果を担保するための措置として設けられているものである。
今回の改正においては、分割経営移譲の創設、農業者年金事業をめぐる諸事情の変化等を勘案して、農業経営の近代化と農地保有の合理化という経営移譲の効果を担保するという考え方は引き続き堅持しつつ、特定処分対象農地等の返還を受けた場合について、経営移譲年金の支給停止の例外事由(以下「支給停止例外事由」という。)の追加が行われた。また、特定処分対象農地等に係る使用収益権の移転又は設定が行われた場合についても、返還の場合に準じた支給停止例外事由の追加が行われた。
(2) 分割経営移譲の創設に伴い、特定処分対象農地等の返還に係る支給停止例外事由が追加されたが、その内容は、次のとおりである。
ア 後継者一括移譲を受けた後継者でその返還の時において分割経営移譲における後継者たる相手方の要件を満たすものから、経営移譲に係る処分対象農地等の二分の一以上かつ当然加入規模以上の特定処分対象農地等について、分割経営移譲における第三者たる相手方の要件を満たす者に再処分するための返還を受けた場合
イ 分割経営移譲を受けた後継者でその返還の時において分割経営移譲における後継者たる相手方の要件を満たすものから、特定処分対象農地等の全部又は一部について、分割経営移譲における第三者たる相手方の要件を満たす者に再処分するための返還を受けた場合
なお、アの場合において、既に加算付き経営移譲年金の支給を受けている者が加算額部分の支給停止を受けないためには、経営移譲に係る処分対象農地等の四分の三以上かつ当然加入規模以上の特定処分対象農地等について返還を受けて再処分することが必要である。
(3) 農業用施設のうち共同利用施設の用に供する土地として地方公共団体、農業協同組合等に再処分するため特定処分対象農地等の返還を受けた場合が、支給停止例外事由に追加された。例えば、農業構造改善事業の実施等により地方公共団体、農業協同組合等が事業主体となって農業用の共同利用施設の整備が行われるような場合について、農業構造の改善に一層資する観点から、農業者年金制度においても、配慮することとされたものである。
なお、この返還の場合には、経営移譲年金の加算額部分の支給停止も行わないこととされた。
(4) 土地収用法その他の法律による収用又は使用の対象となる事業(以下「土地収用法等対象事業」という。)の実施に伴い耕作不適となった特定処分対象農地等について返還を受けた場合が、支給停止例外事由に追加された。返還を受けても経営移譲年金の支給が停止されないのは、一団の特定処分対象農地等の一部が土地収用法等対象事業の用に供されることとなったことにより、その残余のうち、効率的に利用して耕作又は養畜の事業を行うことが著しく困難となった農地等(以下「耕作不適農地等」という。)であるが、耕作不適農地等となったときから一年を超えて耕作又は養畜の事業に供した場合は、支給停止の例外事由には該当しない。当該耕作不適農地等の返還後の再処分については、他用途への転用、隣接の農地等につき耕作又は養畜の事業を行う農業者への売却等その処分方法は、問わないこととされた。耕作不適農地等に該当するか否かは、当該農地等の形状及び面積、農業機械による効率的な農作業の可否、栽培作物への影響等を総合的に勘案して判断するものとし、農業者年金事業の業務受託機関が当該農地等の現況を確認するものとする。
なお、加算付き経営移譲年金を受給している者が、その返還を受けた農地等について農業者年金の被保険者等の特定譲受者に対して一定の要件に該当する再処分を行う場合には、経営移譲年金の加算額部分の支給停止は行わないこととされた。
(5) 土地収用法による収用又は使用の対象となる事業に準ずるものとして主務大臣が定める事業の用に供するため特定処分対象農地等の返還を受けた場合が支給停止例外事由に追加された。この「主務大臣が定める事業」は、国、地方公共団体、住宅・都市整備公団又は地方住宅供給公社が行う住宅経営の事業とされた。
なお、この支給停止例外事由が認められるのは、当該返還が行われないときは、土地の適正かつ合理的な利用に支障を生ずると認められる場合に限られているので、留意されたい。
(6) 土地収用法等対象事業の実施に伴い収用又は使用等が行われた経営移譲者本人又は後継者の住宅用地の代替地とするため特定処分対象農地等の返還を受けた場合が、支給停止例外事由に追加された。経営移譲者本人又は後継者の住宅用地を土地収用法等対象事業の用に供した場合でも、その日から一年を経過した後に当該特定処分対象農地等をその代替の住宅用地に供したときは、支給停止例外事由には該当しない。
(7) 農村地域工業等導入促進法(昭和四六年法律第一一二号)に基づく実施計画に定められた工業等導入地区内の特定処分対象農地等について工場用地等として再処分するため返還を受けた場合が、支給停止例外事由に追加された。この支給停止例外事由は、農村地域工業等導入促進法が農業構造の改善を目的の一つとしていることから認められたものであるが、この場合の返還は任意のものであることも考慮し、経営移譲年金の加算額部分については支給が停止されることとされたので留意されたい。
(8) 経営移譲者の直系卑属が自ら居住するために必要な住宅の用に供する土地として当該直系卑属に対し累計で一○アール以内の特定処分対象農地等につき使用収益権の設定等を行うのに併せて、他の直系卑属のうち一人の者(特定譲受後継者又は再処分適格後継者に限る。)に対し残余の特定処分対象農地等のすべてにつき再度使用収益権の設定等を行う場合が、支給停止例外事由に追加された。これは、経営移譲後においても、特定処分対象農地等につき住宅用地として後継者以外の直系卑属に対する財産分与を行う必要が生ずることがあるという実情等に配慮したものである。この使用収益権の設定等が再処分適格後継者に対して行われる場合は、当初の後継者が自ら居住するために必要な住宅の用に供する土地も確保できることとされた。
この場合に、直系卑属が自ら居住するために必要な住宅とは、当該直系卑属とその家族のみが居住するための住宅であり、一○アールという住宅用地の上限面積は、直系卑属の人数を問わず累計のものであるので留意されたい。特定譲受後継者又は再処分適格後継者に対して再度使用収益権の設定等が行われる残余の特定処分対象農地等については、相続の場合の農業経営の細分化防止に資する見地から、分割経営移譲における第三者への処分面積要件との均衡も考慮し、経営移譲者の所有に係る農地等の面積が当然加入規模以上であることが要件とされており、また、使用収益権の設定の場合にあっては、その期間は一○年以上で当初の使用収益権の残存期間を超えることが必要である。
なお、再度使用収益権の設定等を行う場合に、その相手方が農業者年金加入者等の特定譲受者であるときは、経営移譲年金の加算額部分の支給停止は行わないこととされた。
(9) 施行日前に受給権を取得した経営移譲年金の受給権者に対する支給停止要件の適用については、施行日以後に受給権を取得した経営移譲年金の受給権者と同様、今回の改正後の取扱いをすることとされた。施行日以後に今回追加された支給停止例外事由に該当した場合には経営移譲年金の支給が停止されない一方、施行日前から該当していた場合には施行日以後も引き続き支給停止となることとされているので留意されたい。
第五 脱退・死亡一時金に関する改正
1 脱退一時金
今回の改正により、農業者老齢年金の支給要件のうち、六○歳に達する日の前日において耕作又は養畜の事業を行っていたこと等の要件が廃止され、経営移譲年金の受給権者以外の者で保険料納付済期間等が二○年以上であるものは、すべて農業者老齢年金の支給の対象となったことに伴い、保険料納付済期間が三年以上あり、かつ保険料納付済期間等が二○年以上である者については、六○歳に達する日の前日において耕作又は養畜の事業を行っていなかった場合等にも、脱退一時金は支給されず、六五歳に達した後農業者老齢年金が支給されることとされたので留意されたい。
2 死亡一時金
従来は、経営移譲年金を短期間だけ受給して死亡した場合については、経営移譲年金を受給せず死亡したと仮定した場合の死亡一時金の額と現に受け取った経営移譲年金の総額を比較して、その死亡一時金の方が多いときは、その差額を死亡一時金として支給することとされていた。今回の制度改正により、農業者老齢年金を短期間だけ受給して死亡した場合についても経営移譲年金の場合と同様の取扱いをすることとされたので留意されたい。
第六 基金が行う農地等の貸借業務に関する加算付き経営移譲年金の取扱い
中山間地域等の農業生産の担い手の不足する地域における経営移譲を成就させ、農地保有の合理化に資するため、基金が行う業務として、農地等の売買業務に加え、新たに農地等の貸借業務が実施されることとされた。
この基金への農地等の貸付けによる経営移譲については、一○年以上の使用収益権の設定が必要である。これにより、加算付きの経営移譲年金が支給されるが、後に適格な譲受者が見い出された場合でその者が加算付きの対象とならない者であるときは、加算額部分は支給停止となるので留意されたい。
なお、基金は経営移譲者から借り受けた農地等を適格な譲受者が見い出されるまでの間、必要に応じ当該農地等を一時貸付けにより管理することができるが、この場合、加算額部分に係る支給停止は行わないこととされた。